魔物界東部にあるレオンハルトシティ。
その名の通り、魔人レオンハルトが治める魔物界の一大都市であるその入口に、大きな影が、一つだけ立っていた。
周囲に誰も連れず、街の入り口や外観を見て関心を示す息を漏らしたのはただの魔物ではなかった。
「――ふむ……これは……」
体長が二メートルを越えているその魔物は、細長い手足に大きな手を持つ、全身、黄色い肌をしている――魔人だった。
長くて黄色い顔を持ち、ある魔物に似たその魔人は、その異形とはミスマッチなはずの正装、キリッとした黒のスーツを着ており、右手にはかなり長いステッキを手にしている。
彼は評判通りのその街の外観をしばらく眺めていたが、やがてゆっくりと、それでいて優雅に街に足を踏み入れる。
魔物兵達が闊歩するその街に、彼の姿はやや目立つ。案の定、その見た目と気配から、彼が魔人であることに気づいて誰もが道を開けた。
「む、気を使わせてしまったか」
しかし、彼は魔物兵達が賑わっていた表通りがざわついてしまったことで、やや己の軽率な行動を反省する。
彼らには、彼らの営みがある。それに、目上の方が治める街で騒ぎを起こしてしまうのはあまり褒められた行動ではない。
先んじて伝えておいたとはいえ、ましてや今日はプライベートだ。仕事の時であればいざ知らず、彼らの休息を邪魔してしまっては心苦しいものだ。
だから、彼は人混みから外れ、一度路地に入り込んだ。
「……この辺でいいか」
と、彼は辺りを見渡し、己に気づいている者がいないと判断し――
「これで兵達に気を使わせることもないでしょう」
そう言って彼は再び街の表通りに戻る。
だが、今度は彼を気にする者は誰もいなかった。
むしろ、彼を見て気さくに声を掛ける者すらいる。
「美味しい串焼きですよー! お兄さん、食べていきませんか!」
「ん……ほう、これは……食欲を唆る良い匂いですね。これだけ多くの屋台があるとは……」
声を掛けてきた先は、表通りに並ぶ屋台の一つ。そこに立つ女の子モンスターからのものだった。
彼は声を掛けられたところで、その立ち並ぶ屋台の数々を見て、やはり感心する。その言葉を聞いた女の子モンスターは首を傾げた。
「あれ? お兄さん、表通りの屋台知らないってことは……ひょっとして、
「ん、ああ、そうですね。新兵です」
やっぱり、と己の予想が当たったことに喜ぶ女の子モンスターの目には、彼が魔物兵に見えていた。
そしてそれは周囲も例外ではない。彼の姿は、緑の魔物兵スーツを着た魔物に見えていたのだ。
だから誰も騒がない。同じ魔物兵がいるだけなのだから。周囲では、先程魔人を見たという噂が聞こえてくるが、いつの間にか消えてしまったという話になっている。
それを背後に聞きながらも、その噂の魔人は、声を掛けてきた女の子モンスターに頷き、
「では、一本だけ、頂けますか?」
「あれ、一本だけでいいんですか? 新兵ならサービスしますよ!」
「はは、それは嬉しい申し出ですがね。この後、上司との予定がありまして」
「あっ、そういうことですか! ならしょうがないですね! ――はい、どうぞ!」
「ありがとうございます」
こちらの事情を察して、親切に手渡ししてくれた女の子モンスターにお礼を告げる。上司と予定、と聞いて、食事か何かと思ったのだろう。
そして事実、上司との予定があるし、食事だって用意してくれているかもしれないので嘘はついていない。半ば騙しているようなものだが、出来れば嘘をつきたくないし、他者を騙すような真似は頂けない。正々堂々というのが彼の信条だ。
食事の用意がない可能性もあるが、それならそれで構わない。こちらが気を回しすぎただけで済むのだ。
だが、食事の用意があるのに、予め腹が膨れるほどに食事を取るのは、あまりよろしくないことだ。もし先方から何かを出されれば、それが例えどんなものであろうと完食するつもりである。それが礼儀というもの。
だからこそ、腹は多少、空かせておくのがマナー。魔人の肉体を考えると、この程度で腹が膨れるはずもないが、念の為という言葉もある。用心しておくに越したことはない。
そう思いながらも、串焼きを口にすると、香ばしい匂いとともに、肉汁が口内で溢れて旨味を味覚に届けてくれる。
……美味しいですね。これが、一般兵の食べる物ですか……。
食べ進めて内心でその味に評価を下す。他の場所とは違い、調理された物で、この味。美食の文化がない魔物の中でも、この街だけは例外のようだった。
ただの串焼きですらこの味だ。他の屋台やお店もどういうものなのか興味が湧いてくるが、残念ながらこれだけと決めていた。
だからまたの機会にしておこうと串焼きを食べ終える。
口元が多少汚れてしまったので、懐から食事用にハンカチを取り出して口元を拭く。
するとしばらくしてようやく、街の中心に到着した。その光景に、彼は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
「おお……何という……」
街の中心である噴水広場。そこにある光景は魔物界では他にない、一種の絵画のような光景だった。
噴水から湧き出る水は、キラキラとした水飛沫を水面に響かせ、涼やかな音色を耳に届ける。それを楽しみながら周囲の大きな建物や看板を見てみれば、多くの魔物兵達が出入りする公衆浴場や、中から音楽が聞こえてくる劇場。魔物将軍や魔物隊長などの将校が利用するスポーツ施設など、様々な施設がそこにある。
そしてもっとも目を奪われてしまうのは――やはり街の中心にそびえ立つ赤い城。
紅魔城とも呼ばれるほど赤い外観が特徴のそこは、魔人レオンハルトの居城である。
魔人筆頭兼魔軍参謀という立場を持ち、最強とも英雄とも名高いレオンハルトの住む権威の象徴。
そしてその城こそが、彼が今日、訪れようとアポイントメントを取った場所だ。
故に眺めるのは程々にして、彼は城門にゆっくりと近づいていく。
するとあと僅か、といったところで、城門の脇に立っていた魔物兵が反応し、
「む――止まれ! ここはレオンハルト様の居城であるぞ!」
何も符号を持たない一般の魔物兵の姿をしている己が呼び止められるのは当然だ。
だから彼は、そこでその変身を解いた。すると魔物兵が目を見開き、
「!? な、おま――いや、貴方様は……」
途中でその気配と姿に気づいて、魔物兵が言葉遣いを変える。元の姿に戻った魔人は、そこで丁寧に告げた。
「騙すような真似をしてしまいましたね。ですが、街で騒ぎを起こすのもどうかと思いましたもので。……申し訳ありませんが――魔人、ジークが参りましたと、レオンハルト様にお伝え下さいますか?」
「――レオンハルト様。魔人ジーク様が、お見えになりました。どうなされますか?」
城の執務室で仕事を進めていたレオンハルトは、メイド長さんのその報告を聞いて、書類から顔を上げた。
「来たか……とりあえず、俺が出迎える。お前達も付いてこい」
「畏まりましたわ!」
「はいはーい、了解ですよう」
「は、了解しました。同行致します」
「……えぇー、あたしも……? いや、まあいいけどさ……」
仕事を行っていた4人の使徒がそれぞれ思い思いの言葉で、同意を返す。ハンティだけが微妙そうな顔だったので、レオンハルトはそちらに顔を向けて問いかける。
「何だ、嫌なのか?」
「……いやだって……あのジルが作った魔人でしょ? 絶対あのノスとか、ヘビ女みたいに、嫌な奴でしょうに……」
思い出したのか嫌な顔をするハンティ。その答えを聞いてレオンハルトは、ああ、と頷きながらも、
「確かに気持ちは分かるが……多分、お前が心配するような奴ではないと思うぞ」
「? レオンハルトもちゃんと話した事ないのに、何で分かるのさ」
レオンハルトはそこで僅かに息を入れ、苦笑混じりに部屋の外に向かいながら口にした。それは、
「――勘だ。まあ、とりあえず付いてこい。おそらくは大丈夫だ」
「……? まあ、行くけどさ」
と、訝しげな視線を向けるハンティと他の使徒達も一緒に、レオンハルトは玄関まで魔人ジークを迎えに行った。
――そして、玄関に辿り着いて、ジークと対面した瞬間、ハンティは思わず内心で、“え?”と逆に疑問を感じてしまった。
「――お初にお目にかかります、魔人、レオンハルト様。ジークと申します。魔王ジル様に魔人にして頂いたばかりの若輩者では御座いますが、どうぞよろしくお願い致します」
……え?
玄関に訪れたレオンハルトを前に、優雅かつ丁寧に挨拶をしてみせる魔人がいる。
ノスの様に嫌味な様子は全くなく、寧ろ紳士的。服装も紳士そのものの正装で、スーツを着ているだけでなく、
「ああ。よろしく頼む。だが一応、初対面ではないはずだが?」
「はい。確かに、魔人になった際に一度顔を合わせましたが、ちゃんとご挨拶が出来ていなかったので、改めてご挨拶に伺った次第です」
「……律儀だな。お前の流儀か何かか?」
「はい。私は紳士であるように努めていますので。新参者の私が上司であるレオンハルト様に挨拶をしない訳には参りません。先に、他の同僚の魔人の方々やカミーラ様などに挨拶を行いましたので、順番が前後してしまったのは申し訳ありませんが……」
と、聞かれたことにすらすらと答えるジークという魔人は、正に紳士だった。
見た目がまねしたでなければ、ただの紳士だとそこで終わるのだが、スーツを着た人型のまねしたに見えるのが微妙にシュールだと思うのは、己だけだろうかとハンティは思う。
……まねしたの魔人とは聞いていたけどさ……。
前情報では、まねしたの魔人と聞いていたジーク。
まねしたとは変身能力を持つ魔物の一種で、レオンハルト軍でも工作員としてライカンスロープと一緒によく働いてくれている魔物で、黄色いぬいぐるみの様な姿をしている魔物である。
それを大きくしてちょっと形を変え、スーツを着せたのが、ジークの見た目だ。
なので微妙なアンバランス感があるのだが、よくよく見ていると、不思議とそのスーツは似合っているようにも見えてくる。
……実は猫被ってたりしない?
と、ハンティは疑心暗鬼に駆られてそう思う。あのジルの魔人。その二体が最悪だったからこそ、ハンティは疑いを掛ける。
「そうか。まあ、構わないが……とりあえず紹介しよう。こっちが、俺の使徒達だ」
「レオンハルト様の第一使徒、キャロルと申しますの。どうぞお見知りおきを、ジーク様」
「……ハンティと言います」
「ペールと申します、ジーク様。どうぞよろしくお願い致しますね」
「リーです。レオンハルト様の使徒を務めさせて頂いております」
レオンハルトに促されたので順番に挨拶をする。
するとジークはその全てに、うん、うん、と頷き、
「はい、確かに憶えました。態々私の様な新参者に使徒総出でお出迎え頂き、感謝します」
そう言って再びお礼を告げる。しかも、
「それとこれは、私からのほんの気持ちで――」
と、包装された箱を、ジークは懐から取り出してレオンハルトに手渡す。レオンハルトがそれを見て、
「これは?」
「はい。レオンハルト様は、うはぁんがお好きだと耳にしたので……うはぁんの詰め合わせとなります。心ばかりの品では御座いますが、どうぞお納め下さい」
「ん……そうか。悪いな、態々気を使わせて」
「いえ、とんでもない。このくらいは気を使った内に入りませんよ」
贈り物まで態々用意してくる始末だ。
しかも魔物にありがちかつ、レオンハルトにありがちな、人間の女だったりしない。普通に良い物を贈ってきた。
……あれ、もしかして……本当に紳士?
ここまでのやり取りを見て、さすがのハンティも、おや、と疑念を解き始める。まだ確証はないが、確かに他の二体とは違う様に思える。
そう思っていると、レオンハルトは城の中にジークを招き入れ、
「まあ、立ち話もなんだ。入ってくれ」
「はい。では、お言葉に甘えて、お邪魔させて頂きます」
ちゃんと一言添えてレオンハルトの後ろに付いていく。
入城を許可されたことだけでも、少なくともレオンハルトは認めているということである。ガルティアやケッセルリンクなどを除いて、基本的に魔人を城の中に招き入れることはしない。たまにやってくるレキシントンなどは基本的に外で会話をして追い出したり、街の外で用事を済ませたりする。
だというのにジークを城に招いたということは、それだけ信用したということである証左だった。
……というか、このジークの方もレオンハルトへの信頼みたいなのが見えるような……。
どうも先程からそんな気が見える。
紳士だからというのもあるのかもしれないが、ちょっと街の魔物と近いかもしれない。
レオンハルトに尊敬の念を抱いているような感じだ。
そう思った直後、ハンティの予想は、応接間のソファーに着いたところで、正解だったことに気づく。
「――それで、挨拶に来ただけか? それとも……何か用事でもあるのか?」
対面同士に座ったレオンハルトがジークに視線を向けて問う。
するとジークは、ええ、と頷いてみせながら、少し間を置いて話始めた。
「……実を言うと、私――」
と、ジークは一息置いて声に出す。それは、
「――レオンハルト様を、個人的に尊敬していまして」
……えっ?
ハンティが内心で、二度目の間の抜けた声を漏らす。
しかしハンティの中でちょっとしたフリーズが始まっていても、ジークは止まらない。レオンハルトの頷きを受けて、
「……そう、なのか。……一応、何故かと聞いていいか?」
「はい、簡単に言えば……魔人の中で、私が思う最も魔人然とした人物が、レオンハルト様なのです」
「魔人然とした……?」
はい、とジークは尊敬する目上の者の言葉に、丁寧に頷きながら説明を続ける。
「三代もの間、魔王様に仕え続け、魔人を統率し、魔軍を取り仕切るその手腕と実力。最強の魔人と謳われながらも、必ずしも暴力だけではない、時には力以外の手段で問題を解決し、魔人や魔物を従わせてみせるその能力の高さ。加えて、教養もお持ちで、あらゆる文化に造詣が深いことは、この街や城を見ているだけで解ります」
「……!」
おお……! と、言わんばかりの表情を、キャロルとリーのレオンハルトへの忠誠心高すぎるコンビが浮かべる。“分かってるじゃないか!”みたいな顔しないで欲しい。なんか反射的にツッコミを入れそうになってしまう。
しかしジークの語りはその間も続く。饒舌に、
「そしてレオンハルト様もとても紳士的であり、それでいながら戦いの際には正しく王道。敵を容赦なく斬り伏せ、英雄の様な雄々しい戦いを見せてくれるレオンハルト様の活躍振りは、魔人になったばかりの私の耳にも届いております」
は、これが? と、ハンティはレオンハルトに半目を向ける。
普段のは紳士でもなんでもないというか、真面目で寛容に見えるけど、妙に拘り強かったり負けず嫌いだったり、神経質だったりするし、戦いの時はただの変態というか、昂ぶって滅茶苦茶なこと言い出す変態だ。
「それにレオンハルト様は、私の元の種族である“まねした”も有用に使ってくれていると聞きます。魔物を導きながらも、その力で驕り高ぶることなく、己の道を真っ直ぐと突き進むレオンハルト様は、正に私が想像し、そうありたいと感じる理想の魔人像なのです」
そこまで言い終え、納得してくれましたか? と、声を発したジークに、レオンハルトが僅かに言葉に詰まりながら、
「お……おお、そうか。そこまで褒められるとこそばゆいが……悪い気はしない。それほど大したものではないと思うがな」
ちょっと動揺してるな、とハンティはレオンハルトの僅かな反応で内心を読み取りながら、今度はジークの反応を見る。その言葉を受けたジークは首を縦に振り、
「その謙虚さも、是非見習いたいものです。……そこで――」
好意的な言葉を返し、しかし今度は神妙な雰囲気で言葉を繋げた。
「不躾ではありますが……レオンハルト様に一つ、お願いがありまして……」
「……なんだ? とりあえず言ってみろ」
はい、と頷き、ジークは告げた。そのお願いの内容を――
「――
「…………この、街に?」
「!?」
ハンティは驚愕して思わず唖然としてしまう。
魔人がこの街に住みたいと願う状況は、特殊過ぎてついていけないものだ。
しかし警備担当であるハンティが必死にそれを飲み込もうとしてる間に、レオンハルトは思考を回して考えをまとめたのか、真面目な顔でジークを見ると、
「…………まあ、構わんが」
「おお……それは真ですか……!?」
ジークが声を上げて、露骨に喜びながら問うと、レオンハルトがもう一度頷きながらキャロルを見て、
「ああ。幾つかのルールは守ってもらうし、ずっとという訳にはいかないだろうが、それでもいいなら構わん。詳しくは、そこの町長に聞いてくれ」
「はい! レオンハルト様の第一使徒にして完璧使徒の町長、キャロルですの! 転入希望でしたら、幾つかご説明しなければならないことがありますが、よろしいですの?」
ジークは頷いた。
「――聞きましょう。説明をお願いします」
……やめろ馬鹿ーーー!?
まさかそう声を上げるわけにもいかないので視線で全力で訴える。
何を街に問題を持ち込もうとしてるのかと。街に魔人が住むとか、ただでさえ厄介事が多い警備の仕事が、更に面倒な事になる可能性が高まる。
だと言うのにレオンハルトは問題ないと判断したのか、もはやキャロルに任せて自分はうはぁん食ってるし、キャロルはキャロルで、何故か目の色を輝かせながら全力かつ懇切丁寧に説明を始めている。リーも神妙に頷くばかりで役に立たない。
最後のペールに至っては、若干苦笑しながらも考えることを諦めたのか、呑気な顔でうはぁんに手を伸ばし始めた。
しかもその間にも、転居の説明は書類を交えながら進められ、
「ここまでで、何かご質問御座いますの?」
「ふむ、そうですね……ゴミの分別はどうなっていますか?」
「燃えるゴミと燃えないゴミで分けて頂きますの。燃えるゴミの日は火曜と土曜で、燃えないゴミの日は水曜と日曜ですわ。出来ればその日の朝になってから出してほしいですわ。街の景観を損なってしまうので……」
「ふむ、ちゃんと分けられているのは好ましいですね。ええ、それなら問題ありません」
「ご協力感謝致しますの。あっ、後は最近、夜になってから建物に落書きをしたり、男の子モンスターを襲う不審者が現われるとの情報がありまして、大丈夫だとは思いますがお気をつけて下さい」
「なんと……そのような卑怯な不届き者がいるとは……許せませんね。――よろしい、見つけたらこの私が退治しておきましょう」
……魔人なのに良い奴かっ!?
ゴミの分別を気にしたり、不審者を許せないと憤る正義の心を持っている。その様子を見ていると、本当にあのジルの魔人なのかと逆の疑いが生じてきた。演技というわけでもなさそうなのが何とも言えない。
レオンハルトが妙に気を緩めているのも気になる。なのでハンティは、レオンハルトに近づいて耳打ちするように、
「……ちょっと、本当にいいの? あれ」
「……ああ、問題ない。ジークは、紳士だからな。それに――」
「それに?」
と、先を促して答えを待つが、しかしレオンハルトはそこで言葉を止めて答えず、
「……何でも無い。とにかく、あいつは紳士だ。だから街に住まわせるくらい問題ない」
……何その謎の信頼……。
小言でのやり取りを終えてため息をつく。確かに悪い奴には見えないのだが、魔人というだけで妙に癖があるように感じてしまうのだ。
ハンティは、一応、ジークが何かを企んでいる可能性を鑑みて、しばらく警戒することを心に決めた。
……おお、これで私も、この文化的な街に住むことが叶うのか。
ジークは内心で喜ぶ。ダメ元ではあったが、来てお願いしてみて正解だった。
……これで、レオンハルト様から魔人としてのノウハウを付きっきりで教えて貰えることも叶います。
何しろジークは魔人になったばかりで、まだ右も左も分からないのだ。
レオンハルトの側で指導して貰えれば、魔人が受けるらしい新人教育も効率的に習うことが出来て、仕事のやり方がいち早く身につくだろう。
それに、レオンハルトから様々な文化や教養を習うことだって叶うし、畏れ多いが、個人的に親交を深めることも出来るかもしれない。
だからジークは喜んだ。レオンハルトの使徒であるキャロルから受け取った転居届などの書類にサインすると、
「――レオンハルト様。どうか新参者のこの私に、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
「……ああ。こちらこそ、よろしく頼む」
差し出された手としっかりと握手を交わし――魔人ジークはレオンハルトシティに住み始めた。
次回はカラーかな。一応、活動報告にアンケートじゃないですが、ちょっとした意見募集置いといたんで良ければご覧になって頂ければ幸いです