※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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JAPAN

 ――浮遊大陸。

 

 東部超大型地震という人類史において未曾有の大災害。

 それによって大陸から切り離され、東の空に浮いたその浮島。

 大陸では地震による被害で人類も魔軍も、等しく復興に動く中、その島の上でも幾つものの動きが生まれていた。

 極東の端側とはいえ、その上に住んでいた人間の数はかなりの数になる。

 そして震源地でもあるその島は地震による被害が最も大きい地でもあった。

 既にあった建物は全て倒壊し、多くの死傷者が出た。

 復興するのにも大陸から切り離されたことで物資の供給を受けられないその地でも、やがて一からとなる復興が始まった。

 

 それは復興というより、創造であった。

 大陸から孤立し、その島の中で生きるしかない人々の生活は苦難を極めた。

 その大地の下では未だ聖獣オロチが定期的にその巨体を動かし、地震が起こる地では大陸にいた頃のような石造りの建物を建築しても、建てた傍から崩れてしまう。

 ゆえにその島では、耐震性に優れた木造建築が主流となっていった。

 それに山岳地帯や森などの自然が多いその場所では、木々の方が手に入りやすい。人々は地震の後でも変わらず立っている樹木を見て、木造による建築を選んだとも言われている。

 他にもこの地では、大陸で主に使われている言語とは違う、辺境の言語が主に使われており、その島ではその言語が公用語となったという。

 大陸からの孤立によってその極東に住む人々は徐々に新しい生活、文化を興していった。

 

 だがやはり、困難も多い。この頃、その島で脅威となった災害は主に三つ。

 一つは、聖獣オロチが身体を動かすことによって起こる地震。

 そして一つは、“妖怪”と呼ばれる存在。

 想いや情念が形となり、生物の形となった妖怪だが、その見た目、種は魔物のように千差万別であり、かわいい悪戯の様なものから、人を喰うものまで、様々な形で人を襲った。

 

 そして最後の一つ、更に大きな問題となったのは――“鬼”。

 

 鬼とは、太古の昔より存在する男だけの種族である。

 赤や青などの色で染められた筋肉質で大きな身体と、福耳や尻尾。そして何より、額に生えた角が特徴的な種族であり、その役割は神々が管理する“地獄”と呼ばれる死者の世界で、魂を浄化することだ。

 獄卒として働く彼らは、自我が強く暴れん坊であるが、基本は地獄から出ることはせず、地獄で真面目に働いている。

 だが聖獣オロチによって引き起こされた大地震によって、それは一変した。

 理由は大陸から引き離された衝撃と、地獄の管理者である女神。

 

「……やってしまった」

 

 身体の下側は丸見えの特殊な装束に身を包み、長く紫の髪を靡かせるのは第二級神――アマテラス。

 

 彼女は頻りに眉間に皺を寄せながら、その事態を憂いていた。それは、

 

「鬼達が地上に……」

 

 大量の鬼が、地上に出て暴れていた。

 その原因はアマテラスにある。

 大本は聖獣オロチによる大地震ではあるが、その結果引き起こされた衝撃にて、アマテラスはミスを起こした。

 地上、浮島と地獄を繋いでいる地獄穴を開いてしまったのだ。

 結果、地上に鬼達が這い出していった。

 自我や欲望が強く、暴れることが好きな鬼達は喜々として地上に出て人間を襲っている。

 ただでさえ地震と妖怪によって大変なこの島の住人に、酷いことをしてしまった。

 自分のミスによるものだ。泣きっ面に蜂。あんまりである。

 しかし地獄に繋がる穴を閉じることは出来ない。

 

「悪いことをしたな……」

 

 さすがに責任を感じる。ゆえにアマテラスは考えた。

 何かお詫びをするべきではないか、と。

 自分のミスによって苦難に陥っているのだから、少しは何か謝罪を込めて贈り物をしてやるのが筋であろう。

 考えてみるとそれが良いことな気がした。

 

「だが、何を与えるか……」

 

 贈り物はしっかりと考えなければならない。必要ないものを送っても邪魔になるだけだろう。

 この島で必要なものは、

 

「……食べ物」

 

 まずはそれだろう。

 神々に必要はないが、人間や地上で生きる生物には必要なものだ。

 今、この島に住む“日本人”という人種は食べ物に困っているらしい。

 ならばそれを与えよう。せっかくだから美味しくてまだ知られてない物がいいだろうな、と、

 

「まずは、味噌だな……」

 

 美味しいから味噌にしておこう。美味しいのだから喜ぶだろう。だが、

 

「味噌だけでは足りないか……?」

 

 食料はそれでいいとしても、他に必要なものがある気がする。

 それは、

 

「……統治者がおらぬな……」

 

 そう。現在、この島国には統治者がいない。

 人間の間、いや、魔物や他の生物、集団が出来ればそこには王が生まれる。

 集団を導くための存在。文明を破壊されたこの島ではそういったものがない。

 ならば、

 

「それを作るための、宝でも作るか……」

 

 それを手に入れて王になれば、能力が上がり、民を絶対服従させるようなシステム。

 とりあえずそれを三つほど。三種の神器として作り、システムとしては王よりも強そうな……帝、帝になるシステム。

 帝システムで良いか、と、それを作成することを決める。

 素質が無ければ力の絶大さによって死ぬ可能性もあるが、それはしょうがない。神々の力を道具に込めるのだ。そのくらいは耐えてしかるべきだろう。

 

「後は……橋でも作ってやればよかろう……」

 

 大陸と行き来出来なくなるのは可哀想だし。浮島と大陸の間に神の力で橋を架けよう。

 このくらいであれお詫びとして充分だと思う。

 ならば早速取り掛かろうと、アマテラスは青白い光を発して、そのための作業に取り掛かった。

 

 それは――NC440年の話であった。

 

 一夜にして出現した“天満橋”と呼ばれる巨大かつ綺羅びやかな橋が、大陸と島を繋いだ。

 帝システム。帝ソード、帝リング、帝ハチマキからなる三種の神器を集めたものが帝となるシステムが生まれた。

 新たなる食べ物、味噌が日本人に伝わった。

 そして、

 

「……怒られた……」

 

 アマテラスは上司の一級神に、“勝手なことをするな”と怒られてしまい、顔をほんの少し俯かせた。

 かくして独自の文化を育みつつも、大陸との交流が生まれたその島国――

 

 ――“JAPAN”が誕生した。

 

 

 

 

 

 JAPAN。

 その中に“死国”と呼ばれる土地がある。

 何故、そう呼ばれているかはその土地に足を踏み入れてみれば一目瞭然である。

 そこでは、

 

「あーはっはっは! 地上だ! 人間だ! 雌だ!」

 

「ガハハハハ! オレ、雌欲シイ! 酒欲シイ!」

 

「ウヘヘヘへ! 暴れるの楽しい! もっと暴れるぞぉ……!」

 

 地獄から出てきた鬼達の住処となっていた。

 地上に出てきた彼ら鬼達は、欲望のために暴れまくる。

 酒を飲むために人から酒を奪い、セックスするために女を攫う。ただ意味もなく暴れたいから暴れる。

 我が強く、欲望に正直な鬼達は地上で好き放題していた。

 人間達はそれに抗えない。

 抗っても容易に殺されてしまうからだ。

 戦い、暴れることを好む鬼達は腕力に優れ、生命力に溢れており、人間よりも遥かに強い。

 それに倒したとして、地獄の穴が開く限り、鬼達はいくらでもそこから這い出てくる。

 未だ対抗する術もなく、JAPANでは鬼達の被害が後を絶たなかった。

 そんな鬼達の中で、

 

「ハァーッハッハッハッ! 今日も大量だな!」

 

 豪快な大声を上げて収穫物の中心で酒を呷る一際大きな黒い鬼がいた。

 赤や青という色が一般的な鬼という種族の中にあって、黒鬼は一際強力な力を持つ鬼である。

 彼は黒鬼――レキシントン。

 この鬼の集団の頭であり、地上に出てきた鬼の中でも特に暴れている札付きの鬼であった。

 そんなレキシントンに向かって、鬼達は声を上げる。

 

「親父! 俺、もう我慢出来ねぇ……!」

 

「早ク酒ヲ! 女ヲ!」

 

「ハハハハ! ようし、阿呆ども! 宴だアアァァアアアアアアアア!!」

 

 オオ……! と、鬼達が声を上げる。

 それを合図に皆は一斉に酒を呷り始め、乱痴気騒ぎが始まった。

 人里から攫ってきた女たちを輪姦し、食料を口に詰め込み、あちらこちらで飲み比べを始める。

 女を巡って、または些細な事で殴り合いを始めた鬼二体を、周囲の鬼達が笑いながら囃し立て、それを肴に酒を飲む。

 これが鬼達の日常であった。

 地獄で真面目に働く鬼達でも、その本質は酒、女、喧嘩が大好きな乱暴者である。

 地上への穴が開いたことによって、最早それらの欲望を我慢することなく、鬼達は好き放題しまくる。

 

「ハッハッハッ! どうしたどうした! 儂をもっと気持ちよくせんか!」

 

「あっ、グっ、アア……!!」

 

 その鬼達の中にあって、レキシントンはやはり一際豪快にそれらを楽しむ。

 攫ってきた女達を組み伏せ、腰を振りながら文字通り、酒を浴びるように飲む。貧弱な人間、それも雌に、黒鬼たるレキシントンの力に抗えるものはいない。

 力に任せた強引な性行為に苦悶の声を上げながら、女達は耐えるしかない。

 

「お前達は運がいいな! 儂の相手を仕れるなど光栄だぞ! 何せ、他の鬼共は馬鹿ばかりで、直ぐに壊してしまうからな!」

 

「あっ、酷ぇっすよ、親父!」

 

「ハハハハ! だが事実だろう!」

 

「違いねぇ! ギャハハハハハ!」

 

「ア……ウ……」

 

 生気を失った瞳で、真っ裸のまま白濡れになった女達は馬鹿笑いをする鬼達を見る。

 そこには救いがない。

 まさにここが、地獄であった。

 鬼達がいて、好き放題暴れるこの場所こそが、地上の地獄。

 攫われた女達は例外なくそれを確信していた。

 鬼達も、自分達こそが地上で最強。地獄の体現者であると疑っていなかった。

 だが、

 

「ギャアアアアアアアッ!?」

 

 突如、宴の場には似つかわしくない野太い悲鳴が響き渡った。

 

「ッ!? ナンダァ!?」

 

「ああ……?」

 

 周囲の鬼達が驚きの声を上げる中、レキシントンは首を捻り、疑問符を頭に浮かべる。

 鬼の悲鳴。それを聞いてまず思い浮かべたのは、強い人間による襲撃。

 人間は鬼に比べて弱いが、中には強い者もいる。

 ゆえにそういった強者達が攫われた者を奪還しようと、もしくは自分達を退治せんとやって来る。

 今までにもそういうことはあった。

 

「おう! どうやら客人のようだ!」

 

 強者の到来に喜び、レキシントンは笑う。

 だが、まだ自分が出るまでもない。

 いつものように鬼達が順番に相手にし、それを肴に楽しむこととなるだろう。

 人間は一体や二体の鬼を倒すことは出来ても、それ以上となれば苦しくなる。

 中にはそれを為す強者がいるかもしれないが、その時はレキシントンのような強い鬼が相手にすればいい。

 自分達は無敵なのだ。誰にも止めることが出来ない。

 

 ――そう思っていた。

 

「――酷い匂いだな」

 

「――ッ!?」

 

 瞬間、鬼達の顔色が一瞬で変わった。

 鬼達の宴の場に姿を見せた二つの存在。そこから放たれる圧倒的かつ禍々しい存在感に、鬼達は気圧されたのだ。

 現れた一人、白い肌をした人間の男のような見た目をした化け物が呟いた声に反応したのは、また化け物。金髪灼眼の男であった。

 

「酒と性の臭いでしょう。これを見る限り鬼達は魔物以上にそういった事が好きなようです」

 

「噂以上であるな。……とはいえ少々多すぎる上に、醜くて見るに堪えんな。――レオンハルトよ」

 

「はっ」

 

 レオンハルトと呼ばれた男が恭しく化け物に傅く。

 化け物は命じた。

 

「少々で構わぬ。――()()()

 

「畏まりました」

 

 瞬間、鬼達はそれを見た。

 

「――え、ア……?」

 

「オオ……?」

 

 周囲の景色が反転し、間の抜けた声を出す鬼達。

 それは、首を飛ばされた鬼が見た景色であった。

 そしてそれを見ていた他の鬼達も、次々と同じように首を落とされ、頭を分かれ、命を終えていく。殆どの鬼は何が起こったのか理解出来なかった。

 ただ、圧倒的な暴力の塊が、抗うことすら許さず、鬼達に死を与えていく。

 いつの間に引き抜いたのか、その手に身の丈を超える剣を持った魔人。強い鬼達を一方的に殺すその存在を、レキシントンは不意に思い出した。

 まだ地獄にいた時、噂で聞いた存在。

 地上に蔓延る魔物。それらを支配する強大な魔人と、さらにその魔人の上に君臨する魔王。

 彼らこそが地上での、真の地獄の体現者。

 周囲を鬼達の血と死体で赤く染めた魔人は、ある程度数を減らすと、魔王に向き直り、

 

「……この程度で宜しいでしょうか? ナイチサ様」

 

「うむ。相変わらず卿の剣技は素晴らしいな。極まった技術は見る者に一種の美すら感じさせると言うが、卿の剣技は正に芸術だ」

 

「勿体なきお言葉、光栄で御座います」

 

 とんでもないことを仕出かしてくれた化け物と、それを更に超える化け物。

 黒鬼、レキシントンがそこで覚えた感情は、

 

「……くくく、ハハハ」

 

 仲間が死んだことによる悲しみではなく、

 

「ハァーッハッハッハッ!」

 

 自分を超える圧倒的強者が現れたことによる歓喜であった。

 挑むことが馬鹿らしくなるほどの相手は初めてであり、どうにも笑えてくる。

 急に笑い始めたレキシントンを、周囲の鬼達や、化け物二人が訝しむが、レキシントンは構うことなく、

 

「……全く、敵わんのう!」

 

「お、親父?」

 

 レキシントンは自らの得物である巨大な棍棒を握ると、化け物二体に視線を合わせ、

 

「血が疼きよるわい!」

 

 レキシントンは声を張り上げる。

 

「おう! 悪いが、挑ませてもらうぞ!」

 

「……ほう?」

 

「…………」

 

 声を差し向けられた化け物は反応を見せる。興味深そうに声を出した――魔王と、その鋭い瞳で射抜くようにこちらを見てきた魔人に、レキシントンは更に血が滾っていくのを感じた。

 

「儂の名はレキシントン! 儂は間違いなく死ぬだろうが、最後に儂の力がどこまで通じるか試させてもらおうぞ! ――構わぬか!?」

 

 名乗りを上げて、問いを投げかける。

 しかしそれを聞いているのかいないのか、傍らの魔人が魔王の名を呼ぶ。

 

「……ナイチサ様」

 

「ふむ、敵わぬとみてなお挑むか。余の家臣にはいないタイプだな。強いて言うなら、卿が近いか。卿はどう思う?」

 

「……鬼達の中でも、かなり実力のある個体のようですし、素養は充分かと」

 

「左様か」

 

 魔王と魔人のやり取りは、魔王の頷きをもって終了する。

 こちらを無視して行われるやり取りに、レキシントンは笑みを深め、棍棒を肩に担ぐように構えて走り出す。

 

「ハハハハ! 何を話しているか分からんが、死に目に遭わせてもらうぞ! オオオオオォォッ!」

 

 レキシントンが死を覚悟して、その棍棒を魔王に向かって振り下ろす。

 最後にこれだけ強大な存在に挑め、死ねたのなら本望である。

 その想いを込めて振るわれた棍棒は、しかし、手前の魔人によって止められ、

 

「……腕力も、申し分ありません。下手な魔人よりも強いかと」

 

「卿がそう言うならそうなのだろうな。――ならばそうしよう」

 

 言って、魔王がレキシントンに近づいていく。

 近づけば近づくほど増していくそのオーラに、レキシントンは嬉しさで身震いしながら、

 

「……うむ、実に小気味良い。これほどの強者相手に死ねるとはな」

 

「どうやら、覚悟は終わっているようだな」

 

「おう。文句ないわい」

 

 愉快そうに笑うレキシントン。

 魔人に身体を押さえられた。力を入れてもびくともしない。ゆえにもはや死を待つのみ。

 そして期待したその通りに、魔王の手がゆっくりとレキシントンに近づいていき、

 

「良かろう。では――」

 

 そしてレキシントンは、鬼としての生をそこで終えることとなった。

 




アマテラスって萌えキャラじゃね……? ドジっ子的な感じが。格好も痴女だし……
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