とりあえず本編どうぞ
魔軍の大攻勢という絶望の報告を、執務室の中で詳細に耳にした東部オピロス帝国皇帝、アレクサンドルは、自分の為したことに、忸怩たる思いを感じる。
魔王による本気の殺戮。今なお帝国軍総勢約80万を、即席のミンチに変えながら真っ直ぐに前進してくると言う。
戦略も戦術も何もない。ただ前に進んで敵を屠るだけ。
そう、敵だ。自分達は、敵となってしまったのだ。
事ここに至って、皇帝は自分達の判断に、とんでもない間違いがあったのだと思い至る。まるで謀られてしまったかのような致命的なミス。それを思い、しかし皇帝はそれを許可したのも自分の責任だと怒りを抑え、冷静であることに努めた。
しかし冷静となったとしても、今現在起きている最悪の状況はどうにもならない。アレクサンドルは優れた政治家、そして軍略家でもあるが、この状況をひっくり返すほど、常識外れの存在ではなかった。
彼が出来るのは、今まで通り、妥当な判断を行うこと。国を、国民を守るために最善を尽くすこと。
だからこそ、アレクサンドルは深く、大きな息を吐くと、何かを決意したような表情で立ち上がり、大臣に言いつけた。
「……大臣。今直ぐ国中に、私の名においてお触れを出せ。――後方へ……いや、今直ぐ他国へ、安全な場所へと避難せよと」
「そ、それは……しかし他国へは……」
「同時に、人類各国へと連絡を行え。対魔軍への協力要請と、現状況の詳細。避難民を受け入れてもらえるようにお願いしろ。事は、帝国だけではない。もはや人類全体の危機であるのだと……」
そんな深刻な顔つきで告げられる言葉に、ようやく大臣も、事の重大さと、皇帝の言葉の本気度を感じ取った。ゆえに声を震わせながらも、その命令を了解する。
「……畏まりましたが……わ、我々は……陛下は、どうするのです?」
大臣がそう尋ねると、アレクサンドルは、フッ、と短い笑みを浮かべた。全てを観念したようなそんな苦笑。その後に表情を真剣なものに戻すと、今まで通り、皇帝としての顔で、彼は答える。
「……大臣。国を治める王が滅びゆく自国に対して、最後にやるべき仕事は何か、知っているかね?」
「……は……?」
分からないのか、とアレクサンドルは大臣を叱りつけるでもなく単にそう口にする。仕方がないな、と独り言ちながら、
「国を治める王は……国が滅びる際、自身の命を以て、国民に詫びるのだ。“お前達は悪くない。国が滅んだのは全て私の責任だ。だから、国が滅びたことに気に病むことなく、これから先も別の国で生きろ”――とな」
「! 陛下……陛下は、まさか……」
「戦争で滅びる際などには、王の首を交換条件に、国民の命を最後に守る……もっとも、魔王相手にそれが通じるとも思えんがな」
故に、だ。と、アレクサンドルは執務室に飾ってある剣を手に取り、それを腰に差すと部屋の外に向かう。扉の前で立ち止まり、振り向くことなく、
「私は国民への最後の償いとして、自ら剣を取って魔王に立ち向かおう。無論、何も出来ずに死ぬだけだろうが、私が皇帝だとでも名乗れば数分か、数十秒でも時が稼げるだろう。その時間で、少しでも国民が救えるかもしれん」
避難民の指揮は貴様が取れ。そう口にして、アレクサンドルは部屋を出ていこうとした。
しかし大臣は、
「そ、それなら……陛下が指揮を――」
それを止めようとした。だが、アレクサンドルは首を振った。
「まだ分からんか。私は東部オピロス帝国皇帝。他国へ戦争を挑んでおいて、我先にと逃げ出すような情けない真似はせんと言っているのだ。最後まで国民の為に命を張り、私が前に出ることでほんの僅かでも国民に希望を与える。これが、私が皇帝として出来る……最期の責務だ」
そう言って今度こそ、皇帝アレクサンドルは、執務室を出ていき、志願した近衛兵達とともに、戦場へと向かった。
人類圏における最後の覇権国家の王。彼の命が失われたのは、彼が出ていってから僅か一時間後の事であった。
その日のことを、勇者クエタプノは一生忘れられないだろう。
魔軍との戦争。その前線にて、いざという時のために控えていたクエタプノは、魔王と魔人、地平を埋め尽くす魔物の群れによる蹂躙を目の当たりにした。
その光景は正に、この世の地獄と形容するに相応しいものだった。
おぞましいほどの所業。魔王を先頭に、一切の慈悲も容赦もなく人間を殺戮していく魔の大群。ほんの僅か、瞬きの間に目を離しただけで、数百人単位で人が死んでいた。
戦いにすらなっていないそれは、もはや屠殺と形容するに相応しいものである。
友軍の兵士達が、次は自分達の番だと怯えている。大の男達が、目の前に迫った恐怖によって涙を流し、命乞いや神への祈りを捧げている。
それを見た瞬間、クエタプノは全てを振り切って前に駆けた。
仲間の制止を振り切り、周囲には“今直ぐに、逃げて下さい”とだけ言って、自分は魔物の群れに突っ込んでいった。
果たしてこの行動に効果はあるのかは分からないが、実際にはあったのだろう。
クエタプノはその勇者の剣、エスクードソードで多くの魔物達を屠った。
これまで勇者として鍛えてきた己の実力は、剣の腕前も含めて磨きがかかり、人類最強という頂きにまで上り詰めたのだ。
今までの努力は無駄ではない。そう信じて戦い続け、実際に多くの魔物達を殺すことで味方を守ることに成功した。
だがクエタプノの、クエタプノだけの反撃は、そう長くは続かなかった。
クエタプノが多くの鍛錬を重ね、強くなったとしても、それはまだ人間の範疇であり、魔人に正面から敵うものではなかったのだ。
多くの魔物を殺していると、眼の前に魔人が複数体現れた。
そしてクエタプノは、魔人に轢かれるようにして、敗北した。
以前は防御と回避を優先することで戦闘を継続することが出来たので、今回はそれよりももっと、上手く戦えると予想していた。
しかし、考えが甘かった。
魔人の――それも、かなり強大な力を持つであろう異形の魔人を中心に、クエタプノは一方的にやられた。
魔人達との戦いは、一対一ではなく、こちらを作業の様に踏み潰す容赦のないものだった。
運が悪かったのかもしれない。何故なら、その中でも1番弱いであろう魔人であれば、一対一ならやれる自信があった。
だから今までの修練は無駄ではないといえる。クエタプノは確かに、努力を重ね、ここまで強くなり、遂には単騎で魔人と戦い、あるいは討ち倒せるほどに強くなったのだ。
だが、クエタプノはそこで表情を歪めた。
――それでは意味がない。
魔人を一体倒せる程度。それは常人であれば称賛されるべき偉業だろう。
しかし、クエタプノは常人ではない。勇者だ。
魔王と対になり、人類を導き、救うための存在だ。
その勇者が、たかが魔人一体と同程度。
これだけの実力で、どうやって魔王を倒し、人間を救うことが出来るのだ。
複数体の魔人に襲いかかられたら、負ける程度の実力で。
魔王であれば、全ての魔人を同時にしても負けないだろう。
そこまで辿り着くことは出来なかったが、遠目に見て、感じられるその実力は文字通り桁違いだった。
その殺気を遠くから浴びるだけで、額には脂汗が湧き、心臓が握られているかのような圧迫感と、空気が濁りきって呼吸がままならなくなるような閉塞感を感じる。
生物としての本能が全力で、“逃げろ”と警鐘を鳴らし続け、収まることのない吐き気と怖気が体中を襲う。
あんな生き物が、この世にいていいのか。そう思ってしまうほどの悪夢の存在――それこそが魔王だった。
どれだけ手を伸ばしても、人を救いたいと神に願い、実際にそのために足掻いたとしても。
魔王だけには到底届きそうにないと、そう思わせてしまうほどの絶望がそこにある。
だがそれでも諦めまいと、手を伸ばそうとして――気づけばクエタプノの視界は真っ赤に染まっていた。
そして次に気がついた時には、クエタプノは何故か生き残ってしまっていた。
周囲全てが人々の血と肉に染まった死の大地の中心に紛れるよう、クエタプノは倒れていた。
死体の中に運良く埋もれて、身を隠すことが出来たのだろう。
どこまでも悪運の強い自分に、しかし、深く絶望する。
何故自分だけが、生きているのか。
そこにある数十万の人々の死体。死臭も酷く、空からは血の雨が降り注いでいるが、そうなったという事実の方に、酷い吐き気と失意を感じる。
「神よ……」
天を仰ぎ、クエタプノはふと思いを口にしてしまう。
「どうしてこのような……過酷な現実を、人間に科すのですか……?」
もはや神すらも、人を見捨てたというのか。
これだけの悪行を野放しにするのか。
ならば正義とは、この世のどこに存在するのか。
そもそも、存在し得ないとでも言うつもりか。
――
クエタプノは、魔王が作った屍山血河の中で藻掻き、立ち上がった。
「諦めたく、ない……」
何も出来ずに敗北し、多くの人が死んだ。
仲間達ですら、どこにいるか分からない。
あるいはもう既に、この死の大地の一部と化しているのかもしれない。
「僕は……“勇者”なんだ……」
それでも、クエタプノが勇者であることに違いはない。
魔王を倒せずとも、魔人に負けてしまっても。
これから先、何も出来ずに死んでしまうとしても。
「行かなきゃ……」
クエタプノは、勇者としての責任から逃げるわけにはいかない。
だからクエタプノは立ち上がり、落ちていた剣を手にし、その場を立ち去ろうとした。
そんな時、聞き覚えのある声が響いた。
「……どうやら、生きてたみたいですね」
「! コーラ……!」
声の聞こえた方向に振り向けば、そこにいたのは勇者の従者であるコーラ。
彼はこの様な死体の中であっても、淡々と、いつも通り、感情が読み取れない無の表情でこちらに話しかけてきた。
生きていたことに喜ぶのも束の間、クエタプノは直ぐに問う。それは、
「他の仲間は……」
「……
「っ……!」
それはコーラが見せる久し振りの表情。遠回しにではあるが、仲間の安否を示すような態度。
その様子にクエタプノは一度だけ、一瞬だけ、悲しみで表情を歪めたが、それを取り繕うように冷静に返した。
「そう、ですか……なら、いいです。薄々分かっていましたから」
こんな惨状の中で生きているはずもない。死んでいる可能性の方が高い。そんなことは分かっていたはずだ。
だからそれを必死に脳で俯瞰的に受け止め、クエタプノは残った仲間に質問を重ねた。勇者として問わねばならないことだ。
「魔王は……魔軍は、どうなりましたか?」
「……魔王は魔軍を引き連れてこの国の首都を襲い、国を滅ぼした後、各地の人類国家に配下の魔人と、軍を分散させて攻め込んでいるみたいですよ?」
「……もう、滅んでしまったんですか」
「はい。なにせここでの戦いから一週間は経ってますし。クエタプノ、気を失っていたみたいですが……飲まず食わずな上に誰にも気づかれず、よく生きてたというか……運が良かったですね?」
「……はい。そうですね……」
運が良い、と言われ反射的に否定したくなったが、生き残れたことを不運だと嘆くのは、ここで死んでいった人々に対する冒涜だ。言えるはずもない。
心の中で自分の想いを留めたところで、コーラはふと、こちらが持つエスクードソードに視線を向けた。何かに気づいた様子で、
「おや……クエタプノ。その剣……」
「え……――ッ!?」
コーラがそう口にした瞬間だ。
剣から何かが伝わり、己の中に熱い力を感じたのは。
エスクードソードから光が迸り、そのまま己からも、光が溢れていく。
全身に活力が漲り、今まで一度も感じたことのない凄まじい力を己の内に感じる。
クエタプノが欲して止まない純粋な力。それが芽吹いているのを自覚した。
「何、ですか……! コーラ、この力は……!?」
その力を抑えようと、制御しようとしたところでコーラからの返答が来る。相も変わらず淡々と、
「あー……おそらく、勇者として成長したのでしょう」
「成長……ですか?」
「ええ、理由は――まあ、クエタプノの想いにでも反応したんじゃないですか?」
「想い……そんな理由で……」
思わず戸惑いの言葉を発してしまう。それで覚醒すると言うのならば、先の戦いで覚醒してほしかったと。
そもそも都合が良すぎる、そう疑念に思った問いかけは、しかしコーラに機先を制された。
「いやまあ、勇者って人が傷つけられて、そういった危機に1番力を発揮するとも言われていますし……こういうこともあるんじゃないですか? ――
「…………」
「あれ? もしかして信じてません?」
コーラの無表情で告げられる答えに、少し考えたクエタプノだが、しかしその言葉に否と答える。
「そういうわけではないですよ。……ただ、突然だったので力が手に入った実感がないというか、不可解だったので疑問に思っただけです」
しかし確かに力は己の内にあるし、とてもありがたいことなのも確かだ。
これならば、ともすれば魔人を倒していくことが出来るかもしれない。その果てに魔王を倒せるかどうかは分からないが、
「なら、試しにいきます? まだ近くで、魔物が暴れてるかもですし、もっと頑張れば、更に強くなって魔王を倒せるようになるかもしれませんよ?」
「……そうですね。苦しめられている人を、放ってはおけません。魔王は未だ倒せずとも、今はこの力で出来ることをしていきましょう」
そう言って、クエタプノは死んでいった人々の痛ましい痕を踏みつけながら、先に進む。
人々を救えずに、死体の上を歩く勇者などあり得ないが、心の中で彼らに謝り、道を通るために、生きている人々を救うために、クエタプノはその上を歩く。
もう二度と、このような事態にはさせたくない。改めて強く心に戒めた勇者クエタプノと、口端をフードの中で吊り上げながら、その背中に付いていく勇者の従者コーラの戦いが、多くの人々の犠牲を糧に今、改めて始まった。
僅か三日で東部オピロス帝国を滅ぼした魔王ナイチサは、その地に首謀者も含めた死体の山を築いても怒りが収まらなかった様子で、世界各地に魔人達と魔軍を派遣した。
ナイチサ自身もそこらの国に攻め入り、夥しい数の死傷者を出しながら、今なお人類を苦しめようと暴虐を働いている。
この一週間でナイチサ、及びにその配下が殺した人間の数は――およそ6000万。
実に人類総数3億と言われる内、以前から犠牲になった死者も含めて、およそ30パーセントの人々が、魔王と魔人、魔物達の手によって失われた。
その数はナイチサの進撃の凄まじさ、そして魔人や魔物達の本気度を表しており、今までの様な占領して撤退するような気配は微塵も見られず、さすがの人類国家も手を組んだが、時すでに遅し。各地に魔軍を派遣され、国家間の協働が難しくなると、各地で激しい戦いが巻き起こった。
魔人が一体でもその地で暴れていると、国はそれに対応するだけで手一杯であり、他の事に気を回している余裕は無かった。
各地で大虐殺を起こすナイチサは、文字通りの屍山血河を作り上げ、大陸を徐々に真っ赤に染め上げていった。
とある人類圏の一地域。
そこには魔人ではないが、魔人級の実力者として、その地の攻略を任されている魔物がいた。
「ふっふっふ……まさか、このような素晴らしい時代が来るとはな……!」
機嫌が良さそうに戦線を見渡すのは魔軍を統率する魔物大将軍の内の一体、ヴラド。
大将軍の中で最も残虐な行為を好む彼は、魔王直々の勅命にて、虐殺を許可されているのが嬉しくてしょうがなかった。
彼が攻めた地域を治める国の兵士達は、魔軍との戦いに臨もうと戦場に向かうと、ある光景を目にして思わず口元を押さえる。
そこにあったのは、
「ふっはっはっは! どうだ、私の芸術的な串刺し刑は? 感動したかね?」
「っ……あ……」
地面に刺された巨大な槍のような棘に、生きたまま串刺しにされている人間達の姿だった。
道なりに、戦場であった場所を囲み、そこに来る兵士達を待ち受けるように築かれた串刺しの山は、生きた状態のまましばらく保存し、苦しめるように、心臓などの即死するような場所は貫かれていない。出来る限り長く苦しめてやろうと、生きたたま吊るし上げられ、串刺しにした人間達の呻き声が、戦場に未だ響いている。
もはや死を望んで止まない瀕死の人間達の、調和に満ちた音色を聞いてヴラドは鼻歌を歌うほどに機嫌がよくなり、戦場にやってきた兵士は誰もが顔を青くさせ、その凄惨な光景に士気を低下させる。
その様に、さらにヴラドの機嫌が良くなった。笑い声を響かせ、
「ははははは! そうかそうか! 思わず咽び泣くほどに感動したか! 私の趣向を理解してくれて何よりだが……しかし安心しろ! 私は敵対者には容赦をしない性分でな。貴様らも、次にこうなる。なのでよーく見て、円滑に串刺しにされるよう憶えておきたまえ!」
そう言ってヴラドは、魔物兵達を引き連れて一歩前に出る。それだけで、その言葉を聞いていた人間の兵士達は一歩後退った。
こうはなりたくない。そう思って怯えてしまった時点で、ヴラドの策の術中に嵌っている。
趣味であることには違いないが、ヴラドは敵に恐怖を与えて、戦意を喪失させる術に長けていた。そのために用いる串刺し刑は、ヴラドが長年、人間との戦争にて使用してきたポピュラーな策である。
いつでも討ち取れる人間を直ぐには殺さず有効活用し、次に攻めてくる相手の戦意を挫く。自身の策と、その一面串刺しだらけの光景に純粋に惚れ惚れしながら、ヴラドは更に前に出た。
「今日は大変に気分が良い! だから私も、貴様らと戦ってやろう! 串刺しにされたいものから向かってくるがいい!」
「ひっ……!?」
「い、嫌だ……!」
その声を聞いて、前線の兵士達がざわつく。その隙を逃すまいと、ヴラドは全軍に号令を出し、また、自分も駆けた。
「突撃ィ――!! 人間共を、魔王様の名の下に蹂躙せよ!」
「はっ! 目にもの見せてやります!」
「ヒャッハー! 殺して犯して奪い尽くせぇ!」
ヴラドとともに人間の軍に突撃を敢行する魔物兵達。その圧力もさることながら、人間の兵士達は、最前線を走ってきたヴラドから何かが生えてきたのを目にした。
「ははははは! 全員、串刺しにしてやろうではないか!」
それはヴラドの全身を覆うような棘。
数十センチにも及ぶ棘が何本とヴラドの全身から生え、背中からは棘のような触手が伸びてきている。
身体を保護するための攻性の防御であり、敵を貫くための武器ともなるヴラドの棘は、体当たりをするだけで多くの人間を串刺しにした。
「! 武器が通らな――ぐあっ!?」
「に、逃げろ……! 勝てるわけが―――ぎゃああああああ!」
その身体は、武器を当てても全身の棘に弾かれる。
そして背中から伸びる触手は、逃げようとした敵を追いかけて串刺しにした。
人間の中でも実力者であると思われる将達も、ヴラドには傷一つ付けることが出来ずに他の人間と同じ様に串刺しにされた。
魔物大将軍とは、個体差もあるが、それぞれが魔人級の強さを持つと知られている。
その中でもヴラドの強さは折り紙付きであり、大将軍最強と称されるあのコウウに張り合い、一矢報いることが出来る強さを持つのがヴラドという魔物である。
全身の鋭利で頑丈な棘が武器を必要とせず、あらゆる攻撃を弾き、同時に触れるものを傷つける。素手で戦う者にとっては天敵であり、武器で戦う者でも、生半可な得物や腕前ではその肌に到達することさえままならない。
自身のその特性に絶対の自信を持つヴラドはただ敵陣を駆け回り、次々に人間を刺殺していく。その度に返り血や肉を浴びるが、ヴラドはそれでより一層興奮したように速度を増した。
「ああ……! やはり串刺しは最高だ……! もし許されるのならば、この世全ての人間を串刺しにして飾り、それをずっと眺めていたい……!」
倒錯した趣味と欲求を口に出し、時には手で殴りつけるようにして串刺しにしていきながら、ヴラドは悦に浸る。実際にこれは彼の性癖でもあり、人間の女性を捕まえた際には、この特性に変化し、相手を串刺しにしながら犯すのが最高だと公言して止まない。
ヴラドの全身の棘は、女性を犯そうと身体を近づけただけで肌に突き刺さり、痛みに悲鳴を上げる。より一層近づき、身体を抱擁してやれば全身が串刺しにされ、激痛で声にならない声を上げながら死んでいく。彼が特性を維持しながら女性を犯す。それだけで一種の拷問であった。
ヴラドに続く魔物兵達も、得物として三叉の槍を持って出向き、人間達を次々に刺殺。串刺しにしていく。この場でひと思いに死ねた者はいいが、中途半端に生き残ってしまえば串刺し刑を執行されて長く苦痛を味わうこととなる。
戦場はヴラドの手によって作られる針山地獄の様な様相を呈しており、腐臭に満ちていた戦場が、再び新鮮な死臭に満ちていく。
悲鳴と絶叫の交響曲が戦場を彩り、各地で人間を攻める大将軍や魔人達に負けないほどの凄惨な現場を作り上げる。
ナイチサ様もお喜びになるだろう、と、ヴラドは自身の勤勉さにも満足していた。
願わくば、この功で魔人にでもしてもらえないかとも思うが、さすがに難しいだろうか。どうにも新しい魔人を作る気がないように、ヴラドの目には映った。
しかし少し希望を持つのも悪くないと、ヴラドは心の中でそう納得すると、辺りの人間を数百は串刺しにしたところで息をついた。
「しかしまあ……毎度の事ながら張り合いのない連中だ。戦争ではなく、これでは一方的な虐殺だな」
これはこれで一興だが、たまには歯ごたえが欲しくなる。戦闘狂というわけではないが、串刺しは相手が硬ければ硬いほど、突き刺した時の達成感が最高なのだ。
苦労して硬い肌にようやくの思いで刺しこむと、柔らかい肉や、肉の間を通る骨が、僅かに串刺しに抵抗するあの感覚。それを無理矢理力で押し込み、肉の間を潜らせる手応えは、女の処女を無理矢理散らすのにも勝る快感をヴラドに与えてくれる。
つまりは串刺し最高。串刺しフォーエバー。串刺しのおかげで幸せになりました。――そういうことだ。
大地を鮮血で染めるために血を流し続ける串刺しにされた人間達を見ると、胸に深い幸福が降りてくる。吐息をつき、
「はぁ……もし人類圏を全て我々の手中に収めたなら、魔王様に頼んで
それなら戦争が無くなったとしても、ヴラドは生きていける。
庭先を串刺しの人間達で埋め尽くし、周囲には薔薇でも咲かせよう。そして息絶えた人間は順次処分し、また新たな人間を串刺しにして、それを眺めて愉しむ。
朝も昼も夜も。食事の時や寝ている時でさえ、人間の苦痛に満ちた呻き声を耳にしながら、優雅な余生を堪能する。
……これはいいのではないか?
思いつきではあるが、とても魅力的であった。魔人になって生き永らえるのも悪くはないが、そういった余生であれば喜んで送りたいものだ。
筆舌に尽くし難い魅力がそこにはある。戦争が終わったら願うだけ願ってみよう。
そう思い、串刺しに満ちた戦場の上を進んでいると、
「……む?」
ふと、気づいた。
こちらに近づいてくる人間がいる。
背中に剣を背負った若い人間。おそらくは人間の兵士か、雇われた冒険者。
それが随分と落ち着いた様子で、こちらに向かってくる。
ヴラドは僅かに違和感を感じた。
……私に恐怖しないのか。
この惨状を見て、自分に臆せず向かってくる人間がいるとは思っていなかったが、どうやら骨のある人間がまだいたらしい。
「ふふ、面白い……!」
ひょっとしたら、自分の腕に自信があるのかもしれない。
だがそれは井の中の蛙と言う他ない。人間では魔人はおろか、使徒相手ですら戦うには厳しいのだ。
一部の例外がいたことも知っているが、それを除けば、人間が魔人級の強さを持つ己に敵うはずがないだろうと。
しかし、歯ごたえのある人間を串刺しにしたいと思っていたのも事実。だからヴラドは笑みを携え、その人間を歓迎する。
「それでこそ、串刺しがいがある……!」
ゆえに、ヴラドは人間に向かって駆けた。
相手を串刺しにし、自分の欲求を満たすために。
一切の油断も慢心もない。この時のヴラドは、確かに全力でこの人間だけを見据えて戦う姿勢を取った。
だが、
「――――えっ?」
次の瞬間、ヴラドは自身が天を見上げていることに、間の抜けた声を発して気づいた。
開いた口が塞がらない。何故自分は、天を見上げているのか。
身体の感覚がない。身体が動かない。一体何が起こったのかと理解が及ばないまま、
「……終わりです」
「は……? っ――!」
頭上に人間が現れ、己に光の剣を突き刺されたところで、ようやくヴラドは、最期にそれに気がついた。
……
剣を突き刺され、ヴラドは敗北を理解した。
しかしその感想よりも、最期に串刺しにされる感触を体感し、そのことに対する感想を抱こうとしたところで、ヴラドはその意識を闇に溶かした。
――そしてそれを成した者は、
「……魔人はいませんでしたか。ここはこれで終わりみたいですし、次に行きましょうか」
「そうですね」
自身が殺した魔物大将軍と、串刺しにされた人々を見て、少しの間祈りを捧げるように沈黙すると、そのまま従者を連れて、次の戦場へと向かった。
勇者の背についていくコーラは、内心で自身の感情を封じ込めながらも、笑いたい気分で一杯だった。
それはクエタプノのことでもあるし、人類の狼狽えようもそうだ。
……ほんと馬鹿ですねぇ。あんな言葉だけで信用してしまうなんて。救いようがないですよ、これでは。
どいつもこいつも滑稽で笑える。言葉一つに右往左往し、魔物に襲われてその愚かさを痛感する彼らの嘆きや絶望が面白くてしょうがない。
……というか馬鹿クエタプノもあの馬鹿な仲間達も、確認取ればいいのに……ほんと馬鹿ですね。
あの時、クエタプノに仲間の命を聞かれた時に、自分は別に死んでいるとは一言も言っていない。
ただ“分かっているでしょう?”と告げただけだ。それでクエタプノも仲間が死んだと勘違いしたし、本当は生きている仲間達も、クエタプノが死んだと勘違いした。
まあ、確認を取られたとしても死んだと嘘をつくつもりではあったが。
……ペースも順調ですし……この分だと、随分と面白い見世物になりそうです。
勇者としての力の開放率。
この調子ならば、本当に魔王を倒せる可能性だってあるし、そうなったらなったで面白いとも思う。
何故なら――魔王を倒しても、次の魔王が生まれるだけで、魔王は居なくならない。
また新しい魔王が選別されて、人類を苦しめる。その時人々が、クエタプノが浮かべる表情は、どのようなものだろうか。
失意、嘆き、怒り、絶望。あるいはそのどれもが入り混じった様な愉快な顔を見せてくれるだろうか。それをなじってみるのも面白そうだ。
……それにしても、神が何故こんなことをするのかと、聞くのがまた面白いですね。
何故世界から悲劇が無くならないのか。悪行が許されているのか。その答えは火を見るより明らかであるというのに。
それは、神自身が、
人間が無残に死んでいく様を見ていたいからこそだという真実を思い、勇者の従者である神――コーラス0024は人間の従者、“コーラ”としての顔を、未だ保つことにした。
ガルティア「そういえばスラル。お前、一人称“我”なんだって?」
スラル「……わ、我は魔王スラル……大陸を支配する恐怖の魔王――あ、これカッコいいかも! ねえ、レオンハルト! どっちがいい!?」
レオンハルト「痛々しさが増すな……」
ケッセルリンク「……まあ、主が満足するなら私はそれで……」
スラル「ちょっと!? いいじゃない! かっこいいじゃない! なんか威厳ありそうでしょ!?」
レオンハルト「そんなこと言ってる時点で、威厳がないことに気づけ」
キャロル「これからは我でいきますの?」
ペール「まあこう言うのもなんですが、そもそも“織音設定”はあくまで織音先生の中での設定なだけで、公式に決まってるわけでもないですから、好きにしていいんじゃないですか? 今更直すのも違和感しかないですし、都合の良い部分だけもらって解釈すれば」
ハンティ「……ならへっぽこ感があるのは……」
レオンハルト「へっぽこなのは元からだな」
スラル「へっぽこじゃないから! 私――じゃなかった。我の何処ら辺がへっぽこなのよ!?」
レオンハルト「お前それ、この作品のSS期全部読んでからでも言えんの?」
スラル「…………というか、私関連の質問酷いの多くない?」
レオンハルト「こいつ、都合が悪いからって流しやがった……」
キャロル「まあ、というわけで今から直すことはしませんが、都合の良い部分だけ拾って、ネタ的に使うことはありますわ!」
ペール「公式に話が通ってる面白い話や設定も多かったですしね。色々と使えそうな設定も知れたので、これからは活かしていけますよう!」
ハンティ「特に、ガイとかジル関連の設定が聞けたのはこの作品にとっても大きいね」
シャロン「そういうわけで、今後もおじ様と、この作品を宜しくお願い致します」
ラウネア「…………(現在の勇者の状態は逡巡モードだよー。人類死亡率30%。魔人を倒せる力)」
タルゴ「キシャア!(そろそろ危ないね)」
サメザン「ピィ!(人もだけど、魔物も沢山死にそうだよね)」