まあ自分は多分、しばらくはやらないと思うから安心してどうぞ。アリスソフトファンの皆様はプレイの合間の清涼剤として、これから始まる話を見てもらえたらなぁ、と思います。
そうでない人も、これから始まる話を、生ものでも口にしながら穏やかな気分でご覧ください
その話の導入編の最後となります。本編どうぞ
東部オピロス帝国首都。
その王城では、帝国で最も尊き人物である皇帝、アレクサンドル・バシレウスが腹心である大臣の報告を聞いて玉座から立ち上がったところであった。
「何ッ!? 勇者が見つかった!?」
報告とは、長年探し続けていた国を救うための人物、勇者のことだった。
大臣の口から確かに告げられた言葉、衝撃の内容に思わずもう一度確認を取る。しかし返ってくる言葉はやはり肯定で、
「はい……確かに勇者であると」
「おお……! 遂に見つけたか……!」
つい謁見の間だというのに支配者としての仮面は緩み、顔を綻ばせてしまう。これほど希望ある報告は久し振りだった。
しかし自覚があっても、直す気はない。興奮冷めやらぬままに問いかける。
「して、その勇者はどこに? なんという名前なのだ?」
「……それは」
だがそこで、大臣は言い淀んでしまう。アレクサンドルはその態度に違和感を覚えた。
何故躊躇うのか。それにどこか言いたくないような雰囲気を感じる。
大臣が勇者の存在に半信半疑であり、どこか好ましくない態度を取っていたのは知っているが、それにしても以前と比べて動揺している様に見える。
何か伝えたくないこと、隠したいことがあるように。
それをアレクサンドルは、皇帝として培ってきた観察眼にて見抜いた。
それと同時に、大臣も自身が隠したいことがあると見抜かれたことを見抜いた。故に皇帝の問いかけに観念した様に、続くやり取りは円滑になる。
「……早くしたまえ。時間が惜しい」
「はっ……では報告します」
と、大臣は懐から一枚の紙を取り出し、それを読み上げた。勇者の情報を纏めたものだ。
「……先日、偶然にも我が国が他国に忍ばせていた工作員が、一組の冒険者パーティの会話を耳にしたところ、そのパーティ内の会話に、勇者という単語が出てきたことで工作員はそのパーティに接触。その中にいる1人の少年が勇者であることを確信したため、事情を話し、条件付きで我が国までお招きすることに成功しました」
「ほう……!」
アレクサンドルは感心の声を上げる。やはり事情を素直に話すようにしたのは間違いではなかったかと。
無理矢理連れてくる、脅迫して手伝わせる、後ろ暗い手段は幾つでも浮かんだし、いざとなれば手段は選ばないアレクサンドルだが、こと勇者に限っては素直に協力を申し出た方が良いと考えた。
何しろ、魔王に対抗することが出来ると言われる勇者だ。その力は未知数であるし、正義の存在でもある。こちらを悪と見做せば国に危険が及んでしまうこととなる。それを思えば、素直に魔軍を、魔王を倒したいから協力してくれ、こちらも全面的に支援する、と言ってしまった方が良いだろう。
故に勇者の探索をしている工作員達には、勇者を見つけた場合、下手に出て協力してもらうように、と厳命しておいたのだが、どうやらそれが実を結んだようだと、アレクサンドルは判断に間違いがなかったことを確信する。
「して、名前は? どこの国の者だ?」
大臣は一息、間を置いて答えた。何かを吐き出すかのように、
「名前は……クエタプノ。我が国の出身で、少し前までは騎士であった男です」
「! なんと……! それは本当か!?」
「はい、間違いありません。念の為、何人かの騎士に聞き取りを行いましたが、確かに所属していたと。名簿にも名前があります」
おお、と声を上げ、アレクサンドルは歓喜した。
何たる幸運か。このような偶然があるのか。
やはり天は、神は我々を見捨ててはいなかった。愛する自国から勇者を出すことが出来るとは、何たる祝福。
だがそれでもなお、大臣は浮かない顔をしている。一体何なのだ、もっと喜んだらどうだ、と思うも、続く言葉にアレクサンドルは、大臣が隠したかったことに得心がいった。
それは、
「そして……私の……不貞の息子でもあります……」
「…………は?」
皇帝が間の抜けた声を発したところで、謁見の間が静寂に包まれた。
平野を行くうし車が一つ。
家畜としても使えるうしに、荷車を乗せて移動する。NC期に入ってから用いられるようになった移動方法であり、自分の足で歩くよりも速く、多くの荷物を乗せて運ぶことが出来る。
そのため貴族や商人に重宝されていた反面、平民には値段が高いため手が出ない乗り物であったが、最近は平民の間でも用いられるようになった便利な乗り物だ。
そのうし車の荷車の部分に、腰掛けているのはブロンドの髪を結った中性的な顔つきの少年――クエタプノであった。
周囲には三人の仲間も思い思いの場所に腰掛けているが、会話を行う者は誰もいない。
それは偏に、クエタプノの思い詰めたような表情のせいだった。
「…………」
彼は何かを考えているのか、一言も発することなく自分の使う道具や剣の手入れを先程からずっと行っている。
うし車に乗り込んでから、もっと言うなら、物思いに耽るようになったのはあの日以来からだ。
魔軍の支配下で人々を助けようと作戦を立て、実際にその通りに行動したが、結果は失敗。
カノやリナ、そしてコーラも、魔人の使徒と思わしき女性に出くわし、気絶させられ、気づいたら近くの町の路地裏に放置されていた。
そしてクエタプノも、魔人との戦いに臨んだのはいいが、敢え無く敗北した。
まるで手も足も出なかった――自分の戦闘を、クエタプノはそう評する。
先の魔人二体、レキシントンとレッドアイ。その二体に対しては攻撃こそ難しかったが、相手の攻撃を躱すことが出来たのもあって、一応は戦闘の体をなしていた。
しかし、その次に現れた魔人レオンハルトとの戦闘は――そもそも戦闘にすらならなかった。
出会い頭の一刀。無造作に放たれた一撃にて、クエタプノは為す術もなく地面に沈んだ。
今こうして生きているのは、ただ運が良かっただけだ。普通であれば、あの場で自分は殺されていた。
あまりにも偶然がすぎる、とコーラに聞いてみると、どうやら勇者になると、こういった悪運が強くなるらしい。
それを聞いて、クエタプノは自分に対する怒りが湧いた。
圧倒的な無力感。自分の力の無さを恥じた。
何が勇者だ。この程度で勇者と言えるのか。
勇者の力が無ければ、自分など何処にでもいるような普通の冒険者に過ぎないのだと、嫌でも分からされた。
分かっていたはずだが、それでも運のみで生き残ったと言われると自分の情けなさにがっかりしてしまう。
もっともっと、強くならなければならない。今のままでは、例え見切りの力があろうと、運が良かろうと、魔人や、ましてや魔王を倒すなど夢のまた夢だろう。
頑張りが、努力が足りない。だからこそ、クエタプノは一時、その誘いを受けて帝国へと戻ることにした。それは何故なら、
「……それで、どうして騎士を辞めたのにまた故郷に戻るんです?」
と、不意に考えていたことを問いかけられ、クエタプノはその声の方向に視線を向けた。
勇者の従者であるコーラだ。何の前触れもない質問だが、他2人はそんなコーラを見て、何やってるんだ、という顔をしている。
どうやら気を使わせてしまったらしい。こんなところも未熟だな、とクエタプノはずっと閉じていた口を開くと、息を吐き出し、話し始めた。その質問の答えを、
「……そうですね。今回の一件で自分の力不足を痛感しましたので、もう一度鍛えなおそうかと」
「……それで国に帰ると?」
「国の助けを得れるならそれに越したことはないですから。かといって、また騎士に戻るつもりはありませんけど」
自分の勝手な都合で辞めておいて、今更また騎士に戻る、などという厚顔無恥を晒すようなことは出来ない。そう口にすると仲間2人はほっとした息を吐いた。どうやらそのことについても心配していたらしいが、それについては心配はない。
「幾ら祖国でも、一つの国だけを贔屓するようなことは出来ません。僕は――勇者ですから」
「……ふーん、そうですか。まあ、
コーラの注意に、分かっています、と返す。国が支援に付いてくれるとは言うが、相手が国なだけに油断は出来ない。今の皇帝はとても優秀で、民衆から絶大な指支持を受けている名君だが、その半面、敵対者には容赦をしない性格で有名である。そこが人気の一つでもあるのだが、やはり国を背負っているとなるとこちらにも何か政治的な企みをもって近づいてきたのかもしれないのだ。
それこそ、他国との戦争に使われるようなことは避けたいし、それはあり得ない。騎士の立場であればそのために働くのみだが、今の自分は勇者だ。
人を助けるための要請や、魔物との戦いであれば幾らでも頼りにすればいいが、それ以外の企みに付き合うつもりはない。
一つだけ心配事もあるが、そのような事は勇者の自分には関係ない。そもそも例え勇者であろうと、相手はもうこちらとは何も関係のない相手だ。向こうがそのことを持ち出しても何も応じるつもりもない。自分の家族は母だけだ。向こうからこちらを、母を捨てたくせに今更擦り寄ってくるのは虫が良すぎる。もう既に赤の他人だ。だからこそ、クエタプノは国の頼みに応じた。
因縁ある相手がいるからと言って、それを断ることはない。もう関係ないのだ。他人として接するだけ。
それを強く心に誓い、クエタプノは一路、祖国へと帰る。魔軍との戦いの最前線でもあるその場所に。
もう一度鍛え直し、魔軍との戦争に参加し、その果てに魔王を倒すため。クエタプノは魔人達の強さを再度、脳裏に思い浮かべながら拳を強く握った。
――NC901年。
その年は、相も変わらず魔王ナイチサの命の元、魔軍が人類を苦しめていた。
特に東部オピロス帝国ではナイチサの暴虐による直接的被害を何度も受け、その大地を何度も血に染めた。
各地に散らばる魔人達も、ナイチサの命令を受けて、人類軍を相手に戦っていたが、その内容はいつも通り、程々に苦しめては切り上げて帰ってくる、という状態が続いていた。
しかしそんなある日のこと。ある命令が、全魔人に下される。
「――魔人を全員招集って……穏やかじゃねぇなあ。確かか、それ?」
「…………」
「……確かに、魔王様からの命令です」
大陸西部のカミーラ軍では、ガルティアがその命令に首を傾げながらもカミーラに確認を取っていた。それにカミーラは答えず、使徒である七星が代わりに答える。
魔王による魔人の招集命令。個人を呼び立てることは多いが、全員集合となると珍しい。
それこそ、最近だとケイブリスの四天王就任の告知のために集めたくらいで、それ以前だと藤原家との戦争前に集めたくらいだ。
百年に一度程度のビッグイベント。それは魔人達にとっても予想が出来ず、回避も不可能な事件だ。
魔人は魔王に絶対服従。例えそうでなかったとしても魔王に逆らえば殺される。絶対命令権がある以上、“死ね”と命令されるだけで魔人は終わりなのだ。
だから命令には従う。それは確定であり断る余地もない。
故に魔人達の興味は、それがどういう理由であるかだ。
魔人ガルティアはいつも通り料理を口にしながらも、顎を撫で擦り、器用に別の魔人に向かって何となく喋りかける。
「なあ、お前はどう思うよ」
「…………」
「……相変わらず無口だなあ、お前」
声を掛けた相手は魔人メガラス。大陸西部のカミーラ軍に合流していた最速の魔人だ。
しかしこちらも相変わらずというか、一切口を開くこともなく黙ってその場に佇んでいる。かれこれ千年以上はこんな調子なのだから周りも慣れているが、新参の魔人達からは気味が悪いと避けられているようだ。
でも何となくではあるが悪い奴ではなさそうだよな、とガルティアは根拠のない感想を抱くと、続いて別の魔人にも声を掛ける。
「パイアールはどう思うよ?」
「……さあ、僕は面倒事じゃなければ何でもいいよ。四天王就任とか、全魔人にそれを通達するだけ、ってのが理想かな。この間みたいに――」
「……っ……」
と、そこまでパイアールが口にしたところで、玉座に座って頬杖を付いていたカミーラが僅かに表情を歪めたことでパイアールの言葉が止まる。
おそらくはケイブリスの四天王就任が、よほど腹に据えかねているのだろうと察するが、さすがの魔人一の頭脳を持つパイアールでさえも、その辺の機微には疎く、ついうっかり口にしてしまった。
強者の気に障るようなことはしない。パイアールはそれを取り繕うように言葉を変えると、
「……というか、そっちはレオンハルトから何か聞いてないの? 仲良いみたいだけど」
「あ? あー……そういや聞いてねえな。最近は遠征してばっかだしなあ」
パイアールからの質問に、そういえば、とガルティアは思考を回す。
確かに、何かある時は事前にレオンハルトが何か教えてくれたりするものだが、今回は忙しいせいかそれはない。殆ど、戦場と町、城を往復しているので中々顔を合わせられないのだ。
聞いてないと素直に口にすると、パイアールは溜息をついた。心底億劫そうに呟く。
「……まあ、どちらにしても魔王様の命令とあれば行かないとね。はぁ……面倒だな……」
「ま、行けば分かるだろうよ」
「…………」
「……ふん」
この地にいる魔人4体が命令に従う意志を見せる。それを見ながら、ガルティアは思った。周囲にいる魔物達が困っているのも含めて、
……無口過ぎて困ってんじゃねぇか。
レオンハルトが自分をこの軍に配属した理由はこれか、と何となく思い当たる。パイアールは普段はいないし、カミーラとメガラスだけとなれば配下の魔物達は指示が無くて困るだろう。幾らカミーラの使徒の七星がいるとはいえ、かなり息苦しいはずだ。
魔物将軍と軽くでも会話しているのが自分だけ、というのがかなり特異な状況だと思う。そもそもガルティアも、気が向いた時に何となく話しかけるだけで積極的にコミュニケーションを取ろうとするタイプでもなかった。かといって、話しかけられて邪険にするわけでもないのだが、基本的にいつも食事をしているため、そちらを優先しているに過ぎない。
レオンハルトからも、何かあったら教えてくれ、とも言われていたが、こちらのフォローも何気に押し付けられているような気がする。
とは言っても自分もやるようにやってるだけだからそういう細かいのは苦手だなぁ、とガルティアは少し面倒に思う。
レオンハルトみたいに考えすぎる性格はしていない。だから魔王の命令の目的も特に思い当たるものはない。
……とりあえず向かうかね。
どんな命令だろうとこちらは従うしかない。忠誠を誓ってるわけではないが、それが魔人の本能なのだ。
食事を早々に切り上げると、ガルティアは他の魔人達とともに魔王城へと向かった。
――それは魔人を全員招集する命令が発せられる少し前のこと。
魔王城の謁見の間では、魔人筆頭であるレオンハルトが魔王ナイチサへとここ最近の戦いについての報告を行っているところであった。
「例年通り、一時魔物達を魔物界に呼び戻しましたが……また直ぐに攻め込んでよろしいのですね?」
「……構わぬ」
まただ、とレオンハルトはナイチサの様子を見て、そう心で思った。
近頃のナイチサはどこか、心ここにあらずといった様子であり、そういう時は口数も少なくなってきている。
そしてその半面で人間を苦しめるべく、活動が活発になっているのだ。最近ではよく人間の村や町に自ら出向き、人間を殺戮している様が見受けられるし、レオンハルトもそれに付き合わされている。
今までにもそういうことはあったが、これほどまでに頻発するとさすがに眉を顰めたくもなる。
しかしそれをおくびにも出さず、レオンハルトは改めて許可を取った。ナイチサがそう言うのならばやらなければならない。そしてその上でこちらが工夫すればいいのだ。
幸いにも戦いは楽になっているし、ここ数年、数十年暴れたことでナイチサも段々と落ち着いてきている。人間の間で不穏な動きもあるし、それを報告しもする。
だがその報告に対するナイチサの反応は、これまた違和感のある反応だった。
「……近頃は、人間の間で勇者なるものが活動している様子です」
「勇者……か。それは一体、どのような者なのだ?」
先日遭遇した勇者。その少年の顔を思い出しながら告げる。
「はい。以前私も目にしました。今は取るに足らない人間ではありますが……どこか不思議な力を持っている様に見えました。それと……悪運も」
「……ほう、卿が仕損じたか……」
ナイチサがその勇者の説明に興味を示す。レオンハルトは癪ではあるが頷き、
「強さは大したことありませんでしたが、後一歩のところで地割れが起き、その亀裂に落ちていきました。しかも直ぐに亀裂は閉じ――まるで、彼を守るような神のいたずらのようなものを、私は感じました」
「……フ、そうか……」
そこでナイチサは微笑を見せるが、その笑みにレオンハルトは違和感を感じる。
……笑った?
それも嘲笑や失笑の類ではない。どこか安心を得たような微笑だった。
しかもそれは自分に向けられたものではない。
であれば何に、何を思って微笑を浮かべたのか。
あのナイチサが、人間の、それも魔王と対になるような勇者という救世主の存在に、笑みを浮かべたというのかと。
それは考え難いが、だとすると一体何なのかと。
言った様に、数年前に戦ったあの勇者は、自分の分身に為す術もなくやられるほどに脆弱であり、ナイチサが興味を持つような力の持ち主ではない。少なくとも、自分が告げた報告から察せられる事実ではそうだ。
故にレオンハルトは分からない。分からないが、どことなく様子が変であるようには見えた。
このところのナイチサの内面が見えない。以前は半分程は見えていたのだが、今は何も分からないのだ。
ゆえにレオンハルトは、その後に告げられる言葉に、全く予想がつかなかった。
「……レオンハルトよ」
「……は、何でありましょうか?」
考え事はしていても、染み付いた癖は直らない。魔王の呼びかけには直ぐ様反応してしまう。
用件は何かと言葉を待っていると、ナイチサはじっとこちらを見て、何かを考えていた。
そこで目が合ったことで、ようやくだが、その内面の感情がほんの少し読み取れる。それは、
……迷い、か?
瞳の奥に、何か迷いのようなものが感じ取れる。
これから言うべき内容に対して迷っているのか、とレオンハルトが同じ様に思考を回した直後、二つの現象が起きた。
「余は――」
一つは、ナイチサが意を決した様子で、口を開いたこと。
もう一つは、
「――た、大変です!」
「! 何事だ!」
謁見の間に、慌てた様子で魔物隊長が入ってきたこと。
息も絶え絶えになりながら緊急事態だと全身で物語る魔物隊長に、突然入ってきたことに非難するような視線を一瞬は突きつけても、直ぐにそれを問う。
ナイチサの言葉が止められた形だが、ナイチサは何も言わない。ただ強い視線を魔物隊長に向けるのみだ。
そしてレオンハルトが放った問いかけの声に対し、魔物隊長は、一つの事実を、簡潔に謁見の間に響き渡らせた。
「――人間が……東部オピロス帝国が……な、ナイチサ様に――――
「――!」
その瞬間、謁見の間の全ての時が、一瞬止まった。
レオンハルトでさえも、その瞬間を半ば予期していたとはいえ、言葉を発することが出来ずに唖然と驚く。
魔物隊長は、それを口にしたところで、魔王から発せられる重圧の強さに気絶して床に倒れた。
謁見の間には、ナイチサの圧力が充満し、常人では呼吸さえままならないほどの息苦しさを感じる。
最強の魔人であるレオンハルトも、肩に伸し掛かる重圧はこれまでの生涯で最高のもの。つい内側から衝動が湧き出てしまいそうになるが、緊張の場であることから無意識にそれを抑える。
実際には僅か5秒に満たない程度の沈黙は、しかし、魔王城にいる魔物達、特に謁見の間に近い場にいる者ほど長く、苦しく感じた。
そしてナイチサは、5秒経ったところでようやく息を入れ、その感情を露わにし、歯を噛み締め、目にしたものを失神させる程の恐怖の形相を浮かべながら言葉を発する。
そのナイチサの内側を瞬く間に占めた、感情の名は――
「――――人間、如きが……余に……この、魔王である余に、宣戦布告だと……ッ!!」
激しい――怒りだった。
……終わったな。
もはや避けられない。
ナイチサの怒りを買ったその意味を、人類はその命で償うことになるだろう。
心の中でそのことをレオンハルトが思った直後、ナイチサは激しい怒りの言葉を口にし、魔人達を全員招集する命令を発する。
宣戦布告。人類史上初、人類側から、魔物側への開戦。
東部オピロス帝国によって引き起こされたこの戦争は後に、夥しい数の死傷者を出したことからこの名で語られることとなる。
――“死滅戦争“と。
プロローグ終了。分かりにくいですがまた数年経ってます。
現在の勇者の状態:塵モード 魔人に敗北し、身体の傷は癒えたが、心に傷を負いました。しかし奮起し、レベル上げも兼ねた修行をすることに。ついでに、東部オピロス帝国が遂に宣戦布告しました。勇者参戦予定