人類と魔物の境界線。
その魔物側の陣地にて準備が進む中、シャロンは薄れていた意識を徐々に覚醒させていった。
……ん……私、は……?
どうなったのだ、と思う。自分は確か、王国の首都であった街の広場にて、火あぶりに掛けられ、後は苦しみの中で死んでいくだけのはずだ。
それなのに今は痛みも苦しみも何もなく、ただ通常の肉体がある。健康そのものどころか、
……普段よりも、力が漲るような……。
生命力に溢れていると感じる。
しかし何がなんだか分からない。
ひょっとしたらここは死後の世界か何かで、自分は死んだからこそ、苦しみから解放されたという可能性もある。
しかし何にせよ、意識ははっきりとしている。ゆえにシャロンは自分がどのような状況に置かれているか確認しようと、ゆっくりと目蓋を見開いた。
するとそこには、
「……気がついたかね?」
「え……?」
眼前に、青髪の美女がいる。
長い耳と青いクリスタルを持つ美女であり、シャロンの知識の中にある、カラーと呼ばれる種族に合致するもの。しかしそれでいながら、通常の人間種を越えた存在感を放つものだ。
そんな存在が目の前でこちらを覗き込んでいた。ゆっくりと身体を起こしながら口にするのは、
「私は……どうなって……?」
周囲を見れば何やら天幕のような、仕切られた空間の中であることが分かる。おそらくは外だろう。地面があり、風が入ってくることからそうだと推定する。
そして美女は、こちらの問いに対して簡潔に、
「……君は――私の使徒になった」
「使、徒……」
そうだ、と美女は頷く。少し申し訳なさそうな表情で、
「私の名はケッセルリンク。魔人だ。訳あって人間の街にいたところ、火あぶりにかけられていた君に血を与えて使徒にした」
理解出来るかね? と、聞いてくるケッセルリンクと名乗った美女の問いに、ゆっくりと頷く。
信じられないことだが知識の通りであるならば、使徒とは魔人から血を与えられた下僕のようなものだったはず。人間の国において魔人ほど恐れられてはいないが、全く警戒されてないわけではない。使徒がいるということは、魔人の関与が考えられる上、その戦闘力も魔物の中では強い方だと聞く。
そんな存在に、自分がなったと言われ、頭が混乱してくる。
しかし思うのは、
「……私の命を……救ったのですか……」
「…………」
その言葉には直ぐに反応を返さず、軽く目を細めただけのケッセルリンクだったが、やがて軽く息を吐きながら口を開くと、
「……結果的にはそうなったのかもしれないな」
しかし、と、ケッセルリンクは一度言葉を区切り、
「その代償に君は人間を止め、私の使徒になった」
事実だけを述べるように、ケッセルリンクは淡々とそう口にする。言いながら、彼女は天幕の外へと向かい、
「……私はこれから用事がある。君はここで身体を休めていなさい」
「え、あ……でも……」
「その間、君は身の振り方を考えるといい。――では」
「あ――」
何かを言うより早く、ケッセルリンクは天幕の外に出ていってしまった。
ちらりと見えた外の光景は、何やら緑や青の服を着た何かが居り、
……魔物の巣か何かかしら……?
魔人がいて、おそらく魔物がいるということは、ここは話で聞く魔物界なのだろうか。
そして自分は、使徒になり、魔物界という未開の地での生活をすることになるのだろうか。
それが良いのか悪いのか、もはやシャロンには考えられない。しかし唯一思うのは、
……どの道、人間の中に私の居場所は……。
であるならば、それをただ受け入れるしかないのかもしれない。
幾つもの不安、そして諦観した想いを抱え、シャロンは天幕の中でじっとしていた。
昼の曇り空の下。
その下で、人間の軍と魔軍は、互いに境界線を挟んで布陣していた。
人間側がそれに気づいたのはついこの間のことだ。
元々、魔軍に動きがある、との情報は噂程度ではあるが入っていた。
しかしその程度のことは人間側の、特に魔物界と領地を接している国からすればいつものことであり、来るとしてもこれほど大規模なものは来ないと推定されていた。
だから魔物界を見張る国境警備の部隊からの報告が上がった時、その国は王国との戦争を終え、占領と掠奪を繰り返していた軍を再び招集し、布陣を展開させた。
実際に目にしてみると、前例にないほどの大軍――地平を埋め尽くすほどの魔物の軍勢が、魔物界に見える。
あれほどの大軍を相手に、自分達は勝てるのかと不安を覚える。
しかしやらなければならない。勝てずとも、しぶとく食い下がらなければならない。
実際、魔軍と戦争をする人間の国の軍隊の役目は、基本的に遅滞戦闘――時間稼ぎを行い、国の民を逃がすか、血を流させ消耗させることで、戦後に行われるであろう掠奪の被害を抑えるかの二択しかない。
魔軍は軍隊を蹴散らし、人間の都市を占領すると、しばらくの間そこに居座り、ひたすらに暴虐を重ねる。そこにいる人間を半ば奴隷のように扱い、好きに楽しむのだ。
そしてある程度の期間が経てば、街にある物資などを奪って去っていく。これが数百年続く魔軍の行動。決まった法則のようなものだ。
魔軍との戦争を頻繁に行う国々では、このことは周知の事実。勿論、鵜呑みにして負けることを許容することは出来ないが、完全に滅ぼされないようにするためにも、例え勝てずとも戦闘の意義はあるものである。
ゆえに負けられない。そんな思いを兵達は抱え、開戦に備えていた。
見たところ、魔軍の準備は既に完了している。攻めてくるのも時間の問題だろう。
人間達は国を、民を、家族を、隣人を、守るため、心に強い意思を持って、その場に立ち続けた。
曇天の魔物界。
その広い大地の上で、黒と赤のコートを着た金髪灼眼の魔人は、最終確認を終えて軽く息を入れたところだった。
「よう、レオンハルト」
「ん……ガルティアか」
不意に背後から声を掛けられる。
軽く腕を上げて挨拶をするのは、褐色の肌に緑髪、腹に大きな穴が空いた魔人、ガルティアだ。
レオンハルトの友人でもあるガルティアは、いつものように手に数本の骨付き肉を持ち、それを口にしながら器用に喋っていた。
「ここまで大規模になると準備も大変そうだな」
「……そうだな。準備を魔物将軍に任せて飯食ってるお前の百倍は忙しい」
「いや、出来なくもねえぜ? ただ、魔物将軍に任せたほうがいいだろ? 能力的に」
「……そうなんだよな……」
こっちは命令とか方針だけ決めればいいだろ、と言うガルティアに溜息とともに同意する。
実際、部隊指揮や作戦立案だけならその能力に特化した魔物将軍や副官の魔物隊長やバトルノートなんかに任せたほうがいい。魔人の役割は他を寄せ付けない圧倒的な戦闘力と、その存在による軍全体の鼓舞、士気を保つことにある。加えて方針を決めること、最低限これが出来ればいい。
本来、細かな部隊の指揮や、将軍達との調整などは行わなくてもいいのだ。命令を丸投げしていれば後はそれに合わせて配下が動いてくれる。
しかし、レオンハルトに限ってはそれを否と言う。何故なら、
「……でもまあ、これが俺の仕事、俺だけに任せられた役割だからな」
ゆえに愚痴を吐くことはあっても、この仕事を投げ出すつもりはないし、誰にも渡す気はない。
この魔軍参謀という席は自分だけに与えられたものだ。その仕事は自分の誇りであり、大切なものの一つである。だから、
「“魔軍参謀”としての仕事を、俺はただこなすだけだ。……何か言ってくれるなよ?」
「お前が納得してんならいいさ」
いいのか、と言外に問うてきたガルティアの視線に先んじて答えを返す。
こちらの事情を知っているガルティアにしてみれば、聞いておきたかったことだろう。この戦争をやる上では。
だが職務としても、私人の情としても、守ってやる必要はないのだ。何も罪のない弱者を相手にすることは、思う所もある。しかしそれは、
「……レオンハルト」
「どうした、ハンティ?」
見れば、ハンティが瞬間的にその場に現れ声を掛けてきていた。その声は低く、表情は強張っている。
理由は分かる。次に来る言葉も、おそらくは、
「……あたしは――」
「――駄目だ。お前も参加しろ」
機先を制して、拒否する。
ハンティの声が止まり、目を見開かれる。当たっていたのだろう。ややあって、驚きつつも少し声を落とし、
「……本当にこんなことを……」
「ああ、当然だ。魔王様の命令は――全力出撃。配下の魔人は全員集結、その使徒も例外ではない。……分かるだろ?」
「……分かる、けど……」
他ならぬ魔人筆頭兼魔軍参謀の自分がそれを破るわけにはいかない。そのため、今回の戦争にはハンティも参加するように言っておいた。
だが、人間を殺す――しかも一方的に、虐殺するのは気が進まないようで、
……仕方ないな。
主として、やらなければならないだろう。ハンティに視線を向け、
「……いいか、これは命令だ」
「っ! それは――」
「否応はない。お前は一片の慈悲も容赦もせず、人間を殺せ」
命令、と言われ、ハンティの表情に苦悶のそれが混じる。使徒であるハンティにとって、主である自分の命令は絶対だ。それを破るわけにはいかない。
それに、
「……この戦いの目的は、魔軍の全力をもって大国を滅ぼし、そこにいる人間を苦しませることにある」
「それが一体……!」
ハンティが眉を立てる。言い聞かせるように、つまり、と、
「分からないか? 人間を苦しませることが目的だ。殺す、というのは手段の一つ……最終的な行為でしかない」
「――――」
気づいたように、ハンティが言葉を失わせる。
殺すことが最後。その意味はよく分かるだろう。
……殺すことが救いとなる。
人間の軍は、当然大勢を戦闘で殺すことになるだろうが、戦う力を持たない民衆に関しては率先的に殺すことはしない。男は拷問、遊びの末に殺され、女は気が遠くなるような期間――それこそ壊れるまで犯されることになるだろう。それを止めることも、やめることも出来ない。ならば救いは、
「理解したか?」
「…………」
短い言葉でそれを問う。
地獄を味わった上で殺される未来が確定しているのなら、痛みも苦しみもなく、一瞬にして殺してやることこそが救いとなる。
魔王の命令というのは運命、確定した未来だ。物理的に不可能な命令以外であれば、発言したことは必ず叶う。叶えさせられる。数人や、もしかしたら数十人くらいなら救えるかもしれないが、それ以上となると今は不可能なのだ。
ならば、
「っ……分かったよ」
歯を食いしばり、自分の無力さに憤りを感じていたハンティが、しかし、ふっと力を抜いて小さな声で頷く。
こちらを強い意思のある目で見ると、
「……でも、それはあたしの意思で行うから。そんな逃げは――あんたの命令が無くたって……」
「……そうか」
それならば言うことはない。
命令を言い訳にしたくないのだろう。どこまでも真面目で律儀、そして情の強い使徒だ。そんなハンティに虐殺を強いることになった自分に不甲斐ないものを感じるが、これ以上上手い言い方が見つからない。
色々とフォローしてやらないとな、と思っていると、
「……そろそろ集まってきたな」
「みたいだな」
ガルティアとともに視線を向ければ続々と、魔人達が布陣した軍の先頭に集まっていく。その後ろには使徒が付いてきたりもしており、
「レオンハルト様!」
「終わりましたよ!」
こちらにも、軍の調整をしていたキャロルとペールが集まってくる。その後ろからは大柄の影、魔物大将軍もやってきており、
「レオンハルト様、我々もそろそろ……」
「ああ」
リー大将軍の言葉に頷く。そして背後を見やると、
「行くぞ、ガルティア。キャロル、ハンティ、ペールは後ろから付いてこい」
「おお」
「畏まりましたわ!」
「……了解」
「それじゃあ早く行きましょう!」
呼びかけられた4人がそれぞれ応答するのを聞いて、レオンハルトは自分達も集合するべく足を向けた。
布陣した魔軍の前方の大地に、歩いてくる者達がいる。
まばらに歩いてくるその者達は、目的地は同じであり、その誰も彼もが、
「……お、おい、見ろよ」
一体の魔物兵が隣の同僚の腕を肘で突いて言った。
「――魔人だ」
そう。その誰も彼もが、魔物達の、大陸の支配者達である魔人だ。
24体しかいない魔人の殆どが、軍と、配下である使徒を連れてこの場に集結している。
その中でも特に注目されるのは、魔人の存在感の中にあって更に上を行く者達、いわゆる上級魔人と呼ばれる面々だ。
魔人筆頭に魔人四天王、その席に名を連ねる者達は、魔人すらその存在に自然と道を開け、遠巻きに意識をする。
四天王の席は未だ二つは空席であるため、その場にいる者は三人と、その使徒達。その中で最も位の高い魔人筆頭兼魔軍参謀である魔人――レオンハルトが声を掛ける。
「久し振りだな、カミーラ」
「……レオンハルト、か」
相手はプラチナブロンドの髪を持つ絶世の美女。
ドラゴン娘のような角や翼をもった女は魔人四天王であるカミーラ。彼女はレオンハルトの姿を視界に収めると、静かな声で、
「……ついこの間、会ったばかりだ」
「……ん? ああ、まあ城を作る時に会いに行ったからな。三ヶ月ぶりってところか」
以前は頻繁に顔を合わしていたから久し振りに感じるが、魔人の感覚でいえば久し振り、というほどでもない。それを理解したレオンハルトは訂正しつつ、今度はもう一人の方を見て、
「ケッセルリンクも……大丈夫だったか?」
「……ああ」
短く応答するのは、こちらも美しい女性だ。
水色の髪に長耳、青いクリスタルを持つ女性は、魔人四天王の一人であるケッセルリンク。彼女は、彼女の感覚として久し振りであるレオンハルトを見て、息を入れると、
「これが終わったら、紹介することになるかもしれない」
「……そうか」
レオンハルトはそれを聞いて、何やら思う所があるのか一瞬目を細めるも、しかし微笑を浮かべて頷き、
「楽しみにしてる」
「……ああ」
ケッセルリンクもそれに応答する。だが、それを見ていたカミーラが鼻を鳴らし、
「……ふん、相変わらず、色気づいているようだな……」
「……仮にそうだとして、それの何が悪い?」
軽く嘲笑するようなカミーラの表情に、ケッセルリンクが目を細めて応対する。
その返しにカミーラは笑みを噛み殺しながら、
「く……何、こんな場所でまでそうなるとは……随分とはしたない女だと思ってな……」
「……普通に会話していただけだ」
どうかな……、とカミーラが小馬鹿にしたように言う。美少女や美女。特にケッセルリンクのような気位の高い相手が嫌いなカミーラは、ことあるごとにケッセルリンクに噛み付く。ケッセルリンクもそれに真面目に相手をする。その雰囲気はいつもピリピリとしており、魔人ですら近づくのを躊躇われるものだ。
そして一番げんなりしているのは、大体仲裁する羽目になるレオンハルトで、
「……お前ら――」
そこまでにしておけ、と声を掛けようかと思った時、不意に別の声がきた。
「これはこれは、お揃いのようで……」
その声に三人が目を向ける。
上級魔人の会話に割り込んでくる。その度胸ある、一種の肝試しのような行為を行ってきたのは、赤い外套を身にまとった逆立つ炎の髪が特徴的な男で、
「ザビエルか」
「……どうも、レオンハルト様」
丁寧に、頭を下げてみせるのは、魔人ザビエル。
魔王ナイチサが最初に作った魔人であり、どうにも評判の悪い魔人だ。
魔人らしく頻繁に軍を動かし人間を苦しめているらしく、魔人から見れば働き者の魔人。
しかし同時に、多くの魔人に傲慢な振る舞いを行い、一部の魔人は新参者である魔人ザビエルを痛めつけてやろうと戦闘を行ったが、噂だと、ザビエルが勝ったことにより、下級魔人からは特に避けられているという。
真偽は分からないが、魔人になって日が浅い内からどんどん力を付けている魔人であることは確かである。そんなザビエルは、魔人のトップ3にまで声を掛けていった。
そのことに周囲の者達が身を固くさせる。
レオンハルトはその鋭い視線をザビエルに向けると、
「何か用か?」
「いえ、用はありません。……ただ、せっかくですので上級魔人の方々との会話に混ざっておこうかと……」
言ってカミーラとケッセルリンクにも視線を向ける。ケッセルリンクは無言でザビエルを計っているのだろうが、カミーラは剣呑な声で、
「……誰だ、貴様は……?」
軽く威圧しながらそれを問う。
挨拶も無しに知らない魔人が話しかけてきたことに軽い不愉快を覚えたのだろう。カミーラはプライドが高い。幾ら城に籠もってザビエルに会ったことがなかったとしても、それは挨拶をしに来ないザビエルが悪いのであって、自分は悪くないのだと考える、
ゆえにそうなるのも必然で、カミーラは重圧をザビエルにぶつけるも、
「……ふふ、いえ、申し遅れました。我は魔人ザビエル。ナイチサ様に作られた魔人です」
軽く笑みを浮かべて言うザビエルに、カミーラは訝しげな視線を送る。
何が可笑しいのか、と思う。それはレオンハルトやケッセルリンクも同じだ。
そしてレオンハルトからしてみれば、一人称が“私”ではなく“我”になっているのも引っかかる。敬語ではあるのだから突っ込むほどではないのだが、
「まあ、挨拶はしておこうかと。何せ――」
しかし、その後にザビエルが言った言葉は、レオンハルトをして眉をひそめるものだった。
「いずれ我も――皆様と同じ位置に立つのですから」
「…………」
その言葉の意味を理解し、そして同時に眉をひそめる。レオンハルトもカミーラもケッセルリンクも。
皆と同じ位置に立つ。それは上級魔人という意味を越えて、魔人四天王の席に着くのは自分だ、と傲慢にも現魔人四天王の前で言い放ったのだ。
勿論、席はまだ二つ空いているので、誰かを落とすこともないし、可能性だってある。
だがあまりにも傲慢な物言いに、三人とも――それだけではなく、背後にいる使徒が主への不快な物言いに苛立ちを感じたのか、何も言わずとも不満を雰囲気に出し、さらに後ろに控えていた魔物大将軍達は馬鹿を見るような、白けた想いを内心に覚える。
そしてさらに表情を歪ませたのは、遠巻きにそれを聞いていた他の多くの魔人たちであり、嫌悪感の混ざった目をザビエルに向ける。
自分達を差し置いて何を、という思いだ。魔人四天王は魔人の中でも一握りの実力者だけが座れる特別な席。それを新参の魔人がそうなると言い張るのは、同じ魔人からしてみれば嘲笑を通り越して不快だ。
レオンハルトのような化物であればともかく、そんなことはほぼありえない。
だが、一部のザビエルと戦った魔人。そして声を掛けられた三人は、
「では、我はこれで……」
去って魔人が並ぶ列に戻っていくザビエルを見て、内心、同じように評した。
――ありえないことではない、と。
その証拠にザビエルは、すでに多くの魔人の実力を、おそらく越えているだろうというのが、三人が下した評価だ。
ゆえに可能性はある。だが、それとは別に、
「ふん……不愉快だな……」
「なんとも……傲慢不遜な男だな……」
「…………」
その態度に嫌な感じを覚えざるを得ない。カミーラは分かりやすく嫌悪を見せ、ケッセルリンクは真顔ではあるが、その在り方を遠回しに良くないものだ、と評した。
ただ一人、レオンハルトだけが何も言わず、ザビエルを射抜くように見ただけでありどう思っているのかは分からない。
しかしザビエルから視線を切り、正面に身体を向ける。
それはある気配を察知したからであり、
「――!」
多くの者達が、それに合わせて地面に膝を突いた。
魔物兵から魔人まで、全ての魔に属する者達が頭を垂れる。そんな存在は一人しかいない。
「――皆、集まっているようだな」
全てを見下ろす絶対の王。
魔王ナイチサが、眼下に並ぶ魔人、使徒、魔物達の前に、姿を現した。
「ナイチサ様」
その場にいる全ての魔物、魔軍を代表して、魔人筆頭であるレオンハルトがナイチサに先を促す。
「うむ」
その意味を正しく受け取り、ナイチサは丘の上から声を上げた。
「――余は、魔王だ」
その言葉を、魔軍に所属する全ての者達が耳にする。
誰も口を挟めない。挟むことは許されないし、そうしようとも思わない。
ただ黙って、静かに王の言葉を聞くのみ。
「卿ら――魔物達の王であり、大陸の支配者。この世にある全てのものは余の手中にある」
魔王とは大陸において絶対の存在。
人間、亜人、ドラゴン、魔物、この世に生きる者の上に立つ最強にして唯一の存在。
「故に、余から卿らに対し、言葉を送ろう」
言う。それは、
「――光あれ、と」
その言葉は、魔物に似つかわしくないものだ。
魔物とは闇であり、影のものである。そんなイメージが人間の間にはある。
しかしナイチサは、それに敢えて、否、と言う。
「余はこの世に生きる者達に、二つの意味で光を与えよう」
それは、
「余に従う全ての魔物に対する自由と繁栄の光と――」
もう一つは、
「人間達に対する恐怖、苦しみ、痛み――絶望の光だ」
ゆえに命令しよう、と。
「卿ら、余の下で、存分に光を得るがいい」
その方法は、
「卿らが人間に光を与え、同時に祝福の光を得るのだ」
魔王の名の元に、人間を虐げろ。
さすれば祝福は与えられん。
それを、ナイチサは事実として知っている。嘘ではない。この世の光とは、そういうことなのだ。
ゆえに確信をもってそれを告げられる。魔物達よ、人間を苦しめろ。人間よ、血を流せ。
その先に光はある。この世の正義はそこにある。
「一点の曇りなき正義がここにある」
それを為せ。
その第一歩として、
「かの大国を相手に、卿らの力を存分に見せつけろ。かの国に対し、卿らは何をやっても構わない」
魔物達が気勢が高まる。
「やりたいことは幾らでもあろう? 魔王の名において許す。人間共に絶望と死の光を与えてやれ」
その昂りを、狂気を、欲望を、人間相手に発散しろ。
その愉悦は正しい。何も間違っていないのだ。
ナイチサはマントを翻し、その手を掲げる。すると雲の隙間から、
「お、おお……!」
光が差し込む。
まるで本当に祝福を受けているかの如く、魔物達が光に照らされる。
そしてその中心、より照らされているのは魔王であるナイチサである。
魔王として、光の権能を持つナイチサだけのそれは、魔物達にそれが善であり、正しいという楔を心に植え付ける。
さあ、とナイチサは腕を前に出す。
「余の忠実なる家臣、配下達よ――」
我慢はしなくていい。存分に、
「――死の数を競え」
魔王の言葉に、魔物達が一斉に空を見上げて咆哮した。
――そうして魔王ナイチサによる初めての大規模な戦争が、今ここに始まった。
スラル「そういえばナイチサって光属性なのよね。……ちなみに私のSS体質は氷無効ね」
ライゼン「そういえば……アベルは雷無効だったな……」
ガルティア「魔人にも合ったりするらしいな」
レオンハルト「俺にもなんか合ったりするのか……?」
キャロル「レオンハルト様は……近接無効?」
ハンティ「魔法も斬られるんだけど……」
ペール「女性特攻とかじゃないですか?」
スラル「……す、スラル特攻……」
レオンハルト「……恥ずかしがるくらいなら言うなよ。というか全部体質じゃないんだが……」
ラウネア「…………(私もなんかほしい)」