※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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とある王国と大将軍会議

 大陸東部。

 人類圏にあるその王国は、最も歴史があり、それでいて最も美しいと謳われる人間の覇権国家であった。

 歴史ある荘厳な建造物が立ち並ぶ、街の通りを行く人々の顔に、不安の表情はない。それは国が豊かであるという至極当たり前の理由もあるが、それだけではない。他の国の民とは違い、その国はある心配とは無縁に生きているがゆえのことだ。

 

 それは――魔軍の存在。

 

 多くの人類国家が恐れる、人に仇なす魔軍の脅威。その殆どの国が、一度は国を滅茶苦茶にされた歴史を持つ。

 しかしこの国は領地を魔軍の勢力圏と接していながら、魔軍が全く攻めてこない国として有名だった。

 最後に魔軍が攻めてきたのは、国の黎明期――四百年程前のことである。それ以降、魔軍は一切この国には手出しをしてこないのだ。

 ゆえにこの国は昔から、世界で最も安全な国として名高く、その噂を聞きつけた多くの人がこの国に移住したことで、過去に国を立ち上げ、発展させてきた歴史がある。

 他の国が魔物の対策で頭を悩ませ、その甲斐虚しく国を滅茶苦茶にされる中、この国では順調に発展を続け、いつしか覇権国家となっていた。

 魔軍に労力を割く必要がなく、街を壊されることもないため、歴史ある街並みを残しながらも街を綺羅びやかにしていく。人と物が途切れることなく集まり、国を裕福にしていく中、当然のように他国との外交でも常に優位に立っている。

 定期的に侵略してくる魔軍との戦いとその復興で余裕がない他国は、物資をこの国から買い付けることも多い。そのことも、この国をさらに富ませていくのだ。

 他国の足元を見ながら物資を高く売りつけ、その富でさらに国を豊かにしていく。魔軍が他の国を襲う度、それは延々と続き、終わることのない富の循環をこの国にもたらす。

 

 王国の首都にある宮殿。その中にある謁見の間では、今も他国から来た使者が歯を食いしばりながらも必死の形相で頭を下げる。

 

「何卒、何卒お願い申し上げます……! このままだと、我が国の民は餓死してしまいます……! それだけは……!」

 

 その声は悲痛に溢れていた。

 かの国はつい先日攻勢を仕掛けてきた魔軍の虐殺と掠奪によってボロボロであり、国の民は数十万規模の難民で溢れかえっている。食事も満足に取れず、次々と餓死者が出ている。それを、この国に住む者も知っているはずだ。

 しかし玉座に腰をかけるこの国の国王は、眼前の使者を冷たく見下ろしながら、それを突っ撥ねる。

 

「ふん、そんなことは知らんな。餓死者を出したくないのであれば、出し惜しみせず金を払えばよかろうて」

 

 その言葉に使者は声を跳ね上げた。

 

「し、しかし! 適正価格の倍など、我が国では払うことが……!」

 

「ならば他の国に頼むのだな」

 

「ぐっ……それは……」

 

 使者が苦悶の声を上げる。それが出来れば苦労はしない。

 どこの国も自分の国で手いっぱいで、それほど余裕があるわけではないのだ。だからこの国で買い付けるしかない。それを、国王は知っているのだろう。

 足元を見られている。その事実に頭が煮え滾り、目の前の男を殴りつけてしまいたくなるが、衝動のままにそれを行なってしまえば、我が国は終わりだ。

 交渉の余地すらない。その現実を認識しながら、使者はしばらく黙り込む。

 すると、国王が息を吐き、

 

「……こちらも忙しいのだがな。何もないなら私は行くが――」

 

 と、立ち上がってみせる。交渉は終わりだ、と。それを見た使者は慌てて声を飛ばした。

 

「お待ち下さいっ!」

 

「ん? どうした? 払う気になったのか?」

 

 首を傾げながらわざとらしく煽ってくる国王。使者は喉元まで出かかった文句を、ぐっと呑み込み、代わりに別の言葉を絞り出す。頭を下げ、

 

「……払わせて、いただきます……」

 

「ほう、そうか」

 

 国王がその言葉を聞いて髭を撫で付けながら優しそうな笑みを浮かべる。

 

「うむうむ、ならば任せておくがよい。すぐに物資を届けようではないか。何、無辜の民が失われるのは私としても心が痛む」

 

「……ありがとうございます……」

 

「よいよい。金は払うのであろう? それならばいいのだ。我が国も、財政に余裕があるわけではないからな。助け合いがしたくとも最低限金を取る必要がある。致し方ないのだ」

 

 ――どこがだ……!

 財政に余裕がない、と国王は言う。全身を質の良い色彩豊かな服で包み、手の指に幾つもの宝石がついた指輪を嵌めた爺がそう言うのを見て、使者は内心で激昂した。ここに来るまでに幾つもの街を見た。どの街も裕福で、この王都、そして宮殿に至っては壁や床の材質から調度品、メイドの服一つに至るまで、その全てが高価なものが使われている。どれも一級品だ。この状態のどこが金がないというのか、問い詰めてみたいほどに。

 だが、背に腹は代えられない。民の命に代えられるものはないのだ。そう思い、使者は謁見の間から立ち去っていった。

 

「…………」

 

 それを、じっと黙って見つめていたのは、国王の隣に並んだ亜麻色の髪の少女だった。

 綺羅びやかなドレスに身に着けた翡翠色の瞳をもつ美しい娘。

 彼女の名は――シャロン。

 この国の第一王女である。

 そんな彼女は笑顔を顔に張り付けたまま、立ち去っていく使者を黙って見送る。

 やがて、謁見の間から使者が退出すると、シャロンは隣の父に声を掛けた。

 

「……良いのですか、お父様」

 

「別に構わぬだろう。ただでくれてやる義理はないのだし、適正の倍とは言ってもそれはギリギリ払えるだけの値段だ」

 

 そう、国王はそれを計算した上で、その金額を提示した。

 あまり釣り上げすぎると、物資を渡し、復興がなったとしても国が傾いてしまう可能性がある。

 そうなればこれ以上金を搾り取ることが出来なくなるのだ。生かさず殺さずが肝要。そう理解した上での国王の言葉。

 しかしシャロンは首を振り、

 

「……いえ、それではなくて……先の……」

 

「……ああ。あの身の程知らずか」

 

 シャロンの言いづらそうに濁した言葉で、国王は何を言いたいのかを察する。

 それは、この交渉の前に訪れた輩のことで、

 

「ふん、どうもこうも、あり得ぬわ。あの程度の国と婚姻を結ばせるなど、全く釣り合っておらんのだ。お前も嫌だろう?」

 

「……私は……でも……」

 

 口ごもってしまうシャロン。確かに結婚したいとまでは思わない。

 だが、先の相手――隣国との縁談を蹴ったのが良いことかと言われるとそれも微妙なところだ。

 何せ相手は、

 

「……ふん、お前が何を心配しているかは分かるがな。それはいらぬ心配だ」

 

 と、国王は鼻を鳴らして、不敵な笑みを浮かべる。皿に乗せられた幾つもの果物の中から一つを手に取り、それを噛りながら、

 

「戦争になったとしても、まず負けはない。潤沢な資金に物資、そして他の国とは違い、消耗することなく残っている我が軍に掛かればな」

 

 確かに、それは事実であった。

 他の国は魔軍との戦争で血を流すことを強いられ続けている。

 そんな中、この国は被害を一切被ることがないので、国の兵士も、精鋭だけを集めた騎士団も、全て万全の状態で揃っているのだ。

 負けるはずはない。それはわかる。

 

「……でも、戦争は……」

 

 戦争は、したくない。

 それはなんとなく悲しいことだから。

 だが、だからといって結婚も、

 

「……ふふ、だがなシャロンよ。戦争にはならんぞ」

 

「え……?」

 

 不意に、父の笑い声が響く。

 戦争にはならないというその根拠がわからない。そのため疑問符を頭に浮かべるシャロン。

 その答えは、父の曖昧な言葉で答えられた。

 

「知ってるはずだ。この国は、守られていると」

 

「! それは……」

 

 言われた言葉に、まさか、という思いを得る。

 父の言葉の裏にある意味。それは確かに知っている。

 それは秘匿され、しかし噂として流れているものだ。それは、

 

 ――この国は、魔軍と通じている。

 

 魔軍の被害を受けないこの国に対してまことしやかに語られる、そんな噂。

 しかしそれは間違いで、事実はまた少し違う。

 この国の王族、そして重鎮は、その事実を知っている。

 他国に知られ攻撃の材料とされることを恐れ、歴史の闇に葬った人物。

 この国の礎を築いた始祖にして、しかし、人々に忘れ去られた救国の英雄。

 その存在を思い、国王はほくそ笑む。

 

「戦争にはならん。ならないとも。我が国が戦うまでもないからな」

 

「…………」

 

 愉快そうに笑う父の姿を見て、シャロンは黙りこくる。

 確かに、それならば不安を覚える必要はない。この国は安全だ。

 だから、この胸騒ぎは気の所為だ。そうに違いない。

 そうしてシャロンは考えることをやめて、早速行動を取り始めた父を黙って見続けた。

 

 

 

 

 

 レオンハルトシティにある大きな屋敷のような建物。

 それは街に設けられた大規模な魔軍の司令部であり、そこにある会議室は、魔軍の重鎮が集まる広い部屋だった。

 室内には続々と大柄な魔物――魔物将軍が入室してくる。その中でもさらに一際大きい魔物が、魔軍の最高幹部である魔物大将軍だ。

 魔人や使徒を除けば最高位の存在。魔物将軍を越える頭脳を持ち、数十万規模の魔物兵を動かすことが可能で、無敵結界や特殊な能力を加味しない単純な戦闘力では下位魔人にも相当する。そんな限りなく支配者に近いその魔物が椅子に腰掛け、それぞれ正方形に並べられたテーブルの辺の真ん中に並ぶ。一体、二体、三体、四体。そうして彼らが揃うと、一体の魔物大将軍が声を上げた。

 

「――では、これより会議を始める」

 

 そう宣告するのは、魔物大将軍リー。

 レオンハルト軍を主に担当する魔物大将軍である彼が会議の始まりを告げる。

 今から行われるのは各軍との折衝、意見を求め、各軍の動きを調整するためのものだ。

 大きな議題は、すでに彼の上司である魔人筆頭兼魔軍参謀である魔人レオンハルトによって伝えられている。

 その内容は、

 

「先日、魔王様からレオンハルト様に勅命が下った。長くとも一年以内に、人間の大国を滅ぼすこと。この命令に伴い、各種情報を精査した上で意見を募りたい」

 

 その話題に、議場がにわかにざわつく。

 魔王が代替わりして最初の大規模攻勢が行われる。それをどうするか決めようと言うのだ。

 実際は意見を幾つか出し、それを上に伝えて確認を取ることとなるだろうが、それでも重要な仕事だ。

 手柄を立てるチャンスでもある。ゆえに立ち上がる者が出てくるのは必然だった。

 

「なら、一番に出向くのは俺の軍だ」

 

 リー大将軍の正面、一体の魔物大将軍が立ち上がる。

 そのことに白い目を向けたのは、右手側にいた魔物大将軍で、

 

「……コウウ、貴様……話を聞いていたのか? 情報精査の上で意見を出せと言っているのだ。順番決めの話はしていない……!」

 

「聞いた上で言ってるに決まってる。そんなことも分からないのか、ヴラド」

 

「貴様……! それは私を侮辱しているのか……!」

 

 強く睨みつけるのは、右側に座る魔物大将軍ヴラド。

 カミーラ軍の指揮を担当している魔物大将軍であり、その手には刺々しい針が生えている。後は何故か、前のテーブルに四角い容器に入った肉が置いてある。

 それを口にしているのを見て、コウウ、と呼ばれた魔物大将軍が腕を組みつつ声を上げる。

 彼は独立した軍を率いている魔物大将軍であり、上役の魔人がいない。

 というのも手柄を全て自分ものにしたがる悪癖があるため、それを拒否してくるのだ。

 そんな彼がヴラドに向かって文句を言う。

 

「俺の軍でやった方が早いし、絶対に勝てるからな。当たり前のことだ。……というかお前! 何を会議中に肉食ってる!? お前の方が無礼だぞ!!」

 

「何だと!?」

 

 ヴラドががたっと音を立てて立ち上がる。その手には串に刺さった茶色の肉があり、香ばしい匂いを辺りに漂わせている。それを掲げ、

 

「貴様、よほど物を知らぬと見える……よく見ろ! これはただの肉ではない、串焼き肉だ……!」

 

「一緒だ馬鹿! 死ね!」

 

「ふん、カミーラ様の城から急いでやってきたのでお昼を食べていないのだ。だから手早く摂れるようそこにあった出店で貰ってきた。うむ……これはいいな……味も美味いが、“串焼き”というのが特に良い……。おい、お前、今すぐ走って私のために串焼き肉をもう少し貰ってくるのだ。いいな?」

 

「え、あ、はい! 直ちに!」

 

「話聞けよ馬鹿!!」

 

 コウウが怒ってテーブルを叩く。配下の魔物将軍を出店に向かわせたブラドは、そこで白けた顔をコウウに向け、

 

「騒々しいな、粛清されたいのか? 騒いでも貴様にはやらんぞ」

 

「……いらねえよ!! 死ね!!」

 

 コウウがちょっと間を開けて返答する。ちょっと食べたかったんだな……、と議場にいる魔物将軍らの意見が内心で一致した。

 同僚二体のやり取りを見て溜息を吐いた大将軍リーは、そこで左手側に目を向け、

 

「……うむ、まあそれは置いといてだ……何かないか、バルカ大将軍」

 

「…………」

 

 一度も言葉を発しないもう一体の大将軍に声を掛ける。

 彼は魔物大将軍バルカ。

 ケッセルリンク軍の指揮を担当する魔物大将軍であり、リー大将軍にとっては馴染みの深い相手である。

 というのも、各魔物大将軍はそれぞれ上役の魔人とともに各地に散らばっているのだが、彼の上司であるケッセルリンクは、未だこの地に留まったままだ。

 そのためリー大将軍としてはよく関わる相手なので色々とやりやすい。騒ぎを起こす他の二体に比べればだが、

 

「……おい、バルカ大将軍?」

 

「…………む、何か?」

 

 今まで気づきもしなかったのか、議場に来て初めて顔を上げたバルカ。

 その視線の先で見つめていた物を見て、やはりリーが息を漏らす。

 

「……その、何だ……会議中に一人チェスはどうかと思うぞ……?」

 

「……しかしだ、リー。もうすぐで新しい手筋――いや、革新的な戦法が見つかるところで……」

 

「悪いが、後でやってくれ。私も付き合うから」

 

「……仕方ないな……」

 

 渋々とチェス盤を片付けてくれるバルカ。マイペース過ぎて頭が痛くなる。

 リーは気を取り直して、仕事を進めようと議場に声を通す。

 

「……本題に戻るぞ。大国程度の国であれば数は限られているが、その中でもどこが一番適当か。まずはそれを考えよう」

 

 普段よりも大きな戦いとなる。どこを相手にしてもまず負けることはあり得ないが、兵の消耗は少ない方がいいし、楽出来るのならその方が良い。

 リーはまず自分の考えを言ってみせた。

 

「私が思うに……この国など、距離も近く、兵士も弱いので適当だと思うのだが」

 

 テーブルの中央に広げられた地図を指して言う。他の大将軍もそれを目にし、

 

「相手が弱いとイライラするから却下だ。どうせなら強いところがいいだろ。俺にかかれば殲滅も簡単だ」

 

 不敵にそう言ったのはコウウだ。自分が負けるとは微塵を思っていない傲慢な彼は、別の国を指し、

 

「ここなんかどうだ? 城も砦も結構硬い上に、土地も悪くない。ここを俺に任せれば――」

 

「貴様、また侵略した土地を全部自分のものにする気か?」

 

 呆れた様にヴラドが言う。まだ串焼き肉を食べて口元を汚しているが、そこには突っ込まず、コウウが睨む視線を向けながら、

 

「……何だ、悪いかよ?」

 

「悪いにきまっている。貴様が侵略して得た物は、まず魔王様、延いては魔人の御歴々のものだ。我々はその後で褒賞としてそれを受け取るのだ。自分が奪ったから全部自分のとはならんだろう、貴様は野蛮人か? 少しは大将軍らしい品格を身に付けたまえ」

 

「ぐっ……んなこと分かってる……!」

 

「分かっているのなら、暴れたい殺したい奪いたい、とそんな理由だけで動くのはやめてほしいものだな。全く……こちらはカミーラ様への献上品の選別で忙しいというのに……」

 

「……お前だって串刺しがしたいくせによ……」

 

「私のは趣味だ。ちゃんと言われた仕事をこなした上で、余裕のある時だけ楽しんでいるし、許可も取っている。だから問題はない」

 

「っ……クソが……」

 

 尊大な態度を取るヴラドに言い含められ、コウウが小さく悪態をつく。

 コウウは大将軍の中で唯一、後ろ盾となる魔人がいない。他の三体はそれぞれ魔人四天王、そして魔人筆頭の下で動いているため、その上からの命令を実行する以上、行動を制限されることはない。

 魔王や他の上級魔人にでも言われれば従うが、その場合も話を付けるのは上の魔人同士だ。命令を下した相手がより上の方が優先されるし、同格であれば話し合いをする。各軍で方針が揉めた場合はそのような形になるのだ。

 ゆえに立場上は同じ地位にいる大将軍であるが、その序列ははっきりと定まっている。

 まずは魔人筆頭、レオンハルトの麾下につくリーが若干上。次に魔人四天王の麾下であるヴラドとバルカが同格。その下にコウウだ。

 それはひとえに、コウウが上役を欲しがらないことと、そもそも同格の存在がいないことが原因だろう。魔人四天王の席には未だ二つの空席がある。そこに誰かが座り、コウウがその下に就くことを望めるのなら彼の鬱憤も晴れるのだろうが……今考えても詮無き話だ。

 

「とはいえ、私はどこでも構わぬ。大国であるのなら人も物も揃っているだろうし、戦略的に合理的な場所を選ぶのが良いな」

 

 うむ、とヴラドの言葉にリーが頷く。それが良いだろう。

 魔王からの命令で一年以内に国を滅ぼせ、というからには求められているのは速やかに血を流させること。容易い場所であることに越したことはない。

 

「……楽にやるなら良い場所があるぞ」

 

 そこでリーは左から飛んできた声に顔を向けた。

 バルカが地図を指差し、

 

「この国か、この国が良いだろう」

 

「ふむ……む、そこは……」

 

 とある国を差されてリーが眉根を寄せる。

 その二つの国、その一方は魔軍に於いて暗黙の了解とされている場所であり、

 

「……そこは、攻めても良いのか?」

 

 ヴラドも疑問を呈する。まだ数年と生きていない彼でも、そこがアンタッチャブルであることは理解している。

 かくいうリーも、何となくでしかその事情を知らない。明確に聞いたことはないからだ。

 ただ上から――“そこには手を出すな”、と言われたことはある。かなり昔、自分が魔物将軍であった頃の話であるが、よく覚えている。

 その時の様子が有無を言わせないような、そんな剣呑なものを帯びた様子であることも。

 だから、ではないが、リーは質問した。

 

「……解らないが……ただ、バルカ。何故この二つの国なのだ?」

 

「それは簡単だ」

 

 バルカがその理由を言う。それは、

 

「この二つの国の間で――どうやら戦争の準備があるという」

 

「!」

 

 驚愕の気配が議場を支配する。

 まず来るのは、何故、という思いだ。その通りに口に出そうとする。

 しかしその前に当のバルカから続きがきた。

 

「今朝方、前線に出していた工作員がその情報を持ち帰ってくれたのだ。……最近、ある理由から人間の国を調べていたのだが、それがこういう方向で作用してくれるとは……さすが私だな」

 

 自画自賛をするバルカに何とも言えない顔を浮かべてしまう。

 ある理由というのが気になるが、その情報が確かなら、彼が言いたいのはつまり、

 

「……負けた方――いや、勝った方を攻めるのか……」

 

「そう。そういうことだ。大国同士でぶつかり合い、勝って疲弊した方に攻め込む。勝利した方はより大きくなるだろうからな。巨大な国家ではあるが、戦争の後であれば楽に倒せるだろう。血も多く流れる。上手く殲滅してしまえば、両国にあった何もかもが手に入る。戦略的にも悪くない場所だ」

 

「ふむ……」

 

 バルカの提案に皆が考え込む。悪くはない案だ。

 決着の仕方にもよるだろうが、途中で停戦するなどして痛み分けで終わるにせよ、それなりに疲弊することは避けられないだろう。人間の大国同士で戦争することは滅多にないのでそこは適当に弱い国を選べばいいとも思っていたが、これから起きるというなら話は別。これが一番楽に終わりそうだ。

 しかし、その作戦を実行するに当たって、問題がある。

 

「……ということで、リー大将軍には聞いてきて貰えると助かるのだが」

 

「む、むぅ……そうだな……」

 

 窺いを立てなければならない。自分の上役に。

 話せば分かってくれる相手ではあるが、昔を思い出すと気が引ける。

 しかしそんなことは露と知らず、バルカは頼んでくる。この片方の国が、こちらの上司である――

 

「レオンハルト様に――この国に手を出しても良いのかと」

 

 魔人レオンハルト。その故郷であるという――そんな噂を知らずに。

 




スラル「またなんかビッグネームが多いわね……。皆はちゃんとわかるわよね?」

レオンハルト「コウウはあれだ。コウウだけに功績を欲しがるというか……」

スラル「……? ……あ、そういうこと! 一応合ってるわ。ダジャレだけど。じゃあ次」

ペール「小麦粉を発酵させた食べ物になりたいですわー。なって食べてほしいですわー」

スラル「…………ああ、パンになる、ね。わかりにくい! はい次!」

ガルティア「あーそうだな、こう平らな面に――」ボシュッ

スラル「――フラットって、言いたいの……?」

ラウネア「…………(皆は全員わかったかな?)」
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