※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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石丸の旅路

 大陸。

 人類圏のとある国に足を踏み入れた一行がいた。

 

「――おお! ここらも面白いではないか!」

 

 どこまでも広がるかと思われるような緑の大地。極東の島国では見ない文化の数々。それらを見て声を上げるのは、大陸では見ない恰好――和装に甲冑を身に着けた男。

 その名は藤原石丸。

 JAPANの盟主。初代帝である稀代の英傑であり、最強の剣士とも名高い男である。そんな彼に後から付いてくるのは、何人かの男女だ。

 

「もうっ、珍しい物を見たからって、置いていくのは止めてくださいっ!」

 

「何分、石丸殿は足も早いでありますからなぁ……追いかけるのも一苦労で」

 

 眉を立てて怒っている石丸の妻――春姫と、石丸の幼馴染である菅原ミッチーが煙管で煙を吹かしながら顎に手を当てて染み染みと言う。

 それを聞いて眉間に皺を寄せたのは、石丸に先に追いついていた長い黒髪を後ろで一つ結びにし、烏帽子を被った女武者、源頼光で、

 

「軟弱者め! 同道するというなら足腰は最低限、鍛えて然るべきであろうが! わしは全然問題ないですよ、石丸様!」

 

「ははは、そのようだな! 偉いぞ! 貴様らも頼光を見習え!」

 

「文系に無茶を言うものではありませんなぁ……しかし、小生はともかく、奥方には配慮された方が良いのでは?」

 

 言いながら、実はケロッとしているミッチーは春姫を見て言う。若い頃に見聞を広めるため大陸を旅していたミッチーにとって、この程度は体力的に問題ない。ちょっと速いというくらいだ。故に少し注意してみたのだが、春姫は微笑み、

 

「いえ、大丈夫ですよ、ミッチー様。私のことは気にしないでください」

 

「そら見たことか! 春は慣れてるから問題ない!」

 

「自分で言うことですかな……そう言えば、黒部殿は――問題なさそうですな」

 

 と、ミッチーは石丸と春姫という幼馴染から視線を外し、付いてきている八尺程の体躯を持つ大柄の者を見て言う。身体と顔をすっぽり隠す外套を着た男は、それを聞いて、

 

「いや、確かに体力的には問題ないけどよぉ……」

 

「? 何じゃ貴様。妖怪の癖に泣き言でも言うつもりか?」

 

 頼光が何気なく言う。妖怪、という単語を否定することなく、大柄の男は語気を荒げて言う。

 

「そうじゃねぇ! これ着てるからくっそ熱いんだよ! くそ……なぁ、脱いだら駄目なのか?」

 

 その言葉に頼光。そして石丸は半目になり、

 

「……妖怪王ともあろう者が情けないのぉ……」

 

「うむ……あっ、いや、犬だから熱いのか? その毛並みが熱いであろうしな」

 

「犬扱いすんじゃねぇ!? 理由はそうだけどよぉ!」

 

 石丸に犬扱いされて大声を上げるこの者。その正体は皆が言うそれだ。

 ――初代妖怪王、黒部。

 石丸が妖怪騒ぎを解決しようとして一騎打ちを挑み勝利したことで配下に加わった強大な妖怪だ。鋭い牙と爪を持ち、JAPAN中の民から恐れられた黒部も、今となっては石丸の配下として楽しく過ごしている。

 どうにも犬扱いされてしまうのが、悩みのタネではあるが。

 そして今は、お忍びで大陸にやってきたこともあり、正体を隠している。そのことを、ミッチーは一応注意した。

 

「まあ黒部殿が犬かどうかはともかく、余り妖怪など口にしない方がよいかと。大陸の民に、妖怪は馴染みがありませんからなぁ。無用な騒ぎを招いてしまうかと」

 

「なに、問題ない! もしバレても俺のペットだと言い張ってやるわ!」

 

「無理があるような……」

 

「であるな。このような馬鹿でかいわんわんが大陸にいるとも思えぬ。……いっそ、わんわんの王、犬王とでも言ってごまかすか?」

 

「お前ら、俺をそんなに虐めて楽しいか!? 特に頼光! 剣――犬王とか言ってんじゃねぇ! 噛み殺すぞ!」

 

 石丸、春姫、頼光がそれぞれ口々に黒部を犬扱いする。春姫は違うが。

 黒部が頼光に吠えて、外套の袖から鋭い爪を見せると、ほう? と、頼光が不敵な笑みを見せ、

 

「はっ、わしを殺すだと! 上等ぞ! 殺せるものなら殺してみい! ふははははは! どうせ出来まい! 暴れれば姿を現すことになるであろう!」

 

「ぐっ、てめぇ……ほんとにちょっと噛んでやろうか……」

 

「ま、まぁまぁ、黒部殿。どうどう。頼光殿も、ここではあまり喧嘩を売るような真似は避けてもらえますかな? ここはJAPANとは文化が違うので、問題になる可能性がありますからなぁ……」

 

 少し慌ててミッチーが諌める。普段はミッチーもJAPANでは変わり者で有名であり、大陸かぶれで自由人というのもあって諌められる側なのだが、注意する側に回っているのはやはり普段注意している者がいないからだろう。

 

「折角のお忍びの旅路。大事になれば国元にいる麻呂殿や月餅殿、多くの家臣に迷惑が掛かってしまいますからなぁ。まぁ、月餅殿は元凶でありますので、少しくらい掛けるのも一興かと思いますが……」

 

 そう。今回石丸達は家臣達の制止を振り切って逃げるように大陸に来ている。

 というのもミッチーが言うように、月餅の提案があったからであり、

 

「ははは! 何を言う! 俺に直々に依頼が来たのだ! 解決してやるのが筋というもの! それともミッチーは人助けをするなと申すつもりか?」

 

「血も涙もない男め! だから女に見向きされないのだ、戯け!」

 

「いや、これでも結構モテるのでありますが。妻子もおりますし――って、そうではなくて、別に人助けが悪いとは言っておりませんが……」

 

 じゃあ何だ? と言う石丸と頼光に、ミッチーは軽く肩を竦める。

 

「……ぶっちゃけ言いますに、とうに後戻りできる段階は通り過ぎておりますからなぁ。さっさと解決するために、寄り道や必要のない騒ぎを起こすのは避けたほうが無難でありましょう」

 

 その言葉に、頼光は驚く。本当に血も涙もない男だとでも思っていたのだろうか。それなりに長い付き合いなのに。とミッチーが思っていると、

 

「…………貴様、妻子いたのか?」

 

「頼光殿。小生に興味無さすぎでは?」

 

 本気で驚いている頼光に大陸式でツッコミを入れる。何故知らないのか。武家でこの歳まで妻の一人もいないのに、遊び呆けていたら完全に頭おかしい人でしょう。居て遊び呆けるのもアレではあるが、そこは文化というもの。

 軽く頭を抱えていると、

 

「はは……ともかく、早く悪い人を成敗しなくてはなりませんね」

 

「最初からそう言っているのでありますが……分かってくれるのは春姫様だけでありますなぁ……」

 

 春姫が助け舟を出すように話を元の道に戻してくれた。味方が一人しかいない状況も珍しい。普段はゼロであるし。

 ともあれ、ミッチーは頭の中で今回の依頼について思い出す。一言一句違わず、それらは記憶しているもので、

 

「奴隷交易の元締め……この国の王をどうにかしなくては。調べたところ、JAPANの民も被害に遭っているようでありますし、放置は出来ぬでしょうな」

 

「……ははは! 分かっておるわ。どうせ肥え太った豚親父であろう? そのような豚は俺が叩き斬ってくれる!」

 

 石丸がいつものように豪快に笑いながらも、怒気を忍ばせてそう言う。

 春姫もいつもは穏やかで優しい人ではあるが、それを聞けば表情が真剣なものに変わり、

 

「……そうですね。大変ですが、頑張りましょう。ですが――」

 

 と、春姫はそこで言葉を区切った。腑に落ちないものがあるという表情で、

 

「街の中には日本人の奴隷どころか、奴隷一人見当たりません。どこかに隠されているのでしょうか……」

 

「俺は人間の社会はよく知らねぇが、奴隷って雇って働かせるもんじゃねぇのか?」

 

「ふん、何でも良いわ! わしが全員ぶっ殺してやる!」

 

「おう、斬り込むか!」

 

 頼光の言葉に石丸が頷いたのを見て、ミッチーが微妙な顔になる。

 そういえばそこについても説明しなければならないか、と。閉鎖的な国家であるため、知らないのも無理はないが、

 

「全員殺すだの斬り込むだのは置いといて……奴隷の情報については依頼書に書かれてありましたなぁ。憶えていないので?」

 

 言うと、全員が目を合わせた後、一斉に、

 

「……大陸の言葉は解らないからなぁ……」

 

「…………そういえばそうでありましたなぁ……」

 

 そんなことを言ったので、何を、と思ったが冷静に思い返すと当たり前の話だった。

 大陸とJAPANでは使われている言語が違う。JAPANではJAPANの言語――日本語が使われているが、大陸では大陸特有の言葉が使われているので、

 ……誰も依頼書の内容を……概要以外知らないのでありますかぁ……。

 だから妙に何も知らない者が多かったのか、と思う。思い返してみれば自分が久しぶりの大陸で遊び呆けている間、皆は何が何やら解らず右往左往したり、騒ぎを起こしていた気がする。周りに目を向けていなかった自分の責任か。だって、見目麗しい女子が……、と思うが言い訳してもしょうがない。とりあえず、詳細を口にしようと、ミッチーは咳払いをした。

 

「……まず、大陸にある商会――キリング商会が、冒険者ギルド経由で藤原家に依頼が来たのはさすがに知っていますな?」

 

 念の為確認する。しかし、

 

「俺を馬鹿にしているのかミッチー! ……知っている!」

 

「わしを馬鹿にしておるのか貴様! ぶっ殺すぞ! ……知らぬわ!」

 

「あ、確か貿易のお得意様ですよね」

 

「あー……確か、物を交換してるんだっけか?」

 

「……まあ知っているのなら良いですがなぁ……」

 

 ……頼光殿は放っておくとして、石丸殿は本当に知っておりますかなぁ……?

 依頼のことは知っていても、キリング商会とかその辺の名前は忘れてないだろうか。一応、月餅はちゃんと口にしているし、結構関わりの深い商会であるのだが。それもあって、春姫や黒部は知っているみたいだ。

 事の経緯としては、まず――キリング商会という大陸有数の商会から依頼が来たことに始まる。

 キリング商会は以前から、JAPANの品を求めて取り引きをしているお得意様で、JAPANが石丸によって統一される以前、古くはJAPANが生まれ、大陸と繋がる天満橋が出現した折りから様々な物品を金銭や大陸の品と交換するなりして取り引きを行っている。

 そんなキリング商会からの依頼こそが――大陸のとある国が行っている、奴隷交易を止めてほしいというものだった。冒険者ギルド経由で来たその依頼だが、普通ならそのような大事に関わらせるはずがない。

 しかし藤原家の参謀である月餅は、これを石丸に伝えた。すると一も二もなく頷き、その日の内に制止を呼びかける坂上田村麻呂や他の家臣から逃げるように自分達を連れてJAPANを出た。

 石丸は大陸に興味があったのだろう。そして、月餅もそれを見抜いていたが故、大陸を見せるためにそれを承諾したのでは、とミッチーは思っている。

 ……何となく、月餅殿の意図は分かるが……今はそれは置いておくべきですなぁ。

 予想が当たっているなら、近い内に月餅は石丸にある提案をするのではないだろうか。それはミッチーにとっても悪くはないと思うものだが、やはりかなり大事になる。そのことについてはこれが終わった後で協議するしかないだろう、と、ミッチーは思考を元に戻した。

 

「奴隷の行方ですが……おそらくは()()()()()()、ないしは陣にいるでしょうなぁ」

 

「? 何故そんなことが解る? というか、陣だと? 貴様、わしを馬鹿だと思って適当言っておらんだろうな? 言ってたら殺すが」

 

「……街は解るんですが、境界近くって……国境ではなく?」

 

 頼光と春姫の問いに、ミッチーは頷く。

 

「適当も言っておりませんし、国境ではなく境界で合っておりますよ。……皆様はここが大陸のどの辺りにあるか知っておりますかな?」

 

「……真ん中あたりであろう?」

 

 どうやら石丸は気づいたようだ。元より頭は悪くない。

 

「そう、真ん中でありますなぁ。であれば、その北になにがあるかは異国の事、我らには馴染みが無いとは言え、さすがにご存知でありましょう?」

 

「真ん中の北……って、あ――」

 

 春姫が気づいたように声を上げたところで、ミッチーは答えを口にした。

 

「気づいたようでありますなぁ。そう、この国の領土より北は――――魔物界であります」

 

「!」

 

 皆の表情が硬くなるのを確認しつつ、ミッチーは続ける。

 

「魔物界、つまりは魔王と魔人が支配する土地であり、多くの魔物が住まう土地でありますな。その境界を接する国では、魔軍の侵攻は日常的に行われていると聞きます」

 

 大陸では常識に近い事柄だが、百年近く大陸から離れ、天満橋が繋がり数百年経った今でも、極東の島国であるJAPANの民にとって、魔王や魔軍の脅威は馴染みが薄い。それよりは鬼や妖怪の方が詳しいくらいだ。逆に大陸では妖怪は全く見ないし、鬼も殆ど出てこないという。

 ともあれ知らぬのも無理からぬことであり、責めることは酷であろう。他ならぬ自分も、幼い頃から勉学に励み、知識の上では知っていたが、それを現実のことだと認識出来たのは大陸を旅してそこに住まう人々の生活を見て、話を聞いたからこそだ。JAPANで賢人、知者と呼ばれる者でも正しくそれを認識しているものは殆どいないだろう。JAPANでは右に出る者がいない知者であると言われる自分ですらそうだったのだから。

 だが、月餅殿は知っているだろうな、と己を越える参謀への信頼を確かにしていると、もっとも馴染みが薄いだろう妖怪王である黒部が頬を爪で掻きながら、

 

「……よく解かんねぇが、それと奴隷が何の関係があるんだ? 奴隷っていやぁ、さっきも言ったが働く――」

 

 と、言ったところで動きが止まった。顔は見えないが見なくても解る。まさか、と言ったところだろう。

 黒部がややあって声を低くして言った。それは、

 

「…………まさか、奴隷を戦わせてんのか?」

 

「……左様でありますな」

 

 正解の言葉であったため頷く。すると横から声が飛んできた。

 

「他所の土地の民を攫って戦わせる? そのようなことをしても大して戦力にならんだろう。鍛錬を受けていない者を戦わせたところで邪魔でしかない。それとも、肉壁にでもしておるというのか?」

 

 その言葉を放ったのは頼光だ。冷静であるのは、彼女が武士の棟梁として幼い頃から教育を受け、それを我が物としてきたからだろう。JAPANの武士はこういった血生臭い話題や、一見卑劣ともいえる行為には慣れている者が多い。これも文化の違いだろうが、JAPANの武家に生まれたとしても、露骨に眉を立てている春姫の様なお優しい方もいる。人間としては彼女の方が好ましいが、この場においては即座にその言葉を吐ける頼光の方が頼もしい。ミッチーは頷いた。

 

「当たらずといえども遠からず……と言ったところでありますなぁ」

 

「何だ? 遠回しに言いおって。そこらの民を使って無理やり戦わせたところで、利よりも害になるであろう。囮くらいには使えるかもしれぬが、結局負ければ全員屍となるのだ。斯様な策を取るくらいであれば、勝ちのための策を執る方が――」

 

「おっ、正解が出たではありませんか」

 

「あぁ?」

 

 眉をひそめて首を傾げる頼光に、ミッチーは敢えて笑って言ってみせる。大陸の事情はもっとどうしようもないものだと、

 

「確かに、戦えぬ者を前線の陣や街に置いたところで時間稼ぎにしかなりませんなぁ……しかし、それこそが狙いでありますな」

 

「どういう事だ? 援軍でも来るのか?」

 

 首を振って言う。

 

「まず、魔軍というのは基本、相手を滅ぼし尽くす――ということを余りしないのでありますよ。ある程度軍を進め侵略し、街を占領するなどして、しばらくすれば物資や残った女人などを持ち帰る。これが魔軍の戦略ですな」

 

「……意味が解らんが。何故、相手を滅ぼせる力があるのにそれをせん。魔軍とは斯様に心優しいのか?」

 

「それについては解りませんが、とにかくこれは大陸の国家では常識でありますな。故、大陸では魔軍との戦争とは勝つための戦ではなく、どれだけ時間を稼ぎ、被害を少なくするか、という戦いになるのでして。さすがに戦わずに逃げることは民のひんしゅくを買いますし、色々と問題がありますからなぁ」

 

「……なら、奴隷というのは――」

 

 頼光の言葉を引き継ぐ。それは、

 

「簡単な事でありますな。……前線の街や陣を、他国から連れてきた奴隷で全て賄い、それを犠牲にすることで魔軍に帰ってもらう。――早い話が()()でありますな」

 

「なっ!? そんなの――」

 

 酷すぎる、と目を剥いて言おうとする春姫。しかし機先を制するように、

 

「人としての倫理はどうあれ、自国の民の犠牲を少なくする、という意味では有用な策ではありますな。……その他国を敵に回すことになることを考えなければでありますが……」

 

「……それについてはどう問題を解消しておるのだ?」

 

 石丸から問いが来る。主君からの、帝からの問いだ。答えたいが、

 

「そこが小生としても腑に落ちないのでして。幾ら軍事力に優れていたとして、一つの街を賄うほどの奴隷を他国から連れてきていれば、周囲を敵に回すどころか魔軍を無視してまで即刻攻め込んできてもおかしくないのでありますがなぁ……一国だけでないことは、数が少ないながらもJAPANからも連れて行かれていることから解りますし……」

 

 隣国や比較的距離が遠い国から攫ってくれば戦争状態にはなり難いかもしれないが、他国との関係を考えるとやはり悪手にも見える。

 こんな時、他国との交友をそれほど持っていないJAPANは情報面で後れを取る。ともすれば、国同士で秘密裏に協定を結んでいるという可能性もあるのだ。

 と、それを考え、

 

「……もしかしたら、国同士で取り決めをしているのかもしれませんな」

 

「あぁ? 自分の所の民を売るような奴いんのか?」

 

「そうとも限らないのでありますな、黒部殿。先程も言った通り、魔軍と多く戦うのは魔物界と面した国々。大陸南部の国などは北側の国が盾になっているので被害も少ないでありますから……そのことを引き合いに出し、奴隷をある程度連れて行くのを黙認しているのかもしれませんな。ある程度金でも与えて譲歩すればそういうことも可能であるかと」

 

「はぁ? じゃあまさかJAPANでもその取り引きやってんのか?」

 

「そういう事実は、少なくとも小生が知る限りはありませんな」

 

 これでも行政を司る長である。そういうことを黙ってやってる大名はいないだろう。JAPAN南西部、アフリカ半島ほど幾内より離れれば有り得なくもないが、幾ら南国人とはいえ、帝である石丸がいるのに勝手なことをするはずもない。日本人であれば帝に逆らえないのだ。故にそれはない。

 

「じゃあ、勝手に……」

 

「でしょうなぁ。まぁ、舐められているのでしょう。極東の田舎国家。今まで大陸との交友も殆どないものでありますし……勝手にやっても問題ないだろうと」

 

「……そんなの、酷いです」

 

 春姫が顔を俯かせる。

 確かに、遺憾ではある。

 だが、ここまで暗い話をしていて何だが、

 

「……なるほどな。はははは! ならば俺がやることは変わらんではないか!」

 

「石丸様?」

 

 急に笑い始めた石丸に、皆が注目する。

 石丸は皆に向かって通る声で告げる。

 

「元よりそれを何とかするために来たのであろう。まあ旅のついでにしておくにはあんまりだが、俺がいればどうにかなる! 首謀者を叩き斬ってくれるわ!」

 

 楽観的に笑う石丸に、皆が一瞬驚くが、しかし慣れたものでそれが伝播するように笑みになっていく。

 

「はーっはっはっは! それでこそ石丸だ!」

 

「はははは! 情けない姿を見せれば噛み殺されてしまうからな!」

 

「おう! だが、今回噛み殺すのはそのくそったれの馬鹿だ!」

 

 黒部が石丸と一緒になって笑う。実のところそういう気は微塵もない癖に、照れ隠しでああいった言を吐いているのだろう。

 

「石丸様! わしもやりますぞ! ぶっ殺すことに関しては源氏の右に出る者はおりませんからな!」

 

「おお、頼りにしているぞ! お前の剣は苛烈で最高だからな!」

 

「せ、石丸様……! はい、気合いを入れて頑張りますぞ!」

 

 石丸に褒められたことで頼光が少し頬を赤くする。頼光は普段は男勝りで物騒な女だが、石丸の前だとああなる。こういったやり取りは使えるからメモしておこう。

 

「石丸様、頑張って人助けしましょう!」

 

「おう、ちゃんと俺に付いてこい!」

 

「……はい!」

 

 春姫と石丸は流石の呼吸。元服してすぐに一緒になって旅をしていたのもあって言葉少なくともちゃんと意志を伝えあっている。自分が旅に参加したのは、大陸から帰ってきてしばらくしてからであるから、ほんの少し開きがあるのはしょうがない。

 だが、

 

「……さて、では小生は出来るだけ楽に済むよう策でも考えるとしますかな。月餅殿も今回はおりませぬし……」

 

「はははは! 何を言っている! お前も月餅も、JAPANでは右に出る者のいない知者ではないか! その頭で俺を助けろ!」

 

「……言われずとも、誠心誠意、人事を尽くす所存であります。ま、程々に期待しておいてくだされ」

 

 石丸はこうやって褒め称えてくれるが、軍師としても政治家としても武人としても、己が月餅に劣っていることは、己が一番理解している。

 しかしこの古くからの友は幼い頃から変わらず、頭を使うことがあれば己を頼りにしてくれている。それに応えないわけにはいかない。参謀としての能力こそ月餅に一歩も二歩も劣るだろうが、主の求めることを察する能力だけは己が一番であるという自負がある。精々うまくいくように頑張ろう。

 石丸が皆を先導して先に進む。自分は変わらず頭を回し続ける。思うことは、

 ……奴隷交易が国同士の秘密協定の類であったとして……キリング商会は如何様にしてこの事を知った?

 幾らそれなりに大きい商会とはいえ、国の機密を知れるほどなのか。奴隷交易に関わっている可能性もなくはないが、自らが行っていることを態々潰させるようなことはしないだろう。JAPANは特に大口の相手だ。関係が悪くなれば少なくない損害を被るだろう。

 考えられるのはそれを行っている国の有力者とのコネがあり、頼まれるなどして奴隷について知ることが出来た。それをお得意様であるJAPANに恩を売ろうと、知らせた。というのがあり得るが、

 ……どうにもすっきりしませんなぁ。

 解らないことがあるとそういった気持ちになりやすい自分であるが、今回は特にそう思う。

 とはいえ今考えるべきは、如何にして首謀者の所まで行き、それを抑えるかだ。戦闘に関しては心配する必要もない。石丸が最強であることもそうだが、他の面々も歴史に名を残せるほどの英傑達であると見ている。勿論、自分もだ。相手は国がバックにいる上、軍だけでなく、雇われた用心棒などもいるがろうが、後れをとることはないだろう。

 しかし楽に済むことに越したことはない。菅原ミッチーは、石丸の後に続きながらそのための策を考え始めるのだった。

 

 

 

 

 

 街を一望出来る丘の上。

 風に揺られる一つの影があった。

 

「…………」

 

 その影は黒いフードを被り、顔の部分を仮面で隠した怪しい者であった。

 仮面から小さく覗く双眸は、街に足を踏み入れていくとある一行に向かっている。

 それは大陸ではあまり見ることのない和装の人間達であり、その先頭には、白く大きな剣を背負った、精悍な顔つきの男であり、

 

「…………アレが――」

 

 影はその男をじっと射抜くように見つめ続ける。

 そして、

 

「――――フ」

 

 その影は口元に小さく笑みを浮かべると、それを最後に丘の上から跳躍し、男達を追いかけるようにして街に入った。

 




長くなったので分割した。
これはアレ、石丸が主人公のRPG的な感じ。石丸8くらい。次回で終わって9は一瞬で終わって直ぐに10になるけど。
ナイチサ様の話は次次回になるかも。ごめんね!
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