「かかれ、かかれい! 天の遣いなどと自称する、不遜な輩を討ち取ってしまえ!」
雑木林を抜けた張純の軍は、大将とおぼしき軍旗を掲げた集団目掛けてひた走る。
標的からはまだ気づかれている様子はなく、不意をつけたことを確信して張純はにやりと口角を上げた。
敵の接近に兵のひとりが気づくと、奇襲部隊の登場に一刀配下の手勢は騒然となってしまう。だがその混乱を、郭嘉の怒声が一喝するのであった。
「落ち着きなさい! 見える限り敵は大軍ではありません、こちらは円陣を組んで攻撃を防ぐのです!」
ざわざわと騒いでいた兵たちは少し落ち着きを取り戻し、一刀たちを中心として円形に迎撃態勢をとる。その間にも張純の部隊は迫っており、やがてこちらでも戦闘が始まった。
「へへっ。北郷さん、あんたのことは俺たちが盾になって守ってやる。ちっとは安心してくれていいぜ」
「ああ、頼りにしている。でもみんなだって、簡単に死んでくれるなよ」
そう言ってのけたのは、一刀が冀州の村で生活していた頃からの知り合いの男である。何をおいても天の御遣いを守るというのは彼らなりのケジメであり、信念であった。
頼もしい存在でもあるが、できればこれ以上知人の死を見たくないというのが一刀の本音でもある。しかし一軍を率いる身とあって、そのような甘えた考えが許されるものではなかった。
「申し訳ありません、一刀さま。こうなる前に、もう少し警戒を密にしておくべきでした」
「使える人員も限られているし、稟が気に病むことはないよ。そうだよね、風」
奇襲を事前に察知できなかったことを郭嘉は詫びたが、一刀は冷静に首を横に振る。
「そうですねー。結局のところ、負けなければなんの問題もないわけですから。この状況、逆手に取って勢いとしてしまいましょう。ということでご主君さま、まずは守りのための号令を、かっこよくびしっと決めちゃってください」
普段と同じ落ち着いた口調でいる程昱は、場に安心感すらもたらす存在であった。一刀はコクリと頷くと、肺いっぱいに空気を吸い込んで背筋を伸ばす。
「最初の攻勢を耐えてしまえば、敵の勢いだってそういつまでも続かないはずだ! だから、なんとか踏ん張ってくれ!」
郭嘉と程昱を背にして敵軍を睨み、一刀は周囲を激励する。
やがて楽進の隊も戦闘に参加してきたために、兵力においてはほぼ拮抗することとなった。
北郷と黄巾のどちらの軍も、それを崩すための決め手を探しているところである。
「おっっっっっにいちゃあああぁあああああああん!!!!!」
そんな時、一刀の後方、前衛部隊が戦っている方向から大声がこだまする。
その声の主は一刀の横まで来ると勢いを殺してピタッと止まり、額に浮かんだ汗を二の腕でぐっと拭った。
「鈴々!?」
現れた自身の姿に一刀が驚いたような表情で迎えると、張飛はいたずらが成功した子供のように満面の笑みを浮かべる。
「お兄ちゃんが困ってそうだから、援軍に来てあげたのだ。鈴々、えらいでしょ!」
「確かに来ていただいたことはありがたいのですが、隊はどうしたのです?」
張飛の部隊が見えないことを不思議に思った郭嘉がそう質問をした。
「うーんとね。みんなを連れてくると時間がかかっちゃうから、鈴々だけでここまで来たのだ。でも、星に預けてきたから大丈夫だよ!」
簡単に他人へ指揮権を預けることなど通常ではありえないことではあるが、このあたりの奔放さはさすがとしかいいようがない。
だがそんな少女の果断さは愛するべきところでもあるし、なによりいまは均衡を破壊してしまえるような武勇を欲していたところである。一刀はよくやったというように張飛の頭をぽんぽんと撫でると、改めて戦場を見据えた。
「俺たちを襲ってきたあの部隊、他とは違って張の旗を使っている。もし、あの中に張純がいるとすれば……」
「大将を斬ってしまえば、敵軍は浮き足立つことでしょう。その役目を、鈴々にお任せになると?」
郭嘉は当然そういうことだろうと一刀の話を引き継いだが、彼の意思はそうではなかった。
青年はキンッ、と鯉口を鳴らすと、目を細めながら語気を強めていく。
――張純は俺が斬ろう。
そういった発言が飛び出るとは想定していなかったのか、郭嘉は一瞬だけポカンと口を開けた。
「天の御遣いが一騎討ちで黄巾の大将を討ったとなれば、その効果は大きい。そうだろう?」
「ですが、それではあまりにも……」
その提案は危険すぎると止めようとする郭嘉であったが、一刀の決心は固まっている。程昱は仕方ないといった仕草をしており、どうやら大手を振って反対をするつもりはないらしい。
「稟ちゃん、行かせてあげよう? ご主人様がそれが正しいって思うのなら、わたしたちにできることは、帰ってくる場所を守ってあげること。わたしはそう思うな」
劉備からの意外な後押しを受け、一刀はさらに言葉を続けた。
「鈴々なら、必ず俺を守ってくれると信じている。だから、行かせてほしい」
「うん! そういうことなら鈴々にお任せなのだ!」
闘志を燃やす二人に嘆息したものの、郭嘉は最終的にその考えを了承した。
大きな危険と引き換えに、作戦が成功した時の見返りは絶大なものとなろう。そんな参軍としての観点から、少女は無理やり自分を納得させたかたちである。
「――それではご主君さま、充分お気をつけください。風たちはまだ、未亡人などになりたいとは思っていませんから」
「ああ、わかってるって。風と稟も抜かりなく指揮を頼む」
正確にいえば婚姻をあげていない間柄であるため、仮に一刀に死なれたとしても少女らが未亡人となることはない。とはいえその契は深く根ざしてもいるし、一刀のほうもそういうつもりではあった。
防戦する陣からいきなり突貫してきた二つの騎影に、張純の手勢はあっけにとられて侵入を許してしまう。
敵兵を薙ぎ倒しながらぐいぐい進んでいく張飛になんとか離れないよう追従しながら、一刀は敵将の姿を探していた。
「鈴々、あの旗の固まっているところを目指そう」
「わかったのだ! 遅れないでね、お兄ちゃん!」
馬首を一刀の言った方向に傾けながら、張飛はさらに乗馬を疾駆させていく。
そうして敵兵の間を突き抜け続けていると、周囲を護衛の兵で固めている将らしき男の姿を発見したのであった。
「そこにいる方は張純殿か。俺は北郷一刀、天の御遣いだ」
「なに、天の御遣いだと!? なんだ、わざわざ首を差し出しに来たとでもいうのか」
天の御遣いの名を聞いて張純はさすがに耳を疑ったが、獲物が自ら仕留められに来てくれたこともあり上機嫌に笑う。
「どうだろう、これ以上死人を増やすというのも心が痛む。だから大将同士戦って、決着をつけることにしてみないか」
「一騎討ちをしたいと申すか。はっ、面白い」
一刀がこの場所に来た目的を語ると、張純は存外あっさりとそれに応じた。
こうまでされて決闘を受けないというのも上に立つ者として風聞や士気に傷がつくし、なによりなにかあっても周りが味方ばかりという安心感がある。
張純は肩を怒らせて一刀の前まで出てくると、腰の剣をゆっくりとした動作で抜き放った。
「いいだろう、相手になってやる。天の遣いの自称が本当かどうか、俺が直々に確かめてやろう」
二人の男の対峙が始まると、周囲の兵たちの視線がおのずと集まっていく。もしものことがあれば救出に入らなければならないとも考えるが、張飛のあまりに恐ろしい闘気に必要以上に近づくことはできなかった。
「ふんっ! はあっ!」
張純の繰り出す大振りな斬撃を、一刀はしっかりと視線で追いながら回避していく。敵の力量がはっきりしていないものの、手数をかけずに勝つことが肝要だと心得ていた。
抜いたときには、必ず相手を殺す。いまは張飛が敵兵を抑えてくれているが、自分の戦況によってはそれが崩壊しかねないのである。張純とは対照的に、一刀は静かに殺気を練り上げている。
鞘を握る左手の指を、刀の鍔にかける。一刀は、一撃を入れる瞬間をうかがっていた。
その様子を怖気づいたと判断した張純は、これみよがしに攻勢を仕掛けるのであった。
「どうした、天の遣い! 剣を抜かずして、どうして俺を殺せると思うっ!」
壮年期を越えている張純は、ぶんぶんと剣を振り回しているうちに息が上がってきてしまっている。
それを感じた一刀はもう数回も受け流せば攻撃に移る時が来ると思い、さらに集中を高めていった。
「ははっ、どうかな。お前こそ、俺のようなガキの挑発に、簡単に乗ってしまっているとは思わないのか。見てみろ、兵たちの不安そうな表情を。自分たちの大将が、武器を抜いてすらいない相手に苦戦してしまっているんだ、そう思うのも当然だろうな」
「なんだと!? 貴様……っ」
一刀の言葉によって頭に血が上り、張純は余計に冷静さを欠いた攻撃を続行していく。
それにより身体に取り込んだ酸素を急激に消耗してしまい、ついに攻撃が止む時がきた。
「ちぃえああああぁあああああっ」
ジャリッと小石の散らばった足元を蹴り、一刀は猿叫を上げながら距離を詰める。そして抜き放った刀を、張純の左肩から首筋にかけて振り下ろしていった。
狙いをつけた箇所は、鎧に覆われていない首の側面。吸い込まれていくようにして首筋にピタリと当たった刃の冷たさに、張純はあっと声をもらす。
「あ、ああっ……」
それは本当に一瞬のことであり、すぐさま手前に引かれた刃は首の肉をばっさりと斬り裂いたのであった。
ぞくりとするような感覚。それは人を斬ったことによる嫌悪感からか、それとも高揚によるものなのか。ともかく、天の御遣いが一撃のもとに張純を斬ったことにより、黄巾軍に動揺が波及していったのであった。
「た、大将が切られちまった」
「そんなことより、俺たちはどうすればいいんだよ!?」
血飛沫を上げながら空を向いて斃れた張純を見て、辺りの兵たちは恐慌状態に陥っている。
これが深く忠義で結ばれている主君の死であれば、なんとか仇を取ろうと思う者が出てきたはずである。しかし張純主従にそこまでの信頼関係はなく、ほとんどが右往左往するばかりであった。
「お前たち、いますぐに武器を捨てろ。このままここで抗ったところで、賊軍の死体が増えるだけにすぎないぞ。投降すれば、命を助ける。志ある者がいれば、俺たちの軍に加わることも許そう」
「そうなのだー! それでも戦いたいっていうのなら、鈴々がいくらでも相手になってやるのだ!」
一刀と張飛の呼びかけに、どうするか迷っていた兵たちが武器を置いていく。
この情勢の変化を、本隊の指揮をしている郭嘉と程昱も感じ取っていた。
「風。あの様子では、どうやら……」
「はい。ご主君さまが勝負に勝たれた、そういうことですねー。この情報を、前線にも派手に喧伝しちゃいましょう」
張純が天の御遣いとの一騎討ちの末に討ち取られたという報は、すぐさま戦場に広まっていった。
仕方なしにとはいえ、張純のもとで幽州の黄巾軍はまとまっていたのである。それがいきなり死んでしまったとあれば、その衝撃は大きかった。
「貴様たちの総大将は、我らが天の御遣いによって成敗されたぞ! 死にたくない者は大人しく軍門に下れ!」
関羽や趙雲の降伏を呼びかける声が前線ではこだましており、隊列もなにもなくなった黄巾軍は烏丸の陣へと雪崩を打って敗走していく。
その悪循環は止まらず、烏丸兵に大きな混乱をもたらす結果となった。
それから一時間ほどが経った頃には、両軍の戦闘はほぼ終結に向かっていた。
統率の崩れた烏丸の陣を公孫賛は一気に突き破り、その多くを降伏させている。黄巾軍は逃げた人数もそれなりであったが、勇名を上げた天の御遣いに従いたいとする者もなかには存在していた。
「まったく、無茶をされるものだ……。ご主人様が一騎討ちをされたという報告を聞いた際には、さすがに肝を冷やしたのですよ?」
本隊に顔を出してすぐ、関羽は少し怒ったようにして一刀に詰め寄った。
「でも、そのことで広く敵を崩せたことも事実です。ですから……」
一刀の身体が無事であることを確かめるように、関羽はそっと全身に触れるようにして抱きついたのである。
「ごめん、心配かけたね」
あやすように一刀は少女の頭をゆっくりと撫でたが、すぐに自身へ刺すような視線が集まっていることに気がついた。
「あかんあかん! 愛紗はんがご主人様命ってお人なんはここにいるみんなよう知ってるけど、それは抜け駆けってもんでっせ」
「ま、真桜!? た、確かにご主人様をお慕いしているのは事実だが、その……、えっと……」
いい雰囲気になっていたところに突然割り込んできた李典に、関羽はしどろもどろになりながら対応をする。その仕草は一刀の保護欲を刺激し、もっと強く抱きしめてやりたいという気持にさせるのだ。しかし――。
「お兄ちゃん、鈴々も! 鈴々もぎゅーってしてほしい!」
今回の戦で多大なる武功を上げた張飛は頑張った褒美が欲しいようで、両の手を精一杯広げて存在を誇示している。
確かに、この場で関羽だけを気遣ったのでは後腐れにもなりかねない。一刀はそう考えるとまだ離れたくなさそうな関羽にフォローを入れ、まず第一声をあげた李典の名を呼ぶのであった。
「えへへー。ちょっとホコリっぽくても、隊長はんの匂い嗅いでると安心できるわあ。それで、ウチの研いだ武器はどないやった?」
「ああ、さすがの斬れ味だったよ。今日勝てたのは、真桜のおかげでもあるんだな」
張純をあのように一太刀で討ち取ることができたのは、刀の手入れをしっかりと行っていたからともいえる。
一刀に褒められた李典は嬉しそうに白い歯を見せているが、いつまでもそうしていることを黙っている周囲ではない。
「ほらほら真桜ちゃん、こんなに後ろがつっかえてるの! 交代交代! 行こっ、香風ちゃん?」
この友人を調子づかせるといつまでも一刀を占拠されてしまうと予感し、于禁は徐晃の手を引きながら交代を迫る。
徐晃の小動物のような視線に折れたのか、「しゃーないなあ」と捨て台詞を残して李典はさっと身を引いた。
「香風も沙和もお疲れさま。こうして無事に戻ってくれてなによりだ」
「……お兄ちゃんにぎゅーってされるの、シャンも好き。沙和も、気持ちいい?」
「うん! 隊長さんに撫でてもらってると、さっきまでの緊張が解けていくみたいなの」
徐晃の副官を務めていたことで、于禁は相当気を張っていたのであろう。少女はしばしの間一刀に体重を預けると、目を閉じて勝利の余韻を味わっていた。
対して徐晃は手綱の跡が残った一刀の手のひらを舌を使って慰めており、親愛の情を表しているようでもある。
「次はわたしたちだよ、ご主人様」
まだ元気の見える劉備が率先して抱きつくと、弾力のある胸の感触により一刀は反対に癒やしをもらっているような気分になった。
また、腰にしがみついている張飛の様子は戦場の勇姿とは別物で、思わず頭を撫でてしまうのは当然の反応といえるであろう。
「わたしがもっと強かったら、ご主人様を守ってあげられるのになあ。鈴々ちゃんや愛紗ちゃんに、少し教えてもらったほうがいいのかも?」
「お姉ちゃんに戦い方の先生をしてあげるから、どうしたらそんなにばいんばいんになれるのか教えてほしいのだ。お兄ちゃんも、おっきいおっぱい大好きでしょ?」
いきなりそんなことを言い出す張飛に一刀は噴き出しそうになったのだが、彼は大小それぞれのよさがあることは重々承知している。
巨乳の秘訣をせがまれた劉備は困り顔になっていたが、やがてなにやら名案が思い浮かんだという表情に変わった。
「お母さんになったら、赤ちゃんにお乳をあげるために胸も大きくなるんじゃないのかな? ねっ、ご主人様……?」
「それ、とっても楽しそうなのだ! お兄ちゃん、鈴々お母さんになりたいの!」
「お母さんか……。うん、いつかきっと、そういう日が来ればいいな」
三者三様、それぞれにそう遠くないかもしれない未来を思い描く。
父親になるということについてまだ少しピンとこないが、きっとそれはなってみないとわからないことなんだろうなと一刀は思う。
ただひとつ確信できることといえば、間違いなくかわいい子が生まれてくるのだろうなという想像であった。
「赤ちゃんですかー、それは風たちも聞き逃がせませんねー。稟ちゃんなんて、早く子種を仕込んでほしいってお顔をしていますし」
「していません! それはともかく一刀さま、今度からは敵陣に単身乗り込むなどという策、絶対にさせませんからね」
代わってやって来た程昱と郭嘉を懐に招き入れ、一刀はわかっているよと頷く。
「そのためにも、もっとみんなで訓練していかないとな。統率された軍勢になれば、稟の力もより発揮できるだろうし」
「さまざまな部分で未だ道半ばも来ていない、といったところでしょうか。ところで凪ちゃん、そんなに遠くにいてはご主君さまに構っていただけなくなるのですよ」
程昱の視線の先には、一刀が少女らを抱擁していく様子を離れてちらちらと見ている楽進の姿があった。
どうやら彼女は大勢の前でそういったことをしてもらうのが恥ずかしいらしく、どうすればいいのか迷っているようである。
「凪、こんなとこで萎縮してどないすんねん。あんたが大トリになるんやから、隊長、抱いてください! くらい言ってみたらええんや!」
ここぞとばかりにはしゃいでいる李典に背中を押され、参軍二人が空けた懐中に楽進がぽすりと収まった。
少女の戦いで乱れた銀髪を整えるように一刀は優しく触れている。
「あっ……、ふふっ……」
顔を赤く染めた楽進は黙ったままただ愛しき人の背中をかき抱いて、その心音に耳を澄ませるのであった。
「あ、あの……隊長、ありがとうございました」
そうして楽進との穏やかな抱擁を終えると、一刀はふと流れのままに合流していた趙雲と目が合った。
趙雲も公孫賛への報告のためあまりのんびりもしていられないはずなのだが、口に指を当ててなにか考え込むような素振りをしている。
「えーっと、星もよければどうぞ?」
「これはこれは、北郷殿は己が囲っておられる
声をかけられることを待っていたのか、趙雲は流し目に一刀のことを見るとそばに寄って背中に手を回した。
やはりこの少女も他の将と同じく、どこもかしこも柔らかくて男として滾ってしまう部分がある。このような場所でそうなってしまわぬように一刀は理性でなんとかこらえると、少女の青い髪を撫でて働きをねぎらった。
「ふふっ、これは案外気持ちの良いものですな。稟や風たちが、してもらって喜んでいるのもよくわかります」
「星には今回よく助けてもらったから、喜んでもらえると嬉しいよ」
しばらく一刀に抱かれていた趙雲だったが、ずっとそうしているわけにもいかず、最後は名残惜しそうに抱擁する力を強めてからゆっくりと離れたのである。
「それでは北郷殿、わたしはこれにて」
「ああ、俺も後で行くって白蓮に伝えておいてほしい」
趙雲が白い着物を翻して陣を去っていくと、一刀は戦の後処理をするための指揮に追われた。
いくつかの危機はあったものの、こうして幽州に蔓延っていた戦乱の徒は打倒されたのである。
そしてそれは、天の御遣いが次なる一歩を踏み出す切欠ともなっていくのであった。