※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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藤原家討伐編が始まって一番株を上げたのコウウ説。
本編どうぞ


包囲網

 藤原石丸は、寒気を感じて再び意識を起こした。

 

「……ぐ……っ」

 

 屋敷の庭に大の字になったまま寝ていた。右手には剣が握られた状態のままである。

 そのことからやはり、修行中に疲労と睡魔が積み重なった結果、倒れるように寝てしまったのだろう。意識を失ったと言った方が正しいのかもしれないが、石丸としてはどちらでも変わりない。

 身を起こして再び手に力を込める。再び剣を振るためだ。

 疲労だけでなく腹も減り、肉体的にはボロボロの状態。本来であれば石丸を休ませていたはずの春姫の姿もなく、また、石丸もそのことに気が付かない。

 今の石丸は肉体よりも精神の方が重傷であった。

 

 だが、その自覚は石丸にはない。

 彼の中にあるのは“勝たなければ”という強迫観念だけだ。

 あの日、魔人レオンハルトに手も足も出ずに敗北し、しかし月餅のおかげで辛くも生き残ってから石丸はずっと剣の修業に明け暮れている。

 戦いの中で月餅が自分を庇って死亡し、坂上田村麻呂も戦死した。

 大勢の大切な者達が、あの戦いに負けたことで命を失ったのだ。

 自分を信じ、今までついてきてくれた者達の想いに、己は応えることが出来なかった。

 不甲斐ない――そう思う。

 己は今まで何をしてきたのか、無謀な挑戦を続けて無為に仲間を死なせてしまっただけなのではないか。そもそも最初からこんなことをしなければ良かったのではないか。だが、自分は帝であり、人類軍の総大将だ。諦めるわけにはいかないし、何としてでも強くならなければならない。魔人レオンハルトに勝てるくらいに。

 だが、己が勝てるとは思えない――この時の石丸の頭の中は、その堂々巡りをひたすらに繰り返していた。

 

「諦めてはならん……」

 

 覇気のない声でそう独り言を呟きつつ剣を振る。今の石丸にはその剣が以前の石丸と比べても、明らかに気が籠もっていないことにも気がつかない。

 技術的に多少の向上が見られても、多少では意味がない。

 修行を続けて一週間、未だ石丸の中には、“成長”という言葉が見えてこないのだ。

 原因は何だ、と石丸は自分に問いかける。

 しかし答えは出ない。以前であれば、剣のことであれば自然と答えが解る筈なのに。

 以前であれば、強敵の戦いを経験して、それ以上に強くなれる筈なのに、今はその実感もなく、ただただ緩い停滞が続いているように感じる。

 やはり、もっと身を削るような修行を行わなければ成長は出来ないのか。

 その最たるものが実戦。本気の死合の中で成長することが出来ると、石丸は思っている。

 しかし今は同時に、それを行っても意味などないのではないかという疑念も生まれている。そこまで考え、結局は、

 

「――っ!」

 

 剣を振る。

 苛立ちを、不安を、自分の中に生まれた負の感情をぶつけるように剣を振るう。

 その剣には成長も何もない。何かを掴まなければならないのにそこに新しい何かは生まれず、その事実にさらなる憤りを感じて叫びたくなるような衝動を剣にぶつける。修行ではなく行き場のない感情の発露として使われる剣は、以前のような鬼気迫る剣気の輝きを失っているようであった。

 自覚もなく、そのような剣を振るっていると、集中力が切れかけた石丸の耳に近づいてくるような足音と息遣いが聞こえた。そうしてしばらくすると、

 

「せ、石丸様! 大事で御座います!」

 

「…………」

 

 反応することこそ無かったが耳には届いていた。伝令だろう、若い武士の姿がそこにある。

 その顔は蒼白で、汗でびっしょりと濡れており、息遣いも乱れ、声も震えている。そこでようやく、石丸は嫌な気配を感じて武士の方に向き直った。

 

「……どうした。何かあったのか?」

 

「は、はっ……そ、それが――」

 

 ゆっくりと武士の報告が石丸の耳に届く。

 それは自分の心臓の鼓動が聴こえるほど静かで、視界の中の景色が歪んでしまいそうな衝撃を石丸は感じた。

 武士の放った言葉は慌てて焦燥しきっているにしては詳細かつ正確なものであったが、石丸には細かい部分は聞こえていなかった。

 ただ頭の中に反覆しているのは、はっきりと示されたその結果のみである。

 

 ――人類軍は魔軍に敗北し、全滅した。

 

 膝から崩れ落ちそうになるが、石丸は足に力を入れて踏ん張ることで耐える。

 しかし次の瞬間には駆け出していた。

 

「せ、石丸様の影武者を務めた春姫も、現在は生死不明で――って石丸様!? 何処に行かれ――」

 

 背後から掛けられる慌てるような声も無視し、石丸は屋敷を飛び出した。

 

 

 

 

 

 平原の西側。本来、人類軍と正面からぶつかり合うようにと予定通りに布陣した魔軍――総勢100万の軍勢は相手を包囲するように列を広げながら人類軍に向かって全速力で突っ込む。

 その先頭にいるのは一際大きな槍を掲げた魔物大将軍コウウだ。旧ザビエル軍の軍勢とレオンハルト軍の残りを率いているコウウは大声で配下に激を入れる。

 

「いいかテメェら!! この戦いで人間の兵は皆殺しにする! つまり戦争が終わるからな! 手柄立てる最後のチャンスだ! 精々気張りやがれ!」

 

「おおっ!」

 

「はっ!」

 

 旧ザビエル軍の魔物兵も残ったレオンハルト軍の魔物兵もコウウの激励に応答し声を上げる。気合の籠もった良い返事だ。士気は充分だな、と次に命令を下す。

 

「向こうは左右から囲まれてアホ面晒してやがる! その隙に殺しまくって、ついでに退路も塞ぐぞ! 魔物将軍! 隊を分けて波状しろ!」

 

「はっ、心得ております! 閣下はどちらへ?」

 

 副官の魔物将軍が頷きつつも問いを投げてくるのでコウウは即答した。

 

「馬ァ鹿! 俺は当然南だ! あっちは地獄だが、その地獄に辿り着く前に俺が全員殺してやらぁ!」

 

「……なるほど。了解致しました!」

 

 それは当然のことだ。敵の大将首を狙うコウウにとっては。何しろ、

 ……これで戦争が終わりなら最後に武功を立てねぇとな……!

 失態を犯した自分にとって最後のチャンスなのだ。それを逃す手はない。

 先の戦いで大物の首を取ったし、多数の将を殺してやったがまだ安心出来ない。万全を期すなら大きな武功を打ち立てるべきだ。

 だからこそ敵が逃げ込むであろう南側に行く。バカ正直に包囲の真ん中で戦う可能性もあるが、この状況であれば大将は逃げるはずだ。ならばそこを討てばいい。

 もっとも、南側は包囲の中心よりも死地に近いので、そこに辿り着く前に接敵して仕留めなければならないが……それくらいのリスクを飲む価値はあるとコウウは見た。どうでもいい兵隊を何千と殺すのも悪くないが数を稼ぐのは将を数人、数十人と殺してからでも遅くはない。

 槍を持つ手に力を込め、コウウは進行方向にいた人間を数十人程纏めて殺しながら、部下に聞こえるように大声で言う。

 

「おらおらテメェら! 包囲戦だぞ殺しまくれ! 殺せば殺すほど褒美は期待出来るぜ! 魔物隊長や魔物将軍にもなれるかもしんねぇぞ! だけどこっちの方が数は多いからなぁ! モタモタしてると殺し尽くされて美味しい人間がいなくなっちまうぜぇ!?」

 

「おおおお……!!」

 

 部下に発破をかけると、誰も彼もが得物を構えて咆哮する。人間を他ならぬ己の手で殺してやろうと轟々とした熱気が魔物兵達から立ち昇る。

 それを満足そうに確認し、コウウもまた叫んだ。

 

「うおおおおおらぁぁ!! 安全に殺してぇ奴は俺様について来い! 余りでいいならくれてやらぁ!!」

 

 

 

 

 

 平原西側。転移魔法陣にて転移し、奇襲を仕掛けるはレオンハルト軍の魔物兵、総勢四十万。

 東側に比べれば少ない上、人類軍の半分程の数だが、狭い渓谷の中に隠しておける数の限界や、時間の問題もあってこの数となったが、これでも充分な兵数だ。

 挟み撃ちにするなら総数が少なかろうがあまり問題にはならない。西側の魔軍を指揮する魔物大将軍リーは、戦場の地図を見ながらそう分析した。

 ……いつもながら、レオンハルト様の作戦には感心するばかりだ。

 少しは魔物大将軍としての仕事を残して置いてほしいものだが、と贅沢な悩みを思いもするが、しかし決して不満ではない。

 こちらを信頼してくれているが故に、総指揮を任せてくれているのだ。魔軍参謀である彼が実際に現場で細かい指揮を執ることは少ない。

 いつも大まかな作戦や方向性だけ決めて、後はこうしろ、ああしろ、と言って実際にどうそこまで持っていくか等の細かい方策はこちらや魔物将軍達に任せる。

 そして結果さえ出せば独自の工夫や突出であっても認めてくれるのだ。

 大体は彼の作戦に穴がないため、あまり工夫することも少ないが、使徒の方々等は作戦を知った上で独自に動いて結果を出してくることが多い。

 実力のある者達だけが出来る一種のスタンドプレーであり、そういった環境が兵達を活き活きとさせているのだと思う。魔物隊長や魔物将軍らも良いアイデアを出してくれたりする。

 なのでリーがやるのは全体の管理や調整が主な仕事だ。レオンハルトや使徒の方々の方針、動きに合わせて軍の動きを調整し、魔物将軍達から上がってくる意見などを纏めたりもする。具体的な動きが決まれば後はそれを眺めつつも、戦場で起きた微妙なズレをその都度調整し、何かあれば指示を仰ぐ。

 上の立場の方と下の立場の者との板挟みになるような役目だが、リーはこの仕事に誇りを持っていた。

 どれだけ地味と言われようが堅実に、組織の運営が正常に働くよう歯車を調整し続ける。

 自分のやることが少ない時ほど、組織の運営が上手くいっていたり、現場の状態が良いということだ。言うことがないというのは何も問題がないということ。好ましい状態だ。

 それに全くやることがない、というわけではない。それならそれで上位の方々の補佐に回ったり、部下の事を気にかけたりなどやれることは幾らでもある。

 

「左翼での抵抗が少し激しいようにも感じるな……」

 

 戦場の報告を受けたリーは静かにそう呟く。それを耳にした副官の魔物将軍は考えるような仕草を見せつつ、

 

「どう致しましょう?」

 

「……問題はないかもしれないが、念の為ここの兵を少し増援に回してみるか?」

 

「良い案かと思われます。では、直ぐに」

 

 余裕のある場所から兵を回して、不測の事態が起こらないように配慮する。副官も賛同してくれたようであり、直ぐ様部隊毎動き始めた。

 さて、とそれを尻目にリーは戦場を見渡して、

 

「不安要素があるとすれば敵の将ではあるが……レオンハルト様や使徒の方々であれば問題ないだろう」

 

 多少兵を敵将に蹴散らされたところで包囲した時点で負けることはあり得ない。150万近い兵数に包囲されては敗北は必至。それこそレオンハルト程突出した強さが無ければ覆すのは不可能だ。

 包囲の薄い南側に逃げる可能性もほぼ無いと言っていい。なんなら、一番包囲の厚い場所といっても過言ではないからだ。

 

「後は総大将がいることを願うのみだな」

 

 長いようで短かった戦争もそれで終わることが出来る。戦後に面倒を残したくはないな、と確実に人類軍を殲滅するべくリーは細かく指示をし続けるのであった。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 藤原石丸――の影武者として鎧を身に着けた春姫は少数精鋭の部隊に囲まれながらも包囲網からの脱出を試みていた。背後から追いかけてくる魔物兵から逃げようとひたすらに走り、誰もが身体の何処かに傷を負っている。

 しかしここにいるのはそれなりの腕を持つ者達、幸運も手伝ってか今はまだ誰一人脱落者を出すことなく順調に逃げ延びようとしていた。

 また春姫もそれなりの実力を持っており、いざとなれば戦うことだって出来る。逃げることを優先としているのと周囲に守られているため戦うことはないが。

 しんがりとして残った菅原ミッチーや源頼光らの必死の抵抗も手伝ってか追ってくる者も少ない。彼らの犠牲を無駄にしないためにも、春姫はなんとしてもここから生きて逃げ延びなければと足を動かした。

 だが、不意に背後から大声が聞こえ、突如地面に衝撃が走った。

 

「――よぉし! 見つけたぜクソ人間共!!」

 

「っ! あれは……魔物大将軍……!」

 

 将の一人がその姿を見て表情を歪める。巨大な槍をぶん投げて地面を抉りながらも数人を肉片にして殺した魔物大将軍コウウ。坂上田村麻呂をその武勇でもって殺した怪物が背後に迫ってきていた。

 

「早くお逃げを! ここは我々が食い止めます!」

 

「っ……」

 

 後方にいた何人かの武将が刀を抜いてコウウの前に立ち塞がる。全ては春姫を逃がすため。決死の覚悟で怪物に挑む。

 その覚悟を受け取り、春姫は振り返ることなく走る。

 

「はは! 雑魚の人間共が! 全員俺の手柄にしてやらあぁぁ!」

 

「――――」

 

 しかし次の瞬間、背後から嫌な音とともに彼らの声は聞こえなくなった。

一瞬で玉砕した彼らだが、少し距離を稼ぐことは出来る。直ぐにコウウが追い付いてくるが、

 

「これより先には行かせん……!」

 

「この命と引き換えに貴様に少しでも……!」

 

 次々と追撃を行ってくるコウウを足止めしようと武将たちが足を止めて迎え撃たんと刀を抜く。

 

「テメェら如きが勝てるわけねぇだろうがよぉ!」

 

 次の瞬間には容赦なく物言わぬ屍となる。

 人間の中ではそれなりの実力を持つ彼らも、残酷なことに、大将軍最強とも称されるコウウには敵わない。ほんの少しの時間稼ぎにしかならないのだ。

 しかし、

 

「お逃げ下さい……!」

 

「我らのことはお忘れを!」

 

「っ……皆さん……!」

 

 誰も彼もが、そのことを解っていながら、躊躇うことなく死地へと身を投じていく。ほんの少しの時間稼ぎ、一秒でも一瞬でも時間を稼げるならそれで構わないと。

 大将を守るために一人ずつ捨て石となるべくコウウに突撃していく。

 だがコウウも諦めることはない。距離を稼がれつつも大声を上げながら追い縋ってくる。

 

「クソうぜえ! こんなことしても無駄だと解らねぇかぁ!? 誰一人として逃さねぇぞ!!」

 

 さすがに鬱陶しく感じ始めたのはイライラした様子で逃げる者達を睨むコウウ。その手も足も止まることなく動いているが、さすがに距離が離れてきた。

 

「もうすぐで包囲を抜けられます……!」

 

 春姫の近くにいた武将がそう口にする。コウウの足止めのために少しずつ減っていき、背後から聞こえていた凄まじい音がどんどん遠ざかる。残った者達も僅か数人程度となったが、その甲斐あってか何とか包囲網を抜けられそうであった。

 だがその希望が見えかけた時、突如として前方から声が飛んだ。

 

「――残念だが、行き止まりだ」

 

「っ!?」

 

 声と同時に、地面に斬撃の線が走った。

 衝撃に足を止めざるを得なかったが、再度足を動かすことも出来なかったのは前方に立ち塞がる存在のせいだ。

 

「逃げる可能性は低いかと思っていたが……どうやらここで待っていて正解だったか」

 

「魔人……レオンハルト……!」

 

 周囲の空気が重くなるほどの圧倒的な存在感を発しながらそこに立つのは敵の総大将でもある金髪灼眼の魔人――レオンハルト。

 その手に持った魔剣から剣気を立ち昇らせながら、彼は逃げ延びようとする一行をその鋭い視線で捉えた。

 そしてその中心は、レオンハルトの目当てでもある総大将――藤原石丸の姿だが、

 

「……だが、石丸には見えないな。何だお前は」

 

「…………っ」

 

 何かを感じ取ったのだろう、レオンハルトは藤原石丸の振りをしている春姫を見て怪訝そうに眉間にシワを寄せる。怪しんでいることを悟った春姫が意を決して、

 

「……久し振りだな」

 

 と、石丸をイメージして声を発する。

 声は石丸と同じだ。鎧にミッチーの陰陽術を掛けただけであるが、見抜くことは至難のはずだが、

 

「……声は同じだが随分と弱々しい気だな。折れた、というのは本当だったか?」

 

 だがまあ、とレオンハルトは一度息を入れ、

 

「――確かめてみれば分かることか」

 

「くっ! やる気か……!」

 

 それだけで屈してしまいそうな戦意を発してくるレオンハルトに、春姫らも応戦しようと得物を抜く。

 しかし、誰もが次の瞬間、無謀であったことを改めて悟った。

 

「え……あっ――!」

 

 刹那、春姫を守らんと刀を抜いた者達は一人残らず首を刎ねられた。

 戦いにすらならない。一瞬の出来事。路傍の石を取り除くように何の感慨もなく彼らを殺したレオンハルトはいつの間にか剣を収めたのか、手ぶらの状態のままゆっくりと春姫に近づいた。

 

「さて……この時点で石丸ではないだろうが……」

 

「ぐっ、あ……!」

 

 石丸であれば対応も可能であったと暗にそう言うレオンハルトが溜息を吐きながら春姫との距離を詰める。

 春姫の手を素早く取り、関節を極めるようにレオンハルトは背後に移動すると痛みで苦悶の声を漏らした。

 これほどに魔人とは桁違いなのか、と春姫は改めてその強さを思い知る。

 そして同時に、これと戦闘になっていた石丸の凄まじさも改めて分かった。

 そんな中、レオンハルトは春姫の鎧――兜を外して中身を確認する。

 

「…………お前は――」

 

「くっ、離して、下さい……!」

 

 春姫の姿を見て何故か僅かに眉をひそめたレオンハルト。その間にも春姫は必死に逃げ出そうと力を込めるが、魔人の膂力に人間が敵うはずもなく、レオンハルトはびくともしない。

 少しの間、レオンハルトは春姫の顔をじっと見ていたが、僅かに頭を振った後、続く声を放った。

 

「お前は……石丸の縁者か何かか?」

 

「っ……」

 

 どうしてそれを、と思ったが春姫は答えなかった。しかしレオンハルトにはその反応で充分のようで、

 

「なるほど……石丸の女か」

 

「……違い、ます」

 

 そうだと言って足手まといにはなりたくない。だからこそ否定したくはなかったが否定した。しかしこちらの返答など意にも介していないのか、レオンハルトは考え込むようにしばらく無言となった。

 

「はぁ、ようやく追い付い――」

 

 と、そこに足止めを突破して追い付いてきたコウウがこちらを見て言葉を止める。そして直ぐ様態度を豹変させ、

 

「れ、レオンハルト様ではありませんか!」

 

「……コウウか」

 

「はっ、コウウであります! 何かありましたら何なりとご命令を!」

 

 先程人間を追っていた時とは違い、怯えたように丁寧に接するコウウ。春姫は心の中で微妙に思ったが、レオンハルトは特に何か言うこともなく、

 

「……どうやら藤原石丸は戦場にはいないらしい」

 

「そ……そうでありましたか。であれば如何致します? 察するに、その女が影武者であったようですが……」

 

 春姫の鎧を見てコウウも気づく。レオンハルトは、ああ、と応答しつつも少し考えるように目を細め、

 

「……とりあえず、戦いを終わらせるぞ。石丸についてだが……そうだな。この女を――」

 

 と、声を途中で止めたレオンハルトにコウウが頭に疑問符を浮かべたが、少しして同じように反応して槍を構えた。

 レオンハルトらの正面、戦場に吹き荒れる土煙の中から大きな黒い影が現れたが、

 

「見えてんだよボケがぁ!」

 

「っ!」

 

 コウウが奇襲に反応し手に持った槍で黒い影の攻撃を弾く。そうして姿を現したが、その影に反応したのはレオンハルト達だけでなく、春姫もであった。

 当然だがその姿にはよく見覚えがあり、声を上げる。

 鋭い爪と牙を血で染めて近づいてくるのは石丸がこの場にいない今、人類軍の最大戦力である――

 

「――悪いがそいつをやらせるわけにはいかねぇ!」

 

「黒部さん……!」

 

 妖怪王黒部が、唸り声を上げてレオンハルトらの前に立ちはだかった。

 




連載シリーズ「こんな魔軍は嫌だ」

・魔軍が会社だったら

レオンハルト「……何だこれ?」

スラル(社長)「時代はお金儲け。ビジネスの時代よ。経済で平和的に人間を支配するわ。とりあえず社長は私で、レオンハルトは副社長ね」

レオンハルト(副社長)「色々とツッコミたいが……ビジネスって言っても何をするんだ?」

ケッセルリンク(専務)「……平和なのは良いことだな」

ガルティア(常務)「デカ盛りを売りにしたメシ屋でもやろうぜ」

キャロル(副社長秘書)「レオンハルト様グッズを開発しますわ!」

リー(部長)「普段とやってること変わらないのでは……?」

スラル「とりあえず全部やるし、値段も全部10GOLDくらいにしましょう!」

レオンハルト「安すぎるだろ」

スラル「大丈夫よ! だって魔軍を動かせば原価ゼロだし! 給料もいらないわ!」

レオンハルト「……さすがにそれは――」

魔物将軍(課長)「大変ですま――社長!」

スラル「何? どうしたの?」

魔物将軍「買収されました!」

スラル「…………何ですって!?」

レオンハルト「というか株式だったのかよ。ちなみにどこに買収されたんだ?」

魔物将軍「はっ……ドット商会であります!」

レオンハルト「あー、あれか……ちなみに何か言ってきたか? 経営方針とか」

魔物将軍「それが……社長を解任し新しい社長を付けると……」

スラル「」

レオンハルト「魔軍、終わったな……」

終わり

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