開幕胸糞というかやべー感じで、注意喚起したいところですが、ここから先を読むのであれば諦めてください。GL期終わるまでは日常茶飯事なんで。きっとその頃には、読者にとっても日常となる()
ではどうぞ
魔王ナイチサ
――ある男の話をしよう。
その男はとある王国の貴族として生を受けた。
爵位こそ低いが、王族にも縁のある由緒ある家柄であり、それなりの発言力を有した家柄であった。
領民にも慕われ、善政を為す。貴族の義務を率先して為す――正に貴族の中の貴族。
そんな当主である父と、縁ある貴族の元から嫁いできた母。その二人の間に生まれたのが彼だった。
長男として生まれた男は、両親の期待を一身に受けた。
両親は我が子に家を継がせるつもりで厳しい教育を施す。しかしそれでいて愛情もしっかりと注いだ。
夫婦仲は円満で、直ぐに弟や妹も生まれた。親子仲も良好。兄弟間で当主の座を求めて争うようなこともない。この時代の貴族には珍しく権力闘争とは無縁で、何も含むところのない幸せな家庭を築いていた。
だが男の家には――珍しい教えがあった。
といっても、単純なものだ。ある宗教を信仰していたのである。
AL教。50年ほど前に出来たばかりの新興宗教だ。
二代前の当主であった祖父の影響から、その家族は生まれた時からAL教の信者であったのだ。
他の貴族から嫁いできた母もどうやら同じで、元よりAL教の信者であったらしい。
ゆえに、幼い頃から何度も聞かされてきた。――神はあなたを見守っている、と。
――率直に言って、到底信じられるものではなかった。
しかし男は神の存在に半信半疑でありながらも、その教えをきちんと守った。毎日の祈りを欠かすことはなかったし、聖書をそらで言えるようになるまで憶えた。
ただ肝心の信仰心は芽生えることなく、ただ両親が、家族が信仰しているから何となくで教えを守っているだけ。男は小さい頃から優秀であり、そんなことを打ち明ければ角が立つだけというのは解っていたのだ。
だがそれが変わったのは、十歳の誕生日のことであった。
男は家族から盛大に祝われた。普段から大人しい理知的な子供であった男も、その日は子供らしさを見せて大いに騒いだ。
しかし騒ぎすぎた所為か、それとも連日の疲れが溜まっていたのか。とにかくいつもよりも比較的早い時間に眠りこけてしまったのだ。
気がつくと、男は目を覚ましていた。
辺りは真っ暗。夜中である。どうやら早く寝た所為で目が覚めてしまったのだろう。再び眠りにつこうかと思ったが、中々眠れない。
ゆえに何となく魔が差して、男は夜の屋敷を探検した。
そこで見たのだ――神の存在を。
それは一冊の古ぼけた本。祖父が集めた本が並ぶ書斎で、偶然見つけたものだ。
その本を開き、ある一説を口にした時――男は美しい女神の声を聞いた。
『――あら?』
それは意味のない言葉だった。
『……間違えたわ』
何を間違えたのか。そう尋ねる前に、女神の声は聞こえなくなった。
もう一度本を開いてみよう。そう思ったが、手元に会った本はいつの間にか消えて無くなっていた。
しかし、男の心に火を付けるには十分だった。
神はいる。確かに存在する。この教えは間違いでは無かった。
――次の日から、男は熱心に善行を積み始めた。
聖書を持ち歩き、周りの人に困ったことはないかと聞いて回った。
周囲の人間は、男の様子に首を傾げたが、10歳の誕生日を迎えたばかりであることから、ようやく当主としての自覚が出てきたのかと思い、気に留めることはなかった。
男がそういった行動に出たのは単純な理由だ。即ち――神に会いたい。
もう一度神に会いたい。そして、自らの行いを褒め称えてほしい。
神が存在すると解った。神の教えが本物であることも。
ならばそれは絶対の価値観だ。従うのが正しい。神は絶対なのだ。両親や王様なんかよりもよっぽど偉いのだ。その教えに従わずしてなんとする?
男は今まで両親の教えに従い、良き当主となれる様に努力してきたが、その日からは周囲に人間が驚くほどの成長を見せた。
しっかりとした知識と教養を身に付け、礼儀作法も完璧。実務能力も申し分ない。困った人を見れば率先して助けようとする。
まさに両親が期待していた通り――いや、それを越えるほどの者に成長した。もういつ当主の座を譲っても問題ない。そう思えるほどに。
しかし、周囲の喜びとは裏腹に、男の内心は荒れ狂っていた。
――おかしい。何故、顕れない。
男は神に会いたかった。神にもう一度会いたくて、教えを守っていた。
教育を受ける傍ら、熱心に教会にも通っていた。だが一向に会える気配はない。
やはり死後でないと駄目なのだろうか。それとも、さらなる善行を積み上げねばならないのか。
男は諦めかけた。神に会えないというのなら教えを守る意味もない。いっそ真逆のことをして神罰でも――
――男は、はっとした。
その方法があったと。
神の倫理で言うなら、人を困らせ、悪行を為すことは神罰に値する。
それならば、形は違えど神に会えるのではないか。
そう思い、男はその日から、悪行を為した。
初めは小さなことから。物を隠したり、嘘をついたり。最初は可愛いものであった。全てはバレずに行う。
何故なら、人にバレてしまえば裁かれる。糾弾される。人の手によって。それは男が求める神罰ではない。
何人が知りえない。介在の余地すらない状態で悪行を続けなければ、神罰は訪れない。そうしていれば訪れるはずだ。
何故なら―――神は我々を見守っている。どれだけ秘密を隠していようと、必ず暴かれるのだ。
ゆえにこの行為が最善だ。その考えのもと、男の悪行はだんだんと激しさを増していった。
周りの動物やムシを傷つけ――殺した。これでは駄目か。
当主を継ぎ、王都に出向く傍ら、そこにいた年老いた浮浪者を殺した。夜に人気がない路上で寝ているところを刃物で一突き。初めての殺人であった。
その時に初めて気づいたこともあった。男はその悪行を為して――笑みを浮かべていたのである。
不可思議な事だ。自分の心が理解出来ない。
ゆえにもう一度殺した。やはり笑ってしまう。
だから殺した。今度は少し近しい人物。その方がより非道な行いだろうと思い殺した。知り合いを殺した感想は、面白いだった。
次はもっと近しい者を望み、友人を殺した。やはり笑えてくる。
次はもっと近しい者だ。しかしそれ以上となると、後は血縁者くらいだ。
そのため、男は両親を旅行に誘い、事故に見せかけて――殺した。死体は魔物の巣に捨ててきた。感情が昂ぶる。
弟と妹を殺した。弟は拷問して殺した。妹は犯しながら殺した。何たる悪行。背筋が震えてくる。
男は結婚した。以前より決まっていた許嫁。幼馴染との婚姻だった。
なので妻の両親を殺した。さすがに他の貴族相手への殺人は危ない橋を渡ってしまったと後悔する。初めて疑われた。幸いにも自分の人柄を信じ切っている家臣や領民。そして何より、妻の弁護により難を逃れた。以後は気をつけようと思う。
だから屋敷の離れに地下室を作り、以後はそこでのみ悪行を行うことにした。表では善行を為す。領地を経営し、領民を助け、家臣を労い、妻と子供を愛した。
裏では悪行を為す。適当な人間を他所から連れてきて殺した。その日々は今までに比べれば味気ないものであったが、両親や弟妹を殺した以上、これ以上の悪行は中々に思いつかないし、大掛かりなものはさすがにバレる。バレてしまっては意味がないのだ。
――いや、まだ一つだけ残っているな。
男は悪魔的な考えを思いついた。しかしそれは、鬼畜の中の鬼畜といえるだろう。
妻と娘。気立てが良く、おっとりとしながらも芯の強い良妻と、年頃でやんちゃだが、女の子らしいところもあるませた娘。
どちらも確かに愛している。裏では鬼畜外道の所業を行なっていても、男が妻子に向ける感情は、正しく愛だった。
――だから殺した。さすがに手が震えた。妻を殺す時もそうだったが、何より、幼い娘の首を絞め殺している最中のあの目が忘れられない。あの自分を信じ切った曇りなき眼が、どうして? なんで? と疑問を訴えかける娘を殺していくのは、さすがに堪えたものだ。初めて悲しみという感情を憶えた。声は出せなかったし、涙も出た。
そして、ふと、どんな表情をしているのかと鏡を覗いてみると――
――そこには、“悪魔”がいた。
悪魔の如き笑顔を浮かべた――
そして理解する。
もうとっくの昔に、己の箍は外れている。悪行を悪行と理解しながら、それに愉悦を感じる人間となっているのだと。
いや、あるいはもう――人ではないのかもしれない。
そんな思いを感じながら、男は妻子を弔った。
家臣や領民は、周囲の人間が根こそぎ死んでいった男を最初、怪しみはしたが、それ以上に憐れみを憶えたのだろう。疑いを掛けるものはいなかった。
やるべきことはやり尽くした。そんな時、ある噂を聞いた。
人類を苦しめる魔物の軍勢、魔軍。その指導者である魔王が死んだ。そんな噂だ。
その真偽は解らない。しかし男は、魔王に神罰が下ったのだと思った。
そして絶望した。やはりそれほどの悪行を積み重ねなければ、神罰は訪れないのか、と。これまでの行いは間違いだったのかと。
多くを犠牲にし、積み上げてきた悪行は何の意味も成さないのか。そう絶望していた時――
――神は顕れた。
神は言う――お前は面白い。次の魔王になるがいい。
その言葉は直ぐには飲み込めなかった。
面白い?
次の魔王になれ?
それはとどのつまり――
「――フ、フフフ……」
気づけば、笑いがこみ上げていた。
「フハ、フハハハ、フハハハハハッ!!」
自分を見て神罰ではなく、面白いと断じる。その価値観。
世の中を苦しめる魔王を、神の手で任命する。その不条理。
「――私は、悪ではない」
そう。悪ではない。
悪であって悪ではないのだ。何故なら、
「神が――世界が、悪なのだ」
――神が望んでいたのは、悪行であったのだ!
ならば我が行いは、この世界において正義なのだろう。
今までの行いは間違いで無かったのだ。
悪徳に満ちた世界。糾弾されるべきものが糾弾されず、祝福を与えられる世界。
――何たる救いのない世界! この世は地獄であったのか!
「ならば――余は魔王となろう」
この世界を余さず照らす光となろう。
「この世の価値観に従い、悪行を為そう」
世界に愛を、人々に祝福を与えよう。
「神よ、ご照覧あれ」
神々の御心のままに。人々に神の愛を感じさせよう。
「余は余の正義に従い、人間を苦しませてご覧に入れましょう――」
――NC1年
新たなる魔王ナイチサの誕生は、全世界に瞬く間に告げられた。
大陸中央に位置するとある村。
そこで行われていたのは――殺戮だ。
「ぎゃはははは!! おら死ねー!!」
「おらおら! せいぜい楽しませろよ!!」
数時間前まで、長閑で平和だったその村は、魔軍の襲来によって地獄に叩き落とされた。
建物は中にいた人ごと火に焼かれ、畑や小屋まで燃え移って被害を広げていく。
人々が逃げ惑う中、魔物兵達はそれを追いかけて殺していく。
男は殺され、女は犯してから殺される。力なき人間に、抗う術はない。
だが、そんな中、
「――っ、おお!」
「が、あッ……」
身体に鎧を身に着けた男が、魔物兵を斬り伏せる。
傍らはこの村の住人と思われる二人の姉妹が怯えた表情で身を寄せ合っている。
男は切羽詰まった様に声だけで、
「さあ、こっちだ!」
「は、はいっ……!」
二人を先導して走り出す。
男はたまたまこの村を訪れていた冒険者であった。
突如、魔軍の襲撃にあったこの村の住人を助けるために奮戦する男であったが、一人で旅が出来るほど実力を持つ彼でも、多勢に無勢。
魔物兵に打ち勝つことは出来ても、全ての村人を救うことは出来ない。
ゆえに偶然近くにいた人――姉妹を連れて、村から脱出しようとしているところであった。
「おいっ、いたぞ! あの男だ!」
「女だ! 俺にやらせろー!」
「くっ……!」
背後からは多くの魔物兵がこちらを追いかけてきている。
一人だけなら逃げ切れないことはないが、二人を連れて、となると厳しいかもしれない。
だがもうすぐ村の出口に差し掛かる。そこまでは姉妹の体力も持つ――と、信じたい。
そこで二人を守りながら一暴れし、村を脱出しよう。
「もうすぐ出口だ! 頑張ってくれ!」
「はっ、はっ……は、はい……!」
励ます様に声を掛け、村の出口に急ぐ。息を乱しながらも、何とか返事をする姉妹に頷き、男は手を背後に向けた。
「――火爆破!」
「がっ!?」
「あちいいっ!?」
「く、くそっ! 追え追えー!」
魔法の炎、爆発を魔物兵の集団。その真ん中に撃ち込む。何体かの魔物兵がその身を炎に焼かれる中、三人は振り返ることなく走り抜けた。
ここを抜ければ街道に出られる。三人の心に少しの希望が芽生えた。
そうして角を曲がり、村の出口まで差し掛かった時、
――三人は、絶望を目の当たりにした。
「っ!」
「ああ……」
「う、あ……!」
呻く姉妹の声が煩く聞こえる。
心臓の音が、微かに吹く風の音が、遠くで響く悲鳴や笑い声が、酷く遠くに聞こえる。
村の出入り口。そこに布陣している赤、青、緑の魔物兵。それを指揮する魔物隊長。
しかし、彼らが絶望したのは、
「――ほう、生き残りがいたか」
「……そのようですね」
その中心にいる――二つの存在。
「な、んだ……あれ、は……?」
男は、震える唇から何とか疑問の声を絞り出す。
握った剣が手元から落ちてしまいそうになる。身体の震えが抑えきれない。心臓が痛いほどに早く脈打つ。全身から汗が吹き出てくる。漏らしてしまいそうだ。
「……っ、……っ」
横の姉妹に至っては既に腰を抜かした様に座り込み、股間を濡らしていく。声は出ない。
「……ふむ、逃げてくれねば狩りが出来ないのだがな。卿はどう思う?」
「ご随意に。……強いて言うなら、普通に殺されては如何でしょう?」
「それでは芸がない」
「……左様ですか」
二体の化け物が会話を行なっている。見た目は人間のものだ。
黒いマントを身にまとった白い肌の男がいる。その服装も相まってどこかの貴族の様に見える男だが、その存在感は人外のもの。
仮に絶望を形作ったなら、その男の様になるだろう。男がその場にいるだけで、周囲の景色は暗く禍々しいものに変容する。魔物兵らが傅き、もう一人の――金髪の男も畏まっているところを見るに、あの男はおそらくだが――
「せっかくの人狩りだ。楽しまねば損だぞ?」
「……何分、初めてのことですのでご容赦を。仕事以外で弱者を殺すことがあまりないもので、生憎と慣れておりません」
「ふむ、強者であれば喜んで殺すということか。弱者を殺すのは気が進まぬか?」
「弱者は……
「なるほど、分からなくもないな。幾度もの戦場を駆け抜けてきたであろう卿では、脆弱な人間を殺すことはもはや作業となろう。娯楽として楽しめないのも道理であろうな。ふむ……で、あれば……娯楽の何たるかを知らない者に、それを教えるのも上に立つ者の役目か」
「……魔王様にお任せ致します」
「左様か。では――手本を見せよう」
――間違いない。魔王だ。
金髪の男から放たれた言葉に、顔を青ざめさせる。
しかも、魔王ともう一人の男――おそらくは魔人――は、こちらにゆっくりと歩みを進めてくる。
身動きは取れない。身体が固まってしまった様に動かない。
あまりの恐ろしさに身が竦んでしまっている。
戦うことは出来ない。挑めば一瞬にして殺される。戦いにすらならないだろう。
かといって逃げることも出来ない。目の前の化け物二人から逃げることは不可能に近いし、後方から追いかけてきた魔物兵は魔王の姿を見てか、道の真ん中で傅いたままだ。
状況は完全に詰んでいる。そんな中、魔王はゆっくりと顔を動かし、三人を眺めると、
「――少し、余興をしよう」
声は出ない。しかし疑問の表情を浮かべる。姉妹も同様だ。
魔王はこちらを見下ろしたまま右手を上げ、指を一本立てると、
「一人だ。一人だけ助けてやろう。魔王の名に懸けて選ばれた一人には救いを与える。その者はお前達で選ぶがよい」
「……!」
――出来るわけがないっ!!
冒険者は内心で叫ぶ。随分と悪趣味な余興だった。
一人だけ助かる。それを選ぶことは至難だ。
何せ、二人は姉妹。一人が助かってももう一人は死ぬ。
かといって自分が助かることとなれば、二人とも死ぬ。
悪魔の選択だ。選べるわけがない。
だが、その予想に反して、
「――わ、わた、しを……」
「っ!?」
「あ……?」
不意に、横からか細い声が響いた。
それは姉妹の――姉の方から聞こえた言葉であり、
「お、ねえ……ちゃん……?」
妹の方が、何が起こったかまだ理解していないという様な表情で姉を呼ぶ。
しかし姉は、妹の声に反応することなく、
「わたし、を、たすけて……ください……!」
「ふむ、見たところ姉妹の様だが……妹を見捨ててよいのか?」
「い、いいから……!」
「っ! おねえ、ちゃん……!」
ようやく理解したのか、妹は歯を食いしばりながら姉の名を呼ぶ。
そこには先程までと違い、悲しみと――怨嗟の色が混じっており、
「っ……や、やめろ……!」
そこで冒険者は、剣を構えた。
このままではどうせ死ぬ。ならばせめて、
「俺は、どうなっても良い……! 二人を解放しろ……!」
「…………」
啖呵を切る。それを聞いたはずの魔王はしかし無言のままであり、
「ど、どうした? こないのか魔王……! こないなら――」
「――死ね」
瞬間、魔王が短い言葉とともに無造作に手を振りかざした。
凄まじい衝撃が大気を震わせ、冒険者の身体が瞬時に肉片となり周囲に飛び散る。姉妹の顔や服に付着したそれは、まぎれもない男の破片であり、
「あ……あ……」
「うっ――」
吐き気を催し、地面に蹲る姉妹。それを一瞥することなく、魔王は鼻を鳴らし、
「人間如きが、余に生意気な口を……」
苛立ちを隠そうとせず表情を一瞬だけ歪めるも、しかし気を取り直した様に冷静になり、
「……失敗したな。余としたことが、激情に駆られ普通に殺してしまうとは」
己の行動を悔やむように息を吐く。その様子には確かな後悔が見て取れた。
「――だがまあ、二人は残っている。ならばあの男を救いとし、この二人を殺すか」
「っ……」
魔王の言葉に姉妹が再び怯えたように息を呑む。傍らの魔人は声を飛ばした。
「……一人は――ああ、いや……なるほど。元よりそうするつもりでしたか」
「……?」
姉妹が疑問符を頭に浮かべる。何を言っているのか。一人は助けるつもりだと言っていたはずでは。
だが魔王はそこで笑みを浮かべると、魔人に向かって満足気に、
「気づいたか。そう、選ばれた一人は約束通り助けてやるつもりだった。
「…………」
余興は失敗だな、と魔王はさほど残念そうでもなく呟く。傍らの魔人は何を答えるでもなく能面のような表情でそれを聞いていた。
「しかし後始末はせねばな。――ふむ、ではここまで付いてきた余の家臣に褒美でも取らせようか。――レオンハルト」
「はっ」
名を呼ばれた魔人が胸元に片手を当て、頭を下げる。その頭上から、魔王の声が飛んだ。
「どちらか好きな方を選んで良い。卿にやろう――犯して殺せ。残った方は兵達にやることにする」
「おお……!」
魔王の言葉に歓喜の声を漏らす魔物隊長と魔物兵達。村を襲う隊ではなく、魔王の共回りとして着いてきた功が報われた瞬間であった。その姉妹はどちらも美少女といって申し分ない。妹の方は少し幼いが、どちらであっても自分達を喜ばせ、良い悲鳴を上げるであろう。魔物兵達の視線が、姉妹を視姦するように見つめられる。
「……有り難き幸せ。それでしたら――」
「……!」
「っ……!」
しかし順番は、魔人が先だ。そのことに不満を持つ者はいない。
他ならぬ魔王の命令であるというのもそうだが、かの魔人はそれに準ずる支配者だ。力も実績も、何もかもで敵わないし、魔物兵達はそれを認め畏怖している。先に選ぶのは道理だ。
そんな中、姉妹は近づいてきた魔人――黒と赤のコートを着た金髪灼眼の男の姿を見上げる。
見た目は人間――それもかなり容姿の整った美丈夫だ。その目の鋭さと、隠しきれない存在感が見るものを圧倒させるが、それがあってなお魅力的に映る。
無論、恐怖を覚えないわけではないが、それでも異形の魔物にやられるくらいなら――と、考えるのは当然の帰結であった。
「あ、あの……」
姉の方が声を出す。助かろうとしていた。
縋り付くように魔人の足元に近づき、顔を見上げる。その紅い瞳がこちらを射抜いた。
ゆっくりと口が開かれる。魔人は軽く息を入れ、
「……では、そちらの妹の方を頂ければ」
「なっ……!?」
「っ……!」
姉が目を見開き、妹が魔人を仰ぎ見る。
姉の方は、驚きと、妹を選ぶわけがないという驚愕から思わず声を上げる。妹も、何故自分を選ぶのか、と同じ意味の驚きで魔人を見上げた。
二人の心境を知る由もなく、魔王が頷いた。
「では、そちらは兵達にやろう。好きに使うとよい」
「うおおおお……!!」
「あ、有り難き幸せ!」
魔物兵がたまらず声を上げ、魔物隊長が傅いて感謝を告げる。それに応えることはなくすでに用は済んだ、と言わんばかりに魔王がその場を後にする。それを見て魔人が、
「魔王様、供は――」
「む? ……ああ、そうだな。では付いて参れ。卿も、兵に混じってやるには立場があろう。持ち帰ることを許す」
「はっ、感謝します」
「っ……!」
魔人が地面に蹲っていた妹を持ち上げて抱える。そしてそのまま魔王に付いていった。
しばらくして距離が空き、その姿が見えなくなると、魔物兵達は一斉に、
「……うひょおおおお!! 俺が一番だーー!!」
「おいおいずるいぞ! 俺が一番に!」
「ひぃっ……やめ――」
興奮した声を上げながら、姉に向かっていく。姉の制止もむなしく、最初に辿り着いた魔物兵に服を剥ぎ取られた。
次々と魔物兵達が押し合いへし合いの中で手が伸びて、彼女の身体を蹂躙していく。
「いやぁぁあああああああ!? やめ、助け――」
「ははは、思った通りいい声で鳴きやがるぜ!」
「心配しなくとも、俺達がたっくさん快楽与えてやるからよ! 感謝しな!」
魔物達が性器を取り出しながら下卑た笑いを上げる。見かねた魔物隊長が、
「おおい、お前ら。ちゃんと順番守れよー。後から来た奴らはちゃんと列を作って並べー」
「へへっ、わかってますよ隊長! 押さない、逸らない、死なせない、の、“お・は・し”でしょ?」
「順番は大事だし、簡単に壊したら後から来たやつが困るしな! それより、隊長は先にやらないんですかい?」
「おお、俺は後からがいい。汚されたところを見ると興奮するからな。――そんじゃお前ら、ルールを守って愉しくやっちまえー!」
「へーい!」
「後、魔王様とレオンハルト様への感謝を忘れるなよー」
「はーい! ナイチサ様ばんざーい!! レオンハルト様ばんざーい!!」
魔物隊長の号令を聞いて、魔物兵達が自分達の支配者である二人の名を高らかに挙げ、感謝を捧げる。
新しい魔王となった暴虐の化身――ナイチサ。
前時代より魔軍を率いてきた魔人筆頭兼魔軍参謀――レオンハルト。
その二人が築く新たな時代の到来を予感し、魔物兵達は村中に幾つもの悲鳴を響かせてみせた。
「…………」
「――どうした、レオンハルトよ。気になることでもあるのか?」
「……いえ、何でも。ただ――村の中は、
「……フフ、確かに。人間の死臭と魔物の性臭。それらが混ざりあった臭いは酷いであろうな」
「ええ、あの場に入れば、臭いが移ってしまうでしょう。城に帰還致しますか?」
「うむ、力を試す為の遠征は中々に収穫があった。一先ず帰るとしよう」
「はっ」
魔王ナイチサは自分の言葉を聞いて、さっそく部隊に指示を出し始めたその働きに満足そうに頷く。
レオンハルトを始めとした強大な力を持った魔人達に、その彼らが率いる魔軍。悪行を為すための環境は中々に悪くない。
これならば下等な人間を殺し続けることが出来るだろう。
――余はこの世界に、屍山血河を築いてみせよう。
神が楽しめるように、ゆっくりと、徐々に。
その悪行こそがこの世の正義であると――そう確信して。
魔王ナイチサは、世界に君臨した。
「…………」
その背後に続く魔人レオンハルトは――ただ黙って、その背中を見つめ続けていた。
スラル「――うわー……新しい魔王酷くない? こんなんでこの先大丈夫なの――って、どうしたの?」
皆「…………いや、あの」
スラル「な、なによその目……あ、分かった! 後ろに誰かが――」
レオンハルト「……いや、お前……うん、俺からはすげぇ言い難いんだが……」
ラウネア「…………(ここで出てきていいんかいっ!)」