夜。屋敷を訪れてきたのは、周倉ひとりだった。内々の報告である。そういうことは、寝所で話すことが多くなっていた。
「俺によく似た姿の男がいた、か。それほどだったのか、周倉」
「はい、それはもう。んっ……、
おかしな因果だな、と思いながらも一刀は周倉の小さな身体を抱え上げた。胡車児にやられた傷は多少痛むものの、こと女を抱くとあれば話は別である。
肩にかかった周倉の黒髪を撫でる。これまで幾度か夜を共にしてきた仲ではあるが、周倉はいつまでも初心な反応を見せていた。たどたどしい唇の吸い方。弱々しく差し出された舌を絡め取ってやれば、可愛らしい喘ぎが小さな口から漏れ聞こえてくる。
「それで、人はつけてあるのか? まだそいつが犯人だって決めつけることはできないけど、怪しいのは確かだろう」
「はい、わたしの部下を何人か残してきてあります。こちらに来る前に奉孝さまにもお伝えしてあるので、諜報に長けた者も向かっていると思います」
「そうか、よくやってくれた。これだけ続けて殺しをやっているんだから、何日も我慢するなんてことはできないはずだ。明日からは、俺も出向くことにする。天の御遣いとして、放っておくわけにはいかない」
不意に、小ぶりな乳房を握る手に力が入ってしまう。思わぬことに、大きな声をあげる周倉は鳴いた。
「悪かった。周倉、ほら」
「平気です……。んっ、はむっ、ちゅう……」
謝罪の意思が込もった口づけを受け取り、周倉は甘く声を震わせる。
脳内が興奮で満たされていくごとに、全身に活力が漲ってくるのである。それに呼応していくように、周倉の肌もまた赤く色づいていった。
互いに服を脱ぎ捨て、抱き合ったまま横になり肌を擦り合わせていく。身体全体で熱を感じられる瞬間が、周倉は好きなようだった。
「できれば、この件は俺自身の手で決着をつけたいと思っている。胡車児、先日の襲撃者も黙ってはいないだろうけどな」
「こしゃじ……? ははあ……なるほど、わかってしまいましたよ、わたし。御大将は、その者すら懐柔してしまおうとお考えなのですね。その御目に留まったということは、かの者は女性でしたか」
「別に、それが基準なわけではないんだけどな……。間違いなく反対されるだろうから、稟や愛紗にはしばらく内緒だぞ」
絡み合った男女の性器が、粘液によって怪しい光を放っている。
そろそろ挿れても大丈夫だろう、と一刀は周倉の薄い臀部へと手を伸ばした。肉々しい触り心地ではなかったが、しっとりと汗ばんでいて指に吸い付いてくるのである。
「挿れるよ、周倉。力を抜いておいて」
「は、はいっ……。う、ああっ……ふと……いのが、ぁあああ」
キツイ窄まりの中を、最大まで膨らんだ男根が駆け抜けていった。濡れ具合からすれば問題はない。それでも、周倉は初めての頃のように身体をよじって挿入を受け止めていた。
初々しいその姿を見ているだけで、欲望に火がついていく気がしていた。己の形に馴染んで拡がっていく内部を、何度も何度も突き上げていく。
騎乗位の体勢で荒々しく突き上げられ、周倉は半分気を失いかけていた。それでもなんとか手を握り、意識を留めようとしているのである。
それから如何ほどの時が経ったのだろうか。室内に、女の嬌声が響き渡る。周倉の狭い体内は、すっかり濃厚な雄の汁で満たされているのだ。交合が始まってから、どちらも精神は高潮し続けていた。肉のぶつかり合う音。収まりきらない精液によって陰部は汚れ、粘っこい感覚を生み出している。
「はあっ、はあっ……。これ、すごいんです……! 御大将の
「もう少し付き合ってもらうぞ、周倉。お前の中、どれだけしても締め付けが緩まなくて止められないんだ」
周倉を抱きしめる。一刀はそのまま、密着した状態で腰を打ち付けていった。
脳内が再び沸き立っていくようだった。劣情を受け止める側の周倉もそれは同じで、ぎゅうぎゅうと膣で男根を絞り上げていっている。
いつまで、それが続いたのだろうか。気づけば二人して眠っており、朝日が上がってしまっていた。
わずかに重みを感じる肉体とは裏腹に、思考はすっきりと定まっている。周倉を起こすと、一刀は袍を纏った。
朝日の溢れる原野。周倉の報告にあった男のもとへと馬を駆けさせた。大事になって騒ぎにならないよう、供回りの人数はできる限り絞ってある。関羽、徐晃、郭嘉、それと実際に顔を見ている周倉である。
城を出て、東へ三十里(約十二キロ)ほど移動していた。予定していた合流地点で郭嘉の配下と落ち合い、件の男が動きをみせていないことを知った。
「どうする。あちらが動きを見せるまで、見張りを続けてみるか」
「それもひとつの手ではありますが、時間がかかってしまうかもしれません。ここは、先手を打つのがよろしいかと」
「先手か。それではこちらの動きを気取られて、逃亡される恐れもあるのではないか」
腕組みをしている関羽が、反論を唱えた。胸の下にいれられた腕によって、ふたつの大きな果実はより強調されてしまっている。
「そうなった場合は、追えば問題ないでしょう。街の出入り口にはこちらの手の者を配置してありますし、なにより愛紗殿と赤兎から逃れられる者などおりません。周倉の足も、頼りにさせてもらいますよ」
「はい、奉孝さま。赤兎も、やる気満々みたいです!」
草の束で赤兎の馬体を擦っていた周倉が、歯を見せながら笑っていた。ぶるる、と嘶きで赤兎も応じている。
方針は決まりだ。となれば、あとは誰が仕掛けるかが問題となってくる。
「囮となる役はわたしにお任せください、一刀さま。わたしのように見るからに武力がない女であれば、向こうもそれほど警戒してはこないでしょうから」
「大丈夫なのか、稟。俺が行って、挑発してみたっていいんだぞ」
「無論、油断はしないようにするつもりです。少しでも動きがあれば、すぐにでも捕らえてくださって結構ですから。捕らえることができれば、先日の襲撃者を誘い出す餌にすることもできるでしょう」
結局、胡車児のことはまだ話せずにいた。徐晃はなんとなく察しているようだったが、一刀が話さないものだから静観しているである。
「シャンとお兄ちゃんで、稟を守ってあげればいい。周倉は、なにかあったら愛紗のところへ伝令に走る。これできっと、へーき」
郭嘉の要望を叶える形で、徐晃は自らの見立てを語った。赤兎を街に連れ込んだのでは目立ちすぎるから、関羽の配置は自然と街の外周になってしまう。快速を誇る周倉であれば情報をすぐにでも伝えることができるだろうし、徐晃の案は理に適っている。
「わかった、わかったよ。だけど稟、やるならあまり深入りはするな。相手は、何人も殺している可能性が高いんだから」
「承知していますよ、一刀さま。上手く口車に乗せて、奴の本性を暴き出してみせましょう。ですから、しっかり見張っていてくださいね」
頷いて、一刀は郭嘉を送り出した。捕らえろとは言われたものの、不審な動きを見せれば斬り倒すつもりでいた。それにきっと、どこかに潜んでいるであろう胡車児も同じことを考えているはずである。
「そこのキミ、ちょっといいかな」
「えーっと、それはわたしのことでしょうか」
「うん、そうそう。ちょっと、キミのことが気になってしまってね。話してみたいって、そう思ったんだ」
声をかけてきたのは気のいい青年、といった感じの男だ。見ず知らずの人間、というべきなのだろうか。しかしその風貌は、郭嘉もよく知っている。
周倉や関羽の話しから似ていることはわかっていたのだが、それでも郭嘉は驚かずにはいられなかった。まさしく、男は外見だけであれば北郷一刀そのものなのである。
「はあ……。それほど急いではいませんが、どういった用件なのでしょうか」
「一目惚れ、とでもいえばいいのかな。本当に、それだけなんだよ。俺のことは、天の御遣いっていえばわかってもらえるかな」
やはり当たりだった、と郭嘉は気を引き締めた。一刀そっくりの声が耳朶を打つたびに、言いようもない不快感が全身を駆け巡っている。それだけに、この任務は成功させなければならないと意気込んだ。
「天の……? それはもしや、こちらの太守さまの。わたしのような者でも、噂だけはよく耳にしております」
「しっ、だめだよ、あまり大きな声で話しては。お付きの人間が煩くってね、あまり時間がないかもしれないんだ」
そういって困った風を装いつつ、男は雑踏の方角を指差した。そこに目をやれば、ふたりの男が誰かを探している様子を見て取ることができる。
こうやって、なにも知らない田舎娘を毒牙にかけてきたのか、と郭嘉は静かに心を憤らせていた。
だが、そんな感情をおくびにも出さず、郭嘉は自らの役を演じ続けている。
「も、申し訳ありません。そのようなお立場の方に声をかけて頂けるなんて、とても光栄です。わたしでよければ、是非お付き合いさせてください」
「よかった、そう来なくっちゃ。それじゃあ、そこの茶店にでも入るとしようか。なるべく、目立たないようにね」
偽物に連れられて、店内へと消えていった郭嘉。この段階であれば、まだおかしな真似をすることはないだろうと判断し、一刀たちは遠巻きに監視を続けていた。
それにしても、不思議な感覚である。遠目であっても、自分そっくりなことがはっきりとわかるくらいだった。世の中には数人そういう存在がいるとまことしやかに囁かれたりもしているが、まさかそれとこのような場所で遭遇することになるとは誰が想像したであろうか。
「……同じだったね、お兄ちゃんと」
「ああ、怖いくらいにな。俺が涼州に来なければあいつも、自分が天の御遣いに瓜二つだなんて知ることはなかったんだろうな。まったく……」
「一連の事件は、決して御大将のせいではありません。結局、一線をこえてしまったのはあの者たち自身なのですから。そんなところまで気に病まれては、御大将の身が保ちませんよ」
「そう言ってもらえると助かるよ、周倉。ともかく、稟たちから目を離さないでおこう」
店内では、どうやらふたりが談笑しているようだった。郭嘉が、自分と同じ顔をした男と楽しげに会話をしている。それが演技だということをわかってはいたが、どうしてもいい気分にはなれなかった。
我ながら、浅ましいな。そうやって自身を侮蔑しながら、一刀は愛刀を握りしめていた。
「さ、おいでよ。戯志才さんに、見てもらいたい場所があるんだ」
「はい、御遣いさま。どこへ連れて行ってもらえるのか、楽しみでなりません」
郭嘉は、かつて旅をしていた頃のように戯志才と名乗っているようだった。例え真名でなくとも、この男には名を呼ばれたくなどない。きっと、そういう気持ちが勝ったのだろう。
偽物のほうは、すっかり郭嘉がその気になっていると思い込んでいた。このまま人気の薄い路地へと連れ込んで、知性の現れた顔を歪めてやろうという魂胆である。
「香風、周倉、こっちも行くぞ」
もうすでに、ほとんど日は暮れかけていた。薄っすらと広まっていく闇のなか、一刀たちは尾行を続けた。
じゃり、じゃり、と小石を擦る足音だけが聞こえている。神経を研ぎ澄まし、仕掛ける瞬間を計った。
「どうでしょう御遣いさま、もうこのあたりでよいのではないですか? あなたがなにを欲されているのかくらい、わたしにだってもうわかってしまいます」
「ふふっ……。なんだ、わかってるのなら話が早いな。いいだろう、戯志才。天の御遣いの希少な種をくれてやるんだ、ありがたく受け取ってくれるんだろうな」
いきなり立ち止まった郭嘉。その挑発するかの如き物言いに、偽の御遣いはゆっくりと口角をあげた。その視線は、まるで獲物でも眺めているようである。これまで女を何人も同じ手口で犯してきたが、ここまでの上玉は初めてだった。
仲間のひとりから自分が天の御遣いに似ていると教えられたときは、なんの冗談かと思ったものである。田舎暮らしにも飽き飽きしていたが、ついに天運が回ってきた。男は、そう確信したのである。
偽の御遣いは、再び眼前の獲物へと視線を移した。豊かに膨らんだ胸。男を魅了する肉付きのよい太もも。気の強そうな目つきにも、そそられる部分があった。
「ほら、もっと近くに来いよ」
己の肉体を弄ろうと伸びてきた手。だが郭嘉は、それを力いっぱいに払い除けた。
「な、なんだその態度は! 戯志才、俺は天の御遣いだ。その御遣いに無礼を働けば、天から罰が下されるんだぞ」
「罰ですって? ふん……、女に対する脅しすらつまらないとは……。いい加減、うんざりしていたんです。あの方と同じ顔で、そのような下卑た笑みなど浮かべないでいただきたい」
「なんだと。それはどういう意味だ、戯志才。おい、お前らも出てこい」
常であればひとりで散々嬲ってから、仲間を呼んで輪姦してしまうのである。女の絶望に沈んだような表情を観察することも、偽の御遣いの楽しみのひとつだった。適当な空き家のなかで暇つぶしでもしていたのだろう、偽の御遣いの仲間のふたりが、のそのそと面倒くさそうに姿を見せた。
緊張が高まっていく。偽の御遣いは、懐に忍ばせてある短刀の形を確かめていた。
「てめえ、待ちやがれ! おい、追うぞ」
一目散に走り出した郭嘉。それを見て、偽の御遣いの仲間たちも動きだした。
路地の入り口。三人の人影が見える。その内のひとりの胸に、郭嘉は飛び込んだ。
「一刀さまっ」
「無事だったか、稟。これでも、心配してたんだからな」
「申し訳ありません。ですが、わたしはこの通り。それよりも一刀さま、あの男を」
「わかってる。稟、お前はそこで待っていろ。ここからは、俺たちの仕事だ」
郭嘉の表情が、少しだけ緩んだ。見紛うほど似ているようで、その実なにもかもが違っているのかもしれない。自分の帰るべき場所はやはりここだ、と抱擁されながら郭嘉は深々と息を吐いた。
「公明さま、あの両人はわたしたちで請け負いましょう」
「うん、わかった。お兄ちゃんは、偽物のほうをお願い」
自らの相手を見定めつつ、周倉は棒状のものを二つ取り出していた。分かたれていたそれらを、ぴたりと組み合わせていく。
長さにして、五尺(約一メートル)ほど。先端には、鋭利な刃が突き出ている。
「いい感じです。さすがは、
出来上がったのは、短槍だった。取り回しがしやすくなるように、周倉は愛用の武器を李典に頼んで改修してもらっていたのである。
「なんだ、ちびっ子が俺らの相手をしてくれるのかよ。へへっ、よく見りゃかわいい顔してやがるぜ。こいつはそそるなあ」
「ああ、今日はついてるな。俺はそっちのボサッとしてるほうをもらっていいか」
丸腰の徐晃のことを、男は明らかに侮っていた。力勝負となれば、体格差からも負けるはずがない。そのくらいにしか、考えていなかったのである。
「いくよ、周倉」
掛け声と同時に、土煙があがる。徐晃の小さな身体は、引き絞られた弓から放たれた矢ように飛び出していった。