※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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魔物大将軍コウウ

 ……魔軍の動きがおかしい……一体何が起こっている……?

 藤原家参謀。第三階級悪魔の月餅は戦場で術を使い、隠れ潜んでいた。

 視界の中、距離を置いた先では藤原石丸と魔人ザビエルの戦いが始まったところであり、一先ずは目論見通りに進んでいる。石丸がザビエルを倒す。そのために皆はそれぞれの持場で奮闘しているのだ。

 だからこそ、月餅は石丸のサポートとして同道を申し出た。総大将である魔人のところに辿り着くまでには多くの魔物兵、魔物隊長、魔物将軍に魔物大将軍。そして使徒の妨害が予想されるからだ。

 戦場では妖怪軍団と並んで特に目立つ源氏武士団と源頼光、坂上田村麻呂の二人をザビエル軍の前線に配置したのも、彼らが暴れることで注意をそちらに向けさせ、潜入を容易にするためのことだ。

 勿論、それなりの戦果も期待出来るだろうと思ってのことであり、使徒相手でも戦える相手となると彼らが最適だと考えた。

 つまりは囮であり、大将軍や使徒といった強大な存在を釣るためのものなのである。いかに石丸と言えども、5体もいるという使徒を纏めて、魔人を倒すのは厳しすぎる。ゆえの配置だったのだが、

 ……何故、誰もいない……?

 その予想に反して、ザビエル軍の本陣には使徒の姿は見られなかった。

 いや正確にはザビエルの肩に乗る小さなさるぼぼのような使徒はいるが、戦闘用の存在ではないのだろう、今はザビエルの肩を降りて戦いを見守っている。

 一応何かする可能性を考えて注意しているが、その気配もない。加えて周囲に他の使徒の気配もない。それが不気味でしょうがなかった。

 よくよく感じれば戦場自体にいることは解るが、この周辺にはいないのだ。

 しかもザビエル軍も反対側のレオンハルト軍も――特にレオンハルト軍の方が動揺しているような気配がある。ザビエル軍も周囲の将軍達が困惑したように指示を送っているが、その辺りの会話や言葉をよく聞いてみると、

 ……仲間割れ? 使徒同士の争い?

 どうやらレオンハルト軍がいる東側の戦場で、魔人ザビエルの使徒と魔人レオンハルトの使徒が争っているらしい。それが意味するところは、魔人同士の仲間割れだが、自軍にとっての最大のチャンスであった。

 ……何という僥倖……! やはり、石丸様は()()()()()()()……!

 天運に愛されたのか、こちらにとってはかなり都合のいい事態だ。月餅は自然と手に力が込もる。

 この隙を逃す手はない。使徒が誰もおらず、大将軍も前線に出ている。今なら誰の妨害も受けずにザビエルに注力出来るのだ。これ以上の条件はあり得ない、と月餅は確信する。

 ……やはり……万が一を考えて、使っておくか……?

 これで石丸がザビエルに勝てば何も問題はないが、もし負ければ自軍は一気に敗北へと傾く。ならば保険を掛けて“あの術”を詠唱しておくべきか、と考える。

 だが月餅はしばしそれを考え、

 ……いや、まだ早い。石丸様がザビエルに通用するかを見極めてからでも遅くはないはず。

 もし負けても石丸を連れて逃げるくらいは自分でも出来る。使うのはその後でもいいのだ。

 それにこの術は術者の生命力を大きく削ってしまう。高位悪魔の月餅でさえ、それを使えば長くは生きられないほど危険な術だ。そしてそれを使って魔人一人を削っても、もう一体が残っている。二体目にも使うのはさすがに厳しいだろう。最善を尽くそうとするなら、

 ……これは最後の、勝利を決めるための切り札、そして敗北を止めるための逆転の一手として使うべきだ。

 使わずに済むならそれが理想だが、そう甘くはないだろう。ゆえに覚悟だけはいつでも決めておく。

 

 この戦い、月餅は己の全てを懸けて勝ちに行くと決心した。

 あの自らが仕えた王のために。

 第三階級悪魔。悪魔界の君主、月餅としてではなく――()()()()()()()()()()()()()。それを決めたのだ。

 ゆえに軍師として最悪を想定して備えつつも、己の主君の力を信じて今は見守る。誰にも横槍は入れさせない。

 ……他の者達も石丸様の勝利を信じて戦っておる。なら儂も、それに倣うのみ。

 心の指針を決めた途端、湧いてくる力に月餅は内心でむず痒いものを感じながらも、悪くはないとそれを受け入れた。

 

 

 

 

 

 キナニ平野の西側、ザビエル軍と人類軍、藤原家の主力や源氏武士団の戦いは敵味方入り乱れての乱戦の様相を呈していた。

 戦場の中では最も激しい、鮮烈な戦いが繰り広げられる中、その中心で巻き起こる戦いに魔物兵は僅かに士気を上げ、反対に人類軍は僅かに勢いを落としていた。

 その戦いの中心は――巨大なクレーター状の窪みが出来ていた。

 半径10メートル程の巨大な大円。だかその円は幾つも重なり合い、少しずつ抉れていき、また周囲に新しい円を大地に作っていく。

 その度に鳴り響く火薬が爆発したような轟音と、舞い上がる土飛沫に、人類軍は勢いを削がれていた。

 自分たちの将、源頼光と坂上田村麻呂が相手と戦っている。

 

「っ、くたばれ化け物……!!」

 

「ぜぇ、はぁ……死なんか馬鹿者めええええええええええ!!」

 

 頼光の持つ刀と、田村麻呂が持つ大刀が敵に振り下ろされる。

 この二人は紛れもない強者。人類軍全体でも五本の指に入る実力を持つ達人であり、頼光は剣も槍も扱うことの出来る最強の女性。特に動きの身軽さ、素早さでは敵うものはおらず、戦場では必ず一番に駆けていき、次々に敵を屠っていく姿は正に鬼姫。敵味方両方から恐れられる女傑だ。

 一方の坂上田村麻呂も、あの藤原石丸の師であり、かつては最強の称号を持っていた男である。剣の腕もさることながら、その怪力は大木をへし折り、岩を拳で砕く。妖怪や鬼相手に張り合うことが出来る化け物のような老人であり、征夷大将軍に相応しい今なお武士達から尊敬される達人である。

 そんな二人であれば魔物を相手にしても負けはない、と武士達は確信していた。

 事実、途中まで彼らが率いる武士達、源氏武士団は魔軍を相手に圧倒していた。

 

 魔物大将軍――コウウという魔物が出てくるまでは。

 

「ったく、どいつもこいつも……」

 

「ッ!」

 

「ぐっ!」

 

 頼光と田村麻呂の一撃は、コウウの手に持った長く巨大な槍によって防がれた。

 静かな声とともに突き出されたそれは、身長3メートルを越える巨大なコウウの体躯を越えて更に長く、大きい。その槍を難なく振り回すコウウは、人間としては桁違いの怪力を誇る二人の同時の攻撃を防ぎ、特に力を入れた様子もなく息を吐いた。

 

「俺を舐めてやがんのか? まったくよぉ――」

 

その瞬間、コウウは槍を持つ手に力を込めて叫んだ。

 

「俺をこの程度で…………倒せるとでも思ってんのかアアァァァァァァァァ――ッ!?」

 

「――っ! あぐっ!」

 

「ぐぅぅ――!?」

 

 二人と鍔迫り合いをしたまま強引に槍を振り回したコウウは、二人を垂直に吹き飛ばし、地面に叩きつける。

 だが追撃は終わらず、コウウはその巨体に見合わない動きで跳躍すると、倒れ込んだ味方の武士達の中心にいる頼光達の方に槍を振り上げる。

 

「っ、急いでわしから離れろ!」

 

「が、はっ……また来るぞ……! 離れんか貴様ら……!」

 

 頼光が周囲の味方に向かって叫ぶ。田村麻呂が血を吐きながらも何とか立ち上がって周囲の部下を殴りつけて吹き飛ばす。そして数瞬後、コウウは自らの身を空中で捻って回転させる。

 大気を切り裂くような回転と、その巨大な力の塊は、コウウの気合いの入った声とともに叩きつけられる。

 

「くたばれやクソ人間共!! ――大螺旋、業殺槍ォォォォォオ!!!」

 

 コウウが地面に着弾した瞬間――地面が大きく破裂した。

 爆発したかのような音の震えとともに土飛沫が上空に舞う。コウウ自身が巨大な爆弾の様であり、攻撃の後には巨大なクレーターが出来上がる。

 逃げ遅れた武士達を吹き飛ばし、近くにいたものが肉片となり、離れていた者も地面が軽く揺れたことで体勢を軽く崩してしまう。

 

「あ……あ……!」

 

 揺れで転けてしまったのか、それともコウウの強さに恐れてしまったのか、兵士の何人かが地面に尻餅をついてまごついている間にコウウの槍によって殺されていく。

 凄まじい怪力によって振るわれる槍は、人間の脆弱な身体を容易く砕き、破壊する。運良く即死しなかった者も、骨や臓器を砕かれ、瀕死の状態である。

 それを淡々と行いながらコウウはしかし、立ち上がる者を見て眉をひそめる。

 

「っ、ふざけおって……まだ死んでおらんぞ……! 相手をせい……!」

 

「貴様の相手は朕達二人じゃ……!」

 

「……まだ生きてんのかよ、面倒くせぇ」

 

 雑魚人間共の癖によぉ、と億劫そうにコウウは言う。源頼光と坂上田村麻呂の二人とコウウの戦いは、終始コウウの優勢であった。

 

「人間の中では少しは強いかもしれねぇが、俺は最強の大将軍様だ! てめぇら如きが相手になると思ってんじゃねぇぞ!」

 

 と、そう言うコウウの言葉に嘘はない。

 魔物大将軍コウウは魔人に匹敵するといわれる魔物大将軍の中でも、特に強さがずば抜けている。

 謂わば魔軍における最強の魔物こそがコウウであり、その怪力振りは魔軍でも有名で、戦場に出れば他のどの大将軍よりも活躍し、戦果を出すという男である。

 ゆえにコウウは己の能力に絶対の自信を持ち、他の大将軍を下に見ていた。

 己が劣るはずはない。自分がこんなに舐められているのはおかしい。

 魔物社会は実力が絶対であるはずだ。信じられるのは己の力のみ。ならば最強の魔物である自分が下の立場に甘んじている現状こそがおかしい。

 魔人になれば他の多くの魔人すら越えて、四天王や最強の魔人であるレオンハルトにも匹敵する力が手に入るはず、とコウウは思っていた。

 そのためにコウウは手柄を欲する。面倒でも戦場であれば手を抜かない。

 ゆえにコウウは息も絶え絶えになり、全身がボロボロになった二人を見据えながらも、周囲に聞こえるように声を上げる。

 

「……ようし、今だてめぇら! 盛り返せ!!」

 

 それは大将軍であるコウウの激励であり、士気を上げるための行動だ。

 己が敵の将を追い詰めている時を敢えて狙って、コウウは部下に発破をかける。

 

「ここで負けたら俺はともかく、ザビエル様に何されるかわかんねぇぜ!?」

 

「それは……」

 

「負けたらお前らも俺も、帰る場所はねぇ! ――ならどうすればいいか分かるよなぁ!?」

 

「……! おおおおおおおおぉぉ!!」

 

 源氏武士団に押されていた魔物兵達がその言葉を受けて士気を上げる。

 

「ようし、その調子だ! こっちには俺が付いてんだ、武士なんざ恐れる必要はねぇぞ!!」

 

 もう後がない。背水の陣。負けたら終わりだ、という魔物の生存本能を強く刺激され、生き残るために闘争を繰り返す魔物の本能が顔を覗かせた。更には自分たちの将であり、最強の魔物大将軍であるコウウが相手を追い詰めていることを理解し、魔物兵達は勢いを盛り返す。

 

「くっ、此奴等……!」

 

「うじゃうじゃとまた湧いてきおって……!」

 

 殺到する魔物兵に武士達が苦悶の声を漏らす。

 元より個の強さも数でも負けているのが人間だ。武士は百戦錬磨であり、それほど強さに差はないかもしれないが、それでも魔物に勢いが戻ると厳しい。

 序盤こそ、将の強さも合って勢い良く突き進んでいた武士達だが、将同士の戦いで劣勢になると、形勢が傾き始めた。

 それを止めるには、やはり将による打倒しかなく、

 

「おい糞爺! 動けるか!? 死んでおらんだろうな!?」

 

「まだまだ元気じゃ戯けェ……!」

 

 と、言いながらも二人の体力はかなり削られており、先程から息を乱していた。

 原因はやはりコウウの怪力によるダメージである。一撃一撃が重く、技術もあるコウウに苦戦を強いられているのは、二対一とはいえしょうがないとも言えるだろう。

 しかし二人は納得していなかった。魔物大将軍すら倒せないでどうやって魔軍に勝つというのか。相手にはまだ、使徒や魔人も大勢残っている。その魔人の一人と今頃、石丸は決死の戦いを行っているのだ。自分たちが簡単に負けてしまっては、勝利の邪魔になる。

 ゆえに二人は覚悟を決めた。コウウを強く睨み付け、

 

「貴様はここでぶっ殺す……!」

 

「斬り殺してやるから覚悟するんじゃな……!」

 

 未だに強気の姿勢を崩さない武士二人に、コウウが再び苛立ちを再熱させた。

 

「……クソが……女の方は生かしてやろうと思ったが……そんなに死にてぇならミンチにしてやる。――さっさと死にやがれやぁッ!!」

 

「っ……ここが正念場ぞ!」

 

「わかっておるわい!」

 

 コウウが槍を頭の上で回転させ、頼光が刀ではなく、槍を構え、田村麻呂は先程と同じ大刀を構える。

 破壊の一撃がコウウが放ち、爆音を合図に戦闘は再開された。

 

 

 

 

 

 ……ったく、くそ面倒くせぇ……!

 魔物大将軍コウウは、眼前で戦う二人を見て悪態をついた。

 手柄欲しさと戦局の打破も兼ねてまとめて相手をしたのはいいが、人間としてはかなり強いほうであり、思ったよりもしぶとくて面倒くさい。

 それでも己の強さに敵うはずもなく、圧倒は出来ているのだが、今は女の方が防御主体の戦い方に変えたようで余計に面倒になった。

 こちらの攻撃の初動を見切ることに終始し、槍を振ろうとしたところで柄に槍を当てて出掛かりを潰すか、穂先で受け流すかの二択しかない。

 しかし防御しかしない相手であれば怖くはない。戦闘には、“読み合い”という重要な要素がある。

 攻撃しかしてこない相手も防御しかしてこない相手も読みやすく、読まれないためにはその行動の中に反撃や迎撃の用意を散りばめなければならない。

 迎撃がこないのならそこに集中する必要はない。しかし攻撃はどうやらもう一方、爺の方が担当しているようで目を離せない。

 読まれてもどうしようもない攻撃が出来るほど実力に差があればどうにでも出来るし、魔人のように防御を考えなくても無敵結界という絶対の盾があれば強引に突破することも出来る。

 だが遺憾な事に、

 ……クソッタレが……! 技術だけはいっちょ前か……!?

 この人間達の動きは洗練されており、力押しの突破ではギリギリのところで避けられてしまう。先程から何度も吹き飛ばし、攻撃を放っても致命傷を与えられない理由がこれだ。実力、地力ともにこちらの方が圧倒的に上のはずなのに、決めきれない。ゆえに時間が掛かってしまう。

 さっさと死ね、と殺意を込めて槍を振るうも再び避けられたところで、コウウは一つ違和感に気づいた。

 それは目の前の二人の事ではなく、

 ……? 兵の動きがぎこちねぇな。何だ……?

 戦いに参加してくる一部の兵が微妙にそわそわとしている。その様子が解せなかった。

 武士に押されて動揺しているわけではない。先程、発破をかけてやったので士気自体は回復しているのだ。

 ならばこのよく解らない気味の悪さは何だ? とコウウは気持ち悪さを感じる。

 嫌な予感、と言い換えても言い。大将軍としての勘が警鐘を鳴らしている。

 まるで自分の預かり知らない何かが起こっているような、()()()()()()()が起きる前触れのような――そんな気持ち悪さだ。

 ……一応、早めに終わらせるか……!

 そう思い、攻撃を激しくする。結局コウウは前線で戦っているのが災いし、戦場のあちこちで起こっている事態に気が付けなかった。




コウウの戦いの決着は使徒同士の戦いが終わってからということで。原作勢に簡単に説明するとコウウはストロガノフくらい強いと思って下さい。
次回からは使徒達の戦い。まずはキャロルVS煉獄となります
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