※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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魔法生物の誕生

 NC1XX年。

 

 魔王ナイチサの治世が大陸に訪れ百年程。

 人類は魔軍との戦争を強いられ続けていた。

 人間の倍以上はいると思われる魔物兵も問題であったが、特に恐れられていたのはやはり魔人と魔王だ。

 通常の魔物とは桁違いの戦闘力を持ち、あらゆる攻撃を通さない無敵結界を持つ魔人の侵攻。

 そしてそれを越える魔王の凶行に、人間は怯え続けた。

 

 ――そんな時代に、一人の研究者がいた。

 

 とある国家に招かれた魔法研究者は、魔法の腕もさる事ながら、人間の間では並ぶもののいない魔法具作成者――“付与師”であった。

 彼女はこの時代、まだ浸透しているとは言い難い魔法という技術に一石を投じた。

 そも魔法を学ぶには、魔法使いに師事し教えを請うことが一般的であり、代々伝わる魔法使いの一族や、多くの魔法使いが所属する軍にでも入らなければ、魔法を学ぶことは難しかった。

 しかし彼女はとある一冊の本に出会い、魔法の道を志した。

 それは人間の間には出回っていない珍しい魔法の本であり、人間の生活には未だ使われていない、“魔法製品”の作成方法が記された貴重な本であった。

 付与、という魔法を物に込めて作られる魔法製品の作成に、彼女は夢中になった。

 それは人間の技術では実用化するに難しいものであったが、幸いにも彼女には才能があった。

 普及、量産するような魔法製品こそ実用させることは出来なかったものの、それよりもさらに高度である“魔法具”の作成に成功した。

 炎の魔法を込めることによって作られる炎の杖など、使おうと思えば魔法使いでなくても使える魔法具の誕生によって、彼女は一躍有名人になった。

 一部の貴族、王族の生活に使う魔法具などを発明し、彼女は一代で財を成したのだ。

 

 そんな時、彼女は国からとある依頼を受けた。

 魔軍に対抗するため、武器となる魔法具の作成を頼まれたのである。

 魔軍の存在は当然、彼女も知っていた。人間を苦しめる魔物の軍隊。

 その脅威から人類を救うべく、彼女の研究は始まった。

 だが彼女は直ぐに、壁にぶつかることになる。

 強力な魔法具を作成し、それで魔物を倒すことは出来る。通常の魔物であれば敵ではない。

 しかし――魔人と魔王は別だ。

 人間とは隔絶した力を持つ魔人の強さは、彼女の予測を大幅に越えており、どれだけ強力な魔法具を作っても、彼らに傷一つ負わせることが出来なかったのである。

 無敵結界の壁。人間では絶対に越えられない種族としての壁に、彼女は当たってしまったのである。

 

 

 

 

 

 その研究所は、陽の当たらない森の中にひっそりと建っていた。

 持ち主が陽光、自然の光を嫌ったためであり、建てる際に人気がないこの場所をわざわざ指定して作らせたものである。

 それゆえにやはりと言うべきか、室内は薄暗く、人っ子一人すらいない。

 掃除や手入れをする使用人でも雇えばよいのに、それすらも横着しているせいか、室内は埃まみれであり、何だか分からない物体で溢れている。

 足の踏み場もないほどに散らかったその室内の中で、唯一生活感のあるスペースに、その持ち主はいた。

 

「――あぁーー……あの貴族、ちょーうざい……」

 

 悪態をつくその影は、小柄だった。

 魔女帽子を被った小柄で細身の少女が、研究室の床、毛布などを敷き詰めたスペースにて寝転がっている。

 腰まで届く緑色の髪はぼさぼさで手入れが行き届いておらず、度重なる夜更かしのせいか目の下には隈が目立ってしまい、その不機嫌そうな顔と相まって可愛らしいと評することの出来る顔も台無しになっている。

 

「何度も何度も、催促しやがって……死ねばいいのに……」

 

 可愛らしい声から放たれるその毒や、殆ど外に出ない所為で白くなった肌や、もうとっくに大人どころか既に数回結婚をして子供まで生んでいるのに、不摂生がたたって成長していない所為か子供のように見られる彼女。

 

「私を誰だと思ってる……天才魔法研究者……ガウガウ様だぞ……!」

 

 彼女こそが、魔法研究の第一人者にして、稀代の天才付与師――ガウガウ・ケスチナ。その人だった。

 彼女はお湯で戻すことで食べられるインスタントラーメンなる食べ物の蓋を開きながら、ひたすらに呪詛を呟き続ける。

 

「ずるずる……言われなくても……ずる……もうすぐ出来るっていつも言ってるのに……ずるずる……あのカス共……」

 

 手軽で簡単に作れるが、栄養価が偏るインスタントラーメンと、知的飲料と呼ばれるドクペーダッパーを飲んで喉を潤す。

 彼女の食事は基本的に手軽に食べられる冷凍食品かお菓子である。極度の面倒くさがりであるガウガウは研究所に籠もりながらこういった不健康な生活を繰り返している。

 これが原因で家族に逃げられたことすらあるのだ。といっても、結婚相手はガウガウの資産や魔法具を目的とする男ばかりであり、まともな人物であったとは言い難く、唯一腹を痛めて生んだ息子と、その血を与えた夫はやはりどこかに逃げ出してしまった。

 今となっては親交があるのは親戚のツラニツラという人物くらいのもので、友達どころか知り合い程度の人物すら存在しない。

 

「ずる……ふぅ、今に見てろ……いつか私の偉大な魔法具に……感謝する日が来る……」

 

 しかしそのことをあまり気にしていないガウガウは、マイペースに食事を摂り終えると、そのまま少し移動して広いテーブルの前に座った。

 そこにあるのは幾つもの魔法具。どれも一つ売るだけで屋敷が一つ買ってお釣りが来るほど高価な物であり、ガウガウの魔法研究の結晶であった。

 傍らにいつも持ち歩いている一冊の本を置くと、ガウガウはいつものように研究を開始する。

 しかし今日の研究はいつもと違うものだ。

 

「くくく……今日は、特別な日になる……くく」

 

 それを示すようにガウガウの表情に笑みが表れる。くつくつと含み笑いを暗い部屋に響かせながら、ガウガウは一つの物体を手に取った。

 

 それは――宝石であった。

 

 紫色の輝く宝石。しかしその形状は丸く、中心に赤いものが混じっている特殊なもの。

 その宝石こそがガウガウが考えた魔法具研究。その集大成となる魔法具だ。

 

「昨日で、術式は全て組み込んだ……後は……最後の魔力を込めるのみ……!」

 

 ゆっくりと宝石に魔力を込めていくガウガウ。思うのはこの魔法具のことだ。

 魔軍に対抗するための魔法具の作成を、莫大な報酬とともに依頼されたガウガウが導き出した結論。それは、

 

「人の手で……魔王は決して倒せない……」

 

 人間の力ではどれだけの魔法具を使っても、魔王はおろか魔人を倒すことは出来ないということだ。

 人の身で魔物を、あるいは使徒までなら倒すことが出来る。

 しかしだ。例えどれだけの魔物を倒しても、魔人を倒さねば。最終的には魔王を倒さなくては人間に未来はないことは一目瞭然。

 魔物を滅ぼし尽くすことは現実的ではないが、仮にそれを為したとしても魔王一人で充分、人間は滅ぼされる。

 かなり貴重な資料――魔王の力を見たという人間が書き出した資料によれば、魔王は魔法一つで数千、数万の人間を殺すことも可能であるという。

 そんなことが出来る化け物を倒すなど、人間に出来るはずもないし、同じように数万を殺せる魔法具など、ガウガウにも作れない。捻った条件、方法を使えば可能かもしれないが、問題はそこではない。

 問題は、人の手ではどうやっても勝てない、ということ。

 

「なら……話は簡単……」

 

 人の手で勝てないのならば――人以外の、()()()()()()()()使()()()()()

 この世に人より強いものなどごまんといる。

 亜人種、魔物、巨大生物、伝説の武器、ドラゴンなど、人の手に負えないものは沢山あるのだ。

 コンセプトは、寄生と思考。生物、非生物問わずあらゆるものに寄生して操りつつ、その力を高めていく。

 さらに自ら思考して自律行動を取ることによって効率良く寄生先を見極め、同時に戦うことを可能にした。

 

「自動魔法具……いえ、魔法生物――」

 

 そう。これから誕生するのはただの魔法具ではない。

 究極の――生きた魔法具。魔法生命体。

 

「くく……さあ、生まれなさい――」

 

 ガウガウが最後の魔力を宝石に込める。

 眩い光が薄暗い部屋を照らし、増幅して目視出来ないほどの光量が発生する。

 その中心にある魔法生物の名を、ガウガウは叫んだ。

 

「究極の魔法生命体――レッドアイ……!」

 

 言葉とともに甲高い音と魔力光が発生し、周囲をその圧力で吹き飛ばす。

 机の資料、魔法具、ガウガウまでも吹き飛ばし、轟音を響かせた室内。

 しかしやがて光は収まり、ガウガウも魔法具の山から身を起こし、机に目を向ける。

 そしてそこにあった物を見て――ガウガウは感情を爆発させた。

 

「く、くくく……! 完成だ……!!」

 

「――――」

 

 そこにいたのは、僅か20センチほどの小さな球体。

 紫色の球は、その周囲から触手のようなものを伸ばして宙に浮いており、中心には一本の線がある。

 線はゆっくりと見開かれ、赤い眼球を露出させた。

 そして赤い瞳はぎょろぎょろと動き、そしてガウガウを見つけると、

 

「――イエス。マスター」

 

 無機質な声を放ち、

 

「ミーにオーダーを、プリーズ」

 

「お、おお……!」

 

 魔法生物レッドアイ。

 その完成に、柄にもなくガウガウは身を震わせて歓喜した。

 とうとう自分は、ここまで至った。

 これならば、魔王にだって勝てる。

 力を、魔力を高め、より強い存在へと寄生を繰り返し、最終的にはそうなる。

 そんなものを生み出した自分は神か何かだろうか、と。

 普段はやらないような論理的ではない思考をしてしまうくらいには、ガウガウははしゃいでいた。

 彼女はゆっくりと、レッドアイに命令を下す。

 

「それじゃあ、レッドアイ……その使命に従い、行動を開始しなさい……!」

 

「――イエス」

 

 その瞬間が、レッドアイという存在の始まりであった。

 

 

 

 

 

 魔王城。

 人類の敵である魔軍の本拠地であるそこでは、悲鳴が響いていた。

 人間の、ではない。魔人のものである。

 城の一角にて、一体の魔人が床にその身を伏せ、それをもう一体の魔人が踏みつける。

 逆立つ炎の髪を持つ男性。その魔人は、魔人に向かって愉悦した声を掛ける。

 

「どうした? 我に灸を据えるのではなかったのか……?」

 

「はぁ、はぁ……やめて、くれ……ザビエル……」

 

 一体の魔人は、自分を踏みつける魔人ザビエルを見上げて制止を呼びかける。

 しかしザビエルはそこで一度止まり、

 

「……ザビエル? ふむ、人に物を頼む時の態度ではないな……ふん」

 

「が、ああああああっ……!」

 

 ザビエルの足が魔人の肩を踏み潰す勢いで振り下ろされ、骨が砕けるような音が鳴る。

 魔人は慌てて声を上げた。

 

「ザビエル様……! やめてください……っ!」

 

 このままでは殺される。そう思った魔人は恥も外聞も捨ててザビエルに懇願する。

 

「……ふむ、聞こえないな。聞こえたか、猿?」

 

「…………」

 

 ザビエルが自分の横に声を向ける。

 肩に乗っていた小さなサルボボ。黒いマントを首から巻いた猿は、魔人ザビエルの第一使徒である藤吉郎。

 藤吉郎は主であるザビエルの言葉に首を振り、聞こえなかった、という風にポーズを取る。それを見たザビエルは笑い、

 

「ふふ、やはり聞こえなかったか。では、もう少し痛めつけるとしよう」

 

「そんな――あああぁ……!」

 

 ぐっと足に力を込めて魔人の骨を砕いていく。

 痛みに表情を歪め、悲鳴が城の廊下に木霊する中、ザビエルの背後にいる他の三体はそれぞれ口々にそれを見て、

 

「ザビエル様、たたたた楽しそうだすな」

 

 黒い肌をした顔のデカい男。

 ブザイクと形容出来る長衣の男は魔人ザビエルの使徒――魔導。

 人間の手の骨が先端に付いた杖を持つ魔導は、どもったような特徴的な口調で楽しそうなザビエルを評する。

 

「タノシソウ、ワタシモ、ヤリタイ……」

 

 その評に同意し、自らもそれに混じりたいと言うのは全裸に近い格好をした女。

 紫に近い青色の髪を持ち、右腕には金色の巨大な手甲を身に着け、左手には青色の折れ曲がった刀を持っている。

 刀に血を滴らせた状態で笑みを浮かべる彼女は使徒――式部。

 人を殺すことを好み、36時間に一度は殺さないと知能が低下して見境なく殺すようになる殺人狂いの彼女は、魔人にすらその欲を向けている。

 

「ふっ、まあ身の程も弁えずザビエル様に突っかかったのだ。やられて当然だろう」

 

 そして冷静に説明するのは、白い肌を持った福耳の大男だ。

 和装に身を包み、その手に巨大な銃のようなものを持つ男は使徒――煉獄。

 常にザビエルの傍に付き従い、様々な活動を行っている煉獄は、今も周囲に気を配っている。

 彼らは魔人ザビエルが作った使徒達であり、実務、能力、戦闘に優れた者達である。

 後もう一体、存在するのだが今は離れて行動しており、魔王城にその姿はない。

 代わりに、その廊下を覗き見する存在がいた。

 

「――な、なんでよりによって俺様の部屋の前で……! ぐぐぐ……!」

 

 廊下の角からザビエルは他の魔人を踏み潰している光景を見るのは魔人ケイブリス。

 彼は日課の鍛錬を終えて自分に割り当てられた部屋に帰ろうとしたところ、部屋の前の廊下で遊んでいるザビエル達を見つけ、

 

「これじゃあ帰れねぇな……隠れ家にでも行くか……?」

 

 少しずつ強くなっているとはいえザビエルみたいな危険かつ強大な魔人の前を横切る勇気は、ケイブリスにはない。特にザビエルは最近、他の魔人相手によくこういった暴力を振るっているので特に危険な相手だ。

 そもそも現魔王ナイチサが作った魔人は凶悪で危険な人物が多いため、そのおかげでケイブリスは最近、眠れない日々が続いている。

 おそらく今日も眠れないだろう。そう思い、しかししょうがないことだと諦めて踵を返そうとしたケイブリスだが、

 

「――誰かと思えば……ケイブリス――様ですか」

 

「っ!?」

 

 気づけば、ザビエルの使徒、煉獄にその身を発見されてしまった。

 ケイブリスは驚き、身を怯ませるも逃げることが出来ない。

 ともすれば無敵結界もあるし、目の前の使徒には勝てる可能性はある。最近はようやくだが、下級の魔人くらいまで力は付いていると思うからだ。

 だが、近寄ってきた魔人の方が問題で、

 

「ほう……こんなところで何をしている。ケイブリス」

 

 魔人ザビエルが、ゆっくりと近づいてきた。

 他の三体の使徒を連れてケイブリスの前まで歩いてくると、小さな身体を持つケイブリスを見下ろす。

 ケイブリスはその問いに必死に頭を下げた。

 

「い、いえいえ! 何もしてないですよザビエル様! ……強いて言うなら、ザビエル様の強さを見て尊敬の眼差しを送っていました!」

 

「…………」

 

「……それより、何かしてほしいことは無いですかザビエル様! 僕、何でもやってきますよ! へっ、へへ……」

 

「……ふん、そうか」

 

 媚びへつらうケイブリスの姿を見て、滑稽に見えたか、哀れにでも映ったのかザビエルの視線が見下しきった冷たいものとなる。

 ならば、と声を出し、

 

「我の為に、レオンハルトを襲ってこい……とでも言えば、お前は従うのか?」

 

「へ……」

 

 言われた言葉にケイブリスが絶句する。

 いくらなんでもそれは、

 

「どうした? 出来ぬのか?」

 

 再度問われ、ケイブリスは冷や汗を掻きながら必死に弁解しようと試みる。

 

「い、いえ、その……ぼ、僕には荷が重いと言いますか……」

 

「では、何でもするというのは嘘ということか……?」

 

「っ……そ、そうではなく……!」

 

 ザビエルの圧力が視線とともに叩きつけられる。

 未だケイブリスの遥か上をいく上級魔人としての存在感。力を重圧としてぶつけられ、苦悶の声を漏らす。

 それだけで動けなくなってしまった脆弱なケイブリスという存在に、ザビエルは息を吐き、

 

「……戦うことが出来ぬと言うなら……精々レオンハルトの――」

 

「――俺がどうしたって?」

 

「……!」

 

 ふっ、と、ケイブリスに叩きつけられていた重圧が収まる。

 奥から聞こえてきた声。同時に現れた存在に、ザビエルとその使徒は身を硬くして待ち構えた。

 今話題に出していた魔人。魔人筆頭兼魔軍参謀であるレオンハルトが、冷たい目でこちらを睨んでいたからだ。

 ザビエルはケイブリスを無視し、レオンハルトに向き直る。

 

「……いえ、レオンハルト様。我は特に何も。ただの世間話をしていただけでして……」

 

「……ふん」

 

 レオンハルトの目が細まる。

 鋭い目が奥、倒れた魔人と、近くのケイブリスに移り、最後にザビエルに戻す。

 

「随分と手荒な世間話だな?」

 

「……少し口論になってしまったので。そういういざこざは珍しいことではないでしょう?」

 

「……わざわざ使徒に見張らせてまでか?」

 

 その言葉に反応したのはザビエルではなく、実際に周囲を見張っていた煉獄であった。

 彼はザビエルの傍らに付きつつ、レオンハルトに向かって、

 

「……お言葉ですが――」

 

「――黙れ」

 

「っ――ぐっ、っ……!」

 

 レオンハルトの圧力が、煉獄に、正確には使徒達に叩きつけられる。

 その赤い瞳に射抜かれるように視線を向けられた煉獄は、その巨体をしゃがみ込ませ、自然とレオンハルトに膝を突くような体勢になる。

 

「――誰がお前に発言を求めた? 煉獄、俺はザビエルに聞いてるんだ。お前は黙っていろ」

 

「は、は……」

 

 その言葉に平服するしかない煉獄。

 見れば他の使徒達も脂汗をかいている。使徒の中では高い実力を持つザビエルの使徒達だが、それでも魔人筆頭という魔人の最高位から殺気をぶつけられて平気でいられるほどではない。そこには隔絶した格の差と、実力差が横たわっている。

 ザビエルのもう一体の使徒であれば少しは食い下がれるだろうが、他の使徒では不可能に近い。使徒達の苦しみを感じ取ってか、ザビエルが口を開き、

 

「……少し内緒話をしておりましたので、使徒に見張らせておりました」

 

「……下手くそな言い訳だな……」

 

 冷めきった声で言うレオンハルトの視線が、ザビエルを射抜く。

 そのまま脅すように、

 

「ザビエル。最近のお前の行動は目に余るな……」

 

 ここ百年で更に実力を高めていたザビエルだが、それに比例してかその傲慢さを隠さなくなっていた。

 自分に逆らうやつは魔人ですら平気で暴力を振るう。殺しこそしないのは魔王であるナイチサへの忠義があるからだろう。しかし城の中でここまでやられると魔人を統率するレオンハルトの立場からすると迷惑でしかなく、

 

「少し大人しくしていろ。でないと――俺もお前と、()()()をせざるを得ないが?」

 

 脅しをかけて黙らせる。レオンハルトは魔人達を従わせるためによく使う手法だ。

 百年前であればザビエルも、その圧に従っていただろう。

 だが、今は違う。

 

「……遠慮しておきます。ただでは済みそうにありませんし……」

 

「…………」

 

 ザビエルが引いた。

 言葉こそ丁寧だが、それに怯むことなく、頭も下げない。

 もはや脅し如きで怯むほど、ザビエルは弱くないことの証左であった。それを感じ取り、レオンハルトの眉間に皺が寄る。そして、息を入れると、

 

「……ふん。留意しておけ」

 

 ややあって、その場の空気が弛緩する。

 レオンハルトが殺気を収めたからだ。同時に使徒達も息を整え、ケイブリスも立ち上がる。立ち上がったケイブリスにレオンハルトは視線を向け、

 

「……大丈夫か?」

 

「! そ、それはもう――じゃなくて、別に何もありませんでしたよ……あはは……」

 

 その場にレオンハルトとザビエルという二人の強者がいることで、ケイブリスの態度もどっち付かずのものとなる。一応、あとでザビエルに報復されないように何もないとは言いつつ、レオンハルトの背中に隠れたケイブリスは、レオンハルトの肩に手を置いて肩揉みしつつ、

 

「それはそうと、レオンハルト様は何か用事でも? 何もなければこのケイブリス、レオンハルト様の為に貢ぎ物を用意させて頂きたいです!」

 

「ん……それはありがたいが……これからナイチサ様の元に向かう予定でな」

 

「そ、そうでしたか! ならこんな僕の相手をしている暇はありませんね! 残念ですが諦めます! お勤め、ご苦労さまです!」

 

「…………」

 

 レオンハルトの周囲を回り、正面にて頭を下げたケイブリスを、ザビエルが白い目で見る。強い相手に媚びへつらうのはいつもの事だが、最強の魔人相手ともなるとそのやり方も卑屈に過ぎる。

 逆に数少ないケイブリスよりも弱い存在には、どうにも横暴な振る舞いが見られる、という噂もあるが、圧倒的強者であるレオンハルトやザビエルにはそれを見ることが出来なかった。

 とはいえ、レオンハルトは慣れているのか、ケイブリスのおべっかを軽く息を入れるだけで受け止め、その上で立ち去りながら、肩に手を置いてやると、

 

「……まあその後でなら時間を作ろう」

 

「……え、あ、はい! 分かりました!」

 

 ほんの一瞬、“あ、マジで?” と、顔を驚かせたケイブリスだがそこは流石なもので直ぐ様頷いてみせる。

 じゃあな、と後ろ向きに手を振るレオンハルトに頭を下げつつ、見えなくなるまで見送ると、

 

「……ふぅー……」

 

 汗を腕で拭い、大きく息を吐く。

 そして今度はザビエルの方を向いて、

 

「あ、ではザビエル様! また何かあればお申し付け下さいね! では!」

 

 と、言って凄い勢いで立ち去っていった。その変わり身というか誰にでも媚びるケイブリスの姿を見て、ザビエルの表情が微妙なものになる。

 

「……哀れな奴よ、ケイブリス……」

 

「すすすすごく媚びてただすね……」

 

「……ナサケナイ……」

 

「……全くですな……」

 

 ザビエルとザビエルの使徒達も、その場を後にしていった。

 




メイクドラーマー(白目)
今回から奴のストーリーです
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