大陸東の浮島――JAPAN。
地震や妖怪、鬼、騒乱が絶えないこの土地に、一人の可愛らしい少女がいました。
少女は武家――大陸で言う貴族の家柄に生まれ、両親や家に仕える武士達にも可愛がられ、とても大切に育てられました。
そんな周囲の事を少女は大切に思っていましたが、特に尊敬していたのが少女の姉でした。
多くの災異に悩まされ、人の住むに適さない土地だと大陸へと移住する者が増えているJAPAN。更には長らくJAPANの盟主であった藤原家が滅亡し、多くの問題が噴出する中、少女の姉はこんなときだからこそ、皆で力を合わせてお国の為、民の為に頑張らねば、と周囲を叱咤激励し、自らも努力を欠かすことなく精力的に活動していました。
眉目秀麗、知勇兼備。あらゆる事に秀でて、何事にも手を抜かないその優秀さと抜かりのなさ。加えて、厳しいだけではなく優しさまで兼ね備える少女の姉。
少女はそんな姉の事が大好きで、とても尊敬していました。
少女の姉も、妹である少女の事を大層可愛がっており、姉妹仲はとても良好でした。
そうして幸せな生活が続くある日。一つの契機が訪れました。
――姉に婚約者が出来たのです。
JAPANでは盟主である藤原家が倒れた影響で、どこの大名も自分の家と領地、勢力を発展させる動きが強く、少女達の家も、他の家と同じ様に自分達の勢力を拡大させようと動いていました。
全ては、JAPANの次なる盟主――帝となるため。
婚約者を作ったのもそんな目的のための活動の一つ。家同士の結びつきを強め、強大な力を持つ他家に対して優位を作るため、婚約は成立したのでした。
早い話が政略結婚。大陸でもJAPANでも支配階級の家にとっては珍しくない事例であり、恋心を持たずともそれを押し殺して家の為に有利な結婚をするのが当たり前の考え、当然のことでした。
しかし、姉と婚約者の仲は悪くありませんでした。
特に姉の方が婚約者に惚れているようで、婚約者が出来てからの姉はよく婚約者の男のことを話し、家に連れてくることも多々ありました。
少女は婚約者に夢中な姉を見て、少し寂しく思いましたがこれも姉の幸せ。受け入れて祝福してあげることにしました。幸いにも婚約者はとても良い人であり、少女にもとても親切にしてくれました。
だけど、少女はその頃から少し違和感を感じていました。
婚約者が、露骨にこちらを構っているような気がするのです。
時が経ち、少女はさすがに気づきました。――姉の婚約者は、自分に惚れているのだと。
さすがにちょっと引きました。嬉しい気持ちもゼロではありませんが、彼に恋愛感情はありませんし、何よりも彼は姉の婚約者。正直困るのでやめてほしい。姉に悪いし、諦めてほしいと思いました。
しかしこちらがいくら避けても、向こうは何度もさり気ない――つもりでこちらにアピールしてきます。正直、少女から見るとバレバレでしたが、本人は隠しているつもりだったのでしょう。
そして案の定と言うべきか、姉もそのことに気づき始めました。
その頃から姉の少女への態度は露骨に悪くなっていました。いや、気持ちは分かるのですが、悪いのはどちらかと言うと、婚約者がいるというのにその妹に勝手に惚れてきた男の方です。尊敬する姉でしたが、正直、男と話し合って勝手に解決してください、と思いました。
しかし感情的に許せないと思うのも人として解らなくもありません。だから少女はしばらく、二人と距離を置くことにしました。
適当な理由を付けて親戚の家に厄介になることにしました。その間、男がやってきても適当な理由を付けて会わずにいようと思いました。
今は少し気持ちを落ち着かせるべきです。男も、しばらくすればそれが如何に馬鹿な事かに気づき、諦めることだろうと。
姉も、しばらくすれば嫉妬の火が消えるだろうと。
自分がいては争いの火種になってしまう。ほとぼりが冷めた頃に戻って、また仲良くしようと思いました。
そうしてまたしばらく、少女が親戚の家での生活に慣れ始めたある日のこと。
久し振りに、姉からの手紙が送られてきました。
――もしかして、解決したのかな?
そうだったらいいなと、少女は僅かに期待しながら手紙に目を通しました。
手紙には、“久し振りに会いたい。○○の屋敷まで来て欲しい”――と、書かれていました。
何で○○の屋敷なんだろう、少女はそう思いました。
しかし、事態を収集するために自ら離れたとはいえ、少女は寂しさを抱えていました。なので久し振りに姉と会えるという喜びから深くは考えず、本家とは別にある屋敷に向かいました。
嬉しさを滲ませながら屋敷に着いた少女。
しかし何故か出迎えも何も来ません。普通なら、使用人か誰かが迎えるはずです。
中に誰かいないのかと、少女は屋敷に足を踏み入れて中を調べました。
そして少女がある一室に足を踏み入れた時――驚くべきものを目にしました。
そこにあったのは――屋敷にいた者達の死体。
血溜まりとなった畳の上で、多くの死体が積み重なっていました。
武家の娘として、こういう光景にも耐性があったはずの少女も、これには卒倒。
驚き、何がどうなっているかと混乱し、しばらくへたり込んでいると、外から音が聞こえました。
少女がその音に振り向くと――そこにいたのは尊敬する姉の姿。
背後に何名かの武士を連れて現れた姉の姿に、少女は期待しました。
何事かは分からないが、きっと姉がこの事件を解決してくれるのだと。
そう思い、正気に戻ろうとしたところで――姉はこちらを見て声を上げました。
心配して名前を呼んでくれるのかと思いました。
ですが、
――“この娘が犯人よ! 捕らえなさい!”
――え?
その言葉を、少女は最初理解出来ませんでした。
だが、困惑する中、武士達は姉の命令を受けて少女の身を縄で縛り始めます。
ようやく事態を飲み込み、犯人だと疑われていることに気づいた少女は、冤罪を主張します。
しかし武士達も、姉もその言葉を取り合うことなく、少女は牢屋へと入れられました。
牢屋に入って数日経つ頃には、何となく何が起こったのかも掴めてきました。
ですが信じられません。自身の推理があっても、それが正しいと認めたくありません。
だから少女は、信じて待ち続けました。
そのかいあってか、またしばらくして、牢屋に一人、姉がやってきました。
番兵も、お付きも誰もいません。
檻越しに二人きりとなった少女と姉。少女は姉を見上げ、姉は少女を見下げます。
そうして姉はいつもの優しい笑顔のまま、牢屋へと、少女の耳元に顔を近づけ、こう言いました。
――“貴方が悪いのよ”
――“貴方が、あの人をたぶらかすから”
――“私の為に、死んで”
姉の口元は、酷く歪んでいました。
少女は気づきました。
何ということでしょう。姉は、婚約者への嫉妬から、少女を亡き者にしようと企んだのです。
屋敷に来いと綴った手紙は嫉妬に狂った女の罠。少女は罠に嵌められたのです。
そこまで分かったところで、少女は自分の無実を訴えましたが、それらは全て無駄に終わりました。
姉は周囲に強く信頼されており、姉が嘘をついているとは誰も思いません。手紙もいつの間にか処分されており、証拠に繋がるものは全て闇に葬られるか、既に渡りを付けられていました。
少女の言い分は全て嘘と判断され、少女に惚れていた姉の婚約者も、凄惨な事件を起こした少女を恐れて離れていきました。
少女は死刑が決定し、暗く冷たい檻の中で長い時を過ごしました。
実際にはそれほどの時は流れていないかもしれません。ですが、尊敬する姉に裏切られたことと、死を待つ身になったことで、少女の精神は酷く衰弱していました。
そんな時、暗闇に一筋の光が差しました。
とうとう死刑が執行されるのか。そう思った少女でしたが、顔を上げると、そこにいたのは――麗しき美貌を持つお姉さま。
『――大丈夫かね?』
無実の罪で鎖に繋がれた私。気遣うように人ではない魔のお方は声を掛けてくれました。
少女は思いました。“何て美しい方だろう”と。
少女はその魔人――ケッセルリンクに助けられ、彼女に恩を返すことにしました。
恩を返す必要はないと、ケッセルリンク様は言います。しかし武家の娘として、受けた恩は必ず返すのが武士道というもの。
私はそれを強く訴え――ケッセルリンク様の使徒になりました。麗しいお姉さまの使徒になり、幸せに暮らしはじめ、同じ使徒の先輩方である可愛らしい女の子たちと、毎日キャッキャウフフな百合色の生活を送っています。
姉と婚約者、そして姉の嘘を信じた周囲の人達には、“バーカ!” と言ってあげたいのと同時に、“ありがとう!” とも言いたいです。
「――そんな愉快な感じで、私、加奈代はケッセルリンク様の使徒になったんですよ~うふふ」
「…………」
そこはレオンハルト城の中庭。
いつもの様にお茶会を行い、新しくケッセルリンクの使徒になったという小柄で、黒の髪を編み込みにした少女――加奈代の話を聞き終えると、聞いていた者達は無言となった。
反応しないのもどうかと思った魔人レオンハルトは、どう切り出すべきかと悩みつつも、咳払いを一つし、腹を決めて思ったことを口にした。
「……何というかまぁ……よくそんなに平然と明るく話せるな」
「え? だってもう過去の事ですし~……それにこれ、面白くないですか? 結構な笑い話だと思うんですけどー。はい、ケッセルリンク様。お茶が入りましたよー♪」
「……うむ」
しかし加奈代は気にした様子もなく、ケッセルリンクの前にカップを置いて微笑む。ケッセルリンクも微妙な表情をしているのが珍しい。
そんな中、相変わらず料理を口にし続けているガルティアが、
「ま、気にしてないんならいいんじゃねぇか? 自分の中で整理は付いてるんだろ」
「はい。私はもう吹っ切れてますので皆様方もお気になさらずで、お願いしますね?」
「……うふふ、加奈代は逞しいわね」
シャロンが微笑を浮かべて、加奈代を褒める。しかしレオンハルトとしては、逞しさで言うなら、シャロンも負けず劣らずで――
「……何ですか、おじ様? 何か言いたいことがあるならはっきりと仰った方がよろしいですよ?」
「……何も考えてない。吹っ切れたのなら良いことだと思っただけだ」
何故かシャロンが笑顔を向けてきたのでレオンハルトは誤魔化す。シャロンは少し間を置いて、
「……まぁ、今は加奈代の歓迎会も兼ねていますし、それで納得しておきますね?」
「…………ああ」
今は、と言うからには後で追求されるのだろう。レオンハルトの頭の中には、この後どうやって迅速に逃走するか、もしくは追求から逃れる手段を何通り、何十通りと模索し始めるが、そのどれもが通じなさそうなので諦めた。現実逃避気味に紅茶を口に含むと、
「ふふふ、ここは可愛らしい女の子がいっぱいで目が幸せですー。やっぱり、レオンハルト様の趣味なんですか?」
不意に加奈代が話しかけてきた。
使徒になったばかりで、しかも初対面だというのに全く怯えることなくこちらに声を掛けてくるとか、自分で言うのも何だが、肝の座り方が尋常ではない。大体はちょっと怯えていて、こっちが気を使うことになるのだが。
加奈代の胆力に内心で驚きつつも、レオンハルトは軽く目を細めて返答しようとし、しかし加奈代の横から先に声が飛んだ。
「こら、加奈代。レオンハルト様に失礼でしょう?」
「えっ、そうですか? 気に障ったのなら申し訳ありませんけど……」
注意したのはケッセルリンクの使徒であるエルシールだ。晴れてケッセルリンクのとこのメイド長になった彼女は、初めての後輩の行動に目を光らせている。
そんなエルシールも、いきなりレオンハルトに向かって物怖じすることなく話しかける加奈代に驚いているようだ。エルシールは物凄く怯えていたのを思い出して微妙な気持ちになる。
……確かに、使徒が魔人に対して軽い口を利くのは、一般的にはやめておいたほうがいいだろう。
魔人の中にはプライドの高いものも多い。そのことで暴力を受ける可能性だってないわけじゃないのだ。
だからこそ、レオンハルトは自分の使徒達に誰に対しても口の利き方には気をつけろと教えている。
だが、身内なら話は別だ。公の場であれば配慮する必要もあり得るが、そういう場ではない。ましてやプライベートであれば特に注意する必要もない。人と付き合う上での当たり前の礼儀さえ弁えていれば、突っ込んだ質問をしたり、軽く話しかけることも問題ないのだ。むしろ推奨したい。
ゆえにレオンハルトはカップを置いて告げた
「いや、構わん。ケッセルリンクの使徒であれば俺にとっても近しい存在に変わりない」
「わたくしにとっても後輩ですので、この先輩完璧使徒であるわたくしにいつでも頼るといいですわ!」
「可愛い後輩改め、頼れる先輩のペールちゃんもいますよう!」
キャロルとペールが加奈代を歓迎するように声を上げる。どうでもいいが、恥ずかしいのでこちらの背後でポーズを取るのはやめてほしい。こちらまで馬鹿だと思われそうだ。
加奈代はこちらを見て楽しそうに笑うと、
「はい。頼らせて頂きますね~ふふふ」
微妙に身体からハートが出てるようにも見えるが、それは気にしないでおこう。
微笑ましい光景だな、と感じた違和感から目を逸らしていると再度、質問が来た。
「それで、結局レオンハルト様の趣味なんですか?」
「……俺の趣味、か。……やはり、そう見えるのか?」
「はい。レオンハルト様のその辺りの趣味は、JAPANでも有名でしたからね」
「……そうか……」
やっぱり知られているのか、とレオンハルトはいつもの如く若干気分が落ち込む。
しかし毎度の事なので立ち直るのも早い。気を取り直すと、今度はこちらから、
「……どんな風に知られているんだ?」
「えっとですね~……JAPANでは魔人と言えばレオンハルト様ってくらい知られてますよ? あの藤原石丸を倒し、何十万もの人間を剣一本で斬り殺した恐ろしい魔人みたいな感じで」
「さすがはレオンハルト様ですわ! 名声が轟いていますのね!」
「……何十万は盛り過ぎだ」
さすがにそんなには殺していない――と思う。正確に数えたわけじゃないが。ひょっとしたら十万に届いた可能性はゼロではないが、あの戦争の後半は部下の仕事を取らないように気を使ったし、いってないと思いたい。
だがそれだけではないようだ。加奈代は続いて、
「そして、胸の大きな女の子が大好きなんですよね?」
「それは……」
レオンハルトは言い淀む。だが加奈代は口を休めることなく、
「この城のメイド達も、皆可愛い上、殆どが大きい子でしたし~……やっぱりそういう趣味なんですよね? 制服も可愛いですが、谷間が開いてたりしてますしー。というか、剣王伝にも書いてましたよ?」
「またあの本か……」
ペールの方を横目で見る。性懲りもなく続きを書いているらしいが、思うところもあり、やめろとは言い辛い複雑な活動だ。ペールは一瞬怯んだが、それよりも加奈代の方に笑顔で距離を詰めると、
「こんなところにも私の本の可愛らしいファンがいましたよう!」
「えっ、あの本ってペールさんが書いたんですか?」
ペールは満面の笑みで頷く。
「はい。ちなみに、ここのメイド服のデザインも私ですよっ!」
「何でそんなに誇らしげなんだか……」
コーヒーを飲みながらジト目をペールに向けるハンティ。最近はよくコーヒーを飲んでいるみたいだが、研究が捗っているのだろうか。
そんな発言も届くことなく、加奈代とペールは話を弾んでいるようで、
「いいなぁー私もたまに服を作ったりするんですけど、私も新しいメイド服とか作ってみたいです」
「あ、私はデザインだけで、実際に作ったのはキャロル先輩ですよう。……でもまあ、アドバイスは出来ますし、作ってみたらどうですか?」
「えっ」
エルシールがその発言を聞いて固まる。加奈代は眼をキラキラさせ、
「……ケッセルリンク様! 私、この城のメイド服みたいに、可愛らしい服を着てご奉仕したいです! 作ってもいいですか!?」
「……構わないが」
「やったぁー♪ ふふふ、どんな服にしようかなぁ~?」
ケッセルリンクの許可を直ぐに取り付ける加奈代。それを見て、エルシールは嫌な予感を覚える。
この城のメイド服みたいに、ということは、妙にいやらしいエッチな感じになるのではないかと。
ガーターベルトを付けてたり、胸の部分を開けたり、直ぐに脱げるようになっていたり、様々な改造が施されているのだ。それと同じ様になる。それを、エルシールだけでなく、ケッセルリンクの使徒メイド達は想像する。
同じ様に、何名かもそれを想像し、
「……私だったら死ねるな。というか着させた奴を抹消する」
「……そ、そんなこと言ったら駄目ですよ?」
ボソリ、と恐ろしいことを言うガウガウに、パレロアが声を震わせながら注意する。おそらく、ガウガウは胸がないからだろう。とか言ったら抹消されるのだろうか。
だがパレロアも、微妙に不安を感じているのだろう。声が震えていた。そしてシャロンも、
「……おじ様? 何故、こちらを見ているんですか?」
「……いや、別に……」
レオンハルトは、自分のところのメイド服を着てるシャロンを想像したが、何とも言えない気分になったので目を逸らす。
しかしそこまで嫌なのか、と思う。うちだと、かなり人気な上、普通に胸の小さい娘達も喜んで着ているようだから普通だと思っていた。
だがよく考えてみると、普通のメイド服に比べて肌色が多めなのは事実だった。魔物界ではもっと肌色が多かったり、それどころか全裸だったりする奴もいるので、あまり変に感じることはなかったが、これも感覚を破壊されているのだろう。
「う……もし、あんなのなら……」
しかしエルシールはまだ抵抗はあるようだ。シャロンなどは受け入れている節もあるが、彼女の場合はまだ羞恥があるのだろう。頭を悩ませている。
だが、
「――
「! メイド長さん……!」
突然、横から声が飛んだ。メイド長さんだ。ハンティばりの瞬間移動で皆の前に現れたが、気にする者はいない。メイド長さんと料理長は、その職務の事であれば何をしでかしても驚きに値しないのだ。
そんなレオンハルト城のメイドを取り仕切る長であり、パーフェクトメイドとして城内だけでなく、女の子モンスターのメイドさん、ケッセルリンクの使徒達からも尊敬されているメイドの中のメイドであるメイド長さんは、エルシールに柔らかな口調で語りかける。
「メイド服は、我々メイドの魂の様なものです。メイド服なくしてはメイドとは呼べません。――まあ、私はメイド服が無かろうとメイドとなり得ますが」
「え、あ、その……ごめんなさい」
その勢いに、思わず謝ってしまうエルシール。
メイド長さんはいつもどおり微笑を浮かべているが、珍しく熱が入っている様子だった。やはりメイドの事となると譲れないのだろう。
「エルシール様。メイドであれば、あらゆる状況に適応し、対処するものです。例えメイド服が変わったとしても、貴方様の、主の為に仕えたいという奉仕の心は変わらない。――違いますか?」
「……違い、ません」
そしてメイド長さんは、同じメイド長であるエルシールにメイドの心得を教え込む。
「であれば、その程度で狼狽える必要はないはずですわ。可愛い新人が作ってくれたメイド服の一つや二つ、受け入れてみるのも良いのではないでしょうか」
「……そう、ですね……!」
――だが、これは何だか、メイド長さんも面白がって遊んでるだけな気もする。
メイド長さんはエルシールがメイド長になってからというもの、よく色んな事を教えているが、その内容が何とも言えないものばかりで、遊んでるのではないか、という疑惑が皆の中にあった。今も、
「では、今日もこの前の授業の続きです。宿題の詰将棋は終えてきましたか?」
「あ、はい……一応」
「はい、確かに。では今日は筋違い角戦法の定跡について勉強しましょう。特別講師に、魔物界将棋連盟会長のキャロル様に来て頂きました」
「あ、わたくしですの? よく解りませんがやってやりますわ!」
「……これ、本当にメイドと関係あるんでしょうか……?」
――ない。明らかに騙されているエルシール。
そんな疑問を持ちながらも、何故か将棋の講義を受け始めたエルシールを放置し、加奈代はペールとデザインについて話し合っているようで、
「ふふ、加奈代ちゃんは話が分かりますねぇ。色々と仲良く出来そうですし、私のことはペールお姉さまと呼んでいいですよ?」
「ふふふ、はい、ペールお姉さま♪ 私も、お姉さまとは仲良く出来る気がします。色々と語り合えそうで……」
「ふふふ♪」
「ふふふ♪」
「ひっ!? な、何……この悪寒……」
「……嫌なタッグだな……」
ハンティやガウガウなどが声を上げる。周囲の女性達を見てキラッと目を輝かせる加奈代とペールを見て、レオンハルトは眉間に皺を寄せた。
どちらも人を誂う癖があるので、意気投合したのだろう。確かに、性格的にも似てる気がしないでもない。
そんなこんなで、今日のお茶会は加奈代の紹介を無事に終えてお開きとなった。
だが後日、メイド服を完成させ、シャロン達に着させた後、加奈代はエルシールの質問を受けて、皆の前で衝撃の発言をした。
「やっぱり、ここは可愛らしい女の子ばかりでいいですねー」
「……そんなに女性が気になるの?」
「はい。だって私――
「…………えっ」
「ふふふ、これから楽しくなりそうですねー♪」
「…………えっ」
とんでもないカミングアウトを頭の上にハートを浮かばせながら発する加奈代。その小悪魔的な表情に、多くの女性が身の危険を感じて後退ったという。
次回からカラー王国の話に入ります。前も言ったけど、そんなに長くならない。
多分、レッドアイとかパイアールの話くらいの長さ