というわけで本編どうぞ
「妖怪王黒部か。女を助けるために姿を見せたのはご立派だが、些か無謀過ぎるな」
「無謀だとかそんなこたぁ知ったこっちゃねぇよ……!」
魔人レオンハルトの冷たい視線と呆れるような言葉に黒部は知ったことではないと突っぱねる。
血に濡れた爪と牙はここに来るまでに遭遇した魔物兵の血だ。中には魔物隊長や魔物将軍のものもある。怪しく煌めかせた爪を魔人に向かって叩きつけるように振るおうとする。しかし、
「おいこら俺様を無視してんじゃねぇ!」
「っ、邪魔だ!」
直前でコウウの槍によって防がれる。火花が散り、巨大な力がぶつかり合った衝撃で風が吹くが、力量はほぼ互角。お互い弾かれるように距離を取るも、黒部は迷うことなく突き進んだ。
「駄目です、黒部さん……! 逃げて下さい……!」
春姫がレオンハルトに捕らえられながらも、前につんのめるようにして表情を歪めながら叫ぶ。魔物大将軍コウウと魔人レオンハルト。一対一でも厳しい相手が二体。さすがの黒部も敵うはずがない。
だが黒部は諦めようとはしなかった。
「うるせぇ! それくらいやんねぇとあの馬鹿に合わせる顔がねぇんだよ……!」
「……!」
黒部が呼ぶあの馬鹿とは石丸のことに他ならない。それを感じ取り春姫は言うべき言葉を見失う。
しかしその間にも黒部は厳しい状況に陥ろうとしていた。
「いたぞ……!」
「くそっ、手こずらせやがって……!」
戦場に魔物兵がどんどんと集まってくる。黒部を追っていた部隊であり、彼らは黒部を囲むように集まり始める。
それを見てレオンハルトは考えた上でこう言った。コウウに視線を向け、
「この分だと俺が相手をするまでも無さそうだが……コウウ」
「はっ、何で御座いましょう!?」
黒部との戦闘を継続しながらコウウが声だけで応じる。レオンハルトは間を置いて、
「そいつには“役目”がある。瀕死にまで追い詰めたら解放してやれ」
「!? レオンハルト様、それは……ぐっ!」
予想外の命令に動揺したのか、僅かに押されるコウウ。だが押している黒部の方もその発言に眉をひそめた。
どういうことだ、と言外に問いかけてくる黒部に答えるようにレオンハルトはそれを告げた。
「この女は人質だ。返して欲しければ俺の前に姿を現せ。――そう石丸に伝えろ」
「っ! テメェ……!」
春姫を指して言うレオンハルトに黒部は殺気とともに魔人を睨む。常人であればそれだけで身が竦むような威圧も、それ以上の恐怖かつ圧倒的な存在である魔人には届かない。
涼しげにそれを流したレオンハルトは黒部に背を向ける。春姫を連れた状態でだ。そうして背中越しに通告する。
「期限は定めないが……出来るだけ早くした方が懸命だな。遅ければどのみち、虱潰しに探すことになる。女の命も保証しない」
逃げられるとは思わないことだ、とレオンハルトは黒部に伝えると続けてコウウに向かって、
「そういうことだ、コウウ。お前一人でも充分だろうが、しぶといようなら数で当たれ。多少手荒にしても妖怪は死ぬことはない」
「……畏まりました!」
「俺は一度本陣に戻ってから戦場に出る。後で様子を見に来るが――それまでには終わらせろ」
それは遠回しに、戦功を得る最後のチャンスだと言うことだ。レオンハルトが春姫を置いて戦場に出てくるまで。包囲している兵を殲滅するまでの時間が期限。あまりにも遅いようであれば彼直々に終わらせるのだろう。
「……必ずや、ご期待に応えて見せます……!」
だがそれは、コウウにとっては無能の烙印を押されたに等しい。レオンハルトは黒部の実力も感じ取った上でコウウの戦功を欲する願いを汲み取ったからこそコウウに任せることにした。加えて、見立てでは負けることはないだろうがそれなりにいい勝負をするだろうと思っているので、間に合わなかったとしても失望するようなことはないだろう。
しかし、これだけ有利な状況で相手を倒せないようでは自身の未来は明るくない。文字通り首を切られる羽目になる可能性もあるのだ。
ゆえにコウウはレオンハルトが去った後で、周囲の魔物兵に命令を下す。
「くそったれが! 待ちやがれ!」
「おおっと、行かせねぇよ! ……よしテメェら! 俺の援護をしやがれ!」
「はっ!」
レオンハルトの言葉は一部、周囲の魔物兵にも聞こえていたこともあって自然にコウウに加勢する。
黒部は周囲一帯を魔物兵に囲まれながらも、レオンハルトを追いかけようとした。だがその行く手を阻むコウウと魔軍に怒りを隠すことなく黒部は吼える。
「上等だ! 邪魔する奴は全員噛み殺してやらぁ! 掛かってきやがれッ――!」
「っ、うざってぇ犬っころがよぉ……そんなにズタボロにされてぇなら望み通りしてやるよ! おら、やっちまうぞテメェら!」
「おお!」
集まってきた数千の魔物兵と魔物大将軍コウウ。その中心で怒りの吼える黒部の声がかき消されようとしていた。
……これで、一先ずの区切りか。
魔人レオンハルトは、平原で包囲され、徐々に数を減らしていく人の群れを見て内心呟いた。
包囲は完了し、一兵たりとも逃げる隙間はない。後一時間もしない内に向こうは満足に応戦することも出来なくなり、文字通り数の暴力に押し潰されることになるだろう。
たった数時間で百万近い人間が死ぬ。それを成した自分の手腕は恐らく誇るべきなのだろうな、とレオンハルトは息をつく。
己は己の立場から見て最善の行動を取っているに過ぎない。今更後悔も憂いもないが、それでもこれだけの数の人間が死ぬともなると思う所が無いわけではない。
もう少し犠牲を減らすことも可能だったかもしれない、と一度だけ思案するのみだ。
しかしその考えは直ぐに掻き消す。終わったことを考えるのは反省の一度だけだ。自身の行動を振り返ることで、次により良い結果を生むことにも繋がる。
とはいえ完全に終わったわけではないのだから気が早い。戦争は終わりだが、やるべき仕事はまだ残っている。そのために、この女を生かしたのだ。
「……お前の名は?」
「…………春、です……」
桃色の髪の女性――春と名乗った石丸の女。打ちひしがれたようにか細い声だが、答える余裕は一応あるらしい。加えて軽くこちらを咎めるような強い視線を向けてくる。流石は、と言うべきか。強い意志を秘めた目だ。
「後悔……しますよ」
「……何?」
まさかそっちから声を掛けてくるとは思わなかったとも思いつつ、レオンハルトは訝しげに言葉の意味を問うと、
「石丸様は、必ず立ち上がります」
「……それで俺を倒すと?」
「石丸様は、私に……皆に、夢を見せてくれると約束しました」
「……ほう」
感心するように薄い笑みを浮かべる。石丸のことではなく、この女に対してだ。
「随分と強気だな。俺が怖くないのか?」
「……恐れていますよ。ただ、それを表に出すほど軟な育ち方はしていませんし、声を上げたところでどうにかなるわけでもありません」
確かにそうかもしれないが、普通は助かろうと形振り構わず泣き叫び、命乞いをするものだ。余程屈折した生い立ちでも無い限り、育ち方程度で恐怖心がどうにかなるはずもない。
だが、それに、と続く言葉をレオンハルトは聞いた。
「私は、石丸様を信じていますから」
「……そうか」
なるほどな、と得心する。単純だがそれが原因かと。
確かにあれほどの男ならそれに縋れるのも理解出来る。だが、
……奴が現れるかどうかは半々と言ったところか。
おそらく石丸の大切な女だろうと春姫を人質にしたのはいいが、それでも一度折った相手が再び現れるかは微妙なところであるとレオンハルトは感じていた。
なのでそうは言いつつもレオンハルトは先程黒部に言ったように、どの道石丸を探すことになるだろうと見ていた。現れればそれでいいが、現れなければこちらから探す。奴を殺すまでは終われないし、
そして、そのための手段に黒部や春姫を使うあたり、自分はまだ石丸に期待したいとも思っているのだと自覚する。少々遠回しな手段ではあるが、目論見が外れたところでデメリットも少ない。
ゆえに期待も込みで半々。戦争が終わったことで絶望する可能性の方が高いが、それならそれで当初考えていた通りに探し出してから殺すだけだ。幸い、手段を選ばなければ探すこと自体は難しいことではない。出来ればその手段は取りたくはないが、必要とあらば行うことにもなる。
だからこそ、レオンハルトとしても思うのだ。
「……後悔させてほしいものだ」
後悔するほどの戦いであれば、自分も熱くなれる。戦争が終わった後であれば好きにすることが出来るからな、とレオンハルトは僅かに期待して最後の仕事に望むことにした。
魔物兵が人間を置い囲んで殺す中。
ある戦場には、一人の“鬼”がいた。
「おおおおおおおおおぉぉぉ!!」
「ひぃ! がっ――」
咆哮を上げて刀で魔物兵の頭部を斬り裂く。
「ひ、怯むな! 相手はたった一人だぞ!」
「し、しかし……!」
戸惑う魔物兵の隙を突いて、鬼は刀を投げて魔物兵を突き殺す。
既に何百、ひょっとしたら千もとうに越えているかもしれない。斬り過ぎてボロボロになった刀を捨てて地面に落ちていた味方の置き土産である刀を抜いて魔物を殺す。
「があああああああっ!」
「ば、化け物……!」
そこでたった一人で戦うのはJAPANの“鬼姫”――源頼光だ。
彼女は死地と化した戦場で未だ抵抗を続けていた。
味方は全員死に絶えた。戦場の何処かでは生き残っている者も少しはいるかもしれないが、いたとしても殺されるのは時間の問題だ。
だがそれでも頼光は一人で戦い続けた。
その戦いっぷりは凄まじく、数の上で勝るはずの魔物兵が怯えて後退りしてしまうほど。それも手伝ってか彼女は魔物の首を狩り続ける。
……あと、どれくらい戦える……?
自分に問いかけてみるが答えは出ない。何故なら、とうに限界は越えているからだ。
とっくに身体の感覚は無いに等しい。頼光を支えているのはただの気合だ。
そして雑兵であれば幾らでも殺してやるとも思う。痛みも何もない今はそんなことを考えられるだけの余裕があった。
だがそれも、やがて終わる。思ったよりも早く、終わりの時間は来たのだ。
「――確かに、これは凄まじい」
「れ、レオンハルト様!」
「……!」
その戦場に魔人レオンハルトが現れ、周囲は僅かにざわつき出す。頼光から見てまだ距離はあるが、その一つしかない目ははっきりと遠く、魔物将軍の近くにいる魔人を捉えていた。
「っ、おおおおおぉぉ――!!」
確認した次の瞬間、頼光は一片の迷いもなくそちらに向かって駆ける。途中の魔物兵も殺しながら。そして向こうも、近づこうとするこちらに気づいた。
「……とはいえ虫の息か。遠くから魔法でも撃てば死ぬだろう」
「はっ、そのように。――魔法を放て!」
魔物将軍の号令とともに魔法の密度が上がった。
左肩が砕け、右脚が炎に包まれた。
しかし速度を一切落とすこと無く頼光は突っ込んだ。
……諦めて、たまるか……!
視界の奥に倒すべき相手。敵の総大将がいる。じっと指を咥えて待つのは源氏の武士の名折れだ。
大将の元には行かせないと道を阻む魔物兵を、頼光は突き刺すようにして突破した。
だがその隙に、左半身はほぼ消えた。
バランスを崩しそうになりながらも、頼光は右脚一本で跳躍し、魔人に向かっていった。
右の刀で魔物兵を殺し、しかし腹に幾つか突き刺された。血が喉から溢れそうになるのを堪え、前に進んだ。
だが今度は右半身も穿たれた。あと僅かなところで身体が倒れそうになり、しかし、
……まだ、行ける……!
足も無くなり、腕も無くなり、刀を失った。誰がどう見ても戦えないとい状況で、しかし諦めないのは脳裏の浮かぶ男のためだ。
……石丸様……!
二十年程前に出会い、助けてもらい、愛した相手を想う。彼には色んなものを与えてもらったのだ。
特に彼が掲げる夢に、頼光は憧れた。興奮した。眩しいものを見た。
かつて何もかもを諦め、武士として生きることを決めた自分を勇気づけたのだ。
だからこそ、頼光は諦めない。憧れた石丸のように。
一つとなった視界の中に、魔人の姿がある。もはや消えゆく命の中、殺到する魔物の攻撃を受けて首だけとなった頼光は、それでも食らいつくように行った。
そこでようやく魔人は動く。
魔人が空間から剣を取り出した。それを見ていながらも、頼光は叫び、突撃した。
「その首……貰い受ける……ッ!」
そして次の瞬間、頼光の頭部は魔人の剣に両断された。
魔剣を振り下ろし、最後の一兵を斬り捨てたレオンハルトは地面に落ちた女の頭部を見た。
「……JAPANの女は恐ろしいな」
「は……? ひっ!」
魔物将軍が同じ様に視線を下に向けると、そこにはなおもレオンハルトに攻撃を加えようとしたであろう女の首が足元にあった。
噛み付いてやろうとでもしたのだろう、既に死んで動かなくなっているが魔物将軍が恐怖するのも無理はない。
とはいえこれで終わりだと、レオンハルトは首を無視して踵を返した。魔剣も収め、周囲を見渡す。
平原には数えきれないほどの人間の死体があった。赤に染まった大地の上で、レオンハルトは言う。それは魔軍の完全勝利を表すもので、
「一先ず、戦争は終わりだ」
だが顔は東を見ている。その先にいるであろう大将首の事を思い、
「勝鬨を上げろ。――俺達の勝利だ」
天まで響かせるような魔物兵の勝鬨の声を耳にしながら、レオンハルトは戦場を後にした。
そうして、人類軍は魔軍に包囲殲滅され、僅かに残った残党もほぼ全て駆逐され魔軍の勝利で終わったのである。
夜。
無人の荒野を行く人影があった。
「……!」
屋敷を出て着の身着のままで駆けるのは藤原石丸。人類軍の総大将だ。
しかし今はそうであった、というのが的確な表現だろう。
何しろ人類軍は魔軍によって駆逐されてしまっているのだから。石丸が率いるべき者達の姿はもう何処にもない。
だが、それでも石丸は走り続けた。
それは偏に、自身の大切な存在のためであった。
既にこの世にはいないかもしれない。そもそも今更石丸が駆けつけたところで出来ることがあるのかは甚だ疑問だ。今更彼一人がやってきたところで守るべき存在はいない。守りたいなら最初から戦場に出ていくべきであった。
しかし石丸は心の中で諦めた。己が目指すべき存在、最強の剣士である魔人レオンハルトには勝てないと。自覚こそなかったが、心の奥底では到底敵わないと認めてしまっていた。
だが走る。駆ける。足を踏み出す。それは何かに駆られていながら迷いある不確かな足取りであったが、失いたくないという一心で石丸は走り続けた。
屋敷から戦場までは到底一日や二日で辿り着けるような距離ではない。しかしじっとしていることは石丸には不可能であった。
この期に及んで自分は都合良く、行かなければならない。行かなければどうにもならないという思いに石丸は追い込まれていたが、それは間違いであった。
行ってもどうにもならない。それに未だ気づくことなく、石丸は夜の下を行く。常人では到底不可能な何時間もの全力疾走も、幸か不幸か、人類最強の石丸の肉体はそれを可能とする。
そうしてしばらく走り続けたところで、石丸はその影を見た。
「はぁ……はぁ……」
流石に息を切らしつつゆっくりと減速する。
その影を見て立ち止まろうとしたのは、やはり遠目でもそれを感じ取ったからであろう。他ならぬ、仲間の存在に。
「……よぉ」
「! 黒部、か……?」
距離が縮まるにつれてその姿ははっきりと石丸の目に映る。そこにいたのは、血に濡れた姿の妖怪王、黒部であった。
だがその姿は見るも無残なもので、全身傷だらけの有り様だ。色濃い血の匂いが石丸の鼻をそよぐ。
「逃げて、きたのか……?」
「…………」
黒部は答えない。答える力がないのか。
いや、敢えて答えていないのだ。そう示すように黒部は石丸をじっと見続ける。
「他の、者は……?」
「……ほぼ死んだ」
「……!」
黒部は短くそう答える。石丸は絶句し、目を見開かせる。
「春は……」
「……捕まった。返して欲しかったら姿を現せだとよ」
その答えにようやく石丸はほんの少しだけ落ち着いた。
しかし、
「あいつと俺以外は全員死んだけどな」
「……そう、か……」
さもありなん、相手はあのレオンハルトだ。奴と奴が率いる魔軍と相対しては生き残る術はないだろう。
ましてや万全であればともかく、まとまりに掛けた状態で挑んでも勝機は薄い。
やはり勝てないのだ、と石丸の心に再び暗いものが差す。
「……で、どうするつもりだ?」
「どうするか……?」
思わぬ言葉に石丸は確認するように問いかける。
「ああ。これから、お前はどうする」
それは黒部にとって大事な確認の言葉だった。彼が初めて認めた人間の男、藤原石丸。その男の意志は、未だに消えていないのかと問いかける大事な質問だ。
だが、
「……どうすればいい」
石丸はその問いに覇気のない静かな声で答えた。
「どうすればいいのか……俺には分からん。分からなくなってしまった」
それは葛藤する石丸の心の叫びだ。
勝ちたいが、勝つことは出来ないし、それを可能とする方法も解らない。
だが勝たなければならないし、諦めてはならない。
そんな葛藤を石丸は負けてからというものずっと抱えてきた。
「何故こうなった……やはり、俺は間違えたのか……?」
自分の行動は何処かで決定的に間違えてしまっていたのか。途中までは上手くいっていたようにも思えた。何もかもが順調だった。にもかかわらずこうなったのは何かを間違えてしまったからだろう。
「それとも、最初から間違えていたのか……?」
最初から分不相応な願いなど望まなければ――
「……お前の答えはそれか?」
「……分からない。俺は、一体どうすれば――」
再度質問を重ねてきた黒部に石丸は分からないと表情を歪める。
それを見た黒部は、深い溜息を一つつくと、
「――お前は、
「……なに、を――っ、ぐっ……!」
不意に黒部の攻撃を受けた石丸は身に着けていた帝ソードを抜いてその鋭い爪をガードする。その力は重傷とは思えない力の入った一撃だった。
しかし傷のことを考えると身体を激しく動かすのは危険である。ゆえに石丸は声を上げた。
「何をする!? やめろ黒部! その怪我の具合では――」
「やめねぇよ……!」
「っ!」
爪での連撃を剣で防御する。しかし黒部に止まる様子は見受けられない。
「お前と戦うのは久し振りだな、石丸……!」
「何故だ!? 俺には戦う気など――」
「お前には無くても俺にはあるんだよ!!」
石丸の言葉に被せるように黒部は怒りに吼える。
「忘れたか石丸ッ! 俺との約束を!」
「……約、束……」
ああ、と攻撃の手を緩めずに黒部は続けた。
「お前が弱音を吐いたり、諦めたり、情けねえ姿を見せて、俺を幻滅させるようなことがあれば――」
言う。それは二十年以上前の約束だ。
「――俺がテメェを噛み殺すってな……!」
「……っ!」
二人の得物が甲高い音を響かせる。
藤原石丸と妖怪王黒部。二人の男が昔に誓った約束。
それを果たすため、見るもののいない戦いが夜の荒野で始まった。
戦争終結したけど藤原家討伐編はもうちょっとだけ続くのじゃ。
次回くらい、久し振りにあの御方が出ます。