※この作品はR-18です。

北郷当代記   作:KKS

19 / 95


 冀州への帰路の傍ら。一刀は郭嘉と横並びに馬を走らせている。始めとりとめもない雑談をしていた一刀であったが、少し表情を引き締めると気になっていたことについて切り出した。

 

「なあ、稟」

 

「なんですか? わたしの眼鏡の製造方法なら、先ほど教えられないと答えたばかりですが」

 

 レンズを陽光の反射で光らせながら、郭嘉はびしっとそう言い切る。脱力しそうになりながらも一刀がそうではないことを伝えると、彼女は姿勢を正して話しに耳を傾けるのだった。

 

「――曹孟徳殿のこと、稟はどう思ったのかなって。それがちょっと、気になっちゃってさ」

 

 前進する馬の振動に合わせて、一刀の愛刀が揺れる。郭嘉は宙を眺めて彼の人の印象を思い出し、ゆっくりと口を開いた。

 

「そうですね……。曹孟徳殿の振る舞いはまさに王たるに相応しく、今後一層の躍進を遂げられることでしょう」

 

 郭嘉が曹操についてざっくりと評すると、一刀はそうなるだろうねと頷いた。

 

「あの方の気質だけでなく、夏侯元譲殿を筆頭に家臣団も粒ぞろいのように思えました。確固とした地盤があるというのは、やはり強い」

 

 ぽっと出ともいえないような一刀の出自と比べて、曹操には代々の繋がりによって獲得している物も多くある。譜代の家臣団、ましてや親族間の絆など時代を越えてやって来た一刀には、得ようと思っても得られないものであった。

 

「一刀さまにこうして仕えていなければ、わたしは曹孟徳のもとへいずれ出仕していたのでしょうね。まあ、これは戯言なのですが」

 

「稟……」

 

 主君に申し訳なく思いながらも、郭嘉は曹操の美しく凛々しい姿に見惚れてしまった部分もある。それは彼女が郭奉孝である以上仕方のないことであるともいえるが、稟という少女の持つ性質の一部でもあった。

 一刀を気落ちさせる発言をしてしまったと思う一方で、普段言いにくいことを語るよい機会でもあると郭嘉は瞬時に考える。

 

「そんな顔をするものではありませんよ。そうであるからこそ配下をしかと愛し、その心を繋ぎ止めておくことこそ肝要なのです。それはわたしだけでなく、風も凪も同様に思っていることでしょう」

 

「ごめんね。そうやって進言してくれる稟の存在は、すごくありがたいよ」

 

「納得してもらえたのであればよいのです。もし出過ぎた真似の罰を与えると仰るのなら、帰ってからすぐにでも……」

 

 流れに任せて大胆な発言をした郭嘉は、今にも頭に血が昇ってきそうな思いであった。

 回り始めた妄想の中では、早くも彼女は一刀に愛を囁かれながらきつく抱擁をされている。口ではやめるように言いながらも、その身体は徐々に開かれていく。

 色づいていく女の花弁を妄想の中の一刀に触れられ、郭嘉は馬上ながら器用に腰をくねらせていた。

 

「ちょっとちょっと隊長はん、稟さん大丈夫なんかいな」

 

 自分の世界にトリップしてしまった郭嘉を心配して、後方から李典が声を掛ける。郭嘉の歪んだところを知らない彼女らからしてみれば、顔をヒクつかせながら桃色のオーラを放つその姿は奇妙そのものである。

 

「うーん……。まあ、そのうち慣れると思うよ。鼻血さえ出さなければ、そんな大事にはならないし」

 

「そうなの? 隊長さんがそう言うなら、きっと平気なんだろうけど……」

 

 于禁は心配そうな仕草を取りながらも、一刀の説明を聞いて一応は納得したようであった。

 

「はあ……。どうせまた、隊長がおかしなことでも稟に吹き込んだんでしょう?」

 

 こめかみを押さえながら楽進が呆れたような声を出すと、新参の二人も忌避するような目つきで一刀のことを見る。悪ノリであることは明らかであったが、これで親睦が深まるのであればそれもありかと半ば諦めるように一刀は苦笑した。

 

「頼みの凪にまでそんな風に言われると、逃げる場所がなくなっちゃうから困るよ」

 

 この場に程昱がいれば、さらにややこしい方向にかき回してくれたのだろうなと一刀は思う。数日離れている彼女の掴みどころのない雰囲気を思い出せば、愛しい気持ちから自然と笑みもこぼれる。

 先頭を駆ける関羽がなにかを見つけたような声を上げたのは、丁度そんな時であった。

 

「ご主人様、あちらをご覧ください。人が数人、それになにやら様子がおかしいような……」

 

 彼女が言うように、青龍偃月刀が指し示す先には慌てたように移動する人間の姿がある。それも何人かは後方を気にしているようで、理由があって逃亡しているようにも見えた。

 

「凪、稟のこと妄想から連れ戻しておいてね。……愛紗」

 

「はい。参りましょう」

 

 走り出した赤兎馬の背中を追いかけるように、一刀は乗馬に気合を入れる。嫌な胸騒ぎを覚えながら、その身体は風を切るのであった。

 

 

 

 

 

 

「――女の子を助けてあげてほしい? 落ち着いて、詳しく聞かせてもらえますか」

 

 近づいてくる一刀たちを見るやいなや、彼らの中でも最年長であろう男性がそう訴えてきた。その焦燥ぶりから事が逼迫していることは理解できるが、いきなりのことで関羽も面食らっている。

 

「あ、ああ……これは申し訳ない。……我らの村には時折侠客ヅラをしたごろつき共がやってくるのですが、それが普段守ってやっているからといって強引に物を奪っていくのです」

 

 そういう類の話しだったか、と一刀は臍を噛んだ。それ自体は別段珍しい話しではなく、官の目の届かない場所まで睨みをきかせるという役割がないこともない。独自に活動していた以前の関羽や張飛にも、やはりそういう側面はあったのであろう。

 しかし、そういった連中の内には乱暴狼藉を働く者も存在し、民たちは恐々と生活していることもあった。

 

「それで、今日がその日であったと?」

 

「ええ。奴らが来る日はおおよそ決まっているので、普段は皆で一斉に村を離れているのです。それがたまたま出発に手間取ってしまい……」

 

 その時一刀はふと、男性の後ろで辛そうに目を伏せている少女がいることに気がついた。

 

「出立が遅れたばかりに、奴ら我が娘に目をつけて……。件の女の子が身を盾にわたしたちを逃してくれたのは、その時なのです。あの子はたまたま行商に来ていて出くわしただけだというのに……」

 

「お願いします! どうか、どうかあの方を助けてあげてください!」

 

 顔を上げた娘が、悲痛な叫びを伴いながら一刀に頼み込んだ。無論、天の御遣いを名乗る者として、一刀はこれを捨て置くつもりはない。

 

「なんとか上手くやってみるよ。とにかく、その子のことは任せてください」

 

 一刀の返答に安心したのか、娘は僅かに涙ぐんでいる。男がまだ少し不安げに一刀のことを見つめると、彼は鯉口を鳴らして応えた。

 

「天の御遣いの力、悪党に見せてあげるよ。あんまりもたもたしていたら、本当に手遅れになってしまうからね」

 

 胸を張って言い切った一刀の姿に、男はようやく安堵の表情を見せた。天の御遣いというのがなにかよく知らない人間であっても、ここまで堂々と宣言されては信じようという気持ちにもなる。

 一刀は村への道筋と女性の特徴を確認すると、楽進たちと合流してすぐさま行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

「――さて。ああは言ったものの、実際のところどう出るか。……稟」

 

「はっ。まずはその女性が、まだこの村内にいるかどうかが問題ですね。そうであれば、助け出す算段も立てやすいというもの」

 

 冷静に戻った郭嘉は、状況をそう分析した。捕縛され連れ帰られたりしていたのならば、行方から追う必要が出てくるからである。

 

「それでは、人数を割って捜索に出ますか? 幸い、人手は増えていることですし」

 

 関羽はそう言いながら、李典と于禁のことを見た。一刀は二人からの進言を聞くと、短く思案する。一刻を争う事態だけに、悠長に悩んでいる暇はない。

 

「よし、それじゃあ愛紗と鈴々は外周を見回ってくれるか。危なそうな人たちが村に近づいてきたなら、難癖つけて追い払ってほしい」

 

「応なのだ!」

 

「承知いたしました。しかしそれならば、中の捜索に当たるのは……」

 

 関羽は主張の激しい胸を抱き、心配そうに一刀を見つめる。赤兎馬を駆る彼女の機動力は哨戒に向いているものの、本来であれば別の役目を仰せつかるつもりをしていたのだ。

 

「うん、俺が行くよ。小回りのきく凪にも一緒に来てほしい」

 

「わかりました、隊長」

 

 気合の入った返事をする楽進は、胴や手足を金属製の防具で(よろ)っている。それは帰郷した折に持ち出したもので、李典謹製の装備であった。

 割当を聞いて、やはりそうかといった表情を関羽はする。主君をわざわざ最も危険そうな地に送るのは、臣としてはどうにも気が引けるのだ。

 

「愛紗、そんな顔しないで。俺だって、こんなところでむざむざやられるつもりはないよ」

 

 関羽の腕を握り、一刀は真っ直ぐに視線を合わせる。

 そこに男の覚悟を感じた関羽は、主の考えに従うことを決めるとはっきりと頷いた。

 

「稟、上着を預かっておいてくれるかな。潜入するのに目立ってしまったら、元も子もないからね」

 

「わかりました。どうかお気をつけください、一刀さま」

 

 白く輝く天の御遣いの証を受け取りながら、郭嘉は一刀の身を案じる。臣として、彼を愛するひとりの女として。その想いは、しかと一刀にも伝わっている。

 

「わかってる。……行こうか、凪」

 

 徒歩(かち)姿で走り出す一刀を追従するように、楽進は駆ける。

 静かに村の外れまで近寄った二人は、辺りを警戒しながら中へと足を踏み入れていく。それほど規模の大きい村落ではないため、すぐに見通しはそれなりについた。

 

「あまり人の気配はありませんね。荒らすだけ荒らして、もう撤退してしまったのでしょうか」

 

 楽進の言うように、村には略奪の跡がある。しかし肝心の女性やごろつき共は見当たらず、寂れた雰囲気すら漂っていた。

 

「諦めるにはまだ早いよ。もう少し、よく探してみよう」

 

「はい。ここで見つかればいいのですが……」

 

 そうこうしている間に、二人は広場のような場所に出た。普段であれば子供たちが遊び場にしているであろうそこは、醜悪な笑みを浮かべるごろつき共に支配されている。

 

「ひい、ふう、みい……。全部で、五人ですか。隊長、あの女の人がそうなんですよね?」

 

「ああ、そうだろうね。あんな髪の色の子、なかなか見つからないとは思うけど」

 

 楽進の数えた五人の中でも、特に威張った男がいる。その男はまだ少女といっていい女性の肩を抱き、だらしなく目尻を下げていた。

 その少女は鮮やかな桃色の髪を持ち、豊かな身体つきをしている。一刀がここへ来る前に聞いた女性の特徴に当てはまっており、彼女こそがそうであると確信を持った。

 ごろつき共はいつも通りの略奪をしに来たつもりが、思いもよらぬ戦利品を獲得したのだ。その脳内では、彼女をどういたぶるかといった思考が巡っている。

 

「なあアニキ。親分に献上する前に、俺たちにも遊ばせてくれよな」

 

 アニキと呼ばれた威張った男は、得意げに考え込むような素振りをした。本来は自分より格上の人間に差し出す女であるだけに、あまり傷物にはしたくないという腹案がある。それでも、弟分の願いを無碍にしては人望に差し障りが発生しかねない。

 そして少女の初心そうな面持ちに加虐心を刺激されたこともあり、彼は弟分にも報酬を与えることに決めた。

 

「仕方のねえ奴らだ。上のもんには、絶対黙っておけよ?」

 

 アニキの言葉に、弟分たちは興奮を隠さず沸き立っている。気を良くした男は少女の大きく実った乳房を服の上からまさぐり、その感触に満足したのか首を上下に振った。少女は表情を歪ませて嫌がる仕草をしているが、その身体を自由にすることはできずにいる。

 外道そのものな行いである。一刀は心中が煮えくり返るような思いであったが、深呼吸をしてそれを内へと仕舞った。

 

「やるよ、凪。逃がせば村の厄介になるから、きっちり仕留めるぞ」

 

「はい。いきましょう」

 

 心を冷やし、一刀は戦闘の組み立てをイメージする。

 相手は逆らう者などいるはずもないと安心しきっており、そこにつけ込んでやろうと彼は考えを走らせる。

 

「――あ? なんか音がしなかったか」

 

 家屋を物色していた弟分のひとりが、そう呟く。特に報告するようなことでもないかと思った男は、仲間からは死角となっている民家の隙間に姿を消した。そこからは虫の鳴くようなうめき声が一瞬だけ聞こえ、ほどなくして静寂へと帰る。

 仲間はそれに気づくこともなく、下らない会話をしながら少女を舐めるように視姦していた。

 

(凪は上手くやってくれたみたいだな……。それなら)

 

 裏口のある民家に身体を滑り込ませると、一刀は小窓から外を見やる。側には男がひとり。誘い出すなら今しかないと直感した。

 目標を定めると、音もなく鯉口を切って刀身を露わにする。柄尻の部分で壁をこつこつと叩くと、聞こえる範囲にいた男が反応を見せた。

 

「まさか、まだ誰か残ってやがるのか? それとも、ただの鼠か……」

 

 そう言いつつ、男はじわじわと一刀の隠れる木戸に近づいていく。

 耳に神経を集中させ、柄を両手で絞るように握り込む。勝負は一撃で決める。一刀はその瞬間を、息を潜めて待った。

 

(この感じは、不味いな)

 

 足音が木戸の前で止まると、なにやら金属の擦れるような音がする。そのわずか後、本能でもって身体を捻った一刀の元いた位置を剣が貫いていた。

 

「ちっ、なんにもねえか……」

 

 男は予感が外れたと思い、のんびりと剣を引き抜こうとしている。一刀はというと回避から間髪いれずに、的がいるであろう箇所へ一気に刀身を突き入れてしまう。

 

「あっ」

 

 油断しきった男の目には、木戸を突き破る切っ先が映っている。避ける間もなく身体へ到達したそれは、肉を切り裂き男の心の臓を刺し貫いた。

 男の仲間たちは、ほとんど何が起きたのかすらわからずその光景を見つめている。ほどなくして、刀で磔にされた男ごと木戸を蹴り破り、幽鬼のような人影が現れた。

 

「な、なんだあ、てめえは!」

 

 声を発することなくゆらりと外へ出た一刀は、男を絶命させた得物を両手で引き抜く。ごろつき共の目からは性欲で濁った色は消え去り、正体のわからない人間に対する恐怖で染まりきっている。

 

「おい! てめえら、なんとかしやがれ!」

 

 弟分に発破をかけ、男は唇を舌で湿らした。これ以上の失態など、犯す訳にはいかないといった心境である。

 しかし、下っ端たちが抜剣しようとした時には一刀は既に次の行動を取っていた。動揺している隙を見逃す手はなく、立て続けに攻撃を加えることが優位を保つには必要である。

 一刀は抜き身を下段に構えると、そのまま足を素早く運んで手近な(まと)に接近していく。

 

「うおっ……!」

 

 刃を下にし、沈み込んだ姿勢から一息に斬撃を放つ。逆袈裟の形で斬りつけられた男は胴をばっさりと割られ、地面を血で汚した。

 

(まだまだ、もう一人)

 

 天を向く刀の柄をすぐさま握り直し、一刀は射抜くようにもう片方の男を見る。その男は恐ろしさから歯をがちがちと鳴らし、振り下ろされる刃からなんとか身を守ろうとしていた。

 

「うおおおおおおっ!」

 

 大木すら打ち砕く太刀筋をイメージし、一刀は大上段から一直線に切り下ろす。防御されることなどお構いなしの苛烈さであり、ニノ太刀を振るうことは頭にはない。

 金属同士の激しくぶつかる音が鳴り、攻防の決着がつくにはそう時間はかからなかった。

 

「――ひゃっ」

 

 目の前で起きたいきなりの襲撃に、腕をつかまれたままの少女は小さな悲鳴を上げる。見れば、男が防御のために頭上で構えた剣はざっくりと額に突き刺さっており、赤黒い血がそこから噴き上がっていた。安易な守りなど打ち崩して叩き斬る示現流の一太刀は、幕末においても恐れられたものである。

 自分はこれから一体どうなってしまうのだろう。少女は心の中で、そんな思いを抱いている。誰かを守りたいという思いに突き動かされての今回の行動であったが、あまりの無力さに泣きたくなるような気持ちすら生まれていた。

 

「ちくしょう……。もうやってられるかよ!」

 

 兄貴分の男は、次々と倒されていく部下の姿を見てこの場から逃亡することを選んだ。荷物になる少女のことを突き放し、一目散に馬のもとへ走る。

 殺された部下のことなど、適当にでっち上げて報告してしまえばいい。そんな風に男は考え、いかに自らを保身するかということしか頭にはなかった。

 

「大丈夫かい? 怪我とか、おかしなことをされてないのならいいんだけれど」

 

 斬り伏せた男の服の端で刀身を拭い、一刀は尻もちをついている少女に手を差し伸べる。

 

「ん……。怖がらなくてもいいよ」

 

 伸ばしかけた手を一旦引っ込めた少女に、一刀は穏やかな声を作って諭すように話しかける。少女はそれでもまた少し逡巡するような表情を見せるが、ついに決心して彼の手を取った。

 

「よしよし、もう平気だ」

 

 少女の衣服についた汚れを払ってやりながら、一刀はどことなく漂う桃のような香りを感じている。

 兄貴分が逃げた方向を見ると、その姿はもうどこにもない。

 

「はあっ……、はあっ。くそ、覚えてやがれ……」

 

 息を切らせて走る男は、襲撃者が追ってこないことを確認するとほくそ笑む。根城に帰れば、あとはこっちのものだという思いがある。

 その男に絶望を告げるように、建物の影から楽進はぬらりと拳を出現させるのであった。

 

「……ま、待て、てめえら一体なにが望みだ。金か? それなら持っていけ!?」

 

 楽進は怒りの宿った瞳で男を見据え、ゆっくりと接近していく。先ほどの安心から一転して、男は情けなく手持ちの金をばら撒いた。そのようなことで事が収まるなどと最早思ってもいないが、他に手立てが考えつかずにいる。

 

「くそっ……。死ね、女」

 

 たまらず抜剣し、男は楽進に切りかかった。その程度の反撃は予想するまでもないことであり、彼女は左腕の手甲でそれを受け止める。手甲の上で刃がぎりぎりと鳴り、男は必死の形相で腕を切り落とそうとしていた。

 

「終わりだ」

 

 短く言葉を発すると、楽進は剣を弾き飛ばす。そしてそのまま男の肩を掴んで身動きを取れないようにすると、右手を引きながら氣を込めていく。

 やがて放たれた拳は、空気を切り裂きながら男の腹めがけて打ち込まれていった。

 

「ぐ……、ごほっ……」

 

 潰れたような声をもらす男は、空を向いたまま力なく倒れ込む。楽進の氣を錬成した打撃は骨を砕き、その衝撃は内蔵まで蹂躙している。

 見た目以上の破壊力を味わわされた男は白目を剥き、その意識が戻ってくることはもうない。

 楽進はぐったりとした亡骸を一瞥すると、一刀らのいる広場へと向かうのであった――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。