まあそれは置いといて、新作RPGを楽しむ感じでお楽しみ下さい。序盤のオープニング感。きっとこれから、王道冒険ファンタジーが始まるんやろなぁ……
というわけで『死滅戦争編』開幕です()
――この世に、神はいない。
誰かが言ったそんな言葉を、僕は信じたくはなかった。
だが、10歳の時に初めて生まれ育った田舎から出て世間の色んなものを見て、そこに住む人の話を聞いて、単純にこう思った――酷い世の中だと。
田舎で暮らしていた頃は感じることはなかったが、世界は荒れていた。
貧困、などではない。確かに貧しさに苦しみ、その日を生きるのに精一杯な人はたくさんいたし、道端で餓死しかけ、掠れた声で物乞いをする大人を見た。
まだ何も知らなかった僕は、僕の帝都での後見人になってくれるという先生に問いかけた。
――どうして?
曖昧な質問。どの部分に答えればいいか解らない質問は今考えれば酷いものだった。
でも幼い僕は、怪我や貧困、心の傷を負って生きる気力を失った人達を見て、何を聞けばいいか分からなかったのだ。
何故こんなことになっているのか。貧しいのか。怪我を負っているのか。彼らを何とかしてくれる人――国の偉い人や教会の人は何故彼らを救わないのか。そんな世の中の理不尽を問いかけるのに、あの時の僕は上手い言葉を見つけることが出来なかったのだ。
だから何故? と聞いてしまった。
とても困らせてしまった。先生の苦虫を噛み潰したような表情を見て、僕はそれを軽々しく尋ねたことを後悔した。
しかし先生のその表情は一瞬。直ぐに先程までの表情に戻ると、必要な事だと判断したのだろう、少し間を置いてその質問に答えてくれた。
――魔物さ。
短い答え。しかし単純かつ分かりやすい答え。そんな答えを、先生は
多くの人間が苦しんでいる理由、それは魔物だと言う。色々理由はあり、中にはそれ以外の要因、人間自身が理由の場合もあるが、大本は魔物の所為だと。
そんな言葉を口にした先生は、先生の右腕を見る僕を見て、かつての経験を僕に話してくれた。
先生はかつて、帝国でも名の知れた騎士だったらしい。
帝国では騎士というだけでエリートだ。兵隊とは違う。兵隊は志願すれば誰でもなれるが、騎士になるには厳しい試験を潜り抜けなければならない。
必要なのは強さだけではない。一番重要なのは腕っぷしの強さ。剣や槍の腕だが、教養だって必要となる。
何故なら騎士は、国を守るための主力だからだ。
皇帝陛下の居城、国の中枢である王城を守護するのも騎士。皇帝陛下を直接守護するのも騎士。何千、何万という兵隊を率いて他国や魔物と戦うのも騎士だ。
故に強さだけではない。最低限、戦術についての理解や、知識が必要だ。
そんな騎士達は民衆からすれば憧れの的であり、社会的な立場も兵隊に比べれば高い。
給金だって相応に貰える。街で普通に働くそこらの大人の数倍。あるいは数十倍。もっと途方もないお金を貰えることもある。命を懸ける職にお金欲しさに――という意見もあるかもしれないが、僕が騎士を目指す一番の理由はお金だった。
女手一つでこれまで僕を育ててくれた母に少しでも楽をさせてあげたいため、僕は平民でも大金を稼げる可能性のある騎士の道を選んだ。
幸いにも僕は小さい頃から剣を振っており、腕にはそこそこの自信があった。田舎で元兵士だというおじさんに教えて貰っていたのだが、彼の言を信じるなら僕には才能があるらしい。
実際、僕は村の中では1番強かった。とはいえ、それは戦えるものがいないからだ。村で戦えたのは幼馴染で、母が魔法使いだという女の子と、元兵士のおじさんだけ。
だからだろうか、僕が騎士を目指すといった時、母やその幼馴染は猛反対した。
死んでしまうかもしれない。理由はほぼそれだった。お金のために命を懸けることはないと。母は諭すように言った。
心配してくれるのは嬉しかった。だけど……どうしてだろうか。その時の僕は、不思議とそれでは駄目だと直感的に感じていた。
確かにこれまで通り、母の畑を一緒に耕しながら長閑に暮らす生活も悪くないかも知れない。
だが、その安全に保証はないことを、僕は薄々と感じていた。
そもそも小さい畑で採れる少ない作物を売って暮らすのは価格が安定しているなら問題ないかもしれない。しかし作物の相場は一定ではないし、売れなくなることだってあるかもしれない。
仮に戦わなくても、死ぬ可能性は何処にだって転がっているのだ。
だから安定した生活を送るために、危険な仕事に手を出すのは愚かな選択とは一概には言えない。それだけ平民の生活は苦しいのだ。
だからこそ、危険だと分かっていても軍に入ろうとする若者は減らない。命を懸けなければ死んでしまうのが今の世の中だ。
だから――
一向に譲ろうとしない僕を見て、やがてそれを認めてくれたのか、母の伝手で先生を紹介してくれた。母が唯一付き合いのある都会の人だと言う。元騎士だという隻腕の男に剣の腕を見てもらい――結果は言うまでもなく僕の負けだったが、光るところがあると認めてもらい、一緒に帝都までやってきた。騎士になり、お金を稼ぐために。
そんな僕に初めて教えてくれたのが、騎士になったらほぼ確実に戦うことになる――魔物のこと。
世界の半分は魔物に支配されているという。強大な力を持つ魔物達の王――魔王と、その配下である魔人達。そして魔物の兵が多く集う魔軍。彼らは、定期的に人間の国に攻め込んでくる。
魔物と人間の戦争。言葉にすればそうだが、人間が勝つには絶望的な戦力差があり、何処の国も防戦一方であるらしい。
かくいう帝国も、魔軍の被害が多い地域だ。近年、更に活発になったという魔軍は何度もこの国に攻め込んでは多くの人間を殺し、食べ物などを奪い、恐怖を与えて帰っていくという。
街で苦しんでいる人が多い理由がこれだった。魔物が国を襲えば、例え滅ばなかったとしても国は困窮する。食料は少なくなるし、多くの人手も失う。例え生き残ったとしても後に残るような怪我をしてしまえば働くことも出来ない。
元騎士だったという先生も、かつては国を代表する騎士だったが、魔人との戦いで腕を斬り落とされて騎士を止めたらしい。
そのことを話す先生の顔は、子供の僕が見てもはっきりと分かるほどに青褪め、怯えていた。
帝都に来て、僕が一番強いと思った人は今の所先生である。現役の騎士団幹部や高名な冒険者などであれば強い人もいるかもしれないが、少なくとも、騎士見習いとして騎士を目指す者達や、教官としてやってきた現役の騎士の中にも、先生より強い人はいなかった。話を聞いてみると先生は片腕を失った今でも、強さは上から数えた方が早い騎士だと言う。
なので国から現役復帰を打診されているらしいが、先生は断り続けているのだと言う。
原因は解らない。でも、魔人の事を思い出して震えている先生を見て、それが関係しているのかもしれないとは思った。
先生の様な達人を戦意喪失させる。それだけの戦闘力を持つのが魔人。――騎士が戦わなければならない相手がそれだった。
無敵結界というあらゆる攻撃を弾く絶対防御を持ち、腕の一振りで数十人の人間が吹き飛ばされ絶命する。歴史上、魔人を倒した事例は、かつて人類を統一して魔軍との全面戦争に挑んだ英雄――藤原石丸しかいない。
人を越えた強さを持っていたというその石丸ですら、最後は別の魔人に殺された。
しかも魔人を倒し尽くしたところで、それに輪にかけて強大な魔王が控えている。
彼らを倒さなければ、苦しむ人間はいなくならない。少なくとも。増えはしても減りはしないだろうと先生は語った。
それを聞いてしまうと――この世に神はいないのではないかと考えてしまう。
だって本当に神がいるなら――もっと世界は、救われていていいはずだと思うから。
苦しみや悲しみに溢れた世界。田舎から出て世間を知ったことで、僕は世の無情さを思い知ったのだ。
困ってる人に手を差し伸べる余裕すらない。そんな世の中は間違っていると思うから。
母や親しい人も含め、多くの人を救ってあげたかった。
全ての人間が救えないとしても、僕の力で救える範囲で、出来るだけ多くの人間を救いたい。
そんな目標を掲げて僕――クエタプノは、騎士としての道を歩き始めた。
――NC89X年。
人間が生まれて約千五百年程。
人類という文明の、最盛期とも言える時代。一つの完成形ともいえるその文明の最中、大陸では戦乱が絶えず行われていた。
ここ数十年の間。大陸の支配者である魔王――ナイチサは人類への圧力を強めた。
これまで以上の頻度で魔軍を各地に派遣し、時にはナイチサ本人が同行し、人間を苦しめた。
その被害は――戦略的にはさして襲う必要のない長閑な村にまで及んだ。
「おらおら! 魔物様のお通りだぜー!」
「人間如きが勝てると思ってんじゃねぇぞ!」
魔軍の一部隊が戯れに人間を襲っていた。それは本隊が近くの街を占領したため、哨戒も兼ねて周囲を見回っていたところで村を発見し、ストレス発散も兼ねて襲ってみたに過ぎない。
だが一応戦闘となっているのは、街が占領されたことで村の人間を連れて逃げるために、この国の兵達が訪れていたからだ。
「怯むな! 何としてでも住民を死守しろ!」
「ぐっ、しかし……うがっ!?」
部隊の隊長らしき騎士が必死に部下達に指示を出しているが、多勢に無勢。ただでさえ人間の兵より強い魔物兵だ。数でさえ負けてしまえば勝ち目はない。
今はまだ部隊は崩壊していないが、まだ崩壊していないだけだ。このままでは住民も合わせて、死ぬのは時間の問題。
そんな絶望の戦場で、騎士見習いの少年は剣を手に戦っていた。
「はっ――!」
「ぐえっ――」
「ふっ……!」
「うが、つ、強ぇ……」
村の外れで住民を背に、一人戦っているのは綺麗なブロンドの髪を結った少年だ。
無駄のない細身の身体を鎧に包み、端正で中性的な顔立ちをした少年は、騎士見習いとは思えない剣の冴えを見せ、魔物兵を次々と屠っていた。
しかし魔物兵達も逃げる様子はない。数の上では勝っているためか、数十体の魔物兵達は集団で少年を襲いかかってみせる。
「この数に勝てると思うなよ――へぶっ!?」
「っ……後、どれだけ……!」
眉を立て、周囲を見渡しながら必死に戦う。額には汗が滲み、息が徐々に乱れ始めてくる。逃げるならまだ戦う力が残ってる今の内しかない。
そして、一人なら逃げることも出来るかもしれない。だが、
「う、うう……!」
背後にいる村の住人を感じ、少年はその選択肢を思いついた瞬間に掻き消す。
そんなことはあり得ない。騎士を志す人間が、戦う力のない人々を守るために存在する騎士が、守るべきものを放って逃げるなどあり得ないのだ。
戦うしかない。その覚悟を再度決める。
一人前になるまでは無理をするな、というのが先生の教えだが、その教えを守る余裕は無さそうだった。
実力があるからと騎士に正式に任命される前に実地訓練を行った途中で魔軍の奇襲に遭ったのはついていない。そのまま現場の指揮官に戦力として数えられたのも不運だと言える。
だが後悔はしていない。例え上司が命じずとも、自分から志願していただろう。
眼の前で助けを必要としてる人を、見捨てることは極力したくない。ましてや自分一人の力で助けになれることがあるかもしれないのだ。躊躇する理由はない。
「ふー……」
戦闘用に呼吸を一度、大きく行う。呼吸は戦いにおいて重要だ。動く上でもそうだし、心を落ち着けたり、気持ちを切り替えるためにも使える。
一度覚悟を決めてしまえば、腹は括れる。
――大丈夫だ。やれる。
思ったよりも魔物兵は強くない。部隊の規模も、魔軍の一部隊であれば数は200の筈だ。こちらは自分も合わせて50名程。既にどれだけ減ったかは解らないが相手に与えた損害は少なくないはずだ。
仮に200丸々残っていたとしても、後200だ。いや、自分がもう30倒したから170。仲間が一人一殺してくれていれば120。
希望的観測だが、後120体の魔物兵を斬ればいい。もしかしたらその半分くらいも倒せば撤退してくれるかもしれない。
「……では、行きます」
「はっ! 息を整えて、どこに行こうって――ぐぎゃっ!?」
「何処にも行きませんよ。――貴方達を全員倒す。その覚悟を決めただけです」
逃げる振りをして、前に出てきた魔物兵の首を斬り裂く。
続く連動の動きで近くにいた魔物兵も横薙ぎに剣を振って倒す。これで32。
「てめっ! いい加減に――うあぁ!?」
「……良かった。その……服? を着ていても、目眩ましにはなる様ですね」
「っ、砂を……がっ――」
足元の砂を左手で掴み、魔物兵の顔に向かって振りまく。思わず顔を押さえたところを一閃。他の魔物兵が声を荒げて、
「くそっ、卑怯な事しやがって――っぐ」
「申し訳ありません。今はそんな余裕がないもので」
襲ってきた相手の得物を剣で防御し、手首を返すように弾いてそのまま喉笛を突く。34。
確かに正々堂々であることに越したことはないし、騎士らしい振る舞いは常に心掛けている。だが、戦場ではそれを守るだけの余裕がないことも知っている。これくらいの小手先の技で人を救えるなら、幾らでも使う。外道な行為であればともかく、この程度であれば、卑怯と罵られようが使うことに躊躇いはない。
「ふっ!」
「あぎゃああ――!?」
「ぐえっ!?」
これで36。何とかなりそうだ。
先頭の何名かが死ぬ覚悟で体ごと押し込むように襲いかかり、そのまま押し潰すように押し斬られてしまえば、たった一人で戦う自分には為す術はない。戦えているのは、魔物兵達がこちらの強さに恐れをなしているからだ。
誰だって死ぬのは怖い。それは魔物も同じなのだろう。強者を前に、攻め掛かることを躊躇するのは生物として当然のことだ。
「ぐ、くそ……!」
だからそこを見逃さない。躊躇した魔物兵の隙を突くように剣を振るう。観察眼は中々のものだと先生に褒められている。相手の一挙手一投足、表情などの感情の変化にも注目し、意識の薄くなった瞬間、部位を狙う。
カウンターの様な奇襲の様な戦い方で魔物兵を倒していく。これで42。後20も倒せば引いてくれるかもしれない。もう少しの辛抱だ。
そんな時だ。奥から大きな魔物がやってきたのは。
「もう遊んでいるのかと思ったが……まだ戦う者がいたのか」
「! あれは……」
大剣を持った人形の魔物。それは確か、魔物隊長だ。
おそらくこの村を襲った部隊の指揮官だろう。兵達に注意しながらも、意識をそちらにも向ける。
すると他の魔物兵がこちらを指して、
「た、隊長! あの人間、滅茶苦茶強いです!」
「ほう? ……しかしまあ残り一人だ。どれ、俺も相手するか……!」
「っ……!」
大剣を構えてこちらに向かってくる魔物隊長に視線を鋭くして注意深く見詰める。
魔軍は指揮官である魔物を倒せばいい。それが常識だ。魔物兵の指揮を行っている魔物隊長や魔物将軍を倒せば、部隊は瓦解して魔物兵はまとまりが取れずに容易に倒すことが出来る。人間同士の戦いにも通じることだが、魔物の場合はそれが最も顕著であるという。
であれば彼を倒せばいい、と剣を強く握りしめた。しかし、
「ぐっ……!」
「ははは! ガキが調子に乗ってよくも俺の部下を殺ってくれたな!? お礼にお前も、直ぐに仲間の元に送ってやるぜ!」
その剣を受け止めはしたが、その大剣から伝わる重さに腕が軋み、苦悶の表情を漏らす。
魔物兵ではそこまで感じなかったが、これが人間と魔物の差。身体能力の上で圧倒的に劣っており、身体が出来上がっていない自分ではかなりキツい。
剣技だけならこちらが勝ってるかもしれない。しかし、純粋な剣速の差と、力によって徐々に押し込まれる。
そしてやがて、
「! しまっ――」
「おらっ! 死ねやああああああああ――っ!」
「――!」
魔物隊長の大剣に剣を持つ腕がかち上げられた。そのまま大剣を横に滑らせるように叩き込まれ、
「く、あ……っ!」
剣で防御しようとしたが間に合わない。そのまま大剣の腹が、こちらの横腹にぶち当たり、凄まじい痛みと骨に感じた衝撃で意識を飛ばしそうになりながら、奥の茂みにまで吹き飛ばされ、木の幹にぶつかる。
背中を打ち付け、空気が口から漏れて、そのままうつ伏せに倒れる。遠くから声が、
「よーし、こんなもんで終わりか」
「さすが隊長! あの強い人間をやっつけちまうとは!」
「これで後はお楽しみですね!」
……くっ、止め……!
声を出すことすら出来ず、顔を上げて手を伸ばすが、力が入らない。痛みに気絶しそうになりながらも、魔物達の喜ぶ声と、人間の悲鳴が大きくなる。
――やはり、駄目なのか。
人間では、魔物に勝つことは出来ないのか。
苦しみに抗うことは出来ないのか。
この世に救いはないのか。
神はいないのか。
幾つかの疑問が浮かんでは消え、救えなかったことを酷く悔しく思う。
既に死んだと思ったのか、とどめを刺しにこないが、それもキツかった。村の人々の苦しむ声が聞こえるのだ。いっそのこと、気を失ってしまえばどれだけ楽だっただろう。
しかしこんなところで終わるわけにはいかない。こんなところで、自分は、
……もし、神様がいるなら……。
教会や人々が謳うその慈愛に満ちた存在。もし本当にいるのなら、
……何故こんな悪を……見逃すのですか……!
悪逆非道の輩。罪を犯した彼らは然るべき罰にて裁かれるべきなはずだ。
しかしそんな奇跡は起こらない。
自分はここで終わるし、神はいない。
――そんな時だ。
「――――力、欲しいですか?」
「……っ……!」
それは眼の前から聞こえた。
薄れる直前の意識を必死に叩き起こし、目を見開くと、そこにいたのはリュックを背負い、フードを被った小柄な少年。
村の人――には見えない。そもそも何故ここにいるのかも解らない。
そんな何処か不思議な雰囲気を持つ少年は、力が欲しいかと己に問いかけた。その問いの意味は理解できない。欲しいと答えたところでどうなると言うのか。何も起こらないはずだ。そんな都合の良いことがあるはずない。
しかし、気づけば、
「……ほ……し、い……!」
喉から声を振り絞っていた。僅かに目を見開かれ、
「! まだ口を開く力がありましたか。思った通り、見どころがありますね」
淡々とした様子で喋る少年。だがその内容はどうでも良かった。それより、
「……力が欲しい――って、顔に書いてありますね。まあいいですけど、結構大変ですよ? それでも要ります?」
「……ひと……を、すくえる……なら……なん、でも……!」
それは本心だった。
出来るだけ多くの人間を救いたい。
理不尽に抗えるだけの力が欲しい。
その力で、苦しむ人の数を減らしたい。
世界に光を与えたい。
そう思って――クエタプノは、手を伸ばした。
そして意識を失うその刹那、
「……いいですね」
少年の口端が一瞬歪み、そして、何かを取り出してクエタプノの前に差し出した。
――それは古びた剣だった。
完全に錆びてしまっている剣をクエタプノの前に差し出し、その少年は感情の読めない表情で言う。
「貴方、名前は?」
「……ク……エ、タプ……ノ」
「クエタプノね。はい――では、クエタプノ。貴方は選ばれました」
選ばれた、と少年は言う。
クエタプノを見下ろしたまま、錆びた剣に視線を向け、
「これを手にとってください。そうすれば、
瀕死のクエタプノに対して、剣を取れと言う。
それは到底無理なことだった。
だが、
――それで本当に、人を救う力が手に入るなら。
「っ……!」
――英雄は立ち上がる。
例えもう無理だと、万人が諦めるような状況であっても。
「僕、は……人を……!」
英雄は、勇気を胸に立ち向かう。
「救い、たい……!」
他者の為に、自分の力を使える者。
神に選ばれ、力を授けられた者
魔物に立ち向かうことの出来る、人類にとっての唯一の希望。
勇気を振り絞って戦う者。その名を、この世界ではこう呼ぶ。
閃光が走り、
「……おめでとうございます。これで貴方は、人を救う力を手に入れましたよ」
その名を、少年は口にする。
「――新しい“勇者”……クエタプノ」
――勇者。
それはこの世界で唯一、
その力に選ばれ、何かが身体に染み込む様な不思議な感覚を覚えながら――クエタプノは、意識をゆっくりと手放した。