「――ふんふふーん」
鼻歌と共に少女の明るい色の髪が揺れ、手に持った桶の水がチャポチャポと鳴る。機嫌の良さそうな彼女が目指しているのは、とりあえずの主君となっている北郷一刀の部屋。
特に武に秀でているわけではない劉備では、武官の真似事をしても危ない目に遭うだけである。さもあれ、なにもせずに一日過ごしているのも気分がもやもやとするばかり。
そこで少女が思いついたのが、一刀の身の回りを世話することであった。
「北郷さま、もう起きてるかな? そーっと……」
一応このことに関する了承は取ってあるが、念には念をというやつである。
色事には困らない一刀のことであるから、誰かが寝台にいないとも限らない。その場合は一時的に撤退し、頃合いを見計らって出直す算段だ。
――ともかくこっそりと中を覗いてみよう。
水をこぼしてしまわないように注意しながら、劉備は開けた扉から首から上だけを入室させる。そうして寝台のふくらみを確認すると、どうやら本日は一刀だけのようであった。
「うんうん、これなら大丈夫だね。……失礼しまーす」
一安心といった感じの劉備は、いつものようにニコニコとしながら部屋の中へと入っていく。彼女は洗顔用の水の入った桶を床に置くと、寝台の端に腰掛けて穏やかに眠る一刀の顔を観察し始める。
「こうして見てると、北郷さまってちょっとかわいいかも……」
目鼻立ちはすっきりとしており、好青年という印象を誰もが受けるであろう。劉備の彼との出会いは少々血生臭さかったが、忘れられない思い出となったのは確かである。
――手を伸ばして少し色素の薄い黒髪に触れれば、煩わしそうに眉根が動く。
いつまでも、こうして一刀を眠らせておくことはできないのである。今日という日は烏丸を追い払った公孫賛の帰城予定日でもあり、客分として恥ずかしくない対応を取る必要もあろう。
「ふふっ、そろそろ起きる時間ですよー」
頭上から優しく声をかけながら、劉備は一刀の肩に手をかける。何度か揺すればさすがに彼も起きるだろうと思ってのことであったが、それがまさかの事態を呼んでしまう。
「えっ……!? ちょ……、わわっ……!?」
なにを勘違いしたのか、はたまたそういった夢のなかにいるのか。一刀は無意識に劉備の柔らかな身体を抱き寄せ、急なことに固まる彼女の背をそっと撫でる。
顔を真っ赤にした劉備は抜け出そうとするが、驚きのために全身に上手く力が入らない。そうしている間にも一刀の左手は剥き出しの太腿に到達し、肉付きのよいそこに指を食い込ませていった。
しかも彼女の腹の辺りには朝勃ちによって元気になった逸物が当たっており、否が応でも思考がそういう方向に行ってしまう。
「こんなのって……。ふあぁあ……!?」
太腿で遊んでいた手は少しずつ上へと進んでいき、敏感な付け根あたりを焦らすように触れている。
劉備はそのせいで艶っぽい声をあげてしまい、はっとして両手で口を塞いだのであった。
(こんなことほんとはダメなはずなのに、わたし気持ちよくなっちゃってる……? あっ……、また……ッ!)
下着で隠された土手の横を指が通り、劉備の中にもっとしっかり触れてほしいという欲が生まれつつある。
これが歯牙にもかけない男であれば、すぐに悲鳴をあげて助けを呼んでいるところだろう。だが――。
「んん……、はうぅう……やあぁあ……。北郷さまの指、くにくにってぇ」
卑猥なマッサージを受けながら、少女は自身にとって北郷一刀がどのような存在であるのかを考える。
かの青年は天の御遣いであり、危機から救ってくれた恩人でもあった。劉備とてまだ年若く、衝撃的な出会いをした故に心惹かれるのも無理はない。
だがこうして一時的にとはいえ仕えているのは、それだけが理由ではないのである。
――彼の持つ真っ直ぐさや優しさと、ふとした瞬間に見せる悲しみを湛えたような目。芽生えた感情は日に日に少女の中で成長していっており、一刀の側にいるべきだと囁いてくるようであった。
「うわっ……!? そこはだめ……ッ、ひゃうぅうう!?」
くりっとした目を大きく見開き、劉備は脳内を走る快楽の信号に背を反らす。下着の隙間から侵入した一刀の指は的確に秘所を捉え、膣口をこねるように愛撫していった。
ここまでしておいて本当に眠っているのかと疑いたくもなるが、穏やかな寝顔は当初からなにひとつ変わっていない。
やがてぴたりと閉じた秘裂をくすぐるように割り、一刀の指がにゅるりと第一関節まで門をくぐる。
「北郷さまの指がどんどん入って……。あうっ……いやっ……、くはうぅうう……!」
地を這う蛇のごとく一刀の指はぐりぐりと動き、潤みだした膣内をゆっくりとかき混ぜていく。するとくちゅくちゅとした音が次第に大きくなり、瑞々しい果実を割ったように少女は下着を濡らしていった。
(こんなのダメだよ……。もうなにも考えられなくなっちゃう……!)
思考がぼんやりとしてきた劉備は、一刀の空いた方の手を取ると自らの頬に持っていく。それは無性に彼の熱を感じたかったからであり、そうしていると沸騰しかけた感情は少し落ち着きを取り戻していった。
「ふえっ……? あむ……っ……んぐっ……!?」
目を閉じて手のひらの感触と熱を確かめていた劉備であったが、その唇をやんわりとこじ開けて一刀の人差し指が乱入する。驚いた少女はどうすることもできず、鼻ですーすーと息をしながら口腔で蠢く指を舌で追い出そうとした。
しかしそのことで逆に気をよくしたのか、指は舌を弄ぶようにうねり始める。
「あむっ……ちゅるっ……ふうぅうう……こほっ……!? これぇ、なんなのぉ……、ちゅぱ……」
まるで性器へ奉仕するかのような舌使いを強制され、劉備は咳き込みながらも指を唾液で染め上げていった。
――わたし、いやらしいことを楽しんでしまっている。
少女の自制心は段々と薄らいでいき、眠っている一刀の指でオナニーをするように腰をゆらゆらとさせていった。未貫通な奥はまだぴったりと閉じており異物の侵入を許さないが、入口付近だけでも彼女は充分感じてしまっている。
埋もれた胸の突起はもどかしく疼く。ましてや漏れ出る桃色の吐息は、発情の証拠としてこれ以上ないものであった。
(ドキドキ止まらないよお……。北郷さまのことが好きだから、こんな風になっちゃうのかな……?)
口内で淫らにじゅぽじゅぽと指をしごきながら、自らも快楽を求めて劉備は腰を動かしている。少女の放つ雌の香りは甘く華やかであり、睡眠状態にある一刀の雄の本能を奮わせていった。
膣口をほぐしながら、無垢な割れ目に点在する肉芽を一刀の親指が潰す。どうしようもない快楽の電流が少女を襲い、淫らに覆っていった。
「はあっ、ふわっ……、それらめえぇえええええ……ッ!? んぐうぅううううううううう!?」
指を吸い上げながらびくびくと腰を震わす劉備は、鞠のように大きな胸を一刀に押し付けながら絶頂してしまっている。
肉欲に支配された少女は、虚ろな目をしながらもさらに一刀を求めようとして顔を近づけた。――のだが。
「ふえぇええっ!? あ、あの……これはね!?」
ここに来てさすがに目の覚めた一刀は、驚くべき光景を起きがけの視界に入れることとなる。
至近距離には乱れた息遣いの劉備がおり、なぜか左手からは生温かい感触が伝わってきていた。慌てふためく彼女は尋常な様子ではなく、桃髪が青年の頬をくすぐっている。
「…………………………ぐう」
考えることを止めた一刀はこれは夢だと己に言い聞かせ、程昱も斯くやいう眠りで現実逃避をし始めた。
今頃になって行為の恥ずかしさがこみ上げてきた少女は、雰囲気をごまかすようにつとめて大きな声を上げる。
「寝ないでっ!?」
「………………おおっ!?」
劉備の声にびくりと肩を震わせた一刀は、これまた程昱に倣って目をぱちくりとさせている。その反動で膣内を埋めていた指がつるんと抜け、外気にさらされた入り口は名残惜しそうに粘つく門扉を閉じた。
なにがどうなってこの状況を生み出したのかはわからないが、寝ている間に自分の指が悪さをしていたらしいことは一刀にも察しがつく。
「あのー、桃香さん?」
羞恥から泣き出してしまいそうな劉備を見上げながら、一刀は慎重に声を掛ける。少女に触れている部分全てが気持ちいいのであるが、もはやそれどころではなかった。
――これは事と次第によっては、一発思い切りはたかれても文句は言えないだろう。
一刀はそんな風に覚悟を決めていたのであるが、当の劉備にはそういった様子はなかった。
「――せ……に……って……さい」
「え……?」
そっぽを向いてボソボソと話す少女の言葉は、途切れ途切れにしか一刀には理解できない。
「いいのっ! それより早く起きないといけないんですよ!?」
身体を離した劉備はずれた下着を素早く直すと、相変わらず寝そべったままの一刀を強引に引き上げた。少女の胸の柔らかさが遠のいていき、青年はなんとなく寂しい気分となる。
「どうぞ、北郷さまっ」
気を取り直し、本来の目的を果たそうと劉備は水桶を手に持つ。そこには清潔な布も添えられており、彼女の気遣いを表している。
胸になにかひっかかったようなままの一刀は、訝しげな表情を浮かべながらも愛液らしきものが付着した手から清めていく。
「あのさ…………って」
一刀が話しをするために目を合わそうとすると、劉備は途端にあらぬ方を向いてしまう。なにやら小動物のようでかわいくも思えてくるのだが、これでは取り付く島もない。
(ひとまずそっとしておくしかないか……。詳しいことはわからないけど、とりあえず折を見て謝ろう)
青年はそのように思考を切り替えると、少女の差し出す白い上着を羽織って今日も天の御遣いとなるのであった。
烏丸を退けた公孫賛は、どこか腑に落ちないような面持ちで馬に揺られている。小勢でありながらも粘り強く抵抗を続けた烏丸の軍勢。それはまるで、足止めの意思を持って行動しているようでもあった。
「だめだだめだッ。こんな浮かない顔で帰ったら、みんなが不安になるって」
そうひとりごちながら、彼女は数回頭をぶんぶんと振る。「白馬長史」と渾名されるように、その乗馬は見事な白い体毛を纏っていた。
彼女自身は赤みがかった毛髪を頭の後ろでまとめており、簡素な鎧と相まって小ざっぱりとした印象を受ける。腰に佩いている剣はこれまた良くも悪くも平凡なつくりをしていて、質実剛健ととるか地味にすぎるととるかは見る人次第といえよう。
見慣れた居城の城門が近づくにつれ、今度も無事に帰ってこられたという安心感が広がる。
北平城が急襲を受けたと聞いた際には肝を冷やしたものであるが、趙雲の進言で呼び寄せた天の御遣いがよい働きをしてくれたらしい。
公孫賛自体かの者については半信半疑であったのだが、いまは礼も言いたいしどんな男か早く会ってみたいと思うようになっていた。
「うん……? あれは……」
門の付近でぴょこぴょこと跳ねる桃色の人影。そのシルエットに、公孫賛は見覚えがある。
その人影が、なにやら大声で叫んでいるようだ。
「白蓮ちゃーん! おかえりなさーい!」
「桃香ァ!? なんであいつがこんなところに……」
両手を振って自身の帰城を祝う劉備を視界に捉え、公孫賛は驚きのあまり声を裏返らせた。
あのぽわぽわとした雰囲気と、周囲を和ませる笑顔は忘れもしない。公孫賛と劉備は、かつて同じ人物を師と仰ぎ学んだ仲であった。
「えへへっ、久しぶりだね。元気そうで安心したよ」
駆け寄ってくる劉備はどこか危なっかしく、それでいて疎遠となっていた時間の壁を感じさせない真っ直ぐさがあった。
それでも走る度にぷるぷると揺れる双球は成長の証を明確に刻んでおり、あれには到底かなわないなと公孫賛は内心ため息をつくのである。
「まあ、こっちはわたしなりになんとかやってるさ。ところで……」
家臣には先に兵らと共に入城しておくように命じ、公孫賛はひとり旧友の傍へ白馬を走らせた。その瞳には、少女の後方で静かに佇む男の姿が映っている。
「紹介するね、この方は北郷一刀さま。わたしがいまお仕えしている、天の御遣いさまだよ」
優しげな風貌をしているが、がっしりとした身体つきから軟な男ではないなと公孫賛は思う。
北郷という名と「天の御遣い」の二つ名は、趙雲から聞いて彼女もしっかりと記憶している。
「天の御遣い」というからにはどんな人間が出てくるのだろうと心配もしていたのだが、一刀が自分たちとなんら変わらない姿であることに公孫賛は安堵した。
一応目にしたことのない素材の衣を纏ってはいるが、それくらいは些細な問題だろうと彼女は気に留めない。色々と尋ねてみたいこともあるのだが、まずは援軍を感謝しなければならないと彼女は思っていた。
「お前が子龍の呼び寄せた天の御遣いか。今回の戦では助けられたな、礼を言わせてくれ」
下馬して歩み寄った公孫賛は、一刀に対して軽く頭を下げる。そこには漢から地方を預かる人間だという下らないプライドは存在せず、彼女の人当たりのよさに一刀は内心さすがに桃香の友人なことだけはあると感心していた。
「困った時はお互いさまってね。それでえーっと、なんて呼べばいいかな?」
「感謝と親睦の意味も込めて、白蓮って呼んでくれ。しばらく当てにさせてもらうぞ、北郷?」
真名をあっさりと許した公孫賛は、溜めるようにニッと笑う。
使えるとわかったからには、放って置くつもりはない。なによりこれから世情は忙しなくなりそうであり、動かせる手勢が多いに越したことはなかった。
「それじゃ白蓮、これからよろしく頼む。……俺は先に戻ってるから、桃香はゆっくりしてくるといいよ」
一刀はまたひとつ預かることとなった真名を記憶するように呼ぶと、さっと城門の方へ踵を返す。
旧交を温めるのに自分は不要であろうという心遣いがそこにはあった。
「あっ……北郷さまっ、ってもう行っちゃった」
「北郷も案外お人好しなのか? まあそんな奴じゃなければ、桃香が一緒にいようなんて思わないか」
去りゆく一刀の背を見ながら、公孫賛は笑顔で旧友をからかっている。こうして劉備と言葉を交わすのはなんだか懐かしく、自然と表情もほころんでしまう。
「もー、それってなんだかひどいよう。でも、白蓮ちゃんが言うならそうなのかもしれないね」
今朝の出来事から続くもやもやは、劉備の胸中でいまも燻っている。
せっかくの再会でもあるし、思い切って公孫賛に相談してしまおうか。少女はそう考えて、手を身体の前で組むとぽつりともらした。
「――ほんとのこというとね、わたし少し迷ってるの」
このまま一刀と一緒に戦うことを選ぶか、それとも村へ帰って別の道を初めから模索するのか。そのことは劉備にとって近頃悩みのタネであり、なかなか周りに打ち明けにくかったことでもある。
こういう劉備の姿はいままで余り見なかったこともあり、公孫賛は意外だなと思った。
一度これだと決めたらそこへ向かって邁進できるのが劉備という少女で、自分にはなかなか真似できないところであると彼女は分析している。
「――おかしなこと聞くけど、桃香は北郷のことが好きだったりして?」
「ふえっ……!? い、いきなりでびっくりしちゃった……」
「その反応は怪しいなあ。だってさ、ここまであいつについて来たってことは、桃香なりにそうすることが間違ってないって思ったからだろう?」
私塾時代はその性格から振り回されることが多かったため、劉備に一泡吹かせられたことは公孫賛にとって密かに痛快事であった。
だが突拍子もない発言をしたのには、なにも理由がないわけではない。
爛漫であり真面目である友人なだけに、志に私情を挟んでしまうのが気になったのではないか。そう公孫賛は考えたのである。
「うん……。北郷さまはたまに怖いけど、それって色んなことを覚悟しているからだと思う。だからあの人を側で支えてあげたい。そう思った気持ちは、きっと嘘じゃない」
劉備の心情を聞いた公孫賛は、うんうんと頷く。
そこまで考えられているのなら、彼女から助言できることはひとつしかなかった。
「迷うなよ、桃香。お前らしくもないぞ」
こういう場合ははっきりと背中を押してやったほうがいい。そのように感じた公孫賛は、迷いの渦の中にある友人に対してぐっと手を差し伸べた。
「白蓮ちゃん……、うん……! やっぱり持つべきものは友達だね!」
それまで元気のなかった劉備の表情が、ぱっと花の咲いたように明るくなる。そこには新たに生まれてきた決意や意気込みが表れており、公孫賛には眩しいくらいであった。
喜びのあまり劉備は公孫賛の諸手をつかみ、ニコニコとしたまま上下に振る。
「吹っ切れたみたいだな。それなら今度はわたしの話しを聞いてもらうぞ!」
北平周辺を預かる領主として、公孫賛にもストレスのたまることはいくらでもあった。それを気兼ねなく吐き出せるのは、やはり彼女にとって劉備が良き友人だからといえよう。
「うん、白蓮ちゃんのお話もたくさん聞きたいな!」
公孫賛の口からは、政治を行う上での小さな諍いのことや、中央の人間に対する不満が次々に飛び出していった。漢朝中央の腐敗は地方の政治にも影響し、統治に不安定さを与えているのである。
それは戦場に出て剣を振るう機会が増えていることからも明らかであり、先行きの不透明さはまるで暗闇を灯りなしで歩くが如しなのだ。
「子龍の奴も能力があるんだから、もうちょっと積極的に手伝えって話しなんだよ。それでさー」
馬を引きながら、公孫賛は至極ゆっくりと歩いている。ぷらぷらと揺れるポニーテールは、出てくる言葉とは裏腹にどこか機嫌が良さそうに見えなくもない。
「あはは……。わたしの知らない間に、白蓮ちゃんもたくさん苦労してたんだねえ」
友誼の空白を埋めるように、城内に戻る道中劉備は愚痴を聞かされ続けたのであった。