※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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レオンハルトVSレイ

 勇者を討ち倒し、更には新たな魔人、レイを加え、盤石となった魔王ジルの治世。

 もはや人類に抵抗する手段はなく、野生で生きる人間達は毎日、朝日が昇る度に己が生きていることを喜ぶ毎日。

 そして魔物達は、各地の人間牧場で魔王ジルの命令を受けて毎日人間を苦しめ、増やしていた。

 その計画を実行した張本人である魔人レオンハルトは、魔王城での用事を終えて、次の仕事へ向かおうとしていた。

 背後に使徒の内の二人――キャロルとペールを連れた状態で、

 

「――そういえばレオンハルト様、おっぱい揉みますか?」

 

「……何が“そういえば”なんだ?」

 

 馬鹿なのか痴女なのか、あるいはそのどちらもなのか。ペールが真顔でそう言ってきたのを歩みを止めることなく、言おうとした言葉を飲み込み、半目で吐息を吐きながら問いかける。

 するとペールは得意気な笑みで答えた。こちらを見上げ、首を傾げながら、

 

「いやー、まるで仕事の報告を行う感じで言えば、自然に頷くかなーって思ったんですけど、やっぱり駄目でしたよう」

 

「――馬鹿なのか?」

 

 飲み込んだはずの言葉を今度は躊躇わずに口にする。するとペールは不満顔で頬を膨らませ、

 

「むー、別に我慢しなくてもいいんですよう? 本当はレオンハルト様だって揉みたいですよね? 毎日揉まないと元気が出ないはずですし」

 

 と、ふざけたことを口にする。

 それだと自分がおっぱい好きの変態みたいではないか。

 別におっぱいが好きなくらいで変態ではないと思うが、とにかくそこまでおおっぴらにやりはしないだろ、と内心でツッコミを行いつつ、表では別の言葉で返す。頷いて、

 

「……ああ、そうだな。じゃあ――」

 

 と、レオンハルトは右手を伸ばしてペールの胸元にあるたわわな果実を軽く一揉み。

 するとペールがまさか来るとは思っていなかったのか、戸惑った笑みを浮かべながら、目を見開き、

 

「あんっ♪――って、え、まさか本当に……これは言ってみるものですね――」

 

「――お前の言う通り揉んだからな。これで今日のお前の分は無しだ」

 

「えっ」

 

 言いつけてそのまま歩いていく。ペールだけが短い声をあげてその場に立ち止まった。

 しばしの間呆然とし、そして再起動して追いかけてくるとその意味を理解したようで、

 

「な、無し無し! 今の無しにしてください! それはさすがに酷すぎますよう!」

 

「四六時中発情しているからだ。一日くらい大人しくしてろ」

 

「そんな!? ペールちゃんはレオンハルト様に抱かれないと調子が悪くなるのに……うう、鬼ですか……?」

 

「元人間の魔人だ」

 

「冗談にマジレス禁止ー!」

 

 どこから取り出したのか、“性行為の自由を!”など“セックス禁止、断固反対”などというプラカードを取り出していつの間にか鉢巻を巻いて抗議の声を上げてくる。禁止を反対とか分かりにくいな、と思いながら少し無視していると、反対側に立つキャロルが腕を組み、

 

「ふふん、欲張るからそうなるのですわ。その点、わたくしはいつもいい子にして待ってますからご褒美も沢山貰えますのよ」

 

「キャロル先輩は確かに“忠犬か!”って言うくらい待ってますよね……前世わんわんかってくらい……」

 

「レオンハルト様の犬になら喜んでなりますわ! というかもうなってますわ!」

 

「前世わんわんで怒るかと思ったのにまさかのノーダメージ!」

 

「きっとレオンハルト様に飼われてるわんわんだったのですわ」

 

「ああ、そういう……」

 

 相変わらずメンタルだけは無敵というか、使徒最強なのではと思ってしまうほどの図太さだった。あまり細かいことを気にしないというか、ポジティブというか。

 

「……そういえばキャロル。お前、好感度の高い上司ランキング、1位だったぞ」

 

「マジですのレオンハルト様!? やりましたわー!」

 

「ああ、うちの軍でたまにやるやつですよね。魔軍全体で匿名アンケート調査するやつ。キャロル先輩、人気ですからねぇ……ちなみに、ペールちゃんは何位でした?」

 

「……聞きたいか?」

 

「やっぱり言わないでいいですよう! その反応で分かりましたから!」

 

 ペールが両手で耳を塞ぎながら、ぐぬぬ、と悔しがる。

 実際はそこまで低いわけでもなかったが、それを言うとまた調子に乗るので言わないでおく。ハンティとかリーよりは低いので、落ち込む可能性もあるのだ。

 ちなみにその他だと、最近魔人になったばかりのジークが高かった。自分が殿堂入りしたので誰が一位になるかと見ものではあったが、まさかのキャロルになるとは。

 意外というほどでもないが驚きではあった。

 そのうちご褒美でもやらないとな、と思うが、最近はやはり仕事が忙しい。なので雑談から仕事の話に切り替えるかと、言葉を作る。

 

「……うちの牧場もようやく軌道に乗ったからな。今日は早めに戻るぞ」

 

「あっ、そういえば今日って“選別”の日でしたよね?」

 

「ですの。リーさんや魔物将軍達が総出で動いてますし、わたくし達も手伝わないといけませんわ! 半年に一度の大仕事ですのよ!」

 

「うちはちょっと特殊ですからねー、仕事量も他より多いですし、早めにやらないと今日中に終わりませんよう」

 

 キャロルとペールの言葉に、ああ、とレオンハルトは頷く。少し思うところはあるが、今更そんなことを感じてもしょうがない。自分はやれるだけのことをやるだけだ。

 そのためにも、牧場運営は適切に行わないといけない。

 だからレオンハルトは早々に魔王城から街の方にある牧場に戻らなくてはならない。

 今頃、牧場の副管理長を務めているリーが魔物将軍達を動かして忙しくしていることだろう、と、レオンハルトは足を早めた。斜め後ろに並んで歩く二人も、足を早めた時に、

 

「――おい」

 

 不意の声が、前方から生まれた。

 無遠慮な男のそれは、見知った声であり、徐々に見えてきた姿はやはり声と一致する男の姿だった。

 目元に掛かる紫の髪の奥から、雷のような鋭い眼光をこちらに飛ばしてくるのは、口元に、草の葉を紙で細長く包んだ薬物、“タハコ”を咥えて煙を吸っている青年だ。

 その名を、レオンハルトは口にした。

 

「――――レイか」

 

 魔人レイ。ジルが戯れで魔人にした男がこちらに近づいてきた。

 

 

 

 

 

「――――レイか」

 

 レイは、己の名前を呟いた男を、髪の奥の視界で捉えた。

 金髪に威圧的な赤い目を向けてくる己より僅かに背の高い男――魔人レオンハルト。

 背後に二体の使徒を連れたレオンハルトに、レイは無遠慮に近づいていく。そちらには目もくれずに、レオンハルトの鋭い眼光にだけ目を合わせ、

 

「……おう、レオンハルト。ちょいとその澄ましたツラ貸してくれよ」

 

「……レイ。生憎と俺は暇じゃない。さっさとお家に帰れ」

 

「……ハッ、女と乳繰り合うので忙しいか?」

 

 レイはレオンハルトに敢えて失礼な物言いを行う。

 相手に慮る理由のないレイにとっては普通のことだが、これは明らかに挑発のための台詞だった。

 だがレオンハルトはそれに対して目を細め、酷く冷めた視線で見下して肩を竦めると、

 

「――そうだ。お前と違って、俺にはやることが沢山あるのでな」

 

「ッ…………待てよ」

 

 さっさとレイの横を通り抜けようとするレオンハルトに対し、レイは軽く足を開くことで意思表示とした。

 そして身体の中で燻る火が爆発的に上昇していく。

 レイにとって、これを抑える理由はない。

 レオンハルトに喧嘩を売りたいから売るだけ。ムカついたから殴るだけだ。

 だから告げる。バックルから櫛を取り出し、髪を掻き上げると、魔人としての力を立ち昇らせ、電流を強めた。

 

「相手、してもらうぜ……ッ!」

 

「……!」

 

 レイは有無を言わさず、挨拶代わりの一撃をレオンハルト目掛けて放った。

 魔人となり放電体質となったレイの身体から、雷撃が迸る。それはレオンハルト目掛けて一直線に走り抜けたが、レオンハルトはそれを軽く横に逸れることで回避すると、溜息を一つ、

 

「……随分と威勢の良いことだな。魔人になって気が大きくなったか?」

 

「……それは、俺に喧嘩を売ってるってことでいいんだよな……!」

 

 レイが喧嘩の名分を見つけたと言う風に言う。しかしレオンハルトはそれを一笑に付し、再び冷たい表情に戻すと、

 

「――違う。脅しているだけだ。生憎と、お前に買えるほど俺の喧嘩は安くはない」

 

「ッ……てめェ……!」

 

 こちらを相手にしないレオンハルトの態度にレイが額に青筋を立て、放電が激しくなる。

 しかしレオンハルトはそれを見ても鼻を鳴らし、

 

「喧嘩なら他所で勝手にやってろ。ガキが大人に喧嘩を売るものじゃあない」

 

「ッ、なら俺がガキかどうか試してみろ!!」

 

 レイが遂に、右拳を振り上げてレオンハルトに向かって踏み込んでいった。

 するとレオンハルトは背後の使徒達に、下がるように指示すると、やはりそれを紙一重で避ける。

 そして鋭い視線をレイに向け、

 

「……随分と俺を目の敵にしているようだが……何か理由でもあるのか?」

 

「――てめェが気に食わねェだけだ!!」

 

 と、レイは怒声を上げながらレオンハルトに向かって拳を振るう。今度は雷撃も飛ばしてレオンハルトの逃げ場を無くそうとしたところで、ようやくレオンハルトは空間から得物を抜いて、雷を斬り裂くと、しかし殺気は飛ばさずに眉をひそめ、

 

「お前は……愚かだな」

 

「何だとッ……!?」

 

 レイが眉を立てて更に怒りを爆発させる。

 それはレイにとって看過できないものだ。

 彼が姉御と慕うジルにすら告げられた言葉。そのぞんざいな言葉は、あのジルなら、と不快にこそ思わなかったものの、眼の前の男から再度告げられると、不思議と怒りが湧き立つのだ。

 

「ジル様がそう言うのも頷ける。お前は愚かだ。愚かなガキでしかない」

 

「ッ……潰す……!」

 

 レイの攻撃が激しくなる。雷の様な勢いを持ってレオンハルトに肉薄すると、拳や貫手による格闘でレオンハルトに傷をつけようとラッシュを行う。

 放電体質であるレイは、自身が近接戦闘を行いつつも、相手には一方的に不利を押し付ける厄介な特性を持っているため、レイの攻撃はその身を流れる雷も一緒に浴びることとなる。

 触れただけで反動のように電撃が相手の身体を流れるため、相手は容易に得物などで受けることも叶わない。

 そして戦闘中にレイが己の身に流している電撃は、並の人間ならそれだけで死にかねないものであり、触れた瞬間に相手を黒焦げにしてしまうことも可能だ。

 戦士にとっては天敵ともいえる魔人が、レイという男だった。

 だからレオンハルトも躱すしかないと、レイはそう思っていた。

 相性は悪くないと感じながらも、躱し続けるレオンハルトの言葉を、レイは聞いた。

 それは剣を振るうのと同時であり、

 

「なっ――!?」

 

「……この程度か」

 

 レオンハルトがレイの拳をその魔剣で受け止める。

 その瞬間、レオンハルトの身体を電撃が駆け巡るが、レオンハルトはそれを僅かに眉をひそめるだけで受けきり、その威力を感じて肩を鳴らす。

 

「腕の差は歴然。だと言うのにそれも見極める目を持たず、闇雲に突っ込んでくるだけ。それがガキでなくて何と言う?」

 

「……! ガキとガキとうるせェ……! 俺ァ暴れたいから暴れるだけだッ! てめェらと何も違わねェよ!!」

 

「ふっ……!」

 

 レイが右からの回し蹴りをレオンハルトに向かって放つが、レオンハルトはその蹴りも魔剣で軽く弾いてしまう。触れた瞬間に先程よりも強い電流が流れるが、しかし雷撃に堪えた様子はなく、変わらぬ様子でレオンハルトは続けた。

 

「俺達と同じ? ――ふっ、笑わせるな。お前は戦いを純粋に好むノスやレキシントン、俺とはまるで違う」

 

 レオンハルトが失笑だが、初めて笑みを浮かべてレイと相対する。だがその笑みは一瞬であり、直ぐに冷たい表情に戻ると、

 

「空虚なお前を見ていると、哀れでしょうがない。そして、俺にはそんなお前に掛けてやれる時間は1分足りともないんでな。だから悪いが――」

 

「っ――……!!」

 

 レイの視界から、レオンハルトが一瞬で消える。

 高速の踏み込み。視認出来ないほどの速度でレオンハルトは己の剣で一閃、レイを斬りつけた。

 

「ぐおおおぉぉッッ!?」

 

「――これで終りだ」

 

 と、レオンハルトはレイの身体を斬りつけた時に流れる雷撃を物ともせず、体の前面に大きな切り傷を受けて倒れるレイを見下す。

 最強の魔人、世界最強の剣士の一撃は、レイをたった一刀で制したのだ。

 血を流して倒れるレイは、だがしかし、脂汗を流し、苦悶の表情のままレオンハルトを見上げ、

 

「ざけ、ンな……まだ、終わって――ぐああぁあっ!」

 

 だがレオンハルトはそんなレイの傷を軽く踏みつけることで地面に押し付ける。

 

「……ふん、おいたが過ぎたようだな」

 

 レイが苦鳴の声を上げたのを見て、レオンハルトは足を離すと、そのまま離れていた使徒が近づいてくるのに合わせて、レイを後ろ目に見下し、

 

「喧嘩を売る時は相手を選べ。何もないお前では俺には勝つことはあり得ないし、お前を相手にしても、()()()()()()。時間の無駄だ」

 

「クソ、が……ま、待ちやがれ……ッ!」

 

「見逃してやるからガキはさっさとお家に帰るがいい」

 

 傷を押さえながら息を乱し、レオンハルトに追いすがろうとするが、力が入らない。そのまま離れていくレオンハルトとその使徒の背を見送るしかないレイは、廊下で一人、負けを認めて屈辱と怒りを感じながらも、再戦を直ぐに誓う。

 

「……はぁ、はぁ……ぐっ……へっ、だが面白ェ……あの野郎、絶対に、吠え面かかせてやる……!」

 

 レイは床を這いずり、その言葉の意味も気づかずに、去っていく背中だけを見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 魔人レオンハルトと魔人レイの、喧嘩とも呼べぬようなぶつかり合いを終え、城を出た当人も含めた3人。

 その道中にて、口数の少なくなったレオンハルトに、ペールは恐る恐ると声を掛けた。

 

「……あのー、レオンハルト様?」

 

「……どうした?」

 

 ペールの問いかけに、レオンハルトは何とも言えない微妙な内心を隠しながら応対する。出来ればだが、そのことを聞いてほしくはないな、と思いながら、質問を促すと、やはり、

 

「……レオンハルト様、妙にあのレイって魔人に厳しい気がするんですけど……なんかありました? いや、喧嘩売られたんですからイラッとするのは分かるんですけどね? 珍しいなーって」

 

「レオンハルト様に喧嘩を売るなんてどうやら新しい魔人の方は頭の方が少々よろしくないようですわね! でも、これで自分が馬鹿だったと悟り、それを教えてくれたレオンハルト様に敬服するようになるはずですわ!」

 

「いや、そういう話じゃないんですけど……まあ、確かに、こっちもちょっとイラッとはしましたけど」

 

 キャロルがいつもの調子で喋る中、ペールは首を傾げて疑問符を浮かべてくる。

 それを聞いたレオンハルトは、少し間を置いて眉間に皺を寄せながらも答えた。まずは問いかけるように、

 

「……お前達は、アレが何故喧嘩を売ってきたか分かるか?」

 

「何故喧嘩を売ってきたかですか……」

 

 んー、とペールが腕を組み、頬に人差し指を当てながら斜め上を見て考える。しかしその間にキャロルが勢いよく手を挙げた。

 

「はい! きっと、完璧過ぎるレオンハルト様に嫉妬したのですわ!」

 

「あー、なるほど。可愛い美少女を連れてる上に、魔王様の寵愛まで受けるモッテモテのレオンハルト様への醜い男の嫉妬ですね。それはそれでありそうですよう」

 

 それはない、と断言仕掛けて、しかし直ぐに自分の判断に異を唱える。

 もしかしたら、それもある。一因として、それもあり得るかもしれない、とレオンハルトはレイの内心を思い、その理由を思考する。

 しかし、主な理由としては違うだろうとも思う。

 では何かと言うと、レオンハルトは口にすることで答えた。

 

「……ただの憂さ晴らしだ」

 

「憂さ晴らしですか?」

 

 ペールが確認するように再度言葉にする。レオンハルトは首を縦に振り、その先を繋げた。

 

「ああ。アレは空虚な自分を誤魔化すために、拳を振るっているに過ぎない」

 

「それは……」

 

 ペールが何とも言えない表情で苦笑を浮かべるが、それも分かる。

 レオンハルトはそれよりも更に微妙な気持ちを感じているのだ。

 それは苛立ちに限りなく近いもので、

 

「戦いに身を投じている間だけは、空虚な自分を見つめなくて済む。だがアレは、それにすら気づいていない。それに気づくことなく、周囲に当たり散らしているだけの男だ」

 

 それがガキでなくてなんと言うのだ、とレオンハルトは言葉にするだけで苛立ちを増した冷めた口調になるが、その感情を抑えるように努める。

 だが当然、使徒達はそれに気づいている。こちらの顔色を窺うように、気遣うように見上げる二人の使徒が言葉を発した。

 

「えっと、つまりあの魔人が単純にムカつくからということですか?」

 

「喧嘩を売られてるのですから当然のことですわ! というか、やってしまっては駄目ですの?」

 

 キャロルが何気に物騒なことを言うが、全くの的外れでもないことを言う。

 そちらには首を振りつつ、ペールの理由には同意する。ただし、言葉を付け加えた。

 

「それもあるが……それだけじゃない」

 

「? と言いますと?」

 

 ああ、とレオンハルトは頷く。認めるのも癪で、口に出すこと事態もかなり憚られるが、それでも言った。

 ……アレは、あいつは――

 

「――――()()()()()()()()()()()

 

「……!」

 

「それは……」

 

 キャロルとペールが浅く眉を立て、言葉を迷わせる。

 二人や、自分に近しい者達は知っていることだからこそ、それをどう言っていいか分からないのだろう。

 千五百年以上昔の――己がまだ馬鹿なガキだった頃の、忌まわしき過去のことだ。

 自分自身でさえあまり触れたくない時期のこと。とっくに乗り越えているため、必要とあらば口に出すことに躊躇いはないが、自ら喧伝するほどのものではない。

 今となってはそれすらも大切な経験の一つであり、情けない笑い話のようなものだが、それを思い起こさせる様な振る舞いを見て冷めた感情が湧いてしまう辺り、完全に無感情ではいられないというか、思うところはあるらしい。

 

「……まあ、お前達は気にしなくていい。俺も、そこまで苛ついているわけではない。調子に乗った魔人を諌めることも魔人筆頭として必要なことだ」

 

 そう。苛立ちではなく、どちらかというと、哀れむような気分に近い。

 昔の自分を見ているようでどうしても冷めた気分になる。だから冷たい、突き放した様な態度を取ってしまうのだと。

 目的や大切な者がある自分と、何もないレイとでは戦いや生きることに対する覚悟がまるで違う。

 それが勝負の結果に関わるかはまた別問題であるし、そうでなくともあの態度には問題があるため、対応は変わらないかもしれないが、と思いながらも、ただの同族嫌悪であることを軽く自嘲し、そう口にすると、二人は納得したようで、

 

「……もう一回おっぱい揉みます?」

 

「わたくしの身体なら胸だけじゃなくどの部位でも構いませんわ!」

 

「……何故そうなる?」

 

 二人が胸を手で寄せたのを見て、渋い表情で頭を抱えると、ペールが苦笑混じりに、

 

「いやー、お詫び半分、残りはシリアスを壊すためにですかね。そういう真面目過ぎる空気はあまり好きじゃないというか、壊したくなるというか」

 

「わたくしは単純にノッてみただけですわ!」

 

「胸張って言うことじゃないな……」

 

 ペールとキャロルにボソリと呟くようにツッコむ。

 だがまあ、確かに多少気分は戻ったから、特に注意することもないだろうと、

 

「……まあいい。とにかく、急ぐぞ。今日は忙しいからな」

 

「畏まりましたわー! 今日もバリバリ働きますの!」

 

「頑張りますから、後でご褒美下さいね?」

 

 気を取り直して、レオンハルトは二人の使徒を連れて己の管理する牧場へと向かっていった。




VSというほどでもないタイトル詐欺。次回はレオンハルト直営人間牧場です。
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