大陸中央部、キナニ平野。
その西側では東側のレオンハルト軍と同じく、魔軍の警戒線であった街を幾つも落としたザビエル軍がとある国の首都を占拠する形で布陣していた。
ザビエル軍としてはレオンハルト軍よりも手柄を立てることを優先しているため、軍の先鋒はやや突出していたが、軍勢をある程度纏めていた藤原家に迎撃され、侵攻を一時止めることとなった。
国の首都。その中心にある王城を魔軍の司令部に使い、街中に魔物兵を駐留させているザビエル軍。そこに住む国の民達は、この世の地獄を体験していた。
多くの建物が魔物兵によって破壊され、焼き払われ、そこにある金品や物資は根こそぎ掠奪される。人間相手にも容赦をしない魔軍は、街を包囲してしまうと中にいる人間達を片っ端からその暴力の餌食にしていた。
「はははは! おらおら! もっと愉しませろよ!」
「ヒャッハー! 生意気な人間が大量だぜ! さっさと死にやがれ!」
ザビエル軍に人間達の扱いに関する決まりや命令は特にはない。一つだけあるのは――
その言葉に従い、魔物兵達は街を自由に闊歩し、好き放題に行動しはじめる。
女は片っ端から捕まえ、その場で複数の魔物兵による陵辱が行われる。昼夜問わず130万の魔物兵達が交代で女達を休むこと無く犯すため、眠ることすら許されない。下腹や胃の中が魔物達の精液で膨らみ、嗚咽を漏らしながら呼吸が出来なくなるなど、肉体に与えられる絶え間ない苦痛と精神的ショックで気絶するように眠るも、女の悲鳴が聞こえなくなったことに気づいた魔物兵が腹を殴りつけた痛みで無理矢理意識を覚醒させられる。全てを諦め、絶望した女達はそのうち、壊れた人形のように肉体に与えられる生理的な痛みを感じて時たま身体を震わせたり、うめき声を上げるのみで、皆一様に虚ろな目を浮かべる。
大体そうなれば殆どの女は数日中から一週間程度、早ければ翌日には死んでしまうため、魔物兵達はまた別の女を犯し、また遠くないうちに壊してしまうのだが、本能に忠実な魔物達は我慢が利くことなく、魔物隊長の言葉や、ある程度数が減ったところでようやく手加減を憶え始めるのだ。
一方で男や老人、子供などは魔物兵の遊び道具であり、娯楽のように殺される。
殺してしまった方が負けという暴力を振るう遊びや、人間同士で殺し合わせ、それを見物するような遊びも行われ、特に子供は様々な工夫が出来るため、より苦しめられた。親に子供を殺させる。親の前で子供を拷問し、止めたければ性奉仕を行うよう強要させたり、逆に親を殺させる。幼女であれば逆に子供を親の前で犯したり、一緒くたに犯してしまったりなど、凄惨かつ残虐な行いが街の各所で行われたが、それでも人間の数が多いため、三分の一程度は生きたまま焼かれるなどしてあっさりと殺された。
これらの占領地の掠奪、暴行は人間同士の戦争と比べても惨いもので、魔軍としてはさほど珍しくもないことであったが、ザビエル軍のそれは魔軍の中でも最も苛烈なものとして知られていた。
各軍には、率いる魔人か魔物大将軍、将軍らによって定められたルールがあり、魔物兵達はそれに従い、また軍の特色に適合するものである。
例えばガルティア軍であれば魔人ガルティアの趣向から食料を徴収することを優先する。配下の魔物兵もそんなガルティアに釣られてか、美味い食事に興味を示すものが多く、虐殺はあまり行われない。
魔物の生物的な本能として、人間を苦しめることを好みやすい性質こそあるものの、基本的に魔物は上位に逆らうことを考えないため上からの命令には従順であり、そうあろうと努めて適合していくのだ。
そのため魔人ザビエルと大将軍コウウに率いられたザビエル軍は、魔軍でも屈指の凶悪さで知られていた。
そんな中で、ザビエル軍に所属する二体の魔物隊長は街で暴れる魔物兵を眺めながら世間話を行っている。
「へへ、久々の戦争なだけあって解放感がやっぱすごいな。兵も相当暴れてる」
「まあこれだけ大規模な戦争で、大きな都市を占領するのは初めてだからな……」
街の中に設けられた公衆便所。そこから出てきた二体の隊長は染み染みとそんな事を言う。未だに長蛇の列を作り、中からは女の悲鳴と、魔物兵の楽しむ声を耳にしながら、
「どれだけ暴れても構わないんだから最高だろ。女も犯し放題だしな」
「他の軍と比べてもこれだけ自由な軍は無いらしいからな。レオンハルト様の軍とか決まり事が大量にあるらしいし」
二体揃って今の感想を言い合う。その表情は、ある程度は満足そうである。
だがやがて、ただなぁ……、と二人揃って声を上げると、何か思う所があるのか示し合わせたように今度は小声で愚痴を吐き始めた。
「これで待遇とか扱いが悪くなければ最高なんだが……」
「それだよな……ザビエル様はお強いが、嫌われ者だし、兵の扱いも厳しいし……」
この軍の頂点に立つ魔人ザビエルは、魔軍では有名な嫌われ者である。多くの魔人に嫌われ、兵には恐れられているだけでは飽き足らず、あのザビエルの下、というだけで他の魔物から蔑視されがちなのである。
というのも、
「なんでザビエル様はレオンハルト様を怒らせるような真似を……おかげで俺らの立場まで悪くなっちまった」
魔物隊長が言うように、レオンハルトを怒らせたことにより、ザビエルの下に付きたがる魔物兵が激減するだけではなく、魔物隊長や魔物将軍にすら関わりを避けるようになってしまったのである。
ザビエルに従ったり、関わったりすれば自分もその争いに巻き込まれるのでは、と頭の回る魔物隊長や魔物将軍が考えた結果だ。
それを思うと憂鬱になるが、魔物隊長にとってはそれに加えて更に頭を悩ませることもある。それは、
「それだけならまだしも……コウウ様は褒賞も中々くれないしなぁ……」
「お、おい……! 滅多な事を言うなよ、聞かれたら殺されちまうぞ……」
魔物隊長がその発言にぎょっと驚くと、周囲を見渡して聞かれてないことを確認して息をつく。だが相手の魔物隊長は、悪い、とは言いつつも不満は燻っているようで、
「……でも、お前もそう思うだろ? コウウ様、戦の時は頼りになるけどケチで褒美は独り占めにしようとするし、昇進も滅多にないし……」
「……まあ、な。そのくせ面倒くさいんだよな、あの方……プライド高いし、気まぐれだし……しかも怒ると当たり散らしたり殺したり……そのくせ気まぐれだし……」
「ああ、それな。妙に優しい時もあるんだが、褒美はくれないんだもんなぁ……あ、そういえば知ってるか? コウウ様の夢というか目的」
「? 知らないな。ひょっとして何か崇高な目的でもあるのか?」
いや、と魔物隊長は首を振った。先程よりもかなり小さな声で耳打ちするように、
「うちの魔物将軍が、コウウ様と特に親しい側近の魔物将軍から聞いた話らしいんだが……ここだけの話、コウウ様は最終的に
「……は!? いや、それは――」
「馬鹿……!? 声が大きい……!」
声を上げかけた魔物隊長をもう一方の魔物隊長が口を押さえるようにして止めて注意する。
「……わ、悪い…………だが、それを思うのはまぁ……俺達でも願わないわけでもないからいいとしても、本当に可能なのか?」
魔人や使徒になりたい――と、魔軍に所属する魔物が酔ってる時や冗談半分で言うことはあるし、それを全く空想したことが無いと言えば嘘になる。
だが魔物兵とてある程度考える頭を持ち、実力を測る目を持つ。魔物兵は多かれ少なかれ野望を胸に秘め、魔軍の門を叩いた者達だ。食うに困らないだろう、とか、人を襲える、など生活や欲の為であっても、魔軍での立身出世はやはり誰もが願うもの。ましてや魔物に生まれたのだ。ある程度力を持っており、魔軍に入ろうと思うなら己の力に自信を持つ者も多い。自らの力、能力のみで出世を果たすことを夢見るのはおかしなことではない。
――しかしそれは、直ぐに打ち砕かれる。
周囲には同じ魔物兵スーツを着用した魔物達。実力にそれほど差はないが、それだけに功を積もうと思えばそれなりの努力や頭を使う必要がある。上には何百万といる魔物兵から勝ち上がった魔物隊長。その上には種としての進化を行い、昇進した魔軍のエリートである魔物将軍達。そこまで上り詰めたとしても、上には魔物大将軍という真のエリート。魔物としての最高階級であり、殆どの魔物は将軍を目標にするか、大きく見て大将軍にするかの二択だ。
それはひとえに、実力の違いや格の差を理解させられるからである。
周りや上の立場の者達を見て思い知らされるのだ――自分は、
魔物大将軍の上に立つ使徒や魔人達の実力は想像を絶する。彼らの機嫌一つで自分達は塵のように殺されてしまうのだ。魔物界で上位者との実力差を見極める目がない蒙昧な輩は長くは生きられない。強者の機嫌を損ねて殺されてしまうのみだ。使徒や魔人を夢見る――それは正しく魔物にとっての夢ではあるが、叶うものではない。身の程を弁え、目標を将軍に定めるので精一杯か、諦めて今を謳歌するかの二択である。
ゆえに魔人を目指すなど身の程知らずと馬鹿にされてもおかしくはない。正気ではない、といった表情で自分達の上司を思う。
「出来るかどうかは知らないが、コウウ様はマジで目指してるらしい。自ら戦場に出て戦功を積み上げそれを独占するのも、魔王様の目に止まるのを期待してか、いずれザビエル様にお願いして口利きしてもらうためらしいぜ……」
「い、いや、それでも……うーむ……確かにコウウ様は大将軍の中では頭一つ抜けた強さを持ってるとは聞くがな……」
「正直無理そうだよな……噂だが、ザビエル様って魔王様からの評価あんまり高くないらしいし……」
「……なら仮に御眼鏡に適うとしても他の大将軍の方々の方が可能性あるんじゃないか? バルカ様やヴラド様は優秀だと聞くし……リー様はあんまり大きな成果を上げたみたいな話聞かないから解んないけど……」
「馬鹿。あのレオンハルト様が長年重用してるお方だぞ? 確かにそういう話はあまり聞かないが、優秀ではあるんだろう。癖も無い人格者とも聞くしな」
「……コウウ様は癖だらけだからな……槍働きだけしてれば誰よりも頼りになるんだが……はぁ、やっぱ他の軍の方が良いのかね……?」
「魔物兵の身ならうちが一番何も考えなくていいし楽しいだろうけどな。如何せん俺達は魔物隊長だし、暴れることだけ考えてられる身分じゃないからな……はぁ、俺も女の子モンスターの嫁欲しい……」
二人して大きく溜息を吐く。そこかしこで暴れる魔物兵達の賑わい、楽しそうな様子を見てると何とも羨ましい。これからの展望や上司、身の振り方を考えると頭が痛く、鬱憤が溜まるのだ。
そんな中、目の前の長蛇の列を眺め、
「…………もう一回行くか?」
「…………そうするか」
魔物隊長としての身分があるので、優先的にそういったことを行うことは出来る。魔物隊長達は数少ない特権を使ってストレスを発散しようと再び列に混じっていったのであった。
ザビエル軍が司令部として使っている国の首都。その中心にある立派な石造りの王城。
その玉座の間では、街中に負けず劣らず凄惨な光景が広がっていた。
「――ふふふ……どうだ? 自分の国が、魔物に汚される気分は……?」
玉座に座するのは、赤い外套に黒の鎧。燃え盛る炎の髪を持つ男――魔人ザビエル。
彼は相変わらず肩に使徒の藤吉郎。傍らに他の使徒達や魔物将軍らを控えさせながら、玉座の間に磔にした人間達を眺めて笑みを浮かべていた。
「も、も……う、やめて、く……れ……ッ!」
「…………」
掠れた声で制止し助けを乞うのはこの国の王であった男だ。彼と同じようにどこからか持ってきた木の板に磔にされているのが全部で6人。
その全てが、王族の者達。国王の家族であった。
魔人ザビエル率いる魔軍に強襲され、軍は激しく抵抗したものの個々の力だけでなく数でも上回る魔軍に敢えなく惨敗。首都を包囲され、多くの民がザビエルが放つ黒い炎に苦しめられる中、王城に立て籠もるしかなかった王族もやがて捕まってしまった。
国王の隣に磔にされた王妃は声を発することはない――既に屍になっていた。
魔人ザビエルに玉座の上で陵辱され、抵抗したがために足を切り落とされ、その上で磔にされて生きたまま焼かれてしまった。
しかし早めに死ねたのは寧ろ幸運であったのかもしれない。
何しろ、それ以上の拷問を受けずに済むばかりか、その後の悲惨な光景を見ずに済むからだ。
「さて、では次だ。連れて来い、魔導……」
「かかかか畏まりましただす、ザビエル様」
「あっ……あぁ……っ!」
ザビエルの視線の先、使徒である大顔の不細工男――使徒魔導が近づく相手は、この国の第三王女である幼い少女だ。
彼女は順番待ちをしていたのである。
「や、めてくれ……その子は……!」
何度目、何十回目かの懇願を行う国王。
国王と第三王女である彼女は、ここまで家族が苦しめられる様をまじまじと見せつけられたのだ。
まずは王妃が真っ先に犯され焼き殺され、次に第一王女が同じ様に犯され、控えていた使徒の式部に身体を切り刻まれて殺された。第二王子が第一王女の死肉を無理矢理食べさせられ、その後に串刺しにされて殺された。第二王女はその様を見て、それを見ていた魔物将軍らが哀れに思うほど必死に媚び諂い、苦痛に耐えながらザビエルに奉仕したが、その甲斐あって魔導の物となることが決まり、裸のまま首輪を付けられて飼われている。その顔の醜さに嫌悪を憶えた結果、魔導の怒りに触れて何度も殴られて、足や身体を悪くした。今も魔導の横でリードを付けられ、四つん這いになって笑みのまま身体を震わせている。嫌悪を憶えたら痛めつけられることを憶えたのだ。第一王子は国王同様、家族が苦しむ様を見て藻掻くところをザビエルが見て楽しむために生かされていたが、隙を見て縛めから脱し家族を救うためにザビエルに挑んだが、魔人四天王最強とも称されるザビエルに敵うはずもなく、一太刀で足を斬り飛ばされると、そのまま拷問を受けて殺されてしまった。
そして残ったのが国王と第三王女。国王もそうだが、既に数日掛けて家族が苦しむ様を見せつけられて心は折れている。まだ幼い少女である第三王女は何度も泣き叫び、股間に染みを作りながらも抵抗したが、初日で声を上げることは無くなった。
しかし今、魔導によって第三王女がザビエルに献上されると、うわ言のように、嫌、嫌、と呟き始める。国王が止めるのを無視し、ザビエルはその少女に股座を己の物で引き裂くようにして挿入すると、大きな悲鳴が玉座の間に響き渡った。そのままザビエルは腰を動かす。
「やめろ……! やめて、くれ……っ!」
見ていられず国王がもう枯れたはずの涙を再び流しながら懇願するもそれは聞き届けられない。それを聞いてより一層笑みを深めたザビエルは国王に向かって言う。
「ふふ……確かに名残惜しいな……この幼子を殺したら最後、お前達の嘆きや苦しみが見られなくなる……」
そこでザビエルは妙案を思いついた、と言わんばかりに笑ってみせる。それは、
「ふははは! ならこれが終われば、この少女は魔物兵の慰み者としてやろう……!」
「なっ、ふざけるな……それだけ、は……!?」
「貴様の言う通り、止めてやろうというのだ……なに、命が延びるのだから僥倖だろう? 我の優しさに感謝するのだな……!」
そう言ってザビエルは少女の中に精を吐き出すと、そのまま床に向かって無造作に投げ捨てる。そして配下に向かって、
「その少女を連れて行け……民に見せつけるように大きな広場で行うようにしてやるのだ」
「……は、はっ、畏まりました」
魔物という立場として惨いとはまでは思わずとも、ザビエルのその凄惨なやり方に恐れを抱いた魔物将軍が、即座にそれを行うべく魔物兵に命令して連れて行かせる。
これで残ったのは国王一人。最早用はない、とザビエルは掌から炎を発生させてみせると、
「楽しかっただろう? ――では、死ぬがよい」
「っ、アァ、ああっ、あァアあああああ――ッ!!」
黒の炎を放たれ、生きたまま燃やされる。国王はしばらく悲鳴を上げて苦しんでいたが、やがて声も止むと、後には黒焦げとなった死体が残るのみであった。
それを終えると、ザビエルは傍らの使徒に独り言のような声を掛ける。
「ふふ、終わってしまったな」
「……お疲れ様です」
そう返事をしたのは白い肌をした福耳の大男――煉獄。
ザビエルの使徒の中で特に様々な仕事に携わる男である。
その次に声を掛けたのは、使徒ではなく大柄の魔物であった。
「ザビエル様、お疲れ様です。……早速で悪いんですが、この後の動きについてご相談しても……?」
「……いいだろう、コウウ。報告と合わせて聞かせるがよい」
ありがとうございます、と礼をしたのは魔物大将軍であるコウウだ。
ザビエル軍を統括し、個人の武勇であれば他の魔物大将軍の誰にも負けない、と誇るコウウは他の能力についても自分が一番であると信じて疑わず、好んで他者に従うような男ではないのだが、ザビエルとは相性が良いのか、彼が魔人四天王になって直ぐに彼の下に就くことになった魔物大将軍であった。
コウウはザビエルに向かって普段の荒々しい口調を封印しつつ告げる。
「現在、我が軍はキナニ平野北西部にある首都を占拠中。進軍を一時、止めている状態であります。その原因は南側に集まりつつある藤原家と大陸諸侯の軍勢。彼奴らに足止めされている形となっています」
「ふむ、その数は?」
「詳しい数はまだ不明ですが……おそらくは、200万に届くかと」
「……多いな」
ザビエルは暫し思考を巡らせる。
こちらの軍は130万。本来はこれほど大きな軍勢を持たないのだが、レオンハルト軍100万に対抗するためかき集めてきたものだ。
130万の数でも戦えなくもない。自らとその使徒の力があれば容易に勝てるだろう。
しかし、数で負けていることもあり、単独で戦えば損害が大きくなって後にそのことを責められかねない。それに不安要素として、敵の参謀のこともある。
人間界に攻め入る前に、魔王ナイチサの命令、及び詳細を伝えられたのだ。それは、
……悪魔の宗教を広めようとしているのだったな……。
それこそが藤原家を滅ぼす大きな要因であるという。
悪魔の宗教云々はともかく、それを広めようとしているのが悪魔で、悪魔はそれなりに強力な力を持つというのが、ザビエルがほんの少し気になる部分である。
だが、もっとも警戒しているのは藤原家でも悪魔でもない。
ザビエルはそのことを思うと、頭が沸騰しそうになるのを抑えながら眼下のコウウに問う。
「……レオンハルトの軍はなんと言っていた?」
「……それは――」
言うべきかどうか迷っているのか、コウウが言葉を止める。だが代わりに横から声が飛んだ。
「我々は好きにさせてもらう、と言ったら――ならこちらも好きに動きますので、と……」
そう告げたのはレオンハルト軍との連絡、相談役としてコウウとともに赴いていた煉獄。その答えに頷きながらもザビエルは続きを促す。
「……それだけか?」
「……いえ……好きに動くが、泣きついてくるなら助けてやらなくもない、と、使徒のキャロルが――」
「っ……あの喧しい女か……!」
苛立ちが募る。レオンハルトだけでなくその使徒にすら舐められていると思うと、我慢ならない。今直ぐにでも出向き、苦しめた末に殺してしまいたい。それこそ、さっきの王族達のように。
しかしそれは難しいことは、理性では解っている。解っているが、激情がこの身を支配しそうになる。
「忌々しい……! レオンハルトめ……!!」
「…………」
怒りで手に持っていた殺した人間の頭蓋骨を握り潰すも、怒りは晴れない。今のがレオンハルトであったのならどれだけ気が晴れることか。
無言のまま佇む煉獄に怒りを抑えて問う。頭に手を当てつつ、
「……奴らの今後の動きはどうなっている?」
「……それは、藤原家のではなく――」
ザビエルは怒りのままに肯定した。
「当然だ……レオンハルト軍の動きを教えろ……!」
「……畏まりました」
煉獄が恭しく頷く。煉獄には藤原家だけでなく、レオンハルト軍の動きも調べるように命じていた。奴を貶めるためには、奴の動きを読んで謀略を使わねばならない。
……人質などを使って脅迫か……人間の軍や我の軍を使って奴の力を削ぐのもいい……!
言い訳の余地さえ残していれば、レオンハルトは罰してこない。明確な違反行為でないのなら軍勢に損害を出したり、奴の使徒達を傷つけることも可能だろうと、ザビエルは見ていた。
特にレオンハルトは、身内に甘い。使徒や奴が大切にしているものを人質に取ってしまえば、やつは身動きが取れなくなるだろう。そうなれば一方的に奴を痛めつけて殺すことも出来る。
「……レオンハルト軍は、南の藤原家をキナニ平野で迎え撃つようです。後、あちこちに工作員と思わしき者を放つ動きがあります」
「……なるほど。では、どうするのがいいか」
「……一先ずは同じ様に藤原家を迎え撃つのが得策かと。そのために軍も動いていると聞いていますが……」
煉獄がコウウ、そして魔導に視線を向ける。同じ様にザビエルも視線を向けると、二体はそれぞれ順番に話し始めた。
「はっ、数日中に集まるかと思われますので、魔導様や煉獄様と相談して南に布陣するよう準備を進めております」
「ままままずは藤原家を弱らせるだす。魔王様のめ、命令もあるだすから……そそそのために斥候を出して、ぶぶ物資も集めてるだすよ……!」
「……そうか」
ザビエルは考える。
確かに魔王様の命令は確実に遂行しなければならないし、そのためにも首級はこちらで挙げてしまいたい。
レオンハルトに手柄を持って行かれるのは論外ではあるが、ある程度向こうの軍勢に戦ってもらった方が楽にもなる。となると、
……邪魔をしてやるか……。
使徒を使って奴の主力を邪魔し、可能であれば捕まえてしまうのはどうだろう。上手くいけば、使徒を人質にレオンハルトを言いなりに出来るかもしれない。
奴の使徒は三体ともそれなりに強いと聞くが、自分の使徒には敵わないと見ている。
「……戯骸よ、仕事を頼みたい」
「…………ん、何だ、仕事って?」
自らの使徒の中でも最強の使徒である褐色肌に煙管を加えた男――戯骸に声を掛ける。
考え事をしていたのか、少し反応が遅れたが、最近はよくあることだ。
……戯骸はレオンハルトと交戦して生き残ったほどの強者だ。問題はないだろう……。
それはあの忌々しい事件の時のことだ。
他の魔人や使徒が来ないよう、そしてレオンハルトの使徒が現れたら妨害し、可能であれば捕らえるように命令し、その通りに行動していた戯骸は、運悪くレオンハルトに出くわしたらしい。
しかしレオンハルトの攻撃を受けても何とか生き残ったのか、死んだと思っていた戯骸はしばらくして無傷で戻ってきた。理由はザビエル本人にも解らない。だが生き残ったことは僥倖であった。自分の使徒の中だけでなく、使徒全体を見ても最強と名高い自慢の使徒である戯骸を失わずに済んだのだ。その時は柄にもなくほっとしてしまった。
無論、レオンハルトが本気であれば間違いなく死に絶えていただろうが、レオンハルトも流石に使徒相手に本気ではなかっただろう。しかしそれでも逃げ切り、生き延びている、というだけでも評価を更に上げるには充分だ。その圧倒的戦闘力を持つ戯骸に加えて、それぞれ多彩な能力、長所がある使徒達。煉獄や式部、魔導の手もあれば確実だろう。真の姿という奥の手もある。誰か一人でも成功すればよいのだ。
藤原家などは片手間でも充分に制圧出来る。軍を纏める魔物大将軍、コウウもそれなりに使える。特に戦場では他の魔物大将軍よりも良い働きをしてくれるだろう。
そして何より、この我がいるのだ、負けるどころか苦戦するはずもない、とザビエルはほくそ笑んだ。
……ふふふ……! レオンハルトよ……今回の戦争が、貴様の最期になりそうだぞ……?
ザビエルはそのための策謀を、使徒達に命じてみせた。
「……あー、なるほどなぁ……そういう感じか……」
「チガミレル……! タノシミ……!」
「い、いいい言い訳が利くならなんとかなるだすよ。あとは、たたたタイミングを間違えなければ……!」
「…………ご命令とあらば努力致します」
主であるザビエルの命令を受け、戯骸、式部、魔導、煉獄はそれぞれ思い思いに了承する。魔導や煉獄、戯骸による多少の変更や改善点もあったものの、主の命令を叶えてみせようと、それらは受け入れられたのだ。
ザビエルの瞳は藤原家を見ておらず、ただレオンハルトへの激情で燃えていたが、それを指摘出来た者は誰もおらず、ザビエルはレオンハルトが自身の足元で這い蹲る結果を思い、笑みを深めた。
ケイブリス「魔軍で出世するのは大変だからな」
藤原家入れれなかった() そして使徒達が健気に見える。
皆さんはどの魔人の下に付きたいかな?