凪との約束の日。空はすっきりと晴れ、いかにも遠出日よりである。二人は、村より北部にある街に向かう予定であった。朝の内には凪が村に到着するはずであるから、それに合わせて一刀も出発の準備を整えていた。
愛用している鳶色の平服を纏い、帯に刀をしっかりと差す。街に着くまでなにが起こるかわからないので、武器はあるに越したことはない。道中の飲水や軽食を用意しようかと一刀がごそごそしていると、農夫が服を整理してある棚からなにか取り出していた。
「おやっさん、それって」
見忘れようはずもない。その腕の中には、化学繊維特有の光沢を持った白の学生服があった。長期間しまいっぱなしであったために、少し埃っぽくなっている。畑仕事には向かないこともあって、居候をしてからというものの着てやる機会もなくなっていた。
「たまにはお日さんに当ててやらんと、虫に喰われちまうぞ。それに、前から嬢ちゃんも着てるとこを見てみたいって言ってたしな」
でも、と一刀が反論しようとするのを手で制す。彼がなにを言わんとしているのかは、これまでのやり取りで農夫には口にしなくとも把握できる。
「心配すんなって。街のほうだと結構派手な着物を売ってるって話しも耳にするし、案外馴染むかもしれねえよ?」
一刀はまだ不満そうであったが、――そこまで言うなら、着ていくよ、と根負けしたように帯を解いていった。久しぶりに着用してみると、やはり学生にとっての正装ということもあり気が引き締まるような感じがしてくる。
以前より生活を通して身体が鍛えられたためか、肩まわりが少し窮屈に思えた。一刀が腕を前後に回して着心地を確かめていると、農夫は納得したように髭を撫でながらうんうんと唸っている。
「なんとかにも衣装っていうが、やっぱり見違えるねえ。それと、こいつも忘れちゃいけねえよ」
農夫が一刀に手渡したのは、革製のベルトのようなものであった。形状からわかるように腰に巻きつけて使うもので、刀を装着するための固定具が左手に来るようになっている。
帯に差す場合と違い鞘が宙をふらふらと動くので一刀はあまり好きではないが、何分贅沢は言っていられない。がっちりと結んで縛り、抜けることがないか確認する。そうこうしている間に、村に凪が到着していた。
「おはよう、凪。こっちは支度できているよ」
「おはようございます。あっ、その服って……」
凪の目線がわかりやすいくらいに、一刀の頭の先から爪先まで動く。実物を見たことはあるものの、やはり人が身につけているのとでは印象が変わってくる。
感嘆の声を上げる凪に、一刀はむず痒くなって手をぽんと打った。
「さあ、早く出発しないと日が暮れちゃうよ。おやっさん、行ってきます!」
そう捲し立てると、一刀は駆け足でつないである馬のもとへ向かう。凪は農夫に一礼すると、慌ててその後を追っていった――。
荷を背負った二人の尻が、馬が早足で進むたびに跳ねる。街道は整備されているので走らせやすくはあるのだが、じんわりと疲労が溜まってくる。
途中に設営されている駅で小休止を挟みつつ、日の高い内の到着を目指す。荷物が多いのであまり速度を出すことができないが、それでも初夏の風を一刀たちは爽快に受けていた。
「一刀さん、見えてきましたよ」
彼らの行く先に現れたのは、高く築かれた石の城壁。日本の城とは趣向の別れた威容に、一刀は思わず言葉を失った。
鐙に踏ん張って視線を上げると二、三階建てのビルほどはあろうかという城壁の南側に、堅牢そうな門が見えている。非常時ではないので開け放たれてはいるが、そこには警固の兵の姿もあった。
城壁をくぐると、見えてくるのは村では到底考えられないような人だかり。あちこちで喧騒が飛び交い、商売も活発なようであった。
「この盛況っぷりはすごいな。なんでも揃いそうだ」
きょろきょろと辺りを見回す一刀。その様子を、凪はおかしそうに見つめていた。
遥か天から来たというのに、北郷一刀という人はこの世界の様々なものに気を引かれたり、驚いたりしている。凪からすればその感覚は理解できないものであるが、そういうところが好ましくもあった。
「さあ、まずは日が落ちるまで商売ですよ。晩御飯はご馳走しますので」
「ここまで来たら乗りかかった船ってやつだ。なんでも手伝うさ」
通りの空いている場所に、運んできた売り物を設置していく。凪の持ってくる竹製の籠は丈夫で長持ちし、村でも評判であった。
飛ぶようにとは言わないが、客がちらほらやって来ては商品を買っていく。威勢のいい凪の掛け声と、一刀の変わった形もあってか上々の集客具合になっていた。
夕暮れ時には半数ほど売れ、二人は撤収の作業に追われている。今夜はここで一泊し、早朝帰る段取りとなっていた。
道行く人を呼び止め、安く泊まれる所はないかと凪が尋ねる。すると、通りを外れた路地に手頃な価格で提供してくれている宿があるという情報を得た。
「それでは荷物だけ預かってもらって、なにか食べに行きましょうか」
凪がてきぱきと宿泊の手続きを進めるので口を挟む隙きがなかったが、押さえた部屋はひとつだけである。一刀が理由を聞いても、はぐらかすようで掴みどころがなかった。
そのまま料理屋に足を運ぶと、刺激的な香りに疑問よりも食欲が勝る。
凪の好みは辛いもの、特に激辛ともいえるようなものであった。卓に運ばれてきた皿に盛られた燃えるような赤に、一刀は目を瞬かせる。
餡の中には白い豆腐が入ってるはずなのであるが、それがどこにも浮かんでいなかった。
「いい感じの辛さですね。あれ……、一刀さん、お腹すいてないんですか?」
腹は減っているのだが、目の前の食事風景の凄まじさに一刀は圧倒されている。顔色ひとつ変えずに辛味成分の塊のようなものを口に運び続けているのだから、見ているだけでも汗が吹き出しそうだった。
「いや、そうでもないんだけどね。凪があんまり美味しそうに食べてるからさ」
実際、嬉しそうに食べている凪を観察しているだけでも、それなりに満足できてしまう。自分もそろそろ食べようと、一刀は辛さ控えめで注文した麻婆豆腐をスプーンに似た食器で掬った。
咀嚼して味わっていると、ほどよい辛さと旨味が広がる。現代のそれと同じく米との相性も抜群で、一刀はつい夢中になってしまっていた。
彼が上目で対面の席を見やると、食事の手を止めていた凪がはっとしたような表情を浮かべる。
「なるほど、ちょっとわかった気がします」
粗相を見つかってしまった子のように、凪は頬を赤くした。そしてふと、いつからか芽生えた好意はどこまで伝わっているのだろうかと思う。下らないことであっても、一刀と同じ気持ちになれたことが今の凪には幸せなのであった。
「――着替えたいので、少しだけ外で待っていてください」
宿に帰って早々に言ったきり、部屋の中にいる凪から返事がない。どうなっているのかと思い一刀が扉をノックすると、――ど、どうぞ、お待たせしました、と上擦った凪の返答があった。
ようやくか。そんな軽い気持ちで扉を開いた一刀を待っていたのは、全く予想外な光景であった。
ほのかな灯りに照らされた彼女は入り口に背を向け、窓際の寝台に正座している。それはいいが、その格好といえば上着をはだけさせたままであり、肩から腰にかけての女性的なラインが丸見えになっていた。
「えっ……。凪、これってどういう」
真っ白になった頭を数秒かけて再起動させ、一刀はしどろもどろな言葉を放つ。いけないとわかりながらも視線を反らすことができない。凪の突然の行動に、彼の心臓は早鐘を打っていた。
「そのっ! えっと、昼間汗をかいたので、一刀さんに拭いていただけないかと」
凪のほうも、明らかに正常な様子ではない。普段の冷静そうな表情は崩れ、口元はわなわなと震えている。
彼女は窓の方を向いたまま、左手で床に置かれている桶を指した。そこには水が張られており、汚れていない布も添えられている。動揺を押さえ込みながら一刀がそれを使って背中を拭けばいいのかと確認すると、無言のまま凪は羞恥に染まるうなじを差し出した。
――もう、どうにでもなれ。
そんな一心で彼は水に浸した布をきつく絞る。生唾を飲み込みながら凪の背中にそれを当てると、強くしすぎないよう上下させていった。
時折指が凪の肌へ触れてしまうが、そこは武芸者とは思えないほど柔らかく青年の興奮を誘う。少女の背に見える傷ですら、余計に劣情を駆り立てていった。
「ど、どうかな。勝手がわからないんだけど、痛くはない?」
「はいっ。その、もう少し力を入れていただいても大丈夫です」
何度か続けていると、やり方にも慣れて緊張がほぐれていく。そうなってくると一刀も若い男である。凪が両腕を使って隠している、そのベールの奥がどうなっているのか俄然気になってきた。
「この辺、どうかな。汗はかいてない?」
「やあっ、そこは……違ってぇ」
わざとらしく少女の腋のあたりを一刀の指がくすぐる。急な感覚に凪は肌を震わせ、困ったような声色を出した。安部屋の不思議な空気感が、淫靡な雰囲気をどことなく助長させている。
それからしばらくは真面目に背中を拭きながら、合間にいたずらを仕掛けるということが続いた。一刀の股間に備わったモノは先程から硬くなりっぱなしであり、到底言い訳不可能な状態にある。
既に拭く手が腹の辺りにまで達しているのだが、凪はそれを黙して受け入れていた。
彼女が「そういうつもり」であるのはもう明らかで、一刀の遠慮も段々と薄れていく。ついには無意識なまま、硬いモノを凪の尻に押し付けてしまっているほどである。
二人の吐く息が荒い。最早こうなると布を湿らすことも忘れ、一心不乱で肌へと指を這わせていた。
「やっぱり、ここも拭こうか?」
一刀が耳元でそう囁くと、凪はゆっくりと腕を下げていった。恥ずかしさから戦慄く少女の肩を、優しく一刀が撫でる。改めて濡らした布を火照った乳房にあてがうと、ひんやりとした感触に凪の身体がびくりと跳ねた。
「ごくっ……。凪の身体、どこもすごく柔らかいよ。いつまででも、触れていたくなるくらいだ」
怖がらせないように下から手のひらで触れると、少女の乳房は丁度そこにすっぽりと収まる。初めて触れる女性の弾力に、一刀は感動を覚えるほどであった。
むにむにと痛めないようにしながらも凪の胸の感触を楽しみ、溜まった汗を拭っていく。うつむいたまま表情を見せない凪であるが、口からもれる声が昂ぶりをはっきりと証明していた。
「はあっ……、んっ……。か、一刀さんは、苦しくないですか?」
赤く染まった凪の顔が、半分ほど一刀のほうを向く。実物を見たことはないが、耳年増な親友から押し付けられた雑誌で男がこういう時にどうなるかくらいは知っている。
「正直言って、結構きついかも。最近あまりそういうこともしていないし……」
はちきれんばかりに膨張した股間のモノは、ズボン越しにでも激しく存在を主張していた。
現代であれば、それこそ携帯端末を使用してネットの海からいくらでもそういう用途の画像なり動画なりを用意することができる。だがここにはそんな便利なものなどあるはずもなく、性欲旺盛な年頃である青年は悶々とした夜を過ごすこともあった。
どうしても我慢できずに何度か凪をオカズに自慰に耽ったことすらあるのだが、それは口が裂けても言えない秘密である。
「ふ、拭いていただいたお礼に、わたしにもご奉仕させてください。男の人は、出さないと辛いって聞いたことがありますし……」
これ以上ない魅力的な提案に、一刀は興奮気味に大きく頷く。
寝台から降りてベルトを外し、いそいそとズボンを脱ぎ捨てる。そして数秒逡巡してから意を決すると、下着も思い切って脱ぎ去った。
硬く尖った己のモノを、とろんとした凪の目が捉えている。それだけで、一刀はたまらない思いであった。
「そ、そんなにも大きくなるものなんですね……。さすがに、少し驚いてしまいました」
「ごめん……。凪とこんなことしてるって考えると、我慢がきかなくなってしまうんだ。どうしようもないくらい、興奮してしまってる」
普段ならば冗談で済ませられる言葉に、凪は目眩がしてしまいそうになる。それが真実であるというのは、屹立した男の部分を見ればはっきりしているのだ。
胸が露わになっていることも忘れて、一刀のほうに凪は向き直る。彼は寝台の傍に立ったままなので、膝立ちする彼女の顔の高さに丁度腰の辺りが来る。
まじまじと見つめる視線を受けて、びくっとモノが脈打った。亀頭を濡らす先走りの匂いが、凪の鼻孔を通って脳内を刺激する。
ためらいながらモノに伸ばす手を、一刀が握る場所を教えるように導いた。熱く焼けるような体温を、凪ははっきりと感じている。
「こんな感じで、気持ちいいですか?」
凪の汗ばんだ手が、竿をやんわりと数回扱き上げた。大事な箇所だからと気を使ってくれているのであるが、快楽を求める男にとってはもどかしくもある。
「もうちょっと強くしても大丈夫だから、続けて」
リクエストに応じた凪が圧力を増して手を動かすと、充血が一層高まってきた。流れた先走りが自然と垂れ、滑りを助けていく。
自身で慰めるのとではここまで違うものなのかと、一刀はもれそうになる声を我慢しながら堪能していた。
(一刀さんのここが、わたしの手でこんな風になるなんて。なんだか面白いな)
気分が乗ってきた凪の奉仕は、さらに継続していく。亀頭の出っ張りに指が擦れる度、溜まった精を吐き出したいという欲求は高まっていった。狙った動きではないので、不意に快感が走り抜ける。
「すごいです。先っぽからねばねばしたものが沢山溢れて……。こんなに腫れても痛くないんですか?」
「うん、そこもよければ優しく触ってもらえると嬉しいかな」
従順な凪の五本の指が、色づく亀頭をふわりと包み込んだ。敏感な裏側を細い親指でこねられると、一刀がうっすら聞こえる程度の声をもらす。
「ここ、いいんですか? さっきより硬くなってて、破裂してしまいそう」
竿と先端を同時に責められ、堪える一刀の限界が近くなってきていた。気を紛らわせるために、凪の顔に手を伸ばし、前髪で遊ぶ。
「凪……、凪……ッ」
切なげな声で名を呼ばれ、凪の女陰はじんわりと湿り気を孕みだしている。外気に晒された乳頭はツンと立ち、淡く色づいていた。
男は出せば終わりだと話しには伺っているが、一体どんなものが出るのかはよく知らない。ただそれがどんなものであろうとも、受け止める覚悟だけはしていた。
「ごめん、俺もう――」
一刀が言い切る前に、門を打ち破った精液は奔流となって溢れ出した。溜まりに溜まった熱い液体が、凪の顔に勢いよく降り注ぐ。わけもわからぬまま、彼女は射精が落ち着くまでじっと待っていた。
「なんですか、これ……。熱くて、すごくべとべとしていて」
反射的に目をつむった凪は、その手の中でドクドクと脈打つモノの熱さを感じている。
少女の額も頬も、さらには唇までもねっちょりとした生臭い粘液に覆われており、ゆっくりと肌に浸透していっているようであった。
「凪、俺まだ……ッ」
動きの止まってしまった凪の手を上から掴み、一刀は自らモノをごしごしと扱き始めている。そうすると精管の奥に溜まった濃度の高い汁が押し出され、さらに少女の麗しい顔を染め上げていった。
「んっ……、満足されましたか? 一刀さんが出したこれ、匂いも粘りもとてもすごくて……」
まぶたの精液を拭った凪は、恐る恐るといった感じで目を開けて青年の様子をうかがっている。
するとさっきまでの勢いはどこへ行ってしまったのか、一刀は本気ですまなそうな表情をして凪への謝罪を口にした。
「こんなに汚してしまって、ほんとにごめん! すぐ拭いてあげるから……!」
一度射精したことによって頭が冷えてくると、やってしまったという思いが一刀の中に生まれていた。青年は処理もままならない内に下着を履き直すと温くなった桶の中で布を洗い、凪の身体に飛び散った己のものを落としていく。
腹の辺りまで広がった汚れをきれいにすると、一刀は改めて凪に詫びた。
「そんなに謝ってもらわなくてもいいんですよ? びっくりはしましたけど、一刀さんに気持ちよくなってもらえて嬉しかったんですから」
髪を撫でながら言う凪の仕草には、女の色気が宿っている。吹き消された油灯と情事の残り香に、一刀の心はかき乱されるようであった。
「――おやすみ、凪」
手遊びのような行為を終え、二人は背中を向き合わせて狭い寝台に横たわっている。その間に生まれた僅かな空白は、いまのふたりの微妙な距離感を表しているようでもあった。