※この作品はR-18です。

SEED-虹の向こう側-   作:星乃 望夢

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我慢できなかった。でも連合側にも居ないと話を進められないだろうから大丈夫かな?

プルツーにバブみを感じたそこのあなたはもれなくシャアの同類かもしれません。

※感想でご指摘があったので、ギラ・ドーガについての部分に追記しました。


第七話 C.E.70 4月17日 第一次ヤキン・ドゥーエ攻防戦

 

「これだけの数でプラント本国を討つための艦隊を支援せよとはな」

 

 デュエイン・ハルバートンはようやく出撃出来た自身の艦隊の指揮を執りつつ、しかしプラント本国を討つために向かった艦隊を見送った。

 

 L2宙域にて停泊する第八艦隊は定数割れで33隻の艦艇からなる中途半端な艦隊だった。プラントに核を放ったサザーランド大佐を批難した途端に月に篭らせられてしまった。さらに言えばかねてよりザフトのMSの脅威を分かっていたハルバートンは上層部にその事を上告して連合でもMSの開発をするべきだとしていた時から周囲からの扱いは冷たいものだった。

 

「仕方ありません。今はどこも台所事情が厳しいのですから」

 

「フン! 所詮コーディネイターのブリキ人形と侮っていたツケを払わせるのは前線の兵士だ。それを上は数字が合えばいいだけのお役所仕事しかせんからわからんのだよ」

 

「心中お察しします」

 

 副官の青年は痛いほどに上司の気持ちが理解出来ていた。

 

「しかしMSとは脅威なものだな。たった一機でこうも戦局を変えられるものか」

 

「機体というよりパイロットでしょう。コーディネイターというナチュラルより優秀な人種ですが、だからといって同じ人間です。我が方のメビウス・ゼロのパイロットの様に、突出したパイロットが居ると見て間違いはありません」

 

 ブリッジのモニターには連合の艦隊が次々と1機のMSに撃墜されている姿が映っている。あまり気分のいいものでもないが、敵の分析には必要なものだ。蒼いジンは艦体を蹴りながら加速し、艦隊陣形の中を対空防御を嘲笑う様に自由に跳びまわっていた。それだけではなく、敵の隊列の中から通常のジンの3倍の速さで連合艦隊に一番槍を果たしたのも蒼いジンだ。

 

 その盾には鳥を象った様な装飾もされていて、形も少し異なることから試作機か特別機とも言われ、世界樹攻防戦ではアガメムノン級5隻 ネルソン級1隻 ドレイク級8隻 補給艦1隻 MA26機がこの1機のジンの為に失われたのだ。

 

 それがユキ・アカリというナチュラルが操るMSの戦果というのだから笑えない話なのだ。

 

「ナチュラルでここまで動かせる。ジンについては報告を見たが、とてもナチュラルが動かせる代物ではないらしいが。これを見ているとそうは思わんな」

 

「彼が特別なのでしょう。プラントの企業ではMS開発部門の責任者とか」

 

 連合にスパイが居る様に、プラントにもスパイは居る。そうして入ってくる情報から相手がどれだけの勢力を持っていて、どう戦争をしたいのかを計るのが戦争の情報戦だ。

 

「上は彼の身柄の拉致をしようとしているらしいが、上手くいくと思うか?」

 

「無理でしょうな。それを警戒して殆どプラントを開けているとか」

 

 実際はそうでもなく、ただ周りに隠れた護衛が多いのと、本人が護身術を身に着けているから中々実力行使でも対応させられ、それ以前に実行以前にアジトがばれたりして次々と使える手駒が減り、今は静観するしかなくなってしまったのが実状だった。

 

「しかし君は、彼を知っているような素振りだな」

 

「自分が、でありますか?」

 

「敵を見る顔ではないのは確かだ。そして確信が持てずに迷っている。信じたいが真意がわからないという目をしているよ」

 

「は、はぁ……」

 

「良ければ聞かせてくれんかね? 君の知るこのユキ・アカリという人物を。ブライト・ノア君」

 

 そうハルバートンに問われたブライト・ノアは、モニターに映る蒼いジンをもう一度見つめた。

 

「もし自分の知るユキ・アカリという人物が同一人物であれば、強大な相手でしょう。私見ですが、今の連合に彼を抑えられる人物はいない」

 

「ほう。それほどかね?」

 

「経験に裏打ちされた堅実さ。しかし発想の自由さも持ち、政治的手腕の立ち回り方、戦場での戦術家としての知恵も多い。人は天才と彼を呼ぶでしょうが、努力の賜物だと知る人物は少ないでしょう」

 

 こうも話すと個人的にも懇意だったとハルバートンには言っているようなもので、普通の指揮官ならばスパイ容疑でも吹っ掛けられて尋問されてもおかしくはないが、そう言う人物ではないことを分かっていてブライトは話した。

 

「おそらくプラントでは強硬派と穏健派とは別の派閥を作って動いているでしょう。彼の思想では先ず強硬派とは相いれず、しかし穏健派に入っても自らの理念は理解されない。だから戦場で武勲を立てて発言権を高めようとしている。そういう気分を感じますね」

 

「それに当て馬にされる我々は堪ったものではないがな」

 

「良くも悪くも武人気質ですからね。向かって来るものは撃ち、去る者は追わず。ビクトリアの一件も彼が居ればこそでしょう」

 

「投降した敵兵である我が軍の兵士を身を挺して守ったというあれか」

 

「カーペンタリアでは彼が居ないから酷いものだったというのが私の見識です」

 

 カーペンタリア制圧戦。降下したザフト迎撃に出撃した太平洋艦隊だったが、ザフト軍の前に大敗。投降した連合兵の虐殺があったという噂だ。

 

 しかしそれも実際は投降を呼び掛けても攻撃を止めない連合兵士を已む無く迎撃したというものだったが、情報が正しく伝わらないのは何時の時代でも良くあることである。

 

「ともかく、彼が敵であるのなら、我々は暫くはどう被害を出さずに戦うかという作戦を立てねばならないでしょう。少しでも隙を見せればたちまち食い破って来ます。G計画の為にも今は無理も出来ません」

 

「うむ。Gが完成しても受け取れる味方が宇宙に居ないのでは話にならんからな」

 

 この世界の戦争。ナチュラルとコーディネイターという図式はかつての連邦とジオンの図式に似ているが、それが国家間の衝突という皮を被った人種戦争であることはブライトも見抜いていた。

 

 26歳という若さで中佐の座にいる。それはブライトにも複雑な心境だった。

 

 息子が反連邦政府組織を率いていた。止められず、それどころか最後まで知らなかった自分が情けなかった。一人前の親に成れなかった。

 

 だから今度は間違うなということなのか。

 

「そう言いたいのか? アムロ、カミーユ、ジュドー」

 

 幸い上司は良識のある人間だ。というよりは第八艦隊は蔓延するコーディネイター・アレルギーを嫌う人間の溜まり場とも言われている。

 

 もしブライトの知るユキがそこにいるのなら、プラントでも蔓延しているだろうナチュラル・アレルギーを嫌って自分の組織を作るはずだと確信があった。そう言う爪弾きされた者を纏めるのが上手いのがユキの才能だった。

 

 ロンド・ベルにも旧ジオン派は何人も居たが、彼らが曲がりなりにも連邦軍の一部隊のロンド・ベルに属したのはユキの存在があったからだろう。

 

 ネオ・ジオン残党狩りを名目にした独立部隊にベテランが回される訳もなく、ヒヨッコを育てるベテランの役を彼らはしてくれた。そしてシャアのネオ・ジオンとも戦ってくれた。連邦もジオンもない。エゥーゴの延長のような誰でも受け入れ、理念で戦う気風があったのがロンド・ベル。そう言う空気を造ったのは間違いなくユキだ。

 

 それはアムロも容認したし、その空気がシャアを止められる力になればと自分も認めた。

 

 だからわかるのだ。

 

 虹の向こうへ行けなかったから、大人になろうとしたその姿に身体が追い付くように急成長して行く姿を間近で見ていたから、彼が今、何を考えて動いているのかを。

 

 スペースノイド独立の宿題をしながら、この世界の戦争をどうにかしようとしている。

 

 シャアのネオ・ジオンの紋章を掲げているのはそう言う事なのだろう。或いは自分のような仲間への呼び掛けなのだろうか?

 

 しかし自分は今は地球連合の所属だ。手伝ってはやりたいが、立場もある。

 

 しかし蒼い機体にネオ・ジオンのマーク。そして旧ジオン残党が使ったドラッツェというMSの設計者はユキであることは旧ジオン派では有名な話だ。

 

 そしてジンのモノアイがなにかを伝えるように光。それは暗号だ。こちらの世界では意味がわからないだろうが、宇宙世紀の出の人間ならばわかる。

 

 ジーク・ジオンーー。

 

 確定だ。ロンド・ベルの。ジオンの蒼き鷹はそこに居る。

 

 そこにいて戦っているのだ。その理由はプラント独立の為。スペースノイド宿願の為。そして戦争を変える為。

 

「忙しくなるな」

 

 おそらくザフトの地上侵攻はビクトリアのアフリカ地域とカーペンタリアの大洋州連合を中心としたもので一度攻勢限界に達し、その後数か月は膠着状態が維持されるだろう。一年戦争のジオンと同じだ。

 

 プラントで発言権を大きくする為に動いているのならどうにかして軍を動かさない様にするだろう。小競り合い程度は起きても大きな戦いでの消耗はユキも望むところではないはずだ。そのころになればG計画も完成するだろう。その時に宇宙が動く確信がブライトにはあった。

 

 反撃の狼煙。ガンダムが完成した時に世界が動く時を何度も見続けてきたが故の実感だった。

 

 それまでに出来ることはこの第八艦隊を消耗させずに鍛えることだ。

 

 G計画とその運用母艦アークエンジェル。ホワイトベースに似た形のその船がこの世界の戦争を左右する。そして自分もまた。

 

「或いは出会うのは戦場かもしれないな」

 

 その時をブライトは楽しみに思いながら、G計画とは別の計画を推し進める為に行動を始めた。軍需産業と政治家との付き合いは何も初めてじゃない。経験があるからこんな世の中でも上手く立ち回れている。それでブルーコスモス寄りに見られるのは仕方のないことだと思いながら、必要な事であるから耐えるだけのことだとブライトは思っていた。

 

「プラントへの攻撃。あいつなら読むだろうな」

 

 ニュータイプである上にシャアやハマーンに匹敵する指揮官でもあるのだ。こちらの動きを予測していても不思議ではない。どこかこの作戦は失敗するだろうと、漠然とブライトは思っていた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 プトレマイオス月面基地を発進した連合宇宙軍艦隊は第七艦隊と第八艦隊を衛星軌道上に駐留するザフト艦隊への牽制とし、第五、第六艦隊はL2宙域に向かうと見せかけてそのままL5のプラントへと迫っていた。

 

「ナチュラル共め! こちらの戦力が手薄のこの時を狙って来たか」

 

「迎撃態勢は敷いているが、数では厳しい戦いになるぞ」

 

「こうなれば衛星軌道上の我が軍を戻すしかないのでは?」

 

「今からでは間に合わん。それに向こうも戦闘状態に突入したらしい。戦いながら増援など期待できないぞ」

 

「幸いなのはアナハイムのドロワが本国に向けて帰還中とのことだ。あれなら1個艦隊と撃ち合える火力はあると聞く」

 

「またナチュラルの小僧か。忌々しいがプラントの土を奴らに踏ませるわけにもいかん」

 

 最高評議会では今回の地球軍の奇襲に数少ない防衛戦力での本国防衛に頭を悩ませていたが、L1から本国に向かうドロワが丁度地球軍艦隊との戦闘に間に合う位置に居た。地球軍艦隊の方がプラントに到達する方が速いが、本国を攻められた場合の対処法もユキの論文をベースに迎撃態勢に移行している。

 

「ヤキン・ドゥーエの配備は?」

 

「予定通りだ。敵艦隊と本国の直線状に移動させている。長距離ミサイルの被害は防げるだろう」

 

 資源採掘衛星のヤキン・ドゥーエをプラント防衛の為に移動はさせている。ヤキンを中心に迎撃態勢に移ってるが、資源採掘衛星なだけで武装はしていないのだ。それこそ長距離ミサイルの為の盾としてでしか使えない。

 

 パトリックとしては、ナチュラルでもその戦略眼は認めざるを得ないものがあるとユキを評価しつつあるが、ユキはクライン派に近く、ナチュラルであるが故にプラントに住むナチュラル擁護派の筆頭でもあった。所詮子供の戯言と、論文には資源採掘衛星は有事に備えて要塞化をすることを書かれていたが、そんなことはないと思っていたツケが回ってくるともパトリックは思っても見なかったのだ。

 

「ともかく宙域全域にNジャマーの展開と、万が一に備え、民間人はシェルターに避難させる」

 

「ユニウスセブンの件もあるからな。致し方ないだろう」

 

 シェルターの中でならば最悪の事態でも生き残ることは出来る可能性は高い。プラントが破壊されるなどという失態は万が一にも繰り返す気はない。それでも民衆の安全の為に避難は必要な事だった。

 

 議会の推移を見守りながら、シーゲルはドロワの帰還が戦闘に間に合う事を祈るだけだった。それでもできることをと、最高評議会議長として、民間人に避難をさせる為の放送の準備に取り掛かるのだった。

 

 そんな中でドロワでも地球軍艦隊がプラント本国を狙う動きを観測していた。

 

「予測的中ドンピシャだな」

 

「当たり前だろ。オマエより何年余計に戦争したと思っているんだ」

 

「御見逸れ致しました」

 

「バカにしてるのか?」

 

 そういうやり取りをしながら、ドロワの中のパイロット待機ボックスでユキとプルツーは連合艦隊のプラント到達予測と、ドロワの到達予測を見比べていた。

 

「補給を気にしなければゲタで間に合うが。エネルギーがな」

 

「バッテリー駆動の悲しい性さ。一応戦闘空域までブランク起動にして節約出来ても、激しく振り回すからあっという間にエネルギーが切れる」

 

「推進剤の噴射にもエネルギーを使うからいけないんだ」

 

「というよりいつまでも核融合炉で振り回していた感覚がどうも抜けないのが悪いんだけどね。頭では分かっていても身体が無意識レベルで染み着いてる」

 

「ならサザビーでも使うか? あれ、ミノフスキー核融合炉にしてあるんだろ?」

 

 そう言うプルツーは実際に見たわけではないが、シャアを信奉するユキがサザビーを完全な形で直していないわけがない確信があった。それでもサザビーは使わない気なのは分かっていてプルツーは問う。

 

「いや。サザビーの説明が面倒だ。一応グゥルを改修して使える様にしてるから、1時間後に出られるようにはなる」

 

「あのギラ・ドーガもどきを作っておいて良く言うよ」

 

「あれは実験機扱いだから良いんだ。本国に提出した機体はデチューンを徹底的にして性能はゲルググ並に抑えてある」

 

「この詐欺師め。アナハイムに長く居過ぎたな」

 

 口ではそう言うが、ちゃんと狡賢いことも出来る様になっていることも嬉しいとは思う。理想に殉じて穢いものを見ないよりかは好感が持てる。

 

「賢いって言って欲しいな。それよりサイコミュの方は平気なの?」

 

「別に。ワタシに合わせるよりワタシが合わせるほうが良いようだ。オマエこそ、またあのリサイクルMSで出る気か?」

 

 サイコミュ波の相性は良く、無調整でもプルツーはユキの設定で合わせられた。ならこのままの方が面倒はなくていい。それよりもドラッツェという特攻機染みた機体で出るユキの方がプルツーは心配だった。

 

「純正パーツ組みだから性能はリサイクルの奴より良いのさ。中身も結構弄ってるし」

 

 待機ボックスの中からは2基のガンバレル・ビットを無理やり4基積めるように改装中のガンバレルウィザードと、改修作業が行われているドラッツェ改の姿があった。

 

「しかしなんでまたギラ・ドーガもどきなんだ? ギラ・ズールの方がザクに近いだろう」

 

「ギラ・ズールの設計なんて知らないよ。最後に設計した量産向けMSはギラ・ドーガとリゼルだったから、ジオン系だとギラ・ドーガの採用だったんだ」

 

 プルツーはギラ・ズールの設計を知っているが、ユキはその設計の大本のギラ・ドーガを設計はしたが、ギラ・ズールは袖付きとグラナダ工廠の独自設計だ。そこにユキは関与していないし、知る前に宇宙世紀を離れたので知ることもなかったのだ。つまりその辺りからMSの設計を自分は知っているのだとプルツーは認識の差を擦り合わせた。

 

 ちなみにユキの設計したギラ・ドーガが何故シャアのネオ・ジオンで運用されたのかと言えば、ネオ・ジオンのスパイがMS設計技師としてアナハイム内では有名だったユキのPCからデータを盗んだという裏話があるが、それは今語ることでもないだろう。

 

「なら次の機体はどうするんだ? ビーム兵器主体の量産型か?」

 

「一応ドム系でもと考えてるけど、やっぱりゲルググ系の方が良いのかな?」

 

 一年戦争と同じような状況になるのなら、呑気にドムを作るよりそれをスキップしてゲルググを世に出すほうが勝算は高くなる。バクゥが居るので態々ドムを地上向けのMSとして開発する必要もないとユキは考えていた。

 

「ジム系は見た目がジオン系のプラントに合わないから却下として、宇宙で使うならバウでも良いんじゃないのか?」

 

「可変MSなんて作りが複雑すぎて量産には向かないよ。やるならガザ系を量産型MSとして提出したほうがマシだね」

 

「面倒だな。一気に力押しでやればいいものを」

 

「周りが着いて来ないと意味がない。あくまで同じレベルの技術ってことにしないとやっかみが凄いんだよ」

 

「なんでそんな面倒な国を救おうとするんだ?」

 

「なんでって。一応家族が住んでるし。プラントを独立させたいのはおれの我が儘もあるし」

 

「その我が儘が続く内がプラントの寿命か」

 

「途中でほっぽりだす気はないよ」

 

 話をしながらも、作戦を考える為にタブレットと睨めっこしているユキは本気でプラント独立を目指しているのがわかる。

 

 なら自分はそれを手伝うだけだ。支えるのではない。同じ目線で立たなければならないのだ。

 

 それを出来るだけの知識と腕もある。

 

「プルツー?」

 

「マリーダみたいに大きければ、もう少しお前を甘やかせられるのにな」

 

 無重力の中で身体を浮かせながらプルツーはユキの頭を胸に抱きしめた。パイロットスーツ越しでは普通分からないが、それでも温もりが伝わるのはニュータイプ同士の得な所だと思えた。

 

「充分甘やかしてもらったよ。だれかにあんな風に優しくしてもらったのって、多分母さん以来じゃないかな」

 

 甘やかされるなんて言うことは大人になるにつれてなくなることで、それでもどこか大人は誰かに甘えたくて、恋人や結婚なんかをするのだろう。だけど戦争というものが良くも悪くも人を変えてしまったのだ。カミーユもシャアもそう言う意味ではちゃんと子供の時に親に甘えられなかったからシンパシーを感じて、大人でもどこか情けないシャアをカミーユは許せなかったんだろう。きっと、今の自分もカミーユから見たら情けない奴で修正を喰らうかもしれない。

 

「ワタシはオマエのお母さんか?」

 

「さぁ。でもお母さんだと恋人にはなれないね」

 

「恋人か。悪くないが、それ以上はないのか?」

 

「結婚とか? 戦場で早死にしそう」

 

「子供でも出来れば違うんじゃないのか?」

 

「誰と誰のさ」

 

「オマエとワタシ。良い子が生まれると思うぞ」

 

「戦争が終わってからね。ちゃんとした世の中じゃないと可哀想だよ」

 

「戦争が終われば良いんだな?」

 

「言葉の綾だよ」

 

「つまらないな。この臆病者め」

 

「奥手なんだ。我慢してよ」

 

 戦争しているのに子供を作るなんて、生まれてくる子供が可哀想だ。それこそミネバ様の様に父親を人の話でしか知らないような子供を作るくらいなら子供は要らない。

 

 それでもプルツーとこういう会話が自然と出来るくらいには彼女も大人になったということだろう。いまでは彼女が年上で、大人の余裕もあって、温かく包み込んでくれる。こういうことを心のどこかで望んでいた自分もシャアの同類なんだろう。

 

 プルツーの胸の中から解放されて交差するのは青い瞳。宇宙の様に青い瞳だった。

 

「濁ってるな。まだ疲れてる証拠だよ」

 

「純粋に理想を追うだけじゃダメだって分かっているからさ。人と関わらないとこの戦争を変えることなんて出来ない」

 

「だからお前だけでやる気か? 世界を相手に出来る器でもないくせに」

 

「そこはね。シャアの真似でもするさ」

 

「だから今は点数稼ぎの時だって? あれはジオンの名前があったから出来たことだろう」

 

「だからアナハイムも作ったんだよ。あとはプラントで上手く立ち回るつもりさ。それでもだめなら諦める」

 

「どうだか。諦めなかった人間が、早々諦められるものかい」

 

 何があっても、挫けても這い上がって諦めなかったのがユキ・アカリという人間の人生だった。諦めるのは、死んだときだろうということをプルツーは分かっていた。生きている限りは諦めない、そう言う人間なのだと。

 

 それでも時には休むことも必要だ。ハマーンを討った時もそうだった。袖付きと戦かったあとに今日まで休息を殆ど入れていないのも見抜いていた。絶えず気配が動いていたのだから間違いない。

 

「少しでも良いから休んでいい。それが出来ないならワタシに吐き出せ。溜め込んで壊れるタイプなんだからな」

 

「そんな情けないタイプに見える?」

 

「見えるね。だからデラーズ・フリートが負けたあと、水商売人にまで堕ちたんだろ?」

 

「その話、どっから聞いてくるのさ」

 

「マリーダのことを調べるのに少しね。でも笑えるよ。マリーダと同じ店に居たんだからな、オマエ」

 

「あまり嬉しくない新情報ありがとう」

 

「だからマリーダも気にしたんだろ? 自分と同じ匂いを感じたから」

 

「どうだろう。それ以前にプルとプルツーの妹だって分かったからかな」

 

 わかって、気になって、助けようとして、なにも出来なくて、それで殺したようなものだ。あまりにも情けない過程に、自分は何をしてやれても居なかった。そんな妹を救えなかった自分がその姉に甘えていると知ったら、彼女は怒るだろうか?

 

「オマエは何でもかんでも深く考えすぎなんだよ。人の生き死にはそいつの責任さ。それまで抱え込む事なんて誰にも出来るものか」

 

「でも……」

 

「そこがお前の面倒な所だ。そこは直せ」

 

「……頑張ってみるよ」

 

 耳元で優しく語り掛けてくれるプルツーの声に心地よさを感じながら、ぎこちなく背中に腕を回そうとすると、羽交い締めにするようにプルツーが抱きしめてきた。静寂が包む中で、プルツーの鼓動と、呼吸だけが聞こえてくる。それに合わせてユキの鼓動と呼吸も混じり合う。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 作業を終えたMSに乗り込み、ユキはバランサーの調節をしながら、グゥルに寝そべるリープザクの姿を見た。背中のガンバレルウィザードのガンバレル・ビットは4基に増えていて、元々の2基のビットに縦に積むような形で増えている、横の方も考えたが、それだと腕を振り回す時に干渉する可能性もあるので縦積みに増設したが、それだと重心が後ろに傾くのだが、そんな程度で操縦できなくなる程度の腕ではないのはユキも分かっていた。

 

 シホといい、ジャンも、ルクレイツァも優秀なパイロットだが、やはりプルツーの存在は心強いものがあった。ニュータイプの仲間は良い。それはもう自分がニュータイプの価値観に浸り過ぎた所為だろうが、今更この価値観は捨てられないし、ニュータイプの世界も諦めたわけでもない。人の革新の予兆はこの世界でもあるのだ。だから戦争を終わらせて、そう言った新しい目覚めに備えなけばまた戦争を繰り返してしまう。

 

 そうはさせない為にも今は戦うしかないのだ。プラントをやらせるわけにはいかないのだから。

 

 改造を施した各部のステータスを確認する。GP系の技術を取り入れて改造したドラッツェ改は改造前の機体とはまるで別物だが、高機動MSである限り自分の領分だ。

 

 肩の大型スラスターに背中の偏向ノズルを兼ねたバッテリー内蔵大型プロペラント・ブースター。テールバインダーも装備して、脚部プロペラントもバッテリー内蔵プロペラントブースターに強化している。バッテリー問題は1度の戦闘ではバッテリー切れはしない強引な造りになっているが、完成したドラッツェ改はどこかその面影がとあるMAと重なった。

 

「ジオンの魂を受け継ぐこのドラッツェ。連合の艦隊になど遅れはせん」

 

 両腕にシールドを装備し、2基のビームサーベルが使える様になっている。脚部には3連装ミサイルポッドを4基装備させている。ランドセルのスラスターも高出力型に換装している。総合推力はGP01Fbを超えるだろう。それこそMSではなくMAともいえるが、火力が貧弱なのでまだMSのカテゴリー扱いで良いだろう。

 

 武装はリニアライフルは相変わらずだが、対艦攻撃ということで今回はバルルス改を選択する。小物はプルツーに任せる方針だ。とにかく敵の数を減らさないと艦砲が何時プラントを襲うか分からないのだから。

 

『行けるな?』

 

「お待たせ。発進シーケンス開始を要請!」

 

 いざ発進となるとやはり感情が高ぶってくる。自分が作るMSがどこまで通用するのか試してみたくなるのは毎度のことで、そして戦いというものに心が躍るという戦場の兵士だから、平和は作れても維持できないとシーゲルには語ったのだ。

 

 気が高まっているのはプルツーも同じだろう。リープザクが僅かに発光している。バイオセンサーを通してプルツーの感情の高まりを感じる。それに合わせて自分の感情もまた高まっていく。

 

 ドロワから発進したリープザクのグゥルの底面にドラッツェ改カスタムも捕まらせる。

 

「行くぞ」

 

「ああ」

 

 そこに通信はなくても、互いの声は聞こえる。

 

 それがニュータイプだ。

 

 加速するグゥル。戦場はまだ遠いが、戦果の光は見えている。

 

 そして数の多さに徐々にだがザフト側が押されているのも分かっている。

 

「戦場に着けば、好き勝手しても良いのだろう?」

 

「敵を減らす必要がある。構わない」

 

「良いだろう。そういうシンプルなのは好きだよ」

 

「先に行く。初速はつけるから」

 

「獲物は残しておいてくれよ?」

 

「保証はできん!」

 

 グゥルに捕まったまま、機体のスラスターを全開にする。そのまま速度が乗ったのを確認し、グゥルから離れて一気に戦闘速度で前に出る。

 

 対装甲リニアライフルを構えながら戦場をバイオセンサーで増幅された感覚で感じ取る。どうやらそこまで空間認識能力の高いパイロットは居ないらしいが、ガンバレル装備のMAに苦戦しているのが感じられる。

 

 本土防衛軍といえば聞こえは良いが、実際はボンボンの集まりであるから仕方がないのだが。そう言うところは何時の時代もどの世界も変わらない。前線に出るのは別に死んでも困らない兵士からだと相場が決まっている。

 

「ラウも留守だからな。エース級が居ないとこうも脆い!!」

 

 戦闘空域に入り、リニアライフルですれ違う敵艦の艦橋やエンジン部を適当に撃ち抜きつつ、ユキは追いすがるメビウスをシールドビームガンで撃墜する。

 

「数だけは多いみたいじゃないか!」

 

 背中のガンバレル・ビットを射出し、手当たり次第に敵を撃ち落としていくプルツー。

 

 グゥルを近場のドレイク級にぶつけ、ネルソン級の艦橋とエンジンをガンバレル・ビットで撃ち抜いて撃沈させる。

 

「少し使うよ!」

 

「いいさ。2つあれば充分だ!」

 

 2基のガンバレル・ビットがバイオセンサーを通してリープザクのコントロールからユキのドラッツェ改に移る。

 

 その2基のガンバレル・ビットで味方の艦隊に群がるMA部隊をユキは蹴散らしに掛かりながら、ユキはビームサーベルですれ違うメビウスを次々に切り裂き、リニアライフルで撃ち抜いて行く。

 

 プルツーもレーザー重斬刀を抜き、ドレイク級の船体を切り裂き、艦橋を切り離す。ドレイク級のような駆逐艦クラスの船はこういうやり方で戦闘能力の大半を奪えるのだ。

 

「うるさいハエだな。墜ちろ!」

 

 向かって来るメビウスに対して進行方向にレーザー重斬刀を置くようにすれば勝手に切り裂かれて墜ちる。

 

 リニアライフルでさらに数機のメビウスを落としたところで、ガンバレル・ビットを戻す。ユキに預けた分もコントロールが戻っていた。

 

「もう良いのか?」

 

「ガンバレル付きは墜とした。あとは戦艦をやる!」

 

 バイオセンサーで繋がり合っているから言葉も少なくても互いに意思が交感出来る。

 

 それ以上にニュータイプとして、互いの心に互いの存在を受け入れているから言葉にしなくても意識で通じ合える。それでも言葉にするのは言葉で感情を伝えてきた人の本能が言葉を紡ぐのだろう。

 

「少し突っ込みすぎじゃないか?」

 

「これくらいで墜ちるか!」

 

 弾幕の中を滑る様に飛ぶユキのドラッツェ改。青い推進剤の輝きはまるで彗星の様だった。

 

 運動性はMSよりも下がっているはずの機体で、MSと変わらないような動きをするのは肩の大型スラスターと腰のバインダーのお陰だろうが、MAとほとんど変わらないような機体と速度で直角にジグザグに曲がって平気なのかとも思うが、本人は全く辛さを感じていない。それこそまだ物足りなささえ感じている。

 

「死に急いでる……違う。どうなってるんだ、アイツの身体」

 

 バイオセンサーよりも強いサイコミュ波をユキの身体から感じている。そしてそのサイコミュ波の感じをプルツーは知っていた。

 

「あの機体。サイコフレームでも使っているのか?」

 

 虹色の光がコックピットの辺りから漏れているのがわかる。サイコフレームの発光現象。温かい感じが戦場に居ることを忘れそうになる程の心地よさを感じてしまう。

 

「今は戦場に居るんだ。それは邪魔だよ!」

 

 バイオセンサーからサイコミュ波を追い出し、プルツーは戦いに集中する。

 

 ガンバレル・ビットを射出してまたMAの数を減らす。

 

 敵の旗艦まで隊列を擦り抜けたユキは持ち込んだバルルス改をアガメムノン級に容赦なく撃ち込み、撃沈させる。そのまま周りを護衛するネルソン級や他の旗艦になるアガメムノンも沈めていく。

 

 バルルス改を持ち込んだEパック分も撃ち切ると敵の気勢を削ぐ意味も込めて護衛のMAも落としにかかる。

 

 バルルスは担いだままだが、これは捨てて回収されると困るので仕方がない。

 

 ビームサーベルでメビウスを切り裂き、シールドビームガンで撃ち落とし、パルデュス3連装短距離誘導弾を撃ち放ち、ドレイク級も沈めていく。

 

 敵の中枢周りを制圧し終えたところで連合艦隊から撤退信号が上がった。

 

 それを見届けてとりあえずプラントは守れたと安堵して身体の力を抜くユキは、そのまま身体の疲労感に誘われるまま意識を落とした。

 

 

 

 

to be continued…

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