※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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今日はちょい短めで。そろそろ、件の帝国のターンも来ます。次回は出来ればその辺の話と、勇者となったクエタプノ君のターン。
――後、ずっとクエタブノ君だと思ってました(小声) 教えてくれてありがとうございます


違和感

「――何? 村に行った部隊が戻ってこない?」

 

 占領した人類圏の街で指示を出していた魔物将軍は、副官の魔物隊長の報告に訝しげな表情で確認を取った。

 

「それは確かか?」

 

「はい。今他の部隊を向かわせて確認を取らせているところですが……」

 

「……ふむ」

 

 内容は、哨戒に出ていた部隊の消失。順調に占領出来ていたと思ったところに起こった僅かなイレギュラー。

 戦いの中で部隊が一つ消えるのであれば話は分かるが、この辺りの戦力は軒並み掃討し終えたはずだ。

 だというのに戻ってこないということは……十中八九、もうこの世にはいないだろう。

 そういうことであれば心配はその部隊よりも部隊を潰した敵の存在だ。隠れ潜んでいたところを運悪く遭遇してしまったのは災難でもあり、僥倖でもある。

 敵がいる、ということが分かっただけでも価値はあるのだ。

 

「念の為、警戒しておけ。哨戒する部隊の数を増やすぞ」

 

「はっ、畏まりました」

 

「後は――」

 

 とりあえず敵を探させ、警戒網を強めたところで次の手を考える。随分と余裕が出来てしまった。となれば、更に侵攻することも考えたい。

 過度なやり方はマズいが、一つくらい余計に街を落とすくらいであれば構わないだろう。

 だが許可は取らなければならない。故に魔物将軍はその場から少し移動し、上官の元へ向かった。

 占領した街の中で一番大きな屋敷。その屋敷の中に、この軍のトップである存在はいた。

 

「ぐぁはぁはぁはぁ! オラオラ! お楽しみタイムいくぜぇぇぇぇ!!」

 

「ひっ!?」

 

「た、たすけて……」

 

 屋敷の広間。即席で作られた玉座の間のような空間の中心で、耳障りな笑い声を響かせる大柄の化け物がいた。

 複数の腕や生殖器を持つ獣のような姿を持つ彼に、人間の女性達が恐怖とおぞましさに腰を抜かす。人間にとっての最悪な相手――魔人だ。

 

「良かったなぁてめぇら! この、魔人四天王の一人であるスーパーウルトラミラクルな俺様にやられるんだからよぉ! 感謝してもいいんだぜ? ぐぁはぁはぁはぁはぁ!」

 

 それも彼――ケイブリスが自分で言うように、末席とはいえ魔人四天王の一角を目の前にすれば絶望するのも無理はない。

 魔人というだけで恐怖だが、ケイブリスはその中でも特に人間が嫌悪する様な見た目をしているのだ。触手のようなそれを、人間に纏わりつかせようとしたところで、魔物将軍は声を掛けた。

 

「ケイブリス様。少しよろしいでしょうか?」

 

「……あぁ? 何だ、魔物将軍。俺様は見ての通り忙しいんだがよぉ」

 

「邪魔してしまい申し訳ありません。少々進言したいことがありまして……」

 

 ケイブリスがこちらを向いて、億劫そうな様子でそう言う。魔物将軍は即座に謝りつつも用件を伝えた。

 この軍のトップは当然、魔人であるケイブリスだ。故に許可は取らなくてはならない。そうでなくとも気分を害せば殺される可能性もある。

 

「……チッ、しょうがねぇな……さっさと報告しやがれ」

 

 ありがとうございます、と礼を挟んでから、魔物将軍は時間を取らせないように率直に告げた。

 

「先の戦い、ケイブリス様のおかげで随分と余裕が持てましたので……あと一つ、この先の街に侵攻しては如何でしょう」

 

「あ? どういうことだ。最初に言ってた計画だとこの街で終わりじゃねぇのか?」

 

「は、その通りですが……余裕がありすぎて多くの兵が手持ち無沙汰になっているのは現状です。なので、もう一戦、戦功を上げるついでに収獲を増やすのはどうかと愚考致しました」

 

「…………」

 

 ケイブリスが考えるように少し黙る。実際、今言った事は本当の事でもあり、物資の数も連れてきた兵の数と比べて少し少ないのだ。

 なので敵戦力をもう少し潰すついでに、侵攻しては如何かと説いた。魔人であるケイブリスがいれば、次の戦いも楽勝であることは間違いないし、少しくらい欲を出してみるのかどうかと。

 しかし、

 

「…………駄目だ」

 

「……は、それはどういう……」

 

 許可を出さない可能性は低いと思っていたところに、否定の言葉が来たので僅かに間を置いてから理由を問う。するとケイブリスは声を荒げて、

 

「――いいから余計な事すんじゃねぇ!」

 

「っ……」

 

 魔人の一喝に身が竦む。上級魔人の威圧はそれだけで相手を気絶させかねない代物だ。魔物ですらそうだし、見れば女たちなどの中にはそのまま気絶してしまう者すらいた。

 魔物将軍は魔物の中でもエリートである。その自負は伊達ではなく、ケイブリスの一喝を耐えると、そのまま続く言葉を耳にした。

 

「作戦では一応、この街までだと、他ならぬレオンハルトの奴が言ってるってのに! テメェは俺が積み上げた信頼をブチ壊す気か!?」

 

「! い、いえ……そんなつもりは……」

 

 そんなつもりはないと、慌てて釈明するが、ケイブリスは怒ったままこちらを睨みつけ、

 

「そう言ってんだよばーーーか! いいから大人しくしてろ! 戦いにも勝って命令もきっちりこなしたってのに、無駄に動いて心象悪くなるようなことは出来ねぇんだよ!」

 

「は、は……そういうことであれば畏まりました……」

 

 若干残念に感じながらも魔人に逆らえるはずもないので従う。

 しかし魔人レオンハルト――魔人筆頭という最強の魔人の命令に一言一句違わぬよう正確に従い、かの魔人を怒らせる可能性は潰したいという。その気持ちは分かるのだが、些か怯えすぎだと考えてしまう。

 何しろ作戦では、この一帯の街を標的にしており、この先にあるもう一つの街は、おそらく次に攻めることになるとも言っていたのだ。時間の問題だと。

 ならば現場の判断で、臨機応変に。先に攻めておくのも悪くないはずである。末席とはいえ魔人四天王であるケイブリスの判断であれば、文句はそこまで出ないとも思う。

 しかし万が一、億が一、機嫌を損ねる可能性を考えて、ケイブリスはその提案を却下した。

 

「ったく……まだまだ敵わねぇってのに、ふざけた事言いやがって……」

 

 ぶつぶつと何事かを呟きながら、改めて女達の方に振り返ったことで、気絶していない女達は再び怯えたように顔を青褪めさせる。

 そして、

 

「……さぁて、邪魔が入ったが……待たせたな。テメェら全員、犯してやるぜぇぇぇぇぇ!!」

 

「ひ……あ……!」

 

 ケイブリスがその触手の様なものを巻きつけようとし、実際に何名かが即座に絡み取られて陵辱された。

 しかし、その獣欲を叩きつけようとケイブリスが女達を見たところで、

 

「――ん?」

 

 ふと動きを止める。暴行が一時的にだが止まった。

 何かを見るようなケイブリスの視線。それは、一人の女性の胸部にあった。

 

「や、やめて……!」

 

 集められた女達は全員美女だったが、その女は他の女と違うところがあったのだ。

 それは――胸の大きさだ。

 他の女と比べても明らかに大きい。そんな女を見て、興奮するのも確かである。

 しかしケイブリスはじっとしばらくその女を観察し続け……頭の中で計算を終えたところで、舌打ちを一つ。

 

「……チッ。――おいテメェ」

 

「! は! どうか致しましたか?」

 

 魔物将軍に向かって声を掛ける。そしてその女を指差し、

 

「そこの女、連れてけ」

 

「は……と、申しますと……」

 

 魔物将軍もちらりと横目で女を見た時点で、何となく予想は付いたが一応問う。するとやはりと言うべきか、予想と同じ言葉が来た。

 

「決まってんだろ。贈り物にするんだよ」

 

「……は、畏まりました」

 

 やはりそういうことだ。魔軍だと有名な話。魔人レオンハルトの巨乳好きだ。

 野心ある者や、機嫌を取りたい者が率先して集め、献上する。ケイブリスは、その贈り物の常連。信頼を手放さないため、定期的に巨乳美女を捕まえては送っているのだった。

 ゆえに魔物将軍は確認を取った。それは、

 

「……手紙には、何て書きます?」

 

「……あ? 馬鹿かテメェは! 今は夏だろ!? なら、“暑中見舞い申し上げます”に決まってんだろーが!」

 

「……それもそうですね、申し訳ありません」

 

「おう。いつも通り速達で送っとけ」

 

「その様に」

 

「あ、後か、かかか、か……かかカミーラさんに、送るようの宝石も集めておけよ! そっちの方は間違っても勝手に送るんじゃねーぞ! 宝石はお、俺様が直接、か、かかかカミーラさんに渡すんだからな!」

 

「……承りました」

 

 と、女を運ぶ様に連れて、屋敷を後にする。一度司令部に戻ってケイブリスの代わりに手紙を書かなくてはならないのだ。

 

「……はぁ……転属、考えておくか……」

 

 ケイブリス軍は色々と気を使う部分が多いし、ケイブリス自身が色々と理不尽だったり、器が小さかったりで、仕えがいがない。

 自身より強いレオンハルトにはぺこぺこと情けない姿を見せ、カミーラには最近になって遠回しにアプローチを掛けている。

 間接的にその被害を被る魔物将軍の頭の中は既に手紙と、魔物界に帰った後に出す予定の転属願いの事で頭がいっぱいだった。

 部隊を全滅させた敵の事を脳の片隅に追いやり、魔物将軍は重い足取りで司令部へと向かった。

 

 

 

 

 

 何かがおかしい、とレオンハルトは感じていた。

 自身の寝室で、そんな考えをしてしまうほどにはそう思う。

 それは表面的にはほんの僅かな違いだが、レオンハルトにはその違いが、今までの経験からはっきりと感じ取れていた。

 

「はぁ……んっ、ちゅっ、レオンハルトさまぁ……だぁいすき……」

 

「あぁむ、じゅる、れろ……ちゅぱっ……おひんひん、おいひい……」

 

「レオンハルト、様……の手すごいぃ……! 気持ちいい、よぉ……」

 

「ほぉら……おっぱい、ちっちゃくても気持ちいいでしょぉ……?」

 

 ……それは別に、胸の小さいメイド達が集まって色々としていることは関係ない。おかしくとも何ともない。そりゃあ毎回ローテーションしているのだからたまにはこういう日もある。

 そもそもこの場合は表面的に大きな違いだし、別に小さいのが嫌いというわけでもない。これを言うと、冗談を言っているのだと笑われるか、えっ、みたいな反応をされてしまうのが納得いかない。

 確かに、業腹ではあるが、己の性的趣向、信仰の対象が巨乳であることは甘んじて認めよう。それはもう今更だ。その辺りの趣向がバレバレで良い気分ではないのは確かだが、もう全世界規模で知られているのだ。さすがに慣れた。

 大きいおっぱいが好き。別に何もおかしなことはない。これを非難する者の方が少ないはずだ。

 で、それは良いとしよう。しかしだ。別にそれが好きだからとて、他のものが嫌いであるということではない。

 つまり、巨乳が好き=貧乳が嫌い――ではないということだ。

 これはそう――例えるなら食べ物だ。

 大好物の食べ物がある。それは例えるなら肉だ。肉類が好きで、特に唐揚げが好き、とか。そういった好みが誰しもあるだろう。

 だが肉類が好きだからとて、野菜が嫌いというわけではないし、食卓に出されて食べないわけもない。野菜を食べたい時だってあるのだ。

 そりゃあ粗悪品であったり、そもそも料理が不味かったりしたら食べないが、それは食べ物全般に言えることだ。この場合は全て美味しいものを食べるという前提の話だ。

 で、あればだ。美味しいものであれば肉も野菜も好き、というのが生物の本質だとレオンハルトは思う。

 無論、嫌いな調理法もあるが、それは避ければいいだけの話だ。食材の話であれば素材の部分で苦手なものは少ない。

 それに誰しも覚えがあるだろう。子供の時は肉や濃い味付けのものが好きだったが、歳を取ってからは野菜や、素朴な味も好むようになってくることが。

 歳を取って、脂っこいものは胃もたれする、という人だっている。自分は歳を取っても肉や脂っこいものが好きだが、それでも歳を取って、色んな物を食べるに連れ、好物が増えていくというのは自分とて例外ではない。

 長く生きてると色んな発見があるのだ。野菜の味わい深さなども段々と分かってくる。野菜だって食べごたえはあるのだ。そもそも野菜だって肉がないわけではない。尻とか――後は、小柄だと()()()()()()――と、少しずれたがそうじゃない。

 要するに、肉が大好きだけど、野菜も好きだ、ということだ。しかしこれを周囲に言って聞かせると、御歳暮の中身が肉に加えて野菜も追加されるようになるので、言っていいか悩む。

 というか自分を良く知る部下限定だが、稀に高品質の野菜を送ってくる者がいる。おそらく他の者達の裏をかいているのだろうが、正直、全部後で返す予定なのであまり変わらない。受け取るのはあくまでも、食材が望んだ場合のみだ。

 これだけ言えば分かるだろう。自分は、決して貧乳が嫌いというわけではないのだと。

 揉み応えはないのが残念だが、遊べることには変わりない。他の部分だって変わらず楽しめる。皆違って皆いい。それで良いはずだ。

 閑話休題。とにかく、自分はおかしな思いを得ていたのだ。

 それは他ならぬ――魔王ナイチサのことだ。

 ここ最近、魔軍の仕事が忙しいのは、他ならぬナイチサが、もっと積極的に人間を苦しめろと、直接自分や他の魔人に命じたからだ。

 滅ぼせ、ということではない。方針自体は変わっていない。適度に殺し、奪い、苦しめる。その適度が、大幅に上がっただけだ。

 理由は解らない。個人的な推測、想像のようなものであれば幾つか考えもあるが、確証はない。

 ただナイチサは、人間をこれまで以上に苦しめているだけ。魔王としては全く違和感のない、普通の、当然の行動だ。

 つい先日も、魔王城の廊下でパイアールと会話している時、こんなことがあった。

 

『――こんな感じだけど……貰ってもあまり意味はないと思うよ? あくまでも情報処理の為のものだからね』

 

『いや、個人的に興味があっただけだ。確かにこれだけではあまり使えないだろうが……まあ、また何か有用そうなものがあれば教えてくれ』

 

『……はいはい。それで僕の代わりに、魔人としての仕事をこなしてくれるならいいよ』

 

 こんな風にパイアールと会話している時、廊下の奥から歩いてくる気配を感じ、レオンハルトとパイアールは膝を突いた。

 

『……レオンハルトに、パイアールか』

 

『は、ナイチサ様。少し雑談をしておりました』

 

『…………』

 

 魔王ナイチサの登場に、レオンハルトは傅き、パイアールも無言のまま頭を垂れる。

 そのまま通り過ぎるかと思ったが、ナイチサは声を掛けた。パイアールに、

 

『そう言えばパイアールよ』

 

『……何でしょうか、ナイチサ様』

 

『うむ、卿の作る機械……あれは確か、戦闘用のものもあったはずだな?』

 

『……はい。パワードスーツなどでしたらありますが……』

 

『聞いたことがある。確か、人に装着して使うものであったな』

 

『……よくご存知の様で』

 

 だが、と、ナイチサはパイアールの言葉に頷きながらも、

 

『……もっと効率的に、人を殺傷出来る……戦う事の出来る機械などはないか?』

 

『…………は? それは……?』

 

 突然の質問に、さしものパイアールも疑問を頭に浮かべる。それを受けてナイチサは、何か考え込むように顎に手を当てながらも、

 

『……いや、そういうものがあれば面白いと思ったまでだ』

 

『……そうですか』

 

『うむ。……もしかしたら、頼むこともあるやも知れん。考えておいてくれ』

 

『…………畏まりました』

 

 そう言って、パイアールが了承したのを見届けると、ナイチサはその場から去っていった。

 戦闘用の機械。その可能性を考える素振りを見せていたナイチサは、魔王としてはやはりおかしくないものだ。その会話の内容も、別段、不思議ではない。

 しかし所々で何かを考えるような、謎の間を、ナイチサは時折作る。――それが妙に、気になるのだ。

 それは普段からよく接しているためか、細かな違和感となってレオンハルトを悩ませるのだ。

 何か思うところがあるのか。それとも――と、レオンハルトはあくまでも自身の想像を振り払う。

 推察は出来るが、本当にそれと関係があるのだろうか、と。

 そして、もしそうであれば、一体どんな影響を及ぼすのかと。

 であれば、自分はどうするのが一番良いのかと。考える時間が増える。とても重要な事だからだ。

 仕事と平行して色々と行ってはいるが、やはりどうなるかは未知数の出来事は自分の行動に迷ってしまう。

 ……やはりこのまま――。

 

「あっ、ん、んっ、レオン、ハルト、様、あっ、んんぅ」

 

「――っ、そろそろ……一度出すぞ」

 

「らしてぇ……! レオンハルト様の、ほしい……!」

 

 メイド達を抱きながらであるため、思考はこの程度に留めておこうと思う。彼女達の為でもあるとはいえ、情事の最中にあまり別の事を考えては失礼だ。仕事は忙しいが、こちらも手を抜くわけにはいかない。

 それに忙しいは忙しいが、頻繁に人間を襲っているせいか、段々と戦いも楽になってきている。相手が疲弊しているためだ。

 それを考えると、もうしばらくは、少しだけだが気を抜いていても良いのかも知れない。遠征が多くて、彼女達も欲求不満になっている。城にいる時くらいは、彼女達との時間を楽しむのも悪くない。

 

 ――レオンハルトがこの世界の重要人物、勇者と初めて出会ったのは、仕事とプライベートで忙しい、そんなある日の遠征中のことであった。

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