※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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鬱々としてたので長めの休憩回。いつにもまして緩い適当な話なので、肩の力を抜いてお楽しみ下さいな


敵情視察

 大陸東部のとある場所。

 そこでは、爆撃のような攻撃音が響いていた。

 音を響かせるのは二体の魔人だ。

 

「ハーハッハッハッ! 潰れろノス!」

 

 一体は、2本の巨大な金棒を手に振り回し、地面を陥没させるほどの一撃をいとも簡単に振るう鬼の魔人――レキシントン。

 魔物界ではよく知られた喧嘩馬鹿、戦闘狂であるレキシントンに対し、拳で迎え撃つのは、

 

「潰れるのは貴様だ、レキシントン……!」

 

 岩のように変形した肌でレキシントンの攻撃を受けきっている魔人四天王の一角――ノス。

 地竜の魔人である彼は、その特性である膨張硬化――傷を負えば負うほどに装甲が厚くなるという厄介な防御でレキシントンの怪力を受けては、反撃をするという繰り返しを行っていた。

 戦いはノスの方が優勢ではあるが、レキシントンも強い相手との戦いで燃えるタイプであり、喜悦に満ちた獰猛な笑みを浮かべながらノスに迫る。

 そしてノスも、暇だからと喧嘩を売ってきたレキシントンを煩わしく思いながらも、戦闘の喜びに浸り、凶暴な笑みを浮かべていた。

 普段は冷静なノスだが、戦闘ともなればドラゴンとしての本能がはっきりと表に出てくる。口には出さないものの、魔人を叩き潰せる楽しみを与えてくれたレキシントンに感謝すらしていた。

 しかしその場に割って入る影もある。それは、二者に比べれば小柄な影だったが、力は全く劣るものではなく、二人を弾き飛ばした。

 

「――いい加減にしろ! 出会ったら直ぐに喧嘩しやがって! 少しは自重することを覚えたらどうだ!?」

 

 と、声を大にして叱りつけるように言うのは、魔人筆頭である魔人、レオンハルトだ。

 人間牧場の運営などで忙殺されている魔人は、苛立ちを抱えているのか、普段よりも荒々しい様子で二体の喧嘩に割って入ったが、

 

「ハハハ! レオンハルトも来たか! 面白い! お前も混ざっていけ!」

 

「レオンハルト様、どうぞお気になさらず……この馬鹿を潰すのは私の役目ですので……!」

 

 レキシントンとノスがそう言いながらも戦いを止めようとしない。

 完全にスイッチが入っていることに気づいたレオンハルトは、やはり内心の苛立ちを抑えながらも、半ば抑えきれずに、

 

「……何度言ってもやめねぇなら、仕方ねぇな……」

 

 と、小さく呟くと、空間から魔剣を引き抜いて赤黒い剣気を解放する。

 そして彼らと同じ様に、口端に笑みを忍ばせながら、

 

「……クク、そんなに潰されてぇなら、俺が潰してやる。――覚悟はいいんだろうなぁッ!?」

 

「ハーッハッハッハッ! いいぞ! 幾らでもこい! 今日こそ儂が勝ぁつ!」

 

「やるというなら仕方がありませんな……負けても、恨まぬように頼みますぞ……!」

 

 レキシントンとノス、そしてレオンハルト。三者の争いはそこら一帯の土地に凄惨な爪痕を残しながら、何度も繰り広げられたという。

 

 

 

 

 

 ――と、そんなことがあったと言われたのは、城に帰ってきたレオンハルトが、再び姿を現してからだった。

 紅魔城1階、食堂。

 そこで出された料理は、想像を遥かに越える美味さだった。

 

「あの馬鹿共……何度も何度も喧嘩しやがって……次やったら俺から喧嘩売って半殺しにしてやる……」

 

「……魔人界隈も大変みたいね。……というかこの料理凄い美味しいわね……」

 

 少し苛立った様子で帰ってきたレオンハルトの話を聞きながら、眼の前に出された料理をスプーンで一口頂いたインデックス・カラーは、その料理の美味さに思わずポツリと呟いてしまう。

 前々から魔物界の――特に、レオンハルトの城で出される料理は美味いとは聞いてはいたが、まさかこんなにも美味いとは思ってもいなかった。

 インデックスが食べているのは、何の変哲もないオムライス。炒めたケチャップライスを卵で綴じただけの簡単な料理だし、何度も食べたことのあるものだ。

 しかし今まで食べたどの料理よりも美味い。そのことに驚き、インデックスは同席してる面々に声を掛ける。

 

「……いつもこんな美味しいものを食べているの?」

 

「え? ――あー、そうですね。ここの料理、最初食べたらびっくりしますよね。滅茶苦茶美味しいから」

 

「料理長のおかげだな」

 

「はぐんぐ……いつ食っても料理長の料理は相変わらず美味ぇよな。このミュミュミュなんて奥深さがあってたまんねぇな」

 

「……そう……」

 

 ペールにレオンハルト、そしてレオンハルトの友人である魔人ガルティアの言葉を受けて、ふむ、と料理を味わっていく。

 若干ガルティアが食べている量が気になるが、それを無視しながら料理を口にしつつ、

 

「それに……メイドも凄く優秀というか……」

 

「――お褒め頂きありがとうございます、インデックス様」

 

「まあ、頼んだら何でもやってくれるから助かるよね」

 

「……私の使徒も、よくここのメイド――特にメイド長に師事しているからな」

 

「そうですね、ケッセルリンク様。……特にエルシールが……」

 

 どこからともなく現れたメイド長さんという女の子モンスターのお礼を皮切りに、ハンティ、ケッセルリンク、その使徒であるシャロンと、発言が続く。

 というかこの城、人が多いわね……、とインデックスが集まった面子を見て何とも言えない表情を浮かべながら料理を食べ終え、ご馳走様、と一言。そして何気なく、

 

「……ふと思ったのだけど、ここにはどんなメイドがいるのかしら?」

 

 そう問いを投げた。

 するとレオンハルトも特に含むところもなく、

 

「どんな……と言われても色々いるが……それがどうしかしたのか?」

 

「ええ、別に他意はないのだけど……でも、そうね」

 

 と、インデックスはあくまでも何気なく、目的を口にした。それは、

 

「せっかくだから、色々教えて貰おうかと思ったのよ。料理とか、掃除とか色々」

 

「……ああ、なるほどな。それなら――」

 

「――はい。そういうことなら、私にお任せ下さい」

 

 レオンハルトの言葉を引き継いで、メイド長さんがインデックスに告げる。

 

「インデックス様に、当城のメイド達をご紹介致しましょう」

 

「……ええ、お願いするわ」

 

 頷き、心の中だけで、よし、と頷く。

 ――これで、敵情視察が叶う、と。

 

 

 

 

 メイドを紹介する、という言葉を受けて、インデックスはレオンハルトとメイド長さんに案内されて中庭へと出た。その際、たまに資材を運んでくれる巨大なドラゴン――ライゼンが寝ているところを確認しながら、

 ……とりあえず、どんな娘がいるか確認しとくのがいいわね。

 メイドに色々と教えて貰おう、というインデックスの建前は嘘ではない。しかし、本当の目的は別にある。

 それは、レオンハルトの下級使徒――彼の寵愛を受ける最低限のレベルを確認しておこうというものだ。

 インデックスは、レオンハルトの一番を目指す気でいるが、そのライバルは多い。彼の使徒や、ケッセルリンクなどもそうだし、それ以外にも数多くのライバルがいる。

 その中でも最多の数といえるのが、レオンハルトの下級使徒であるメイド達だろう。先程聞いたところ、眼の前のメイド長さんや、クライアも含めて151人もいるらしい。この2人だけでも脅威なのに、後、149人だ。

 メイド長さんは己をいい女と自称するインデックスから見てもいい女だし、クライアも中々に綺麗だと思う。二人共スタイルが良いし、性格もお淑やかで女性らしい。――己の友人であり、女子力が微妙過ぎるハンティとはえらい違いだ。

 残りの149人も、レオンハルトが選んだのだからいい女ではあるだろうが、問題なのはそのスキルや性格、魅力だろう。男が女を選ぶに当たって、色んな要素があるとは思うが、大体重要なのがその辺りだろうか。レオンハルトであれば女性の“意志”や好意の強さなども重要だろうが、意志はともかく、好意の強さなどは彼の女になった以上は既に示されている。なのでそこからは、他の要素で勝負するしかない。

 つまり、如何に彼の気を惹けるかどうかだ。自分の持つ魅力が、他の女性と比べてどうなのか。それぞれ良いところも悪いところもあるだろうが、例えば、同じ部分では勝っているのか、などだ。分かりやすいところでいくと、容姿や能力となるだろう。

 それについては、インデックスもある程度自信はある。下級使徒とはいえ、素の人間だ。仮に戦闘となれば負ける気はしない。容姿についても問題ない。多少、身長が低いのがコンプレックスだが、それでも出るとこが出ていて、引っ込むところが引っ込んでいる中々に唆る身体をしていると思う。身長が低いのも、男性から見ればプラスにもなり得る。属性的にはロリ巨乳というやつだろう。“ロリ”と付くこと自体、誠に遺憾ではあるが。

 そして才能に関しては、まだ分からない部分もある。己は色んなことを卒なくこなせるとは思うが、料理や掃除などの家事については人並みよりちょっとマシという程度で、それを何百年と続けてる者には、流石に敵わないかもしれない。

 だが、それも努力で補える――はずだ。少なくともある程度は。その分野で一番、とまでは言わないが、弱点を消すことは出来る。

 弱点を一個一個消していき、能力を高め、容姿で彼を誘い、性格で、彼を幻滅させないようにする――さすれば、一番に限りなく近づける。

 何よりそうやって自分のために頑張ってくれる女性の姿を、レオンハルトは好ましく思うはずだ。

 あまり人前で努力などは柄じゃないが、いい女は、惚れた男の為に尽くすもの。ならばそうしない理由はない。

 貪欲に、しかし迷惑を掛けずに、虎視眈々と狙うのだ。

 そのための視察。ペンシルカウについての相談は終わったし、少しくらい引退後の生活を有利にするために立ち回ってもバチは当たらないだろう。

 

「――というわけで、まず一人目を呼んできました」

 

「!」

 

 と、いつの間にか呼んでいたのか、メイド長さんがそう声を掛けてくる。レオンハルトが椅子に座り、ちょっとした休憩なのか、これまたいつの間にか淹れられていた紅茶を口にして、ほっとしている。魔人なのに、妙に所帯じみてる雰囲気を出す時があるのが素敵だと思いつつ、メイド長さんに連れられてきたメイドに視線を向けると、

 

「はーいっ☆ ちゃお~♪ レオンハルト様の下級使徒で、副メイド長のリムだよー☆」

 

「……えっと……どうぞよろしく。インデックスよ」

 

 そこには、己よりも小さい白髪ツインテールの美少女が、軽いノリで手を振りながらやってきていた。

 ……なんというか……露出過多ね……。

 色々と小さいリムというメイドは、お腹や脇を出した特殊なメイド服を着ていた。メイド長さんのものと比べると、スカートがミニだし、ニーソックスを履いていたり、見えているお腹の下腹の部分に、下級使徒の証である紋様を刻んでいたりと、なんというか、

 

「よろよろー♪ ――それで、レオンハルト様ー♡ 今休憩中ですかー?」

 

「ん、まあな。インデックスがメイド達を紹介してほしいというから少し付き合ってる」

 

「へー、だったらぁ……リムとも、ちょっと付き合わない?」

 

 と、レオンハルトを見つけ駆け寄ったリムは、目を細めて流し目を送ると、舌でちろりと人差し指を舐めて、そんなことを口にした。

 お尻を軽く左右にふりふりとしながら、前かがみでレオンハルトに迫っている様子は、インデックスの目から見ても――いや、誰の目からみても、

 ……誘っているわね。

 随分と、小悪魔的というかあざといメイドが来たものだ、とインデックスはリムをそう評価する。

 計算ではあるだろうが、それを差し引いてもエロティックだと認めざるを得ない。胸は小さいし、身長も小さいが、スタイルは悪くないし、充分魅力的だ。

 ただ思うのは、

 

「……本当にメイドなの?」

 

「はい。彼女はメイドの中でも一番の古株で御座います。そんな彼女の特技は――」

 

「あ、そういえば紹介するんだっけ? いいよいいよー♪ リムちゃんの得意技、教えてあげるねっ☆」

 

 と、リムは懐から二枚程の雑巾と、一つの箒を取り出して言う。

 

「リムはぁ、掃除のプロなんだよー☆」

 

「……そう」

 

 本当に? と思ってしまうが、

 

「あ、その顔は信じてないでしょー?」

 

「……ええ。てっきり、エロが得意なのかと思ったわ」

 

「うっわ、正直ー☆ まあでも、間違ってはないよ? そっちも、リムは得意だし。ねー、レオンハルトさまぁー?」

 

「……いいから話を進めてやれ」

 

「えへへー。はーい♡ というわけで、将来リムの部下になるかもしれない娘に、リムの凄さを教えてあげるよー☆」

 

 内心で、そうなるつもりはない、と思いつつも、今は特に何も口にすること無く、リムの動きを見る。彼女は二枚の雑巾のうち、一枚をこちらに渡して、

 

「はい♪ じゃあ、このテーブルを拭いてみて?」

 

「……雑巾で綺麗にしろということ?」

 

「そうそう☆ 別に早くしなくてもいいけど、ちゃんと綺麗にしてね? ――どうせ出来ないだろうけどねー☆」

 

「むかっ……見てなさい。これくらい、私なら簡単よ」

 

 インデックスは一枚の雑巾を手にテーブルを眺める。それは何の変哲もない丸テーブルだが、多少の汚れがある。掃除がまだなのか、このために態々汚したのか。

 何となく、いつも綺麗に保ってそうなので後者な気がするが、

 

「……!」

 

 インデックスはテーブルの上に折りたたんだ雑巾を手にして、丁寧に拭いていく。

 おそらくは、早くしようと焦らせて失敗させるつもりだろうが、そんな手には乗らない。

 ちゃんとゆっくりと、満遍なくテーブルを拭けばそれでいいのだ、と、

 

「――終わったわ」

 

 終了を告げる。するとリムはテーブルの上を見るまでもなく、

 

「まあ、早くしなくていいとは言ったから遅いのには目を瞑るけど――ぷぷーっ♪ それでもきったなーい☆」

 

「っ、そんなことないでしょう? 充分綺麗に――」

 

「いやぁ、これはちゃんと指導しないとねぇ☆ ほら、よく見て?」

 

 と、リムがテーブルの上を指して言う。こちらがテーブルに視線を移したのとあわせて、

 

「微妙に埃が残ってるでしょー?」

 

「……ほんの少しでしょう? それに、雑巾だけじゃこれは――」

 

「ほんの少しでも駄目に決まってるでしょー? というか、リムが二枚持ってきた意味にも気づけないとかー、ダメダメだねー☆」

 

「! もしかして……」

 

 インデックスがリムの持つ雑巾の一つに視線を向けて気づく。そちらは、濡れていないもので、

 

「まあ、普通は乾拭きくらいしないと駄目だよねー? それ以前の問題ではあるけど☆ というわけでお手本を見せてあげるね♪」

 

 見てて、と告げるリムが、雑巾を手にする。

 そして、さっさっと雑巾でテーブル全体を拭く。

 僅か数秒だ。それだけで、

 

「ほら、これだけでもさっきより綺麗でしょ?」

 

「……本当ね」

 

 リムが拭いた後だと、己が拭いたのとは雲泥の差だった。

 その上から更に乾拭きをまた数秒で終えると、

 

「ほーら、これだけでピッカピカだねー☆」

 

「……これは……」

 

 今度は完璧に綺麗になっていた。

 2行程終えた時間が、先程の自分のものよりも早い。

 そのことに驚いていると、

 

「うんうん、その反応が初々しくていいよね☆ まあ簡単に説明すると――インデックスちゃん、雑巾の面積の分だけ、テーブルが拭けてると思ってるでしょ?」

 

「……違うのかしら」

 

「全然違うよー♪ 雑巾って、ちゃんと力込めてないと、手で押さえてない部分は全然拭けてないんだよ? だから結構力入れてやらないと駄目だしー、丸テーブルだから端の方なんかは特に気をつけて拭かないと汚れが取れないんだよ?」

 

「……なるほど、確かにそうみたいね」

 

 先程のリムのやり方を思い出してみると、確かに言っていた通りにしていた。

 雑巾がけ一つ見ただけだが、掃除のプロというのは本当なのだろう。

 ただ、

 

「くすくす♪ それにしてもー……インデックスちゃん。あんなに自信満々だったのに、全然出来ないなんて、ものすっごく弱々だねー? ざーこざーこ♡」

 

「……ま、まあ、私が間違っていたのだから甘んじて受け取るけど――」

 

「ざーこ♡ ざーこ♡」

 

「ぐ、ぐぐ……っ」

 

 こちらを舐め腐ったような不敵な笑みに滅茶苦茶イライラしてしまう。

 それを感じ取ったのか、レオンハルトが息を漏らしながら、

 

「……リム、その辺にしてやれ。出来なかったからとあまり虐めるものじゃない」

 

「はーい♪ ごめんねー、インデックスちゃん☆ 掃除のやり方ならこのリムちゃんにお任せってことで、色々教えてあげるから許してね?」

 

「……あら、別に怒ってないわよ。自分の未熟さを指摘された程度で怒るほど、私は狭量ではないわ」

 

 この間に自分の中の怒りを抑え込むことに成功して、何ともない風に振る舞ってみせる。そう怒ってない。怒るのは心の奥底でだけだ。

 ……この生意気な雌は、いつか私が完全に越えることで報いとしてやるわ……。

 負けている状態で何を言っても無駄だ。この世は弱肉強食。強い者だけがものを言える世界である。

 戦闘ならボコボコに出来そうだが、相手の得意分野で負けたからと他の分野でボコボコに仕返すというダサいことは自分の矜持に反する。

 負けず嫌いで悔しがるのはいいことだが、あんまりみみっちいことをするつもりはない。なのでここは余裕を見せるために一礼してみせ、

 

「良ければ、また色々と教えて貰いたいわ」

 

「りょうかーい☆ というわけで、リムちゃんはいくねー♪ レオンハルト様、後でエッチしようねー?」

 

「……後でな」

 

「では、仕事に戻ってください」

 

 はーい、とリムは最後まで軽い調子でその場から去っていった。それを見送った後で、レオンハルトはため息付きで、

 

「……まあ、リムはああいう娘だ。昔はもうちょっと素直だったんだが……ある奴の影響を受けてな」

 

「……ああ、誰か分かったから言わなくていいわ」

 

 頭の中に薄紫の髪をした痴女が出てくる。確実にその影響だろうと思い、メイド長さんのフォローを聞く。

 

「掃除の腕なら私にも勝るとも劣りませんわ。他のメイド達からの人望も厚いですし、苦手な仕事もありませんわ」

 

「へぇ……人は見かけによらないものね」

 

「何気に酷いこと言ってるぞ。……分からなくはないがな」

 

 レオンハルトが珍しくツッコむ。やはり、城の中だと素が出るのか、雰囲気が柔らかい気がする。

 いつもはペンシルカウで会っていたからあまり見ない雰囲気だ。

 そういう一面もいいな、と思いながら、

 

「では続いて――二人目のメイドの紹介ですわ」

 

 と、メイド長さんが告げる。テンポが良すぎて小説の間なんかにある紹介コーナーじみてる気がするが、メイド長さんがやることに違和感を感じていてはいけないと、この短い時間で既に理解したので気にしないでおく。

 リムと入れ替わるようにやってきたのは、

 

「……どうもこんにちは」

 

「あら、可愛いお客様ね」

 

「……二人?」

 

 やってきた赤い髪と青い髪の女性を見て、首を傾げる。二人目とは何だったのか、と。するとメイド長が、

 

「彼女達は姉妹なのですよ。二人共副メイド長です。だから、二人で一人ですわ」

 

「メイド長さん、またそれ? ……まあいいけど。ミオよ。よろしくね」

 

「うふふ、マオです。ちなみに、私が妹よ」

 

 ちょっとサバサバしてるというか素っ気ないのが姉で、妙にお姉さんっぽい色気と余裕がある方が妹らしい。

 そしてどちらも胸がかなり大きい。やはりこの城のメイドには胸が大きい娘が多いな、と思いながら、

 

「そこでどうして二人で一人になるのか分からないけど、そこは気にしないでおくわ。とりあえず、よろしくお願いするわね」

 

 挨拶を交わし、次に二人が何が出来るのかを尋ねる。すると、二人は声を繋げて

 

「洗濯」

 

「と、お裁縫ね」

 

 と告げてまた仕事ぶりを見せてくれる。説明を行いながら、

 

「別に双子ってわけでもないんだけど……息が合うのよね。だから役割分担もスムーズだし……」

 

「解れた服なんかも直しているわ。後、キャロル様が私達のメイド服を縫う時に手伝ったりもしたわねぇ」

 

「ふぅん……そうなのね」

 

 頷きつつ彼女達が裁縫を行うところを眺める。手際が良くて正確な手つきだった。自分も裁縫は出来るが、こんなに早くはこなせない。なので感心していると、

 

「――レオンハルト様、ここにいましたか」

 

「ん、エクレアか」

 

 と、別の方向からまたメイドがやってくる。

 これまた胸の大きい金髪のメイドで、その手には書類を手に持っており、こちらをチラッと視線を向けはしたが、

 

「この書類のことで少々お聞きしたいことが……」

 

「ああ、そのことか。これは――」

 

 と、そのまま仕事についての話を始めてしまう。

 その様を見て、メイド長さんが、

 

「ついでに彼女も紹介しておきますが、彼女も副メイド長の一人のエクレアです。主に事務仕事を担当している、メイドの中では異色のメイドですわ」

 

「確かに、メイドがするお仕事じゃないわね」

 

 と、言いながらもレオンハルトが信頼しているようなので特に言うことはない。ある意味、向いているとはいえメイドなのにその仕事を任されることが脅威ともいえる。

 姉妹の方も、姉妹というだけで脅威だし、今も、一通り仕事を終えたところで、レオンハルトに向かって、

 

「その……レオンハルト様? 今日は夜までいるの?」

 

「ああ。出かける予定はないな」

 

「! それじゃあ――」

 

「ふふ……なら、今日も愉しみにしているわね……」

 

「……そ、そういうことだから……お仕事、頑張ってね」

 

 と、姉の方は顔を赤くしながらも恥ずかしそうに、妹の方は余裕たっぷりにレオンハルトに向かって夜のお誘いを掛けている。

 その辺りも油断がならない。姉妹で、というのは男のロマンだとも聞くし。要注意だ。

 ……なるほど、これは魅力的ね。

 姉の方は恥ずかしがり屋なのに誘ってくるし、妹の方はストレートに色気で迫っている。どちらも屈んでその深い谷間を見せつけるようにしてる辺り、ポイントは高い。

 そしてエクレアと言ったメイドも去り際に、

 

「……また後でお願い致しますわね……」

 

 と、明らかに意味深な笑みを向けて、去っていく。

 同じ女であるインデックスには分かる。どう見ても雌の顔をしていた。

 何でもない風に笑顔を見せているが、中身はもう犯されたくて堪らないど淫乱だ。これは男なら食指を伸ばさざるを得ないと思う。

 ……こっちも要注意ね。

 メイドの情報を次々に頭に入れながらも、にこやかに別れるとメイド長さんが再び、笑顔とともに告げてくる。それは、

 

「次は、いよいよ料理ですね」

 

「っ!」

 

「りょ、料理!?」

 

 しかし、料理とメイド長さんに告げた瞬間、中庭にいる何名かのメイドがビクッと身体を反応させた。

 ……え、何?

 料理と聞いてびっくりするようなことが何かあるのだろうか、と疑問に思う。あんなに美味しい料理が出るのなら、特に問題はなさそうだし、インデックスとしても一番知りたかったものだ。

 だが、中には驚くこともなく苦笑を浮かべているメイドもいる。やれやれ、と言ったような表情だ。

 

「――と言っても、料理長は今も忙しいので、代役を連れてきましたわ」

 

 と、続けて言うと、明らかに何名かがほっと胸を撫で下ろした。何故だろうか。インデックスとしては料理長とやらに教えて貰えることが楽しみだったので残念なのだが。

 とはいえ代役もそれなりにデキる相手なのだろう。ならば問題ない、とその相手を待つ。すると今度は上から、

 

「――お待たせ致しました、お客様、メイド長。そして、レオンハルト様」

 

「!」

 

 何故か上階の窓から飛び降りてやってきたそのメイドに、インデックスが僅かに目を見開いて驚く。

 何事もなく着地して、一礼を行っているが、どう考えても危ないだろうと。そもそもその登場の仕方は何なのだ、と思っていると、彼女は名乗った。

 

「私はベアトリスと申します。レオンハルト様の下級使徒にして、卑しい、そしていやらしい、そして淫乱の三拍子揃ったメイドで御座います。ベアト、とお呼び下さい。どうぞ、よろしくおねがいしますインデックス様」

 

「……ご丁寧にどうも?」

 

 いやらしいと淫乱の意味が被ってることにはツッコんだ方がいいのだろうかと悩んでしまう。だが、ベアトリスと名乗った少女は、あくまでも真顔なので真面目に言っている可能性もあるのでちょっと自重した。

 改めてその容姿を見ると、銀髪をボブカットにした、華奢だが胸がかなり大きいクールな印象を感じさせるメイドだ。やはり容姿のレベルは高い。

 そして料理のために呼び出されたということは料理が得意なのだろう、とその発言を待っていると、

 

「私を呼び出した、ということは――ずばり、エロ講習……もしくは戦闘訓練のどちらかだと推察しますが、一体どちらなのでしょう?」

 

 ――と、全く別のことを言い出してしまった。

 あれ? とメイド長さんやレオンハルトを見ると、メイド長さんは穏やかな笑みのまま訂正した。

 

「違います。今日は、料理についての講習ですよ」

 

「……料理、ですか。しかし私は、料理についてはまだ修行中の未熟者に過ぎませんが……」

 

 ベアトリスはそう渋る様子を見せる。

 だが今度は横から、レオンハルトの声が飛んだ。至って真面目な様子で、

 

「いや、それでもお前は城の中では二番目に料理が上手い。だから呼んだんだが……まあ、無理と言うならしょうがない。他のメイドに――」

 

「やりますやります! レオンハルト様の為なら何でも! だから料理の後におセックスしましょう!」

 

「何の交換条件なのよ……」

 

 インデックスが半ば呆れるように呟くと、ベアトリスはキリッとした表情でインデックスの方を向くと、

 

「ふ、インデックス様。料理を極めるには、エロが必要不可欠なのですよ」

 

「何でそうなるのよ」

 

 最早普通にツッコミを入れる。するとベアトリスは、やれやれ、と肩をすくめた上で、今度は拳を握って力説し始めた。

 

「料理とは、材料、器具、技術。それらを組み合わせて作るもの。そう、つまりは――3Pです」

 

「この人頭おかしいんじゃないの?」

 

「……俺の口からは何とも言えんな」

 

 ベアトリスを指差しながらレオンハルトに向かって問うも、レオンハルトは微妙な表情で頭を抱えるのみだった。ある意味、その表情が既に物語っているというか、言っているようなものだが。

 

「食べさせる相手のことを想い、愛を持って調理し、料理をお出しする――これはもう、料理人と食べさせる相手とのラブラブセックスみたいなものです」

 

 ――どうやら本気で頭がおかしい相手と出会ってしまったようだ。

 ベアトリスはインデックスの発言に全く気にしていないように、語り続ける。

 

「つまり、料理とはエロ。エロとは料理です」

 

「どうやったらそんな思考に行き着くのか、逆に興味が出てきたわ……」

 

「ならば教えて差し上げましょう。ベアトの、壮絶なる料理修行の道程を――あ、これは童貞ではなく、道のりということですからあしからず」

 

「しかも教えてくれるのね……後、その注釈は余計過ぎるわ」

 

「ベアトにそういう注意をしても無駄だ。喋らせないように口を閉じるくらいしないとな」

 

「えっ、しゃぶる? ――畏まりましたレオンハルト様。どうぞ、私のいやらしいお口にその逞しい魔剣を突っ込んで犯してくださいませ」

 

「言ってないからやめろ。……こういう奴だ」

 

「なるほどね……」

 

 と、言って跪いて口を開こうとしたベアトをレオンハルトが差し止める。インデックスが呆れる中、ベアトリスは残念そうにしながらも気を取り直し、話を戻して語り始めた。

 

「私は幼い頃から、父に言われて料理の修行に明け暮れていました……そのために、身体を鍛え続けていたのです……」

 

「……ねえ、これって私の頭が悪いのかしら? 最初から全然理解出来ないのだけど。どうして料理の為に身体を鍛えることになるのよ」

 

「大丈夫ですわ。ほとんどの人が理解出来ておりませんので」

 

「……家庭の事情だからあまりツッコんでやるな……」

 

 メイド長さんとレオンハルトがフォローを行う。家庭の事情ってどういうことだ、と激しく指摘したい衝動に駆られつつも、これから語られるのかも、と僅かに期待しつつ話を聞いていく。

 

「全ては最強の料理人となるため、私はひたすらに強さを求めつつ、肉体を鍛えていましたが……どうやっても父の様な究極の肉体には至りませんでした。というのも、私は女性で、しかも幼い頃からレオンハルト様を見ていたので、レオンハルト様の好みに沿うように女性としての魅力的な肉体美を目指していたのです」

 

 ここまで料理の話題が一個も出ていないのだが大丈夫か? と激しく不安になる。

 だが、ベアトリスは至って真面目な様子で、

 

「相反する想いを抱えながら毎日を過ごしていた時……ベアトに天啓が降りてきました。すなわち――料理とは、エロなのだと……!」

 

 電波受信しただけじゃないか、という指摘を視線とともに行うが、それも意に介さない。段々とテンションが上がってきたのか、熱を入れてベアトリスは語りを続ける。

 

「私は、自分をレオンハルト様に召し上がって頂くために、自分を調理していたのです……! ご主人様の好みに沿うよう、胸が大きくなるように栄養バランスを考え、時にマッサージなどで育乳を施す……これは料理と同じなのだと! 相手のことを考えて料理を作ることと全く同じなのだと、ベアトは気づいたのです!」

 

 バーン! と、衝撃の事実の様にベアトリスは告げる。絶対に違うと思うが、

 

「料理isエロ。エロisエロ。その真理に気づいたベアトは、みるみるうちに成長し、やがてレオンハルト様に寵愛を頂き、強さも料理の腕も、段々と上達していきました。これも全て、エロのお陰なのです……!」

 

「全く関係ない気がするのだけど……普通に料理を練習し続けてたからじゃないのかしら。というか、途中からエロ一直線になってるわ」

 

「根はいい子なんだがな……こういう話の時に口を挟むと損するぞ」

 

「えっ、挟む? 畏まりましたレオンハルト様。私のいやらしく実ったお胸にその男らしい魔剣を突っ込んで犯してくださいませ」

 

「だから言ってない。昼間から発情するな」

 

 屈んで胸の部分の穴を開こうとしたのを止めさせながら、レオンハルトがもはや諦めたような表情で言う。インデックスも流石にここまでの痴女ではないので微妙に引いていると、

 

「――ちがあああああああああああうッ!! 違うぞ愚昧なる娘よッ!!」

 

 不意に、中庭に大声が響いた。

 

「! 父上……!」

 

 城の屋根の部分、そこに大きな人影が立っていた。

 筋骨隆々とした男の影だ。それを皆が見上げたタイミングで、ベアトリスがその男を見て叫ぶ、父上、と。

 そして男は屋根の上から飛び降り、ベアトリスの前に降り立った。目の部分に仮面を付け、馬鹿でかいコック帽を被った男に、インデックスは呆然としながら、

 

「……何アレ? 化け物? 新種の魔物?」

 

「うちの料理長だが……一応は人間だ」

 

「生物学上は人間ですわ」

 

「えぇ……?」

 

 確かに人の形はしているが、人の形をしているだけだ。あんな二メートルをゆうに超えるムキムキのゴリラが、人間とは認めたくない。

 だがそこで、インデックスは、ハッと気づいた。彼ならば、と思い呟く。

 

「……彼なら、カラーゴリラのハンティとも上手くいくかも……」

 

「――冗談でもやめて!!」

 

 と、1階の窓の一つからハンティが顔をだして叫んだ。聞いていたのか、嫌すぎて発言を察知したのかどっちなのだろうかと疑問を覚えるも、それよりも眼の前の化け物から目が離せない。

 化け物とベアトリスは対峙し、視線を合わせている。身を低くしたベアトリスに対し、化け物は腕組みをしながらベアトリスに向かって大声で言葉を下す。

 

「貴様は、まだそんなことを言っているのかッ!? いいか! 料理を極めるに当たって、一番重要なのは己の肉体! そして強さだッ! レオンハルト様に寵愛されるようにと努力することはいいが、我がミシュラン一族の真理を歪めることだけは許さんッ!」

 

「強さは確かに重要です! しかし、料理の真理はエロ! これだけは譲れません! これは私が至った料理の境地です! ベアトは、父上とは別の道を行きます!」

 

 いや、料理は料理だろ、というツッコミを、インデックスや周囲でそれを聞いていた者達は飲み込んだ。巻き込まれたくないし、関わりたくないと、

 

「ぐううう! この私の前でよくぞ吠えたッ! ならば、己の拳で、刃で! 証明してみせろッッッ!」

 

「言われずとも! 己の選んだ道が間違いではないと示すために、ベアトは父上を倒しますッ! お覚悟をッ!」

 

 化け物が両手を開いて戦闘態勢を取る。ベアトリスも、懐から2本の短剣を取り出して低い構えを取った。

 そしてベアトリスが低い構えで突撃して短剣を振るい、料理長という名の化け物は拳でそれを跳ね返す。

 

「フハハハハハハッ! 見せてやろうッ! 我が肉体に宿る料理の力を……ッ! バニッシュ・ピュレッ!!」

 

「ッ! なんの……ッ! この程度ではやられません……! 料理を極めるまでは……ッ!」

 

「フハハハ! ミシュラン一族に伝わる調理法を用いねば、私を倒すことは出来んぞッ! ヘル・フランベッ!!」

 

 ――そして何故か料理とは全く関係ないように見えるガチバトルが始まってしまった。

 ベアトリスが短剣を用いて素早い動きで斬りつけているが、化け物の肉体には傷がつかない。そしてその化け物の方も、形容出来ない凄まじい技を、己の肉体一つで行っている。

 

「フハハハハッ! 強くなりたければ喰らえッ! グラトニーシュトロームッッッ!!」

 

 芝生の上で両手を広げ、高笑いしながらスライド移動して高速で近づいてきたり、空中でコンボ決めたり、目と口から白色破壊光線出したりしているが――やはりどう見ても人間の戦いじゃない。

 

「っ、ミシュラン一族に伝わる調理法が一つ! みじん切りの極意……餓狼千殺撃!」

 

 ベアトリスも二つの短剣を目にも留まらぬ速さで刻むなど、中々にいい動きをしているのだが、料理長が化け物過ぎて普通の動きをしているように見えてしまう。

 

「フハハハハハハッ! 我が娘よ! お前の調理力はその程度かッ!?」

 

「ま、負けませんッ! 例え調理力で負けようとも……心で勝って見せます……ッ!」

 

 二人共、もはやオーラ出しながら普通に壁とか走ったりしてるのは何なのだろうか。調理力とかいう謎の単語まで出てきてるし、物理法則が歪んでやしないかと、インデックスは半目を向ける。

 

「……何これ」

 

「ただの親子喧嘩だ。気にするな」

 

「二人共、城を傷つけないように行ってくださいね?」

 

 メイド長さんの言葉に両者が声を上げて頷いている。実際、よくよく見てみてると戦闘でも一切城を壊すどころか、汚すことなく戦っている辺り、何とも器用過ぎる戦いだ。

 

「というか……何よあれ。素肌に刃物が刺さらないとか、おかしいでしょう。それに、あのメイドも押されてるけど渡り合ってるし……」

 

「ベアトは城のメイドの中ではメイド長に次いで強いからな……」

 

「ちょうど料理長が休憩に入ったみたいですね。仕方がないので、別の講師をお呼びしましょう」

 

「不安しかないのだけど……」

 

 というかあれを休憩と言い張る神経がインデックスには分からない。眺めているとこっちの頭まで料理時空に巻き込まれそうなので目を逸らしたいというのは分かるが。一部のメイドが怯えていた理由が分かったなぁ、と思いつつ、メイド長さんが連れてきたメイドを見る。今度は、

 

「……その人は?」

 

「はい。私の弟子の、エルシールです。レオンハルト様のメイドではなく、ケッセルリンク様の使徒メイドではありますが、一部の料理なら完璧にマスターしていますわ」

 

「えっと、お寿司を教えればいいんですか? それとも、また歌とか踊りとか……」

 

 何で歌と踊りになるのか意味が分からないが、インデックスは半目でエルシールという使徒を見る。そしてため息をつきながら、

 

「……態々来てもらって悪いのだけど、寿司くらい教えて貰わなくてもね……酢飯作って握るだけで――」

 

「――はあ!? 貴方、何を言ってるんですか!?」

 

「えっ」

 

 急に大声を出して詰め寄ってくるエルシールに、反射的にビクッと驚いてしまう。

 彼女は凄い剣幕で、

 

「寿司は飯炊き一つでも、とても繊細な技術が必要なんです! 切りつけも美しくするには細かな知識や技術が必要ですし、握りも簡単に見えるかもしれませんが、本当はとっても難しいんです! 軽々しく作れるなんて言わないで下さい!!」

 

「え、あ……ご、ごめんなさい」

 

 その勢いに思わず謝ってしまう。不思議と説得力があるというか、迫真の表情だった。

 しかもその勢いは謝っても止まらず、

 

「寿司を作るのにその程度の知識しかないなんて論外です! まずは座学から! お米の知識からネタの知識まで、全部頭に叩き込んで貰います! 板場に立とうとするなんて10年早いですよ!」

 

「え、寿司は別に――って、ちょ、ちょっと!?」

 

 がしっ、と肩を掴まれて連れて行かれそうになってしまう。このままついていったら駄目な気がして逃走を試みるも、

 

「っ、何逃げようとしてるんですか! 逃しませんよ!」

 

「っ!? な、なにこれ!? 何かが巻き付いて……!」

 

 エルシールが腕を振ったと思ったら、己の身体に細い糸の様なものが巻き付いて、身動きが取れないように縛られてしまった。

 そしてそのまま、インデックスはエルシールに抱えられて、

 

「さ、行きますよ。時間は限られていますが、任された以上は寿司職人の名に掛けて、貴方が立派な寿司職人になるまで面倒を見てあげます」

 

「い、いや、あの……」

 

「――返事は?」

 

「……は、はい」

 

 よろしい、と厳しい目つきになったエルシールがインデックスを連れて城の中に行ってしまう。

 後に残されたレオンハルトは、それを何とも言えない表情で見送ると、

 

「っと、こんなとこにいたかレオンハルト。そろそろ――って、どうした? 変な顔して」

 

「ガルティアか……」

 

 やってきたガルティアに顔を向ける。連れて行かれたインデックスから目を逸らして、

 

「……今夜は寿司になりそうだな」

 

「おっ、またエルシールか? あいつの寿司は美味いからなぁ。今から楽しみだぜ」

 

「……そうだな」

 

 そのために、たった今一人が犠牲になったわけだが……と、レオンハルトは意図するところと違う結果になったことを憂いつつも、あれはあれでいいかと気にしないことにした。

 

 ――そして、

 

「く……この城のメイド……侮れないわね……腕がなるわ……」

 

「はい。では寿司についての基本的な知識からまず講義を行います。それと――私語は慎むように」

 

「は、はいっ!」

 

 エルシールに連れて行かれたインデックスは、改めて魔物界というか、レオンハルトの身内の厳しさを垣間見て、より一層、気持ちを燃え上がらせるのだった。

 




メイド紹介回的な日常回。後何人かいますが、ある程度紹介し終えたら設定も公開します。ちなみに、料理長の娘は魔物界出身でレベル40くらいはあります。
次回はまたディストピア。仕事に戻って、多分勇者とか人間の暮らす場所の話。即落ちしそうだけど、勇者なら何かやってくれそうだよなぁ(期待)
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