なんか母性ロリ属性を付加したプルツーがもうヒロイン独走状態になってるけど、まだ巻き返しはきくから大丈夫だろう。なおユキに対して遠慮もないから一番仲が良く見えるのは仕方のない事であり、堂々としてるからイケメン度も高いという王子様状態で最強に見える。
キャラを違和感ない様に表現できていれば良いんですが、それが難しい。
プラント本国強襲。その事実は民間人の避難の為にプラント中に知られることになる。
血のバレンタインからまだ二月しか経過していないこの時期に再びプラントが攻撃されている。
誰もが思い描くのは核攻撃を受けて崩壊するユニウスセブンの姿だった。
次は自分たちかもしれない。そう思わない人間はいないだろう。
シーゲルは民衆に避難を呼び掛けながら、冷静に対処して行動する様にも付け加えているが、それでも焼け石に水だ。この事態と混乱を収集するだけの圧倒的カリスマ性というものは、残念ながらシーゲル本人にはないと自覚していた。
そんなシーゲルのもとに面会を求める人物が居た。
「この様な事態で押し掛けるような無粋を許してくださり、感謝致します。クライン議長」
そう言ってまず謝罪を述べたのはデュランダルだった。
柔らかい物腰ながら、その言葉には滲み溢れる力がある。そういう声を出す人間は少なからず居るものだが、デュランダルはさらに遺伝子工学の権威としてプラントでは有名な人物だ。さらに議会でもその発言力は強いとシーゲルは耳にしていた。
「構わんよ。国防はザラに任せている以上、私には国民に対して説明をすれば後は大人しく戦闘が終わるのを待つしかない」
それでも不安に駆られる民衆になにかできることはないかと思い行動しても、言葉だけではどうにも出来ないことは今も我先にと避難する民衆を見ればわかる。
「それを憂慮していらっしゃるクライン議長に、ひとつ見て頂きたい物があります」
そういって「失礼」と一言断りを入れてデュランダルはタブレットを操作してスクリーンに出した映像は、普段と変わらないプラントの街並みだった。
「これは?」
「アプリリウス10のリアルタイムの映像です」
「リアルタイムだと?」
アプリリウス10は首都市のひとつだ。地球の緑溢れる田舎をイメージして造られたプラントだが、それでも放送は届いているはずだ。なのに避難する素振りもなく実に平和な日常を送っている様に見える。
「どういうことなのだこれは?」
「どうということはありません。アプリリウス10は首都市ではありますが、その住民は監視しやすい様にと集められたプラント在住のナチュラルの暮らすコロニーであることはご存じでしょう」
それはプラント建設時代に地球からやって来たナチュラルの技術者が中心であり、今もなおその家系がプラントに住み続けてはいるが、ナチュラル・アレルギーのコーディネイターに配慮という形でプラント中のナチュラルはこのアプリリウス10に押し込まれる形で住んでいるのだ。
「彼等もプラントに住んでいる以上、連合の攻撃が自分たちにも向くことを知っています。しかし彼等はこうして日常を過ごしている。何故だかわかりますか?」
そう問われても、シーゲルには見当が着かなかった。まさか自分たちが戦争には関係がないという訳でもないだろう。それは今、デュランダルが否定したことだ。ならば何故だ。
「彼らは信じているのですよ。蒼き鷹の事を」
「蒼き鷹?」
蒼い鷹などいるものか、そう思ったシーゲルだったが、思い出す。プラントの為に戦うナチュラルの少年の異名を。
「彼か。しかしだからと言ってこの落ち着き様が説明つかん」
「ではこちらをご覧ください」
モニターが切り替わると、広場の大型スクリーンには戦闘の様子が映し出されていた。
「これは!?」
「アナハイムのドロワがリアルタイムで送信している映像です。ドロワから発進したMSのカメラの映像も含まれています」
「それは…」
一歩間違えれば軍事機密流出に繋がる様な事だ。民間企業とはいえ、軍事機密を扱うのだからそういった機密保持は徹底して貰わなければならない。
「ご安心ください。軍に不都合な映像は流れない様に配慮しております。例えば、投降した敵兵を撃つような映像は」
それは軍にあってはならない不祥事だ。それが知られているということはこの映像は少なくともビクトリア降下作戦時にも既に記録をしていたことにもなる。
「このコロニーには彼の自宅もありましてね。ナチュラルでありながらプラントの為に働く彼の姿は、住民たちにかつての自分たちを投影させるのでしょう。故に知りたがるのです。彼は今、どこで、どんな風に戦っているのかを」
「……」
そういうデュランダルの見せる映像は、ちょうど敵艦隊の防衛網を抜けた蒼い機体がその中枢部の艦を次々と撃沈していく映像が流れ、広場に集まった人々は興奮に叫んでいた。そして口々に彼の名前を称え、誇らしげに言うのだ。「プラントに栄光あれ」と。
「まるで洗脳だな」
「洗脳ではありませんよ。民衆は真実を知りたいだけなのです。言葉を尽くすのも良いでしょう。しかし現実を見せなければ、それは言葉に踊らされるだけの人形と変わりはありません」
「この映像が真実だと誰が決めるのかね?」
「それは見ている人々でしょう。結局、どのような情報を与えたところで、それは取る側の解釈でどうとでも変化してしまう。ジョージグレンの告白の様に」
まるで彼と話しているようにも近い感覚をシーゲルはデュランダルに抱き始めていた。それは未来を見据える者であるかの様な雰囲気だった。
直角にジグザグに動く蒼い光。それがズームされればやはり蒼いMSが映る。その腕の小さな盾には鳥を象った様な紋章を施されていた。
「あの機体は彼の物でしょう。その証拠がこの紋章です」
「これがある機体は彼のものだと?」
「パーソナルマークというものですよ。エースに許された、エースの存在を内外に示すものです」
バレルロールをしながらすれ違いざまにMAをビームサーベルで両断する姿は簡単なように見えて、それでいてその蒼いMSのカメラの見る映像では一瞬の出来事過ぎて見てから脳が反応する間には既にその戦闘は終わっている。それがMSパイロットの世界。コックピットでどのように命のやり取りをしているのかというものだった。
「これほどの戦いを……」
「だから彼は民に好かれるのです。ここまでして守ってくれる。戦ってくれる相手を、どうして嫌いになれるというのですか? そして彼が居るから安心していられるというのもアプリリウス10の住民の声でもあります」
見ているだけでも酔いそうな速さで流れる宇宙の映像。目が追いつかなくなってきたところで映像が全体を俯瞰する物に切り替わる。
艦隊の中枢を撃破し終えた辺りで信号弾が上がり、連合軍が退き始める。それを追撃しようとするザフト軍を蒼いMSが信号弾を打ち上げると、戦場に居るMSが一斉にその蒼いMSに集中する。
『何故だ! ここで追撃すれば奴らを叩けるのに!!』
『……撤退信号だ。退くという相手を追いかけてはならない』
『プラントを狙われたんだぞ!! なのに何故撃つなと命令する! ナチュラルなど生かしておいて良い事なんてないだろう!!』
『敢えて言おう。それが軍人というものだ!!!!』
『なにぃ!?』
『ユニウスセブンの件は確かに私も思うところはある。だが、戦争という物にもルールはあるのだ。未だ戦時条約も結んではいないが、それでも我々の戦争は積極的自衛権による防衛戦争なのだ! 守る側が撤退信号を出した相手を追撃すれば、それは最早防衛戦争ではなくなってしまう。その意味を間違えてはならないのだ!!』
『守ってばかりで戦争が終わるってのかよ! これはアイツラから仕掛けてきた戦争だぞ!! 俺の妹と母親も、ユニウスセブンに居たんだぞ!!』
『軍は怨恨を晴らす場所ではない! 我々の目的はプラントの自治権獲得、独立にこそあるのだ。怨恨で人を撃ちたいというのならば軍を抜けよ! 我々の戦いは私怨を持ち込んではならないのだ!!』
『偉そうなこといってよぉ! オマエも所詮はナチュラルだろうが!!』
『ならば私の屍を踏み越えるが良い! 撃ちたいのならば私を撃てば良かろう!!』
『言質は取ったぜ。後悔しろやクソナチュラルがぁぁぁああ!!』
映像は途切れない。しかし広場を移す映像は既に切れていた。広場の映像は撤退信号が出たところで切れて、住民たちはいつも通りの日常に戻って行ったのだ。
しかし戦場ではこうしてナチュラルに恨みを持つコーディネイターも確かにいることを見せるためにデュランダルは映像を止めなかったのだ。
重突撃機銃を蒼いMSに連射する数機のジン。それを蒼いMSは機体を翻して、速度で振り切り、反転して正面からジンに向かい、すれ違いざまに重突撃機銃を切り裂いたのだった。
重斬刀を抜いても、その腕を撃ち抜かれ、そしてまた近づいては頭部を切り裂き、背中のスラスターを切り裂いて沈黙させる。
たったの1機で5機のジンが解体された。その光景にシーゲルは言葉がなかった。
『もう反対意見はないな? 各機母艦に帰還。損傷した機は所属艦に収容。敵部隊警戒に数隻残れ。志願制で良い。いなければ我がドロワが警戒する!』
『…ディアゴ隊、志願致します!』
『ボルダ隊も志願致します!』
『許可する。軍令部の許可を正式に取りつけてな。責任は私が持とう』
戦場が纏まったところでデュランダルは映像を切った。
「これが彼の戦場です。そして、ナチュラルとコーディネイターの確執です」
「よもやここまで、とはな」
これがプラントの正規軍なのだ。ナチュラルへの止めどない恨みを抱えている軍隊なのだ。
「彼はこの戦争を変える第一歩として、このプラントを変えようとしている。力ずくに見えますが、ああして過激派の恨みを一身に受けて、軍を変えようとしているのです」
それこそ人柱ではないか。何故そうまでして彼はプラントに尽くすのか。
「世界を変えるには、誰かかその世界の業を背負わなければならないと彼は言っていました。軍を変えるために、彼はナチュラルを敵視するその価値観の業を背負う気なのでしょう。他ならぬ自分というナチュラルを生贄にして」
「それではあまりにも」
救いがなさすぎる。なぜ彼の様な子供がそこまでしなければならないのか。そこまでする義務も義理もないというのに。
「我々大人の罪を精算するのは次の世の子とも言います。彼は今、それをしている。そうすることで次の世の子に余計な怨恨を持ち込まない様に」
だがそれで人柱になった彼に何が残るというのだ。プラント中のコーディネイターの恨みを背負って、いったい彼の救いはどこにあるというのだ。
「だから我々にできることをするのですよ、クライン議長。せめて彼の背負う業を減らすのです」
「それが我らの戦いか?」
「それだけではありません。この戦争を終わらせるための術を探さなければなりません。でなければどちらかが滅びるまで際限なく戦いが続く世界が待っています。彼の努力も水の泡でしょう」
「むう……」
そうはさせるつもりもない。しかし議会はその6割強がナチュラル排除論に動いてしまっている。Nジャマー投下の件もかなり強引な押し切りをして投下する地区を限定させたのだ。その代わりにアナハイムからは新型モビルスーツの開発と、次の作戦には口出しをしない様にパトリックから言われてしまったのだ。無論それで引き下がるようなことはしないが、それでもここまで身を粉にしている者がいるというのにそれに応えられない自分が情けなく思う。
「急には無理でしょう。私も手を尽くしていますが、ユニウスセブンの件もあって国民感情はザラ国防委員長寄りです。しかし国民すべてが戦いたいわけでもない。戦って、兵士が死に、その家族が地球を恨む。そう言う図式にどうにかして手を打たねばなりません」
「しかし情報局から教育周りまでもパトリックが押さえておる。……だからか、彼が書籍や論文を書く意味は」
「ええ。一つの価値観に染まらぬようにするための防衛線。そして自警団上がりのザフトを精強な軍隊にする為でもあります」
そういう小さな活動から始めて仲間を作っていくのは政治の世界というより、処世術として良く行われるものだが、成果が出るのが遅い分。身を結んだときは強固なものになる。
今は雌伏の時として耐えなければならないということなのだろう。
「つきましては、クライン議長に何としてでもザラ国防委員長に議長の座を明け渡してもらっては困るのです。ザラ国防委員長に議席が回った時はそれこそこの戦争は取り返しのつかない所まで突き進むでしょう」
「私の任期の内が勝負と言いたいわけだな」
「次に続く者が穏健派か、或いはどちらでもない中立派が望ましく思います。ザラ派の議員では、ザラ国防委員長の影響を無視は出来ません」
「君が出る気はないのかね?」
話していてわかるが、デュランダルは有能な人物だ。そしてその考え方も彼に近く、ナチュラルを弾圧しようなどという舵切もしないだろう確信があり、何より人に魅せるカリスマもある。自分や、反ナチュラル世論を味方にするパトリックより余程良い政治をしてくれるだろう。
「あり難い話なのですが。私は戦後のプラントで立てと言われてしまっていて、立ちたくても立てないのですよ」
「彼の言葉か?」
「平時を維持する政治をやってくれ。彼は私にそう言いました。戦時は任せろ、という言葉と共に」
それはつい先日ユキと話した時にも同じようなことを言っていた。
戦時下であるからこそ自分は政治に口は出せても、平時では自分は役には立たないと。
そうは思わないが、本人の言葉を律儀に守り、今は雌伏の時を選ぶ目の前の男の真意を、シーゲルは伺いきることは出来なかった。
「彼には出来ることで報いる他ないと?」
「それで充分でしょう。彼は必要であれば言う男です。請われた時に必要なものを用意する。それで彼はこちらの思うこと以上のことを成してくれます」
それはデュランダルも実際に経験したことだ。彼が用意したのはサイコフレームだった。サイコシャードの塊になってしまった量産型νガンダムとは別にサイコフレームを欲したのだった。様々な伝手を辿り、1年以内に用意が出来る目途が立ち、その間は世界を回ってくると言って、ユキは世界を巡った。それには世話役のレイも着かせたのだが、最後はオーブから帰って来た彼は今の様にプラントを地球から独立させるという目的を胸に行動を始めた。そこからは速いものだった。アナハイムを立ち上げ、商品を売り、資金を稼ぎながら巡洋艦を独自に建造し、アステロイドベルトに送り、さらにはジンを超えるMSを開発し、今ではザフトのトップエースの一人としてプラントを多角的な方面で支えている。
彼がナチュラルでなければ良かったのか? いや、コーディネイターであってもナチュラルに味方する裏切り者と罵声を浴びせられただろう。
どちらでも変わらずとも、プラントの為に骨を砕く彼のその強さはデュランダルでも話に聞くところでしか感じ取れはしない。それでもプラントに掛ける想いは本物なのだ。
◇◇◇◇◇
「ぅ…、おれは……」
戦いの後に目覚めると知らない天井というのはいつものことだが、今回はケガもしていない。ではなぜ気を失ったのだろうか。
「だめだ。戦いの後の記憶がない」
身体を起こす。誰か人でも呼ぼうかと思ったが、ちょうど見計らったかのように部屋に人が入って来た。
「そろそろ目が覚める頃だと思っていましたよ」
「ルークか」
ルクレイツァが相手だと分かって身体の力を抜いた。
「コックピットで気を失うとは。貴方らしくもないですね」
「そうでもないさ」
大きな戦いの後は大抵コックピットで気を失ってどこぞに回収されているのだ。気を失わなかったのはハマーンとの一騎打ちの時だけだろう。
「素適な彼女をいつの間にかお作りになっていたのですね」
「プルツーはそう言うんじゃない」
じゃあ何なのかと言われたら困るのだが、恥ずかしいことだが、彼女に甘えているだけの男なので何とも言えない立場だった。
「あの後どうなった?」
「連合艦隊は月に引き返しましたよ。ザフト側は依然警戒中ですが」
「そうか」
本国を襲われたのだ。しばらくは本国に艦隊を張り付かせることになるだろうと予測を立てる。
「しかし、貴方はもう少し自分を大切にするべきだ。あのような機動をして気絶だけで済んでいるのが不思議ですよ」
「個人的にはまだ物足りないんだけどね」
まだ先がある。それこそシナンジュには袖付きに奪われる前の試運転はしていたのだ。あれに比べればまだ負担は軽い。
「何故そうまでして貴方は自分を犠牲にするのですか?」
「必要だからやっているだけさ。でなければやりたいこともできない」
「プラント独立ですか?」
「それだけじゃない。プラントが独立してもナチュラル蔑視が蔓延していたら意味がない。既に放たれた矢をどうにかするにはこうするしかないと思っているだけだ」
戦争は避けられない。そしてNジャマーの投下で世界はプラントを恨み始めている。地球連合はその恨みを煽って助長させている。民衆に向けるべき力を向けずに、銃をプラントに向けている。
大国が民衆にその力を向ければエネルギー不足の中でも何とか生きていられるだろう。しかしその力を戦争に向けてしまっているから想像以上に酷い被害が予想されている。
出来ることで立ち回ってみてもままならないのが世の中なのだ。
「なら貴方が犠牲になることで世界が変わると?」
「プラントは変えられるとは思ってる。それこそナチュラルを気に入らない連中は誰なのかがわかる。あとは相手の出方次第さ」
「だから味方を切ることも厭わないと?」
「正当防衛だ」
そういうユキに目は本気だった。それこそザフトが敵に回ろうともやり遂げるという信念がそこにはあった。
「なら少しは無茶を控えてください」
「検討はするよ」
その返事にルクレイツァは仕方がないと思いながら手を差し出してユキをベッドから起こした。
「ありがとう」
「いいえ」
身体を支えてもらいながら着換える程度には身体が疲れているらしいと自分の身体の不甲斐無さに顔を顰めながらユキはルクレイツァに支えられて医務室を後にする。
「部長!」
「ああ、シホ。お疲れ様」
「お、お疲れ様です。それより動いて平気なの?」
「少し疲れているだけだ」
ルクレイツァに肩を貸してもらいながらというか、もう半分介護された状態で歩いていれば普通に心配されて当たり前なのだが、それでも大人しく寝てはいられないユキの気持ちがわかるルクレイツァだから医務室から連れ出したのだが、そんな様子で連れ出したのかとシホはルクレイツァを批難するかのように鋭い視線を向けた。
「でもそんなに辛そうに。まだ横になっていた方が」
「それよりもやらなければならない事が山積みだ。今は横になっているわけには――ぬあっ!?」
「あっ…」
「え?」
「余計なことをほざいているならさっさと寝ろ。あとのことはやっておく」
引き下がるつもりがなさそうなユキの首根っこを引っ張ったのはプルツーだった。
「ま、まて、ぐえっ」
「余計な口答えはするな」
「だから待ってって!」
「聞く耳持たないな」
低重力下でも首根っこを掴まれて動くというのは苦しい上に状況も呑み込めていないユキはプルツーを止めようとするが、プルツーは止まってはくれない。
「ちょ、ちょっと貴女! あまり乱暴には、というか貴女何者!?」
いきなり現れて手荒にユキを扱うプルツーに先に再起動したシホがプルツーに問う。それを聞いたプルツーはシホに振り返って次にはこういうのだった。
「何者か? 強いて言うならコイツの旦那だ」
「…………え?」
「ほう」
「誰が旦那だ」
胸を張って自信たっぷりに言う堂々とした姿に一瞬理解が追いつかなかったシホはいつもの真面目でキリッとした表情を崩すほどの呆けた顔を浮かべ、ルクレイツァは面白いものを見るかのように息を吐いた。そしてユキは少し呆れた。
「オマエが亭主に見えるか? 全方位受け身体質のクセに」
「そんなことあるわけないだろう。ほら、変なこと言うからシホがフリーズしちゃっただろ」
「生娘だからだろ?」
「それは関係ないと思う」
真面目で冗談が通じなさそうな彼女にボケたっぷりの事を言えばそうなるだろうと思いながらも、プルツー相手だと抵抗は出来ない為降参するしかなかった。
「それよりも早く寝ていろ。あとはワタシが処理しておく」
「だからって」
「そこのオンナ! 代わりに出来るんだろ? コイツを寝かしつけるまで任せるよ」
「やれやれ。良いでしょう。そうでもしないと寝ないでしょうからね」
「分かっているじゃないか。さぁ、行くぞ!」
「もう好きにして…」
逮捕された犯罪者が連行されるような気分を味わうような調子で医務室に引き返すことになったユキは、筋力的にも勝てないプルツーの隙にされるがまま来た道を引き返すのだった。
「……旦那って、どういう意味なのかしら…?」
「心の、とういう意味じゃないか?」
「……余計、意味が分からないわ」
シホは理解できない事を放棄して、それでも心配でユキを引っ張っていったプルツーの後を追う様に通路を流れて行き、残されたルクレイツァは貧乏くじだと思いながら各種部署への連絡に動き始めたのだった。
◇◇◇◇◇
ユキを寝かしつけたプルツーは医務室の外に居たシホを呼びつけた。
シホから見るプルツーは、それこそユキとあまり変わらない歳に見えるのだったが、本人から10歳と聞いてさらに驚く。15歳にしては身体はともかく中身が大人びて過ぎているユキにも初めは驚いたが、プルツーは身体も態度も10歳のそれではないからだった。
ユキもそうだが、中と外が合わないような感覚をシホは率直に感じていたのだ。
「貴女は部長とはどういう関係なの?」
「そういう遠まわしはキライだな。要はコイツを盗られるんじゃないかと心配なんだろう?」
「別にそう言うわけじゃないけれど」
「なんだつまらん。こういう話題はしないのか? 枯れてるな」
「するわよ! それにまだ私だって15でそういう話だって友達とはするわよ!」
「なんだ。じゃあコイツには興味がないのに着いてきたのか? 少し無粋じゃないか」
「貴女の方が変よ! まだ10歳なんでしょう!?」
「甘いな生娘。10歳でも恋でもセックスでもするんだぞ?」
「待ちなさい! あ、ああ、貴女何を言って」
「なにって…、ナニだな」
「そうじゃないわよ!!」
すっかりプルツーのペースに呑まれていると分かっていてもどうにも反論できないシホは毛色は違うものの、プルツーをユキと同類と認めた。でないと10歳の年下に弄ばれている自分が情けない。
「で? オマエはどうしてコイツの傍にいるんだ」
「どうしてって。それは、上司と部下だもの。上司の心配をすることはいけない事かしら?」
「そういうならあまり関わるな。コイツの道は茨の道どころの話じゃない。中途半端に関わると――死ぬぞ」
「それは」
そのプルツーの言葉には冗談は一切含まれていない、そもそもいきなり現れて、ユキの全てを知っているような話しぶりからして謎が多すぎてシホは未だに状況が見えていなかった。
「ワタシはコイツとの付き合いは長いんだ。数か月のオマエに比べたら知っていて当たり前だ。それこそ食事の好みだとか、寝る時はパンツ一枚とワイシャツで寝るのが好きだとか、朝は意外と弱くて寝起きはポンコツだとか、16年も初恋を引き摺っている情けない奴だったとか、地球を救った英雄のひとりだとか。色々知っちゃいるさ」
「貴女……」
10歳とは思えない程優しく包容力に溢れた顔を浮かべながら眠っているユキの頬を撫でるプルツーは正しく母親の様な優しさがあった。
「コイツと関わるなら、先ずはその仮面を剥すところから始めるんだね。仮面は距離感だ。あのオンナは上手く内側に入ったらしいけど、それでもそれで満足してるからコイツの本質が見えちゃいないんだよ」
その辛い評価は些か傲慢に見えて、それでも反論できない雰囲気が漂っていた。そうさせるだけの絆の強さが、想いの強さがプルツーにはあった。
「無意識に力を使って。倒れたのもその所為だろう。しばらく寝ていれば元気になる」
「力? 何のこと?」
「言ってもわからないし、言ったからどうか出来るわけでもない。オールドタイプにはね」
「オールドタイプって…」
そのままの意味なら古いという意味だ。古い型。コーディネイターをしてそう言う言葉を言うのなら。
「私はコーディネイターよ。こう見えても」
他のコーディネイターからすれば見た目が特徴的ではない為ナチュラルに間違われることもあるシホだからこそ、目の前の少女が自分をナチュラルと間違えたのではないかと思ったが。
「わかっちゃいないから説明しても意味がないのさ。コーディネイターが人類の進化した種族? ハン! 笑い話過ぎて腹が捩れるよ」
「貴女…」
シホは目の前にコーディネイターの自分が居るのに憚ることもなく言い放つプルツーを怖い子だと思った。
「可哀想だから教えてやるよ。進化した人類っていうのはね。宇宙の環境に適応した人間の事を言うのさ。人工的に遺伝子を弄って自分が新人類? 頭にウジでも沸いてるんじゃないのかい?」
「そんな風に言うのは外ではやめておきなさい。殺されても文句は言えないわ」
コーディネイターという自分の人種をバカにされて思うところがないはずのないシホだが、意外と冷静にプルツーを注意することは出来た。だがそれすらプルツーは気にせずに言葉をつづけた。
「宇宙に出て、人間は今まで使っていなかった分の能力を覚醒させた。それがニュータイプさ。ワタシはそんなニュータイプの遺伝子を培養して作られたクローン・ニュータイプだ。だけどコイツは16年もの歳月でその力を身に着け、磨いてきた生粋のニュータイプだ」
「ニュータイプって、…って、クローン!? 貴女が!?」
「食いつくのはそこか。まぁ、こっちじゃクローンって違法なんだっけか? まぁ、良い。コイツを理解するのは普通のオールドタイプじゃ先ず無理だ」
それこそ数多くのニュータイプと関わってきて、そのニュータイプを見てきたブライト艦長のような人物でもなければ無理だとプルツーは思っている。
「そのニュータイプだからって、なにがどうというの?」
「違うんだよ。ニュータイプは互いが理解できる。言葉を尽くさなくてもな。宇宙っていう広い世界でも互いを感じられる。そして人の心も感じられる。察しが良いのはその力の一端さ。そして、人の敵意も感じられるんだよ」
「そんな、エスパーみたいな力…」
「サイキッカーとも違うさ。まぁ、感覚的なものだから言葉に尽くせるもんじゃないけどね」
プルツーの言葉に信憑性などないのだが、それでも堂々と事実を語るような言葉にシホはプルツーの言葉を信じそうになっている自分が居ることも自覚していた。
「こっちでも空間認識能力って形で芽は出てるみたいだけど、如何せん弱すぎて話にならないね。なのに種族間戦争? ニュータイプの話なんて受け入れられないだろうさ。ナチュラルだ、コーディネイターだってつまらない括りで戦争してるこの世界の人間にはね」
「あなた達はいったい何者なの……?」
得体が知れない。理解しきれない存在を前にシホが口に出来たのはそんな言葉が精いっぱいだった。
「フッ、自分で考えるんだね、お嬢ちゃん」
そう言いきったプルツーは勝ち誇ったような顔でシホに言い放つのだった。
◇◇◇◇◇
数日眠り続けたユキは流石に寝すぎだと自分に飽きれつつも、赤から白に変わった制服に身を包み、プルツーを連れだってアプリリウス10にある家に帰って来た。
玄関を開けた瞬間、感じた殺気に対して身体が勝手に動いていた。
投げられたキッチンナイフを避け、飛び掛かって来る黒い影を掴み、そのまま勢いを利用して組伏せて間接を極めて身動きを封じる。
「クソッ、離せ!」
「殺気が駄々漏れだカナード。それじゃあ取れる物も取れないぞ」
「お帰りなさい、ユキ」
「お帰りなさい、ユキさん」
ユキが組伏せるカナードとは別に出てきたレイとプレアがユキを出迎えた。
「ただいま、レイ、プレア」
柔らかい笑みを浮かべて、ユキもレイとプレアを迎えた。
「オレの上で和むんじゃない! 早くどけ!」
「カリカリし過ぎだカナード。カルシウムが足りてないんじゃないか?」
「うるさい! 余計なお世話だ!!」
いつものように同じようなやり取りが、ユキが家に帰って来た時の歓迎の仕方なのは無言の決まりごとの様なものになっていた。
何時までも尻に敷くのは可哀想なので退いてやることにする。するとまた飛び掛かって来るカナードを組伏せてしまうユキ。
「貴方も懲りませんね、カナード」
「うるさいぞプレア!」
「オマエの家族はどうなってるんだ」
そんな光景に今日は違うものが入っていたので、レイが率先して声を掛けた。自分が長男だと威張るのはカナードだが、家庭内順序ではむしろ最底辺だったりする。
「貴女は?」
「ん? …ほう、なかなかいいじゃないか。そっちのチビも。こっちのイヌはダメだが」
「んだとォ!! 誰がイヌだ!!」
「オマエだよ。自覚があるらしいな、イヌ」
「今日から一緒に暮らすプルツーだ。と言ってもパイロットだからあまり家に居られないけどね。レイとプレア、あとカナード。カナードはこう見えて繊細だからあまりイジメてあげないでくれると助かる」
「誰が繊細だ! オレがそんな弱いわけがないだろう!!」
「弱いイヌ程良く吠えるからな」
「キサマぁ!!」
そういってプルツーに飛び掛かるカナードだったが、プルツーもユキと同じようにカナードを組み伏せてしまった。
「ユキさんと同じだ」
「お見事ですね」
「コイツに手ほどきを受けたのさ。それで? ニュータイプが3人とはまた豪勢だねぇ」
「まあ。目覚めるかどうかはこの子たち次第だけどね」
「もしや貴女もニュータイプなのですか?」
ニュータイプという言葉にカナードもプレアも首を傾げていたが、レイだけはプルツーに訊ねた所を見て、レイはある程度事情を知っているのだと察した。
「クローン・ニュータイプってやつさ。ニュータイプの遺伝子を使って先天的に能力を付加された存在だよ」
そう言った瞬間、3人そろって苦い顔を浮かべたことにプルツーも違和感を感じた。
「おい。ユキ」
「……この子たちも、作られた存在だよ」
「そういう手合いにはホントに事欠かないな、オマエは」
だが、だからこそ作られた命でも同じ命だと扱えるのだろうとプルツーは3人の子供たちを見て思うのだった。これがユキが戦う理由なのだと。
「ユキ。玄関先で立ち話も良くはありません。中に入りましょう」
「荷物、預かりますよ」
「ありがとう、レイ、プレア。カナード、ご飯作って」
「だったらこの女を早く退かせ! おも――」
「ほう。良い根性じゃないか、ボウヤ」
「あぎっ!? か、かんせ、つ、やめっ――」
とりあえず余計なことを言ったカナードは放って、ユキはレイとプレアを連れだって家の中に入ることにした、後ろから何かが折れた音が聞こえた気がするが、聞こえないフリをして無視した。
to be continued…