※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

171 / 411
ちょい短め
最近雑に計算したけど、200話前後でNC期も終わるかなって。とりあえず藤原家討伐編は残り10話くらいじゃないかな。多分()
本編どうぞ


キャロルVS源頼光

 戦場で起きた地震。僅かな揺れではあるが生じた現象に、多くの者が戸惑った。

 それを最も遠くで感じていたのは、高台のようになった崖。その上にいる者達だ。即席用のテーブルと椅子に座り、持ってきた弁当に舌鼓を打ちながら微弱な震動に、おお、と声を上げたのはガルティアだ。

 

「またレオンハルトが滅茶苦茶やってるな」

 

「相手がそれほどの実力を持っているのだろう」

 

「……凄まじい力ですね」

 

 と、分析をするガルティアとケッセルリンクに、後ろから感想を述べたのはエルシールだ。不慣れな手付きで紅茶を淹れながらも内心で驚く。ケッセルリンクがお礼を言いつつ、

 

「レオンハルトがここまで力を出すのは珍しい。人間相手ともなると初めてのことだろう。相手の強さが伺えるな」

 

「……確かに、思ったよりも時間がかかっていますね」

 

 パレロアが戦場を見ながら言う。視線の先では、魔物兵に攻め立てられる人間の姿が広がっている。

 だが、一部では攻勢が遅れている場所も見受けられるのだ。故に、おそらくはその場所で人類軍の主力が奮闘しているのだろうと推測出来る。

 ここまでくれば撤退しようとしていることは誰でも分かるのだ。魔物兵の攻めも厳しくなるが、逃げようとする勢いと、食い止めようとする殿の意地も中々のものである。

 それを感じながらも、シャロンはふとフラットな表情のまま、

 

「……ケッセルリンク様やガルティア様から見て、この状況はどのように見えているんですか?」

 

「ん、そうだな……よくやってんじゃねえか?」

 

 問いかけに対し、食事を続けながらも曖昧に答えるガルティア。だが続けて、

 

「まぁ、すぐ崩れるだろうけどな」

 

「……崩れる、ですか?」

 

 ああ、と頷くガルティア。少し冷たい物言いだが、戦士としての見方で言う。最近になって戦闘に優れた才能を垣間見せているエルシールが続けて疑問するように、

 

「……今の所は個々の力もあって持ち堪えているようですが……」

 

「そりゃそうだろ」

 

 と、ガルティアは完食した皿を置いて次の皿に手を伸ばしながら同意しつつ言う。

 

「人間ってのは殆どはそれほど強くないけどな、個々の実力だけで言えば魔物隊長や将軍。使徒や魔人に迫る奴だっている。ましてや人間の戦士を纏めた軍だ。数人くらいはいるだろ」

 

 だが、それほど甘くないと。人間と魔人、両方の視点に立ってガルティアは続けた。

 

「人間が魔軍と戦うなら最低限、魔人と使徒を足止め出来るってのが、勝負が成り立つ条件だ。魔物将軍を倒せるくらいじゃ話にならねぇ。魔物兵の方が殆どの人間より強い以上、普通に戦っても勝てないからな」

 

「……レオンハルトや始祖様を押さえた。だがそれは、逆も然り。殿として敵の猛攻を受け止めるための将は軒並み足止めされてしまっている」

 

 その説明を引き継ぐようにケッセルリンクも言う。

 

「何も特別なことはない。地力の差で、普通に負けている」

 

「今はギリギリのとこで踏ん張ってるだけだな。人間の将が負けたら一気に崩れる。このまま長引いても普通に負けだな」

 

「なら、勝つには……」

 

 パレロアの言葉に、ガルティアは肩を竦めて、

 

「方法は簡単だけどな。――()()()()()()()()()()()()

 

 時が一瞬止まる。場が静まり返り、だがやがて半目のエルシールが、

 

「……それ、簡単な方法ですか?」

 

「もしくは、魔物兵を殲滅、皆殺しにすれば勝てますね。簡単です」

 

「……そ、そうね……」

 

「……つまり方法はないと……」

 

 笑顔で怖いことをさらりと言うシャロンに、困ったような苦笑をするパレロアと、味方の事ながら軽くげんなりしてしまうエルシール。ガルティアも軽い笑みを伴った考えるような素振りで、

 

「んー……魔物兵を全滅させるほうが簡単かもなぁ……あいつ、最近分身したり剣からビームみたいなの出すし……」

 

「……常識って何でしたっけ……?」

 

「“常識に縛られなければ人は何でも出来る”。レオンハルト様の言葉です。あの方と接する時は、何が起こっても不思議ではないと、自然に受け入れてしまえば面白く感じますよ?」

 

「シャロンは何をやられても驚きそうにないわね……」

 

「ふふふ、パレロアったら。私だってちゃんと驚きますよ」

 

 笑みのままそう言うシャロンだが、誰もが乾いた笑いや苦笑、ケッセルリンクすら真顔になるのみで同意も否定もしない。

 話を変えようとするようにケッセルリンクが、

 

「……そろそろ状況も動くだろう。私達もそれを見届けたら、夜までには帰路につかねばな」

 

「ああ、そうだな」

 

「畏まりました」

 

 ガルティアと、三体の使徒の同意が続く。戦場の光景は、終盤の入り口に差し掛かろうとしていた。

 

 

 

 

 

 源頼光との戦闘に入ったキャロルは、地面からの震動に身を震わせた。

 相手が眉を顰めて叫ぶように言う。予想される言葉に、キャロルは否定するように口を動かした。

 

「地震か……!」

 

「いいえ、レオンハルト様ですわ!」

 

 体捌きで距離を詰めて、銃を相手の顔に向けて発射。首を捻るようにして回避した敵に、もう片方の回転式拳銃を向ける。

 脚が動き、相手が腕を抑えようとしてくる。射線に入らないように、自分で動きながらも相手の方を押さえる動きだ。この距離では相手も槍は使えないが、中途半端に距離が開けば銃撃を至近距離で食らってしまう。そうなれば回避も防御も難しい。

 だがこちらとしては一発当てればほぼ勝ち。人間は脆い。銃弾一発で簡単に死ぬのだ。肌や鱗、爪や筋肉、生まれ持った特性などで当たってもダメージがあまり入らなかったりする者も多い魔物界とは違う。そのためのぷちハニー弾だが、人間相手では過剰だ。使わずとも勝てるし、この間の大盤振る舞いと、飛行魔物兵に配った分で備蓄も少ない。ゆえに節約していこう。

 ……わたくし、これでも経済的に強者ですのよ……!

 商会の会長もやってるし、必要はないがお金は沢山持っている。レオンハルト様の為になるので良いことではあるのだが、金を持っているからと無駄な浪費をするのは美しくない。完璧な使徒ならば戦術を駆使して完璧に勝つ。そして、

 

「さっさと仕事を終わらせて、レオンハルト様に褒めてもらいますのよ!」

 

「勝つのはわしで、石丸様に褒めてもらうのもわしだッ!」

 

 右手の刀を横一文字に振られる。それを後ろへのスライドで躱すと、

 

「わたくしのダンスに付き合って貰いますわ!」

 

「舞踊は嫌いじゃ……!」

 

 そう言いながらも、相手はそれに付き合ってきた。付き合わざるを得ないとも言う。

 右へのターンと銃口を向ける動きを取る。相手の動きは左からの銃口を避けるために右に回って距離を詰めてきた。銃口から光が連続し、しかし外れる。

 ……避けるのはお上手ですわね!

 だが、とキャロルは近くにいる相手に左からの後ろ回し蹴りを行った。それ自体は何でも無い普通の回し蹴り。防御は可能だろう。

 しかしこれは攻撃のための崩しでしかない。右脚の回し蹴りを相手が防御し、しかし力によって僅かに跳ね飛ばされる。こちらの身が正面を向くタイミングで両手で照準を合わせ、

 

「――!」

 

 両手の引き金を引く。そして敵は、

 

「鬱陶しい得物を持ちおって!」

 

 二発を刀で弾き、三発目が来る前に左に身を回した。しかし自分の方も左に動いた。

 

「ギアを上げますわよ……!」

 

 速度を上げて、ステップを踏んだ。

 左の回転式拳銃を向けようとし、敵の刀に逸らされる。だが、右手の銃を向けて発砲。相手は屈んで躱す。至近距離の相手の刀が来る前にタックルで相手を吹き飛ばし、

 

「足元がお留守ですわ!」

 

「っ、危な――」

 

 また少し距離が空いた相手の足元に右手で二発。その間に再び距離を詰め、

 

「当たったら死ぬだろうが……!」

 

 起き上がりつつの一閃をかがんで潜り抜ける。お互いが背で向き合い、

 

「ええ、ご安心を。殺すつもりですの」

 

「わしは死なん! 貴様が死ね!」

 

 右手を後ろに向けた銃の発砲は、相手の肘を押す動きで外れた。だが、これは得意な距離と状況だ。故に、キャロルは内心の喜びを表情に出しながら、

 

「――どこまで躱せるか、見ものですわね!」

 

「……っ!」

 

 至近でのスライドとターンの応酬。そして銃撃の連射が始まった。

 

 

 

 

 

 厄介な、と頼光は敵の動きに意識を集中させた。

 ……やり難い……!

 相手の回るような動きと、射線を向けてくる動きが中々に対応が難しい。

 使徒のくせに、人間のような技を使うのだ。ムカつくが、そこには確かな反復練習の名残が見える。コンビネーションが厄介なのだ。

 敵の武器は両手の銃という即死武器。相手の銃口から放たれる鉄の弾は回避も防御も出来なくはないが難しい。両の射線に入るのは愚策だ。

 それだけなら懐に入って斬り捨ててしまえば終わりのはずだが、相手はその銃を近接武器の様にも使ってくる。その際の足技も中々に癖が悪くていやらしい。防御も回避も難しくないが、その後の銃の反撃がセットだと、途端に迂闊なことが出来ずに攻勢に回るのが難しくなる。

 総じて隙が少ない。左手の銃は隙があるがその隙も右手の銃や、相手の動きによって潰されるし、極僅かなものだ。

 後、微妙に剣術のような動きもある。それもあって焦点がずらされるのだ。緩急があるというのか。

 とはいえ手をこまねいているわけにはいかない。体力勝負になればこちらが不利であるし、長引くと連れてきた部下も徐々に減っていく。撤退までは後少しかもしれないが、それでも相手が追い付いてくるのを止めることは必要だ。

 ……石丸様……待っていてください……!

 先程の使徒の言葉。先程の地震が魔人によるものだと聞いて、頼光の内心は穏やかではなかった。

 それほどの相手。信じてはいるが、先日の疲労もある。今度ばかりはもしかしたら、という不安が無いと言えば嘘になる。出来れば今直ぐ加勢に行きたいが、

 ……まずは此奴を殺す……!

 部下や息子を殺された。許すわけにはいかない。だが、普通にやっても厳しい。

 

「そろそろ風穴を開けて差し上げますわ……!」

 

「っ……嫌に決まっておろう!」

 

 言いながら敵の動きを捌いた。

 回るような動きで追走し、発砲と回避をそれぞれ行う。相手の動きは横にずれるようなスライドと、回り込むターン。そしてステップを用いての肉薄。その際に射撃がセットで付いてくる。

 攻撃を行えば相手はスライドターンで下がりながらの銃撃か、直接銃で受け止めてくる。しかし、前者は相手の手番が続き、後者は鍔迫り合いからの発砲や、蹴りの動きによって距離をリセットされるか、攻撃が続く。射程が長い武器は厄介だ。普段ならこっちも槍を用いて一方的に相手を攻撃出来るものだが、この相手の武器はそれよりも遥かに厄介。攻撃するために距離を詰める必要がないというのが汚い。

 戦い方としては魔法使いに近いが、魔法を撃ったら次の発動までに時間がかかる上、近づけば肉体的には強くない魔法使いとは違い、近距離での戦闘も可能で、隙もリロードの時のみ。それも右手の銃には必要ないようで、連射が可能。左手の銃は撃ち終えれば左手一本で器用に弾を込めている。その際に、“銃に命を吹き込んでますの……!”などと色々とうるさいが、右手の銃を連射してくるので距離を詰めることが出来ない。

 ふざけた相手だと思ったが、やはり使徒。戦闘能力が高い。このままではジリ貧であったが、近距離で隙を晒してくれれば一瞬で決める自信はあるのだ。

 ならば、と。頼光は一手打つことにした。覚悟を決めて動きに出す。

 右手の銃声が一発。左手からも一発。身を横に回すことで躱し、続く動きに頼光は加速した。

 

 

 

 

 

 何をするつもりですの、と正面から突っ込んできた敵にキャロルは疑問の思考を回した。

 だが、何をやってこようが自分は正面からそれを打ち崩すだけ。それがレオンハルト様の使徒である自分に相応しい動きなのだ、とキャロルは思う。

 ……負けられませんわ!

 そう、負けられない。ゆえに“勝つ”。

 この戦い方も、レオンハルトに勧められて数百年の練習の末に体得した戦闘方法だ。銃を用いた戦闘の特訓はずっとしていたが、伸び悩んでいた自分に対し、こういった戦い方はどうだ? と、色々と教授してくれた。

 キャロルは自分は弱いと自覚している。ライバルとしている七星に敵わないばかりか、後輩二人にも敵わない。レオンハルト様を戦いで楽しませることも出来ない。

 だがそれでも、レオンハルトは自分に期待してくれる。いつか完璧な使徒になれると、その言葉を信じてくださっている。

 ならば泣き言を言っている暇はない。レオンハルト様のために働きながら、己を磨き続ける。弱いなら強くなればいい。当たり前のことだ。今はその目標を口にしても笑われるだけだが、いつかは、

 ……レオンハルト様にも、他の方々にも、本気で認めさせてやりますわ……!

 それが己の夢であり、原点だ。一度誓ったことは絶対に成し遂げる。半端はしない。

 実戦でこの戦い方を用いて戦うのは初めてだ。敵も手強い。だがそれでも、

 ……負けていい理由にはなりませんの!

 言い訳は厳禁。情けないことはしないと、そういうことだ。それは完璧使徒には相応しくない。正面から勝つのが相応しい。そうしていつか、レオンハルトに使徒であることを誇ってもらえるように、

 

「――!」

 

 キャロルは2丁の銃を、加速して来る頼光に向かって連射した。

 すると相手はそれを数発は弾いたが、次の瞬間には刀で地面を叩き、僅かな土飛沫とその場に刀を残して、()()()()()

 

「っ、何が――」

 

 目眩ましか、と思い、しかし途中で気づいた。

 

「もう遅いわ!」

 

 と、声は背後から聞こえた。何故か。それは、

 ……スライディングで、股下を潜り抜けた……!

 思った瞬間、背後から続く声が聞こえた。

 

「――“頼光(らいこう)一閃”!」

 

「……!」

 

 キャロルは、動きを迷わなかった。

 

 

 

 

 

 ……獲ったッ!!

 頼光は自身の必殺技と呼ぶべき一刀を横薙ぎに振るい、勝ちを半ば確信した。

 幾ら使徒とはいえ、生物には違いない。首を飛ばせば死ぬし殺せる。故に迷わなかった。刀に力を込めて、両断せしめてやると気迫を込めて振るう。

 だが、その先に使徒はいなかった。

 

「っ……!」

 

 どこに消えた。まさか自分と同じ様に下か?

 そう思った次の瞬間に、声は上から聞こえた。

 

「――これにて終幕ですの」

 

 背後に振り向き、その姿を見た時点で、頼光は相手の動きに気づいた。それは

 ……空中に跳んでの後ろ宙返り……!?

 頼光は驚愕し、しかしその行動は失敗だ、と思う。

 空中に跳べば、着地を狙われてしまう。相手は両の銃口を空中でこちらに向けているが、ギリギリで気づけたことで致命にはならない。数発は当たってしまうかもしれないが身を動かして急所を外すことは出来る。

 そう思って、次の行動に臨もうとした時、使徒は銃口をこちらからずらした。

 何を、と疑問し、銃口の先を横目で見る。すると先程まで使徒がいた足元に袋詰にされた何かがあった。

 それは、黒い穴が三つ空いたようにも見える、ある生き物の死骸で、

 ……ぷちハニー……っ!

 跳躍の前に落としていたのか、狙いに気づき、その場から動こうと身を跳ねさせるように瞬発させる。

 しかし頼光が動き、退避するよりも速く、

 

「中々に良い戦いでした。ですが――さよならですわ」

 

 銃声が一発。そして一瞬遅れて、

 

「――――」

 

 爆発音が響き、頼光は爆風に包まれた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。