活動報告に言い訳が乗ってるけど、一昨日には復旧したから気にしなくていいよ!
というわけで即落ち二コマ劇場をどうぞ()
王国騎士にとって、その日は悪夢の一言に尽きた。
我らが王国、大陸に二つとない覇権国家である我が母国は、突然の戦火を強いられたのだ。
開闢以来、王国が王国となる前も合わせれば実に400年振りの戦争。その原因である隣国の大義名分は、第一王女との婚姻を断られたから、というもの。
その大義名分は馬鹿馬鹿しいの一言に尽きる。それは建前であり、今まで王国への恨み辛みが募った結果に過ぎない。上層部の判断はそうだった。
そして、この時点で国内の誰も彼もが、思ったことだろう。――負けるわけがない、と。
勿論、隣国の国力も侮れたものではない。しかしそれ以上に、王国の国力が圧倒的だった。
単純に領土を比較しても二倍以上。国民の数もそれ以上。物資も潤沢、それこそ他国に売るほどにある。さらにいえば、魔軍との戦争を頻繁に行っている隣国と比べ、王国は前述のように四百年以来となる。
兵の数は――いや、全てにおいて、余力は有り余っていた。やはり負けるはずがない。
しかし、蓋を開けてみれば、
――蹂躙であった。
王国が、ではない。隣国が、だ。
圧倒的な数的優位を誇り、開戦したその戦争は、初戦から隣国の圧勝であった。
その理由は? と聞かれれば、こう答える他ない。
個の質、そして何より――経験であると。
王国の兵は、戦争を知らなさすぎた。
最初にその恐怖を感じ取ったのは、隣国の兵が、必死の形相で突撃を掛けてきた時。
「うおおおおおお!! 突撃ィィ――ッ!!」
「ひっ……あ……!」
そこは死と隣合わせの地獄。
血で血を洗う闘争の中心。この世界では日常的に行われていること。
戦場の空気を初めて感じた王国の兵達は、揃いも揃って使い物にならなかった。
一丸となり、決死の覚悟で突撃してくる隣国の兵を見て、一兵士から将兵に至るまで、その気迫に呑まれたのだ。
訓練は受けてきた。戦いのやり方は知っている。レベルだって上げた。
しかし、戦争は誰に教えられることでもない。いや、幾ら教えたところで、実戦が欠落したそれは机上の空論でしかない。
数年単位での戦争を経験し、数十年もの間、幾度もの戦いを乗り越えてきたベテランがいる隣国と、四百年間、一度の戦争も経験してこなかった王国では、文字通りレベルが違ったのだ。
皮肉にも、圧倒的な国力と、その裏にある事情を背景に行ってきた外交政策の――その良し悪しは別として――結果が、実戦経験が皆無であるという、絶望的な結果をもたらしたのだ。
王国の兵はパニックとなり、戦場から逃げ出そうとする者で後が立たなかった。
残った兵も、初めて経験する戦場の空気に当てられ、体を震わせ、嘔吐し、やがて屍を晒す。
本当の戦いを経験してこなかった彼らはそこで初めて戦いを経験し、結果、死という高すぎる授業料をもってその地を去ることとなる。
そうして王国は、初戦に敗北した。
あるいは、その時点で敗北していた。
大半の兵を失い、物資を奪われ、国土を次々と踏み荒らされていくのを、上層部も含めた国民は、黙って見ていることしか出来なかった。
数十万の国民が殺され、首都を包囲されたその時。
王国は敗北を認めた。
だが、その際に犠牲になった者がいる。
戦犯として、その矢面に立たされたのは、他でもない。
隣国が攻め入る原因となった第一王女――シャロンであった。
王国首都。
戦火にこそ包まれなかったその街だが、普段とは違い、陰鬱とした雰囲気が街中を覆っている。
その中心である宮殿には、他国の兵士が出入りしており、時折、荷車を使って何かを運んでいく。その中身の殆どはお金であり、王家が貯蔵している金庫から奪ったものだ。
それ以外でも、貴族の屋敷、街中で公然と掠奪や暴行が行われていた。
だが、隣国の軍をまとめる指揮官が街に着くと、ひとまずそれは取り止められた。
その日を持って、王国は王国でなくなる。代わりに隣国の一部となる。
国の重鎮や王族は揃って捕虜となり、牢屋の中で沙汰を待つのみ。
しかし国民感情に配慮し、第一王女だけが牢屋ではなく、外に出されることとなった。
それは戦争終結前に、国王が言ったとある発言が原因である。それが、
――第一王女が結婚を断らなければ、こうはならなかった。
国王は、隣国からの婚姻の申し出を断ったのは、シャロンの独断であったと供述した。
自分はそれを受けるつもりだったのに、シャロンがどうしても嫌だと言うので泣く泣く断ったのだと、訴えたのだ。
そしてその訴えに、王国の重鎮達も同調した。
自分達の説得に耳を貸さず、取り付く島もなかった。結婚なんてしたくない、と駄々をこねていたと。
無論、それは事実ではない。
シャロンが結婚に乗り気でなかったのは事実だが、隣国からの申し出を、釣り合わないから、という理由で断ったのは国王を中心とする国の重鎮達だ。
しかし例え真実がそうであっても、多くの民はそれを信じた。
シャロンは違う、そうではない、と何度も訴えたが、父である国王に叩かれ、嘘つき呼ばわりされた。その際の演技が迫真に迫るものであったのと、国民には善政を敷いていた国王の言葉というのもあり、それは真実とされたのだ。
かくして第一王女シャロンは、必死の反論も虚しく、ボロ布を身に纏い、手枷、重し付きの足枷を付けられ、王国首都であった街の広場で、“晒し刑“に処され、後に“火あぶりの刑”に処されることに決まった。
「…………」
シャロンは、それを受けながらずっと思っていた。
何故、こんなことになったのか。
どうして、自分がこんな目に合わなければいけないのか。
「お前のせいでどれだけの人が死んだと思ってる!?」
道行く人から石を投げられた。違う、私のせいじゃない。
「しかも我が身可愛さに嘘までついて……この嘘つき王女!!」
殴られ、蹴られながら、嘘つき呼ばわりされた。嘘なんてついていないのに。
「へっ、国王様に申し訳ねぇと思わねぇのかよ……! ほら、謝れ!」
大勢の男から暴行を受けながら、謝罪を強要される。謝る。謝るからもうやめて。
数日間。晒し刑は継続して行われた。
死なない程度に暴力を受け、身体に性臭がこびり付くほどに暴行を受けた。体の感覚がだんだんと無くなり、何かを考えることが億劫になった頃。シャロンは広場の中心にて磔にされる。
衆人観衆に見世物にされる中、火は灯され、足元から徐々に炎が燃え盛る。
煙で喉が、身体の内側が苦しい。熱さはまだそれほど感じない。
炎の中で、シャロンはただ自分の運命を嘆く。
どこから間違っていたのか、何が駄目だったのか、理解が及ばないまま、シャロンはゆっくりと意識を薄れさせていった。
――そして、
「…………」
一国の姫が国民に怨嗟の声を浴びせられ燃やされる、その光景をじっと見詰めている者がいた。
フードを被った長身の女性の名は、ケッセルリンク。
人間の国を偶然訪れていた彼女は、何を思ったのかゆっくりとその姫に近づいていく。そして、
……酷いな。
近くで彼女の姿を見るも、目を背けたくなるような惨状に眉をひそめる。
このような光景はカラー時代。そして魔人となってからも見たことのある物であったが、この少女のそれは負けず劣らず酷い。
きっと何もかもに裏切られ、絶望した。でなければ、このような虚ろな目にはならないだろうと。
そしてケッセルリンクは半ば反射的に、心の中でつぶやく。
……助ける、か……。
あまりにも酷い仕打ちを目撃し、助けてやりたいと思う気持ちが先行するも、そこで一歩思い留まる。
助けはしたい。だが、この傷では炎の中から救ったところで既に満身創痍。助かるはずもない。
それでも助けるというなら、方法は無くもない。一つだけあるその方法を使えば助けることは出来る。しかし、
……彼女は、私の傍にいてくれる者になりうるのか。
寂しさを少しでも埋めるため。その目的の為に、わざわざ人間の国にやってきたのだ。それを、こんなところで、しかも彼女の意思も聞かずに決めてしまっていいのかと。
しかしこうしている間にも、彼女の命は刻一刻と終わりに近づいている。
なら、やはり、
「……私は……」
彼女が、自分の傍にいてくれようとするのかは分からない。
だがそれよりも先に、自分は彼女を、
「…………」
と、思った瞬間、ケッセルリンクはその身を動かした。
磔にされた彼女を、一瞬にして炎の中から救い、人混みの中から退散する。処刑対象であった少女がいなくなったことで広場が騒然とするが、魔人四天王に名を連ねる魔人、ケッセルリンクの速度を、目で追える者はその場にはいなかった。
「――レオンハルト様ー?」
「……どうした?」
不意に使徒であるペールに声を掛けられ、魔人レオンハルトは瞳を見開いた。
そこは人類と魔物の世界の境界線。その手前にある丘であり、遠く見える街や村では火の手が上がっているのが見える。レオンハルトが故郷を見限ったこと――は、これに於いては関係ない。ただの人間同士の戦争の結果、故郷は隣国との戦争で、完膚なきまでに叩き潰されただけのこと。
それを眺めていたのを知ったペールは、少し微妙そうな表情で、
「ええと……あの、あっさりと負けちゃいましたね?」
「……そうだな」
本当にな、と思う。だがそれは、
「ひとえに弱すぎるせいだ」
「ですかねー」
ペールがあっさりと同意する。しかしレオンハルトの心の内では、別のことを考えていて、
……だが弱くなった原因は俺にある。
例え自分がここで助けていたとしても、これほどまでに弱く、愚かな国であれば遅かれ早かれ滅んでいただろう。しかもそれはきっと、自分がこの国を救った時から決まっていたことだ。どこから間違っていたのか、と問われればそこになるのだろう。その事に、どうにもやるせない感情を覚えながら、レオンハルトは鼻を鳴らす。
「……それで、ケッセルリンクとは連絡が付いたのか?」
「あ、そうなんです、そのことでお話があってですね」
と、ペールは予め報告しようとしていたであろうそれを、主に向かって言う。
「人間の街から出てきたケッセルリンク様を、工作員のライカンスロープが見つけたらしいのですが……それが、なんと――」
そこでペールはレオンハルトを驚かせようと、一瞬の溜めを作った後に、
「――ケッセルリンク様が、とうとう使徒を作ったそうなんです!!」
言った。その事実に、レオンハルトはほんの少し目を細め、
「……そうか」
「……あれ? あんまり驚かないんですね?」
問われ、レオンハルトは息を入れる。再び遠くの街を見ながら、
「いや、驚いてるといえば驚いてる。ただまあ……使徒が出来るような気はしてたからな。ようやく来たか、って思うだけだ」
「まあそうかもですけど。……でも、どんな人か、とか気になりません?」
その言葉にレオンハルトは僅かに笑みを浮かべると、
「何、直に分かる。予想しても意味はない」
「そりゃーそうですけどー……なんか今日のレオンハルト様はちょっとシリアス気味ですね?」
「大きな作戦の前だからな」
そんなもんですか、と言うペールに、内心で言葉を作る。それは言ったこととは別の意味の言葉で、
……故郷が滅びたんだからな。感傷的にもなる。
しかもその要因の一つは、確実に自分のせいでもある。
起きる悲劇を敢えて見逃した、というのも後味の悪さの原因だ。
しかしケッセルリンクが使徒を作ったことは良いことだ。それがこのタイミングであることもちょうど良く、
「……それより、ケッセルリンクには伝えたか?」
「あ、はい。帰投命令は伝えたとのことです」
ペールの簡潔な答えに、レオンハルトは頷く。
「よし。なら、ケッセルリンクが帰って来次第、軍を動かすぞ。各軍に通達しておけ」
「畏まりました!」
言って、レオンハルトは背後に振り返る。
丘の下。魔物界側の大地には、群があった。
大地を埋め尽くすほどの、魔物兵の群れ。
それはまさしく、魔物の軍である魔軍。
その数実に――百万以上。
通常、人間の国を攻め入る時に使う軍勢の五倍以上の数がそこにいた。
彼らは作戦の開始を間近に控え、数日前から国境線での待機を命じられている。
しかもそこには、魔軍に所属する全ての魔人が参陣し、その使徒も揃っている。当然、魔物大将軍らも一緒だ。
そして極めつけは、
「――ふむ、ここにいたか」
「! ――はっ」
声を聞いた瞬間、レオンハルトは片膝を突く。使徒であるペールも無言で同じ行動を取る。
魔人筆頭兼魔軍参謀であるレオンハルトが、畏まるような相手は、この世に一人しかいない。
魔王ナイチサ。この世の絶対支配者にして絶望の体現者が、そこにいた。
ナイチサは丘の向こうに見える人間の街を一瞥すると、レオンハルトに視線を向け、
「どうやら、卿らが考えた作戦、その前段階が終わったようだが……」
「はい。王国側の敗北に終わりました」
魔王の問いに、レオンハルトは簡潔に答える。
するとナイチサは顎に手を当てて、何かを思うように、
「……ふむ、ならば開戦も――」
「はっ、直に。ケッセルリンクが帰投し次第、二国――いえ、一国の領土に全軍で攻め込みます。その際には、ナイチサ様からも一言、号令を掛けてもらえればと思いますが……」
「構わん。家臣を激励するのも王の役目だ。……ところで、レオンハルトよ」
「何でしょうか?」
話を変えるように間を置いての質問に、レオンハルトは普段どおり応じる。
だがその質問は、普段どおり、というには些か踏み込んだ質問で、
「かの王国……卿の故郷だと聞いていたが、何か思うところはないのか?」
「! それは……」
予想だにしない質問に、レオンハルトが一瞬怯む。
しかし直ぐ様気を取り直したレオンハルトに、ナイチサは再度、
「どうなのだ? かつての祖国を滅ぼした感想は」
「……そうですね……」
問われ、レオンハルトは少し考える。
故郷が滅びた感想。それに感じる正直な想いは、
「……滅んで当然、といったところでしょうか」
「……ほう?」
その言葉にナイチサの表情に喜悦の色が混じる。心なしか、声にも。興味を持った証左だ。
変化に気づいたレオンハルトだが、そのまま続けて、
「何であれ人の上に立とうするならば、そこに“力”がなければ成り立ちません」
「国に力が無かったから滅んだ。至極真っ当な論理だな」
「かの国は外面だけは立派でしたが……その中身は酷いものでした」
さらに言えば、その外面すら自分との約定に支えられたものに過ぎない。そのような他力でしか成り立たない国であれば滅びるのが必然だ。
そう、だからこそ、
「……しかしお言葉ですが」
「む?」
レオンハルトは改めて発言する。
自分の意志を告げるように、
「祖国を滅ぼした感想を聞くのは、些か早すぎるかと。なにせ――これから滅ぼすのですから」
「……フ、フフ、なるほどな」
言うとナイチサは面白いものを見たというように笑う。
こちらの言に得心したのだろう、何度もそれを噛みしめるように笑みとともに頷くと、
「フフフ、なるほど……確かに早すぎたようだ。――ならばレオンハルトよ」
ナイチサはひとしきり笑うと、居住まいを正し、レオンハルトに向かって告げる。
それは滅びの宣告であり、魔王の命令であった。
「改めて命令する。かの国を完膚なきまでに滅ぼし、絶望を与えよ」
「……その命令、しかと承りました」
その言葉を最後に、ナイチサは踵を返し、陣へと戻っていった。
膝を突き、魔王への忠誠を示しながら、レオンハルトは心で思う。それは、
……釘を刺されたか。
先程の発言の意味はそれだろう。こちらへの牽制であり、念の為に再度の命令を告げたが、どうやらその忠誠は認められたようで、しかし、疑問が残る。
……ナイチサは……どこで俺の話を聞いた?
かの国が魔軍に攻められていないことには気づけても、そこに自分が関係していることは見抜き様がないはずだ。
正確に言うなら、確信が持てないはず。仮に他の魔人や魔物将軍に話を聞いたとしても、自分が意図的に国を攻めないようにしている、と気づいたとしても、その理由が何なのかまでは分からない。
真実を知っているのは、今となってはガルティアやケッセルリンクのみ。絶対命令権で聞き出したのか、それとも――と、
……ん、いや……もしや……。
レオンハルトはそこで、あることに気づいて、そして眉間に皺を寄せる。そのことに気づけなかった自分に軽く苛立ちを覚えながら、
……しまったな。ただの鎌かけか……。
ナイチサは気づいてなどいない。
ただ、会話の中で何となく、そうではないのか? と、言ってみただけだ。そしてそのことを、自分はただ普通に肯定して返した。気づくと途端に頭が痛くなる。
故郷を滅ぼすことへの感傷や、別の事に考えが言っていたこともそうだし、何より立ち回りとして、魔王に対して極力嘘をつかないようにしていたこともあって、そこに行きつけなかった。
……とはいえ、失態だな。
結果的にそれはナイチサへの忠誠を見せることとなり良い方に転がったが、これが別の部分で破滅に繋がるとも限らない。余裕が無かったから、なんて言い訳を死んでからしても遅いし意味がないのだ。
自分には目的がある。こんなところで躓いてはいられない。そのために、ナイチサへの忠誠を示している。その上で、自分の都合の良いように動く。
そのための一つは先程無事に成った。脳裏に浮かぶ一人の少女を思い浮かべながら、レオンハルトはそのことを改めて心に刻みつけると、
「……さて、ならば命令通りに動くとするか」
命令に反した行動を取るわけにはいかない。レオンハルトは立ち上がり、背後のペールとともに丘を下りながら、
「開戦準備だ。ケッセルリンクが戻り次第動けるよう、最終確認を行うぞ」
「はい、了解です!」
人間の国を滅ぼすための行動を取り始めた。
スラル「次元3FBでドタバタしてるから後書きは無しだって」
レオンハルト「……いや、あるじゃねぇか」
キャロル「きっと話を考えてる余裕が無いんですわね……」
レオンハルト「……いや、だから現に――」
ガルティア「ところで、NC期に入ってから本編での俺の出番が無いんだが、いつになるんだ?」
カミーラ「……私も……」
レオンハルト「…………カミーラはこの話の後に、ライゼンとのあれこれを挟むらしいぞ。ガルティアは知らん」
ペール「レオンハルト様……諦めましたね……」
ラウネア「…………(次回は魔軍と魔人による蹂躙回だよー)」