※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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誤解のないように釈明。私がこういうシーンをノリノリで書けるのは興奮しないから何ですよ。何も感じないから書けるわけで、あんまり陵辱とかNTR的なのは好きくない。
というのも興奮するシーンってムラムラして全然筆が進まないし――ゲフンゲフン。いや、ほんと。
というわけで本編どうぞ


王国の最後

 ペールの明確な拒絶は、王宮の廊下に酷く響いた。

 それほど大きな声は出していない。というのに響いたのは、やはりレガリアがその言葉に衝撃を受けているからであろう。相手の内心は理解出来る。読心術――というほど、大層なものではないが、やはりこれほど長生きし、多くの物事を見て経験を蓄積すると多少なりとも分かってくるのだ。

 ……随分と可愛い反応ですね?

 そこで衝撃を受けていることに、ペールは相手を哀れとも思い、同時に愉悦が湧いて口端を吊り上げてしまう。やはり自分でも知らない内に怒りを覚えていたのだろう。もうそこまでカラーに対しての情はないと思っていたが、そうでもないらしい。自分は使徒で、カラーはカラー。相手のやり方にどうこう言うのは内政干渉だ。愚痴程度に話すならともかく、今更関わることもない。だが、

 ……それにしても酷いです。

 ペールはこれでも、過去にカラーの集落を治めていた。眼の前の今の女王程、大した実績を残してはいない。ただ必死に集落を良くしようと頑張っただけ。公的な仕事が上手くいくように調整、各種担当との折衝役を務めたり、生産性を少しでも向上させようと、自然を大切にしようというカラーの勢力に必死に頭を下げて利を解き、交換条件を出して畑を広げた。森を攻めてくる人間に対抗するため、侵攻ルートを読んで防衛戦を築き、自身も前線に出て戦う時もあったが、やはり主に行っていたのは地道な内政だった。人間の領土に攻め込んで領地を広げるなどやろうともしなかったし、おそらく出来なかったであろう。それほどに国力に差があったのだ。

 

 だがペールは、それでも良かったし、自分の成した仕事に自信を持っている。自分の代で成せた事は少なく、それほど大きく変わったわけではない。

 だが、少なくとも集落を守りきり、少しでも畑を増やし、カラーの数が増えても、誰もお腹を空かせることなく生活出来る。自分が成したことといえば細かいものを除けばこれくらい。地味なものだ。

 後のことは問題も含めて次の女王に託したし、それが出来たからこそ、自分は胸を張って好きな人に会いに行ったのだ。

 もっとも、今思えば改善点は思い浮かぶ。それは、ペールが更に成長した証だった。

 自分の政治力、これに関して、ペールは仲間内の中でもそれなりのものだと自負している。

 ハンティは、あれで情に厚いため、甘い対応をしたり、非情になろうとして出来なくて、物凄い悩むことがある。

 キャロルは命令通りに何でもこなすし、ある程度なら融通も利くが、たまに暴走する。後、命令に真っ向から反することだけはやらないし、レオンハルトが白だと言えば絶対に白だと言い切ってしまう。

 レオンハルトだって優秀で、その判断は大体が的確かつ適当なものだが、それでも完璧ではない。たまに無意識で、厳しさを他人に強いることがある。レオンハルトにしてみれば、苦労は自分が請け負い、弱者には最低限の仕事を任せてるつもりだろうが、その最低限の水準が高いので弱者は苦労するのだ。そういう時はそれを指摘すると、レオンハルトも考えた末に調整してくれる。

 まあ上手く飴と鞭で頑張らせているのもある上、こんな世の中だからこそ、レオンハルトの配下というものは皆その恵まれた位置から離れたくないので必死に頑張るのだが、これも一種の独裁政治だろう。

 力ある者が、それを背景に配下を従わせる。トップが有能であれば通じるが、自分達の様な弱者では不可能であり、色々と妥協して動く必要がある。自分の器を出る分不相応な望みや、企みをすれば先に待つのは破滅だ。それを、このレガリアというカラーは犯している。

 だからペールは、それを自分の考えを元に馬鹿だと切り捨て、その先を指摘した。

 

「――いいですか? ちょっとあんまりにも馬鹿な発言なので言いますが……別に人類の支配、ましてや領土なんて交渉の材料になり得ませんよ。それ、分かってます?」

 

 レガリアが浅く眉を立てる。あ、その反応は分かってないですね、と。

 そもそも分かってないからこういうことを言うのだ、という理解もあるが、それを承知で虐めてやろうとペールは続けた。

 

「魔軍は人類圏なんていつでも支配出来るんですよ。なのにそうしようとしないのは、それが魔王様と、魔軍を預かるレオンハルト様の意向だからです。レオンハルト様はともかく、現魔王のナイチサ様は、人類がどうなろうと興味が無いんですよ」

 

「そんな……そんなのあり得ません! 魔物の統治者として君臨しているのに、領土を広げることを望まないなど……例え人間に興味がなくとも、民の為に、今ある現状よりも発展させようとするのが王の役目です!」

 

 レガリアが薄い目を見開いて意見を発する。その意見は確かに分かる。それは国を治める統治者としては正しい意見だ。

 だが、そうではない。自分達がおそらく永久に理解出来ない思考が、魔王や魔人達の頭の中にはある。それを本当の意味で理解することは出来ないが、事実として理解していることをペールは言う。

 

「そもそもその考えからして違うんですよ。それはあくまで――国を支配する王の意見です」

 

 だが、魔王は違う。大陸を支配する王達の考えは違う。それは、

 

「魔王というのは、世界を支配してるんですよ? つまりは大陸の支配者です。その箱庭の中で、誰と誰が戦争し、繁栄し、滅びたなんかどうでもいいんです。だってそこはそもそも()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――!」

 

 レガリアは言葉を失う。ようやく理解したようだ。

 そう、これこそが、自分達の様な凡人とは違う本当の支配者の考え。以前、レオンハルトが語り、教えてくれた論を、ペールは語る。

 

「魔王様からすれば、人間や他の種族なんて自分が持つ土地を間借りさせて遊ばせてるに過ぎないんですよ。普段はその土地を取り合ってる人間の姿をワイン片手に眺めて、気が向いたら遊び半分で殺し、奪い、恐怖を与える。そもそも私達が敵国や他種族に抱くような敵意なんてありません。人間なんかは魔族を敵と見做してますし、魔物の殆ども、自分達を人間の上位だと認識してますけど、戦いの相手だという意識はあります。でも多くの魔人や、魔王様にはそれがありません。――分かりますか? 自分達の存在を脅かす“敵”と見做されてないんですよ」

 

「そ……そんな……馬鹿なことが……」

 

 レガリアが青褪めた様子で言う言葉を、ペールは残酷にも否定する。

 

「あるんですよ。それほど、力の差があります。それが現実です。――魔王様や多くの魔人の方々にとって、人間やカラーなんて欲求を満たすための遊び道具なんです。中には、そうじゃない魔人の方もいますけど……まあ、どちらにしてもこの世界で少しでも幸せに生き延びようとするなら、本当に強い存在に寄り掛かるか、自分の器を出ないように謙虚に生きるしかないですね」

 

 ま、それでも死ぬ時は死にますけど。と言うと、レガリアだけでなく、ハンティやエルシールなんかも微妙な表情になる。こんな救いの少ない世界の現状を、既に知っていることを聞いても面白くないだろう。そこは申し訳ないと思う。

 しかしそれが現実だ、とペールは改めて突きつける。

 

「国を広げて世界を支配する。自分達こそが世界の覇者だ~……なんて願いは妄想にしかならないんで止めた方がいいですね。世界は魔王様みたいな本物の怪物が支配してるんですよ。私達なんて、その怪物の気まぐれで一秒と掛からずに殺されちゃいます。……そんな大陸を支配する魔王様が、自分の支配する土地を我が物顔で――“この土地を差し上げますから魔人にしてください”。なんて言う人をどうすると思います? ――地獄を見ると思いますよ?」

 

「あ……う……」

 

 レガリアが口をパクパクさせながら僅かに後退る。怯えているようだが、自分の言はおそらく間違ってないだろう。

 ペールは魔王ナイチサのことをそれほど知っているわけでもないし、直接話したことはほぼ皆無だが、レオンハルトから聞く限りはそのような印象だ。

 おそらくは一度は笑ってみせるが、その後で激怒し、とてつもない責め苦を受ける羽目になるだろう。人間を下に見ているナイチサだ。カラーの長如きがそのような事を提案したら、カラーを丸ごと滅ぼそうとしかねない。

 ここでレガリアの野望が潰えて正解だった、とペールは一度息を入れる。というかそもそもだ。

 

「大体、人間を奴隷にするとかもうね……個人的にダメダメですよ。まあ、国を守るために先制攻撃して外敵を排除するのはいいんですよ。貴方が言うように、それは為政者の権利、役目ですし、どんな方法を取ろうと一応の自由はあります。その内容が良いか悪いかは別として、その努力は認めます」

 

 実際、これほど国を大きくした手腕は認めてやってもいい。これで何もなければ、ペールはレガリアを絶賛したことだろう。

 だが、

 

「そんでまあ、奴隷は最悪ですけど、一番腹が立つのは、逆らったからといって、同族まで手に掛けてる辺りがムカつきますね、何様って話ですよ」

 

「ペール様……」

 

 クライアが背後から視線をこちらに向けてくる。それを気にせず、ペールは憤りを吐き出した。

 

「そもそも人間を舐めすぎですよ。人間ってのは凄い厄介です。特に、数の多さはカラーでは太刀打ち出来ません」

 

「っ……それ、は……数を増やして――」

 

「はぁ? 数を増やすぅ? 舐めてるんですか? 前にレオンハルト様から聞きましたけど、人類ってのは全部でおおよそ3億はいるらしいですよ? それに対して、カラーの人口はどれだけいるんですか? 多少増やしたところで、3億に対抗出来るほどの数はいませんよね? 頭沸いてるんですか?」

 

「ちょっと、ペール……」

 

 ハンティが声を掛けてくるが、止まらない。

 

「それで対抗出来ないのは自明の理です。であれば、人類全てを敵に回すような行動は避けるべきですよね? なんか自分の実力に自信があります! みたいな顔してますけど、貴方なんて世界全体から見れば雑魚ですよ? ましてや集団に勝てるほどじゃないです。魔人になる夢を見すぎて魔人になった幻覚でも見てるんですか?」

 

「あの、ペールさん……?」

 

 エルシールが声を掛けてくるが、それでも止まらない。ペールが口撃を続ける。

 

「権力者になると自分が強いとか錯覚しそうになるんですよねぇ~。でもそうじゃないんですよ。確かに権力というのはある種、力の一つですけど、絶対的な力ではないですよね? 頭を刺したら死にますし、心臓が潰されても死にます。そもそも集団から排斥された時点でその力は無くなります。別に倒す方法なんて幾らでもあるし、権力にはそこまでの力はないです。権力ってのは集団の上に成り立つ力ですよ? 幾ら権力があろうと、個の上では矮小な存在でしかない。権力者ってのは、それを自覚しないといけないんですよ。権力があるからと自分が世界一偉いと錯覚してる馬鹿は、本当に強い人達の癪に障って破滅します。それも分かってないのに、よく今まで女王なんてやれてきましたね?」

 

「ペール……」

 

 ケッセルリンクが名前を呼ぶ。しかし止まらない。もはや完全に火がついたペールは、レガリアの精神をとことん攻撃する。

 

「しかもさっきは馬鹿の癖にケッセルリンク様や始祖様になんか失礼なこと言ってましたよね? ん? よくそんな態度取れますよね。言っときますけど、貴方の百倍は偉くて強い偉大な祖先ですよ? 貴方みたいなミジンコが、対等に話していい存在じゃないですからね? ん? 何ですかその顔? 何か言いたいことがあれば言っていいですし、ムカつくなら殴りかかってきてもいいですよ? やってきたらやり返すだけですし。元同族だからって手心を加えてもらえるなんて思わないでくださいね? でも良かったですねー? ペールちゃん、割りと容赦のない方ですから、あらゆる手段を使ってボコボコにしてあげますよ? ええ、実力はそこまでじゃないですけど、ちゃんとボコボコにしてあげます。感謝してくださいね? さっき貴方の部下がレオンハルト様に攻撃してましたし、この場にキャロル先輩いたら拷問フルコースですよ? 私達みたいに元同族とかいう意識ないですから、一切の慈悲もなく、淡々と苦しめてきますよ? それに比べたらペールちゃんは優しいから良かったでちゅね~? 半殺しくらいで許ちてあげまちゅよー? どうせ、私達がやらなくても――」

 

「――ちょっとペール!」

 

「っ、と。何ですか始祖様? どうかしました?」

 

 ハンティが大声で呼びかけてきたので、そちらに反応する。愉しいところだったのだが、

 

「もういいでしょ。他にやることもあるし……そろそろ行くよ」

 

「……それもそうですね」

 

 どうやら昂りすぎていたようだ。ちょっと失敗。自分達にはまだやるべきことが残っている。

 有無を言わさずにこの場を後にしようとするハンティを追いかけるべく、俯くレガリアを尻目に、

 

「……始祖様が優しくて良かったですね? ま、後は精々頑張ってください」

 

「…………」

 

 最後に応援の言葉を掛けて、その場を後にする。

 皆で王宮の回廊を行き、外に向かうが、ペールは気になってふと、横のケッセルリンクに話しかけた。

 

「……何か言わないで良かったんですか?」

 

「……構わない。私には、掛ける言葉が見つからなかった」

 

 そう言うケッセルリンクの表情は、少し悲しそうだった。

 この方も、大概優しいお方だ。元同族が苦しめられていること。そして、それをなしたのも元同族であることに、単純に悲しんでいるのだろう。

 普通であればあの場で怒って女王を殺してもいいはずだ。もしそうしたのならペールは止めないだろう。

 だがハンティもケッセルリンクも優しい。怒りはあっても、それ以上に悲しむことが出来るのだ。自分の様に、ただ怒りが先行してしまう普通の人とは違う。

 そんなことを考えていると、今度はこちらの背後から声が来た。

 

「あの……ペール様……」

 

「? 何ですか?」

 

 その声の持ち主はクライアだった。彼女は歩きながらではあるが、頭を下げて、

 

「……ありがとう、ございました」

 

「……いえいえ。別にペールちゃんは、自分のために怒っただけですし」

 

「それでも……ありがとうございます。私なら、あれほど強く、意見を言えませんでしたから……」

 

「……そうですか。なら、ありがたく受け取っておきます」

 

 言って、今度こそ正面を向いてハンティを追いかける。顔を戻す際に溜息を漏らし、

 ……ほんと……皆が優しくて良かったですね?

 ただそれが彼女の幸いに繋がるかは微妙なところだ、とペールは肩を竦めて先を急いだ。

 

 

 

 

 

 魔物界の南側。カラーの森が近い前線司令部で、レオンハルトは一息ついていた。

 外に並んだ大勢の魔物兵。魔軍の部隊を眺め、こちらの横にいる指揮官に声を掛ける。その相手は、

 

「急な呼び出しに応えてもらってすまないな、バルカ」

 

「いえ、これも魔軍の将としての務めでありますから」

 

 真面目にそう言い返すのはケッセルリンク軍を預かる魔物大将軍バルカだ。

 そう、ここにいるのはケッセルリンク軍。そこに所属する軍団だ。

 というのもレオンハルト軍が主に駐留するのは魔物界北東部であり、カラーの森からは距離がある。そこまで一々戻ってる時間はない。一番近いのが、魔物界南側、人類圏における北側を主に拠点とするケッセルリンク軍しかなかった。

 カミーラ軍は西側であるし、ケイブリス軍は東部の最前線。それ以外の魔人の軍も今は特に動かしていないか、同じ様に適当な占領地で遊んでいるだろう。

 なのでバルカを呼び出してケッセルリンク軍を動かした。元々自分の権限で全軍を動かせる立場にはあるが、特にバルカは何も聞くことなく迅速に動いてくれる。

 何のために動くか、というのはあまり興味がなく、単純に戦争をして自身の戦略、戦術を試したいというのがバルカだ。ある意味で誰よりも戦争狂いともいえる。

 だが今回は特殊な状況だ。それを何度も念押ししておく。

 

「分かっているな? 今回は、カラー王国を攻める人間を横から潰し、その勢いのままにカラー王国も占領する」

 

「つまりは包囲殲滅ですな! 私の得意分野ですとも! お任せください!」

 

 拳を握って気合いを入れているバルカ。案の定分かってなかった。もう一度訂正する。

 

「包囲はするが殲滅はしない。カラーは出来る限り捕縛するぞ。アレは使える」

 

 と、資源であることを匂わしておく。クリスタルの事実は既にバルカにも伝えてあるから、さすがにそれを無視することはしないだろう。

 

「むぅ……しかし、それでは新しい戦術が試せませんぞ……」

 

 物凄く残念そうに言うバルカに、レオンハルトは溜息を吐いた。仕方ない、と、

 

「……人間であれば好きにしていい」

 

「! おお! それならば!」

 

「ただし、カラーは捕まえろよ。抵抗する奴は殺しても構わないが、投降してきた時点で全員捕虜にする。その後で“分別”するからな」

 

「承りましたとも! ふふ……待っていろよ人間共……将棋から編み出した私の天才的戦術の実験体になってもらう……!」

 

「……程々にな」

 

「分かっておりますとも! レオンハルト様とケッセルリンク様の為にも、必ずや、我が軍は戦果を上げてみせます!」

 

「……ああ」

 

 戦闘意欲が高すぎて不安なバルカに頷きながらも、レオンハルトは魔軍を率いてカラー王国へと進撃を開始した。

 

 

 

 

 

 カラー王国に於ける奴隷の反乱。それを引き金に、オピロス国を中心とする人類諸国はカラー王国に攻め込んできた。

 首都や各地の奴隷の鎮圧に時間を割き、状況の把握に遅れたカラー王国は初動で充分な迎撃の準備を行うことが出来なかった。

 その間に、人間達は東側と南側。両側からカラー王国に攻め入り、競い合うように前進してくる。

 事実、彼らは競い合っていた。大陸中央部の肥沃な土地と、カラーという新資源。権益を巡って彼らはカラー王国を蹂躙した。

 遅れてカラー王国も防衛戦を行うも、その勢いに飲まれて次々と部隊が壊滅し、街を占領され、カラー達が捕虜となっていく。――その最中、何人ものカラーが集団で行方不明となる事件もあったが、それを気にしている余裕は両勢力とも無かった。

 特にオピロス国の勢いは凄まじく、地方を後回しにして早々に首都にまで攻め入った。

 女王レガリア・カラー率いる親衛隊も軍と一緒に必死に戦ったが、数の上で圧倒的に勝る人類国家に敢え無く敗北し、女王レガリア・カラーは捕らえられる。

 オピロス国を盟主とする人類軍が勝利し、カラー王国の土地と権益は人類国家のものとなるとそう思われた。

 しかし、その直後――北側より攻め込んできた魔軍に、人類は大打撃を受ける。

 カラー王国との戦闘直後で疲弊していた人類諸国に、その土地を守り通す余裕はなく、被害を出しながらも次々に本国へ撤退していく。

 特に魔人レオンハルトが攻め込んできているという情報を受け、人類諸国は完全にカラー王国側からの撤退を決意。

 カラー王国を滅ぼしたという結果だけを残し、後は魔軍が撤退した後にでもその土地を実効支配してしまえばよい、と、国境に大軍を留め置きながら様子を見ることにした。

 人類圏に於ける覇権国家。黄金時代を築き上げたカラーは、その資源としての価値が見つかったことにより、暗黒時代を迎えることとなる。

 そして、その引き金を引いてしまった女王――レガリア・カラーは、歴史の闇に葬られた。

 

 

 

 

 

 オピロス国がカラー王国首都を攻め落とした直後。人間の兵士や奴隷達は、首都を占領し、資源を活用するための準備を進める。

 それは、魔物も苦笑いを浮かべそうなほどの――凄惨な光景だった。

 

「ははは! おら! まだまだ終わんねぇぞ! 次だ次!」

 

「いやぁ……もうやめて……」

 

「これは正義の行いだぜぇ! 今までさんざん虐めてくれやがってよぉ!」

 

「ごめ、ごめん、なさいっ……! あやま、あやまるからぁ……!」

 

「誰が許すかよボケが! てめぇらはもう犯されまくってクリスタルの価値を高める道具だ! おら、人間様を最後まで喜ばせろよ!」

 

「い、いや……クリスタル、だけは……いやあああああぁぁ――!?」

 

 街のあちこちでカラー達の悲鳴と苦痛の声。腰を打ち付けるような音や、水音、断末魔が連続する。

 そしてこれを正義の行いだと言って行う人間達。仮にも人類種に属する者達にする仕打ちではないが、今まで奴隷として扱われてきた事実が、それを正当化させる材料となる。

 犯せば犯すほど、カラーのクリスタルの価値は高まる。国は冨み、持ち帰ったものはその後の生活が楽になる。

 怒りもある。奴隷扱いされてきた報いだと、奴隷達は叫び、兵達もそれに便乗する。

 美しい女しかいないカラーを犯せる快感や、暗い悦びもある。やりたい放題であり、しかもそれが罪になることはない。男達は精が枯れ果てるまで行為に没頭し、枯れ果ててもその欲望は収まらず、休憩してからまた再度その催しに参加する。

 森の奥や、各地に集団で逃げるカラー達もいるが、戦う力はない。追手が放たれ、捕まるのも時間の問題だ。資源としての価値が示され、しかもそれを正当化することが出来る。人間は止まることはない。死してなお、その全てをしゃぶり尽くすまで、使われることだろう。

 そしてその責め苦を、最も受けようとする者がいた。それは、

 

「この……豚共……! 美しい、カラーの、女王に対して……離せ! 離しなさい!」

 

 女王レガリア・カラー。彼女は屈強な男達数人がかりで捕まえられ、必死に抵抗していた。

 

「っと。ああもう、うっせぇうえに力が強ぇなぁ。大人しくしろよ」

 

「それとも、達磨にでもされてぇか?」

 

「っ……この下衆……」

 

 男達の脅しに、顔を青くして力が弱まる。悪態をついているが、その表情に最早余裕はなかった。

 

「その言葉、そっくりそのまま返すぜ。カラーの女王様よぉ。てめぇはとくに酷く犯していいって言われてるからなぁ」

 

「奴隷達も、お前をヤラせろって言う奴が多いらしいぜ? よっぽど恨みを買ったんだな」

 

「ま、これも戦争の常だ。恨むんなら、自分の弱さを恨むんだな」

 

 そう言って、男達は一斉に準備を始める。

 それを見たレガリアが“ひっ”と短い悲鳴を上げた。

 

「や、やめ……やめなさいよぉ……わ、私に、こんなことして、ただで済むと――」

 

 涙目になり、声を震わせるレガリアの肉体を、男達は一斉に乱暴しはじめた。

 

「い、嫌ぁああああ!? やめてぇ! 触らないでぇ!!」

 

 服を強引に破り、その裸体が晒される。

 その肌は滑らかで美しいものであったが――痣のようなものが幾らか見受けられた。

 

「あぁ? 何だ?」

 

 そのことに若干の違和感を感じつつも、男達は攻め手を止めない。

 いやいや、と叫ぶレガリアの声も虚しく、その身体を誰かが貫いた。

 

「あああああああああっ!? 嫌、嫌ぁああああああ!?」

 

「うっせぇなあ……ちょっと黙ってろよっ!」

 

「ぐうぇ!」

 

 男の拳が腹に突き刺さる。くぐもった声を漏らし、僅かに静かになったところで、再びそれは再開されるが、

 

「あ、あ……!」

 

 レガリアは脳裏に昔の経験をフラッシュバックする。

 男に組み伏され、苦しみを得ていた幼少期を思い出す。救いのない光景。暗い世界。それを再び感じ取り、レガリアはとうとう泣き叫んだ。

 

「――い、いやぁああっ! ママっ! ママァ! 助けて! 助けてぇっ!!」 

 

「あ?」

 

 急に訳のわからないことを言い始めたレガリアを見て、男達の眉間に皺が寄る。

 しかしその言動は止まらない。まるで幼子のように彼女は母を呼んで泣き叫ぶ。

 

「ママぁ、ママぁ……! 助けて……! 死なないで……! ママぁ……!」

 

「何だこいつ。急にママとか言いやがって……」

 

「はっ、頭がおかしくなっちまったか?」

 

 男の一人が嘲笑混じりにそう言うが、間違ってないとも言える。

 レガリアの精神は過去を思い起こさせるような状況で極限状態に陥り、幼い時のトラウマを呼び起こしていた。

 だが、助けは来ない。男達は、むしろより激しくなる。

 

「まぁ愉しむのに支障はねぇだろ。むしろ興奮するぜ」

 

「おら、もっと良い声で泣けよ!」

 

「やめてぇ! 良い子にするからぁ! 何でもするからぁ! 助けてぇ! ママっ……! ママあ……っ! ママぁあああ……!」

 

「ははは! おめぇのママも今頃どこかで喜んでるかもなぁ! もしくはもうこの世にいなくなってるだろうぜ!」

 

「いやぁああ! ママぁああああ! ママあああああああっ!!」

 

「安心しな! てめぇも直ぐにママの元に送ってやるからよぉ!」

 

 レガリアは母の名を呼びながら、泣き叫び続ける。

 しかし止まらない。

 それは幼き頃の再現であった。

 二度と味わいたくないと思った地獄を、レガリアはしばらくの間、再び体験した。

 何度も男達に襲われ、全身に暴力を受け、穴という穴を犯されて体内を男達の精で膨れ上がらせても、それは止まなかった。

 

 ――だが数時間が経った頃。

 

 もはやレガリアの意識は希薄で、母を呼びながら鈍い反応を出すだけの機械となった頃、男達が焦り、何言か話し合った後に逃げようとした。

 その際に、レガリアだけは連れて行こうと彼女の身体を持ち上げた瞬間、

 

「早くずらからねぇと! もう森にま――」

 

「…………」

 

 言葉を言いかけた男の首は、不意に胴体から分かれた。

 その結果が生じたのは彼だけでなく、この場にいた人間の男達全て、同様に首を斬られて絶命した。

 それを行ったのは、蒼く輝く長い魔剣を持った、金髪灼眼の魔人であった。

 森の外に逃げようとする人間達は、今度は森を囲んでいる魔物達に殺される羽目になった。

 先んじてやってきた魔人レオンハルトは、無事なカラーを探して街を回ったが、それは無駄足に終わった。生き残ったカラーの殆どが森の奥に逃げ延びたり、一か八か、西や北の魔物界や、翔竜山に逃げ込んだ。

 そちらの捜索を指示し、レオンハルトは人間を掃討していたところ――それを発見した。

 

「……お前は……」

 

「マ……マ……ま、まぁ……」

 

 壊れたように声を漏らすそれは、辛うじて生きていた。()()()()()

 彼女を見たわけではないが、近くに落ちている服の切れ端や、ペンダントや王冠。それを見れば正体は分かる。

 だが伝え聞く彼女の印象とは、当然だが違う。今の彼女は、全身に暴行の後を滲ませながら、虚ろな表情で、虚空へと手を伸ばそうとしていた。

 

「パ、パ……やめ、て……マ、マ……た……けて」

 

「…………」

 

「な、んで……こ……な、こと……する、の……?」

 

「……俺が分かるか?」

 

「なん……で……やさ、しく……して……く……ないの……?」

 

「……さぁな」

 

 意識がはっきりしていないことを確認し、その質問に息を吐いたところで、レオンハルトは魔剣を振り上げる。

 レオンハルトは彼女の事情は知らないし、ましてやそれを理由に手心を加えることもしない。

 どんな境遇だろうと、行き着くところまで行き着いてしまったものには手を差し伸べる事もできない。辛い境遇に遭い、その末に行動を起こしたとしても、それは彼女の責任だ。

 だから、代わりにレオンハルトは言った。最後の言葉として、

 

「今生では無理だろうが――」

 

 言う。それは、

 

「来世であれば……俺を頼れ。力になってやる」

 

「…………」

 

 何かあれば、自分を頼れと。

 意味のない声掛けではあるが、今生でどうしようもなく救えなかった彼女に対して、慰めとしてそう言い――レオンハルトは剣で首を刎ね飛ばした。

 その表情は、最後にほんの僅かに、安心した様に――笑みを浮かべていたように見えた。

 

「……ふん」

 

 剣を収め、レオンハルトは最後にその亡骸を見ていたが、直ぐに視線を切って踵を返す。

 まだやるべきことは残っている。無事なカラーも残っているはずだ。

 この世のどうしようもなさ、彼女が感じていたであろう考えに僅かに内心で同意すると、レオンハルトはその場から消えるように移動した。

 

 

 

 

 

 そうして、魔軍はカラー王国跡地を占領し、人間を追い払った。

 多くのカラー達が犠牲となったが、カラー王国各地に潜入した魔軍の工作員や、ケッセルリンクらによって救われた者もそれなりにいた。

 魔軍によって捕虜となったカラーの多くも、普通に働かされるのみで、暴行されるようなことや、命を取られるようなことはなかった。

 

 ――その結果、全てを算出した書類を目にし、それを相手に渡したレオンハルトは、静かな声を自分の城の執務室で響かせる。

 

「――これが今回の一件で救えたカラーの数と、犠牲となったカラーの数だ」

 

「……そう、ですか……」

 

 その内容を見て、クライアは声を震わせる。無理もないことだ。

 救えた数もそれなりにいたとはいえ、当初のカラー王国の人口の半分以上は、人間の犠牲となってしまった。

 クライアがこうして頼み込んだにも関わらず、犠牲となったカラーの数はあまりにも多い。戦争を多く経験したレオンハルトやその配下の者達は慣れたものだが、それでもハンティやペールにも思うところがあったのか、ほんの少し憂鬱そうに動いている。

 今までの相手はただの人間だったが、やはり同族を失う悲しみを初めて味わったこともあり、あっさりと割り切れるものではないのだろう。

 そして、良い経験になる――などと頭の中で考えている自分の思考にも憂鬱になる。これくらいで動じなくなったことを、喜ぶべきなのか分からないが、現実としてそうなっている。

 とっくに分かっていることだが、通常の人間の精神とは一線を画しているのだ。惨たらしい光景を目にして、気に入らないと眉をひそめはしても強い感情は動かない。

 今もクライアを見て、これを乗り越えてくれるか、という部分に焦点が行ってしまう。

 それでも気を使う気持ちはあるのだろう、レオンハルトは目を伏せ、彼女に対して告げる。

 

「役立たずだと、罵ってくれても構わないし、恨んでくれても構わない。この犠牲の大きさは、お前が望む結果ではなかったはずだ」

 

「…………確かに、そうかもしれません」

 

 こちらの言葉に、ですが、とクライアはまっすぐとこちらを見て答える。

 

「それでも、レオンハルトさん達がいなければ、皆死んでいたかもしれません……ありがとうございます」

 

「……それはそうかもしれんが……」

 

 クライアが頭を下げてお礼を言う。こちらの戸惑いに顔を上げ、

 

「わたしが、もっと早く……レオンハルトさんに助けを求めていれば……」

 

「……ああ。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。だが少なくとも、お前は最善を尽くした。あのタイミングで会えたのも、相当運が良かったはずだ」

 

「……」

 

 クライアの問いに、敢えて曖昧に同意する。

 内心では、結果は変わらなかったかもしれないとも思っているのだ。

 カラーのクリスタルという資源が人間にバレた時点で、遅かれ早かれこうなることは目に見えている。それを防ごうとするなら、カラー全体を魔軍に組み入れたり、人間を滅ぼし尽くすといった方法を取らなければならないがあまり現実的ではない。

 だが、お前がもう少し早ければ助かった、と言うつもりもない。そうかもしれないが、現実的ではないからだ。あの時点で会えたのは言ったように相当運がいい。

 曖昧な言葉で留めたのは、クライアへの気遣いだ。何もそこまで言うことはない。もしも、という救いを否定するほど、レオンハルトは薄情ではない。

 

「これから……カラーはどうなるんでしょう……」

 

 ふと、そんな呟きをクライアが宙に乗せる。なのでレオンハルトは頭の中の計画を舌に乗せた。

 

「……少し考えがあってな」

 

「考え、ですか……?」

 

 ああ、と頷きを入れ、

 

「もう少し後の話になるが……森にカラーの隠れ里でも作らせようかと思う。カラーを守るためにな」

 

「――――」

 

「そうだ。もっとも、魔軍が表向きに協力するわけにはいかないからな。だから俺が個人的に支援する。始祖という立場にあるハンティと現地の協力者でも募ってやればいけるだろう」

 

 それが頭の中にある計画の一つだ。

 この先の時代を生き抜くためのカラーの助けにもなるし、自分にも利益が出来る可能性がある。友好関係を築けるというだけでも大きい収獲だ。

 それを話すと、クライアは息を呑み、その考えを理解しようとしばらく黙り込んだ。だがやがて、眉を立ててこちらを見ると、

 

「……わたしも、それを手伝いたいです……!」

 

「……お前が?」

 

 はい、とクライアは強い意志を秘めた瞳を向けて言う。お願いするように、

 

「……わたしは、レオンハルトさんに恩を返さないといけません。それは分かってます。ですが……お願いします。そちらの方も、手伝わせてほしいです……!」

 

「…………」

 

 再度、こちらに大きく頭を下げて告げてくる。その言葉はレオンハルトにとって少々意外なもので、僅かに目を細めた。

 しかし、出会ってから知ったクライアの性格を鑑みると、そこまでおかしな提案でもない。

 それに、クライアにそれを手伝わせることに、特に不利益はない。元々、クライアにやらせようと思っていたことは特にないのだから。

 ゆえにレオンハルトは答えた。クライアのお願いを受ける形で、

 

「ああ、構わない」

 

「! 本当ですか……!?」

 

 顔を上げ、興奮したように期待を込めた視線で見上げてくる。頷き、

 

「ああ。元々、お前にはこの城で働かせるつもりだった。カラーの隠れ里を作る上で、これから俺の仕事も増える。ならばその手伝いを、主にクライアにはやって貰おう」

 

「~~っ! ありがとうございます! レオンハルトさん! わたし、頑張ります……!」

 

 本当に嬉しそうに頭を下げるクライア。働かせてもらうことに感謝するその様子に少し可笑しくなるが、直ぐにそれを引き戻し、指示を出そうとする。

 そこで、扉は開かれた。外から突然入ってきたのは、

 

「――それじゃあ! クライアちゃんも私達の仲間! ってことで、今日からこれを着てもらいますよう!」

 

「ですわ! 頑張りましたのよ!」

 

「えっ、えっ?」

 

 突然ペールとキャロルが笑顔で室内に突入してくる。――その手にメイド服を持って。

 不意の事態に戸惑いを見せるクライアだが、そのメイド服を見て、

 

「えっと……その……可愛いですけど……ちょっと露出が……」

 

「なぁに言ってんですかクライアちゃん! こんなやらしい服着て、やらしい身体してるってのに、そんな変わらないですよう! レオンハルト様もそう思いますよね?」

 

「そ、そんな……うぅ……」

 

「……ノーコメントだ」

 

 クライアが恥ずかしがっているが、確かにそう思う。ぶっちゃけ服の露出度で言うならうちのメイド服よりも、クライアの着てる服の方が高いくらいだ。

 むしろ健全になるだろう、とレオンハルトはクライアにそれを勧める。また賑やかになったな、と思いながら、

 ……俺も、随分と面の皮が厚いな。

 そんなことを思いもする。

 そうしてレオンハルトは恥ずかしがるクライアと騒ぐペール達を見ながらも、これから先の事に対して再び頭を悩ませた。

 




これにてカラー王国編は終了。次回からはまた2、3話小話を挟みます。その後にNC期最後のイベントが始まりますってことでよろしく
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