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戦闘は、一方的なものから始まった。
魔軍の大軍が、人間の軍に向かって突っ走る。緑、青、赤、といった魔物兵。姿形がバラバラな魔物達は、このスーツを着ることによって戦い方や戦闘力がある程度は均一化される。
それでも人間の兵の倍以上は強い。その突撃を、鎧と盾を持った人間の兵が受け止めようと身体を固める。
盾の隙間からは槍が突き出ており、密集陣形となって魔物兵を待ち構えた。
「ヒャッハー! 殺してやるぜぇーー!!」
「突撃突撃――!!」
その硬い陣形を見ても魔物兵は止まろうとしない。
魔軍の先鋒は血気盛んな、いかにも魔物といった性格の者達で構成された部隊。新兵とも言っていい。
しかし魔物は生まれて一日で成体になる種族。それからしばらくは親の元で過ごすが、それでも戦う生き物であることには変わりない。
さらに彼らの軍を率いる魔人。その存在が彼らの勢いを後押しする。
「人間共よ……我の炎に焼かれて死ぬがいい……!」
その言葉とともに、炎を纏って先頭集団に現れたのは魔人ザビエル。
炎カッパの魔人であり、ナイチサに魔人化された者の中でも色んな意味で目立つ人物。
彼はこの戦いにてナイチサの役に立つため、人間をより多く殺せるようにと先鋒に志願した。魔物の中にあって目立つその存在に人間の兵達の身が怯む。
「く、来るぞ……! 魔人だ……!」
しかし逃げはしない。逃げれば後ろにいる者達が、友人が、家族が、隣人が死ぬ。
そのために時間を稼ぐ。より多くの魔物を倒す。その使命を胸に、兵士達は身を寄せ合いながら盾と槍を構える。
しかし、
「無駄だ……!」
無駄という言葉とともにザビエルが手を広げる。
同時に彼の身体から炎が立ち昇る。
最初の一撃にぶつけるのは魔人となり、更に強化されたザビエルの炎。その中でも一際凶悪で、同僚の魔人を倒した必殺技――
「――“黒の炎”よ……!」
その名の通り、黒き炎が燃え上がり、人間の部隊に津波のように襲いかかる。
「っ――!? あ、ああああぁぁあああっっっ――!?」
分厚い盾を物ともせず、集団を黒の炎が包んだ瞬間、人間達の悲鳴が周囲に響き渡る。
その火力はザビエルが使う炎の中でも格段に高い。しかしそれでいて、
「あぁぁぁ熱い熱い熱いいいいいぃぃ!?」
「焼かれ、ああああぁぁ……!!」
楽に死なせない。その結果を見て、ザビエルは口端に笑みを浮かべる。
「ふふ、どうだ、我の炎の味は……? 格別であろう……?」
脆弱な人間であっても即死をさせない黒の炎によって人間達が次々と焼かれていく。密集陣形を取っていた前陣の部隊は、燃え広がる黒の炎に対し、被害を免れるためにその陣形を崩していく。
そこに突っ込む魔人ザビエルは、腰に差した刀を抜き放つ。そこには炎が纏わせてあり、
「邪魔だな。逝ね……!」
立ち塞がる人間の兵を炎を纏った剣で焼き斬っていく。
しかし多くを炎で焼くのみで無視して進み続けるザビエルだが、その後ろに続く魔物兵達が炎による混乱で狼狽える人間達にその手に持った斧を振り下ろしていく。
「おらおら邪魔だぁーー!!」
「ははは、くたばれ人間共!!」
「がっ――!」
「ぐ、ぇ……!」
短い悲鳴を上げて殺されていく人間達。対応しようにも陣を破って暴れる魔人の猛攻を止めることが出来ない。魔法などで遠距離から攻撃しても、
「効かんな……」
「ぐっ……!」
魔人の身体に触れる直前でかき消える。
それは“無敵結界”。
魔人の周囲を覆うように張られる魔人の技能であり、同じ魔人や魔王でなければ突破できない絶対の防御だ。
人間では突破することは不可能に近い。その間にも、ザビエルは黒の炎と炎の剣にて人間を殺戮していく。
「我は、こんなところで止まってる暇はないのだ……!」
魔王の命に従い、魔王を楽しませ、そして自らも楽しむ。その末に魔王の傍に控えるため、野望を胸にザビエルは軍を率いて人間に向かっていった。
「…………」
それを遠目に眺めていたのは、魔軍の先頭の軍を指揮する魔物大将軍、コウウであった。
彼が何を思うのかは分からない。ただ何となく、目を引かれたというだけのこと。
その間にも、戦闘は続く。続いて抜け出てきたのは、
「――――」
人間には視認できない白の何か。
それは当然だろう。何故なら彼は強大な力を持つ魔人の中にあって最速の魔人。
「な、何だ、何が起こってるんだ!?」
「わ、分かりません!! 気がついたら吹き飛ばされ――」
と、言った人間の兵士は次の瞬間、白の突撃を受けて吹き飛ばされた。
「…………」
仲間にすら感情を見せず、常に無言で誰とも関わろうとしない孤高にして最速の魔人――メガラス。
宇宙人ホルスの魔人である彼は今日も命令に従い、戦場にて一人戦い続ける。
ただ速さを用いて当たるだけの攻撃は、しかし、当たるだけで十分であり、メガラスが突撃するだけで人間の集団は吹き飛ぶ。
速さというのはそれだけで武器。音速の三倍近くに達する速度は近くを通過するだけで、大気の圧力が人間を叩く。白い外骨格の身体に当たれば、人間は四散する。
その全ては自分の身に何が起こったのかわからず身体が吹き飛ばされ、あるいは即死する。
そんなメガラスが突撃を敢行する中、同じ様に部隊を率いて突っ込んできたのは、
「さぁて、野郎共! 腹ごなしの時間だ!」
ギザギザの刃がついたハワイアンソードという剣を持ち、率いる部隊に声を掛けた魔人。
ムシ使いの魔人ガルティアは、その腹からムシ達――使徒の手足を覗かせながら人間達に向かっていった。
その能力は、魔人一の多彩な能力であり、
「行くぜ!」
「っ、何だぁーー!?」
ガルティアの指。その爪の間から糸が伸びて、人間達を捕まえる。
その間に剣を振るい、あるいは火炎放射や爆弾、レーザーを身体から放つ。
人間の兵がその餌食になる中、一人の人間が近づき剣を振るおうとするも、
「キシャアアアアァァアア――!!」
「なに――がっ!?」
腹の中から出てきた猿の手に殴り飛ばされる。そのまま別の人間を掴み、握り潰すそれは、使徒のタルゴ。
その間、ガルティアは腹から出てきたもう一体の翼が生えた使徒、
「サメザン!」
「ピィイイイ!」
サメザンに捕まれ、空に浮き上がる。
そのまま上から人間に空襲をかける傍ら、戦意に呼応してか腹の中から出てきた蜘蛛の下半身を持つ少女が、
「…………」
倒れた人間をむしゃむしゃと食べようとして、
「…………」
ぽいっ、と途中で投げ捨て、
「あ、こら、ラウネア。食べるなら残しちゃ駄目だって言ってるでしょ!」
「…………」
使徒であるラウネアが主人であるガルティアに怒られしょんぼりする。
しょうがなく人間を連れて腹の中に戻り、真面目に戦い続けるガルティアと三体の使徒。連携攻撃と手数の多さから人間達は対応出来ていない。
そんな中、とある魔人は地道に戦っていた。
「へへ……今の内にレベル上げレベル上げ……!」
「何だ、こいつ――ぎゃっ!?」
その手に持った小さな剣を人間に振り下ろし、淡々と作業のように人間を殺していくのは、丸い身体を持ったリスの魔人。
最弱の魔人として名高い魔人――ケイブリス。
最近ようやく最弱を抜け出せそうな彼は、無敵結界があることからほんの少しリラックスしながら戦場にて戦っていた。
「味方側にあぶねぇ奴が多いけどな……これにだけ気をつければ美味い狩り場だぜ、ぐふふ……」
特にザビエルとかいう奴は危ないから近づかないでおこうと注意する。
あんな炎に包まれたら自分などひとたまりもない。ケイブリスは身の程というのを知っているのだ。強い者相手には決して逆らわず、媚びへつらう。それを信条とするケイブリスにしてみれば、ザビエルがレオンハルトやカミーラ、ケッセルリンクに生意気な口を利いたというのは、
「馬鹿なやつだよなぁ……」
特にレオンハルトだ。
レオンハルトに突っかかって殺されたり、半殺しにされた魔人を知らないがゆえの行動だろう。やはり新参はなってない。危機意識が足りないな、と思いながら戦っていると、
「あっ、う、噂をすれば……」
ケイブリスが声を落としながら、それでいてどもる。
多くの魔人達が部隊を率いて戦闘に参加するが、その中でも大規模な軍が戦場にて蹂躙を開始する。
それを率いる魔人は、魔人の中でも桁が違う強さを持つ、
「カカカ、カミーラさん……いいなぁ……」
魔人四天王のお出ましであった。
「ふははは!! さあ、進め進め!! 今日は串刺しし放題だぞ!」
「了解です! ヴラド様!」
通常の魔物兵と違い、先端が尖った槍を持った兵達が魔物大将軍の指示に従い、その槍を人間達に突き刺していく。
腹を、胸を、腕を、頭を、串刺しにされて死んでいく人間達の姿を見て興奮したように、カミーラ軍を率いる魔物大将軍ヴラドが腕を振り上げる。
「いいぞいいぞ……! くぅぅ~最高だっ!! 私も、指揮がなければ参加するのだが……!」
しかしそれは叶わない。
その釘を刺すように声を出したのは、長衣に身を包んだ痩躯の男であり、
「駄目ですよ、ヴラド大将軍。これからカミーラ様が狩りに出ますので、貴方には待機していただかないと」
「分かっておりますとも、七星様……! この興奮は、戦後に思う存分発散します……!」
「……なら良いですが」
ネフライトドラゴンの使徒、七星は薄い目をヴラドに向けて息を入れる。
その背後からやって来たのは、
「……出るぞ」
「お供します」
「はっ、いってらっしゃいませ、カミーラ様!」
隔絶した存在感と圧力を持つその魔人は、上級魔人にして、魔人四天王の一角に座るプラチナドラゴンの魔人。
魔人カミーラ。彼女の出撃に、カミーラ軍は沸く。
滅多に戦闘に参加することはないカミーラだが、魔王の勅命とあらば参加は必然。淡々とではあるが、狩りを実行しようと宙に浮く。
「…………」
無言の圧とともに、行われたのは、文字通り“狩り”であった。
「ぎゃあっ!?」
「ぐえっ!?」
「うあああっ!?」
「ばっ――!?」
一斉に、人間達が白い何かに身を貫かれる。
それはカミーラの指から伸びた十本の爪だ。
ドラゴン種の鋭さを持ちながら、変幻自在に動き伸びる十本の爪は、人間達を次々と貫き、あっさりと殺していく。
カミーラのそれは未だ戯れに近い攻撃であり、本気には程遠いものだ。
しかしそうであっても人間に対応することは難しく、慰み程度の攻撃で簡単に死んでいく。
力の差は歴然だった。その間にも、同じく供に出た七星も、その身を巨大な、翡翠色のドラゴンに姿を変え、
「死になさい」
口からブレスを吐き、人間を焼いていく。
その身を動かし、爪で、尾で、人間を吹き飛ばしながら、傍らのカミーラはぼそりと、
「……弱い上に……数が多くて面倒だな……」
つまらなそうに呟くと、その手を眼下の人間の集団に向ける。
そこには黒い光が集まっており、
「っ!? な、何か来るぞおおおぉぉ――!?」
人間の指揮官の声も虚しく、
「――消えろ」
黒の奔流が放たれる。
それはドラゴン種のブレスであり、カミーラが使う特性の、“闇のブレス”。
極太の黒は、凄まじい圧力をもって人間の身を呑み込み、文字通り消滅させるものであり、
「……少しは、少なくなったか……」
直撃を食らった人間の集団は、誰一人として残っていなかった。
絶望に震える人間達をつまらなさそうに見ながら、カミーラは少し遠くから聞こえる声に耳を傾け、
「……しかし、あの女に負けるのは……癪だな……」
言って、少しではあるがやる気を出すか、とカミーラは軍を引き連れて直進を始めた。
カミーラ軍とは反対方向。
その戦場では、辺り一面を黒の霧が包んでいた。
「い、いったい何だこれは……!」
「ぐっ、外に出て――」
霧に包まれた人間の集団は、霧から出ようと足を進めようとする。しかし外側には、
「囲んで、動きを止めろ」
「はっ!」
ケッセルリンク軍を預かる魔物大将軍バルカ。その指揮によって、魔物兵達は霧を囲むように厚みを持って並んでいる。
おかげで人間の兵達はこの霧から出ることが出来ない。
魔軍が押されたように後退したために誘い込まれた結果が、この包囲網と黒の霧だ。
さらに、一瞬視界に映ったはずの魔人はどこにもおらず、
「くそ、どこに……?」
その問いに反応したのは、霧であった。
「……私はここだ」
女の声が、霧の中から聞こえる。
それを霧に包まれた人間の兵達、全員が耳にした。
驚愕をもって周囲を見渡すも魔人はどこにもいない。
しかし魔人四天王の一角、カラーの魔人であるケッセルリンクは確かにそこにいる。
その霧こそが、
「……この霧が私だ」
それは“ミストモード”。
その黒の霧が、ケッセルリンク自身である。ゆえにどこからでも攻撃出来、あらゆる攻撃を半減させるそれは、しかし、
「とはいえ、夜ではないからな。完全ではないが……」
夜に真価を発揮するケッセルリンクは、昼だと多少、力が落ちる。
そうであっても、人間を倒すには十分の力が、上級魔人であるケッセルリンクにはある。それをもって、
「……せめてもの慈悲に、早めに終わらせよう……」
霧の中からの攻撃を、人間達に向かってお見舞いした。
薙ぎ払われ、魔法を撃たれる人間達が、狂乱に陥る。
「こんなの……! どうやって戦えば……!?」
「に、逃げ――」
逃げようとする兵士も出てくるが、それは周囲の魔物兵達がそうさせない。
魔物大将軍バルカは、ふふ、と満足そうに笑みを浮かべ、
「無駄だよ。ここは既に殺し場だ。私特製の包囲殲滅陣をじっくりと味わうがいい……!」
敵陣中央を引き込み、その間に両翼を突撃させ包囲して殲滅する戦術はバルカの得意技だ。それにケッセルリンクの技も加えた完全なる戦術。もはや為す術無く殺されていくだけの人間に、ケッセルリンクは何を思うでもなく淡々と人間を殺していく。
彼女も魔人である以上、戦いから逃れることは出来ない。虐殺は趣味ではないが、戦争の上で殺すなら役目として行える。
同じくバルカも、どちらかというと自分の戦術を試して人間を倒せればそれでいいので、特にそういったことには興味が薄い。ゆえに戦いは淡々と進んでいく。
「私の演出は完璧だな……! 十全に、ケッセルリンク様を活かすことが出来ている……!」
「…………」
微妙に温度差はあるが、仕事をする上での相性は問題ない。ケッセルリンク軍は、極めて効率的に人間を殲滅していった。
そして、ここに魔軍最精鋭の軍が参陣する。
「――ふん、随分と暴れてるな……」
「そのようですな」
戦場の光景を見て、その最高位の魔人は鼻を鳴らす。
軍を預かる魔物大将軍リーの同意を受けながら特に視線を注目させるのは、先鋒として出ている魔人ザビエルの軍であり、
「嬲り殺しか」
「黒い炎ですわー!」
「っ……」
「うっわ……えぐいですねー……」
同じく言葉に同意する三人の女性。それは彼の使徒だ。
魔人筆頭兼魔軍参謀。魔軍のNo.2である金髪灼眼の魔人。
世界最強の剣士である人間の魔人――レオンハルト。
その使徒であるキャロル、ハンティ、ペール。
そして最精鋭と呼ばれるレオンハルト軍を率いる魔物大将軍リー。
彼らがレオンハルト軍を構成する者達。その彼らの会話を、魔物将軍以下、魔物兵達は身動き一つ取らず命令を待っている。
魔人レオンハルトは、ちらりと、彼らを見てその規律に問題ないことを確認すると、
「……そろそろ始めるか」
「はっ。――全員傾注! これより、レオンハルト様より訓示を賜る!」
「はっ!」
ざっ、と音を立ててレオンハルトに向き直る魔物兵達を見て、レオンハルトは頷く。徹底的に統率され、規律に満ちた集団はそれだけで芸術ともいえる。
中身が我の強い魔物とは思えないほどの集団行動を取れるのは、ひとえに大将軍やレオンハルトの統率力、伝統的に守られてきたその誇りと自負のおかげだ。
レオンハルトは前に一歩出ると、
「……ではお前達。これより、俺たちは戦闘に参加する」
その通る声は、不思議と軍全体に響き渡る。
皆が聞いているのを感じ取りながら、レオンハルトは声を上げた。
「既に戦闘は始まっているが……お前達、あれを見てどう思う?」
その問いに答える者はいない。しかし、誰しもが似たような答えを思い浮かべる。
それは、
「――見るに堪えない。少しは戦争が出来るようだが、本物のそれとは格が違う。……それをお前達は知っているはずだ」
敵も、味方でさえも、本物とは程遠い、と、レオンハルトは言う。声に上げずとも、この軍に所属して少しでも経つ者達ならそれを知っていた。答えは、
「本物の戦争が出来る者達――それがお前達だ」
レオンハルトは確信を持って言う。
一種の士気向上、激励であるが、それは半ば事実である。
集団行動、単純な戦闘力、部隊運用など全ての面において、この軍は魔軍一であるという確信がある。それは他の軍と比べたときに如実に現れるものだ。
それを、彼らは皆自覚している。
ゆえに言う。
「今回はそれを見せつける絶好の機会だ。本物の戦争を、連中に教えてやるぞ!」
「はっ!」
声を上げる。
「一番戦争が上手いのは誰だ!?」
魔物兵達が一斉に、
「我々、レオンハルト軍です!」
「もっとも勇猛であり、規律ある魔軍最精鋭の軍は!?」
一斉に声を上げる。
「我々、レオンハルト軍です……!」
レオンハルトは言う。
「いいか! 求められているのは勝利だ! その勝利に一番貢献出来るのはお前達だ!」
ゆえに、
「最高の戦果を期待する。――総員、指揮官の指示に従い、任務を遂行しろ!」
「はっ!」
レオンハルト軍の全員が声を上げ、その手に持った得物を手に掲げる。
「我らに勝利を……! レオンハルト様に栄光を……!」
最も戦争を経験している魔軍最精鋭の軍隊。
その牙が、とうとう人間に襲いかかった。
その軍の動きは、他とは明らかに違っていた。
相対した人間の兵士達は戦慄する。
「ちくしょう!? なんなんだあいつらは……!」
声を上げて、戦っていた人間の兵士は、次の瞬間に速やかに殺された。
魔物兵達が、一糸乱れぬ動きをもって人間に襲いかかる。
魔物隊長が声を上げ、
「常に二体一で当たれ! 数の優位を活かせ!」
魔物将軍が自分の軍に、
「足を止めるな! 進み続けろ! より早く、効率的に敵を殺せ!!」
そして全体を統括する魔物大将軍リーが、
「目的は速やかな敵軍の撃破、並びに街の占領! 各員、任務遂行に当たり奮励努力せよ!」
「はっ!」
魔物兵が声を上げる。
戦闘は常に行われ、魔物兵達は規律ある行動を取りながらも軽口を行う。
「さあ、もっと俺達と踊ろうぜ……!」
「逃げるなよ! ダンスは苦手か……!?」
「はははっ! マンハントのお時間だ……!」
言い回しが特徴的な彼らは、魔軍の中でも最も文化的な生活を送る者達でもあり、規律と戦闘を好み、文化を愛する者達だ。
早い話が、集団行動の取れる戦闘狂。戦争屋であり、彼らは戦場を好みながらも、極めて事務的にそれをこなしていく。戦争の花は自分達であり、最後に勝つのも自分達だ。命令に従い、一片の容赦もせず、誰よりも多くの戦果を手にする。勝利者だけが全てを手に入れられることを、彼らは経験から知っていた。
魔軍最精鋭であるレオンハルト軍は常勝不敗であり、同時に負けることは許されない。
集団戦闘において彼らが負けるということは、最後の砦が陥落するも同義である。そのことを彼らは、胸に刻んでいた。
そのために、同志達と協力し戦う。スタンドプレーを行うのは実力のある上の者達に任せればいい。そう、あのような、
「さぁて、始めますわよ! 準備はよろしくて!?」
金髪ツインテールの少女。コマンダーの使徒であるキャロルは、背後に控えさせた親衛隊と、隣にいる同僚に声を掛けた。
背後から応答が響く中、肌を刺すような雰囲気を醸し出しているのは、黒髪を持つ長耳、赤のクリスタルを額にもつ女性、
「……いつでも」
ドラゴンカラーの使徒、ハンティ。
彼女は据わりきった視線を人間に向け、準備運動をするように腕を伸ばす。
それを見たのは、ハンティとは反対側に立つ薄紫色の髪を持つスタイルの良い少女で、
「あー……そういえば使徒になってからの実戦は初めてですねぇ……模擬戦なら何回かやりましたけど」
しみじみと言うのは、青いクリスタルを持つカラーの使徒、ペール。
その言葉にキャロルはぴしゃり、と。
「そんな弱きではいけませんわ、ペールさん! わたくし達は魔物界一の最高使徒と――その後輩ですのよ! 戦果は当然、少なくとも使徒の中では一番でなくては!」
「あ、はい。キャロル先輩。始祖様も、頑張りましょうね」
キラキラとそう言うキャロルに、ペールが軽く流すようにハンティに声を掛ける。
ハンティが頷いたのを見て、キャロルは声を上げ、
「では……突撃、ですわ――!!」
「…………!」
「それじゃ、いきますよう……!」
瞬間、使徒達は動いた。
まず最初に見えたのは、そこから瞬間的に消えるハンティであり、
「――――」
「なっ――」
「えっ……が――」
「っ……!」
単騎で人間に向かって突撃するハンティは、彼女だけが使う魔法――瞬間移動を使って次々と人間を屠っていく。
その速さは圧倒的であり、下手な魔人よりも早く、そして、
「おお……! あれがハンティ様の戦闘か……!」
「な、なんとお強い……!」
何より――強い。
それこそ、下級魔人に迫るのでは、と考えてしまうほどの強さ。
数百年、レオンハルトと模擬戦を続けたのは伊達ではない。その魔法の腕や身体捌きも卓越しており、
「……悪いけど、死んでもらうから……!」
そう言って戦い続けるハンティは、使徒最強といっても過言ではないほどの戦闘力を誇っていた。
それを見て、感心したような声を出すのは、
「はえ~……始祖様ってば、やっぱり強いですよう……これは私も頑張らないとですねぇ」
言って、身を躍らせたペールは、人間の集団を前に、魔法を発動させる。
しかしそれは普通の魔法ではない。
空間から出てくるそれは、薄い身体を持った可愛らしく、ファンシーな姿を持った生命体。
召喚魔法で召喚されるそれは、
「――それじゃ幻獣ちゃん。張り切ってやっていきますよう!」
「――!」
デフォルメされた兎の影のような存在は、幻獣であり、ペールが使っている魔法は幻獣魔法。
使徒化によって得た召喚の力で使う新たな戦闘方法だ。
ペールの声に反応して、召喚された数十以上の幻獣は人間の集団に向かっていく。
「うあっ、来るな!」
言って剣を振る人間の兵。その剣の軌道は、確かに幻獣に当たるものだ。
しかし、
「なっ、すり抜け――」
幻獣には当たらず、そのまま幻獣たちの体当たりを受ける。
ペールはいたずらっぽく笑みを浮かべ、
「無駄ですよう? 幻獣ちゃんに通常の攻撃手段は一切効きませんからっ」
「な、んだ、それは……!」
反則的な性能のそれに兵士が憤りの声を上げるも、ペールは手を横に振り、
「いやいや、絶対に倒せないわけじゃないんだからチートって言わないでくださいよう? レオンハルト様は倒せましたし、頑張ってくださいね?」
言いながら、ペールは幻獣に命令を下す。
通常の攻撃を無効化する幻獣の攻撃に、人間の兵達はやられていく。
それらを見たキャロルは、
「……んもぉーー!! ハンティさんもペールさんも! わたくしを差し置いて活躍するなんてずるいですわ! 早くわたくし達もいきますわよ!」
「は、はいっ!」
親衛隊の女の子モンスター達が、走り出したキャロルに続く。
猪突猛進といった様子で全力で走るキャロルは、右手に剣、左手に銃を、それぞれ腰のホルスターから抜き放ち、
「とうっ!」
「っ――」
何とも緊張感が抜けるような声とともに、その銃の引き金を引く。
発射された弾は、兵士の頭を撃ち抜き、即死させてしまう。そして、
「そこっ、そこっ、そこ!」
次々と人間を撃ち殺していくキャロル。
彼女がもっとも得意とするのが、人間の間では未知の武器とされているこの銃の腕前だ。
寸分違わず、とまでは言わないが、狙った的に確実に当てるほどの技量を誇るそれは銃の攻撃速度もあって回避困難な武器であり、模擬戦を頻繁に行うハンティも厄介だと評した代物である。
反面、剣の方はあまり上達していないが、牽制くらいにはなるし、人間相手であれば身体能力でごり押せないこともない。
彼女は親衛隊に指示を与えながら、戦闘を行っていく。
指揮能力だけで言えば使徒の中でも随一であるキャロルの最近の役目が、専らこれだ。
親衛隊を遊撃として率いて戦闘や任務をこなす。サポートを必要としない場合はそれを行うのだ。
それでいて軍を動かすことだって出来る。ゆえに何だかんだ言って重用されるキャロルであった。
そして三体の使徒を中心に、レオンハルト軍の面々は凄まじい速度で敵を倒し、他の部隊に抜く勢いで進んでいった。
しばらくして、序盤の戦闘が終わりかけ、街が見えてくると、
「……リー」
「はっ」
今まで軍や使徒達の活躍を見届けていた魔人レオンハルトが、傍らのリーに声を掛けた。
その内容を、周囲の魔物兵達も察しながら、その声を聞いた。それはやはり、
「――俺も出る」
「はっ、ご武運を」
「指揮は任せたぞ」
言って、リーが頷くのを見届けたレオンハルトは、不意に手を前に出す。
そこには何もない。しかし、途中から手は空間の中に隠れ、
「出番だ――“オル=フェイル”」
その空間の中から、レオンハルトが何かを掴み取り、徐々に引き抜いていく。
が、とも、ぎ、ともつんざくような音とともに引き抜かれたのは、青い刀身を持つ長剣。
刀身は少し細く、長さは身の丈を越えるほど。
それはレオンハルトが先代の魔王から賜った“魔剣オル=フェイル”。
レオンハルトの得物であるそれがその身を晒したのは、かなり久し振りのことだ。レオンハルト軍の者、魔物兵などは初めて目にした者すらいる。
そして久し振りに目にした者もいる。そこに共通する魔剣の感想は、
「なんという、禍々しさ……」
底知れない恐ろしさを感じる。
レオンハルトの剣気と同じく冷え切り、静かな魔剣は、しかしどこか抑えているような不気味さと荒々しさを感じる。
その得物をレオンハルトは右手に握り、
「――行くぞ」
告げた言葉通り、レオンハルトは戦場に向かって駆けた。
戦場にいる誰も彼も。
人間も魔物も、魔人も。その登場には息を呑んだ。
魔人四天王が戦場に出て少し。これ以上はないと思っていた人間達の前に、
「――――」
それを上回る魔人が現れたのだ。
魔人の最高位である魔人レオンハルト。
彼の登場に魔物兵達は沸き立つ。
そんな中、その姿を見た魔人ザビエルは、
「……あれが、奴の得物……」
初めて目にするレオンハルトの剣に注目する。
ザビエルは彼の剣を見たことがなかった。謎の見えない斬撃を威嚇として放たれはしたが、それを見切ることは出来なかったためだ。
そしてさらに言えば、レオンハルトの戦闘を見るのも初めてであり、
「……ふ、ふふ……見させてもらうぞ……!」
魔人筆頭の戦闘。その一端を垣間見る。
ザビエルは黒の炎で人間達を焼いて苦しめながら、レオンハルトに視線を向けた。
だが、
「……ふん」
レオンハルトは本気を出す気はなかった。
戦闘は行うが、本気を見せることはない。
それを見せるだけの相手でもないし、何より大勢にそれを見られるのは不都合になりかねない。
しかしだからといって、手を抜きすぎるのも誠意を欠く。
命令に従っているというポーズくらいはせめて見せなければならない。
ゆえにレオンハルトは、身内にしか見せたことのない技を幾つか解放することを決める。
その心構えとともに、レオンハルトは身を動かした。
最初に行うのは、前方の人間達に向かって剣を横薙ぎに振る、
「何を――」
「え――」
離れた場所にいる人間達の首が、一刀で寸分違わず斬り落とされる。
それは真空波。
いわゆる飛ぶ斬撃であり、それを持って人間を斬り殺していく。
レオンハルトにとって、遠距離の不利は存在しない。
魔法以上の射程をもつ斬撃は、目に見える場所にその剣を届かせる。
そのまま瞬間的に駆け、一気に前線に出ていくレオンハルトの視界に映ったのは、
「あああああぁぁっっ――!!」
ザビエルの黒い炎に焼かれて苦しむ人間達の姿だった。
「…………」
それを見て、レオンハルトは考える。
如何にして殺してやるか、を。そして、ザビエルに対する意味をもった何かを。
舐められないように、そして一思いに殺すのに効率のいいものは何か、それを考え、条件に合致するのは、
「……燃えろ」
剣ではなく、魔法だった。
しかもそれは、炎属性。ザビエルの使うものと同じもの。
左手を、構えたレオンハルトにザビエルが疑問の声を上げる。
「何を――」
と、次の瞬間、レオンハルトは必殺技を放った。
左手に力を溜めて、魔法の発動光と同時に現れた紅の炎弾を放つ。
「――“プロミネンス”ッ!!」
その紅炎は、レオンハルトの手から離れ、黒の炎で苦しむ人間達の中心に着弾する。
すると、
「――――」
紅の火柱が立ち昇り、熱風と炎の勢いで周囲にあるものを焼き尽くす。
その火力は凄まじく、紅炎の熱が周囲の温度を上昇させ、巻き込まれた者達――ザビエルの黒い炎で苦しんでいた人間を一瞬で焼き尽くして絶命させる。
「何……!」
ザビエルはレオンハルトが放った炎。その結果に驚きの声を上げた。
火力であれば同等であり、用途が違うから一概には比べられない。劣っているわけではない。
しかし、炎に特化した自分と同等レベルの炎。オリジナルの魔法。必殺技を出したというのが問題で、
「まだ引き出しがあると言うのか……!」
レオンハルトは剣士であり、使うのなら剣の奥義。必殺技を持っていることは推測される。
しかし魔法でもそれなりの腕を持っているらしいが、それが必殺技を使えるほどとは思っていなかった。
剣だけではない。レオンハルトの底知れない実力が垣間見えた瞬間であった。
驚愕に目を見引くザビエルの姿を遠目に、目的が成ったことを確認したレオンハルトはザビエルを無視してひたすら前に向かう。
続く先は街。
城壁が街の周囲を囲むそこは、多くの兵士が戦闘をおこなっており、その城門を通らせまい、と人間が奮戦をしていた。
レオンハルトの目的はその街を最初に占拠すること。ゆえにそこに向かっていくのは必然であり、魔物兵達や人間らは揃ってその登場に声を上げた。
「急げ! 城門を閉めろ!!」
「ぐっ、急げ……!」
魔物将軍が兵達に急かすが、人間の行動の方が早い。
ゆっくりと城門が閉まり、外の侵入を遮断する。城門前に人間の兵士が残っているが、それを代償としたのだろう。背に腹は代えられない。街に侵入されるよりはマシなのだ。
しかし、
「――どいてろ……!」
「レオンハルト様……! 何を――」
言った瞬間、レオンハルトは城門前に辿り着くと、魔剣を縦に振り下ろした。
結果起こるのは、
「っ!? ま、まさか……! じょ、城門が……!?」
「お、おおおおおっ!?」
同じ意味で驚く人間側と魔物側。
まさか、と思った通り、レオンハルトが剣を振り下ろして衝撃が走った刹那、城門はゆっくりと縦に分かれ、
「! た、退避――!!」
ゆっくりと分かたれた城門が、街の中に向かって倒れていく。
大きな音を立て、地面から煙が立ち上る中、人間達は外から侵入してくる魔人レオンハルトを見た。
それは彼らにとっての絶望。死神であり、同時に救いでもあった。
レオンハルトは魔剣をゆっくりと構え、
「……悪いがこの街の人間は、全員俺に斬られてもらう」
言って、レオンハルトは剣を振った。
一度の振りだけで数十人以上が一斉に即死する。
そのことに戦慄を覚える兵士達だが、そこに加えて、
「……ん、先にいたのね」
魔人の横に黒髪の女性まで現れる。
瞬間移動を駆使して、多くの人間を殺したハンティだ。彼女はレオンハルトの姿を見た後、何の感情も持たない瞳で人間達に視線を移す。
そこには覚悟と意思があった。レオンハルトはそれを確認し、ゆえに敢えて言った。
「……ちょうどいい。手伝え」
「……言われなくても」
レオンハルトとハンティがその手に持った剣を構える。
「あ……う……」
「ひぃ……!」
怯えながらも街を守ろうとする兵士達に一切の慈悲も容赦もせず、
「――次」
「…………」
レオンハルト達は街に死を振りまいた。
魔軍は僅か数時間で布陣していた人間の軍をほとんど壊滅状態にした。
幾つもの屍が横たわり、大地が赤く染まっていく。悲鳴と嘆きが共鳴して奏でられる交響曲に、それを下した魔王ナイチサは酔いしれる。
「フフフ、フハハハハハ!! ああ、良いぞ……!」
心底楽しそうに、嬉しそうに、ナイチサは愉快であると笑う。
これを求めていた。これを為そうとしていた。
これこそが、魔王である自分が作る世の中を象徴する光景だ。
理想郷、その一端が目の前に広がっている。
この世の価値観でいう正義。光。善。目の前にあるのはそれだ。
きっと天上の存在も喜んでいるだろう。
そこでナイチサは、少し勿体無いものを感じ、自らも跳び上がった。
自分も参加したい。自分も彼らに光を与えたい。光を浴びたい。
光あれ。その一心でナイチサは声を上げる。
「さあ……余も、卿らに光を与えようではないか……!」
跳び上がったナイチサは、眼下に見える人間の軍勢に向かってそれを放つべく、光を発生させた。
巨大な光球。それをナイチサは頭上に出現させる。
「この光は、卿らに与える祝福の光であるぞ……!」
膨れ上がっていく光球は、やがて数十メートル。百メートル近い大きさとなって周囲を眩く照らす。
「余の光を見よ……!」
手を振り落ろし、巨大な光球が地面に向かって音を立てながら墜ちていく。
「余が作る世界の光景を見よ……!」
光が闇を飲み込んでいく。
「余の家臣を見ろ……!」
その光球に飲み込まれたものは、光球が発する熱量に焼き尽くされて消える。
逃げ遅れた兵士が苦悶の悲鳴を上げながら融けていくのを見た。
人間達は必死に逃げるも、光球はその場にいる人間達を例外なく飲み込んでいく。
「余を見ろ……!」
天を仰ぎながら、ナイチサは地上の人間達に祝福の光を落とす。
「余は――魔王であるぞ……!!」
そうして、光球は人間の軍勢を呑み込み、大地に激突する。
瞬間、
「――――」
もはや悲鳴が悲鳴とならないほどの甲高い音とともに、光球はその場にあるものを焼き尽くした。
救いと破滅の光。
それを最後に――戦争は終わった。
スラル「初めての必殺技が魔法って……私は好きだけど」
ケッセルリンク「何かコンセプトでもあるのか?」
キャロル「テキトーらしいですわ。一個言うなら、この世界の必殺技がシンプルなものが多いので、シンプルからちょっと捻ったものになる予定ですの」
ガルティア「ってことは他もあんな感じか」
ペール「魔法はそんな感じで、剣の必殺技はまだ未定らしいですよう」
ハンティ「まあ、剣はいっぱい技あるよね……普通に必殺技級のが」
レオンハルト「……魔人はオリジナル魔法意外と使えるからな。グレートファイアーボールみたいな」
ラウネア「…………(ちなみに魔法はまだあるよ)」