爪と剣が激突し、火花を散らす。
両者とも人外。爪や牙を振るうのは黒部で、剣と魔法で戦うのはハンティだ。
傍目には互角に見える戦闘の中で黒部は相手の強さに歯噛みしていた。
「くそっ、ちょこまかしやがって! 逃げてんじゃねぇよ!」
「攻撃が当たらないからって悪態ついてんじゃないよ! ただの力不足でしょうが!」
言いやがったな! と、黒部は急に別の位置に出現した使徒に爪を振るうが、今度は普通に躱される。今度は自分の背後に気配が現れた。そちらに振り向くと同時に、相手の声が聞こえ、
「“雷撃”!」
「っ……!」
直線の軌跡で雷が全身を打つ。一瞬の硬直、痺れに身体が止まりかけるが、強引に身を起こして連続される剣戟を爪で防御する。
先程から一瞬で位置を変えてしまう相手の技は、おそらく魔法。魔法に詳しくないためひょっとしたら違うかもしれないが、別に何であっても変わりはしない。現実では、相手が瞬間的に移動しているし、それが出来るのだ。それさえ分かれば細かな分類などはどうでもいい。
……とはいえ、どうする!?
己に問いかける。現在の状況はこちらの防戦一方だ。
相手は剣の腕、魔法の腕、体術に優れながらも、身体能力もかなり高い。少なくともこちらで全力でぶん殴っても問題無く受け止めるくらいには力もあるし、瞬間移動を用いなくても速度がある。
これだけでも強敵だが、やはり瞬間移動が厄介過ぎるのだ。
何せ回避に於いてはほぼ隙がなく、魔法発動の前後の隙が全く見えない。攻撃しようと思ったら消えているのだから思わず、“このインチキ野郎!”と叫んでしまったくらいだ。直後に“野郎じゃないよ!”と雷撃を撃たれたが。
だが魔法だけでなく、近接戦闘に於いても瞬間移動はキツいものがある。普通は相手の身体の動き、その起りを見て次はどう動くか、などの読みを行うし、視界で見ていれば相手の動きは追いきれる。瞬間移動がある場合だと、前面で相手の動きだけを見ていても、次の瞬間にはかき消えて死角からの攻撃が来ていたりするのだ。致命傷は防げるが、全てを防ぐことは厳しく、
……体中が痛ぇな……!
剣や魔法を少しずつ喰らい、だんだんと痛みが増え体力が減っていく。妖怪は怪我を負っても再生出来るが、痛みや疲労は残る。破壊されることはあっても死ぬことはないが、とはいえそれも時間が掛かることだ。ゆえにやられるわけにはいかない。
手立てを考えようと思うもそういうのは苦手であった。さりとて諦めるわけもなく、黒部は全力で眼の前の相手を噛み殺そうと戦闘を行う。
だがそれも、
「ほらほら、あんた妖怪王でしょ! だったらもっと妖怪らしく戦いな! だんだん冷めてきたよ!」
「っ、うるせぇ! この化け物が!」
剣と爪が強くぶつかり合い、衝撃の波が空気を震わせ、体毛を撫でる。まさか“化け物”という言葉を自分が言う羽目になるとは、世も末だな、と思ってしまう。
しかし事実だ。僅かに口の端に笑みを覗かせた使徒は、瞳を紅く輝かせて剣を振るい、
「もっと攻めてきな! 一方的じゃ詰まらないからねッ!」
「全然冷めてねぇじゃねぇか! 舐めんな!」
叫ぶように言って、攻撃の密度を濃くする。爪と牙、体も使った強引な突破を試みると、使徒が笑ってそれを受け止める。
「ハハッ、良いじゃない! その調子でもっと向かって来な! 受け止めてやるよ!」
「鬱陶しい女がよ! 絶対、食い殺してやる……! 不味そうだがな!」
「あんたの肉も不味そうだけどね! 犬っぽくて!」
「俺を犬扱いすんじゃねぇよっ!」
飛び掛かるように体重を乗せた一撃を放つが、使徒は剣に両手を携えて防御を成功させる。使徒にまで犬扱いされちゃ堪らねぇな、と憤りをぶつけるように放った両爪の連撃も、相手の肌を傷つけることは敵わない。相手は愉しめるだけの余裕があるようでそれに苦々しい気持ちを覚えてしまう。
「使徒ってのは全員テメェみたいに強ぇのかよ!」
相手の攻撃を追いながら問う。すると向こうが苦笑しつつ、
「安心しな。――あたしより強い使徒はいないよ!」
「……そりゃあ安心した、ぜっ!」
爪の一撃は地面を穿ち、相手はそれを跳ねるように下がることで躱した。
……でもこれは朗報だな。この女くらい強ぇ奴しかいねぇなら、他の奴らは既に死んじまってる。
自分の強さは石丸の次くらいには強いと自負している。魔人相手でも劣るつもりはない。出会っても戦ってやると思っていたが、この使徒は己が追い詰められるほどの馬鹿げた強さを持っているのだ。
となれば石丸の相手、こいつの主人である先程の魔人は――と思考を回したところで、
「っ……また地震が……!」
足元の大地が震動した。強靭な足腰を持つ黒部が転けるようなことはないが、周囲の魔物兵らはたたらを踏む者もちらほらいる。少し距離を取った使徒が別の方角を見て、
「……かなり暴れてるね。これはそろそろ終わりになるか」
「っ……ふざけんじゃねぇ! 俺もあいつもまだ終わんねぇよ!」
牙を剥き出しにして形振り構わず突撃をするも使徒は雷を放ちながら瞬間移動で距離を取り、こちらの接近を許さない。そして先程の笑みとは打って変わった冷たい表情を見せる。
「結構な数が逃げられてるけど、前線の人間はもう壊滅寸前……ってとこかな。多分、他の将も死んでるだろうし、あたしもそろそろ行かないとね……」
「ああ!? テメェ、まさか――」
と、告げたところで使徒が答えた。
「そのまさかだよ。この場での時間稼ぎはそっちの勝ち。でも他の場所は終わってるみたいだから――」
だからまあ、と、
「あんたを倒し切るには時間が掛かりそうだし、逃げたいなら逃げな」
「……! 寝惚けたこと言ってんじゃねぇ! 俺はまだ――」
「やれないでしょ、もう。それとも――――
「!」
底冷えするような視線を向けられ、背筋がゾッとする。
並の人間をそれだけで殺せそうな殺気に警戒し、身構えながら一歩下がると、使徒は息を入れ、
「……でもまあ、兵を殺されちゃ堪んないからね。――“迷宮生成”」
そう呟いた瞬間、魔法の光とともに黒部は別の場所に移動させられた。
「なっ!?」
辺りが森となり、それでいて空が白い不思議な空間。蔦の張った地面の上に、黒部は立っていた。そして大木の根に立っている使徒はこちらを見下ろし、
「しばらくここで遊んでな」
「テメェ! 何処に俺を連れてきやがった!?」
顔を上げて叫ぶも、相手は身を翻しながら既にここを後にしようとしている。
……させるか!
と、飛び掛かって攻撃を行うが、その前に眼の前からかき消えた使徒が空間に声を響かせた。それは、
「ここは
「おい! ふざけんな! ここから出――」
「それじゃ、縁が合ったらまた何処かで。勝負は“引き分け”ってことにしといてあげる」
その上から目線の言葉を最後に、使徒の気配が空間内から消える。
深い森の中のような迷宮空間。後に残されたのは黒部のみであり、完全に遊ばれていたことや告げられた状況に血が滲むほどに歯噛みすると、
「…………くそっ!」
黒部はその自慢の爪を、大木に向かって全力で叩きつけた。
世界を赤く染め上げたようなそこは位相の異なる場所、アドミラル空間。
時が止まった空間の中に瞬間移動の魔法で入ってきたハンティは、自身が作った迷宮の中に取り残された黒部を見て息を吐いた。
「悪く思わないでね――って、さすがに無理だよね……」
何せこちらは敵。
しかも勝負を途中ではぐらかされた上に、迷宮内に置き去りにするような酷いやつだ。
ペールが書くような小説なら悪者の手先といったところだろう。
……実際、使徒の立ち位置ってそんなものだけど。
使徒とは難儀なものだ、と内心で軽く愚痴ってみる。時が止まっているのでどれだけ時間を潰しても遅れることはないので問題ない。この空間にいる限りは無敵だ。レオンハルトだって手を出せない。こっちからも手を出せないのがアレだが。出せたら最強なのに、と無い物ねだりを思う。
この黒部も、瞬間移動の対応には苦戦していた。
……別に使わなくても勝てるけどさ。
何となく自分の強さが瞬間移動のおかげのように感じて負け惜しみのようなことを思い微妙な顔をしてしまう。理由は、そんな子供じみたことを思ってしまった自分への恥ずかしさと、本当にそう思ってるが故のどうしようもなさだ。自覚してるのに治せないとか末期じゃないだろうか、と頭を抱える。先程の戦闘も、思い返してみれば随分と楽しんでしまった。黒部は妖怪王と呼ばれるだけあって、自分と戦えるほどに強敵だった。強い相手との戦闘はやはり楽しく感じてしまい、そんな自分に戸惑う。
……でもレオンハルトよりはマシでしょ。
レオンハルトみたいに戦闘中に笑ったりは――多分してない。してないったらしてない。会話はしたけど。ちょっと煽ってしまった気もするけど、ただの戦闘中の掛け合いのようなものだ。あれくらいは普通だろう。模擬戦ではよくやるし、周囲の魔人や使徒もああいう感じで楽しむ者は多い。それに比べたら自分なんて極めて普通。常識の範疇だ。
それに強い相手と戦えるから楽しいというのも確かにあるだろうが、それよりも“戦いになる”という方が自分にとっては重要だ。弱者を相手にしなければならないとなると、戦いにならない。一方的な虐殺になってしまう。それはかなり憂鬱な事であり、ある程度の覚悟を決めてもやはり気分が沈むことは避けられない。相手は戦場に出ることを決めた戦士であるし、冷徹に事を運んではいるが、たまに戦場に出てくる少年や少女。新兵か、実力があって戦いに出るような子を相手にすると一瞬手が止まりそうになる。
ハンティは基本、魔軍との戦いに参加する時は相手と味方、ともに犠牲を減らそうという信念を持って戦っている。特に戦場に出ない民間人への扱いには注意しており、虐殺や暴行が避けられない場合は進んで殺して回っている。そうすることで苦しめられる人間が苦しまずに済むからだ。
だがレオンハルト軍ではそれも少ない方であり、行う時も――こう言っては何だが、秩序のあるやり方でやる。まず必ず生かす人間と殺す人間を選別するし、虐殺や暴行を望む場合も魔物兵が上司の魔物隊長に希望を出すし、女性も一応は慰安婦という立場を設けた上でやらせる。多少乱暴であることは致し方ないらしいが、魔軍の中ではそういった行為中での殺害件数や、酷い陵辱が圧倒的に少ない。たまに配属されたばかりの魔物兵が我慢できずに占領した街で暴れることもあるが、そういうことをするとこっ酷く怒られるし、罰則やペナルティが加算される。初犯は軽いが、二回目からは加算された分もあってどんどん厳しいものとなる。代わりに一度も罰則を受けたことのない者や、優秀な者には年に二回のボーナスがあってそれを貰える可能性がある。大体は街で使える食事券や、施設利用券だが、これが中々に好評だという。
そして年に一回の昇給制度もあり、こちらにも影響してくるので出世を望む者ほど罰則には気をつけるようになる。曰く、魔物にも飴と鞭で学ばせること。そして文化的な生活を送らせることで規律的な思考を促しているのだ。
ルールを守る者は優遇され、破る者は罰を受ける。それに加えて魔人レオンハルトと言う魔物界を力で支配する魔人の代表格、魔人筆頭兼魔軍参謀という肩書がルールを守らせるのだ。本来なら魔人が決めたことを破るのは、即座に殺されてもおかしくないことだが、寛大にもちょっとした罰則を受けるだけで許してくれるという。その上、ルールを守っていれば街に住み続けることも出来るし、様々な特典もあり得る。ルールを守ることが苦じゃない。窮屈ではないと思わせれば後はある程度放って置いても規律だった行動をするようになるのだ。それでいて、魔物の良さを消さないために私闘は禁じていない。街を壊さなければ、そしてやり過ぎなければ何か言われることはない。
魔物の普遍的な価値観である実力主義を残しつつ、秩序ある組織を作ること。それがレオンハルト軍の基本方針。軍としての強さは後から付いてきたものに過ぎない。
それに比べれば人間の組織はお粗末に見えてしまう。今回の相手はよく出来ているが、人間の国の殆どが権力者の腐敗という問題を抱えている。利権や金銭などの様々な理由から甘い蜜を吸おうという権力者が絶えず、しかもそれを放逐出来ない。魔物界であれば殺して終わりだし、そもそも実力による完全な上下関係が出来ているので、上位からの命令に逆らうことはない。下剋上も起こりうるが、実力主義の上では当たり前のことだ。余程のクズがトップに立たない限り、ある意味でバランスが取れているのが魔物界だ。上位の魔人達の気位が高いためでもあるだろう。アレな魔人もそれなりにいるが、魔王という絶対者もいるので理不尽が起こるとすれば魔王かその下の魔人くらいか。
……全く、ちゃんとしてほしいね……。
その上で思うのが、やはり人間のこと。色々と考えたが単純にハンティが感じているのは、子供を戦場に出しているという憤りだ。
戦える年齢になったから、とか、ちょっと強いからという理由で戦場に出てこないでほしい。負けそうになって泣かれるとどうしようもない気分になってしまう。レオンハルトなら、戦士でない子供を戦場に出す真似はしないし――
……っと、いけない。これじゃレオンハルト信者みたいじゃないのさ。
そんなつもりはないが、どうにも最近は考え方に納得してしまうことが多くて何とも言えない。キャロルみたいに妄信するつもりもないのだ。
何はともあれ、そろそろ行動に移ろうと、ハンティはアドミラル空間から一度出て自分の部隊の魔物将軍に声を掛ける。
「――状況は?」
「! ――と、ハンティ様でしたか。相変わらず心臓に悪いですな」
一瞬反射的に身構えたが、慣れているのだろう、直ぐに気を取り直す魔物将軍。そして咳払いを一度した上で、
「現在、殆どの部隊で逃走する人間を追討中ですが、一部では前線で抵抗を続ける武士の姿が散見されるとのこと。我らは接敵した妖怪軍団との戦いも行っておりますが、こちらも徐々に敵数を減らし、やがて殲滅出来るかと。……そういえば、妖怪王は――」
「……ちょっと別の空間に置いてきた。まあ死んではないけど、しばらくは出れないから無視していいよ」
「……なるほど、畏まりました。でしたら特に問題はありません」
魔物将軍の簡潔な説明に頷く。ならば自分は、
「……ここ、引き続き任せてもいいかな?」
「構いませんが、何処に?」
ああ、うん、と魔物将軍の問いに再び踵を返しながら言う。
「加勢がてら――ちょっと他の所の様子も見てくる」
そう告げて、ハンティは再び瞬間移動を行った。
「……行ってしまいましたね」
魔人レオンハルトの使徒、ハンティが去った後にそう呟いたのは副官の魔物隊長だ。その声には少し残念の色が見える。それを指摘することもなく、魔物将軍は息を入れ、
「ああいう方なのだ。人一倍責任感があり、仲間を見捨てられない優しき義の御方。それがハンティ様だ」
「……それでいて最強の使徒。気さくに見えて、何処か貫禄がありますよね。最近はそれも更に増したような……」
「……お前もそう思うか」
ええ、まあ、と魔物隊長が頷く。あまり戦争に出ないハンティだが、その麾下に就くことになった魔物将軍はその光栄と言うべき役割を得て張り切ったものだ。
最強の使徒であるハンティは、やはり凄い。その強さも然ることながら、かなり接しやすい。戦っている最中はピリピリしていることもあるが、それくらいは上司として許容範囲だと思う。やはり魔人レオンハルトの使徒だけあって、かの御方にもかなり似ているようにも感じる。振る舞いなどを見ていると、それに近いものを感じるし、その下にいると彼女のために戦いたくなってくると魔物隊長は感じていた。
魔物将軍は吐息を漏らし、
「本当いいよな、ハンティ様……見た目も凛々しいし、気さくで飾らない。その上ちょっとお茶目なところもあって――」
「……あ、あの将軍?」
「それにあの衣装も良い。……いや、その部分に注目するのはアレかもしれないが、あのレオタードは良い。戦ってる時の下半身の動きを思わずガン見してしまう。私の眼では追いきれないのが残念で仕方ない……お前もそう思うだろう?」
「え、あの……わ、分からなくもないですが……」
「うむ、そうだろうそうだろう。この前なんてな。ちょっとしたことではあったんだが、歯を見せて屈託のない笑顔で笑うハンティ様を見て思わず……うむ、何だ……こんなことを言うのも何だが……思わず私のブツが
「…………ファンってことですか?」
「ファン……おお、そうだ。私は確かにハンティ様のファンと言える。……ならばファンクラブを作るか? レオンハルト様のファンクラブのようにハンティ様の魅力をもっと多くの魔物に知らしめるべく活動を――」
「……あ、あの……」
魔物隊長が遠慮がちに、そして引き気味に声を掛ける。
まさかちょっとした言葉からここまで饒舌になるとは思ってもいなかったのだ。実はこの二人はレオンハルト軍に入って僅か数年の新入りである。今回の戦争で初めて同じ部隊に配属された者同士であるため、人柄をそこまで知り得ていない。
なのでこんなアレな方だとは思っていなかったのだ。真面目で優秀な方に見えたのだが、
「――よし! そうと分かればさっさと戦争を終わらせられるようより一層励むぞ!」
「え? あ、はい。そうですね」
それはその通りだと思うので魔物隊長は頷く。
だが魔物将軍は魔物隊長を見て、手を肩に置くと、
「そしてお前の言う通り、ファンクラブを作るぞ!」
「…………は?」
思わぬ言葉が聞こえ、思わず上官に間の抜けた声で応答してしまう。なおも脳が理解を拒んでいるのか、その状態は続き、
「……が、頑張って下さい?」
一応、応援のような他人事のような言葉を告げると、魔物将軍は首を傾げ、
「? 何を言っている。お前も入るのだ。同士なのだろう?」
「え、いや――」
「うむ、大丈夫だ。分かるぞ。ファンクラブ活動など不安で仕方ないだろう。だが、ハンティ様のため、共に力を合わせて頑張っていこうではないか!」
そういうことじゃない、と言う前に魔物将軍が自分の胸を叩き、
「案ずるな。私が会長をやろう。お前は副会長だ」
「な!? そ、それは――!」
「うむ、一先ずは会員を増やすことから始めなくてはな。とはいえ勝手も解らぬし……ここはファンクラブ運営の先駆者であらせられるキャロル様に知恵を頂き――」
「ちょ、いや、魔物将軍!? 私は――」
「大丈夫だ! 何も言わずともよい! 全て私に任せておけ!」
「だから違――」
いつの間にかハンティ様ファンクラブの副会長に任命された魔物隊長は、この後何度も訂正を試みたが話を聞かない魔物将軍のゴリ押しと、部隊の指揮を行わなければならない、と有耶無耶にされて結局ファンクラブの会員として働くことになる。
何故かここに、新たなファンクラブが設立されたのだった。
「……? 何故か嫌な予感が……」
不意に悪寒が走り、ハンティは腕を押さえる。黒部の事だろうか、と思い、しかし目を細めると、
「……ま、あれも不死なら、いつか出会う機会はあるでしょ」
妖怪は不死の存在。ゆえに今回の戦争でもう戦うことが無かったとしても、いつかはまた相手をすることもあるかもしれないだろう。
それこそ自分が使徒で、彼が人間の味方をする限りは。
出来れば自分も、人間の味方もしたいんだけどな、と思いつつ、ハンティは思考からそのことを消し、
「急ぐ必要はないけど、急がないとね」
まずは自分と同じ使徒の様子でも確認しに行こう。レオンハルトは放っておいてもどうにかなることはないだろうし。
アドミラル空間内を徒歩で移動していたハンティは、ファンクラブの事に一切気が付かず、身内の元に急いだ。
次回はペールかな?