※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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本当はもうちょっと長かったんだけど、書いてる途中でコンセント抜けてPC切れたことで一話丸ごと消えて急いで書き直したので、この程度で許してくださいな。
というわけで本編どうぞ


使徒バーバラ

 

 人類圏に住んでいた人間の少女――バーバラは魔物界で自分の生きる場所を見つけた。

 彼女の不幸は生まれた時から既に始まっていた。

 先天性の病気。バーバラは生まれた時から身体が上手く動かなかった為、何をするにも他者の補助が必要であった。最初の頃は家族も、いつかは治るのではないかという淡く、根拠のない期待を抱いて世話をしていたがバーバラが10歳になる頃には病気が治ることも諦め、世話も嫌々やるようになった。

 バーバラの家は平民の、この時代においては一般的な中流家庭である。餓死するほど貧しくはないが、それでも生活に余裕があるわけではない。

 彼女の世話に時間を割かねばならない、というのは働く上でも邪魔だったし、相当の苦労だったことだろう。

 だからだろうか。バーバラは家族に虐められた。

 それはただの八つ当たりでもあり、純粋な虐待でもあった。お前のせいで自分達は苦労させられている――そんな愚痴や暴言を呟くように、時には怒鳴るように聞かされたし、手を上げられることもあった。

 やがて、苦労させられている分のお金を家に入れろ、という言い分から身体を売らされた。先天性疾患を患ってはいたが、容姿には恵まれたバーバラではあったので程よく稼ぎにはなった。

 傍から見れば酷い境遇のバーバラではあったが、それでも彼女は家族を恨むことはなかったし、変わらず愛していた。

 自分が病気に罹って生まれてきたせいで、家族に苦労を掛けてしまっている。家族の言い分は事実でもあり、バーバラにも負い目があった。

 しかし家族は決して裕福ではない家でも、ここまで自分を世話して育ててくれたし、酷い扱いをしても見捨てることはなかった。そのことに感謝していた。

 魔物の活動が活発であり、戦争も多いこの時代、自分の食い扶持は自分で稼ぐくらい当たり前の話である。身体を売らされるくらい構わない。これくらいしか出来る仕事はないのだし、苦労を掛けた分、自分に愚痴や暴言を吐くくらい当然だと受け止めるべきだ。彼女は決して悲観も絶望もすることもなく、家族を愛し、身体を満足に動かせないながらも心だけは逞しく生きていたのだ。

 そんなある日のこと、父が珍しく、自分をおぶって外に連れて行ってくれた。

 外は雪が降り積もる寒い冬の日だったが、外出するのなんて何年振りだろう。まるで小さい頃のようでバーバラは嬉しかった。窓から眺めるしかしたことのない外の風景を、実際に見て肌で感じれる。しかも家族と一緒だ。こんなに嬉しいことはない。

 ほら見ろ。やっぱり生きていたら辛いことばかりじゃない。生きていたらいつか楽しいことだって訪れるのだ。

 些細な幸せを感じながら冬の山を登っていく。どこに行くのだろう。聞いてみたが曖昧に応えるのみだ。

 やがて父の足が止まる。山の中だった。ここに何があるのだろうと辺りを見渡していると、不意に父がバーバラを冷たい雪の上に下ろした。

 思わず驚いたのも束の間、バーバラをその場に置いて、父は踵を返してどこかに行ってしまった。

 呼びかけたが振り向くことはない。あっという間に父は雪の中に姿を消してしまった。

 どういうことだ、と思いつつもバーバラは必死に父を呼び、雪の上で藻掻くようにしてその後を追った。

 だが動かせるのは精々、腕くらいだ。追いつけるはずもない。

 雪山に放置されてしまい、脳裏にある不安が過ぎったが、それを無理矢理かき消して追いかける。――そんな筈がないと。

 これは何かの間違いだ。何か事情があるに違いない――そう信じ込み、バーバラは必死に雪の中を進んだ。

 手袋も何もない。辛うじて生地が薄い服を着ているだけ。手は赤く悴み、意識は朦朧としてくる。寒さで震えが止まらなかったが、藻掻いて藻掻いて、必死に山を降りていった。

 耐えていれば良いことはある。悲観することなんてない。

 それを信じ続け、彼女はとうとう、自分の家まで辿り着いた。

 家には明かりが点いている。バーバラは最後の力を振り絞り、腕で家の縁を掴み、窓から家族に呼びかけようと思った。

 だがそこに映っていたのは――自分を捨てた家族達が、暖かい部屋で談笑する姿だった。

 まるで自分など、最初からいなかったかの様に、今まで見たことのない様な表情で幸せそうに団欒する家族を見て、バーバラは気づいた。

 

 ――最初から、愛されていなかったんだと。

 

 バーバラは世界に絶望した。今まで必死に、何事にも悲観せずに生き抜いてきたが、そこで切れた。

 救いなんてないのだ。不幸な人間は不幸なまま。救われることなく死んでいく。この世の無情さを知ったバーバラは、そのまま雪の中で事切れようと力を抜いて、眼を閉じようとした。

 そんな時――不意に手が差し伸べられ、バーバラは熱を感じた。

 その正体こそが、人ならざる存在である魔人。バーバラの命の恩人であり、新しい行き場所をくれた主――ケッセルリンクだ。

 バーバラはしばらく、ケッセルリンクのところに世話になっていたが、やがて自らも望んでケッセルリンクの使徒となった。

 バーバラは、新たな一歩を踏み出すことが出来たのである。

 自分の足で歩き、新たな仲間と生活を始める。

 魔物界、という部分に不安が無かったと言えば嘘になるが、それ以上に身体が動くことと、ケッセルリンクの為になれることが嬉しかったし、周囲の人達も皆親切だった。もっと恐ろしい殺伐とした場所を想像していたのだが、拍子抜けしてしまったくらいだ。

 

 だが、大変な事もある。例えば――

 

「――はい、じゃあ次。右からー」

 

「っ……!」

 

 声が聞こえた瞬間、右から一撃が飛んでくる。咄嗟に腕でガードしたが声の持ち主の力は手加減していてもとんでもない威力だ。全く力を込めていない様子で軽い声が飛ぶ。

 

「受けきれない、って思ったら避ける感じで。――はい、じゃあ次は適当に組み手で」

 

「は、はい……!」

 

 そう言って声の持ち主――ハンティは軽く手を打ち合わせて合図を出す。

 野原の上で息を吐くと、疲れで思わず倒れそうになる。それを横から支えてくれる者がいた。

 

「大丈夫? バーバラ」

 

「ぱ、パレロアさん……あ、ありがとうございます!」

 

 そこにいたのはこちらと同様にケッセルリンクの使徒であり、訓練に参加してるパレロアだった。ふらふらしてしまったこちらを支えてくれたパレロアにお礼を言うと、優しく労ってくれる。

 

「良いのよ。もし疲れたのなら休んでも。貴方はまだ使徒になったばかりなのだし……まだ慣れていないでしょう?」

 

「あー……ひょっとしてやり過ぎた? だったらごめんね」

 

 こちらの様子を見てハンティも締りが悪そうに頭を掻きながら謝ってくれる。それをバーバラを拒否した。

 

「い、いえ、折角の機会だし……頑張りたいかなって……ハンティさんも、ありがとうございます!」

 

「あー、まぁ、大したことしてないから別に良いんだけどさ。無理はしないようにね?」

 

「無理なんて……」

 

「そうよ、バーバラ」

 

 ハンティの気遣いを受けながらも無理はしてないと言おうとしたところで、今度は横からシャロンがやってくる。ケッセルリンクの使徒の中で1番の古株である先輩の姿に、思わず畏まる。

 

「シャロンさんまで……あたし、別に無理なんて……」

 

「良いんですよー、バーバラさん」

 

「加奈代まで……」

 

 この中では1番歳が近いらしい加奈代が得物である弓を持ってやって来る。こちらの背後を指して、

 

「少しくらい休んでも大丈夫です。そういうのは、向こうに任せる感じでー」

 

「……?」

 

 と、加奈代の声で皆がバーバラに合わせて一斉に振り返る。するとそこには、

 

「いいですかエルシール様。昨今、戦えないメイドはメイドではない、などと言われて久しいですが、それは私も推奨するところです。主や家内の身を守るためにも、戦闘の心得があることに越したことはありません」

 

「確かに……」

 

「ましてやエルシール様は使徒。この“力こそが全て”の魔物界で生きるならば力を付けることは必ず、役に立つことでしょう」

 

「……どうしてでしょう。今までで1番納得のいく説明を聞いた気がします……」

 

「さあ、時間は有限です。早速始めるとして……まずは戦闘スタイルを決めましょう」

 

「す、スタイルですか? 私、これまでは素手と魔法で――」

 

「確かにそれも悪くありませんが、メイドであれば他にも様々な戦い方があります。ナイフ、糸などの各種暗器は普段は服の下に隠す事が可能で仕事の通常業務の邪魔にならない上、お洒落感が増します。大剣なども見栄えがいいですね。後は、キャロル様と同じ様に銃とか……」

 

「す、素手だと駄目なんですか……?」

 

「素手でしたら古くから真のメイドにのみ伝わる一子相伝の拳法、冥土拳がありますが……宜しければお教えいたしましょうか?」

 

「……何だか色んな武器を試してみたくなりましたので、そちらをお願いしてもいいですか!?」

 

「……そうですか。でしたらナイフから順番に使ってみましょう。訓練の相手には、ご主人様から部隊をお借りしました」

 

「え?」

 

 メイド長さん、と呼ばれるメイドさんの突然変異体の女の子モンスターの背後から一糸乱れぬ素早い動きで現れたのは、黒い装備を身に着けた魔物兵だった。彼らは順番に喋り始める。

 

「我らは魔軍最強のレオンハルト軍の中でも選りすぐられし精鋭だけが所属を許された最精鋭の部隊……!」

 

「レオンハルト軍特殊猟兵部隊――その名も、ブラックティーガーである!」

 

「この度はレオンハルト軍とケッセルリンク軍の合同軍事演習に於いて、光栄にもエルシール様の訓練に協力を求められたものである!」

 

「そして――……えー、あー……と、やべっ、次何て言うんだったかな……」

 

「馬鹿者! 貴様、台詞を忘れるとは何事か!!」

 

「格好良い喋り方と台詞の練習は毎日欠かさず行えとあれだけ通達しておいただろうが!」

 

「も、申し訳ありません! 私の不徳が成すところで御座います!」

 

「……まあいいだろう。気を取り直して――そう! 我々は集団戦と隠密行動に特化し、独自の作戦行動を取ることが許された特殊部隊なのだ!」

 

「隊員は選りすぐられし精鋭! 何故かアブノーマルな性癖の持ち主が多いが、それはただの偶然だ!」

 

「特殊部隊、の特殊の意味は決して特殊性癖という意味ではないから注意してほしいであります!」

 

「しかしそのせいか、レオンハルト様には微妙な眼で見られることが多く――」

 

「馬鹿者! それを言うと皆傷つくからやめろと隊の規則に書いてあるだろうが!」

 

「ふ、ふふ……訓練前に手痛いダメージを受けてしまったな……さすがはエルシール様……」

 

「まだ何もしてないのだけど……」

 

「ここからは気を引き締める必要があるな……! 総員、かかれ!」

 

「おお!」

 

「え、ええっ!?」

 

 魔物隊長の号令とともに、エルシールに襲いかかる魔物兵達。それを外から見て、助言を行うメイド長さん。

 その光景を見て、バーバラは戦慄した。

 

「……いや、あそこまでは……」

 

「でしょ?」

 

 加奈代の言葉に頷く。さすがにあれに巻き込まれるのは御免被りたい。

 もっとも、エルシールは自分達のリーダーでもあるメイド長なので1番戦闘訓練に気合いが入ってるというか入れなければならないという事情もあるらしいが。今もシャロンがそのことについて言っている。

 

「エルシールは私達の中で1番強いものね……」

 

「やっぱりそうなんですか……」

 

 エルシールとその特殊部隊だという部隊との戦いを見ながら呟く。

 多対一という状況。使徒の身体能力があるとはいえ、ケッセルリンクの使徒達は使徒の中ではそこまで強い方ではない。だがやはり戦闘慣れしていることもあってか、エルシールは良い動きを見せて相手を翻弄していた。

 

「慣れない武器を使うと……くっ」

 

「ぐ……はぁ……はぁ……中々やるな……!」

 

「ああっ、隊長に傷を!」

 

「隊長が興奮している!」

 

「まさかあの姿を解放するつもりでは……!」

 

「ふ、ふっふっふ、さすがはエルシール様。普通の姿では相手にならないようです……」

 

「普通の姿?」

 

 エルシールが周囲の魔物兵の攻撃を躱しながら疑問符を浮かべる。膝を付いた魔物隊長は不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

「左様! 魔物隊長スーツを着た私は真の姿の数分の一程度の実力しかないのだ!」

 

 魔物隊長は魔物兵と同じく、特殊なスーツに身を包んでおり、中身は通常の魔物が入っている。そのことを指して、真の姿を言っているのだろう。周囲の魔物兵も囃し立て、

 

「出るぞ……最強の魔物隊長と名高い隊長の真の姿が……!」

 

「我らが隊長であるイカ伯爵様はイカマン! しかし、只のイカマンと侮るなかれ! 隊長は魔軍の中でも数少ない突然変異体! レオンハルト様にその実力を認められ! かの紅魔城の警備隊総隊長も兼任しているのだ!」

 

 隊員達が器用に戦いながら隊長を称賛していた。その間にも、魔物隊長はその外部装甲を外していく。

 

「そして隊長はかなりの紳士でもある!」

 

「ドMなのに触手責めが大好きという倒錯した性癖を持ち、街の女の子モンスター相手に正面から触手で責めても構いませんか? と聞いてしまうほどの変態だ!」

 

「ふふふ、照れるな……」

 

「見ろ! ドMだから部下に罵られようが傷を負おうが精神的には無傷どころか回復する! どうだ、恐ろしいだろう!?」

 

「メイド長さん! 私、今直ぐ戦うのを止めたいです!」

 

「駄目です。それと、メイド長で結構です」

 

 変態に遭遇したエルシールの必死の提案を一蹴するメイド長さん。その間にも、イカ伯爵はその細身で人型の姿を晒していた。

 イカの怪人の様な見た目をしたイカマンは見た目だけなら強そうでスマートに見えるが、はぁはぁ、と息を乱しながら触手をうねうねさせてエルシールににじり寄る姿は恐怖でしかない。

 

「はぁ……はぁ……さあ、エルシール様……我が攻撃を受けて頂きますよ……! もしくは、もっと打ってください……!」

 

「きゃーーーっ!? こっち来ないで!!」

 

「うわぁ……」

 

 気持ち悪さに皆で少し距離を取る。エルシールもあまり見ない必死の顔で悲鳴を上げてメイド長さんから受け取ったナイフをイカの怪人に向かって投げていた。狙いが完璧になっているのは火事場の馬鹿力というやつだろう。バーバラは皆と同じ様に引きながらも、こうも思う。

 ……あたしも、あれくらい動けるように……。

 使徒になって病気も治り、身体を十全に動かせるようになったとはいえ、今まで歩いたことがなかったせいかたまに加減を間違えてふらつくことがある。直に慣れるだろうが、出来ればケッセルリンクの役に立つためにも皆と同じくらいには動いて役に立てるようになりたい。

 そのためにも出来る限りこういった訓練の時は頑張りたいのだ。

 と、そんなことを内心で思っていると、

 

「――調子はどうかね?」

 

「! ケッセルリンク様……!」

 

 今度は別の方向からケッセルリンクがやって来た。ほんの少し額に汗を流しているのは、同じ様に訓練をしていたのだろう。シャロンやパレロア、加奈代など、エルシール以外のメイド達が近づき、バーバラもそれに倣った。

 

「お疲れ様です、ケッセルリンク様」

 

「お疲れ様です! ケッセルリンク様!」

 

「お疲れ様ですー。今、お茶をお淹れしますね?」

 

「お疲れ様です、ケッセルリンク様。おじ様との模擬戦は如何でしたか?」

 

「うむ、ありがとう。……そうだな、私としても良い運動になった」

 

 そう言って微笑を浮かべるケッセルリンク。シャロンが言う“おじ様”というのはあの最強の魔人レオンハルトのことだろう。

 レオンハルトはケッセルリンクと仲が良く、只ならぬ関係らしい。昔から親交が深いので使徒同士も仲が良いのだと言う。そのため、こうやって使徒達をハンティが指導したり、合同訓練の様なことも問題なく行える。そのハンティとケッセルリンクも、カラー同士であり、色々と関係があるので気安い仲だ。今もハンティが近寄り、

 

「そのレオンハルトは?」

 

「連続でガルティアと戦っている。それが終わったら一度戻ると言っていた」

 

「そっか。じゃああたしはあっちの様子も見てこようかな」

 

 と、言って横目を向けるのは大勢の魔物兵達が集まる場所。そこでは、お互いの軍が連携や行軍の確認をしたり、軽く部隊同士で模擬戦を行っていたりする。

 そちらには、両軍を預かる魔物大将軍、リーとバルカ。レオンハルトの使徒であるキャロルやペールがいる。ハンティもそちらに合流しようと言うのだ。

 

「じゃあ、また後で見に来るよ」

 

「はい、キャロルさん達にもよろしくとお伝え下さい」

 

 ハンティとシャロンがやり取りを交わすと、ハンティは即座に掻き消える。瞬間移動という高等魔法だ。それらを見て、やはり思うのは、

 ……やっぱり、周りは凄い人だらけだ。

 能力や知恵があり、それを活かす術を知っている。未だ手探りの自分とは違うのだ。

 それを思うと、手に力が籠もる。そろそろ訓練を再開しないと、と思っていると、

 

「バーバラ」

 

「! はい、何でしょう、ケッセルリンク様」

 

 主に呼び止められる。直ぐ様返事をすると、ケッセルリンクはこちらをじっと見て、

 

「……君はまだ、身体の扱いに慣れていない。私の為に頑張ってくれるのは嬉しいが、無理をされると心配だ。――それを頭に入れて、頑張るといい」

 

「……!」

 

 ふっ、と微笑を浮かべて励ますケッセルリンク。

 完全に内面を見抜かれていることに一瞬驚くも、千年以上を生きる魔人に、内心が見透かされてることは何の不思議でもないとも思う。それだけ分かりやすかったというのもあるだろうが、やはり隠し通せないだろう。

 その上で、心配だという言葉を入れて頑張るよう励ましてくれた。そのことを嬉しく思う。

 

「……はい!」

 

 だからこそ、頑張ろうという気力が湧いてくる。

 自分を救ってくれた恩人に報いるためにも、使徒として成長しなければならないのだ。

 そうして心が晴れやかになったバーバラは、また一歩を、自分の足で踏み出した。そして、

 

「きゃあああああ!? このっ……変態!」

 

「ぐはぁ!? ぐ、はぁ……はぁ……やりますな……だが――気持ちいい!!」

 

「何で倒れないの!?」

 

「エルシール様。イカ伯爵様は毎日、自分で自分の身体を痛めつけるほどのドMです。殺せれば話は簡単ですが、それはさすがにマズいので捕らえてみましょう。次は糸を使った戦闘です。エルシール様の為に取り寄せた特別性の糸をお渡しします。これなら修練次第で相手を捕らえることも――」

 

「それ、どれだけやればいいんですか!? 直ぐには出来ないですよね!?」

 

 新たに糸を渡され、模擬戦を行うエルシール。それをじっと見て、ケッセルリンクが、

 

「……ふっ、エルシールも、頑張っているようだな……」

 

「…………」

 

 染み染みと良い感じに言うケッセルリンクに、バーバラは心の中で出掛かった言葉を呟く。

 ……あ、その程度な感じなんだ……。

 少なくとも、違和感が無くなるほど日常的にエルシールはあんな風に頑張っているらしい。頑張りたいは頑張りたいが、ああいう方向に頑張りたくはないな、と変態に悪戦苦闘する先輩メイドの姿を見て、バーバラはこれから先の生活を夢想した。

 

 そして後日、変態との戦いを潜り抜け、更にメイド長さんの特訓を受け続けたエルシールはと言うと――

 

「……糸、本当に使えるようになってしまったわ……」

 

「さすがはエルシール様です。私は信じていました」

 

「…………」

 

 明らかに信じていなさそうだったが、本当に強くなってしまったので言うに言えなくなってしまったエルシールであった。





エルシール「はぁ……何だか最近の私、どんどん苦労キャラになっていってる気が……」

七星「貴方もこちら側に来ましたか……」←キャロルに何故かライバル扱い

ハンティ「仲良く出来そうだね……」←ガウガウに苦労させられたり、社畜になってきてる

エルシール・七星・ハンティ「はぁ……」

ラウネア「…………(次回は魔王のターン!)」
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