※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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前回の反動で今回は短め。前回の半分はこっちにいれればよかったかなって。これ以上遅くなるのはなぁって時は大体5000文字くらいで終わっちゃうけど、私的には最低7000文字前後は入れたいのよね
というどうでもいい事情は置いといて、本編どうぞ


魔人の秘術

 数日後。

 人類軍の前線拠点、その司令部は静寂に包まれていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 数日前に行ったばかりだというのに再びの突然の招集。しかし戦時中であるためそのことに不服を申す者はいない。解決出来るかや、それが無駄かどうかはさておいて、話し合うべき事柄はいくらでもあるのだ。

 しかし招集に駆けつけた各軍の重鎮達は部屋に入り、そこにやってきた者を見て――時が止まる。一瞬沸き立ちかけ、しかし正気に戻ったかのように疑念の目を上座に向け始めた。

 上座に座るその人物は周囲の無言の圧力を感じながらもゆっくりと、ややくぐもった声を発する。

 

「……今まで軍議に参加出来ずにすまなかった。だが、これからは顔を出すことにする。皆、安心してほしい」

 

 いや、安心出来ないんですけど。というか、顔出てないんですけど……、そう言葉に出来る者は皆無だった。

 上座に座るのは藤原石丸を名乗る人物。多分、石丸だと思われる人物だ。

 そうやって疑いをかけるのは無礼だが致し方ないだろう。

 全身、そして顔を甲冑で覆い隠していては無理ないことだ。

 

「……あ、あの……その鎧は……?」

 

 そんな中我慢できずに恐る恐る問いを投げた一人の男に、周囲は心の中で静かに称賛した。さすがに“貴方は本当に藤原石丸ですか?”と聞くわけにはいかない。もし本当に石丸だったら無礼過ぎる。

 そして疑いはあっても確信には至らない。というのも、

 

「む? ああ、これか? これはうちの家に代々伝わる由緒正しき鎧でな。祖先はこれを身に着けて戦場に出向いていたらしい。なので、俺もこれを身に着けようかとな」

 

「魔軍相手の戦争であればいい装備を身に着けるに越したことはないでありますからなぁ」

 

「左様ですか……」

 

 石丸と思わしき人物の言葉にミッチーが同意する。その声を聞いて男は引き下がるしかなかった。

 周囲の者達も何も言うことが出来ない。

 鎧の中から発せられる声、それは正しく石丸のものであったからだ。

 加えてミッチーを筆頭にした藤原家やJAPAN勢は一切動じることなくそれを当然のものと扱っている。何となく怪しいが、それでは通らない。

 はっきり言って影武者ではないのかと疑念を抱くが、にしては声も同じで、嘘をついている様子もないのだ。

 この場にいる者達の中には国のトップやそれに近い立場の者がたくさんいるが、様々な人間と関わり、その内面を見透かすことに長けるような老獪な人物にとっても影武者かどうかを見抜くことは出来ない。

 顔見せろ、と言えばそれまでなのだが――とそこまで考え、頭の回る者達は気づいた。だからこそ、余計な言葉が誰かから発せられる前に発言を行う。

 

「……なるほど。まあ、何にせよ石丸様がお戻りになられたのは良いことですな」

 

「うむ、このことを知れば兵の士気も上がり、民の不安も緩和されるでしょう」

 

 と、そこまで言ったところで殆どの者達が気づいた。

 今言ったことが答えだ。真実を明らかにする必要はない。“石丸”という名を自称する人物がいれば十分だと。

 人類軍の士気はドン底と言ってもよく、まともな戦いになるかどうかも怪しい。脱走兵も多く、それを止めることに奔走しているのが現状だ。

 その原因の一つである藤原石丸。彼が復帰したという報を大々的に知らしめればまたしばらく保つ。

 それでも姿が見えなければ真偽が疑われるが、顔を表さないとはいえ少なくとも声が同じであれば問題ない。殆どの兵はその声を知らずとも、知っている者達が本物の声だと信じてしまえばその噂は伝染する。本当に本物であれば問題ないのだが可能性は薄いだろう。であれば戦場にて戦うことは難しいかもしれないが、戦場にいるということが重要だ。実際に戦っているかどうかはそこまで問題にならない。

 それに魔軍相手と言えども藤原石丸の存在は脅威の筈だ。向こうは魔人レオンハルトという圧倒的な存在が控えているとはいえ、魔人ザビエルを倒した事実は耳に新しく、恐怖が無いと言えば嘘になるだろう。多少の効果はあるはず。

 これでもう少しの間は戦うことが出来る。時間稼ぎ、その場しのぎの策だが無いよりはマシだ。

 根本的な解決ともなっていない上に、この場面で影武者ともなればいよいよ石丸の復帰は絶望的かということにも気づいたが、石丸がいたところで魔人レオンハルトに勝てるかどうか。それを考えればいてもいなくても結果はあまり変わらないのかもしれない。

 藤原家に残った多くの大陸諸国の者達は残りはしたものの勝つことに目を向けてはいなかった。士気にも関わるためはっきりと負けると口にはしないが、頭の中では既に勝利が現実的に厳しいことを冷淡に捉えている。

 ゆえに彼らの目的は過程にこそある。即ち、魔軍をどれだけ疲弊させ、なおかつ如何に矛先を藤原家に向けさせるかだ。

 余力のある状態で魔軍を放置しては自国にも被害が拡散するかもしれないし、体裁も悪い。隣の家の火事を黙ってみているのはさすがに遺恨を残すし、良心が疑われるのだ。

 魔軍という名の火の勢いを弱めつつも、最終的には火元を離れ、その火を藤原家に押し付ける。頑張ったけどどうにもならなかったという枕詞でも付けてやれば完璧だ。火の粉が降りかからないように細心の注意を払う必要があるし、最終的には魔軍の機嫌次第ではあるが、数が減り、戦力が衰えれば自国がついでに狙われることはなくなるだろうし、仮に狙われても狙いが各国に分散されてくれれば被害も相対的に少なくなる。大陸諸国は共同戦線を張っていた。

 

「……そうだな。それは良いことだ」

 

「はい、石丸様のおかげでまだ戦えそうです」

 

 藤原家としても兵の士気を上げることが出来るので成果は大きい。実際そのために立てた影武者のはずだ。本物の石丸が復活するまでの時間稼ぎと考えるとこの策は有用である。それでも一ヶ月か二ヶ月程度が関の山だろうし、それまでに復活しなければ結局は負ける。出ても負けるだろうが、糸よりも細い勝利を掴まんとするなら最低限魔人を倒せる石丸がいなければ可能性はゼロだ。勝利を目標としている藤原家としては何が何でも石丸に復活してほしいところだろう。

 残った大陸諸国としても勝てるならそれに越したことはないが、国や軍のトップに就く者達としてはほぼあり得ない可能性に頼るよりは生き残るための最善の可能性を取るのが当然だ。

 

「で、あれば引き続き戦いのための準備をしなければなりませんな。現在の魔軍の動きは?」

 

「数日中に攻めてくる気配はありません。今はこちらとの前線に陣を築いているようですが……」

 

 その質問に斥候を担当している将がそう答える。また別の将が頷き、

 

「準備だけは着実に進んでいるな……この分だと次の戦は一週間前後となるか?」

 

「こちらを油断させるためかもしれません。数日中に攻めてくる可能性も見越して自分達も予測される地点へと布陣を――」

 

「今拠点としている場所とは少し距離があるからな。籠城することになっては堪らん、野戦の準備をするべきだ」

 

 と、再び藤原家とそれ以外の諸将達による軍議が始まる。藤原石丸がいるという状態であればやはり活気づくものだ。気づいている者からしても兵の士気が上がる見込みを得たのだ。動きやすいことに変わりはない。その中身が石丸ではないとしても、確証がなければそれは石丸として扱われる。

 緊張しているのは中身だけで、久々に軍議が円滑に進み、人類軍の兵士は石丸復活の報を聞いて僅かに希望を見出した。

 

 

 

 

 

 その夜、人類圏のとある場所では――。

 

「――これで最初の準備は出来た」

 

 黄土色の岩肌や石が転がるとある峡谷。入り組んだ地形や細い道が広がり、見晴らしの悪いその土地の中で、広場となっている場所。

 男の人影は屈んでその広場の地面を手で擦り、準備を終えたことを口にする。

 

「……確かにちょっと狡い」

 

 いやまあいいんだけどさ、ともう一人の女は同じ様に地面を見ながら口にした。続けて頭に浮かんだ疑問を単純に口にする。

 

「というか今まで使ってこなかったこれ使うくらいなら、もうあたしかあんたで奇襲したほうが早く終わるんじゃないの?」

 

「……早く終わらせるだけならそうだな」

 

 男は地面から手を離して立ち上がるとその赤い瞳を女に向けて質問に答える。

 

「俺やお前が単騎で襲撃し、大将の首を刈る――確かにそれが一番手っ取り早いだろう。特にお前は暗殺にはうってつけだからな」

 

「……出来ればやりたくないけどね。でもいざという時はあたしも覚悟出来てるよ」

 

 そう言う女に、だが、と男は言葉を区切り、

 

「それでは部下に悪い。戦い、戦果を持ち帰り、出世を望む者達にとって戦争はまたとない機会だ」

 

 戦争を望む部下達の分の戦功。それを奪ってしまうのは避けるべきだ、と男は言う。

 

「下の者の働く機会を奪うようなことを、上に立つ者はしてはならない。部下を上手く使うことも上司の役目だ」

 

 それに部下の成長機会を奪うことにもなる。上司が全てをやってしまうことは可能かもしれないが、それでは下の者達の存在意義が危ぶまれることにもなる。それを避けるために、こうするのだと。

 その言葉に女は得心したように頷いたが、やや半目で男を見ると、

 

「分かるけど……あんた、たまに一人で突っ込んで終わらせる時もあるじゃない」

 

 女の指摘に男は一瞬止まったが、ややあって息を入れると気を取り直したように続けた。

 

「……程々に、だ。目的によってはそういうこともある。()()()()()()なんかは特にな」

 

「……ま、そうだね」

 

 思い当たる節が自分にもあるのか、はたまた同じ想いを共有したことがあるのだろう、今度は女も指摘することはなく話題を流す。再び地面に描かれたものに目を向けると、

 

「これなら確かに安全に手早く勝てるもんね」

 

「そういうことだ。……さて、そろそろ始めるぞ。向こうに行って準備をするよう伝えてこい」

 

「……簡単に言ってくれるよね、結構面倒なのにさ――」

 

 と、女は若干嫌そうに言いつつもその場から一瞬にして消える。超常的な現象だが男に動じた様子はない。珍しいことではないからだ。

 そして約一分後、

 

「――伝えてきたよ。向こうの準備は万全だってさ」

 

 女が再び一瞬にしてその場に現れた。やはり男は動じず、直ぐ様準備に動こうと声を女に飛ばす。

 

「よし、なら魔法陣に手をかざせ」

 

「あいよ」

 

 と、二人は地面にあるもの――巨大な魔法陣に向かって手をかざす。女が男に向かって、

 

「というか、二人で大丈夫なの?」

 

「俺とお前の魔力なら問題ない。――やるぞ」

 

「ん――」

 

 男の声を合図に、二人は魔力を巨大な魔法陣に向かって注ぎ込む。

 

「――――」

 

 十分な魔力を注ぎ込み、男が声を発すると、夜闇の中にあってなお眩しく、目を閉じてしまうほどの光が魔法陣から発せられた。

 そしてその魔法陣の中に幾つもの輪郭が薄っすらと現れ、

 

「――――成功だ」

 

「……みたいだね」

 

 光が収まる頃には、男が目論んだ通りの結果が現れており、女も静かに瞠目する。

 地面に描かれた魔法陣の正体、男から教えられたその答えを、女は何気なく口にする。

 

「魔人の秘術と呼ばれるだけはあるね……この“転移魔法陣”」

 

「……まぁ、な」

 

 その男――魔人レオンハルトは使徒であるハンティの言葉に僅かに目を細めたが、そのことに対して特に何か言うこともなく淡々と次の作業に取り掛かった。

 




次回は即落ち二コマ劇場
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