全てが整った部屋がある。
調度品、装飾、家具。その全てが主の好みに合わせた最適なものであり、特注で作らせた価値のある品の数々だ。
その一つ、小さくまとまった丸いテーブル。そこにある椅子に腰掛けた主は、さっそくその声を家臣に飛ばした。
「――卿にしては少し遅かったな? 時間を的確に守る卿には珍しい。何かあったのか?」
気品ある声と口調。
その持ち主は魔王ナイチサ。その人であり、彼はテーブルに数冊の本を置き、そのうちの一冊を目を通しながらグラスに入った真っ赤なワインを口にし、遅かった、と訪問してきた家臣を迎えた。
しかしその声色に咎めるような色はない。むしろ物珍しさから軽く興味を湧かせるもので、本から顔を上げて家臣の顔を見る。
家臣は軽く首を振った。丁寧な口調で、
「申し訳ありません。……道中で少し」
「ふむ、喧嘩でも売られたか?」
「些細なことです。部下を諌めることも仕事の内ですので」
それは当然のことで主が慮る必要はない。きっぱりと言い切った家臣の名はレオンハルト。
魔人筆頭と魔軍参謀を務める魔軍のNo.2。魔人の最高位である金髪灼眼の美丈夫であり、魔王ナイチサの忠実なる家臣だ。
紛れもない忠臣。その発言にナイチサは機嫌を悪くすることもなく、左様か、と短く一言で頷いた後、グラスを置いて目を向けると、
「真面目だな。たまには魔人らしく、力で叩き潰してしまえば良いのではないか?」
「……言って聞かせることが出来ず、無闇に暴力を振るうのは上に立つ者としては下の下。無能を自ら喧伝するようなものかと」
ほう、と納得しかけたナイチサに対し、レオンハルトはそれに、と言葉を区切った。
「本当にどうしようも無い相手……気に障った相手には容赦はしませんのでご心配なく」
「……なるほど」
と、ナイチサは告げられた理由に微笑を浮かべる。面白そうにレオンハルトを見て言うのは、
「そういえば卿にも、魔人らしさがあるのを失念していたな。――その僅かに溢れる戦意の名残りが、その証左であるか」
「……申し訳ありません。昂りを抑えきれず……」
謝罪し、頭を下げようとするレオンハルトにナイチサは掌を上げ、
「よい、構わぬ。察するに、やり過ぎないように自己を律しているのであろう? 規律を重んじる卿にしてみれば余の城で暴れる魔人は目障りに映るだろう。余の持ち物を傷つけないように配慮しているというのであれば、多少昂りを表に出したくらいで何を怒る必要があろうか」
「……寛大なお言葉に感謝を」
「うむ。……とはいえ、そこまで気にする必要もないのだぞ? 卿は余のためによく働いてくれている。魔人らしく欲望に忠実に動いたところで咎めることはない」
それこそ、余が作った魔人達のように。と、ナイチサは頬杖をついて本題を思う。
同時にそれを察したレオンハルトは慇懃に返しながらも思考を回し、
「その時は、やり過ぎないように注意しましょう。……して、今日は――」
ああ、とナイチサは頷く。そして口に出したのは、
「通達した通り。――魔人四天王の空いた二つの椅子に、そろそろ誰かを座らせてやろうと思ってな。卿の意見を聞こうと思ったのだ」
「……左様ですか」
レオンハルトはナイチサの言葉を聞いて、そのことを思う。
魔人四天王。今更確認するまでもなく、魔軍の、魔人の中でも特に強大な力を持つものが敷く称号の一つだ。
現在、その椅子に座るのは魔人カミーラに、魔人ケッセルリンクの二名のみであり、過去を遡っても四天王になったことがあるのは自分くらいしかいない。
やはりそれ相応の力――上級魔人と誰しもが認めるほどの実力が無ければその席に座ることは許されない。例え実力がない者が座っても、四天王としては認められないだろう。嫉妬から襲撃を受けることもないとは言えないのだし、最低限他の魔人と戦っても負けない実力が無ければならないもので、
……とは言ってもだ。候補は……。
ナイチサの質問を待つ。聞かれるのは、現在いる魔人についてで、
「余が作った魔人で、卿から見て見どころのある者はいるか?」
その質問に、レオンハルトは軽く息を入れてから答えた。それは、厳しいことを言う前の前置きだ。
正直に答える。口を開き、
「……率直に申しまして……殆どが並か、並以下。暴れるだけしか脳のない凡百の魔人ばかりです」
「……そうか」
残念であり、同時に納得するその応答の意味が、レオンハルトにはよく分かる。
……それなりに吟味して魔人にしたはずだがな。
これまでに何度か、ナイチサは魔人化を行ってきた。
遠征し、面白そうな相手や、見どころのありそうな相手を魔人にしていたし、それはこちらの目から見ても適当なものであったと納得がいく。
しかし結果だけを見てみれば落第もいいところである。
作られた魔人の多くは凶暴で暴れることが大好きな魔人らしい魔人ばかりであるが、実力が伴っておらず、人間相手には無敵結界や魔人の能力の高さもあって無双出来るが、魔人の中では別段強くもないし、特筆すべきことも特に無い。
正直に言って、つまらない奴ばかりだ。こちらから見てもそうなのだから、ナイチサの落胆も相当だろう。
そしてだからこそ、その中にあって目立つのは、
「……ですが」
唯一見どころのある魔人が一体だけ存在する。
その存在を思い、形容し難い感情を覚えつつも、レオンハルトはその名を口にした。
「ザビエル。――あれだけは、他の魔人よりも上等なものだと言えます」
「……ふむ、やはりそこに落ち着くか……」
ナイチサも、内心それを予想していたのだろう。告げられた言葉に驚きはない。
だが確認が必要なのだろう。拘りの強いナイチサは、魔人四天王にも格を求めているのか、吟味を重ねようとこちらに問いかける。
「卿の目から見ても、ザビエルは適しているか?」
なのであくまでも率直に、レオンハルトは評価を口にする。
「はい。ザビエルは趣向こそ他の魔人と変わりないように見えますが、そこには確かな、ナイチサ様への忠義があります」
それは事実。不思議なことにあの傲慢なザビエルは、魔王への忠義だけは異様に高い。
自分を魔人にしてくれた恩なのか、それとも魔物としての本能か。もしくは圧倒的な力を持つ者への崇拝か、何かは分からないが確かな忠誠心を持っている。
恐れから魔王に従っている者とは違うし、他にも、
「他の考え足らずな魔人とは違い、ザビエルは知恵が回ります。また、統率力、指揮にも優れており、集団を操る術に長けております」
「他の四天王よりもか?」
頷く。そこは仕方のない部分で、
「多くの魔人は、個人としての武勇と、支配者としての畏怖が、魔物兵の士気を高めるのに役立ってはおりますが、指揮能力自体は、そこまで高いものでもありません。カミーラやケッセルリンクも並の魔人よりは優れてはいますし、それで何が問題ということでもありませんが……能力があるのは悪いことではないかと」
「確かに、それは美点だな」
ナイチサが納得したように頷く。実際、魔人の指揮能力はそこまで重要ではない。
大軍を指揮するなら魔物大将軍や魔物将軍に任せればいいのだ。魔人の役目は精々、方針を決める程度でいい。謂わば貴族と、仕える将軍の関係に近いだろうか。軍事の細かいところは将軍に任せ、貴族は諸々の方針や、上がってきた方策から良いのを選び取る。
人間と違うのは、その貴族、魔人こそが最大戦力であるということか。ゆえに立場も圧倒的に高い。
自分のようなのは例外なのだ。ともすれば、将軍や魔軍の戦略を無視して動きかねない魔人に、上位の魔人からの命令という楔を打つ役目。魔人と魔軍、全体の指揮、調整を行う魔軍参謀の職務ゆえのものだ。他の魔人は、あまり細かいことを考えなくてもよい。
だがそれでも、出来るに越したことはない。下を使うことに慣れているカミーラやケッセルリンク。戦場での指揮が上手いガルティアなどは、やはり戦果も多く、犠牲も少ない。上と下の齟齬が少ないからだろう。
それらと比べてもザビエルの統率力は高いし、そして何より、
「ですが何よりも、ザビエルは他の魔人と比べて――」
言う。ザビエルの最も特筆すべき長所は、
「――圧倒的に強い」
それこそ、己の食指が動くくらいには。
ゆえに言う。ザビエルを、魔人四天王に推すために、
「並の魔人は勿論、カミーラやケッセルリンクと比べても遜色ない戦闘力を持っています。それは上級魔人として、魔人四天王の席に座るに相応しいものかと、私は愚考します」
言って、
「なるほど――理解した」
ナイチサがグラスを置いて、正面から声を出すのを、レオンハルトは聞いた。それは、正式な辞令となるもので、
「では――ザビエルを、魔人四天王に任命する。そのための告知は――」
「大々的な発表は後にやるとして、簡易的な通達はお任せを。本人へは、私よりもナイチサ様から伝えた方がよいかと」
「ん? ……それは何故だ?」
ええ、とレオンハルトは応答した。それは、
「その方が喜ぶでしょう」
「……左様か。卿が言うのならそうなのだろうな。では、そうしよう」
話がまとまる。もう一つの席についてはやはり保留にすることになった。だがまあ、
……あー……終わった。話が拗れなくて良かったな……。
ここでどれだけ利点があり、相応しかろうが、魔王がごねたらそれは実現しない。ザビエルの四天王就任は自分としても通したかったところだ。また傲慢さに磨きがかかり、面倒事も増えるかもだが、同時に楽になる可能性もあり、
……ま、とりあえず大きな仕事は終わりか。
細かなものは残っているが、大きなものはこれだけだった。なのでしばらくは楽出来るだろう。帰ったら何をしようかな、と珍しく楽しい気分になる。
だが、
「……時にレオンハルトよ。卿に頼みたいことがあってな」
「……何でしょう?」
は? とは言わなかったし、おくびにも出さなかった。短い楽しみだったな、と切なくなるも、切り替えてナイチサの命令を耳にする。
それは、
「また魔人を作ろうと思うのだが……もう普通の存在には飽きてな」
「…………なるほど。それで、私に何を?」
全然なるほどじゃなかったが、合わせておく。並か並以下の魔人しか出来ないことに嫌気が差したことは察せられるが、普通の存在じゃないというと、嫌な予感がする。
そしてその予感は的中した。ナイチサが、ああ、とこちらの質問に頷き、
「気色の違う……有り体に言えば、珍しい存在を見つけて捕まえてほしい。――それを魔人にする」
「……ナイチサ様は――」
「余は少し飽きた。ゆえ、卿に任せるのが一番だと思ってな。目利きもそれなりに出来るであろう?」
頼むぞ、と機嫌良く言われ、何も言えなくなる。
本音を言えば死ぬほど面倒なので断りたいところだが、断れるはずもない。返答は、一つ。胸に手を当てて、頭を下げると、
「……承りました。このレオンハルト、主がご満足頂けるよう全力を尽くしましょう」
騎士のように、頼もしさと忠義を見せた返答を行う。しかし、
……珍しい存在か……どうするかな……。
当てが無さすぎることに内心が不安になってしまっていた。
影のある部屋は城の中にあった。
時刻は昼過ぎ。場所は魔物界でも珍しい街――レオンハルトシティの中心部。
レオンハルトの城の一角。一階部分にある部屋だ。
そこは幾つもの本棚と、魔法陣、水晶などの魔法に関連するものがある部屋だ。
テーブルには魔法具や魔法の媒体が並べられ、室内の温度は同じく魔法具によって整えられている。機能的でありながらも、それなりに片付けられた部屋は、しかし、一つのテーブルだけ物が散乱している。
そのテーブルの前に、黒髪の女性はいた。
「……えっと……ここをこうして……っと……」
魔人レオンハルトの使徒であるハンティは、その工房とも研究室ともいえる部屋で作業を行っていた。
事実、そこはハンティの部屋であった。
といっても生活のための私室ではなく、仕事用に近い部屋だ。
その部屋は呼ぶ相手によって名称が異なるが、公称としては――魔法研究室。
使徒どころか魔人と比べても右に出る者がいない魔法の才能を持つハンティに用意された魔法具工房。彼女のために用意されたアトリエであり、実験室でもあるそこはレオンハルトの城の中でも重要な部屋の一つであった。
「……こっちはこれでいいか。それじゃ次は……」
その中でハンティは、暇があれば魔法の研究を行っている。
主であるレオンハルトに頼まれたのが切っ掛けではあるが、やってみると才能がある所為で妙にやりがいがあるのがハンティの悩みであり、しかし考えると色々と面倒なので考えないようにしている。
様々な素材、危険薬物などを扱う関係上、最初に作った防護の白衣を身に着け、ハンティは研究を進める。
ちなみにハンティには瞬間移動があるので危険も何もないのだが、レオンハルトに何故か、白衣を推され、何故か琴線に触れたのかキャロルやペールまでもがその方が良い、との理由で白衣を着ている。
「……あー……あたし、何やってんだろ……」
ふと我に返り気怠げな表情を浮かべるも、作業だけは真面目にてきぱきとこなしていくのは性根というか基質なのだろうか。
まさか主のワーカーホリックが移ったか、と思うも、その自覚があってなおサボることはせずしっかりと頼まれたことは投げ出さずにこなすのだからどうかと思う。
区切りのいいところまで作業を終えると、一息入れようかと身体を伸ばす。机に置かれたコーヒーに口を付け、ぬるくなってることに表情を歪め、入れ直そうかと考えていると、
「また何か作っておるのか」
「ん、まあね」
外から声が聞こえ、ハンティは窓を開けつつその声に反応する。
中庭に繋がる窓から視界に映ったのは、白の巨体を持つドラゴンだ。元同胞でもある彼の言葉を聞く。
「何とも珍妙な物ばかりだな……俺には何が何だか解らぬ……」
「あー、まあそうかも。便利な物も多いけど、失敗作というか、変な物も散らかってるからね」
「アレも、酔狂というか変な奴だな……あ、だが、あのばーべきゅーこんろなる物は良いものだったぞ。持ち運びが出来、いつでも肉が焼けるからな!」
「……それは良かったね」
半目で焼き肉が食えることを喜ぶ元同胞――ライゼンを見るハンティ。
ブレスで焼けないこともないが、加減が難しく黒焦げにしてしまうことが多いライゼンのため、というわけではないが、火の魔法を込めていつでも食材を焼くことの出来る魔法具を作ってみたのだが、ライゼンはそれをやけに気に入ったのか毎日のように獲物を狩ってきては中庭で焼き肉をしている。ぶっちゃけ、ここで食うなら厨房でやってもらえるのだからあまり意味はない。
……本人が満足してるならいいけどさ……。
正直、それでいいのか、と問いたい。何がとは言わないが、色々と退化してないだろうか。プライド的な何かが。
自分としても賑やかなのはいいが、何だかなー、と思わざるを得ない。
「……ま、いいや。あたしはコーヒー入れるけど、ライゼンも飲む?」
「あの苦い奴だろう? 苦いのは好かんから俺はいらん。……甘いのなら貰うが」
「……じゃあミルクと砂糖を大量に入れるよ」
「うむ。それなら飲むぞ」
ミルクはたっぷりで頼む、というライゼンにやはり釈然としないものを感じながら、部屋に備え付けの器材を使ってコーヒーを入れる。
ぶっちゃけ身体のサイズ的にそんなに飲んだ気がしないと思うのだが、それでもわざわざ飲むと言う辺り、実は結構気に入ってるんじゃないだろうかという疑いがある。
そんなことを考えていると、不意に城の内側の方から音が響いた。
それは扉をノックする音で、
「ん、どうぞ」
一声掛けて入室を促す。すると勢いよく入ってきたのは、
「し、失礼しますハンティ様……!」
額に汗を掻いたメイド。それは女の子モンスターではなく、人間のメイドだ。
レオンハルトが時たま拾ってくる人間の少女、その一人でありハンティも見知った相手であり、
……あ、何か嫌な予感。
焦ってこちらに知らせてくるということは厄介事でもあったのだろう。そんな予想を立ててしまい、外れてくれ、と内心で祈りつつ声を掛ける。
「どうしたのさ。そんなに慌てて」
「は、はい! あ、あの……言い辛いのですが……」
と、メイドは一旦言葉を区切り、おそるおそるとこちらを窺うように、
「ま、また例の――」
と耳に届いた瞬間、ハンティは嫌な予感が当たったことに溜息を漏らす。
だが嘆いてもしょうがないので、先を促そうと声を出し、
「……場所は?」
「は、はい。イベント会場です……!」
イベント会場。その語句を聞いてさらにハンティのテンションが下がる。
正直放っておきたいのだが、頼まれている以上は役目を放置することは出来ない。
ハンティは頭を抱えつつもコーヒーを入れる手を止めると、窓の外のライゼンに向かって、
「……ごめん、ライゼン! ちょっと行ってくる!」
「毎度ながら大変そうだな……俺も手伝うか?」
「いや、あんたが出てったら余計に騒ぎになるから」
「…………そうか」
心なしかしょんぼりと肩を落とすライゼン。いや、そんなことで落ち込まれても。
まあ珍しい手伝いの申し出だったのだし、後でフォローしようか、と心に決め、ハンティは気持ちを切り替え、
「それじゃあ後でね!」
瞬間移動を使い、騒ぎが起こったと報告のあったイベント会場に向かった。
ハンティが移動を行い、やって来たのは街の中にある広い倉庫のような場所。
そこはよく、あるイベントが行われる場所であり、今も魔物――主に女の子モンスターが集まり、長蛇の列を作っている。
そこに姿を現すと、こちらに気づいた女の子モンスター達が色めき立ち、
「あっ、ハンティ様よ!」
「ほんとだ! ハンティ様ー!」
黄色い声とともに手を振ってくれる。それに微妙な表情を浮かべながら、
「はいはい。今は忙しいからねー」
慣れた様子でそれを制しつつ、辺りを見渡すと、
「は、ハンティ様!」
「ん、警備担当の魔物隊長?」
「はっ、本日の警備を担当させて頂いております。オットーと申します」
頷き名乗るのを見てハンティは話を進めた。
「ご苦労さま。それで、騒ぎは――って、あたしを呼ぶってことはどうせあいつだろうけど……」
「……その通りです。我々ではどうすることも出来ないので……」
「まあしょうがないよ。それで、場所は?」
力なく肩を落とす魔物隊長を励ましつつ、その場所を問うと、魔物隊長は顔を上げ、
「は、西ブロック、第一倉庫です」
「ん、わかった。それじゃ――」
と、ハンティは再び瞬間移動を行い移動を行った。
時が止まり、赤く反転した空間――アドミラル空間の中を歩き、言われた場所に向かうと、
「……うわ、やっぱいる……」
人混みに混ざろうとする見知った姿を見て、ハンティはげんなりする。
何度も確認して分かってはいたが、やはり実物を見ると面倒さが湧いてくるから不思議だ。
しかし戸惑っていても仕方ないので、ハンティは瞬間移動を解くと、そのままその影に向かって、
「――何やってんのさっ!」
「っ! おおっ!?」
剣を振り下ろすも、その男は手に持った長物でそれを防ぐ。
お互いの力がぶつかり合い、人混みの間にぽっかりと出来た空間に着地する。
その小麦色に焼けた肌を持つ筋肉質かつ、整った容姿を持つ男。
ところどころに白の毛皮のようなものが伸びる相手は、明らかな人外であり、こちらの剣を防いだのは長い煙管であり、そこからは赤い炎が吹き出ている。
それは彼の口から吹き出たものだ。彼は怒りを滲ませたように赤い目を青く輝かせつつ、こちらに怒声を飛ばす。
「誰かと思えばまたハンティか! おいお前! 何で毎回襲ってきやがる!? 同じ使徒の間柄でもただじゃおかねぇぞ!」
「あたしだって好き好んで襲ってるわけじゃないっての! 戯骸、あんたは出禁だっていつも言ってるのに性懲りもなく……!」
ハンティが睨む相手の名は――戯骸。
魔人ザビエルの使徒であり、ハンティとはよく顔を合わせる相手である。
使徒でありながら魔人と同程度の戦闘力を持つ厄介な相手であり、並の使徒では抑えることも難しく、その実力の高さから専ら、同じく魔人と同程度の戦闘力を持つと云われるハンティが駆り出される。
その戯骸は煙管から炎を吹き出させつつ、問いに対し憤りの声を上げる。
「俺がここにいるのは当然のことだ! 何度も言ってるだろ! 俺はな――」
と、戯骸が懐から一枚のカードを取り出して、掲げるようにそれを突きつけると、
「お前の主――レオンハルト様ファンクラブの一員だからな!」
「……いや、知ってるけどさ……」
ハンティは嫌そうな表情で言う。戯骸が怒り、
「ああ!? じゃあ何で俺の邪魔をする!? ファンクラブに入ってる俺がイベントに参加するのは当然だろうが!!」
「……それ以前に、街の警備から出禁にされてるでしょうが。それにあんた――」
ハンティは頭を抱えながら、当たり前のことを口にした。それは、戯骸の厄介な趣味のことで、
「……男でしょ?」
「ハッ、俺は男だぜ! ……だから何だってんだ!?」
いい笑顔で戯骸はそれがどうした、と堂々と言う。
そう戯骸は――男が好きなのである。
有り体に言えば――ホモ。
ゆえに彼は、魔人レオンハルトのファンクラブに所属し、イベントにも定期的に参加している。
「俺は純粋にレオンハルト様のファンなんでな! お前になんと言われようがイベントには参加するぜ!」
「……はぁ……」
……ほんと、あたし何やってんだろ……。
魔法研究とか模擬戦はまだしも、定期的に主の代わりにホモと戦う生活に、辟易としつつも、役目はこなそうと剣を構えた。
スラル「とうとうファンクラブに男が……」
キャロル「まあ、以前から少ないですが数はいましたわ」
ペール「その辺の話は次回やりそうなのでその辺で……」
ケッセルリンク「四天王が全員埋まる日はいつになるのか……」
ラウネア「…………(後900年後くらい?)」