大陸東部。
人類圏にあるその国家は、人類文明の一つの完成形としてそこにあった。
しかしその成り立ちは比較的新しい。
NC歴後期――魔王ナイチサの時代。かつて人類を統一した藤原石丸率いる藤原家は魔軍に大敗し滅亡。それと同時に多くの国家が崩壊し、幾つもの土地が、いずれもの国家に該当しない空白地帯となった。
大陸の覇権国家を目指そうと、大陸中央部はカラー勢力に取り込まれ。
またJAPANでは石丸の跡を継ぐ帝の座を巡って多くの戦国大名が争い合う戦国時代となった。
そういった情勢の中、崩壊した大陸東部の有力者が寄り集まって発足したのが、前身ともいえるオピロス国である。
オピロス国は崩壊した各国領土に生きる人々を導くために現れた国家組織であり、戦争での被害が少なく、負い目があった大陸南部の国家や一部の大名、AL教の支援を受けて国家機構を維持する。
しかし元権力者達の手腕は伊達ではなく、すぐに国家運営が軌道に乗り始めると、やがてオピロス国は大陸東部を殆ど統一してしまうほどの大国となった。
更には大陸中央部で人類の奴隷化政策を施政していたカラー王国を、外交によって他国や大商会を焚き付け、これを滅ぼす。そうして大陸中央部の約三分の一をオピロス国は戦争に勝った権益として受け取った。
新たな覇権国家の誕生は間近であったが、そんな時、オピロス国の最高権力者である元老院議会にて、その中心でもあった二人の議員が権力争いに奔走し始める。
自身の派閥を形成していた二人の元老院議員の争いは、元老院、ひいてはオピロス国全体を巻き込み、大規模な内乱に発展する。
戦乱の結果は引き分け。魔軍による人類圏侵攻が激しくなっており、この頃には人類同士も、さすがに争い合っている余裕はなかった。
双方痛み分けで終わった両国は分裂し、2つの国家となった。
大陸中央部と東部西側の一部を領土に持った西部オピロス王国。
オピロス国の前身、大陸東部を支配している東部オピロス帝国。
西部オピロス王国は大陸南部の諸国と交流を持ち、東部オピロス帝国はJAPANから移民としてやってきた日本人が多く住むことも関係してJAPANとの交流を持ち始めた。
一方で両者とも、この頃には大陸最大の宗教組織として知られていたAL教とも親交が厚かった。
――だが、国力として強いのは明らかに東部オピロス帝国だった。
西部と比べても、軍事力にかなりの力を割いている帝国。これは西部よりも魔物界と接している国土が多く、魔軍の侵攻が多発しているためでもあった。
それでも当初は王国に対して侵略戦争に乗り出すつもりであったが、やはり魔軍を放置することは出来ないと断念。外交によってオピロス国の正統後継国家であると主張するのみに留めた。
だが、魔物の被害に多く遭っていても、東部オピロス帝国はあらゆる物事において、人類文明としての絶頂期にあった。
皇帝陛下の名の下に、斬新な政策を幾つも施策し、日本人とJAPANの文化、AL教や大陸南部の文化などの全てを取り入れ、後の国家体系の礎ともいえる国家であった。
東部オピロス帝国。
帝国最大の都市にして、人類圏全体でも最大の都市として名高い帝都、テラ・ユークリッド。
人類圏にある全ての人種と文化が集まるその帝都に住む人々は、北東部で魔軍が暴れているという事実があってなお明るい。
なにしろ、帝都に住む帝国民のおおよそ7割は、とても裕福で不安もあまりない生活を送っているのである。
一般的な平民の生活ですら、他の国家と比べて明らかに豊かであり、基本的に食うには困らないのである――裏通りに住む人々以外は。
帝都の裏町とも呼ばれるスラムでは、魔軍の被害にあって難民と化した者達が、浮浪者紛いの生活をしており、毎日の様に餓死で死んでいく者がおり、犯罪が横行する帝都の裏の顔だ。
しかしこれは帝国の治世が悪いというわけではない。寧ろ国家は彼らを何とかしようと必死に頭を働かせていた。
そのためにも公共事業を増やし、身体が悪い、あるいは怪我などで身体に障害を持つ人も働けるような仕事も用意した。帝都の郊外では、スラムの難民が暮らせるようにと、公共事業で自分達が暮らすための街を作らせ、そこに住まわせようという計画も動いている。
街の治安を守るためにも、帝国にとっては莫大な予算を使って国防のために育て上げた騎士達を、街の警邏に当たらせた。
しかしそれでも帝都、延いては帝国民全てを幸福にすることは出来ない。
その事実に、帝国で最も尊い人物は、憂いを抱いていた。
帝国の顔ともいえるその巨大な城。
東部オピロス帝国の国父として知られる男の肖像画が飾られたその執務室に、帝国の頂点に立つ男がいた。
「――して、首尾はどうかね?」
「は……芳しくありません」
質の良く、仕事の邪魔とならない様に過度な調度品を抑えた部屋。その中にある大きなソファーの上で膝を組み、頬杖を付きながら部下である大臣に問いかけるのは、彫りの深く整った知的な顔立ちに、帝国人に多く見られるブロンドの長い髪をカールにした体格の良いこの男。
この男こそが、東部オピロス帝国皇帝――アレクサンドル・バシレウス。その人である。
彼は腹心である大臣の報告、その返答に眉を顰める。その内容は帝国の現状についてと、その現状を回復するための手段のことだった。
「……魔軍の動きは? 正確に答えたまえ」
「はっ、現在、魔軍は帝国北部、先日報告したソマーの街から東、キリイリアの街、その周辺の村までを占領されました。それに伴い、5万の兵士、及び数百の騎士が死亡し、北部から新たに逃げてきた住民は、推定20万に及ぶとのことです」
皇帝、アレクサンドルの顔が更に険しくなる。
「……西側の動向は?」
「はい。西側でも、魔軍によって北部の街が幾つかが占領されたようです。しかし魔軍の侵攻は一時止まり……それに伴い、西側からの工作員が多く放たれたようです。何名かを捕まえて吐かせましたので間違いありません」
「…………そうか」
報告を一通り聞き終えると、アレクサンドルは顔を手で覆った。
皇帝に相応しい、思慮に長けた人物として知られるアレクサンドル。帝国始まって以来の名君として知られる彼はいついかなる時も冷静で、帝国と帝国の民の事を想っている。幾つもの斬新な政策を皇帝の権力を使って強引に施行したのも彼だ。
数少ない休日ですら、私費を投げ売って民に施しを行い、支援している孤児院に自ら顔を見せ、子供にプレゼントを手渡す。いついかなる時も帝国の為に動き、職務の合間を縫って、いざという時の為に自らも身体を鍛え、趣味の歴史研究も、帝国や人々の為に何か希望はないのかと探し回るような人物である。
民からの人気も高く、部下や騎士達の忠誠も厚い。女性にも羨望の眼差しで見られ、子供達には将来は騎士か、皇帝のような人になりたいと言わしめる程である。
そんな誰よりも愛国心のある彼は、腹心しかいないこの場所で、普段溜め込んだ怒りを、とうとう解放した。
「――この、魔軍と、西側のカス共がッ!!」
机を拳で思い切り叩き、大きな音を鳴らす。怒りの形相で染まった彼は、普段見せるそれとは違い、激情に駆られて国家を脅かす者に対してキレていた。
「潰しても潰しても現れる……ッ! ニキビの様な奴らめ……! 何たる邪悪な……!」
歯を噛みしめ、怒りのままに立ち上がり、地団駄を踏み始める。大臣はそれに触れないようにひたすら気配を無に近づけていた。
「西側の爺共も! こんな時にばかりちょっかいを掛けてくる! 卑しい空き巣共めッ! 糞! 糞! 魔軍さえいなければ今直ぐに処刑してやるものの……!」
そしてそのまま大きく飾られた肖像画に向かう。そこに描かれているのは国父。アレクサンドルに似たその人物は、彼の曽祖父に当たる人物だった。
「ああ……! なんとお詫びすれば良いのか……ッ! 先人達が築き上げたこの東部オピロス帝国を……! そこに住まう人々を……! 未だに幸せに出来ていない……! 魔軍か、西側の爺共! そのどちらかがいなければ今頃は我らが帝国が人類を統一し、人類全てを幸福に包むことが出来るというのにィィィッ!」
「…………」
大臣が無言で彼を見続ける。アレクサンドルはその視線に目もくれず、やがて膝を突いて国父に頭を垂れた。
そして少しの間を置いて、ゆっくりと立ち上がると、
「……ふぅ、落ち着いた。すまないな、大臣」
「……い、いえ、いつものことですので」
スッ、と表情を真顔に、皇帝の顔に戻して大臣に軽く謝罪しながらソファーに戻った。
あらゆる事に秀でた完璧な王とも云える彼だが、時折激情に駆られて怒り散らすのは唯一の欠点とも言える。
しかしそれも、国を、民を想えばこそだ。国の礎を築いた国父に謝罪することで、彼は激情に駆られた心をフラットに戻すことが出来る。一種のストレスコントロールだ。
愛国心に満ちた自身の操り方を熟知しているアレクサンドルは、再び膝を組み、頬杖をつくと落ち着いた声で呟く。
「さて……早々に動かねばな。とにかく魔物だ。おそらくはしばらくそこに駐留するつもりだろうが、こちらも軍を動かせ。防衛線を築くぞ。魔軍を刺激しないギリギリのラインでだ。逃げてきた民は保護して後方に分散させて送れ」
「畏まりました。直ちに将軍達に通達しておきます」
「うむ、そうせよ。後は……捜索を強化せよ。この際だ。兵の一部を割いてでも見つけ出せ」
「そうですな……しかし陛下。本当に――」
と、ここまで皇帝の指示に素直に頷いていた大臣が難色を示すかのような表情を見せる。
それに気づいたアレクサンドルは、険しい顔でそれを止めた。
「何度も言っているだろう、大臣。それは絶対に必要なことなのだ」
「ですが、魔軍の相手ならば騎士達で――」
「ふぅー……大臣。貴様、軍務はからっきしだったな? いいや、答えなくていい。だからその様な事を言えるのだろう」
「…………」
皇帝の言葉に二の句を継げなくなる。確かにそれは事実であったからだ。
ゆえにかつては、自ら兵を率いて戦場に出ていたアレクサンドルは、その問題を指摘する。
「いいか? 魔軍に……魔人には絶対に勝てん。人間が勝つことは不可能なのだ。こちらを圧倒する身体能力、あらゆる攻撃を防いでしまう無敵結界。それぞれが持つ特異な力。人間では勝てんのだよ」
「で、ですが藤原石丸は――」
藤原石丸。人類史上初めて魔人を倒した英雄の名だ。
確かに彼は魔人を倒した。人間でも魔人が倒せる証明にはなるだろう。
しかし、アレクサンドルはそれを鼻で笑うと、
「ふん、藤原石丸? ああ、確かに、藤原石丸なら倒せるのだろうな。確かに、それは事実だ」
だが、
「藤原石丸なら倒せるが――奴は何体の魔人を倒した? たった1体であろう? それで24体はいるとされる魔人全てを相手することが出来るのかね? ――断言しよう。絶対に無理だ。仮に今も存命か、石丸並の人物が現れたとしても、精々魔人一体を相手にするのが関の山」
それでは魔人に、魔軍には勝てないのだ、とアレクサンドルは言う。
「更には魔王という規格外の存在もいる……いいか? 帝国を――人類を幸福にするためには、魔王と魔人共を一匹残らずこの世から消し去らねばならない」
「……しかし、それこそ一人の人間では――」
一人の人間でそれを成すことは不可能。そう言うのならば、皇帝が命じている人物の捜索すら無意味のはずだ。
しかしアレクサンドルは首を振る。諭すように、
「だから言っているだろう大臣よ。確かに、貴様が言うように、人間では無理だろう。
そう言って再びアレクサンドルは立ち上がった。執務用の机に近づき、懐から鍵を取り出すとそれを引き出しの一つに差し込み、中にあるものを取り出した。
それは一冊の手記。彼が若い頃、冒険家として世界各地を探索していた頃の記録だ。アレクサンドルにとって、国には及ばないものの、それを除けば最も大事な物の一つ。それを取り出して見せながら、彼は演説するように語りかけた。
「――私は若い頃はやんちゃで、未知なるものに好奇心を抱く純粋な少年であった」
それは伝え聞く若い頃の話。皇帝の経験の話だ。
「愛国心は昔からあったが、それでも若い頃の私は自分の欲を優先し、父にわがままを言って冒険に出かけた」
それは趣味の歴史研究にも繋がる話。様々な遺跡などを冒険したのだと言う。
「そんなある日だ。信じられないかもしれないが私は――神と出会った」
そう、神と出会った。それが嘘か真かはさておき、アレクサンドル自身は確かに神と出会ったと腹心に自慢する。
大臣は懐疑的であったが、それは事実であった。
「美しい女神であった。AL教の信者が言うように、黄金の髪をした美しい女神だったのだ……それまでの私は、神など毛ほども信じていなかったが、実際に会ったことで考えは多少変わった」
だからAL教との交流は今も持っているし、布教を大々的に認めてもいる。真実の宗教であるのなら、それを制限する理由などないのだ。
「しばらく呆然としていたが、私は気がつけば思わず、神に問いかけていた――帝国を……人間を、救う方法はないかと」
神と出会い、長年の疑問、直面する苦悩に対しての解決方法を問いかけたのだ。
神であれば、人間を苦しめる魔物達に対する対策も何かあるのではないかと。あるいはどうにかしてくれるのではないかと期待したのだ。
「女神は言った。“ある”と。確かにあると言った。そして、私にその方法を――いや、それを成すことが出来る存在を教えてくれた」
神は、ある人物ならば魔物を、魔王を打倒することが出来ると告げた。
そうそれこそが、
「――“勇者”。魔王と対をなす存在。人間の中で、唯一魔王に対抗することが出来る存在がいるのだと。勇者を使えば、人間を救うことは出来るのだと神は確かに言ったのだ。……だから私は、国に帰ってから勇者について調べてみた、すると僅かではあるが、それらしき存在が活動していた痕跡があった」
故に、アレクサンドルは命令するのだ。
「だから何としても勇者を探し出し! 我々はそれを全面的に支援し! 魔王を打倒してもらう! 情けない話だが、それこそが帝国や人々が救われる唯一の道なのだ!」
謳い上げるように彼は大臣にそう力説する。大臣はその熱に押されて身を引きながらも、一応は冷静に、
「……ですがその勇者は――」
「探し出せ! 何としてでもだ! 帝国の民、ひいては人類全ての命が懸かっているのだぞ!?」
「……畏まりました」
ご随意に、と大臣は頭を下げる。本当に勇者はいるのか、と懐疑的な視線を目を伏せることで隠しつつ。
――だが、勇者は確実に存在していた。しかもこの帝国内、帝国人の中に。
その痕跡が報告の中に含まれていることも彼らは気づくことが出来ず、東部オピロス帝国は勇者を探し続けた。
「――僕が勇者……?」
「はい。貴方は勇者です」
森の中。魔物との戦いを潜り抜けたクエタプノは、勇者の従者だと名乗る少年――コーラに話を聞いていた。
魔物隊長の一撃を受けて死を覚悟したが、気がつけば意識を復活させていた。
そして不思議な感覚のまま魔物達に戦いを挑み、見事勝利した。村の人達は全滅していたのが悔やまれるが、クエタプノはその力を不思議に思い、付いてきたコーラに勇者の話を聞いている最中だったのだ。
「……なら、あの不思議な感覚は……」
「不思議な感覚と言うと……」
「……魔物の動きが、よく見えるんです」
「あー、勇者になるとその辺りの見切りも鋭くなりますよ。一度受けた攻撃や必殺技なんかは完全に見切れるようになるはずです」
「……やっぱり、そうなんですね」
魔物隊長と再び剣を合わせると、不思議とその攻撃を見切って、躱せるようになっていた。
身体能力は上がっていないにも関わらず、魔物隊長や他の魔物兵達を倒せたのはこの力のおかげということになるのだろう。
少し、自分の素の力ではないことを残念に思ったが、それを振り払う。
贅沢な悩みでしかない。力が手に入ったのなら喜ぶべきはずだ。
今自分に出来ることは、手に入れた力の把握をすること。力を上手く使うための努力をする。そのために話を聞くのが最善だ。
僅かな残念を封じ込め、クエタプノは再び表情を引き締めてコーラに問いかけた。
「この力は……何処までのことが出来るんですか?」
「どこまでも出来ますよ」
「? それはどういう意味ですか?」
曖昧な言葉が帰ってきたのでその意味を問う。
するとコーラは淡々と、
「そのままの意味です。やろうと思えば、人類最強になることも可能です。一度上がったレベルは下がることはないですしね」
「レベルが下がらない……確かにそれは……有用な力ですね」
レベルというものはサボったり怠けていたりすると下がるのは有名な話だ。それが下がらなくなるというのは特殊な力ではある。だが、
……思ったよりも、微妙な力ですね。
折角手に入れた力だが、不謹慎にも内心でそんなことを思ってしまう。
レベルなど下がらない、下がらせないのが当たり前だ。レベルを下げるほどに怠けている戦士が、今の世の中で生き延びられるはずもない。戦う者であれば毎日の稽古などを欠かさないのは当然のこと。末端の兵士や冒険者ですらそうしている。
だから口ではそう言いつつも、心の中ではそれ自体に有益なものだとは思わなかった。見切りの力の方が有用なので、文句など出ようはずもないが。
しかしコーラの次の言葉に、クエタプノは今度こそ驚愕した。それは、
「まー……ちゃんと頑張れば、魔人や魔王も倒せるようになりますよ。勇者は可能性の塊ですから」
「! 魔人や……魔王も……? ……それは本当ですか?」
とんでもない事を聞かされたが、俄に信じがたい話だ。半信半疑で質問する。コーラは淡々と感情の読めない表情で、
「はい、本当です。まぁ、頑張りが足りないせいで、今までそれが出来た勇者はいませんけど」
今までも勇者はいたが、努力が足りなかったために、大した功績を残すことも出来ずに歴史の影に消えていったらしい。
だが魔人や魔王を倒せる力があるのは本当だとコーラは言う。クエタプノは少し考え込んだ末に、
「……その話、信用してもいいんですね?」
「……まぁ、私はどちらでも。ぶっちゃけ、そこまで出来るかは本人次第ですし、今回も駄目かなーって思いもあります。貴方、女性みたいな顔してますしね」
「……あまりそういった風に言わないで下さい。そう言われるのは苦手です」
その言葉に若干ムッとしてしまう。女顔と云われる事も複雑だが、それよりも、自分では何も出来ないと、努力出来ないだろうと言われたような気がしてしまい嫌だった。
クエタプノは微妙な表情をしつつも、一息、
「……分かりました。努力すれば、魔王を倒せるんですね?」
「倒せますよ。頑張れば」
「……ならそれでいいです」
どちらにせよ、自分は人を助けるために戦っていくつもりなのだ。
ならば保証がなくたって構わない。保証が無いと行動出来ないような弱い人間ではない。
それに最初から諦めていては、何も成せない。魔王を倒す。それは難しいことかもしれない。
だけど、最初からそれを目指していないものが魔王を倒せる可能性はゼロだ。目指していれば可能性は極小だが、確かにある。
勇者という称号と、不思議な力が目標を後押ししてくれるなら、それだけでも充分だ。才能があろうと努力しなければ意味はない。今までと何も変わらない。自分は人の為に戦うだけ。
腰掛けていた岩から立ち上がり、クエタプノは決意に満ちた強い瞳で告げる。
「貴方は付いてくるんですよね?」
「はい。勇者の従者ですから」
当然の様に付いてくるというコーラ。頷き、
「では早速行きましょう」
「何処に行くんですか?」
クエタプノはその問いに歩き出しながら答えた。前を向きながら声だけをコーラの方に飛ばす。
「まずは街に戻ります。僕は騎士ですので、色々と報告をしなければいけませんから」
「あー……そういえば国勤めの騎士でしたっけ……なら、あんまり自由には動けないですね」
だがクエタプノは首を振った。少し複雑な表情で、
「……いえ、いずれ騎士は辞めます」
「辞めるんですか?」
「ええ。騎士のままでは……他の仕事もあって戦い続けることは出来ませんし……他の国での活動も、早々許可されないでしょうから」
勇者は人を助けるために活動する。
であれば、どこか一国だけのために戦うことなど出来ない。
それに国の騎士では戦う以外にも任務が多く、強さだけを鍛えることは出来ない。
まだしばらくは騎士の戦いを学ぶためにも在籍することになるだろうが、それを終えたら辞めることになるだろう。
先生や故郷の母には申し訳ないが、誠心誠意謝って別の仕事を探すしかない。ゆえに今後の展望を、クエタプノは口にする。
「もう少しは戦いもあるでしょうし、騎士として動きますが、少ししたら騎士を止めて冒険者になります。冒険者であれば、雇われて戦場に出ることも出来ますし、魔物退治などの仕事も多い。お金を稼ぐことも出来ますから」
「……ふーん、まあ、好きにしたらいいんじゃないですか?」
「はい。好きにします。申し訳ありませんがちゃんと付いてきてください」
「見た目に似合わず強かなこと言いますね……」
「何か言いましたか? 早く行きますよ」
「……今度の勇者は忙しないですね……」
もはやコーラを置いてすたすたと足早に森を抜けようとしているクエタプノをコーラがボヤきながら追いかける。
クエタプノは歩きながら今後の事についての計画を考えながらも、勇者として動く意志を確かにしていたが、コーラはまだそこまで期待しておらず、今回も無駄に終わるだろうと思い気怠げであった。
――こうして、勇者クエタプノの冒険は始まった。
RPGならここでオープニングやなって。次回かその次辺りに、序盤の中ボス戦と負けイベントもあります。そういうのって大体ラスボスとかそれに近い相手と戦うよね(白目)