朝靄に濡れて雫を落とす葉の群れがある。
そこは木々の影の下、林、森の中であった。
大陸中央部、翔竜山を囲むようにあるのは大森林地帯。
いわゆる――カラーの森と呼ばれるその場所だ。
そしてその森の中でもかなり奥にいったところでは、朝日を受けて、動き出す水色の髪の美女達。
額に赤や青のクリスタルを持つ亜人種、カラーだった。
彼女達は早朝であることにも関わらず、機敏に動き出し、木造の建物から作業場へ移動し、そこに積まれた資材を手にして作業を始める。
彼女達が行うのは、自分達カラーが住居とする建物を増やすことだ。
「あれ? こっちの資材ってどっちのだったっけ?」
「これはあっちよ。向こうの班が持っていくだろうから放って置いて。それより、今日は先に、先日壊れたところの補修から取り掛かるから」
「はーい! 分かりました親方ー!」
「誰が親方よ。なんか親方って言われると凄くむさい男みたいだからやめなさいっていつも言ってるでしょ? 何回言ったら分かるのかしら、貴方達は」
「はーい、お姉さまー!」
「それでいいのよ。――さて、それじゃあ始めるわよ」
建設現場のカラー達は簡単に朝食を取ると、親方――建築が得意なカラーのリーダー格の号令を受けて作業を始める。
この仕事はかなり重要なものなのだ。何しろ、カラーの隠れ里の居住人数を増やすためのものなのだから。
だからこそ、カラー達のリーダーであり、この隠れ里の初代女王となる予定の、インデックス・カラーは、柄じゃないと思いながらもそれを全力でこなすのだ。
長いストレートの髪をかき上げて、ややキリッとしたクールな印象を持ちながらも、童顔な顔立ちと、小柄で華奢、だけど胸だけは大きく育った、そんな身体を持つインデックスは、周囲のカラーに指示を出しながらも思うのだ。――何故自分が、と。
もっとも、今では納得しているものだが、当初は何故、という思いが強かった。しかし理由を聞いてみると、自分でも納得のいくものだったからリーダーを引き受けたに過ぎない。
何しろ、己はカラーの中でも強い。それに、あまり人の命令に従うのが好きじゃない。だからといって一人で生きていけるものでもないので、あまり他人と馴れ合わずにマイペースに過ごしていたのだが、いざ任されてみると、どうやら人に命令を下す方が得意で、やはり気分がいい。
他者を顎で扱き使うのは中々に良い気分だし、それでそれなりの充実感も得られる。上の立場になってみると人付き合いもそこまで悪いものではない。
仕事は確かに面倒だが、それについては四の五の言ってる場合ではないことはよく分かっている。カラーの立場とは、それほどに危ういものなのだ。
数百年前にあったというカラー王国と、人類との戦争で、カラーのクリスタルの効果が判明してからというもの、人間はカラー狩りなるものを行い、カラーを資源として見るようになった。
処女を奪い、犯し続けると、クリスタルの持つ魔力が高まる。それを抜いて、様々なマジックアイテムに使用することが出来るのだ。
そしてクリスタルを抜けば、カラーは死ぬ。それを分かっていながら、人間はカラーを狩ることをやめない。
もっとも、最近になってそれはなくなったが、それは人間がそれどころじゃないからであって、諦めたわけじゃないことは知っている。
だからインデックスは、人間が嫌いだし、基本的に、男も嫌いだ。野蛮で強欲、暴力的で、やることといえば女に乱暴することしか考えていない最低な生き物。
だからといって、滅びろとも思ってないし、積極的に殺しにいくものではない。
憎しみというよりは普通に嫌いで、単純に、関わりたくないだけだ。関わってもいいことがないというのは歴史が証明している。
それでも繁殖には人間の男が必要だというのだから何とも憂鬱な気分ではあるが。人間以外とでも出来ればいいのに、と思う。幾ら生まれるのがカラーとはいえ、人間の男で孕むなんて、考えただけでもゾッとする。必要なことだと理解はしているので、周囲にそれを押し付けようともしない。自分は嫌だ、と思うだけだ。繁殖は他のカラーに任せればいい。
とにかく、この隠れ里の設立は、カラー達を守るためにも重要で、手が抜けない大事な仕事だ。支援をしてくれる彼らの為にも、休むことはない。
そんなことを考えていると、
「――っと、調子はどう?」
「! 始祖様」
いきなり眼の前に現れた黒髪のカラーの姿に、一瞬驚くも直ぐに気を落ち着かせる。いつものことだからだ。
魔人の使徒であり、自分達カラーの始祖でもあるハンティは、この隠れ里のために支援をしてくれている者の一人だ。
そして、いつもはカラーのクライアと、あの方と一緒に現われるのだが――その姿がない。
「調子はいいけど……今日は一人なのかしら?」
「……後からくるよ」
「! そ、そう……ならいいわ」
と、半目になったハンティの視線を無視して髪を無意識に弄る。ハンティとはここ何年かで友人になったというか、向こうがタメ口でいいと許可を出したので遠慮なく喋らせて貰っている。敬語は苦手だからだ。
「あっ、始祖様!」
「始祖様! おはようございます!」
「はい、おはよう。今日も元気がいいね」
「手を止めちゃ駄目よ。挨拶はしていいけど」
「はーい!」
すっかり顔馴染みになったハンティに群がりかけたカラー達を、先んじて注意しておく。カラーは結構ミーハーというか、割りと流されやすい部分もあるので、長の自分が気に留めておかなければならないのだ。
そうして作業場の殆ど真ん中で、2人して会話を行う。しかし、
「……ということなので、別に帰ってもいいわよ?」
「こらこら。来たばっかでなんで帰らせるのよ」
「だって、態々皆の始祖様に手伝って貰うことなんてないもの。人間が森に入ってきてるわけでもないし」
「いや、なんかあるでしょ。ないわけないじゃん」
と、ハンティが軽くツッコむように言うので、インデックスは顎に手を当てて考え込む。何か仕事があったかと、
「そうね……あ、なら私の家の庭で草むしりでもして貰おうかしら。最近また伸びてきてるのよね」
「思いっきり雑用でしょうがそれ!?」
「あら、瞬間移動が出来る始祖様なら一瞬でしょ? 中々にお似合いな仕事だと思ったのだけどね」
良いツッコミを返してくれたのでくすくすと笑みで返してみる。するといつも通り、遠慮のない言葉が来た。
「一応あたし、始祖なんだけどね……というか、自分の家の仕事くらい自分でやりなさいよ」
「私だって女王よ。それに、私は嫌よ。手が汚れるもの」
「代わりにあたしの手が汚れるんだけど?」
「いい女に、草むしりなんて似合わないわ」
「……滅茶苦茶馬鹿にされてる気がするんだけど気の所為かな?」
「気の所為よ」
言い切って終わらせてやる。口では敵うまいと。
こういう遠慮のないやり取りが出来るのが、ハンティの良いところだが、彼女も日頃から鍛えられてきたのか、たまに反撃が来る。今も、ぐぬぬと悔しそうに怯んだ後に、軽く眉を立てて、
「……年下なんだからちょっとは年上を立てなさいよね!」
「若さって武器よね。特に女と畳は、新しいものの方が良いって言うし」
「……チビのくせに」
「守ってあげたくなるような可愛らしい小柄な体躯で、しかも出るところが出てる私と、方や長身だけど貧相な身体を持つ心の狭い女。一体どちらが魅力的かしら?」
「……私の方が強いでしょうが!」
「……それ、女として終わってる発言よハンティ。まるでゴリラの言い分。パワーゴリラならぬカラーゴリラね」
「…………」
「痛っ! 痛い痛い痛い!! ちょ、ちょっと! 暴力は駄目でしょう!? 口でやりあってるんだから口で――って、痛い痛い痛い!? ちょ、謝るから抓らないでよ!」
と、言ったところでようやく離してくれる。
やはり脳筋のメスゴリラめ、と視線を向けると、何かを察したのかまた手を握ろうとしてきたので、さっと目を逸らす。ハンティがため息をつき、
「ほんっと、可愛くないわねぇ……」
「あら、よく聞こえなかったのだけど、私のこと、超可愛いって言った?」
「無敵かあんたは」
「美少女は無敵なのよ」
「口の減らない……」
ハンティが諦めたように気勢を落とす。今日も勝った。自信満々に言い切ると、そのままハンティは建物の壁に背を預ける。
そして肩を竦めると、
「あんまり毒舌過ぎると、友達無くすよ?」
「別に。ハンティだけでもいいわ。それに私は、カラーの長は少しくらい毒舌な方が良いって教えを守ってるだけだもの」
「ペールの教えじゃないそれ……いい加減なものもあるからあんまり真に受けない方がいいと思うけどね」
「知っているわ。でも、元長の教えってだけで説得力があるから、都合の良い時だけ使うのよ。保守的なカラーは大体、始祖様か、かつての偉人が言っていた、と言うと黙るから凄い楽よね」
そう告げてやるとハンティは一瞬間を挟む。そして苦笑し、
「……あんた、ほんといい性格してるよね」
「褒め言葉として受け取っておくわ。……それより、朝食用にサンドイッチがあるのだけど、食べる?」
「ん、食べる」
じゃあはい、と、手元の台に置いてあったバスケットを手渡す。
それを開き、ハンティは無造作にその中に一つを手に取り、口に含むと、
「……こういう気遣いは出来るのにねぇ……」
「友人を気遣うくらい当たり前よ。採れたての茶葉から淹れたお茶もあるけど、いるかしら?」
「頂戴」
差し出してきた手に、水筒を手渡す。作業現場において、水分補給は必須だ。
もっとも、使徒であるハンティには食事も水分補給もそこまで必要ないだろうが。味音痴だし。しかし、だからと言って摂らないでいいというわけでもない。
「まぁ、貴方達の住んでる場所の料理と比べたら、大したことないものだけど」
「……どうだろうね。でもまあ、あたし的には落ち着く味だよ」
「味音痴なのに?」
「味音痴でもよ」
と、即座に告げられ、少しやり返された気持ちになる。中々に響くものだ。
やはり自分の作ったものを褒められるというのは悪い気がしないな、と思いながら、
「……ありがとう。まあ、それはいいわ。それよりも、少し聞きたいことがあるのだけど」
「? 何さ、改まって」
聞きにくいことでもあるため、一応前置きを置く。そしてあまり周囲には聞こえないように声を落として、
「最近、外の様子が凄いというか……悪い噂を聞くのだけど、それって本当なのかしら?」
「っ、それは……」
問いを投げると、やはりハンティは言葉を迷わせ、露骨に表情を歪めた。どうにもこの優しい直情的な友人は、嘘や腹芸が微妙に苦手らしい。
聞いておいて何だが、あまりその先を言わせたくはないな、とインデックスは先んじて言葉を作る。
「今の反応で大体分かったわ。まあそれと……別に私としては人間がどうなろうとどうでもいいわ。あの子たちを守れればね」
と、作業を行うカラー達の方に顔を向けて言う。誰も彼もが、充実したいい空気を吸って、平和を謳歌していた。
この光景が守れるならばそれでいいのだと、
「前の魔王もヤバいとは聞いていたけど、今代は更に凄いようね」
「……まぁ、そうだね。カラーは、大丈夫だと思うよ。もう結界も張ってるし」
ハンティが気を取り直して頷き、結界のことを口にする。
このカラーの隠れ里であるペンシルカウでは、森に結界や罠を仕掛けており、人間の侵入を防いでいる。結界のおかげで辿り着くことすらも難しいこの場所に加え、罠と、念のために防衛隊も組織しているのだ。
後はカラーの女王――己だけが使える大規模な呪い。それがあれば、特に問題はないはずだと、インデックスは頷く。
「魔物も、あの人が指揮してるなら大丈夫でしょ? 貴方だっているのだし」
「……魔王に命令されなければ大丈夫だと思うよ。命令されたら、従わざるを得ないからね……」
魔王が持つという絶対命令権には、魔人や使徒であっても逆らえないという。何とも嫌な事実だった。
「魔人や使徒も、恵まれているようで嫌なものね。私だったら絶対に嫌よ。例え魔王だろうと命令されてそれに従うなんて、死んでもごめんだわ」
「……あはは。インデックス、命令されるの嫌いだからねぇ」
「そうよ。だから長になったようなものなのだし、誰であろうと命令されて言うことを聞くなんてことしないわ」
「あはは、頼もしい。あんたなら、そうかもね。魔王の命令も跳ね除けちゃいそうな感じするわ」
当然よ、と不敵に笑みを浮かべてみせる。
だがお互いに、現実は理解しながらの、おふざけのようなものだ。実際は難しいだろうと。
しかしだからと言って、そんなことで暗くなることも、諦めることもない。今のはもしもの話ではあるし、大丈夫である可能性の方が高いのだ。
何しろ、こっちには頼もしい支援者が付いている。ハンティやクライア、ペールやケッセルリンクといった元カラーの者達と――
「――すまない。少し遅れた」
「!」
と、そんなことを考えていた時に、今度はその支援者がインデックス達の前に現れた。
気配を消してきたのだろう。建物の影からすっと現れた魔人の姿に、インデックスが軽く目を見開く。
「……待っていたわ。レオンハルト様……」
「……そうか。少し、物資を運ぶのに手間がかかってな。遅くなってすまない」
カラーの支援者である魔人――レオンハルト。
この隠れ里のために物資を幾つも提供し、ハンティを遣わして様々な協力を行ってくれた、カラーにとって恩人とも言うべき魔人だ。
歴史的にも、何度もカラーを救っており、その使徒にも始祖様や、カラーの長であるペールなどが存在する。
それだけの人物なのだ。だから、と言うわけではないが、インデックスはレオンハルトとの距離を詰め、
「ふふ……なら、少しだけ付き合ってくれるかしら?」
「……何だ?」
「うわ……」
レオンハルトに近づいてその腕を取ると、ハンティが呆れたような声を上げたが、そちらは無視して、レオンハルトに告げる。それは、
「大したことじゃないわ。ちょっと私の部屋で、
「……それか」
「……男嫌いって言ってた癖に……」
同じ様な意味の問いかけを、レオンハルトとハンティからぶつけられ、インデックスは微笑む。意味深に、
「あら、カラーの女王と、カラー全体を何度も救って、それを支援してくれる親切な魔人。その2人が親交を深めるのは何もおかしなことじゃないわ。極めて自然な摂理よ」
「……いきなりか」
などとレオンハルトが言うので、インデックスは返答した。肯定しながら距離を更に縮め、
「ええ、いきなりよ。男と女の関係だもの。遠慮する必要はないでしょう?」
と、腕に自慢の胸を押し付けるようにしてやると、物凄く分かりにくいが、彼にとっては分かりやすい方の反応を示す。可愛い、と思いつつ目を細めていると、
「あー!? レオンハルト様がいる!」
「ほんとだ! レオンハルト様ー!」
「お、おはようございます! そして、いつもありがとうございます!」
「きゃー! レオンハルト様とお姉さまがくっついてるー!」
「大人の関係なのね……!」
さすがにレオンハルトの存在に気づいたカラー達が、声を跳ね上げて、目の色を変えて近づいてくる。始祖様よりも凄い反応だが、それも致し方ない。
……レオンハルト様は人気あるものね……。
カラーを救った魔人。それも超絶イケメンで、しかしに滅多やってこない人物だ。近頃余計に出会いが少なくなって、人間が嫌いになる子が増えたカラーにとっては、貴重な男性、異性の存在だ。
そしてインデックスにとっても、唯一認める男性だ。他の男性なら嫌だが、彼の子なら孕んでもいい。それくらいには想っている。
そんなレオンハルトを見上げて、微妙に困っているのを察したインデックスは、声を掛けた。
「人気者ね。このままだと騒ぎが起きそうだけど……どうするの?」
「……悪いが、ちょっと落ち着かせてくれ」
「わかったわ。――こら貴方達。レオンハルト様の迷惑になるでしょう?」
「! インデックス様……」
息を吐いてこちらに告げた言葉を、インデックスは即座に実行に移す。女王の言葉に一応足を止めたカラー達に、間髪入れず次の言葉を繋いだ。
「今から私とレオンハルト様は、個人的かつ重要なお話があるから、貴方達は仕事を続けなさい」
「あーっ!? ずるい! お姉さま、そう言ってお仕事サボっていちゃつく気でしょ!」
「女王だからって独り占めはよくない! 職権乱用はんたーい!」
バレまくりで、そんな声が上がる始末ではあったが、インデックスは怯まずに、
「失礼ね。ちゃんと真面目なお仕事の話よ。何もしないから貴方達も仕事に戻りなさい」
「えっ、そうなの……?」
「だったら仕方ないけど……それにしてもズルいなぁ……」
そう言うと、渋々だが従って仕事に戻ってくれた。彼女達が後ろ髪を引かれるような面持ちで戻っていき、ようやく離れたところで、インデックスはレオンハルトに向き直ると、
「――さあ、これで邪魔者はいなくなったわ。私の部屋に行きましょう」
「…………」
「あんた、何普通に嘘ついてんのさ!?」
「女は嘘をつく生き物よ。男絡みでは特にね」
レオンハルトが真顔になり、ハンティがツッコんできた。しかもハンティの指摘は少し遡り、
「しかもあんた、あんだけ言っといて普通に命令聞いてるし」
「確かにそう言ったけど、何事にも例外は付き物なのよ。私は人の命令を聞くのは大嫌いだけど、一つだけ例外があるわ」
女としてのものでもあるが、と言葉を繋げる。
「――いい女は、惚れた男にだけは従順になるものよ」
「……あんた、それ言ってて恥ずかしくないわけ?」
ハンティが微妙な表情で言う。こういったことに免疫がない上に、主のそういう部分は見たくない、といった表情だろう。親の恋愛事情を見るような感覚に違いない。
しかしだからといって自重はしないと、インデックスは堂々と告げた。
「好きだから好きと言って何が悪いのかしら。時間は有限だし、特に、今はこんな世の中よ。積極的にいかないと、恋人はおろか、出会いすら訪れないわ」
「……まあ、逞しいのはいいことだ」
「! ほら、見なさい。貴方の主はこうやって褒めてくれているわ」
「あんたね……」
不意にレオンハルトから褒められたところで、締まりのない表情を見せそうになってしまったので、ハンティを責めながら顔を後ろに向けて誤魔化す。あまりこういった顔は見られたくないものだ。プライド的に。
ハンティが何度目かの呆れた声をあげると、レオンハルトもそこでようやく話に入れると、真面目な声を発し、
「それは構わんが、後にするぞ。先に、言っておかないといけないこともあるしな」
「言っておくこと?」
「何かしら?」
2人してレオンハルトに疑問を向けると、レオンハルトは神妙な顔で頷いた。
「カラーには影響がないとは思うが……明日にでも、人間牧場の稼働が始まる。そのことについて、一応な」
「っ……」
「それは……また随分と大変そうね」
レオンハルトの腕に抱きつきながらも、ちらりとハンティを見ると、露骨に眉を立てた後に、憂うような表情を見せていた。
この始祖様は、随分と優しい。カラーだけではなく、魔物や人間にも同情を見せ、その未来を憂いて、悲しんでみせるのだ。
インデックスにとっては、全く理解出来ない価値観だが、その優しいところは、とても好ましい部分だ。自分にはないからこそ、余計にそう思う。
他種族に見せる優しさなんてない。受けてきた仕打ちを考えるとそうはならないし、何もなくても他人を気遣う余裕はない。自分とその周囲を守るだけでも、この世は苦労するのだ。
だからインデックスは、ハンティのその想いに協力してはやれない。
だが、そのことで悩んでいる友人を気遣うくらいなら、行うことが出来る。自分の周囲の一人であるのだし、それくらいはやってみせなければ友人ではなくなってしまう。
だから、インデックスは声を発した。
「……まあ、何かあれば協力するわ。ハンティも、疲れたらいつでもここに来なさい。ここは貴方の故郷なのだしね。来たらお茶くらいは出してあげるわ」
「……あんた、ほんと気遣い出来るよね」
「見抜かれているようではまだまだよ」
気遣いで言葉を掛けたと見抜かれていることを、インデックスは僅かに不服に思いながらも、微笑を浮かべてみせる。そして敢えて茶化すように、
「まあ貴方に恩を売っておくことに越したことはないわね。私も、引退したらそっちに行こうかと思うし」
「は、はぁ!? あんたマジで言ってるの!?」
「マジよ。大マジ。レオンハルト様にも告げてあるわ。ハンティも、友人の私が近くにいた方が嬉しいでしょ?」
「……い、いや、そうかも、だけど……」
ハンティが急な言葉に戸惑っているところに、インデックスは追い打ちを掛けた。小悪魔的な笑みとともに、
「そして、あまりにも脳筋で色っぽい話がないカラーゴリラの貴方が、恋人を見つけられるように色々と教えてあげるわ。女子力とか」
「……ペールじゃないんだから、そういうこと言わないでくれる?」
その手の話題に辟易してるのか、心底嫌そうな表情を浮かべた。そろそろ、気が紛れたきただろうかと、
「私はペールのこと、尊敬しているわ。あれは巫山戯ているようで、結構いい女よ」
「この場にペールがいたら死ぬほど調子に乗りそうな言葉だね……」
「――ところがどっこい! ペールちゃんはここにいまぁす!」
「うわっ、いつの間に!?」
「さっきからいましたよーう? もう始祖様ったら、私はそれくらいで調子の乗りませんよ。だって――いい女なのは本当のことですから! あ、でもありがとうございますね、インデックスさん」
「どういたしまして。私も思ったことを言っただけだからお礼はいらないわ」
と、不意に現れたペールにハンティが驚く。よっぽど気を抜いていたのか、それともペールの気配断ちが凄かったのか。
とにかく、気は紛れたようで、安心していると、
「……悪いな、インデックス」
「っ……あら、なんのことかしら?」
不意に頭上から声が掛けられてしまう。分かってる、と言ったような表情で、
「何、友人想いな奴を褒めようと思っただけだ」
「……そう。一体、誰のことかしら」
「ふっ……誰だろうな」
軽い笑みとともに、頭を撫でられ、インデックスはビクッと身体を反応させそうになるのを何とか留めた。そしてレオンハルトを見上げて、ジトッとした目を思うのは、
……あざとい……。
こういうのが嫌に感じないから困るのだ。普通なら、頭を撫でるなど、子供扱いされているようだし、そうでなくとも絶対に許さないのだが、
……惚れた弱みよね。
あまりにもどうしようもない理由を思い、インデックスは更に騒ぎ出すペールとハンティを見て、企みを、改めて心に刻み込んだ。
……ふふ、確かに、引退したらレオンハルト様の城に行くとは言ったけれど……。
だが、それをどの様に叶えるかまでは口にしていない。
単純に、彼のメイドとなる方法もあるが、その程度では満足する気はない。
……駆け上がってみせるわ。今に見てなさい。
今はただ、大勢の中の一人に過ぎないが、女とはそれを許容しても、好きな人の一番になりたいと思うものだ。
大勢が諦めるであろう競争率の高いその位置を、インデックスは諦めはしないのだと、彼を抱きしめる力を強くした。
というわけで続々と競走馬が揃ってまいりました。GL期レオンハルト賞を手にするのは一体どの競走馬になるのか。これからも目が離せません(白目)
そして、それとは関係ありませんが、最近、過去の強制収容所や強制労働、刑務所の一日や、畜産業、畜産農家の一日について勉強したり、調べていたりします。ええ、何も関係はありませんが。
――というわけで次回、遂に人間牧場となります。