魔王ナイチサの原因不明の負傷と、戦争の終結は、両陣営に衝撃を与えた。
魔軍は、大規模な攻勢を止め、再び散発的な侵攻に留まった。
人類は、戦争の深い爪痕から復興しようと力を合わせる。
そして、神々が喜ぶその戦争の功労者達は、未だその傷痕から抜け出せないでいた。
「――っ……ここ、は……」
戦いを終えて、深淵から意識を浮上させたその少年は、未だはっきりとしない呆然とした様子で周囲を見渡す。
そこは深い地の底だった。勇者として敗北した際に、何度も目撃したもの。
つまりクエタプノは、魔王に敗北したのだ。
クエタプノが信じる正義は、悪の魔王に屈した。
「~~~っ……!」
そのことを思い、クエタプノは両手を強く握る。
既に勇者の力は感じられない。
自分はもう勇者ではないのだ。
だが魔王は、未だ魔王であるはず。
ならば人々はこれからも、苦しめられることとなる。
それを想うと、自分の情けなさも相まって、涙を禁じ得なかった。
あれだけの好機は二度とない。
そのまたとない好機に、自分は失敗した。
今直ぐ自分を殴りつけ、あるいは誰かに罵倒してほしい気持ちが芽生える。
しかしそれもまた、救いを求める行為だと思うと躊躇われた。
暫くの間、クエタプノは何も出来ずにその場に留まる。
だがやがて、その場を動こうとした時――声は聞こえた。
「随分な様ですね、クエタプノ」
「……! コーラ……」
暗闇の中から声を掛けて、姿を現したのは、勇者の従者であるコーラだった。
この七年間、ずっと一緒に旅をしてきた仲間であり、得体の知れない相手でもある少年は、いつもながら淡々とした様子でクエタプノを眺める。
――のだが、今回は少し違った。
「勇者として、魔王を倒せなかった気分はどうですか? 一応、寿命を縮めるほどの重傷は与えたみたいですけどね」
「……最悪です……が、そうですか、寿命を……」
「ええ。おそらくはもう何十年と生きられないでしょう。魔王をここまで追い詰めるとは、今までの勇者が一度たりとも成し得なかった偉業ですよ。誇っていいんじゃないでしょうか」
「……そう、ですね。魔王が死んで、人々が助かるなら……」
コーラはいつになく饒舌だった。
しかもどこか、ニヤついた笑みを浮かべている。
今までに一度も見たことのない表情で告げるのは、クエタプノにとって僅かな慰めとなる言葉だ。
魔王は倒せなかったものの、その寿命を大きく削り、後数十年もしない内に死んでしまうという。
その数十年、人々が苦しむことになるのが問題だが、もし本当にいなくなるならそれに越したことはない。
自分のやったことは、完全には無駄じゃなかったのだと、自分を慰めることが出来る。
不安があるとすれば、このコーラの表情だった。
――何か、邪悪なものを感じる。
七年間旅をしてきた仲間に対して思うことではないが、その笑みには酷いものを感じてしまうのだ。
だが、直前まで、クエタプノは信じていた。
仲間を疑いたくなかったからだ。
しかしその願いも虚しく、言葉は来た。
「――多くの人間を犠牲にして得た力も、これで報われるというものですね?」
「――――」
その言葉は、クエタプノの心を酷く打った。
だがそれに反して、クエタプノは極めて冷静にそれを問い返す。
「……多くの人間の犠牲、ですか……」
「ええ、そうです。あれだけ強力な力、何の犠牲も無しに使えるわけないでしょう?」
と、コーラは酷い笑みを深めて、こちらを嘲るように告げる。こちらを嬲るように、
「勇者の力は、どれだけ人間が死んだか――それで決まります。聖なる剣が使えるようになるには10%。魔人を倒す力が30%。そして、魔王を倒す力は――人類の半分が、死滅しなければ解放されません」
それはあまりにも酷い、勇者の力の真実。
魔王を倒し、人々を救うためには、最低でも半数の人々を犠牲にしなければならないのだ。
それが勇者の力。人々の屍の上に立つ、偽りの救世主。
それが勇者の正体。クエタプノが担っていた役割の真実だ。
これだけでも衝撃過ぎる事実だが、更にコーラは続けて、
「それに、魔王を倒したところで、魔王はいなくなりませんよ。次の魔王が現われるだけですから」
「……!」
「驚きましたか? まあ、そうでしょうね。普通は知るはずがないですし」
ニヤニヤとこちらの反応を眺めながら次々に驚きの真実を伝えてくるコーラ。
魔王が死んでも、また現われるだけ。それにはさすがのクエタプノも心が締め付けられるような痛みを感じる。
この世に救いなんてものはない。定められた正義なんてものは存在しない。
あるとすれば、それは“地獄”だ。人々が嘆き苦しむ地獄こそが、この世の中の正体。
それを想い、クエタプノは悲しんだ。確かに、苦しみを得た。
だがコーラは、それに対して眉を顰め、
「……反応が鈍いですが、まさか嘘だとでも思ってるんですか? 物証なんかは提示出来ませんが、疑いようのない真実ですよ、これは」
信じていないのかと、コーラは更に強調して告げる。
クエタプノを絶望させ、その心を折り、最後にその様を見て嘲笑うために。
「おかしいとは思いませんでしたか? 魔王の対になるなんて、まるで作られたかのような存在に。何故神が悪を放置してるのか。それは全部、神の御心だからですよ。人が苦しんで死ぬことを、神は望んでいるんです」
神々は、人間の死を望んでおり、魔王こそが、神の御心の体現者である。
勇者なんてものは、神の戯れで作られた、舞台装置の一つでしかない。
だからお前のやってきたことは全て無駄だ――そう言われ、しかしクエタプノは涙を流したが……一向に壊れた様子はなかった。
「……何故、まだ平気なんですか? それとも、もう壊れているんですか?」
コーラは堪らず問いかけてしまう。
どれだけ絶望の言葉を発しようと、クエタプノは嘆き、苦しむ様を見せない。
そのことに苛立ちと、残念さを覚えたためだ。
この七年間の集大成ともいえる勇者の絶望を、笑いたいのだ。
嫌味を、毒を吐いて、彼を苦しめたくてしょうがないのだ。
それこそが、コーラス0024の愉しみであり、勇者の従者なんていう面倒な仕事で得られる最高の報酬なのだ。
だから苦しめ。絶望しろ。そう嘯き、コーラはクエタプノの表情を見る。
だが彼の表情は、その眼の輝きは――未だ死んではいなかった。
クエタプノは言う。
「……貴方は、悲しい人ですね」
「…………は?」
言われた言葉に意外を、何を言っているか分からないとばかりに間の抜けた声を出すコーラ。
――悲しい人? 何を言っているのだ?
何故こちらが哀れみの視線を向けられているのか。そんな疑問を口にするより先に、クエタプノは言葉を作った。
「勇者の力の源が……人々の犠牲の上に成り立つものであることは、確かに悲しいです。ですが――」
「……まさか、気づいていたとでも?」
「いえ、そういうわけではないです。ただ……そういう可能性もあり得るとは、思っていましたが」
クエタプノはそれを予想していたという。
あくまでも予想の一つでしかなかったが、もしかしたらそういう事もあり得るかもしれないと。
幾つもの予想の中でも当たってほしくない最悪な予想であったが、クエタプノはそれすらも覚悟して、今日まで戦ってきた。
例えどれだけの困難があろうとも、人々の為に戦うと。全ての可能性を考慮しながらも、自分の正義だけを信じて戦ってきたのだ。
神がそれを望んでいないことすらも、勘定に入れていた。
だが、そんなクエタプノでも、最も悲しんだことがある。それは、
「……魔王が死んでも復活する……それはさすがに堪えましたが……」
魔王が決していなくならないこと。人々が苦しみ続けるということ。
この世から悪を取り除けないことに、クエタプノは涙した。
そしてその上で、それを伝えてきたコーラに対して思うことは、ただ一つだった。
「コーラ。貴方は……僕を……いえ、人々を壊そうと、しているんですね? 自分の快楽の為に」
「!」
その内心を見抜かれ、コーラが僅かに目を見開く。
如何にも、人間を苦しめて、その様を眺めるのはコーラの趣味だ。
クエタプノを苦しめようと真実を教えたとはいえ、まさか完璧に見抜かれるとは思っていなかったと、コーラは内心驚いてみせる。
だが努めて冷静に返そうとする――が、その言葉は自然と棘を帯びていた。
「……だとしたら何です? 悪は許さないとでも言うつもりですか? ――その悪に力を恵んで貰ってる分際で、随分と調子のいい言葉を吐きますね」
軽く威圧しながら発言だが、しかしクエタプノは意に介さなかった。
ただクエタプノが、哀れむように、コーラを見詰める。仲間だと思っていた相手が、どうしようもない悪だったことを察して、恨みもせずにただ言葉を紡ぐ。
「……悪いですが、コーラ。貴方の思い通りにはなりませんよ。僕は壊れません。――
「っ、この……!」
その言葉に、コーラス0024は怒りを急激に跳ね上げた。
自分が鴨だと思っている人間に、馬鹿にされた。
それだけの理由で、コーラはその力の一端をクエタプノにぶつけようとする。
だが、
「……それが貴方の本性ですか」
「……たかが人間の分際で……!」
クエタプノは、コーラの攻撃を躱してみせた。
クエタプノはもう勇者ではない。
勇者であった頃の彼なら、例え4級神――コーラス0024が相手だろうと一蹴し、消滅させることは容易だろう。
しかしそうではない。勇者の力はもう宿っていないのだ。
だが、勇者として鍛えた力がなくなるわけではない。
勇者でなくなったとしてもレベルは下がらないし、幸運は無くならない。
そして何より――彼のこれまでの戦闘経験は、無駄にはならない。
だからクエタプノは、ギリギリのところでコーラス0024の攻撃を躱すことに成功した。言ってしまえばそれだけの話である。
実際に戦えばクエタプノの不利であることには変わりはない。
だがクエタプノは、その勇者としての力を支えた鋼の精神力を秘めた瞳で、コーラを強く射抜く。
「僕を殺そうと言うなら構いません。かつての仲間と戦うのは心苦しいですし、勝ち目は薄いですが……襲いかかる悪を、野放しにするわけにはいきませんので」
と、クエタプノは言う。
偶然にもそこらに転がっていた剣を拾い上げ、それをコーラに向かって突きつける。
そして勇者であった頃と変わらない強い表情で、
「どれだけ困難だろうが――貴方を倒しますよ?」
「……!」
はったりだ。瞬間的に、コーラス0024は思った。
しかしこのクエタプノという男は、そう言ったのなら本気で引こうとしないだろう。どれだけ困難だろうが、こちらの胸に剣を突き立てるために、あらゆる手段を尽くす。
神としての重圧を差し向けるが、魔人の武威にも、魔王の死にも、そして神の毒にも屈さなかった男だ。今更この程度で引くはずがない。
やると言ったらやるのだ。それは彼が今まで戦ってきた強敵達の眼にも似ていた。
魔物大将軍や魔人筆頭、そして魔王。彼らは自分の正義だけを信じて、勇者と矛を交えた。その一つ一つで、クエタプノは確かに感じ取ったのだ。彼らの正義を。
クエタプノの正義はそれらを認めることは出来ないが、それが存在すること自体は確かに認めた。
その上で、自分の正義を貫くのだと、クエタプノは剣を振るい続ける。――例え勇者でなくなっても。
そしてその強靭な精神力から放たれる視線の圧力に、僅かにコーラス0024が眉を立てた。
確実に殺せる。こちらの方が上だ。その判断に間違いはない。
だが、勇者として培ってきた戦闘経験やレベル。未だ残る幸運。そしてクエタプノの鋼の精神力であれば、もしかしたらもあり得る。
だからコーラは、
「……不愉快ですね……」
と、そう言って、矛をしまった。
代わりに告げるのは、少しでもクエタプノを苦しめるための言葉の刃だ。
「貴方のやってきたことは全て無駄です。魔王は新たな魔王に代わり、この世を再び地獄に落とします。貴方がこれから何をしようが、意味なんてありません。貴方の友人は死にますし、貴方の家族、子供や孫、子孫は全員残らず地獄の苦しみを味わって死ぬことになります」
「……例えその可能性が高くても、そうならないように少しでも頑張るだけです。この世に絶対なんてありませんから」
最後の最後まで、希望に満ちた言葉を吐くクエタプノにコーラは反吐が出そうな気分になる。
今直ぐにこの男を地獄に叩き落としたいが――それは自分の役目ではない。
だからコーラは願った。まるで呪詛の様に、
「……では、さよならですクエタプノ。もう二度と会うことはないでしょう。貴方が苦しみ抜いた末に死ぬことを、心より願っていますよ――」
その姿とともに、宙に溶けて消えていった。
ただ一人、地の底に取り残されたクエタプノは、警戒を保ちつつも、息を入れ、
「……まったく、随分と救いのない世の中ですね……」
と、ほんの少しの愚痴を口にした。
魔王の言うことが正しい世の中なんて、どんな悪夢なのだと。
だがその上で、クエタプノは一歩、前に進む。
「――ですが、止まってる暇はありませんね……」
この世を少しでも良くするために、出来ることは必ずあるはずだ。
勇者でなくなったとしても、僕は止まらない――そう心を新たにして、クエタプノは地の底から再び歩みを始めた。
――身体が疼いてしょうがない。
魔物界東部。魔軍の本拠地でもある魔王城の寝室の中で、魔王ナイチサは胸を押さえて蹲った。
それを支える者がいる。魔人筆頭兼魔軍参謀、ナイチサの懐刀ともいえる男――魔人レオンハルトだ。
「……やはり無理はしない方が……」
「……いや、大丈夫だ……直ぐに収まる……」
こちらを案ずる言葉に、しかし大丈夫だと手でその支えを拒否する。
勇者クエタプノに負わせられた傷は、今なおナイチサを苦しめていたのだ。
まったくもって忌々しい。
勇者という存在が眼の前に現れたこと自体はともかく、それにやられてしまう自分に憤りを感じる。
しかもそのからくりが、人類の死の数にあるとは思いもよらなかった。
レオンハルトに教えて貰ったが、どちらにせよ“確認”は取るつもりであったのだ。
その事実に少しばかりの残念を感じるが、致し方ないことでもある。
何にせよ、己の悪行によって人類の半分は死に絶え、神を喜ばせ、答えを知った。その結果、己は重傷を負った――それに間違いはないし、文句もない。
力の衰えは顕著だが、それは問題ない。それよりも寿命が短くなった方が問題であった。
「――先日、パイアールが頼まれていた戦闘用無人兵器、通称PDを開発したと報告が来ましたが……如何なさいますか?」
「……良きに計らえ」
「畏まりました。では、適当に戦地に派遣します」
レオンハルトの報告を受けながらも、ナイチサは今後の重要課題について考えに耽る。
魔王としての寿命が近い。かねてより考えていたことではあるが、早めに実行しなければならないなと、ナイチサは思い至った。
「……レオンハルトよ。卿に、頼みたい仕事がある……」
「……は、何なりと」
頭を垂れてその責務を告げる。それは、
「――
「……! それは――」
レオンハルトの瞳が見開かれる。続く言葉が来る前に、ナイチサは、然り、と頷いた。
「次代の、魔王のことだ……余も、並行して探すことになるが……ともかく時間がない。魔王の資質を持つものは限られる。卿も、捜索に参加せよ……」
「……畏まりました。直ぐに動きましょう」
「頼んだぞ……」
勇者に受けた傷の影響で苦しみに苛まれながらも、命じる。それだけ重要な事であった。
魔王の継承は重要な使命の一つ。これからも魔王による治世を継続させるために、魔王は己の継承者を探す。
継承に必要な血の精錬も、直に終わる。本来であればもう少し時間を置きたいが、寿命が縮んでしまったために、己は千年以上生きることが叶わないのだ。
だからこのタイミング。後50年以内に継承を行わなければならない。
もう少し余裕があるとは思っていたが、勇者との戦いの結果もあり、最早一刻の猶予もないと、ナイチサは己の優秀な家臣であるレオンハルトにも命じて、魔王の継承者を大陸中から探させることにした。
紅魔城。
その玄関、広間に向かって歩く二人がいた。
「急に呼び出すとか……ちょー面倒……」
「え、えっと……もう少しですから……頑張ってください……!」
肩を落としながら歩く小柄な影は、レオンハルト城に住む魔法研究者ガウガウ・ケスチナ。
その隣であわあわと彼女を応援するのは、カラーの少女、クライア・カラーだ。
彼女達はこの城の城主である魔人レオンハルトに呼ばれて広間に行くところであった。
そのことに対して、ガウガウが疑問を口にする。今更何故、と、
「改まって全員集合させるとか……何をする気だ……?」
「……きっと、何か深い考えがあるんですよ」
そう、城にいる者は全員、集まるように言われている。
レオンハルトがこういう風に全員を招集するなんて一度もなかったことだ。
それだけに、若干の疑問を感じてしまう。
だがクライアなど殆どの人は、レオンハルトを信じていた。
……重要な提案って先輩から聞きましたけど……一体何でしょう?
何でも城にいる者達にある提案があるらしいが、おそらくは悪いことではないはずだ。
この間も、クライアは呼び出され、カラーの隠れ里についての準備がある程度整ったことを、ハンティとともに教えられた。
それだけの親切を行ってくれたレオンハルトだ。きっと今回も悪いことではない。
だがガウガウは信用してないのか軽い冗談なのか、頭に手を回して軽い調子で、
「でも、全員使徒になれー、とかだったらどうする?」
「……わたしは、構いませんけど……」
「いや、それどころか全員でエッチなことさせようとするかもよ?」
「エッ……そ、そんなことないですよ……! レオンハルトさんは、そういう人じゃありません……!」
「……いやぁ……どうかなぁー? 私的には、そのどっちかな気がするけど。――あ、もしくは何か記念のパーティするとか? それだったら大歓迎だけど! もしそうだったらクライアもお菓子作って!」
「も、もう……ガウガウさんってば……ふふ、しょうがないんですから」
子供のように菓子をねだってくるガウガウに、思わず笑みを零す。
やはりこの城の人達は皆良い人だなぁ、とクライアは僅かな不安を掻き消し、ガウガウとともに、広間へと向かった。
「――それにしても、まさか撤退することになるなんて思いませんでしたわ」
魔王城の一室。魔軍参謀の執務室の中で、その使徒であるキャロルはしみじみと言葉を紡いだ。それに対してもう一体の使徒、紅い軍服姿の中年が答える。
「……とはいえ、戦争に敗北は付き物かと。もっとも、今回は敗北というより痛み分けに近いと判断しますが……」
「……そうですわね」
と、珍しくリーの言葉にも同意を返すキャロル。彼女は机の上にある将棋の駒を眺めている。
反対側には誰もいない。いつもであれば、バルカ辺りがそこに座っていたりするものだが、彼は今回の戦争で戦死した。
そして彼だけではない。他の大将軍達は、皆死んでしまった。
リーにとってはかけがえのない仲間であり、どことなく哀愁を漂わせている。
その手には、戦場から持ち帰ってきたコウウの槍。彼の死体の近くにいたきゃんきゃんが、どうか受け取って役立ててほしいと渡されたものだ。
リーに槍を扱えるような才能はないものの、形見としてそれを受け取ったリーは、それを眺めながらも、主の命令を待つ。
執務室の机には、その部屋の主にして彼らの主でもある魔人レオンハルトが目を伏せたままじっと考え込んでいた。それを見たキャロルは、物思いに耽っていた顔から一転、いつもの明るい様子で声を発する。
「――でもレオンハルト様が無事で何よりですわ! さすがはレオンハルト様ですの!」
「……そうですな。主が無事であることは使徒として、何よりの喜びであります故」
キャロルの言にリーが同意する。そして続く言葉も、リーが問いかけた。
「して、次の行動は――」
「――お前達には俺と一緒に、人類圏での調査に向かってもらう」
と、瞳を閉じたままレオンハルトがそう口にする。
主からの言葉だ。キャロルとリーは一も二もなく頷いた。
「畏まりましたわ! 何でも来やがれですの!」
「承知しました。全力を賭して、任務を遂行致します」
二人で敬礼を返し、レオンハルトもそこで瞳を開いて頷きを入れる。続いて口にするのはそのための詳細な方法だ。
「まずは商会経由で情報を集めるぞ。今から俺が言う情報を頭に入れておけ」
「分かりましたわ! それで、その情報とは何ですの!?」
気合いが入っているのか、新しい後輩に負けたくないのか、キャロルが興奮気味に質問を重ねる。レオンハルトは、ああ、と頷いて口にする。それは、
「――――
次回、NC期最終回となります。18時頃に予約投稿します。その後にでも、活動報告にレオンハルトとか、他のキャラのプロフ更新でもしようかなぁ、と。お楽しみに