※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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パワードスーツ

 ――NC46X年。

 

 とある地域でのこと。

 

「あーーー……今日も暇ですねぇ……」

 

「そうだな……」

 

 そこは人類圏の土地を占領する形で置かれた魔軍の駐屯地だ。

 その司令部にて、魔物隊長と魔物将軍は気の抜けた会話をする。

 何故か、と問われれば魔物隊長が言った通り、することがあまりないから、としか言いようがない。この駐屯地は重要拠点ではないのだ。

 人類と魔軍は常に戦争を行っている。だが、その全てが攻勢に出ているわけではないし、中には待機を命じられている軍もある。それがここだ。

 人類を完全に滅ぼすことはよしとされていない。ゆえに他の軍や方針との兼ね合いも合って占領だけして待機をしている軍は少なからず存在する。

 

「……酒でも飲むか?」

 

「……いや、将軍。もう飲んでるじゃないですか」

 

「飲まなきゃやってられん」

 

 そう言って魔物将軍はボトルに入った酒を呷っていく。

 大きな軍ともなれば魔人が付いてくるが、この待機を命じられている駐屯地に、魔人が来るはずもない。ゆえに好き放題は出来るが、待機命令が解除されるまで、軍勢を動かすことは許されない。

 例外は不測の事態。人間側から攻め込んでくるようなことがなければ軍を動かすことはない。そうなってしまえば攻勢の大義名分も立つし、遅れて作戦許可ももらえるので良いこと尽くめなのだが、

 

「人間……さすがに攻めてこないよなぁ……こないかなぁ」

 

「ど田舎国家にど田舎の町。……さすがにこないでしょうねぇ……」

 

「そうだよな……はぁ」

 

 思わず溜息が漏れる。

 そろそろ人間から奪った食料などの物資も、女などの嗜好品も使い切ってしまった。部下達も鬱憤が溜まっているだろう。

 ここらで一度、鬱憤の解消も兼ねた攻勢に出て、物資の補給――掠奪行為等を行いたいところだ。

 しかし魔軍が占領した土地にわざわざ攻め込んでくるなど大国でも中々に無いことだ。余力が有り、重要拠点であれば攻め込んできてもおかしくはないが、こんなど田舎の土地を、わざわざ取り返すために攻め込んでくるはずもない。

 そろそろ参謀本部――魔王城に勤めている連中や大将軍に要請を送ってみようか。あの御方であれば聞き届けてくれるやもしれぬし。

 などと考えていると、

 

「――しょ、将軍閣下!」

 

「む……?」

 

 突如として司令部に転がり込んでくる魔物兵。何か報告があるのか、慌てているように見える。

 

「どうした? 急に入ってくるなど無礼ではあるが……まあとりあえず話せ」

 

「は、はっ! 申し訳ありません! ですがその……」

 

 と、魔物兵は一旦間を置いて、念願のその言葉を告げた。

 

「に、人間らしき軍勢が攻めてきました!」

 

「! おおっ!」

 

「それは本当か!?」

 

 その報告に魔物隊長も声を上げ、魔物将軍も思わず椅子から立ち上がりながら聞き返す。

 しかしそこで気になる単語があり、

 

「……ん? 人間らしき、とはどういう意味だ? 人間ではないのか?」

 

「それは……な、何やら見慣れない恰好を――装備をしていたので……」

 

「……? よく分からんがまあよい。とにかく軍勢を纏めて出るぞ。――魔物隊長」

 

「はっ、直ちに行います」

 

 うむ、と頷き魔物将軍は早速司令部を出た。

 久方振りの戦争に魔物将軍は内心で歓喜する。

 よもや攻め込んでくるはずもない、とか何とか考えている時にそれが来るとは、よっぽど日頃の行いが良かったのだろうか。

 これで鬱憤も晴らせるし、物資も補給出来る。また暴れられるのだ。何もかもいい事尽くめ。人間如きに負けるはずもないが、気合を入れて事に臨む。

 

 ――実際に人間の軍勢を見て、戦ってみるまで、魔物将軍はそう思っていた。

 

「――な、何だアレはっ!?」

 

「わ、分かりません!」

 

 その恰好――装備は見たこともないものであった。

 全身を覆うような装甲。金属らしきもので出来たそれは、よく見ると複雑怪奇な線や部品で組み立てられており、魔物には理解出来ない代物だった。

 そんなものは虚仮威しに過ぎん、と一当てしてみたところで後悔する。

 魔物兵の攻撃は、その硬い装甲に阻まれて届かない。そして向こうのパワーは、人間とは思えないほど、魔物と拮抗するほどに強い。

 

「は……はは! 本当に効かねえ! ――よし、このまま押し潰せー!」

 

「おおっ!!」

 

 それを身に着けた人間達の力強い声が聞こえる。それに対し、

 

「ひ、ひぃっ!? な、なんなんだよこいつら!!」

 

「ど、どうしたら――ぐぎゃっ!?」

 

 魔物兵達は人間達の見慣れぬ装備、こちらの攻撃が効かないこともあって恐慌状態に陥る。

 やがて、魔物隊長らや魔物将軍が関節を狙うことを思いつくが、時すでに遅し。すでに軍勢は人間達の勢いの強さもあって崩壊していた。

 こちらも人間を倒すことに成功しているが、失った士気は元に戻らない。次々に魔物隊長らが討ち取られ、最終的には、

 

「く、くそっ! こんなことが……こんなこと、が……」

 

 とうとう魔物将軍まで討ち取られる。

 それを皮切りにして、残った魔物兵達は逃げていった。

 戦いに勝利した人間達は揃って勝鬨を上げる。

 

「すげぇ! 俺たち、魔軍に勝っちまった!!」

 

「ああ! 勝ったんだ! 魔軍を追い払った!」

 

「この“パワードスーツ”! これさえあれば魔軍なんて目じゃないぞ!」

 

 と、そのパワードスーツの性能と魔物に勝利したことにに喜ぶ人間達。その人間達の前に、

 

「……皆、よく戦ったね」

 

 同じく、一つのパワードスーツに乗った少年が人間の集団に向かって声を掛ける。

 それを見た人間達は一様に尊敬の眼差しを送り、

 

「おおっ! パイアール様! あなたの言う通りでした!」

 

「これなら戦えます!」

 

「魔軍を蹴散らしてやりましょう!」

 

 威勢の良い言葉を上げる人間達。それに対し、パイアールと呼ばれた少年は冷静な表情のまま告げる。

 

「うん。皆の戦いは良かった。だけど、魔軍との戦いはこれで終わりじゃない。町に戻って準備を進めよう。この戦いの結果を知って、仲間になる人も増えるだろうしね」

 

「畏まりました、パイアール様!」

 

「俺達、パイアール様に付いていきます!」

 

「パイアール様万歳!」

 

 そうして、新たな自分達の指導者を褒め称え、人間達は町に帰還していく。

 だが一人、遅れて町に戻っていくパイアールは、人の目が無くなると大きく溜息を吐き、

 

「……ふん、単純馬鹿の扱いは楽だけど、接してると頭が悪くなりそうだ」

 

 鼻を鳴らし、自分に付き従う人間達の悪態をつく。

 そう言いながらも手が常に動いており、遠隔操作型の機械を手に、作業を進めている。

 

「やっぱり、こんな田舎だと小物しかいないよね。もう少し規模を大きくして損害を与えないと、魔人も出てこないかな……」

 

 そうしなければいけないことは理解しているが、それでも圧倒的に時間が足りない。

 迅速にそれを行いたいところだが、何事にも順序というものがある。今は獲物が網に掛かるのを待つのみだ。

 

「姉さん……僕は、姉さんの為に……」

 

 パイアールはそう呟き、町に戻っていった。

 この日を切っ掛けに、人間に新たな勢力が生まれた。

 無敵の鎧を用い、魔軍に対抗する新たな国家の誕生。

 その首魁は、一人の少年だったという。

 

 

 

 

 

 ――魔王城。

 

 そこは世界の支配者である魔王の居城であり、人類を苦しめる魔軍の本拠地である。

 当然、そこには多くの魔人達が存在する。

 とある一体の魔人も、魔王城に滞在する魔人の内の一体だった。

 

「……クソッ」

 

 彼は舌打ちをして悪態を呟く。

 彼はNC期――魔王ナイチサに血を分け与えられて魔人になった者達の内の一人だった。

 魔王ナイチサに見どころがあると認められて魔人になった。選ばれた存在なのだ。

 魔人というのは大勢の魔物でひしめき合う魔軍の中でも隔絶した立場を持つ存在だ。

 あらゆる生物からの攻撃を完全に無効化する無敵結界を持ち、他を叩き潰す圧倒的な力を持つ。魔人に逆らえる存在は魔王を除けば存在せず、自由であり、魔人を縛るものは存在しない。

 十数体しか存在しない魔人達は、世界の支配者なのだ。何をやっても許される。

 飯をかっ喰らい、女を好きなだけ犯し、気分で無意味な暴力を行っても、ムカつくやつを殺しても罪に問われることはない。好き放題していいのだ。それは幸福の極地であると、魔人になる前は確信していた。

 だが、そうではない。魔人にも、慮らなければいけないことは存在する。

 

 それは――他の魔人の存在。

 何者にも縛られず自由な魔人だが、それは格下に限ったことである。実力がモノを言う魔物界において、同格以上ともいえる他の魔人は気にかけるべき相手となる。

 人間や魔物相手ではいかなる攻撃も食らうことのない魔人だが、同じ魔人相手では無敵結界は通用しない。単純な実力勝負となる。

 そして自分より強い相手ともなれば、その対応には注意を払わなければならない。魔王相手と似たようなものだ。

 対応を間違えれば、相手を怒らせてしまえば殺されてしまう。

 

 魔人になって数百年経っても、その上には大勢の魔人達がいる上、その多くは古株の魔人達。ケイブリスなどは例外で、そこまで強くないのだが、生きてきた年数が長い魔人達は、やはりそれだけ実力がある。

 メガラスやガルティアなどの一般魔人もそうだが、魔人四天王という上級魔人の証ともいえる席に着くカミーラやケッセルリンクが代表的だろう。

 そして若くても資質や日々の戦闘によって実力を上げる者達もいる。若い魔人――魔王ナイチサによって作られた魔人の中でも格付けはあるものだ。

 その頂点が魔人四天王であるザビエルだろう。傲慢で嫌な奴で、口を開けば毎回こちらを見下してくるので心底死んでほしいが、実力は本物だ。後はレッドアイやレキシントンなど。キチガイだったり、滅茶苦茶だったりする奴らだが実力的にはそいつらが抜け出ている。

 

 だが、そんな並み居る魔人達の中でも頂点の実力を持つ魔人が、今目の前にいる魔人だろう。

 

「……俺に何の用だ?」

 

「は……」

 

 礼をして、その魔人に謝意を示す。

 椅子に座したまま、机の上の書類に目を通しながら応対するのは――魔人レオンハルト。

 魔人筆頭という魔人の最高位であり、魔軍を動かす魔軍参謀という席に着く強大な魔人だ。

 黒と赤を基調にしたコートと服を身に着け、金色の髪と赤い瞳を持つ魔人は、その鋭い威圧的な視線を書類に向けたままであり、こちらへの興味を示さない。

 その傍らには奴の使徒であるキャロルが控えている。そちらも書類を確認するように目を通しているようだ。

 そんな中で、こちらは声を発した。

 

「その、今日は自分のために時間を作ってくださり――」

 

「…………前置きはいい。さっさと話せ」

 

「っ……失礼しました」

 

 鋭い視線が一瞬、こちらに向けられると、それだけで身体が竦む。

 魔人はレオンハルトのこの目が苦手だった。威圧的でこちらを見下しているかのようなその視線。嘘や気に食わないことを言えば、即座に見抜かれてしまいそうな圧力に逆らうことが出来ない。

 頭を下げて続きを口にする。その内容はお願いであり、

 

「お願いがあるのですが……その、率直に言いますが、前線に出る許可が欲しいのです」

 

「……それくらいであれば好きにするといい。一々俺に会いに来てまでお願いすることじゃないな。……他に何がある?」

 

「……さすがのご慧眼、恐れ入ります。実は希望したい戦場があるのですが……」

 

「ほう? 言ってみろ」

 

 感謝します、とお礼を言ってから口にする。

 

「この間、魔軍の駐屯地が新しく出来た人間の勢力に敗走したと聞きました。ですので、そこを希望したいのですが……」

 

「……ふん。耳が早いな」

 

 レオンハルトの視線がこちらを完全に射抜く。それに身体がビクッと跳ねるが、それを抑えて魔人はその許可を待つ。

 このようなお願いをした理由は単純だ。それは、強くなるため。

 戦いの場に出て、自分を強くしていずれは上級魔人、そして、残り一席となった魔人四天王の座につくこと。

 それが魔人の野望だった。それほどに強くなれば魔王様や眼の前の魔人筆頭はともかく、他の魔人に気を使わなくてもよくなる。あのうざったいザビエルに怯える必要もなくなるし、カミーラやケッセルリンクとも対等に話せる。

 そのためにはまず強くなること。その近道は、より強い相手と戦って勝つことだ。

 魔人がいなかったとはいえ魔軍を敗走させるほどの人間であればそれも捗る。こちらには無敵結界という絶対の盾があるのだから仮に魔人に匹敵するほどに強い存在相手でも負けはない。人間相手なら容易に蹂躙出来る。

 ゆえにお願いをした。他の魔人が派遣されたり、目をつける前に、最高位の魔人のお墨付きさえあれば他の魔人が手を出してくることも、おそらくは無いだろう。

 その頼みに、レオンハルトは考えるように眉間に皺を寄せていたが、ややあって返答を寄越した。

 

「……いいだろう」

 

「! ありがとうございます!」

 

 叶った。思わず本心でお礼を口にしてしまう。

 そんなこちらに対しレオンハルトは淡々と、

 

「軍勢を引き連れて早速向かうと良い。相手は人間にしてはかなりの脅威だ。滅ぼしてしまっても構わん」

 

「はっ、ご期待に添えるよう努力したいと思います」

 

「……なら行け。追って許可書は出しておく」

 

 はっ、と頷き執務室から退出する。

 そしてほくそ笑んだ。やはり真っ先にやってきてよかった。美味い狩り場を、他の魔人に渡すわけにはいかない。

 魔人はさっそく軍とともに出立するため、城を後にした。

 

 

 

 

 

 魔王城の執務室では、その魔人が退出したのを見て使徒であるキャロルが主に声を掛けていた。

 

「やる気満々って感じでしたわー! ですがレオンハルト様、よろしかったので?」

 

「……自分から行きたいと志願したのだから別に構わん。選ぶ手間が省けただけのことだ。お前が言ったように、やる気も充分のようだしな」

 

 少し間を置いて、レオンハルトが答える。その答えにキャロルは得心したように頷き、

 

「なるほどですの! 誰を派遣するかで迷ってらっしゃったのは、やる気がある者を見分けるため……ということですわね!」

 

 感服致しました、と尊敬の念を送ってくるキャロルに、レオンハルトは息を一つ吐いて、

 

「……ああ、そうだな」

 

 自分の判断に間違いがないことを確信しつつ、再び書類に目を通し始めるのだった。




モブ魔人の名前っているかなぁ……っていつも思う。あっても良い気もするけど、割りと直ぐに退場したりするからいらないかなってなっちゃうのよね(ネタバレ)
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