※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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カミーラの城

 魔人レオンハルトと魔人ザビエル。二体の魔人の戦い。そして、ザビエルの敗北は直ぐに多くの魔物の知るところとなった。

 戦いが行われたのは魔王城。その戦いを、少なからずであるが見た者もおり、ザビエルが瀕死の体で運ばれていくところを目撃した者もいる。

 対するレオンハルトはほぼ無傷である。ザビエルの度重なる挑発にとうとうレオンハルトが激怒し、城の一部分を破壊するほどの力を見せつけ、一方的に半死人に追い詰めた、というのが詳細である。

 それから少しして、ザビエルは魔人の驚異の回復力で復帰したが、前とは違い、ザビエルはレオンハルトを挑発することはなくなり避けるようになり、更にはレオンハルトの方もザビエルを無視することが多くなった――城の破壊跡や目撃者の証言もあって、これがレオンハルトの圧勝劇が事実であることの裏付けともなった。

 だが、それほどの事件の反面、周囲の反応は冷ややかなものであった。

 というのも、ザビエルが傲慢なのは言わずと知れたことである。あの規律を重んじ、自ら暴れることもしないレオンハルトですら怒らせたのも無理からぬことであった。

 しかしそうはいってもザビエルも魔人四天王であり、殆どの魔物、魔人にとっては雲の上の強さを持つ上級魔人。内心では“ざまあみろ”と思っていても、態度に出すものは本当に極一部であった。

 加えて、レオンハルトの怒り、というのも他の魔人や魔軍の将校らを緊張させた。魔人の喧嘩を仲裁することが多く、喧嘩を売られることがあっても、それはレキシントンという戦好きの例外が頻繁に、最早遊びに誘うような気軽さで行われるくらいであり、殆どの喧嘩は買うことすらない。気に食わない魔人がいても平等に扱い接する。それほど理性を律する術に優れたレオンハルトが、激怒した。一体何をすればそうなるのかは解らなかったが、怒らせたら殺されてしまうかもしれないその恐怖を身近に感じたことは、魔人達の襟を正させるのは充分であり、少しの間、僅か数年程度であるが、魔人達は自らの行いに気をつけ、魔人同士の喧嘩がほぼ無くなった程である。例外はやはりと言うべきか、レキシントンくらいのもので、彼だけは憚ることなくレオンハルトに喧嘩をしようと誘いにいっている。

 魔王ナイチサも、このことで何らかの処罰を行うこともなく、大規模な作戦行動も事件もない。

 結果、魔人レオンハルトと魔人ザビエルの関係が険悪化した。しかし魔物界は反面、暫しの間ではあるが平穏になったそんな時、当人であるレオンハルトはある魔人の城に招かれたのであった。

 

 

 

 

 

「招待されるのは二度目だったか?」

 

「ええ、一度目は、城が建てられた時にカミーラ様が招待致しました」

 

「わたくし、初めて来ましたの! カミーラ様! お招きありがとう御座いますわ!」

 

「……うむ」

 

 魔物界。

 大陸西部の森。ミダラナツリーというツリー都市の近くに建てられ、白金で彩られた豪奢な城に、レオンハルトは使徒のキャロルとともに招かれていた。

 そこは数百年前に建てた魔人四天王。カミーラの城であり、数人用の小さなテーブルで、主である魔人カミーラは幾つもの装飾が付いた豪華な椅子に長く綺麗な足を組んで、頬杖をついていた。

 テーブルの正面、来賓用で用意していたであろうワンランク価値が落ちる椅子に、レオンハルトのみが座り、使徒であるキャロルや七星は立ったまま、お互いの主の横に控えている。キャロルが純粋に感動しているのか、カミーラに向かって勢い良く礼を行う。続けて、

 

「大きくてキラキラしててすごいですわー! さすがはカミーラ様ですの!」

 

「……そうだろう」

 

「ええ! カミーラ様の美しさに相応しいかと! ……あっ、でもカミーラ様の方が綺麗ですわ!」

 

「くくっ……そんなに褒めるな。……何か食べるか?」

 

「頂きますわ!」

 

「七星」

 

 はっ、と機嫌良さそうな主からの声を聞いた七星は、求めたれたことを正確に読み取り、離れて控えていた美少年――カミーラの下級使徒を呼ぶと、直ぐに高級料理であるうはぁんが運ばれてくる。デザートとしてはよく出されるもので、滅多に取れない幻の食材、桃りんごを使ったデザートだ。

 それをキャロルに与えたカミーラは、頬を膨らませて“美味しいですわー!”と頬を綻ばせるキャロルを見て小さく笑みを浮かべる。レオンハルトはそれを見て、

 ……やはり、カミーラと会う時はキャロルが適当だな。相性が良い。

 昔からではあるが、美女、美少女の類が大嫌いなカミーラはキャロルに対してはかなり甘く、時には優しさすら見せるときがある。

 今も、言われ慣れているであろう単純な美辞麗句を美少女といえる容姿を持つキャロルから言われ、満更でもないのだろう。眉をひそめるどころか笑みすら見せ、食べ物を上げるほど機嫌が良くなっている。

 先程、招かれたことへの礼儀として、宝石を幾つか手土産としたのだが、眉一つ動かさなかったカミーラがだ。

 その理由をレオンハルトは把握していた。おそらくではあるが、

 ……キャロルは純粋だからな。何の裏表もない正直で、真っ直ぐな言葉だと分かるからこそ、気に入っているのだろう。

 カミーラに限った話ではないが、やはり権力者にもなると、その手の擦り寄りや美辞麗句は聞き慣れてしまっている。何らかの思惑がある言葉、そうでなくても普通の相手ですら、邪推し、素直に受け取れないものだ。

 しかしキャロルにはあまりそういった部分は見受けられない。善悪に頓着がないどころか、ほぼ考えてない節がある。最近は空気を読むことは出来るものの、それでも思ったことは素直に口に出すし、命令されればどれだけ残酷なことでも明るく実行してみせる。友人、知人といった相手でもそれを行うかどうかは解らないが、それでも一番容赦がないのはキャロルであろう。捕まえた人間から情報を引き出せ、と言うと拷問の教本を見ながらそれを行うし、馬鹿にされたり、何か不愉快なことがあるととんでもないグロ行為を行う時がある。反面、人間や知能の低い魔物やムシ相手でも優しかったり、仲良くしていたりもするが、やはり純粋なのだろう。

 ……もっとも、カミーラの場合は愛玩動物的に見ていそうだがな……。

 だから気に入られているのかもしれない。女性、美少女、というより先に、ペット的な感じを覚えるのだろう。理解らなくもないから困る。

 とはいえ、レオンハルトが気になるのはそれだけではない。カミーラに視線を向けて、適当な話題を振る。

 

「前に来たときはそれほどでもなかったが……随分と、人間――美少年が多いな?」

 

 周囲、室内には多くの美少年がじっと控えるように立っている。

 これはカミーラの趣味だろう。綺麗な宝石を集めるだけでなく、美少年を集め、それを自らの下級使徒として使って愛でているのだろう。

 何ともいい趣味だ、と思っていると、

 

「……城に100人以上の美少女をメイドとして侍らせているものは、言うことが違うな……?」

 

「…………」

 

 藪蛇であった。

 反射的に苦い顔を浮かべてしまうが、それを持ち直し、咳払いすると、

 

「……100人はいない。96人だ」

 

「五十歩百歩……という言葉が、東の島にあるらしいな……しかも見たところ、胸の大きい女ばかりだったが……変態か」

 

「変態ではないし、胸が大きいのは偶然……七割程しかいない」

 

 即答しておく。

 偶然、と言い淀んだのは半分はそうではないからだ。下賜されたり、献上されたものもある。

 あらぬ誤解――そう、あらぬ誤解だ。まるで自分が巨乳しか好きではないと思われるのは甚だ心外である。ゆえに、

 

「俺の周囲を思い出してみろ。思ったより貧乳も多かったはずだ」

 

「……ふん、確かにそうかもしれんな……」

 

「……カミーラ様。そこでわたくしの方を見られるとさすがに複雑ですの……」

 

「…………」

 

 キャロルが少ししょんぼりしたのを見て、カミーラが目を逸らす。謝りも訂正もしないが、ちょっと悪いと思っているのだろう。これでも、カミーラにしてはかなり慮っているといえる。

 そんなキャロルに、控えていた七星が、

 

「……まあ、レオンハルト様の第一使徒は貴方ですし、胸を張っても良いのでは――」

 

「何言ってますの七星! 胸の話だけに胸を張れとでも!? 喧嘩売ってますのね! 勝負ですわ!」

 

「そういうわけでは――くっ!?」

 

 キャロルが七星に飛びかかっていった。

 室内なので得物を抜くことはなく、徒手格闘で挑んでいる。七星も防戦重視であるが応戦し、使徒同士の小競り合いが起きているが、主である両者ともに動かない。これくらいなら日常的に起こることであり、どちらも慣れたものだ。ゆえに余裕をもってお茶でも飲みながら、

 

「……それで、俺を呼んだのはまた何か用でもあるのか?」

 

「……用、というほどでもない、が……」

 

 と、カミーラはそこで区切り、間を置いてからそれを口にした。

 

「……ザビエルを、瀕死にまで追い込んだそうだな……?」

 

「……その話か」

 

 その話題についてはあまり好んで話したいことではない。こちらとしても恥ずかしい事件であり、同時に怒りが沸いてくる話題であるからだ。

 しかし、荒々しい思いを抑え、レオンハルトは冷静になることを努めて言う。

 

「あいつの挑発に、我慢が出来なくなっただけの話だ。他に言うことはない」

 

「……そのまま殺してしまえばよかったものを」

 

 苛烈な言葉に少し驚く。だが、ザビエルの傲慢さは魔人であれば誰もが思うところがあるものだ。気位が極めて高いカミーラであれば嫌っていても何ら不思議はないだろう。

 

「……それには同感だが……殺してしまえば問題になる可能性もあったからな」

 

「ふん……あれが生きてることの方が問題だ……」

 

 ……相当嫌ってるようだな。

 しかし、その言には一理ある。ザビエルは度々他の魔人とも諍いを起こす上、独断専行も多いので問題も多い。魔人筆頭としても魔軍参謀としても害であるし、個人としても癪に障る。その暗い感情を思いながら、

 

「まあ、あの傲慢さだ。お前が嫌うのも無理ないが……俺はもう、かっぱの戯言だと思って流すことにした」

 

「かっぱ……か。くくっ、それは良い名だな。今度、使ってやろう……」

 

 だが、とカミーラは嘲るような笑いを収め、

 

「……かっぱの分際で、魔人四天王の席に着くなど……あり得ないこととは思わぬか……?」

 

「……何が言いたい?」

 

 目を細めて問う。

 カミーラはプライドは高いが、魔人四天王であることを誇ることも、それを持ち出すことはしない。生まれつき、実情はどうあれ、貴人として過ごしたカミーラは、自分が上位に立つことを当然と考えている。魔人四天王の座も、悪い気はしないから就いているに過ぎないだろう。

 ゆえに、言いたいことは分かる。だが敢えて、それを自分から口にすることはしなかった。

 カミーラの口が、弓形に歪み、

 

「言わずとも分かるであろう――――取り除け」

 

「……分かってはいたが、本当に言われるとはな」

 

 軽く息を吐きながら応じる。カミーラが続けて、

 

「お前なら簡単だろう……さっさと殺してしまえ」

 

「……さっきも言ったが、問題がある。ナイチサ様にも止められてしまったしな……」

 

 そう。魔人筆頭という魔人を統率する立場であり、魔軍参謀という魔軍を統括する立場に就く自分は、常日頃から規律あるよう他者にそれを強いており、それを言い続けている。

 それだけであれば、魔人の行動の自由を引き合いに出して行うことも出来るが、なまじザビエルが魔人の中でも立場があるのが問題だ。

 実際、ナイチサは殺さない程度に痛めつけるくらいならともかく、殺すことは直前に止めた。あれはやはり、家臣を減らすのは好ましくない、と思っているか、まだ見限るほどではない、と判断したか――あるいは両方だろう。

 ……そうでなければ――

 と、仄暗い感情が内心で増幅する。

 

「……くっくっくっ……レオンハルト……お前のそんな顔は初めてみたぞ……」

 

「……あ?」

 

 急に愉快そうに笑い始めたカミーラに、何だ、と眉間に皺を寄せる。

 しかし、なおもカミーラは笑いながら、

 

「くく……聞いていれば……まるで邪魔が無ければ……問題が無ければ――殺している、と、そう言っているようだぞ……?」

 

「…………」

 

「気づいておらぬのか? ――憎々しさが、溢れているが……」

 

「…………自覚はしてる」

 

 カミーラに指摘され、そう答えるも、どの程度かどうかまでは、鏡を見ていないので解らない。

 しかし、そう言われてはもう隠す意味はないか、と思う。

 そう思うと、言葉はすらすらと喉を通った。

 

「……当たり前だ。殺していいなら――――とっくに殺してる」

 

「……ほう?」

 

 カミーラが興味深そうに笑みを浮かべながら視線を向ける。

 まるで先を促されているようだが、分かっていても止める気もない。

 

「いいか? いずれ、あのクソ野郎は俺が直々に相応の報いを与える。手出しするんじゃねぇぞ」

 

「……くくく、怖い怖い。お前を、それほどに怒らせるとはな……」

 

 あまり使わない強い口調をカミーラに向けて使ったが、カミーラは少し驚きはしたものの怒ることはなく、それどころか滅多に言わないような冗談めかした言葉を吐く。

 

「……それなら、私が言うことはないな……くっくっ……どのような報いを受けさせるのかは気になるが……」

 

「……クク、安心しろ。奴は地獄に叩き落とす。普通には殺さねぇからな」

 

「くく……教えてはくれぬのか?」

 

「悪いが、教える気はない。……だが、事が終わった後でなら、奴の醜態を思う存分聞かせてやる」

 

「……く、くくくく……! それは良い……なら、大人しく待ってやろう……」

 

「――レオンハルト様にカミーラ様が楽しそうに笑ってますの! 何か良いことでもありましたの!?」

 

「機嫌がよろしいですね」

 

 カミーラと二人、くつくつと笑っていると、勝負に区切りがついたのかキャロルと七星が戻ってくる。するとカミーラが、

 

「くく……なに、レオンハルトと……ちょっとした、悪巧みをしていた……」

 

「……なるほど」

 

「そうなのですか!? なら、当然わたくしもレオンハルト様とカミーラ様のお力になれるよう頑張りますわ!」

 

 気合いを入れたようにポーズを取り、屈託のない笑みを浮かべるキャロルに、レオンハルトは頼もしく思いながら言ってみせる。

 

「ああ、お前にも働いてもらうからな」

 

「あっ……はい! 頑張りますわー!!」

 

 軽く頭を撫でてやると、さらに気合が入ったのか声が大きくなる。嬉しそうに締まりのない笑顔を浮かべるキャロルを見ていると、微笑ましい気持ちになる。

 しかし、それと同居し、愉快な気持ちにもなる。それは、

 ……さて……どういう風に料理してやろうか……。

 結末だけは決まっているが、過程はどのようにでも出来る。他にもやること――やりたいことはあるため、それだけを優先は出来ないが、

 

 ――この俺を怒らせて、タダで済むと思うなよ……後悔させてやる。

 

 レオンハルトはカミーラの城で歓待を受けながら、ザビエルが出来るだけ苦しむよう悪い笑みを浮かべながら、策を考え始めるのだった。




次回は石丸の話に戻ります。
実は今回、ある使徒を出すつもりでしたが、色々考えてもうちょっと後でいいかなーと取り止めた。なので、男の娘好きは泣いていいです()
後、久しぶりにナイチサ視点も次回に入れれたらやります。もしくは次次回。お楽しみに
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