※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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期間離れてたし、昨年前のあらすじ

ザビエル「ま、魔王様……! 我の扱いをぞんざいにしないで……!」

ナイチサ「うるさいですね……」ワイングビー

ザビエル「あ、あぁ~ッ!」

以下略。魔血魂イタイイタイなのだった
本編どうぞ(すみません)






死地

 それは年明けも近い冬の頃。

 人類軍と魔軍による本格的な交戦が行われようとしていた。

 人類軍は約90万――大敗戦を喫した第二次キナニ平野の戦いや幾度もの交戦を経て多数の死傷者や離散した大陸諸国の軍、更には脱走兵も合わせて開戦当初の半数以下となった数で魔軍を迎え撃たんとする。

 対する魔軍は少なく見積もっても人類軍の倍近くの兵数。士気も高いままであり人類軍の勝ち目は薄い。

 しかしそれでも、人類軍の士気はドン底の状態から脱していた。何故なら、

 

「おお……石丸様……!」

 

「今日は石丸様が付いていてくれるぞ……!」

 

 第二次キナニ平野の戦いで魔人に敗北してから一度も戦場に姿を表さなかった人類軍の大将――藤原石丸。

 彼が復活したという報が全軍に知らされたからだ。

 これにより決して高いとはいえないものの戦えるだけの士気は回復した。相手が魔軍とはいえ、石丸がいれば“もしかしたら”、という希望も考えられる。逆に言えば縋れるものがもはやそれしか残っていないとも言えるが、自己防衛のための現実逃避なのか、それをはっきりと声を大にして口にするものはいなかった。

 

「もうすぐ始まるな……」

 

「……ああ」

 

 開戦を前にして人類軍の本陣では遠くに見える魔物兵を見て息を呑む。

 その中心にいるのは藤原石丸――全身を覆い隠すような鎧を装備しているが、その声は確かに石丸のものだ。

 周囲には菅原ミッチーや側近の者達が身を固めており、時折何かを話し合っている。それは作戦のことであったり、別のことであったり色々だが、戦いは不意に始まった。

 

「っ! 魔軍が前進して来ます!」

 

 先に動いたのは魔軍。魔物将軍の指揮を受けた魔物兵達が人類軍に向かって歩みを進める。

 それに気づいた兵は声を上げ、指示を仰ぐ。魔軍の動きを見ながらも兵の声を聞いた菅原ミッチーは頷きつつも横に顔を向ける。

 

「来ましたな……石丸殿」

 

「うむ……総員、戦闘準備!」

 

「はっ!」

 

 石丸の声を聞いて本陣は一斉に動き始める。

 当初より少なくなったとはいえ大軍であることに変わりはない。総勢90万もの人の群は、総大将と参謀、各軍を纏める者の指示に従い、巨人が巨大な手足を動かすようにゆっくりと動き始める。一つ一つの動きは素早く、乱れの少ないものであり、戦闘を行うには十分な練度の高さであった。

 平原は多くの人、そして百万以上の魔物兵が近づいてきたことにより変化が生じていた。

 

「揺れてるな……」

 

「ああ、すげぇ数だ……」

 

 微細な地面の震動とともに魔物が距離を詰めつつあることを実感して喉を鳴らす。

 地平を埋め尽くすほどの魔物兵の大軍。この戦争が始まって何度も見る光景ではあるが、何度見ても慣れることはないし、慣れたとしても好きになることはあり得ない。

 感じるのは等しく恐怖や不安、先の戦いで敗北したことを思い出させる。

 だが身体の震えを抑えるように手に持った武器を構え、自分を奮い立たせる。

 大丈夫だ、こちらには石丸様もいる。直ぐに決着が着くことはない。持ち堪えていれば石丸様が敵の将達を討ち取って、形勢が変わるはずだ。そうなれば最初の戦いのようにこちらが優位に立って、逃げていく魔物を追討することが出来る。

 魔軍を敗走させた輝かしい過去の栄光を思い出して自分達を鼓舞する。自分達の大将を信じる。そうして覚悟を決め、戦いの準備を決めた時だ。

 

「……? おい、援軍が来るなんて聞いてたか?」

 

「は? いや、聞いてないが……どうしたんだ、急に」

 

 ふと、人類軍の最後方に位置する部隊の一人が同僚にそう問いかける。何を言ってるんだ、と同僚が顔を向けると問いかけてきた兵士は後方を指して言った。

 

「いや、なんか後ろから来てないか?」

 

「えっ……あ、本当だ。なんか来てるな」

 

 一緒になって背後を見てみれば地平の先から土煙とともに近づいてくる何かが見える。

 

「どこかの部隊が遅れてやってきたのか? それとも、逃げた奴等が帰ってきたのか――」

 

「何にせよ、人手が増えるならそれに越したことは――」

 

 と、呑気にそう話していた兵達の口が不意に止まる。

 最初は味方の援軍だと思って軽い気持ちであったが、徐々に近づいてくるに連れて彼らの顔から血の気が引き、心臓の鼓動が早さを増していく。

 まさか、何故、意味がわからない、という語句が頭を駆け巡り、それを実際に口にも出す。

 背後からやって来るもの、徐々に伝播するように兵達が気づいていくが、どうしてそこにいるのかは理解出来ない。

 ただ現実のものとして、彼らは半ば狂乱し、叫ぶようにその現実を口にした。

 

「ま、()()()()()()()――!」

 

 人類軍の背後には、前方と同じように地平を埋め尽くさんばかりの魔軍の姿があった。

 

 

 

 

 

「まずい……! っ、石丸殿、今直ぐ撤退を!」

 

 そのことを知った菅原ミッチーは、弾かれたようにそう叫ぶ。声の先は石丸。全軍の指揮こそ現参謀であるミッチーが務めるが、戦線を放棄しようというのだ、許可は必要である。

 石丸はそれを聞いてやや緊張したような雰囲気でミッチーに視線を向けると、

 

「……無理、なのか? それに、一体何が……」

 

「……小生にも解りません。解りません、が……」

 

 どうしてこんなことに、と信頼する参謀に向かって答えを求めるがその答えはミッチーにも分からない。周囲の諸将らも分からない。皆顔を青くして、自分達が死地にいることだけを理解していく。

 今の今まで西側に布陣していた魔軍が、こちらの後方にも現れるなど誰も予想出来ない事態であった。東側は人類の勢力圏内であり、魔軍の侵入は確認されていない。前線には防衛線も築いているし、哨戒だって密に行っている。数体、数十体程度の魔物ならともかく、あれほどの大軍の侵入に気づかないほどの間抜けはいないだろう。

 しかし現実に、魔軍は人類軍の背後に現れた。まるで逃げ道を塞ぐかのように。

 ミッチーは、一体何を見落としたのかと頭を回すが、思い当たる節はない。そして、考え込んでいる時間もない。

 このままでは皆、等しく屍をさらすことになるのだ。

 

「……! とにかく、ここから逃げねばなりません! 前後から挟まれて戦えば全滅するのも時間の問題であります!」

 

「そんな……!」

 

 石丸が驚愕したような、弱気な様子で呟く。明らかに様子がおかしかったが、魔軍に囲まれて死地にいるこの状況でパニックにならず、なおかつそれに気づき、指摘出来るものは皆無であった。

 ただ一人、ミッチーだけがその様子にやむを得ないと先んじて指示を出す。

 

「見るに、南側が一番包囲が薄いでありますな。軍を動かしてそちら側に突撃するのが苦肉の策でありましょう。後はしんがりでありますが――小生が受け持ちましょう」

 

 しんがりをやるのは自分だと、自ら名乗り出る。撤退戦の指揮を執る者に不安が残るかもしれないが、命をとして時間を稼ぐのに、自らは向いている。そう思ったが故のことだ。

 もっとも、残ろうが逃げようが生き残れる確率は限りなくゼロに近い。ミッチーの軍師としての頭脳は、人類軍の敗北、それも全軍が包囲され、全滅してしまうという結果をはじき出していた。

 だが、人類軍としての戦いの終結を感じ取っても一人の男、菅原ミッチーとしては諦めていない。

 

「っ、でも、それなら自分が――」

 

「良いですか、石丸殿」

 

 しかし石丸はミッチーのしんがりを認めようとせずに声を上げようとして、機先を制された。そのまま真っ直ぐ、鎧の奥にいる者に向かっての言葉を送る。

 

「しかし――」

 

「お聞きあれッ! 石丸殿!」

 

「っ……!」

 

 ミッチーの怒号に近い言葉を聞いて、石丸が怯む。初めてみるその剣幕に周囲も驚く中、ミッチーは静かに声を聞かせた。

 

「お聞きあれ、石丸殿。……良いですか、貴方が死ねば、本当に何もかも終わりなのです。石丸殿が再び剣を取ることも出来ません」

 

「…………」

 

 それは不思議な言い回しだったが、言葉を向けられている者にはその意味がよく理解出来た。

 そしてだからこそ、鎧の中にいる者はその想いを言葉に出来なかった。

 無言となり下を向く石丸に向かって、ミッチーは小さく笑って言う。

 

「――実は小生、石丸殿が嫌いでありました」

 

「……えっ?」

 

 その意外な言葉に間の抜けた声で反応する。ミッチーはその反応を聞いて、苦笑するように話を続けた。

 

「意外でありましたか? まあ、そうでありましょうな……何せ昔の事である上に、誰にも気取らせていなかった自信があります故」

 

「……どうして――」

 

 その問いに一息つき、ミッチーは何時も通り軽い調子で答えた。

 

「いやぁ、なんと言いますか……簡単に言えば“嫉妬”でありますな。幼い頃から大人よりも強く、頭も悪くない。それでいて伝統や格式を無視し、自分勝手にやりたいことをやる石丸殿が……妬ましかったのでありますよ」

 

 それはミッチーが今の今まで秘めていた心の内だ。石丸は知っているだろうが、それ以外で知っているものはいない。

 菅原ミッチーは幼い頃、菅原家というJAPANでも有数の名家で生まれ育った。幼き頃から勉学に明け暮れ、満足に遊ぶことも出来ない幼少期を送ってきたのだ。

 全ては菅原家という名家に相応しき人物になるためであり、そのためには自分の意志や私生活など無いも同然であり、ミッチー自身もそれに何の疑いも持っていなかった。

そんな時に現れたのが藤原石丸だ。

 彼は昔から悪童として有名で、藤原家という名家に生まれながらも好き勝手して過ごしていた。ミッチーにはそれが許せなかったのだ。

 加えて、とある名家のお姫様と仲が良かったのも幼きミッチーの心をざわつかせた。幼き頃は何度も思ったものだ。どうしてこのような奴が、周囲に好かれ、持て囃されるのかと。

 そのことに納得が出来なかったミッチーはある日、石丸を人気のない場所に呼び出した。

 

『貴様のような名家に生まれながら品格を下げ続ける無頼漢にはきついお灸を据えてやる。覚悟!』

 

 そのような建前を引っさげて石丸に一騎打ちを挑んだ。今にして思えば単純に気に入らなかったのだと、ミッチーは自覚出来るが幼い頃の自分には喧嘩を売る理由すら名家という肩書に縛られていた。

 石丸は大人に勝てるくらい強いとは聞いていたが、自分だって大人に勝てる。なればこそ、毎日厳しい修行を積んでいる自分が負けるはずがないと考えていた。

しかし、ミッチーは負けた。

 全く歯が立たなかった。こちらの剣は石丸に届かず、一瞬にして決着がついたのだ。

 その結果に、ミッチーは自身のプライドがずたずたになるのを感じた。

 最早、自分に価値などない。今までの努力は何だったのかと自分を追い詰めようとした。

 しかしそんな自分に石丸は言ったのだ。

 

『お前、中々強いではないか! 明日もやろうぞ!』

 

 呆然とした。

 言っている意味が理解出来ない。何故、そんなことを言うのか。

 だが固まるこちらを放って約束を取り付けると、石丸はさっさと屋敷に帰っていった。

 ようやく事態が飲み込めた後も、石丸への苦手意識は変わらなかった。なんか明日もどうだとか言っていたが最早関わる気もなかった。

 だが次の日、しれっと石丸は菅原家の屋敷にまでやってきて、嫌がる自分を引っ張って外に連れ出した。

 そうして同じく連れ回されていた春姫とも一緒に、石丸が行う無茶苦茶な事に付き合わされ、帰ってきた後に教育係の者にこっ酷く怒られた。

 次の日は付き合わんとしていたが、またしてもこちらを無理やり引っ張り回し石丸は無茶な事態にこちらを巻き込んだ。あまりにも無茶で向こう見ず、しかも春姫が不安そうにしているため仕方なく安全に終わらせようと学んでいた兵法から適当に策を出してやった。

 すると頼りにされ、また次も付き合わされ、再び策を練る。

 石丸は戦闘担当で、こっちは頭脳労働。春姫は癒やしだった。

 そうして最後には石丸の師匠でもあった坂上田村麻呂に怒られ、げんこつを落とされるのが気づけばお決まりとなっていた。

 周囲の者達からも素行についての評価が落ちていくのを悩みつつも、ミッチーはある日、石丸に尋ねたのだ。

 何故そのように好き勝手に振る舞えるのか。怖くないのか、と。

 すると石丸は笑って答えた。

 

『人生は一度きりであるからだ! やりたいことをやらねば勿体ないだろう!』

 

 そうして石丸は同時に夢を語った。

 世界最強の剣士になりたいだとか、世界征服したいだとかとんでもなくスケールのでかい夢であり、到底叶うとも思えなかったが、

 

『男の目指す頂点は高ければ高いほど良いだろう!』

 

 と言って聞かないばかりか、お前にも協力してもらうからな、と一方的に言い放った。

 その時だ。ミッチーは石丸の器の大きさに、敵わないと思い始めたのは。

 嫉妬が、羨望に変わったのは。

 何にも憚ることもなく自身の夢を堂々と追いかける石丸の凄さを感じ取り、同時に羨ましく思った。自分もこうなりたいと。伝統やしきたりに縛られるのではなく、自分のやりたいことをやってみたいと。

 

 そう思い――ミッチーは家を出た。

 

 名前を変え、見聞を広めるために世界を見て回るべく大陸を旅したのだ。

 そこには自分の知らないもので溢れていた。

 今まで書物の中でしか知らなかったものを実際に見ることも出来た。広く狭い屋敷の中にいては体験出来ないことをたくさん体験出来た。

 そうして世界を周り、ミッチーは石丸が何故あれだけはしゃぎまわり、夢を追いかけるのかを理解した。

 

 ――()()()()()

 

 解っているつもりで、解っていなかった。それを旅に出て、少し理解した。

 自分の内心に変化が生じた後、久し振りにJAPANに帰った。

 すると生まれてから今まで見てきたはずのものも違って見えた。

 良いところも悪いところも改めて実感出来た。

 幼い頃に口酸っぱく言われていた伝統やしきたりの美しさや意味を理解し、同時にJAPANが大陸諸国と比べてどうなのかという疑問の答えも出た。

 変えなければならない。

 今度は自分の意志でそうしたいと思い、改めて学問に時間を費やした。石丸や春姫と再会し、旅路に加わったのもその頃だ。

 戦乱に参加したり、地獄で鬼の宝を盗んだり、石丸が帝となったり、妖怪を配下にしたりと色んなことがあったものだ。

 頼光や月餅、黒部などの仲間も増えた。

 今にして思えば、月餅とは石丸を王にしたいという目標を共に掲げた同志であったなぁ、と思う。既に逝ってしまったが、今一度語り合いたかった。

 人類圏を統一し、魔軍と戦争し――大陸を制覇する夢に敗れても、ミッチーの胸には後悔はない。

 

 それに、まだもう一つの夢も残っているのだ。

 そのために、菅原ミッチーは石丸に成りすましている春姫に今生最後となる言葉を伝える。

 

「死ぬ気ですか……?」

 

 そんな演技も忘れたような言葉を掛けてくる。いくら声を陰陽術で変えているとは言えさすがにバレるだろう。

 とはいえ今更気にすることでもないな、とミッチーは笑みを作る。

 

「さて……生き残れるかは解りませんが、これが一番後のためとなるでありましょう」

 

「後のため……」

 

 そう。それはミッチーの夢でもある。

 

「生きて、石丸殿にもう一度――夢を見て欲しい」

 

「――――」

 

「それを見届ける役目は小生ではありません」

 

 ですが、と、

 

「そのための道を、小生が作りましょう」

 

 その結果、JAPANや人類を更に変えてしまうかもしれない。

 その夢の先を見ることが出来ないのは残念だが――

 

「では、お急ぎを。今ならまだ間に合いましょう」

 

「っ……わかっ……た……」

 

 春姫がこくりと小さく頷く。

 辛い選択をさせてすまないと思う。

 しかし彼女とて武家の娘だ。涙を流すことはない。

 ぐっと堪えて春姫は立ち上がる。そうして共回りの者達に連れられるようにして、

 

「……また、会おう」

 

「……ええ、また。次に会った時は、久し振りに三人で山にでも出かけましょうか」

 

「……そう、だな」

 

 石丸への演技を続けて頷く。だが、

 

「……吉祥丸さん」

 

「! っと、はは……懐かしい名前ですな。はい、何で御座いましょう?」

 

 不意打ち気味にそう呼ばれ、苦笑いを浮かべる。今の名前よりも二つ前――幼少期に春姫と出会った頃の名前だ。こちらも昔のように丁寧な口調で問い返す。

 すると春姫はこちらを真っ直ぐ見て、

 

「色々と――ありがとうございました」

 

 その言葉を最後に、春姫は本陣から去っていった。

 幾つもの人が亡くなり、また去っていった本陣の中でミッチーは小声で、

 

「……こちらこそ、感謝します。石丸殿や春姫様には夢を見させて貰いました」

 

 本当に楽しい日々だった、と自らの人生を振り返りながらも感謝を述べる。

 しかし、物思いに耽ってばかりでもいられない。こちらにはまだ仕事が残っているのだと、

 

「……随分と少なくなったな」

 

 突如、陣中に声が響いた。

 その声の持ち主にミッチーは静かに反応する。

 

「頼光殿ですか。……ちょうど良い、今から石丸殿を追いかけて撤退戦の援護をお願い出来ますかな?」

 

 片腕と片目を失った源頼光が陣幕をくぐり、仏頂面でこちらを見ていた。そしてそのお願いに頼光は鼻を鳴らすと、

 

「……援護は構わんが、わしは逃げるつもりはないぞ。貴様こそ、軍師らしくさっさと逃げたらどうだ?」

 

 その言葉はミッチーにとって意外でもなんでもない言葉だった。そして頼光なりに気を使ってもいるのだろう。だからこそ、ミッチーは溜息をつきつつも、

 

「……了解致しました。で、ありましたら小生とともに魔軍相手に玉砕して貰いますぞ」

 

 そう言うと頼光は破顔する。

 

「ふはっ、よくぞ言った。石丸様でないのは癪だが……貴様なら最期にわしと轡を並べて戦うのに申し分ない」

 

 微妙に上からの言葉にミッチーは微妙な表情で笑いつつ、

 

「偉そうでありますなぁ……しかし意外でもありますな。頼光殿は小生の事はあまり好きではないと思っておりましたが」

 

 武士としての誇りや面子を大事にする頼光は、ミッチーのような胡散臭い人物は苦手で、いつもぞんざいな扱いをしていた。

 しかし頼光は眉間にシワを寄せつつ目を背け、

 

「戯け。貴様の戯けた性格はともかく……仲間としてはとっくに認めておるわ。それこそ、二十年近く前からな」

 

 視線を外しながら言う頼光にミッチーは言葉もなく驚く。

 

「……そうでありますか。まあ、JAPANが誇る鬼姫が残ってくれるなど、これほど心強いものもありませんな。ちょうど見た目も鬼みたいになっておりますし」

 

「ぶっ殺すぞ。……だがまあ任せておけ。本物の鬼のように首だけになっても戦ってやるわい」

 

「期待しておりますぞ」

 

 と、二人は互いに不敵な笑みを浮かべあう。気が合わない二人でも、死地に於いては最期を共にする戦友にして仲間であった。

 そんな中、頼光はふと思い出したように声を上げ、

 

「そういや黒部はどうした?」

 

「ああ、黒部殿なら戦線を離れておりますよ。なんでも、“約束”を果たしに行くのだそうで」

 

「……ああ、なるほどな」

 

 答えに納得したのか頼光が頷く。丘の上からよく見れば遠く、南に抜け出ていこうとする集団がいる。おそらくそれだろうな、と当たりを付けながらもミッチーは補足として、

 

「まあ、ああなっては黒部殿に戦う義務はありませんからな。……とはいえ、春姫様を送り届けてくれる辺り、随分と義理堅くてお人好しの妖怪王でありますが……と」

 

 そろそろ始まるか、とミッチーは距離を詰めつつある魔軍の動きに顔を引き締める。

 頼光や残った将達も同じように身を引き締めて、相対する用意を整えた。ここは既に死地であることから、死ぬ覚悟すらも決める。

 前と後ろ、こちらを包囲するように軍を展開する魔軍に対して、人類軍は寡兵にして士気も低く、地の利も失った。

 

 最早唯一の希望を残すのみの人類軍。そんな中で、魔軍による人類軍殲滅作戦。

 そして希望を残すための撤退戦が幕を開けた。




キャロル「次回は転移魔法陣やらレオンハルト様の素晴らしい策などのネタバレですわ!」

ガルティア「文量によっては石丸だったり他の奴等の描写も入るかもだけどな。とはいえ、もうすぐで藤原家討伐も終わりか」

スラル「次回もお楽しみに!」
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