大陸北半分は魔軍の領土である。
その多くは町など何も無く、西側にあるツリー都市を除けば魔軍の駐屯地があるだけの土地だ。
しかし、魔軍の中心ともいえる魔王城。
そこから少し北に離れたその場所は、数少ない魔物界の街だ。
総面積は三十平方キロメートルにも及ぶ、大規模都市――レオンハルトシティである。
その特徴は、人間社会にある文化を真似た文化的な建築にある。
町全体を囲む城壁。東西南北にある四つの門を潜り抜けると――そこは魔物がひしめき合う魔物の街だ。
舗装された道。十分な広さを誇る大通りには、幾つもの出店が建ち並び、そこで作られた料理の匂いが香ばしく、道行く魔物に食欲をそそらせる。
そして魔物界ではそれこそ珍しい、多くの娯楽施設が建ち並び、劇場は常に満員御礼。大衆浴場に入っていくものは後を絶たず、魔軍の高級将校といえる魔物将軍や魔物隊長に人気の高級サロン、テニス場など。
文化的な生活を送れるこの町は、魔物にとって一種のブームとなっていた。その住民はほぼ全て、この街を造った魔人の部下である魔物兵達であるが、観光や軽い遊び目的で訪れる魔物も増えてきている。街のルールを守らず、問題を起こす魔物もいなくはないが、その多くはやはり、この街を統べる魔人に恐れをなしているのか、街の警邏をしている魔軍の部隊を見れば直ぐに大人しくなってしまう。
そして、大通りに続いた街の中心には噴水広場が存在し、そこから更に奥には、大きな城が見えてくる。赤色で構成されたその城は、やはりこの街を統べる者の城。
およそ八十年前に、己の権威と力を集約し、とある目的からこの街を造らせた大いなる魔人の城だ。街に住む魔物兵にとっては珍しいものではないが、それでも最近の建物であるそれは、街を訪れた魔物達の観光の名所ともなっている。城の周囲には人工的に造られた湖が存在し、その中心に浮かぶ様に立つその城は、関係者以外は城に延びる唯一の道、その手前で止められることとなる。しかしその手前である噴水広場では観光気分の魔物達が、
「おお……! あれが、噂の“紅魔城”か……!」
「すげー……俺もあんな城に住んでみてえなぁ……」
などと感想を言い合っている。そんな時、
「っ! あれは……!」
大通りがざわつきはじめる。見れば魔物達が大通りの端に寄りはじめ道を開けている。そんな中で押された魔物兵が苛立った様に、
「っと、おい! 押すなよ馬鹿!」
「馬鹿はお前だ! よく見ろ! どかなきゃどうなっても知らねぇぞ!」
「えっ……あ、もしかして――」
魔物兵が何かに気づいた様に大通りの中心に視線を向ける。
そこを通るのは、一体の魔物将軍と魔物隊長に率いられた数十の魔物兵。そして中心にいるのは――おそらく人間の少女――を抱きかかえた、一人の男だ。
姿が統一された魔軍の中で、姿形が違うのは基本的に使徒以上しかありえない。
そしてこの街に――いや、魔軍に所属する者達で、その金髪灼眼の魔人の姿を知らない者はいない。そう彼こそが、
「――魔人レオンハルト様だ……」
「ああ……相変わらずすげぇ迫力だな……」
魔物達が息を呑む。騒がしかった大通りが少しばかり静かとなるが、そのざわめきは隠しきれない。
しかしそれらを気にすることなく、かの魔人は真っ直ぐと前だけを向いて城への道を進んでいく。
大通りを抜け、噴水広場を通る。そして城の敷地に差し掛かると、警備をしていた二体の魔物隊長が敬礼を取り、
「お帰りなさいませ、レオンハルト様!」
「――ご苦労」
短い労いの言葉を受け、魔物隊長達の心に光栄を感じる。一瞬の一瞥であったが、確かな視線を向けながらの礼は、他の魔人ではあり得ぬことだ。そんな相手が、自分達の上司であることに誇らしさ、そして身が引き締まる思いを得る。ただの警備であっても手は抜けないと、そう思っていると、
「……お前達はここまでで良い。通常任務に戻れ」
「はっ! 了解しました! 第三分隊、これより通常任務に戻ります! ――お疲れ様でした!」
魔物将軍の敬礼に合わせて魔物兵達が敬礼を行う。それを見て頷いた魔人は、そのまま振り返ることなく自らの城へと帰還した。
正門が開き、室内へと入ると、そこにいたのは、女の子モンスターの集団であった。
通常魔物兵の様に姿を統一していない彼女達は一斉に頭を下げて、
「お帰りなさいませっ、レオンハルト様!」
「……ああ、今帰った。――キャロル達はいるか?」
「はい。今は執務室にて仕事を為さっているかと。お呼びいたしますか?」
いい、と短くそれに返答する魔人レオンハルト。返答を受けた一体の女の子モンスターは、左様ですか、と頷きながらもこちらの背後に付く。数体の女の子モンスターも一緒だ。
やはり種類がバラバラな彼女達は、レオンハルトの使徒が指揮する親衛隊の隊員であり、答えたのはその親衛隊の幹部を務める女の子モンスター達だ。
それぞれ――ソードマスター、バルキリー、最強魔女の三体の女の子モンスター。彼女達がレオンハルトの周囲を護衛する様に布陣を取る。城内での移動だというのに仰々しいほどに。しかし本人たちは至って真面目に職務を遂行している。手を抜くことなどあり得ないのだ。
やがて、彼女達を連れながらも執務室まで辿り着く。その前で、
「ここまでで良い。ご苦労だったな」
と、レオンハルトが言えば、親衛隊の三人は揃って礼を取る。それを見てからレオンハルトは――気づかれぬ様に溜息を一つ零し、そして女の子を抱えながらも器用に執務室のドアを開いた。
中に入り、背後で扉が閉まる。室内では、
「――レオンハルト様! お帰りなさいませ!」
「出迎え出来なくてごめんなさいっ!」
と、二体の使徒がこちらを出迎えてくれる。
金髪の髪をツインテールに結い、内側が白いレオタードになった青い改造軍服。腰には剣と銃、両方を収められるホルスターを身に着けた、快活な印象の美少女が元気よく挨拶し、もう一体、薄紫色のストレートロングの髪、前髪からは青いクリスタルが覗き、白いレオタードと黒の外套だけを羽織ったスタイルの良い美少女が、わたわたと謝りながら出迎えてくる。その二体を見たレオンハルトは、先程とは違い隠すことなく大きく溜息を吐くと二人の名前を呼んだ。
「……キャロル、
「あっ、それはですね――」
「これですわ!」
じゃん、と効果音が聞こえてくる様に二人がある者を取り出す。
それは表紙にレオンハルトの顔がデカデカと描かれた。
「レオンハルト様オンリーの最新画集の編集が、とうとう終わりましたの! これで次のイベントには間に合いますわ!」
「私が書いた特典小説付きですよ! しかもちょっとエッチなやつ! これはバカ売れ間違いなしです! 金取りませんけどね!」
「…………」
いえーい、とハイタッチしながら完成を喜ぶ二体の使徒を見て、今日一番の微妙な表情を浮かべるレオンハルト。自分の画集を見せられてどんな反応を返せと? といった風に内心で言葉を作るレオンハルトだったが、無言のままそれらを飲み込む。
しかし途中で、あ、と何かを思い出した様に動きを止めたペールが、しかし再起動すると、そのままレオンハルトに向かってきて、
「ああっ、忘れてました! あのですね、レオンハルト様。画集の最後にレオンハルト様のインタビュー記事を載せようと思ってたんですけど、それが終わってなくて、質問に一個答えてくれるだけでいいんですけどね、ええ。ファンクラブの間で一つ、殺到してる質問があるんですよう。出来ればでいいので、答えてくれませんか?」
「…………一応言ってみろ」
「ありがとうございます! では――“レオンハルト様の使徒の方々は、三人ともレオタードを着ていますが、あれはレオンハルト様の趣味ですか? もしそうなら、私もレオタードを着るので、ほにゃらら”――ってな感じですね。あ、これは私も気になってたんですよう。私も使徒化したらフェチ度高そうというか一歩間違えなくても変態みたいな格好になってましたし。まあ涼しいしレオンハルト様の趣味だとしたらそれで良いんですけどね。レオンハルト様はやっぱり、こういう大事なところを隠しつつも、微妙に露出が高い服装が好きなんですか? あ、後はどういったタイプの女の子が好きですか、っていうのも多かったですけど、これは解りきってますよね。レオンハルト様は巨乳好きですし! つまり私が一番好みのタイプってわけですよう! 使徒になってサイズアップしましたし、レオンハルト様趣味のレオタードも完備! ……って、そういえばおかえりの挨拶がまだでした。ごめんなさい、とりあえず……おっぱい揉みます?」
「…………色々と言いたいことはあるが……」
眉間に皺を寄せて顔を少し引き攣らせるレオンハルト。それを見たキャロルが怒った様に、
「何を言ってますのペールさん! レオンハルト様は巨乳好きではありませんの!」
「でも、キャロル先輩も、使徒になった際にサイズアップしたって聞きましたよーーう? それはレオンハルト様が無意識にそれを願っていたのではないですかあーー?」
「うっ、それは……」
痛いところを突かれた、といった風にキャロルが怯む。その間に、レオンハルトは無言で女の子をソファーに寝かせに行く。
ペールがキャロルに指を突きつけ、
「ふふん、もうないですか? 第一、ケッセルリンク様だって巨乳ですよう? これを崩せますかねぇ?」
「ぐぬぬ……ち、違いますわ! レオンハルト様はその……ちょっと柔らかいところが好きなだけですの!」
キャロルが反論する。その間、レオンハルトは棚から毛布と訓練に使う木刀を取り出し、毛布を女の子にかぶせて二人の元に戻る。
キャロルが続けて、
「レオンハルト様はお尻も好きですわ! 何故なら、レオンハルト様はレオタード好き! そのレオタードには、お尻が強調されますの!」
「……確かに、それはあるでしょう。しかし……大事なものを忘れてますよう?」
「っ! それは一体何ですの!?」
驚くキャロルを前に、ペールは不敵に笑みを浮かべる。右手の人差し指で自分の股間、そのサイド部分をなぞりながら。その間、レオンハルトは木刀を構え、弱めに、同時斬撃の構えを取ると、
「レオタードには、もうひとつのフェチ要素があるんですよう? それは、この鼠径部のライン――」
「――いい加減にしろ!!! この色ボケ使徒が!!」
「あいたあ――!?」
「ひいんっ、ですの――!?」
叫びとともに同時斬撃を二人の尻に叩き込むと、二人は窓の外に放り出された。
「――うわっ!? 何か飛んできた!?」
窓の外から部屋を訪ねようとしていたもう一体の使徒ハンティは、窓を突き破って出てきた二人に驚き避けたが、それが身内の二人だと解ると直ぐ様、瞬間移動を用いて拾いに行った。
「――それで、何で二人が飛んできたのさ……?」
「気にするな。ちょっとしたおしおきだ」
「痛いですわ……」
「うう、酷いですよう……」
執務室に使徒二人を連れて戻ってきたハンティは、微妙な顔で二人を見る。二人とも、叩かれた尻擦りながら呻いている。自業自得だ。ハンティが息を吐き、
「まぁ、何があったかは聞かないけどさ……」
「あ、それはですね始祖様。レオンハルト様の趣味がレ――」
「――もう一発いっとくか?」
「――モネード! レモネードがお好きで最近よく飲んでるのを見かけますねってな感じですよう! あはは……」
「……? レモネードが好きなの?」
「人並みだ」
ええ……? と疑問を浮かべるハンティに安堵しながら、ペールを軽く睨む。彼女は苦笑いを浮かべており、
……はあ、いや、良いんだけどな……。
三人目の自分の使徒になった少女、ペールを見て思う。
元カラーの長であるペール・カラー。彼女は数ヶ月前、レオンハルトの使徒になった。
長の仕事は引き継ぎ終わり、後は寿命を待つのみとなったというペールがそれを持ちかけてきたのだ。その際、“変化の時”が訪れそうになったのでギリギリのところで慌てて使徒にしてやったりという一悶着があったが、概ね問題ない。元々、求められれば応じるつもりであった。
しかしまあ、八十年前に会ったっきりで変わったなあ、とか何となく感じていたが、ペールは結構――いや、かなり逞しくなっていた。
カラーの時からその感じは垣間見えていたが、かなり肝が太くなっている。喜ぶべきことだ。以前は引っ込み思案というか内気な部分がある少女だった。それが元気に、そして自信を持てるようになったのはいいことだ。
元より引きこもりがちで本ばかり読んでいたという彼女は、さらに知識を蓄え、魔法が得意なカラーの中でも一番の魔法使いになっていた。これも喜ぶべきこと。
そしてカラーの長として培った実務能力の高さ。これが一番ありがたい。書類仕事から部下の指揮までそつなくこなしてくれる上に、キャロルの様に癖がない。能力自体はキャロルの方が優れているが、ペールはペールでその知識と経験から様々な案を出してくれる。頭の回転も早い。
使徒になって強化された実力や能力。それらも歓迎するべきことだ。優秀である――が、しかし、性格的な癖はついた。
……明るい――というか、はっちゃけ気味。ぶっちゃけ言うならこいつは――変態、だな……。
頭の中がピンク色過ぎる。オブラートに包まないで言うならエロい。そんなやつになっていた。
今思うとカラー時代から片鱗は見えていたが、それを輪にかけて酷くなってる。それもそういう時だけならまだしも、仕事中や何か切っ掛けがあれば平然と性的な何かを口走ったり、求めてきたり、酷い時は勝手に興奮したりと、始末が悪い。自分に自信を持っている所為か、妙に自慢気なのも何とも言えない。それに関してはキャロルもそうなのだが。
そして叱ろうにも仕事だけはきっちりこなすので怒りにくい。せいぜい外ではやめろと軽く注意するくらいだ。この間は、書類に書かれていた“会議“という文字を見て勝手に興奮していた。何故か問うと、“快技する、って聞くとエロい必殺技みたいですよねぇ……”とかしみじみと言っていたので殴った。因みにおしおきする場合も高確率で興奮する。どうすればいいんだ。
……大人しいよりはいいのかもしれんが。
気が抜けるというか救われてる部分もあるので強く直せとも言えない。第一、こうなったのはこちらに原因がある。責任というか認めてやらねばならないだろう。
と、一通りペールについての所感を思ったところで、レオンハルトは改めて言葉を発した。
「……とりあえず先に一つ、前々から思ってたことを言いたいんだが……」
「何でしょう? あちらにいる可愛い娘の話ですか?」
ペールの言葉に、それもある、と頷く。だがそれは後からだ。先に言うのは、
「……あの仰々しい出迎えはやめないか?」
「あー……」
ハンティだけが、理解したように声を上げてくれる。しかし残り二人は、
「それはよろしくありませんわ、レオンハルト様! ここはレオンハルト様の街ですのよ! 皆でレオンハルト様を出迎え、称えるのは当然ですわ!」
「そうですよう。それに、住民はほとんどが麾下の魔物兵ですから、レオンハルト様を敬わない様に、なんて言っても無駄です」
キャロルとペールがそれは嫌、と、無理、と言う。ある意味分かりやすい。キャロルの意見はこの街に住む何割かの部下は本気でそう思ってるだろうし、ペールのそれは道理である。魔人に畏怖するな、なんて言うのは魔物社会に於いて難しい。人間の国で王族、ないしは街を治める大貴族を崇めるなと言っても畏れ多くて出来ないだろう。本心がどうであれだ。しかし、
「そうは言うがな。これだと俺の権威が高まり過ぎだ」
「まあ、同情はするけど、魔人筆頭だし魔軍参謀だし、偉いのは確かなんだから別にいいんじゃない?」
ハンティが気軽にそう言う。だが、そうじゃない。
「他の魔人への気遣いじゃない。魔王に対して不敬と取られかねん。こっちの方が出迎えが豪華なんだぞ? 魔王城だと出迎えはあっても魔物隊長らの対応一つとっても礼儀が完璧ではないやつもいるしな」
おかげで城に勤務するうちの軍以外の魔物将軍、魔物隊長を対象にマナー講習会を開く羽目になった。講師はうちの魔物将軍、たまに魔物大将軍であるリーが務める。
「……そこまで気にする必要あるの?」
「ナイチサは立場や礼儀を重んじる。注意しておいて損はない」
そう。問題は魔王の方だ。
魔物社会では魔王が絶対の存在。人間社会でいう道理は通用しない。どんなに横暴な言いがかりであっても魔王が言えばそれは通る。叶わないことなんてないのだ。
「魔王ナイチサ……か……大丈夫なの?」
「幸いにも俺は気に入られてる節がある。立場もあるしな。だが、お前らは間違っても話しかけるなよ? 接触も可能な限り避けろ。向こうから話しかけられた場合は――」
「忠義を示しながらも、おべっかを使うな。――ですわね!」
「もう何度も聞きましたし、一度会ってますから大丈夫だとは思いますけどねー」
使徒達の言葉に頷く。ナイチサに関しては、接してみた限りだとその対応が正解だ。
「ふーん……まあ、あたしは話したことないけど、そんなんで気に入られるの?」
ハンティが半信半疑といった様子で聞いてくる。その答えは肯定で、
「……権力者ってのはな。往々にして擦り寄りが嫌いなんだよ。心が籠もってない褒め言葉な、つまりおせじなんかも、よっぽどの間抜けじゃなければすぐに嘘だと解る。その手の擦り寄りにはうんざりしてるだろうし、自分の言葉に同調するだけの奴はいらない。……無能であればそれでもいいんだがな」
だが、と、レオンハルトは改めて使徒達に言い含める。
「ナイチサは残忍だが――
「えーっと、それはつまり……?」
ペールが疑問する様に苦笑を向けてきたので、レオンハルトは答えた。
「極めて厄介だな。意味不明な命令を下されないだけ助かるが、一々気を使わなきゃならん。本心をある程度仄めかすことで気に入られた節はあるし、何なら善意や親切心すら感じられる」
「それは良いことなのでは?」
キャロルが言うが、それには首を振る。ソファーに寝かせた少女を首で示し、
「……善意で犯し殺せって言われちゃたまったもんじゃないな」
「っ……!」
「わぁー……すっごい魔王っぽいですよう……」
ハンティが眉を立てる横で、ペールがうわぁ、と表情をげんなりとさせる。レオンハルトは息を吐き、
「部下のガス抜きでそれを許可してきたことは何回もあるが、それを強制されるのは初めての経験だな……さて、どうせこの後、感想を聞かれるんだろうが、何て答えるか……」
「本当にやる気――は無さそうだけど……どうするつもり?」
「保護でもしますの?」
「んー、でも、命令聞かないとまずいんじゃ……」
使徒達の言葉、最後のペールの言に、レオンハルトは否定で返す。それは、
「大丈夫だ。とりあえずはここで保護する」
「え、でも……」
「大丈夫なんだよ。ナイチサはわざわざ一人の人間に安否を気にかける奴じゃない。悪い意味でな。だから俺が嘘をつき通せば一先ずは大丈夫だ」
それに、仮にバレても自分がそれ以外で忠義を示している限り、ナイチサはどうもしないだろう。こちらの気質をナイチサは理解している。やつは犯して殺せと言ったが、褒美だとも言った。受け取ったものをどうしようが構わないということだろう。捕まえた兎を部下に与え、それを可哀想だからと隠して逃したところで咎めるはずもない。少し残念には思うかもしれないがな。
命令だ、と言われていればやるしかなかったが、そうでないのならどうとでもなる。勿論、嘘をつく以上は注意しなければならないが、
「さて……どうするかな。どう答えたらそれっぽいか……」
「あ、良いこと思いつきました! 私が嫌がる女性の役をやりますので、レオンハルト様が私を襲えば解決ですよう!」
「なっ、ずるいですわよ! わたくしも――」
「えー? キャロル先輩はレオンハルト様に襲われて嫌がる演技なんて出来ないんじゃ……」
「……勿論出来ませんが、それは愛と忠義と気合いで何とかしてみせますわ!」
「……何でシチュエーションプレイすることになってるんだ」
「命令は犯して殺せ、だから無理だと思うけど」
ハンティが呆れた様に言う。同意だ。レオンハルト頭を抱えながらも肩を鳴らし、
「――まあ、何とかなるだろ。とりあえず、そいつが起きたら優しくしてやれ。俺はまた城に戻らなきゃならねえしな」
仕事はまだ終わってない。一先ず、少女を匿うために連れてきただけだ。この城も中々に役に立つ。魔人筆頭は城で勤務することが多いが、わざわざ街の増築ついでに城を建てたのは息抜きする空間と、こういうことの為でもある。キャロルが城の外壁を全部赤色で発注して、紅魔城とか言われた時には張り倒そうかと思ったが、住めば都だ。快適だしこれでも構わんだろう。
「というわけでだ。あいつに乗せてって貰うか」
「あ、じゃあ呼びますね――っと、あ、いました!」
レオンハルトが言うと、ペールは執務室の窓を開いて眼下に向かって叫ぶ。そこは広めの中庭であった。ペールが腕を振って、
「――ライゼンさーん! レオンハルト様が、魔王城まで乗せてって欲しいそうですよーーーう!」
「――またか!?」
言って顔を覗かせてきたのは、四大聖竜。ダイヤモンドドラゴンのライゼンだ。彼は勢いよく顔を上げ、
「レオンハルトよ、貴様最近、俺を便利な乗り物だと思ってるのではあるまいな!?」
「思って――ない、な。というか、嫌なら断ればいいだろ」
「ぐっ、確かにそうだが……」
ライゼンが顔を顰めさせる。視線は、横のペールに向かっており、
「えー、友達なんだからいいじゃないですかぁ。ライゼンさんも暇ですよねえ?」
「そ、それはだな……しかし――」
「私とライゼンさんの仲じゃないですか! お願いします! また今度焼き肉パーティしますから!」
「…………というわけだ!」
「……前々から思ってたが、お前、妙に甘いよな――女に」
「ええい! 仕方なかろう! 女の言うことは出来るだけ聞かねばならんのだ!!」
ライゼンが威勢よく情けないことを言う。ペールが補足するように、口元を手で抑えたしたり顔で、
「ライゼンさん、優しいですからねー。80年くらい、ずっと話し相手になってましたし。わざわざ麓まで降りてきてまで」
「き、貴様!! それは言うなとあれほど――ぐぅ! とにかく、行くぞ!」
「お、おう。じゃあ行くか……」
このままここにいるとライゼンの秘密がどんどん暴露されそうだし、窓に手を掛けてそこから飛び降りる。そのままライゼンの背中に着地する。そのまま翼を羽ばたかせて上昇しはじめた。
眼下から、キャロル達の、いってらっしゃい、という言葉を耳にし、レオンハルトはライゼンに乗って再び魔王城へと戻っていった。
スラル「紅魔城……! かっこいい……! 何で私がいる時に建ててくれなかったの!? あったら住んでたのに!」
レオンハルト「ツッコミにくいブラックジョークやめろ」
ペール「吸血鬼が住んでそうな名前でいいですよねえ。それより、私のことは話さないんですか?」
スラル「え、だって貴方、モブだし……」
ペール「モブじゃないですよう!! メインキャラ! プロットにいなかろうが予定になかろうが使徒に昇格した時点で勝ち組です!」
ライゼン「……因みに、俺は――」
キャロル「ライゼンさんは乗り物に昇格しましたわ! おめでとうございますの!」
ライゼン「」
ハンティ「冗談――ではないかもだけど、悪意はないから許してあげて……」
ラウネア「…………(ちなみに使徒ペールはモデルがいる。その方がイメージしやすいかなあって。そのうちプロフィールも公開するね)」