本編どうぞ
そこは魔軍の本隊から少し離れた場所。
ケッセルリンク軍の魔軍司令部では、魔人レオンハルトが少し様子を見に来ていた。
「少しでも異常を見つけたら連絡してくれ」
「……ああ、わかった」
レオンハルトの念を押すようなその確認に、ケッセルリンクは僅かに疑問を覚える。
勇者という人間の強者の存在。それを確認したら自分に任せてほしいとレオンハルトは言う。魔人四天王の一人であるケッセルリンクにだ。
それを殊更誇るつもりはないが、実力にはそれなりの自負がある。それはレオンハルトも理解しているはず。
だというのに、それでも、とこちらに注意を促しにくる。それほどに、
「……勇者とは、それほどに危険な存在ということか?」
「ああ。勇者は侮れないし、何をしでかすか解らない。だから出来れば俺に任せてほしい」
ここに来たのも勇者の痕跡がないかと探しにきたためだと言う。それを聞いて、ケッセルリンクの使徒であるシャロンは口にした。
「……良かったですね、ケッセルリンク様。レオンハルト様は、ケッセルリンク様の事を案じておられる様子です」
「っ、それは……」
微笑ましいと言わんばかりの笑みで、ケッセルリンクに言うシャロン。ケッセルリンクからすればほんの少し、誂われたのではないかと感じてしまう自覚がそこにはあった。
つまりはその気遣いを嬉しく思っているということで、
「おじ様も、ケッセルリンク様のことが心配ですよね?」
「ああ、心配だな」
そうはっきりと口にされ、ケッセルリンクは少し頬を紅潮させてしまう。
言葉を言おうとして、飲み込んでしまう。しかしお礼は言わなくてはならない。だからケッセルリンクは小声で恥ずかしがりながらも、
「……ありがとう。その……その気持ちは、とても嬉しい」
普段はもっとはっきりと言葉を尽くせるのだが、不意打ちだと狼狽えてしまうのが何とも情けない。
しかし周囲はそうは思っていないようで、それを見ていたケッセルリンクの使徒達は沸いた。
「きゃー! ケッセルリンク様可愛いですー!」
「こら加奈代! ケッセルリンク様をからかうなって!」
「……ふふ、ケッセルリンク様も乙女ですから仕方ないですね」
加奈代が騒ぎ、それをバーバラが注意する。そしてパレロアがやれやれと微笑を浮かべた。シャロンはケッセルリンクの隣でただただニコニコとしている。いつものことだ。
だが、レオンハルトがそこで不意に気づく。その中に、ケッセルリンクの使徒であるもう一人が足りないと、
「そういえばエルシールはどこだ? この間の寿司のお礼を言いたいんだが……」
「エルシールなら……あ、戻ってきました」
シャロンが答えようとして、司令部に入ってくる影を見て取りやめる。レオンハルトも聞いた後、少しして気配を感じ取って気がついた。
エルシールが何かを終えて皆の元に小走りで戻ってくると、
「申し訳ありません。遅くなりました」
「構わない。私達の為にやってくれていることだ」
「……何をやっていたんだ?」
謝罪をして直ぐに許す使徒と主のやり取りを見て、レオンハルトが尋ねる。するとエルシールは昔とは違い、堂々とした様子で答える。懐から何かを出して、
「あ、はい。勇者に用心するよう言われたので、各所にワイヤートラップを少々設置しておきました」
そう言って取り出したのは極細の糸だ。
常人では目に見えるギリギリ。注意しておかなければ気づかない程度の細さの糸を見せて、説明する。
そして、そうは言いながらも少し自信が無さそうであった。真面目な、敵に対して警戒を見せる表情でエルシールは言う。
「もっとも、魔人級の強さを持つ人間に、どこまで通用するか……」
「……いや、念の為で動くのは大事だ。備えておくに越したことはない。やらないと可能性すらないからな」
「……お気遣い、ありがとうございます」
エルシールが一礼する。今語ったのは気休めというわけでもなく、レオンハルトの本心だ。
やっておらず、やっておけば良かったと後悔するよりは、やっておいて、意味が無かったと後悔する方がマシだ。
やれば通用するかはともかく、少しでも時間を稼げる可能性があるし、ともすれば有利に戦えるかもしれない。自分が間に合うとは限らないのだからやれることはやっておくべきだ。
もっとも、レオンハルトは身内の危険であれば意地でも間に合わせてみせる、と心に強く誓う。物理的に無理なこともあるかもしれないが、己の強さとここまでやり終えた備え、そして運を信じるのみだ。
しかし今の所、ここは大丈夫そうだな、とレオンハルトは息を入れて一先ず安心すると、続けてエルシールに向かって話題を変えた。
「そういえばこの前の寿司、俺も食べたが美味かったぞ。随分と腕を上げたようだな」
「あ……ありがとうございます。美味しく出来ていたみたいで……正直ホッとしました」
胸を撫で下ろすエルシール。その横からシャロンがいつも通り、内心が読めない微笑みで、
「それにしても不思議ね。エルシール、他の料理は出来ないのに……」
「うっ」
シャロンの言葉を皮切りに他のメイド達も、あー、とそれぞれがエルシールの壊滅的だという家事の腕を弄る。
「どれだけ教えても上手にならないのよね……」
「もうずっとメイド長さんに教育して貰うといいんじゃないですか?」
「エルシールの寿司以外の料理は、まるで食べれたものじゃないからねぇ……」
「そ、そこまで酷くないですっ! 食べれはします!」
先輩のパレロアはともかく、後輩2人にすら酷評されてエルシールが憤慨する。
だが事実、エルシールはメイドなのに家事がてんで駄目で、半ば他のメイドからは諦められていた。
それでも彼女が古株のシャロンやパレロアを差し置いてメイド長になったのは、メイドの中で1番戦闘力に長けていたことと、人に指示を出す様な、統率力が優れていたからだ。
実際、エルシールはメイド達に仕事を割り振ったり、仕事の指示、全体の管理などは非常に優れていて、メイド長さんからも認められているくらいだ。
だが今はそのメイド長さんの教育もあって、糸を得物に、戦闘力に更に磨きがかかり、ガルティアからも評価された美味い寿司が作れて、キャロルやバルカには敵わずとも、魔物界将棋連盟が発行する段位――四段になるなど、よく分からないが様々な能力を持つメイドになっている。
最近では歌とダンスを習い、演技力を鍛えられているらしいが、メイド長さんはこれ以上、エルシールをどうするつもりだろうか。マルチなスキルを身に着けるのはいいが、どう考えてもメイドとは別方向に向かってる気がする。
レオンハルトは誂われるエルシールを中心に賑やかな会話を行うケッセルリンクの使徒達を見て、踵を返そうとした。一応は声を掛けて、
「なら俺はそろそろ行く」
「……そうか。もう少し一緒にいたかったが……」
と、ケッセルリンクが中々にいじらしいことを言ってくれる。その発言に苦笑しつつ、
「……そうだな。だが、今は少し難しい。バルカなどの大将軍は俺の権限で連れてこれても、魔王様の命令がある以上は、魔人をいたずらに戦場から離れさせるわけにもいかないからな」
「……致し方ない」
残念そうに、しかし納得するケッセルリンク。それを見て思わずレオンハルトは言った。励ますように、
「今度、また時間を作って遊びにでも行くか」
「! あ、ああ……それは、是非、頼む……」
こちらの忙しさを知っているため遠慮がちではあるが、本心のお出かけしたいという欲求を抑えきれず、ケッセルリンクは約束を了承する。時折時間を作っては一緒に過ごしたりしているものの、出かける場合は皆で行くことも多いので、数としては少ない。
クールな印象の強いケッセルリンクだが、こういった部分はとても乙女らしさがあって強大な力を持つ魔人四天王ケッセルリンクとはギャップがある。レオンハルトとしては見慣れたものだが。
とりあえず、今日のところはやるべきこともあるし、心配事もある。なので一旦別れを告げようとしたところで、
「――レオンハルト!」
不意に、司令部に響き渡ったのは、いきなり現れたハンティの声だった。
ほんの一瞬皆が身を固くしたが、それが瞬間移動で移動してきたハンティだと分かると、警戒を解く。だがその切迫した様子に、レオンハルトは真剣な顔つきをハンティに向ける。
「……どうした? まさか――」
まさか、と次に続く言葉を放つ前に、言葉を待つのも惜しいとハンティは即座に告げた。
「――本陣に勇者が現れた! 今皆で対応してるけど長くは保たないよ!」
「! よりによってこのタイミングでか……!」
言うが早いか、レオンハルトは駆けた。
魔軍本隊への勇者の襲撃。
遂にその時が来たのだ。
――それはハンティが、レオンハルトに勇者の襲撃を告げる少し前。
以前はやることがないとは言ったものの、いる以上は仕事を任される。魔物大将軍達は街の外れの平野で布陣する新兵の部隊を中心に、ちょっとした軍事教練を行っていた。
「全体、止まれ!」
リーが声を跳ね上げると、魔物兵達が動きを止めてその場に停止する。魔軍ではあまりやらない新兵訓練だが、レオンハルト軍では所属する際に必ず訓練を受けるよう義務付けられている。
魔物は生まれながらの戦闘種族であり、同時に、魔物兵スーツによる力量や特性の固定化、魔物将軍らの統率能力があるため、特に集団行動の訓練は必要とされていないと見られていた。
それを変えたのがレオンハルトであり、かの魔人は、同じ魔物兵でもやはり訓練を行った方が連携などの動きが良くなるし、平均的な強さも多少は上がるだろうと己の権限を使って珍しく強行した。
レオンハルトが行った指示の中では、珍しく魔物には不評であったが、訓練を受けねばあらゆる面で恵まれているレオンハルト軍に入れないのと、訓練を続けて強くなったことで、面倒だが差し引きでプラスになることに気づき、これはこれでいいと結局は受け入れられる。面倒がるのは大体、魔軍に入ったばかりの新兵だ。
だからここでリー達は、この機会に訓練に力を入れようと努力する。バルカも手伝っていた。コウウはきゃんきゃんと一緒に見ているだけだが、魔物大将軍がいるというだけで言うことを聞かねばと戦々恐々とするので、一応役には立っていた。
だが、リーはふと声を掛けることもある。訓練の合間だが、だからというわけではなく、前からたまにやっているのだが、
「……コウウよ」
「ひっ!? な、なんだよリー……? まさか俺を――」
「何もする気はない。近づかないからそのまま聞け。……そろそろ、自信を取り戻したらどうだ? 私達もレオンハルト様も、お前を害する気はないし、このまま何もしなければお前の立場がもっと悪くなってしまうぞ?」
それはコウウに対する励ましのような言葉だった。
同じ魔物大将軍として、出来れば立ち直ってほしいと言う。別にバルカとは違い、仲が良いわけではない。むしろ嫌われているだろうし、リーからすれば、そのようなことはレオンハルトに頼まれてすらいないのだが、以前と比べておどおどしたコウウは非常に仕事がやり難いし、さすがに気の毒だと声を掛ける。
しかしコウウは後退りながら声を大きくした。
「そ、そんなの信用出来るかってんだよ! そうやって油断させて殺るつもりだろうが!」
聞く耳を持たないコウウの疑心暗鬼に、リーは、またその言い分か、と半ば呆れ返る。そしてふと疑問を覚え、それを問いかけた。
「……何故そんなことを思う? 私とお前では、お前の方が強いし、特に脅した覚えも、私にはないのだが……?」
「っ、それは……」
問うと、コウウが僅かに怯んだ。言い淀むような様子。その反応に、その部分を突けば解決策が見つかるやもとリーはじっとそれを待つ。するとコウウが、やはり怯えた様な態度で、
「……い、今まであんなに横暴に振る舞ってたっていうのに、う、恨んでねぇはずがねぇだろうが!?」
「!」
コウウのその言葉、その真意を読み取り、リーはようやく得心する。それは、
……なるほど、自分がやってきた振る舞いに対し、周りが怒ってないはずがないと思っているのか……。
確かに、こうなるまでのコウウは何というか、他者の気持ちを考えない嫌な奴ではあった。横暴で我儘、自己中心的な態度は、組織としての和を乱すため、リーはあまり好きではなかったのも確かだ。他の者達も、コウウを好んでいたものは殆どいないだろう。彼の直属の部下ならどうかと思うが確証はない。
それをコウウは自分でも理解しており、そのため報復に遭うのではと怯えている……そうリーは解釈した。
「コウウちゃん……」
「…………」
「……なるほどな」
傍らにいるきゃんきゃんが、コウウを心配そうに見詰めている。それを視界に映しながらもリーは、コウウに理解をし、言葉を尽くす。率直な気持ちで、
「……確かに、お前の態度はいつも直線的というか乱暴だったな……」
「……ほら見やがれ。テメェも、俺のことを――」
と、続ける言葉をリーは遮った。
「だが……以前の方が、
「……は、はぁ!? 寝ぼけてんのか!?」
そうかもな、とリーは僅かに自嘲するような笑みで言う。
「こういうのは柄じゃないはずだが……私も歳か。寿命が近づいて、仕舞い込んでいた言いたいことを我慢せずに言った方がいいのではと思ってしまってな……」
「……何を言ってやがる」
リーは告げる。疑念に満ちたコウウに対し、仕舞い込んでいたものを、
「……はっきり言って、私はお前が羨ましかったよ」
「…………は?」
コウウは予想外の言葉を耳にし、唖然と声を返す。直ぐには理解出来ずに時が止まるが、少しして理解すると、声を跳ね上げて言った。
「な、何言ってやがる!? どうせ嘘だろうが! レオンハルト様に気に入られて何の苦難もないテメェが、羨ましく思う要素なんて一つも――」
「お前は強いだろう?」
「っ、それ、は、そうかもしれねぇが……」
だろ? とリーは同意させるように言う。苦笑というか、自分の情けなさを暴露するようで嫌ではあるが、
「私は……レオンハルト様に重用されてはいるが、実のところ……何もない。だからお前や……お前以外の大将軍が羨ましかった」
「……何もないこたぁ――」
「そんなことはない。私には、お前の様な強さや、バルカの様な卓越した知略も持ち合わせていないし、ヴラドのような自分を曲げない誇り高さもない」
そう、自分が1番よく理解している。
レオンハルト様の役に立つには言うことを聞いて無難にこなせばいいと、自分を納得させてきた自分が1番よく分かってるのだ。
「私にお前達の様な強みが一つでもあれば……私はレオンハルト様の役に、もっと立つことが出来たと……そう思ってしまってな。実を言うとずっと必死だった。せめてお前達に負けない様に、真面目に頑張ろうとな」
使徒の方々も羨ましいが、あちらは使徒だ。だから諦めがつく。
しかし同じ大将軍だというのに、どうしてここまで違うのかと。同種族に負けたくはない。負けたくはないが、能力の低さを、心の奥では認めてしまっているのだ。
だから真面目に努力することでその差を少しでも埋めようとした。少しでも追いつこうと。しかし、
「だが、どうにも性分なのか、私は周囲を放ってはおけない部分があるらしい。自分のことに集中出来ず、いつも周りを見渡しては、心の中で人の事を考えている。仕事を円滑に進めるためというもっともらしい言い訳はあるが……それよりも自分の事に目を向けるべきなのにな……」
「…………」
とうとうコウウは黙る。何を考えているのだろうか。それを読み取ることは出来ない。
だが、己の内側だけは悔いのないように伝えておこうと思う。
「……一つ、はっきりしているのは……私は、存外にお前達のことを羨ましく――そして、好ましく思っていたらしい」
「っ……」
「ふ、魔物達に恐れられる魔物大将軍らしくないだろう? 結局のところ、私はそういうものなのだ。魔物大将軍としては中途半端な、成り上がり者に過ぎない」
自嘲の言葉は止まらない。結局千年以上経っても、この性分は変わらなかったな、と残念に思う。
「言いたいことはそれだけだ。私はお前を、どうしようとも出来んよ。別に嫌ってもいない。……だから気にするな」
そう言って、リーはその場から離れた。これ以上はコウウを困らせるだけになるだろうと。
だがそれを押しても、ここまでは。己の内側だけは最後に告げておきたかった。
自分の欲求に素直になるなど、ようやく魔物らしくなれただろうかと思う。
そうしてリーが、再び訓練の場へと戻ろうかと思った直後――
「ぎゃああああ!?」
「! 何だ!?」
突然魔物兵のものと思わしき断末魔が響いたことで、リーは瞬時に意識を戦時のものに切り替える。声のした方向を向いてみれば、同じ様な断末魔が連続し、
「リー閣下! 大変です……!」
「! ――将軍! 何が起こった!? 敵襲か!?」
こちらに走ってくる副官の魔物将軍。訓練のためにとこちらに一緒に来ていたのだが、
「はぁ、はぁ……先程、勇者が――」
と、息も絶え絶えに、報告を行おうとした直後、
「ぁ――」
「! 将軍っ!?」
魔物将軍は、飛んできた槍に身体を貫かれ、即死した。
何が、と槍が飛んできた方向を見ると、魔物兵が応戦し始めたその中心に、一人の人間がいた。
ブロンドの髪をした女顔の男。騎士のような、冒険者のような出で立ちで、光の剣を持ったその男は、魔物大将軍であるヴラドを殺した――
「勇者……!」
「…………!」
魔物兵の大群を、一人で蹴散らすその男、こちらを遥かに越える実力の持ち主を見て、リーは戦慄した。
「……魔物大将軍ですか」
「ぐ、まさか勇者がこんな場所に……!」
突然に戦場となった平野で、リーは勇者と対峙した。
見れば他の大将軍、バルカも騒ぎを聞きつけて、
「……! 驚いたな。まさか魔軍の本隊が駐留する街に、単騎で奇襲を仕掛けてくるとは……その強さは本物であったか……!」
勇者を前に身構える。この場には魔人も使徒もいない。多くは本城、魔王がいる街の中心部にいるため、今は魔物兵の他に勇者と戦えそうなのは魔物大将軍の三体しかいないのだ。
しかしヴラドを一瞬で片付けた勇者に対し、幾ら三体とはいえ、どこまで食い下がれるかは解らない。
それにそもそも、その内の一体のコウウは、
「あ、ああ……ゆ、勇者……!? 勇者が、俺を殺しに……!」
勇者を見て、怯えた様子で腰を抜かしており、使い物にならない。
リーとバルカは、勇者を前にして一瞬だけ目を合わせ意志を疎通する。無論、負けるつもりはないが、こうして目の前にしてみると勝てる可能性は低いとお互いが思い至る。
ならば魔軍として最優先すべきなのは、誰かを街まで送り、その間に魔人――確実なのはレオンハルトか、誰かに来てもらうことだ。
もしかしたら魔王が来る可能性もゼロではない。そうなれば自分達も命を繋げる。
全員で逃げることはあり得ない。魔物大将軍として、この場の魔物兵達を統率しなければならない。将が生き残ることを優先したいのは山々だが、この場にいる魔物兵は少なくはない。勇者一人が現れたからと兵を見捨てて逃げては魔物大将軍の名折れだ。
だから2人は、その両方の案を取るため、同時に背後に声を掛ける。振り向くことなく、
「「――コウウ! 逃げろ!」」
「……あ……?」
てっきり戦えと言われると思ったコウウは、二体の魔物大将軍の言葉に呆然と二体を見る。しかしこちらを見ることはなく、
「早くしろ! 逃げて、魔人の方々を呼んでこい!」
「あるいは魔王様でもよいぞ! その方が確実であるからな!」
「だ、だがよ……」
怯えてはいても、直ぐに逃げることは気が引けたのか、コウウは戸惑う様子を見せる。それを背中で感じた二体は、更に大声で、
「「いいから逃げろ! 死にたいのか!?」」
「……っ! く、くっ……!」
その声に弾かれるようにして、コウウはその場から逃げていった。傍らのきゃんきゃんも連れてだ。
コウウの気配が遠ざかるのを背中で感じて、リーとバルカはほっと息をつく。
まだ少し魔物兵の群れがあるため距離はあるものの、直ぐに勇者はここに到達するだろう。
しかしその後も耐えなければならない。周囲では魔物将軍や魔物隊長が必死に声を張り上げて魔物兵を動かしているが、焼け石に水か、近づいたものから殺される有様だ。
「……ふ、ふふ、本当に魔人の……それも魔人の中でも上位に匹敵する強さに見えるな、リーよ」
「……そうだな……人間だからとて、油断は出来まい」
バルカはあまりの不条理さに笑い、リーは身を引き締める。そんな真面目なリーに、バルカは不意に言った。
「……お前も逃げたらどうだ?」
「! 馬鹿な事を言うな! お前や兵達を置いて逃げるなど……」
「――そう、そこだ」
と、突然言葉を遮るようにはっきりと断言したその言葉に、リーは思わず面食らう。
前方に脅威が迫り、もはや一刻の猶予もないなかで、バルカは重要な事なのだと告げた。
「先程の話……少し耳にしたが、確かにお前は魔物大将軍らしくはない。他者の事を、慮り過ぎる」
「……それが……そんなことは理解している! 今はそれよりも――」
「実を言うとな。私はな、リー、お前の事が好きではなかった」
「っ! そ、れは……」
突然のカミングアウトに、リーが動揺する。それを面白そうに感じたバルカは、少し説明するように、
「いや……というより、お前が特殊なのだ。私も含めて、他の大将軍も、自分が1番で、他の大将軍など、皆邪魔だと思っている。私も自分が1番天才だと思っていたし、今もそれは変わらないが……昔は、どうにかして亡き者に出来ないかと考えたものだ」
初耳だった。バルカとは、友人同士だとリーは思っていたからだ。
それだけに衝撃を受けて、リーは押し黙る。今度はリーが狼狽える番だった。
しかし、
「だが気がつけば、私は、お前と友人の様になっていったし、他の大将軍とも、気がつけば普通に何の企みもない他愛のない会話を行えるようになっていった。あの二体とも、お前は随分と打ち解けていたな」
一転、バルカはリーを見て、苦笑するように告げる。急に褒められたように感じ、リーは動揺しながらも答えた。
「私は……いっぱいいっぱいだっただけだ。お前達を越えようと……」
「そう、それだ。お前のその謙虚さや、周囲を慮る姿勢や気配り。それが私を……私達を変えた」
「……! 私は、何も――」
「しているのだよ。その協調性……和を整えようする態度、統率力とでも言おうか。お前はそれに優れている。こうして、大将軍同士で協調することなど、出会った当初は考えられなかったことだ」
そんなことはない、とリーは言おうとして、しかし言えなかった。
バルカの言葉が、真に迫っていたからだ。自分と同じ様に、心に秘めていた事をようやく口にしたのだ。
なるほど、これは否定したくなる。先程のコウウの気持ちが少し理解出来た。
だが、相手は真剣だった。異を挟むことが出来ないほどに。例え本人に否定されても、他でもない自分がそう思っているのだと、譲らない姿勢だ。
「天才の私が言うのだから間違いない。コウウだって、先程は何も言わなかったがそう思っているだろうし、ヴラドは……あいつはプライドが高いから素直に口にはしないだろうが、認めているはずだ」
でなければ、会議の時にお前を立てるようなこともしないし、言うことを聞くこともしないと、バルカは言う。
皆リーの能力を認めているからこそ、対等に付き合うことが出来たのだと。
そしてだからこそ、バルカは友人と認め、言う。それは、
「だからリー。お前も逃げろ。ここは私一人で充分だ」
「! 馬鹿な! それでは作戦が――」
「
「――――」
バルカのその言葉に、途轍もない衝撃を受ける。
あのバルカが、作戦など、どうでもいいと。
それよりも、自分の命が大事だと――そう言うのだ。
バルカは自分で告げた言葉を、可笑しく思ったのか、自嘲するように苦笑を浮かべ、
「我ながら、天才の私らしくないとは思うが……初めて出来た唯一の友人を、みすみす死なせたくはない。だから……後生だ。お前も逃げろ」
「っ……! そんなことが、出来るはずが……! せめて二体はいなければ、ヴラドと同じ様にやられて――」
その時だ。声が聞こえたのは、
「――だったら、やっぱり俺がいりゃあいいだろうが!!」
その声は、覇気に満ち溢れた荒々しい声だった。
聞き間違うはずもないその声に、リーとバルカは思わず、勇者が迫っているのにも関わらず、背後を振り返ってしまう。
「……! まさか……」
「……これは驚いたな……」
そこにいたのは、やはりと言うべきか、
「「コウウ……!」」
怯えて逃げていったはずの――コウウだった。
――コウウは、リーとバルカの大声に弾かれるように逃げた。
後方には勇者がいる。あのヴラドを一瞬で殺したという人間の実力者だ。
そう、あの自分をいとも簡単に退けた藤原石丸と同じ、人間の実力者。
……怖い。
世界の広さを知り、コウウは恐怖した。
……俺如きじゃ、どうにもならねえ。
だというのに、横暴に振る舞い続けた自分は、多くの者達に恨まれており、いつ殺されてもおかしくない立場なのだ。
……俺は失敗した……。
失態を犯した。いつ処分されてもおかしくない。今は辛うじて生きているが、次に失敗したら自分は確実に処分されるだろう。
……俺を慕う奴なんて、誰もいやしねぇ……。
他ならぬ、自分がやったことだ。
天上天下唯我独尊。コウウは、自分のことを天下を取る器だと思っていた。
魔軍の頂点、魔物大将軍として生まれ、しかもその中でも最強の強さを持って生まれた。戦えば戦うほど強くなったし、魔人にも負ける気はしなかった。
あんなのは無敵結界が強いだけだ。無しで勝負したら、俺の方が強い――そう思っていたこともある。
だから魔人にさえなれば、自分はもっと強くなれると思ったし、魔人や使徒を除けば、魔物の中でも頂点の強さを持つ自分が、魔人になるのは当然だとも思っていた。
己の強さを疑わず、誰よりも自信に満ちあふれていた……己の汚点。忌まわしき過去だ。
今となってはそんな野望も、力に対する自信も、全てが綺麗さっぱり消え失せた。
自分は弱い。個人としてはそれなりに強くとも、やりようは幾らでもあるし、自分より強い奴も多くいる。
今襲いかかって来ているという勇者だってそうだ。己を越える強さを持つであろう人間。そんなのに立ち向かい、無残に死んでしまうのは馬鹿なことだ。
だから逃げる。逃げて、他の者にやってもらう。リーやバルカ、他の魔物達に目もくれず。
その判断に、疑いはなかったはずだった。コウウは迷わず真っ直ぐに街に向かって逃げた。逃げようとして――止まった。
それは、脇に抱えたものが逃げたせいだ。
「! きゃんきゃん!」
不意に脇から逃げ出したのは、女の子モンスターのきゃんきゃん。
最弱の女の子モンスターであり、コウウが一緒にいて、唯一安心出来る存在だ。
そんな彼女が脇から離れ、その場に立ち止まる。
「ど、どうした……? お腹でも痛いのか……? は、早く逃げようぜ。逃げねぇと、俺もお前も死んじ――」
「――わたし、戦ってくるね!」
「…………は? ……え?」
元気よく、普段通りに狂ったことを言ったと、コウウは戸惑う。
しかしこちらが頭に疑問を抱いているとはいざしらず、きゃんきゃんはこちらに向かって眉を立てて告げる。
「コウウちゃんは逃げていいよ!」
「! な、何言ってやがんだ! た、戦うなんて……んなもん、自殺行為だぞ! お前が行ったって、何の役にも……」
しかし、きゃんきゃんは困ったように苦笑しながらも頷いた。分かっていると、
「うん、わたし弱いからすぐにやられちゃうかも。……だけど、駄目だよ」
「何がだ!? 弱いなら逃げてもいいじゃねぇか! なあ、一緒に逃げようぜ!」
しかしコウウの説得にも耳を貸さず、きゃんきゃんは首を振る。そしてこう言った。
「だって……わたしの仲間は、沢山戦ってるから……それを見捨てるなんて出来ないよ」
「っ、それは……」
確かに、それはそうかもしれない。
きゃんきゃんとて、魔軍に所属する魔物兵の一員だ。
魔物兵の中には男の子モンスターだけでなく、女の子モンスターだって多数存在するし、その中にはきゃんきゃんだっている。
コウウはそれを知っているし……何より、このきゃんきゃんも、そんな魔物兵の中から一匹を連れてきただけのはずだ。
だから彼女の仲間がいるのは確かなのだろう。だが、
「……だけど、お前が行ったって結果は変わらねぇ! あの勇者だとか言う化け物に、皆殺されちまうだけだぜ! 全員無駄死にだ!」
「えへへ……そうかもね」
「そうかもねじゃねぇんだよ! いいから逃げるぞ! 無駄に死ぬことなんてねぇんだ。弱いってんなら、逃げたって誰も文句は言わねぇ。しょうがねえなってなるだけで――」
だが、きゃんきゃんは言った。コウウに屈託のない純粋な笑みを向けて、
「――心配してくれてありがとう、コウウちゃん」
「っ! べ、別に、心配なんか……して、は……」
してない。そう言おうとして、言えない。
明らかに心配していたからだ。死んでほしくないと、心が認めていたからだ。
だからこそ、コウウは二の句が継げずに押し黙ってしまう。
そんなコウウを、きゃんきゃんは慈愛に満ちた表情で見詰めて、更に告げた。
「……わたし、コウウちゃんと遊べて楽しかったよ」
「! ……何を……」
「コウウちゃん、凄く強い魔物なのに、わたしのこと気遣って、いっぱい遊んでくれたよね」
だから、と。
きゃんきゃんは最後に満面の笑みで、
「――ありがとね、コウウちゃん!」
「――――」
「じゃあわたし……行くねっ!」
そう言って、きゃんきゃんは踵を返して、勇者の元に、仲間の元に向かった。
その場にただ一体、残されたコウウは、去っていくきゃんきゃんを引き止めることも出来ずにその場で立ち尽くす。
……何がありがとうだ……。
遊んでくれて楽しかったとか言ってたが、そんなのはただの暇潰しで、自分を慰めるためにやっていただけのことだ。別にきゃんきゃんと遊びたかったからやっていたわけじゃない。自分を襲う可能性がない相手なら誰でも良かった。
……勝手にしやがれ……。
別にいなくても困らない。他の奴を探せばいいだけだ。
魔物大将軍も勇者の襲撃で自分以外は皆死ぬだろうし、ある意味では自分の天下だ。残り短い寿命だが、前みたいに横暴には振る舞わずとも程々にやっていけばいい。
きゃんきゃんの代わりだって見つかるし、仕事だって、あいつらが死ねば他の大将軍もそのうち生まれてくるだろう。
……俺はどうせ、一人だ……。
そう、ひとりぼっちのはずだ。
自分が死んだところで悲しんでくれるものはいないはずだし、自分のことを想ってくれるものはいない。自分は嫌われ者だ。
――だと言うのに、どうしてこんなに悲しいのか。
自分のことを嫌いではない、羨ましいと言ってくれたリーや、最後には逃げろとこちらが生き残ることを優先したバルカ。
そして自分と遊べて楽しかったと、ありがとうと言ってくれたきゃんきゃんも、皆これから――勇者の手にかかって死んでしまう。
どうにもならない。勇者に勝てるはずがないのだ。
――なら、なぜ……自分の手は震えているのか。
それが許せないと。認めたくないと。どうにかしろと。己の内側が荒れ狂っているのか。
どうして彼らを死なせたくないと憤っているのか。その答えは、簡単なものだ。
――自分は彼らを、
少なくとも、己の心を奮い立たせるくらいには。心を動かしてしまうくらいには。
「……はっ……どうしようもねぇなぁ……俺……」
かっこ悪すぎる。最弱の女の子モンスターを先立たせて、自分はさっさと命惜しさに逃げようとしている。
昔の自分なら考えられない行動だ。指差して笑うだろう。
臆病者が。俺を誰だと思ってやがる――と。
俺は最強の魔物大将軍だ。誰が俺に敵う? 魔人だっていつかはぶっ殺してやらぁ。
そうやって臆病だと笑う者は誰だ?
――他ならぬ、過去の自分だ。
「……くそったれが……情けねぇ……」
昔の自分なら、自分より強いと聞いた相手でさえも、恐れずに立ち向かっていた。
なら、出来るはずだ。
あんなに弱いきゃんきゃんですら、戦おうとしている。無駄だと理解しながらも、仲間を救いたいからと戦場に向かっている。
この世は戦わなければ生きてはいけない。しかし戦ったとしても、弱者は生きていけないこともある。
なら、それなりに強い自分ならどうだ。
少しでも、何かを成せるんじゃないのか?
例え相手には勝てずとも、腐れ縁の仲間二人と、女一人くらい、逃して守り切ることが出来るんじゃねぇのか?
「それくらいやんねぇで……何が最強の魔物大将軍だ……!」
コウウは背に背負っていた槍を手に取る。
己が千年近く使ってきた愛槍だ。石丸に負けて、怯えるようになっても、これだけは手放さなかった。
それをコウウは、力任せに、地面に向かって叩きつける。
「こんの……馬鹿野郎がああああああああああああああああああああああああ!!!」
力任せの一撃は、自分の情けなさに当てたもの。
最強の自分に戻るための一喝のような一撃。
地面にクレーターを作るその破壊力は、きゃんきゃんや、他の魔物大将軍では出せない強さの証明だ。
「…………うし、戻るか」
コウウは槍を肩に背負ったまま、踵を返して戦場へと舞い戻る。
途中で、直ぐにきゃんきゃんには追いつき――謝った。
もうそこに、情けないコウウの姿はなかった。
戦場に戻ってきたコウウは、勇者に向かって対峙しながらも他の魔物大将軍二体に向かって告げる。
「つーわけで、俺がいるから問題ねぇだろ? お前ら二人とも揃って逃げろ」
「コウウ……お前、立ち直ったのか……!」
リーが思わず感動した声を上げるが、コウウは鼻を鳴らして素っ気ない態度を取りながら言う。
「ふん、ちょっと休憩してただけだ」
「随分と、長い休憩だったな?」
「っ、うるせぇぞバルカ! いいから足手まといどもは逃げやがれ! あの勇者――なんて言ったか。……おいテメェ! 名を名乗りやがれ!」
バルカの言を突き放した後、コウウは勇者に向かって大声で問いかける。すると立ち塞がっていた魔物を、ちょうど屠り終えた勇者が前に出て言う。
「……クエタプノと言います」
「クエタプノか。はっ、弱っちそうな名前だぜ! 到底俺に勝てるとは思えねぇな!」
「…………行きます」
クエタプノが無言で、剣を構える。
そして一閃。かなりの速さで放たれた剣は、正に魔物大将軍を一刀に斬り伏せてしまう鋭い一撃だ。
しかし、
「――しゃらくせぇ!」
「っ! なるほど、やりますね……」
コウウは槍でその剣を見切ると、その力でクエタプノを跳ね返してしまう。
力で拮抗されたクエタプノが思わず称賛の言葉を浴びせる中、コウウは、そら見たことかと他の奴らに言い放った。
「今ので分かっただろ? あいつは俺一人で充分。俺がこの槍で勇者とかいうふざけた野郎をぶっ殺してやる。だから……お前らが逃げろ」
「それは……」
リーが躊躇いを見せる。それに、コウウは自信満々になるが、対するバルカが、ふむ、と思考すると、
「……なら任せるか。行くぞ、リー」
「え、そんなあっさり……いいのか?」
バルカの急な態度の変わりように、リーが、あれ? と首を傾げる。それを見て、コウウが怒りをぶつけた。
「くぉらバルカ! テメェ、少しは躊躇しろよ! テメェらの代わりに残ってやろうってのに、直ぐに行こうとする奴があるか!」
「いや、別に私は、リーとは友人でも、お前とは友人になったつもりはないからな……ならば作戦を優先するのみだ」
「ぐっ……どこまでも可愛げのねぇ奴だ……もういい! さっさと行っちまえ! スケールのデカイ俺は、そんなテメェだってついでに守ってやらぁ!」
憤った様子で闘気を高めるコウウに、勇者が警戒する間、リーとバルカは行こうとして――しかしバルカが先に告げた。
「……死ぬなよ、コウウ」
「! ……当然だろうが! 俺を誰だと思ってやがる!」
おら、テメェら言ってみろ! と、コウウは二体だけでなく周囲に残る魔物達全員に向かって叫ぶ。
するとまず最初に彼女が叫んだ。途中でコウウに拾われた、女の子モンスターのきゃんきゃんが、
「魔物大将軍最強のコウウちゃん!」
「へっ……そうだ! ほら、テメェら! もっと俺様のテンションを上げろ! そしたら、俺はもっと強くなるぜ!?」
コウウの言葉に、次に告げたのは魔物大将軍の二体だ。二体は苦笑混じりに、
「……魔物大将軍最強のコウウ」
「……大将軍最強のコウウだ」
「ははははは! ようやく認めたなテメェらも! よし、お前ら、俺を応援してろ。そしたらこいつをぶっ殺してお前達も守ってやらぁ!」
そして、彼らは少しずつ、声を上げる。
「魔物大将軍最強のコウウ様……」
「大将軍最強のコウウ様……!」
「最強の魔物、コウウ様だ……!」
誰もが、それを認める。
魔人や使徒を除けば魔軍最強の魔物こそ、魔物大将軍のコウウだと。
「コウウ様に栄光あれ!」
「コウウ! コウウ!!」
そのコールに、コウウは自分の中の力が最大限まで高まるのを感じた。
「よっしゃーーー!! おら、テメェ! 覚悟しろ! 絶対にぶっ殺してやらぁ!!」
「…………出来るといいですね」
と、魔物大将軍コウウと、勇者クエタプノはぶつかった。
危機であることには変わりがないものの、彼らにとっては、時間を稼ぐための希望にして、もしかしたら本当に倒してくれるかもと希望を見る――救世主に他ならなかった。
――だが、彼らは知らない。勇者の強さ。その特性を。
「……何も知らずに……人間も馬鹿ですが、魔物も中々に馬鹿ですねぇ……」
遠くからその戦いを見る神は、それすらも絶望を彩る材料だと、彼らを嘲笑っていた。