それでだね。今回はシャアみたいにマザコンとロリコンを患っている諸君は注意してくれたまえ。
そして書いている最中にめっちゃ思うこと。ブライトさん出してぇ…。
「驚いた……ていうほどでもないけど。ムサイ級にドロス級か。こんなオンボロをなんでまた」
「一応ザフトの中だと最新鋭艦だから、そこのところは気を付けておいて」
「ん? あぁ。そうだな。そうだった」
プルツーを連れ立って、ユキはドロワの格納庫に機体を着艦させた。
ペールギュントに戻って説明する手間よりも、再出撃に時間を要しないこちらを選んだのだった。
「おや? そちらのお嬢さんはどちら様ですか?」
「ジャンか。なに、生き別れの妹ということにしておいて――、いだっ!」
「だれが妹だ」
補給を整備士に命じて待機ボックスに入ると、そこには軽食を取るジャンの姿があった。
そんなジャンにプルツーとの関係を聞かれて咄嗟に答えたが、プルツーは不満げにユキの背中を蹴った。
「
「ふん! 似合わない仮面なんて被っているからだ。不愉快だよ」
「仕方ないだろ。こういう見た目なんだし。少しでも威厳とかないと言うこと聞いてもらえないんだから」
「自分を偽っている人間の言葉に誰が耳を貸すか」
「はいはい」
ジャンは目の前の二人のやり取りに内心安心していた。いつも気張っているユキでも、こうして気心が許せる相手が居たことに。自分では物理的に守ったり、表面上の悩みを聞くことは出来ても、心の深い部分は誰にも見せないと思っていたからだ。
「ジャンも補給か?」
「ええ。前線が頑張ってくれるので、後方はこうして食事を取っている暇さえありますから」
「まぁ。連合の艦隊も、今はそこまで精強でもないからな」
厄介なのはガンバレル持ちの機体なのだ。特に完全装備のメビウス・ゼロはパイロットの質も高い。普通のパイロットではMSといえども撃ち落されるだろう。
「それでも強固に抵抗していますね。特に中央の艦隊の守りは厚い」
三艦隊を展開する地球軍に対して、こちらは守りを考えた布陣だ。時間までNジャマ―を搭載したローラシア級を守るのが第一段階だ。
ドロス級の実践テストを兼ねているため、ザフト側は攻めてくる地球軍を迎撃に専念している形だ。それでもMS部隊が敵の防御網を潜り抜けて少しずづ敵艦隊に被害を与えているが。
「Nジャマ―の地球への敷設。ユニウスセブンの核攻撃に対する積極的自衛権の行使と言いますが。もしこの作戦が成功すれば、地上では数億人の餓死者が出る。果たしてそれが自衛権と言えるのだろうか。絶えず自問自答を繰り返し。やはり私は軍属には向かない様です」
「納得いかなくても命令なら従わなければならないのが軍人だからな。無理して参加しなくてもよかったものだが」
「それでも出来得る限りは見届けなければ行けません。それが一応はザフトに身を置いて人を撃った私の責任です」
そう言うジャンの悩みながらもその場で戦争を見続けようとする強い意思。
それを尊重するが、無理をして心を病まないかの方がユキは心配だった。
「甘っちょろい。それで戦場に立てるのかい?」
「それでも私はこのやり方でしか、今は世界と向き合えないと思っています。コーディネイターの気持ちもわかる。しかしだからと言ってやりすぎてしまっては戦争とは呼べなくなる」
「コロニーの一基が破壊されたくらいで大袈裟なんだよ。たったの数十万だろ? それで何億もの人間が死ぬと分かっている作戦をする軍隊に居て、何故戦争を変えられるって思うんだ」
「それは彼が居るからです。彼ならばこの戦争を過ちではない方向に持っていけると思っています」
「コイツはそんな大それたヤツじゃないさ。まぁ、それに縋りたくなるくらいこの世界は酷いもんだけどね」
そう言い切り、プルツーは再びヘルメットを被ると、待機ボックスから出ようとする。
「あのギラ・ドーガもどきを借りるよ。サイコミュならワタシにも出来る」
「ちょっと、プルツー!」
出て行こうとするプルツーの腕を掴んでユキは彼女を引き留める。
「借りるって。戦う気?」
「別に構いやしないだろ。ワタシがどう戦おうって」
「構うにきまってるだろう。プルツーは別に戦わなくったって」
「そう言ってまたワタシを置いて消えるつもりだろ。だからお前の敵はワタシが倒してやるって言ってるんだよ!」
「プルツー……」
そういうプルツーに自分はどう言葉を返したものかと考えても答えは出ない。当たり前だ。彼女の覚悟は彼女の物なのだ。彼女が戦うというのならば引き留めることなどできない。
クローンはテロメアが短く、人より老化も早い。レイやプレアのそれはもともとの遺伝子の所為だった。ではプルツーはどうなのだろうか。本当なら今すぐに身体を調べて安心したいが、それはこちらの都合というものだ。
根っからの戦士として調整を受けているプルツーに戦いを前にして戦うなというのは無理な相談だろう。だから言葉では呼び止められない。
「バイオセンサーだからオーバーロードには注意して。あと調子に乗ってバカスカ撃つとエネルギーも持たない」
「それくらいは把握しているよ。中央を沈めてくる。第三艦隊の司令官は俗物で保身派だから突けば直ぐに尻尾巻いて逃げるよ」
「おれもあとから行く。仕掛けるのはその時だ」
「良いだろう。久しぶりに鷹の戦いを見せてもらう」
「期待していればいいさ」
そう言ってプルツーを送り出したユキは自販機のスポーツドリンクのボタンを押して、チューブに入ったそれを飲み込んでいく。
「彼女とは長いのですか?」
「8年の付き合いさ。まぁ。互いに料理の好みはわかるくらいかな。ああ見えてやっぱり女の子さ。甘いものが大好きで、姉妹揃ってアイスクリームが好きだったりする」
ダストボックスに飲み干したゴミを捨てて、ユキもヘルメットを被り直す。
「ジャンはどうする? この後のフェイズ2までは休んでいても構わないが」
「いいえ、出ましょう。私も戦場を視なければなりませんから」
ジャンもヘルメットを被り、待機ボックスから格納庫に出る。
リープザクはプルツーが使うため、ユキは予備のドラッツェ改を重爆撃装備で出撃する。そのあとをジャンの白い強行偵察型ジンが続く。
『オイオイ。大丈夫なのか? そんなリサイクルMSで』
「ジンよりは動ける機体さ。ジャンは後方へ。……プルツーはおれに続け。敵艦隊の中央を突破。中から食い破る。旗艦のアガメムノン級は沈めるな」
『了解しました。ご武運を』
『良いだろう。その方が早く済む』
「プラントに栄光あれ!」
ドロワから出撃する3機のMS。
ジャンは後方で警戒。戦場の動きをつぶさに観察する。
ユキはプルツーを伴って防御陣で戦闘にも消極的な中央の艦隊。連合側の新第三艦隊に向かう。
「良い感じだ。
リープザクにはサイコミュとしてバイオセンサーが搭載されていた。プルツーのニュータイプ能力に呼応して妖しく機体が光始める。
それを見てもユキは慌てる様子はなく、近づいてくるメビウスに対してキャットス500㎜無反動砲を撃ち込んでいく。弾速の遅いバズーカでも、先読みをして置き射撃をすれば当てられないこともない。
「左側面に回れ。挟み撃つぞ」
「了解した。遅れるんじゃないよ!」
「それはこっちのセリフだ!」
左右に分かれたドラッツェ改とリープザク。その狙いは敵の艦隊の前衛と後衛を分断させようというものだった。
「そこだ! 行けっ」
「沈めっ!」
リープザクが射出したガンバレル・ビットから放たれたビームがネルソン級を撃沈し、ドラッツェ改から放たれるバズーカがドレイク級を火の玉に変える。
荒々しく敵を墜とすリープザク、流れるような軌道から直角に曲がったりなど美しくも極端な機動のドラッツェ改。ビームサーベルでネルソン級の側面を切り裂きながら過ぎ去るドラッツェ改の攻撃の後に的確にビームを撃ち込んで撃沈するリープザクのガンバレル・ビット。
互いに一隻の艦に集中する時も最低限の攻撃で次々と沈めていく連携は、互いに示し会わせた様に動きを合わせる2機の連携は次は互いにどう動くのかをわかっている様だった。
「下、ガンバレル!」
「墜ちろぉぉぉ!!」
ガンバレルの気配を感じたユキが叫んだ瞬間にはプルツーはリニアライフルでガンバレルを射抜いていた。
「右だ!」
「ええい、ままよ!!」
機体をバレルロールさせ、ガンバレルの弾幕をやり過ごし、それでも被弾するコースの弾丸はビームサーベルで焼き払った。そのままガンバレルに向かってシールドビームガンを放ち、撃墜する。
「おいおい。こんなの聞いてないぜ」
あっという間に2基のガンバレルを撃ち落とされたメビウス・ゼロのパイロットはサエン・コジマ
。プトレマイオス基地でプルツーと話した男だった。
新型であるリープザクはともかく、ドラッツェに関しては数機を相手にして撃墜もしているのだが、アポジモーターとAMBAC機動で弾幕を減速どころか加速しつつ回避したその腕に舌を巻いた。
「この感じ…。フッ、知らない仲じゃないからな。手心は今回だけだ!」
ガンバレル・ビットを射出したプルツーはサエンの操るガンバレルを撃ち落とし、そのままレーザー重斬刀で機体の後部を切り裂いた。
「ぐぉぉぉおお!!」
「フン! それなら言い訳もつくだろう!」
メビウス・ゼロは機首を切り離して離脱していった。それを既に頭の外に追いやったプルツーは分断に成功した敵艦隊の前衛に対して容赦なく襲い掛かるのだった。
◇◇◇◇◇
連合の新第三艦隊が後退したことで戦場の勢いはザフト側に一気に傾いた。そしてオペレーション・ウロボロスはその第一段階であるNジャマーの投下を開始した。
それと同時に第二段階として大洋州連合オーストラリア地区のカーペンタリア湾に軌道上から基地施設を分割投下。護衛と建設の為にMSも50機以上が降下。
大洋州連合は親プラント国家である為、カーペンタリア湾は実質的に無償提供という形だった。連合の太平洋艦隊がこれの迎撃に出たが、重爆撃装備のジン部隊の前に敗北を喫した。
Nジャマーを大量に投下された連合加盟国家は核エネルギーを奪われ、深刻なエネルギー不足に陥ることになった。非連合加盟国にもNジャマーの影響は出た物の、当初の予定よりも幾分かマシ程度の物だった。大西洋連邦やユーラシア連邦、東アジア共和国はNジャマーを集中的に投下され、通信網にも多大な被害を出し、その混乱に乗じてカーペンタリア基地は建設されていった。太平洋艦隊の攻撃を受けながらも48時間後の4月2日には基地の基礎部分の完成をさせている。
カーペンタリア支援の為にザフト艦隊は衛星軌道上に駐留。ドロワとペールギュントは作戦成功と共に艦隊を離れ、月基地監視の為にL1宙域へと移動した。
「一応薬物的な反応は許容量みたいだけど、数日は薬抜きが終わるまで大人しくしていて」
「はいはい。まったく、心配性だな」
「プルツーの為だよ」
ベッドに横にさせられ、腕にはいくつものチューブが針と繋がって刺さっている。
強化人間としての被検体にもされていたと自白したプルツーの身体は、戦闘終了後隅々まで調べ上げられた。
結果は、常人であれば身体を壊している程の薬物反応が出ているが、それでも一応健康的なプルツーの身体から余計な物を取り出す処置を行うことになった。
もちろんそれはユキが単独で行っている。その位の医学知識も持ち合わせているのはクローン・ニュータイプのプルやプルツーを引き取る上で必要な知識として身に着けた物だった。
「ねえ。終わるまで傍に居てくれないか?」
そう、少し弱々しく言うプルツーに嫌とは言えず。ベッドの横に椅子を持ってきて座ると、ユキはプルツーの頭を撫でてやった。
「こうされるの、好きだったでしょ?」
「……うるさい」
それでも手を跳ね除けようとせず、もっと撫でてほしいと甘える猫の様にユキにプルツーは擦り寄った。
「プルは逃げるけど、プルツーとマリーダはこうされるのなんでか好きだよね」
「アイツはせせっこましくて落ち着きがないだけだ。……マリーダ・クルス。ワタシの妹、か。ミネバ様に聞いたよ」
「ミネバ様が?」
あの後、ミネバ様はシャングリラに一度身を隠したらしい。その後の消息は分からないらしいが、きっとバナージと一緒に世界を見ていたのだろう。
「彼女には悪いことをしてしまった。その所為でバナージにも辛い思いをさせてしまって」
プルとプルツーの姉妹なのだ。自分には彼女も守り救う義務があった。それなのに彼女を守ってあげることが出来なかった。
「オマエは少し背負い込みすぎなんだ。死人に脚を引っ張られるぞ」
「そうだね。分かっているよ」
それでも後悔というものは抱くものだ。あんな急場凌ぎの機体と身体で出撃を承認した一人なのだ。戦力的に厳しかったというのは言い訳にしかならない。彼女を殺した一端は自分にもある。
「なら辛気臭い顔でワタシを撫でるな。今ここに居るのはワタシなんだぞ」
「そうだね。ごめん、プルツー」
これ以上はプルツーにも悪いと、気分を持ち直してユキはプルツーの頭を撫でた。
「あのギラ・ドーガもどきのファンネルは良いな。思い通りに動く」
「一応はおれが使う様に調整はしてあるからね」
「脳波の相性が良いのは良いことさ。オマエの傍は不思議と安らげる。マリーダもそうだったんだろう」
「……そうだと、いいけどね」
伏目勝ちに呟くユキを見て面倒な男だとプルツーは思うのだが、こういうところも最近は他人に見せていないのだろうと見抜ける程度にユキが疲れていることを感じていた。
「プラントに着けば暫く休めるのだろう?」
「どうかな。まぁ、多分地上戦が主だった戦場になって、8か月は膠着状態じゃないかな」
それは宇宙世紀の焼き増しだが、それでもアナハイムというプラントでも企業として関わっていればそう言う計算も出来る様になる。ただ宇宙世紀よりもこの世界はジャンク屋勢力が強い為、やり方次第ではジオンよりも疲弊しないで済む方法もあるだろう。
「なら休めそうだ。自分が限界寸前の自覚がないだろう? そういう発散も下手だからな」
「自覚はしてるよ」
それは自分が限界ということではなく発散が下手という部分の自覚であることをプルツーは分かっていた。
「プルツー?」
むくりとベッドから起き上がったプルツーは、どうしたのかと不思議がるユキの頭を掴んで自分の方に引き寄せる。ほぼ無重力であることと、強化人間として改造された身体。体格はほぼ一緒だと柔術が主なユキでは足が離れるとどうにも対処は出来ずプルツーの脚の上に身体を横たわらせるだけだった。
「今はワタシが居るだろう。何を心配する。もっとワタシを頼りなよ」
「……そうは言ってもね」
「ワタシがそんなに頼りないか?」
「そうは言ってないよ」
膝枕をされて、頭を撫でられるなんて。しかもそれがプルツーだ。あんな荒々しくて、でもやっぱり根は良い子だった子供のプルツーがまるで母親の様だ。
「結婚とかした?」
「フッ、ならどうする?」
「別に。角が丸くなったなって」
身体の向きを横から仰向けに変えればプルツーの顔が見える。つり目は相変わらずでも、色は優しさを携えた色だった。
「相手が居なかったな。まぁ、子供のお守りをしていれば丸くもなるさ」
「子供?」
「色々あったのさ。50年もあれば」
宇宙海賊として戦った時は少年や密航少女のお守りもしていたし、そのころになればプルツーでも年長者組みだ。周りは若かったり未熟だったりと、子供みたいにトゲトゲしても仕方ない。見守り育て、導く側の経験をするのには困らなかったのだ。
「プルツーに歳抜かれてる?」
「それはヤメロ。今のワタシは10歳くらいだ」
「外見が変わらないで中身だけ年取ってると、色々面倒だよ」
「そうだろうな。オマエを見てるとそう思うよ」
だから色々と無理をしているのも感じ取れる。人の上に立てても、器じゃない。真似事をしても本人のキャパシティーを超えているから、仮面という形で足りないキャパシティーを誤魔化している。
「今だけは休め。ワタシが相手なら気兼ねもないだろう?」
「一応年上として年下の女の子に甘えるのって、結構勇気がいるんだけど」
「なら問題ないな。今のワタシはオマエより年上だよ」
額を付け合わせて、そのまま唇が触れ合った。ほんの一瞬の出来事だった。それでも初めての生娘の様にユキの身体は固かった。
「……キスされるなんて思わなかった」
「別に初めてでもないんだろう?」
「水商売もしてた時期はあるからね。でも優しいキスは初めて」
「ハマーンとはしなかったのか?」
「彼女はそういうことをするとかそれ以前に敵になったから。それでも好きなのは好きだったんだと思う」
「なら今度はワタシを好きになれ。ワタシならどこにもいかない」
もう一度プルツーはユキの唇に優しくキスを落とす。
「それでも怖い。好きになった人はみんな離れて行ってしまうから」
心を許しても、そうした相手とは死別することが多すぎたユキが失うことに臆病なのはプルツーも知っていた。それを察してシャアの動乱でも、ラプラス事変でも大人しく待っていたら行方不明だ。状況から見て死んだ扱いにされたが、サイコフレームを扱っているユキの意識の散華を感じなかったプルツーは寂しさを感じても悲しくはなかった。そしてもう一度会えると確信していたから、宇宙世紀での生を全うしたに過ぎない。
そしてこのC.E.でまた出会えた。ならもう待つこともしない。離れもしない。それは日常でも、戦場でもだ。
◇◇◇◇◇
「やっぱり月は欲しい」
「それとオマエのことだからアステロイド・ベルトから石ころを持ってきてるんだろう?」
「幾つかはね」
ベッドで寄り添っているユキとプルツーは揃って互いに身体を向け合う形で横になっていた。
「アクシズでも作って篭ろうってわけかい?」
「一応ドロワでもやってるけどね。純粋に資源が足りない上にヘリウム3を運ぶ木星船団がないから核融合炉が数を作れない」
「ミノフスキー粒子はあるからな。そうすればもっとワタシの力も使える」
「ミノフスキー粒子を媒介にしたミノフスキー通信で意志を拡散させる。ミノフスキー粒子環境下でなら強力だけど、この世界の戦争じゃ使えないな」
それこそNジャマー以上の混乱が戦場に訪れて根幹から戦争を変えることになる。Nジャマーで核が使えない、南極条約で大量破壊兵器の使用が出来なくなった、電波攪乱だけでなく赤外線にも影響してくるミノフスキー粒子はなるべく隠す必要がある。一応ミノフスキー環境下を電波攪乱領域での対処として戦術論は一番の量を書いているが、そうなるとミノフスキー粒子環境下でも動作する機器の普及に時間が掛かる。そこまでしている時間は惜しい。
「自然界に存在するミノフスキー粒子で充分さ。サイコフレームもある。脳波レベルは充分になるはずだ」
「諸刃の剣だけどな。しっかりしないと戦場に呑まれる。サイコマシンはそういうものだ」
サイコガンダム、クィン・マンサ、キュベレイと、数々のサイコマシンを、クローン・ニュータイプとして戦いの為に乗っていたプルツーであるから実感の籠っている言葉だった。
それはサイコフレームを使っていたユキにもわかることだった。
「資源衛星を手に入れるだけの算段は立っているのか」
「4年前から始めてるよ」
まだ4年前のこと、アステロイド・ベルトに派遣したムサイが作業を終えていればあと8か月後程くらいには地球圏に資源衛星が到着するはずだ。
火星にはマーシャンと呼ばれる火星開拓に従事するコーディネイターもいるし、ジョージ
グレンの設計したツィオルコフスキーという形も設計もジュピトリス級その物の船で木星圏で活動している人々もいる。
そういった者達から妨害などを受けていなければ予定通りのはずだ。プログラムAI制御であるからすべての工程は自動で行われている。無事を知らせるために長距離レーザー通信で30分程遅れだが設備のステータスも逐一確認はしている。
本当なら木星船団を作りたいのだが、そこまでの資本力は今のアナハイムでは無茶は出来なかった。
「ほら、今は戦争は忘れろ」
「そうは言っても、考えなくちゃならないことが山ほどある」
「ならワタシに溺れて忘れろ。ワタシも手伝うから」
「……ありがと」
プルツーに引き込まれる形で、ユキはプルツーの胸元に顔を埋めてそのまま眠りにつく事にした。
そんな風に誰かに優しく包まれて眠ったのはどれくらいぶりなのだろうかと少し考えながら、意識は睡魔によって落ちて行った。
それをユキの頭を撫でながら感じていたプルツーは微笑みを浮かべて黒い髪を撫でる手を止めなかった。
「分かっているよ。コイツはワタシが守る。幽霊は引っ込んでな」
心配のし過ぎも良くないとは言うが、幽霊がいくら心配してもどうにもならないのだ。生きている人間を慰められるのは同じ生きている熱を持つものなのだから。
「そうだろ? シャア・アズナブル」
胸の内で眠る子供を子供のまま大人にしてしまった最大の原因が守護霊をしているなんて難儀なやつだと思いながら、プルツーは満足するまでユキの指通りの良い髪を梳き続けた。
「さて。コイツが誑したオンナをどうするかだが」
感じた気配は今のところ二人だった。それ以外は雑多なものだ。意識をはっきり向けている1人は問題ないだろうが、もう一人、それがどう変わるかで自分も動くつもりでいる。
「まぁ、どっちもオールドタイプなら構わないさ。ニュータイプの価値観に着いて来れるならな」
ニュータイプの未来の為。ニュータイプの世界を夢見て戦っていたユキの戦う根底になった部分を押し殺して戦っているのだ。それでも不思議と未練がない様にも思える。プラント独立というジオン独立の代わりになることで誤魔化しているのかというのでもない。
「サザビーか。それになにかあるんだろ」
このドロス級のなかで存在感を放つ存在がいくつもある。しかしその中で強力な意思を感じるのは二つ。一つはユキとミネバの連れだったバナージとユニコーンの意思が混ざったようなもの。一つは知らない気配だが、それが赤い彗星の気配だとわかるのはシャングリラからも見えたあの虹の所為だろう。
あの虹は地球圏すべての人々に可能性を託したものだった。祈りの様に。次の世界への入り口を示す場所。
「その戸口を抜ければいいだけだ。それでも貴様が居ないのはその先に踏み出せない証拠だろ? さぞ心地が良いからなそこは。それでも心配だからこうしてここに居る。だったらちゃんと面倒を見てやればいいだろう」
内心で沸々と湧き上がる怒り。希望を見せておいて中途半端に導くからユキやカミーユ・ビダンの様になってしまうのだと、赤い彗星を批難する。
「守るのは良い。だが見守るだけにしろ。もうコイツは自分の脚で歩けるんだ。余計なことはするな」
そう釘を刺しておかなければなにをするのかがわからないのがニュータイプだ。
「だから忘れろ。オマエはもう自由なんだろ?」
赤い彗星の呪縛。夢を託されたニュータイプ。しかしもうそれは終わりで良いだろう。成すべきと思ったことを成せばいい。それが願いのはずだ。
「……その為にはまだ仲間が要る」
それはこの世界の仲間でもあるが、別の意味もプルツーは含んでいた。
「見つけられるか? この戦争がある世界で」
敵でも味方でも構わない。この世界のおかしな戦争を止められる立場にある人間が、自分たちと同じ価値観で世界を見据えられる人間が必要だ。
「面倒だな。この世界も」
もっとわかりやすい。それこそプラントから攻撃をしたというのなら戦争の決着も早い。だがこれは連合側が端を発した戦争だ。ブルーコスモスという面倒な団体の所為で世界がややこしくなっているうえに、ユキも気づいているだろう。アナハイムに長く勤めていたからわかる金の動きの気配というもの。
「戦争を煽っているアナハイムみたいな連中が居るってことだよ」
グリプス戦役時代から続くアナハイムの利益を得るための経済産業戦争の気配がこの戦争にもある。実際大西洋連邦は地球勢力最大の工業力を持っているのだ。戦争が起これば儲かるのはそういった軍需産業企業の特性だ。
軍と企業の癒着がどうなるのかというのはアナハイムで見てきた。そしてそういう気配がある一大軍需産業は連合の手の内だ。
恨まれるの覚悟で地球に隕石でも落として損得勘定が破綻するくらいしないとこの戦争を止めるのはほぼ無理だろう。しかもそうしてもナチュラルとコーディネイターというつまらない枠組みで争っているうえに、プラントのコーディネイターは地球のコーディネイターも見下していると聞く。
「人種戦争に加えてスペースノイドとアースノイドの確執に近いものもあるのか。プラントのコーディネイターを滅ぼすほうが後腐れもないぞ」
おそらくその方が世界は平和に出来ると直感的に思うプルツーだったが、それをしない程度にはプラントに愛着があって、スペースノイドだから見捨てられないんだろう。かつてのジオンの兵士だったユキには。
だから第一次ネオ・ジオン戦争では、ネオ・ジオンは3つに割れた。
ミネバ様擁するハマーン派、ギレン・ザビの血を引くと自称するグレミー派。
そこに来てネェル・アーガマからやって来たユキは旧公国派をはじめとした旧デラーズ・フリート派、スペースノイドの自治権獲得の為に戦った旧ジオン派がユキの元に集結した。それがMSの質はともかく一番勢力が多かった。ジオンの蒼き鷹の名は伊達ではない。ハマーンか、グレミーか。地球圏の覇権を握る勢力を決めようという戦いでどちらもザビ派勢力だ。そういう血生臭い勢力に着く事を嫌がった男たちが蘇った蒼き鷹の名の下に集ったのだ。
MSの性能では劣るが、腕はベテラン兵揃い。そこにガンダムチームも加わった三つ巴の決戦で消耗したネオ・ジオンは地球圏統一一歩手前まで行っておいてその目的を果たせなかった。
ネオ・ジオンが内紛を起こしたと知った連邦軍が手の平を返して動いたことは流石に笑えた。ジュドーが怒るのもわかるし、シャア・アズナブルが地球寒冷化なんてやったのもわかる。ユキも内心ではシャアの味方をしたかったはずだ。それでもシャアと戦ったのは、ハマーンを討った責任を取る為だ。連邦軍の邪魔がなければ地球圏はジオンに統一されていたはずだったのは誰の目にも明らかで、その時点で唯一組織的に存在したジオンはユキの旧ジオン派だったのだから。それでも戦力差を目の当たりにして、ユキは旧ジオン派を解散させた。投降する兵は少なく、多くがシャアのネオ・ジオンに合流したと聞く。
地球に住む人間を抹殺しようとしていたハマーンを倒して、なのに同じことをするシャアの味方をするなんていう節操なしにならないように、ユキは自分の想いを殺して、そして人の可能性を信じるシャアの理想を背負ってシャアと戦う道を選んだ。
そこにアムロ・レイという共に戦う仲間も居たことも大きいのだろう。
ネオ・ジオン討伐の功労者としてお咎めがなかったユキはロンド・ベルに所属して、あとはシャアのネオ・ジオンや袖付きと戦ったというわけだ。
そんなユキはスペースノイドの敵になるようなことは一切していないから、スペースノイドでもあるプラントを滅ぼすという考えがないのだろう。
そういう意味ではユキも考え方はスペースノイドだ。それは仕方がない。育った価値観とは容易には変えられないのだから。そしてニュータイプだからまだマシだったんだろう。踏みとどまれたともいえる。これでニュータイプでなければ典型的な地球を憎むスペースノイドになっていたかもしれない。そういう意味ではシャア・アズナブルはユキに良い影響を与えた人間だったのだろう。
だが中途半端過ぎなのだ。それがプルツーには赦せなかった。
◇◇◇◇◇
「珍しいですね。部長がこうも静かなんて」
「あれでも子供だからな。ここの所働きづめだろあの子? 勤怠記録みてみたら超過労働で、子供に働かせる時間じゃないぞアレ」
「そんな子に頼らないと戦争が出来ないなんて。私たちコーディネイターなのに」
「ナチュラルでもあの子の才能には勝てないさ。まぁ、出来るだけのことで部長を助けるのが俺らの仕事さ」
ペールギュントのブリッジではそんな会話がされていた。それを艦長席に座りながら聞いていたアーサーは会話が切れたのを見てワザとらしく咳き込み、場の空気を引き締めた。一応警戒待機中なのだ。四六時中気を引き締めろとは言わないが、それでも緩みすぎはダメだとアーサーは思いそういう行動に出た。
ちょっと艦長らしく出来たかと内心鼻を高くしていたが。
「月に動きはないか?」
「依然変化ありませんね。衛星軌道上の我が方の艦隊を警戒してプトレマイオス上空に展開はしているようですが」
オペレーターに確認してみたが、ここ数日同じような状況だ。
動きがない地球軍に艦内の空気もだらけてきているのがアーサーにも伝わっていた。
ペールギュントは最新鋭実験艦として建造された船で、その搭乗員もアナハイムの社員だ。勿論各種免許を取得した精鋭で、オペレーターもオペレーター免許を持っているし、航海士も整備士も医師ですら専門免許を持っている。
最新鋭の実験艦とはいえ、これでは企業の用意する私設軍隊となんら変わりのない陣容にさすがのアーサーも最初はやって行けるのかと不安だった。
それこそなぜ自分がここに居るのかと疑問もあった。エリート思考があるわけでもない。それでもそれなりには頑張って、それなりに出世の道は歩けているかと思ったら、企業の用意した実験艦の艦長だ。
艦長職になれると内心飛びあがるほど喜んだが、配属先はアナハイムの実験艦。
アナハイムの名は数年で有名になった企業としてアーサーも知っていた。CMなどせずに口コミを武器にしてのし上がって来た企業だった。親戚の甥にせがまれて買ったプチモビに自分の方がハマってコツコツとローンを返済しながら自分の分も購入してしまった程だ。
プラントの景色を空から見るという感動的な光景は今でも忘れていない。
それでもアナハイムは良い評判だけではない。それよりも悪い評判の方が目立つ。曰くナチュラルの企業。コーディネイターの利益を損ねる企業。裏切り者の溜まり場。
そんな企業の実験艦の艦長ということで、周りからは同情の目を向けられ、同期の同僚からも慰められた。
しかし実際その企業は世界の縮図を体現していた。
コーディネイターもナチュラルも関係ない、ただの人として働いている、笑って怒って、それでも仲が良い空気がそこにはあった。
それを取り仕切っているのが一人の15歳の少年という話なのだから驚く話だ。しかも会社を立ち上げた人物でもある。そうなると10歳の時点で会社を取り仕切っていた計算になってさすがに嘘だろうと冗談に思っていたら、冗談じゃない傑物が居たのだ。
そしてザフトとアナハイムを行き来することの多いアーサーはこのアナハイムの社風こそプラントに必要な、それこそ世界に必要な世界なのではないかと思い始めていた。
ナチュラルだから、コーディネイターだからと気にしなくていい世界こそが世界にあるべき世界なのではないかと。そんな大それた願いは自分には果たせないとは分かっている、しかしその社風で戦場にでるこのペールギュントという船は艦長として守れるだろうと、アーサーは今まで以上に努力を始めた。
それくらいにこの船は失ってはならないと思える世界があるのだ。
それでも毎回のびっくり箱の様に新しいものを生み出すアナハイムにはまだ慣れ切ってはいないが。
「ねぇ、これって変じゃない?」
「え? ただ艦隊の配置換えじゃないの?」
「それにしたら数が多いような」
「どうした? 報告は正確に!」
なにやらざわめくオペレーターたちにアーサーは状況報告を求めた。
「は、はい。それが、月の艦隊が妙で」
「妙? どう妙なんだ?」
「それが、敵の艦隊が動くみたいなのですが、数が大すぎる上に動きが変なんです」
「艦隊の陣形がめちゃくちゃなんですよ」
これまでザフトは連合宇宙軍の艦隊を多数撃破している。すべてで8艦隊は確認されている艦隊の内、まともに残っているのは3個艦隊もないはずだ。
「約4個艦隊規模の移動か。月を放棄…する理由がないな」
月を放棄してどこに向かう。ユーラシアのアルテミスに籠る可能性もなくはないが、そうすると補給が遠い上にそこまで艦隊を収容して置ける大きな要塞でもない。
L1宙域は中立地帯ということで連合の補給艦も通る分には通る。それだけの物資を積んでいる艦隊を相手にする余力が今のプラントにはないから良いが、それでもL1のコロニーが再び連合に組するかと言えばそうでもない。もしまた連合についてL1を連合とザフトの戦場にされては堪らないだろうからだろう。
さらにL1を再び占領したとして維持する艦隊がないのも連合の実状だろう。だから中立を認めているのだ。
オーブと同じように武装中立コロニー郡として存在し、MSも供給されているから連合にも強気で居るし、流れはプラント寄りになっているのもあって無理に手を出す必要もプラントにはない。こうして月基地を監視する駐車場的な扱いで充分なのだ。
「面白くない動きだな」
そう言いながら入って来たのは赤服に身を包み、鷹を象った様な刺繍を入れた黒いマントを着けたいつもの姿のユキだった。
「そちらの子はどちら様で?」
皆を代表してアーサーがユキに問う。ユキの背に続いて入って来たのは緑の服にエングレービングの様な刺繍を施しユキと同じマントを羽織る見知らぬ少女だった。
「コイツの許嫁、とでも名乗れば簡単か?」
「え、ええーーーっ!?」
胸を張る様に顎でユキを指して言うプルツーにアーサーは驚きの声を上げた。そんな噂も影も微塵もなかったのだから尚更だ。
「場を引っ掻き回すな。……それよりどう思う」
アーサーは一番プルツーに会せたら行けない人種だろう。からかい倒される姿が目に浮かぶ。
だが今は動き出した連合艦隊だ。
「動き自体はL2にでも行きたがっているようだけど、それだけじゃないな。牽制の艦隊を残して何かしに行く気配がある」
「狙いはどこだ? あれなら月の重力圏内に2艦隊が残る動きだ」
「そのまま月の重力を使ってスイングバイで L5に向かうっていう手も取れるよ」
「そうだな。今本国は留守を守る艦隊しか居ない。しかしそんな大胆な作戦が出来る指揮官が居るのか?」
「賢い指揮官なら第八艦隊のハルバートンっていう指揮官がいるね。ああいう指揮官は強い」
「そこまでか?」
「ブライト艦長とどっこい。とでも言えば良いか? 実践を積めば化けるぞ」
「それは手ごわそうだな」
二人だけでスラスラとスクリーンに映る動き始めた敵艦隊の動きからそこまで未来予測を立てる。アーサーはまた凄い子が増えたんだという認識を抱くので精いっぱいだった。少ない言葉から連合艦隊がどういった動きをするのかという予測を理解は出来るが、どうしてそこまで迷いのない予測を立てて、そして二人の間では見識が一致しているのかまではアーサーはわからなかった。
「もう少し艦隊の動きを見たいが」
「そうなってからじゃ遅いだろう。シャアに出し抜かれておいて」
「そうだな。じゃぁ、どうする?」
「ドロスでプラントに向かえば良い。ムサイは足が速いんだろう? ワタシはドロスに向かう」
「ならおれもそっちだな」
そして話が纏まった様子で、ユキはアーサーに視線を向けた。
「聞いての通りだアーサー。ペールギュントはここに待機させる。有事の際の判断は任せる。シホたちは置いて行くからその時は遠慮なく使ってくれ。私はドロワで本国に向かう」
「了解しました! ……しかし、あの少女は何者なのでしょうか? 部長と親しい様に思えましたが」
「ん? まぁ、家族みたいなものさ。あとは任せる」
「ハッ! プラントに栄光を!!」
「プラントに栄光あれ」
ユキをブリッジから見送ったアーサーは再び艦長席に座った。あの話していた二人の会話を聞いて理解はできたが、意見を言うような余裕というか、考えというか、先の見通しがまだ甘い自分の能力が恨めしい。
ユキの能力が高いのは経歴書を見れば判る。それこそ持っている資格は書ききれずに小さくして目を細めでもしなければ見えない程の大きさの文字で膨大な量の資格を持っている上にザフトの歴代成績2位で士官アカデミーを卒業して赤服を着ているのだ。その上にザフトの戦術論の生みの親だ。
そんなユキと同レベルで話が出来る少女の存在がアーサーは気になったが、家族のようなものとはぐらかされてしまってはそれ以上は踏み込めない。意外と本当に許嫁説がありそうなものの、それにしては二人の雰囲気は柔らかかったし、何よりアーサーが知らないユキを見せる程に気心を許しているというのはわかった。何しろ威厳特有の刺々しさと硬さが先ほどのユキにはなかったのだ。
「良いなぁ。ああいうの」
あんな風に公私で気心を許せる相手が少し羨ましかった。何気なく呟いた声がやけに響いてそこかしこでクスクス笑われても仕方がないと思いながら、今日もアーサーはペールギュントの艦長として頑張るのだった。
to be continued…