そして何気にお気に入り4000越えと、200万文字を越えました。というわけでありがとうございます。これからも頑張っていきたいなって。
人間牧場。
それはこの時代の人間が生きる主な場所であり、魔物達が管理、運営する施設の名だ。
人間達にとっては生き地獄に等しいその施設は、大陸各地に建てられ、魔王の配下である魔人がそれぞれの人間牧場を魔軍を率いて統治している。
故に人間牧場は、基本的な方針は同じでも、多少の差異、異なるシステムで運営されていることもある。
その中でも、一際異彩を放つ人間牧場が、大陸北東部にあるレオンハルトシティの近くに存在する。
その街の名が示す通り、その牧場は魔人筆頭にして魔軍参謀、人間牧場計画の総指揮を執った魔人レオンハルトが直接管理する直営牧場であり、街のすぐ近く、僅か数キロ離れた場所に位置する。
担当の魔人がいない人間牧場を、レオンハルトが仕方なく管理しているそれらとは違い、その牧場だけはきちんとした方針を持って運営されていた。
「あー、今日も出勤かぁ」
「急げよ。今日は選別の日だからな」
「あっ、そうか。じゃあ早く行かねぇと一日仕事になるな……」
と、一日の最初、朝日が昇るころにやりとりを行うのは魔物兵の二人組。
レオンハルト軍に所属する魔物兵であり、この人間牧場を管理する大事な兵達だ。
一千万近い人間を収容する大規模牧場であるここでは、魔物兵による働きは特に重要であり、サボりや欠勤は厳しく罰せられることになるため、止むを得ない理由でも無い限りは休むことは出来ないのだ。
それでも特に不満がないのが、そこまで仕事が大変ではないことや、人間を虐げられること、レオンハルト軍に所属し続けることのメリットなど、多くの理由があってのことだ。
宿直で管理している魔物兵以外は、レオンハルトシティから徒歩で出勤することになる。
レオンハルト直営人間牧場は、敷地がかなり広く、多くの人間を収容している、柵で仕切っているだけの平原なども含めれば、レオンハルトシティの倍以上の面積を誇っている。
その敷地内と外を繋げるたった一つの出入り口である巨大な門の中、そこだけでも数千の魔物兵が整列することが出来るその場所に魔物兵は整列していくと、定刻に合わせて魔物隊長や魔物将軍達も前に並んでいく。
そして最後には、この人間牧場を管理している魔人レオンハルトの使徒も現われる。
日によっている時といない時もあるが、基本的に必ず一体は存在するのだが、今日の使徒は、
「――全員揃っているな?」
「はっ! 一人の欠員もおりません、リー様!」
整列するレオンハルト軍の魔物兵達の前に、レオンハルトの使徒であるリーが厳格な落ち着いた声で問いかける。
赤い軍服を来た人間の中年の様な男は、右手に赤い装丁の本を持ち、右目に眼帯をした軍人然とした男であり、居並ぶ魔物兵達も自然と身を引き締める。
これが他の使徒――ハンティならともかく、キャロルやペールとかがいると緊張感に欠ける妙なやり取りを行うことがあるのでここまで静かにはならないのだ。
ある意味ではそちらの方がムードが良かったりもするのだが、リーはリーで、そうやって緩んだ気を引き締めてくれるので適材適所とも言える。
管理長としての役職を与えられているリーは、この牧場を適切に動かすことが出来るだろうと、レオンハルトに信頼されている。そのリーが、いつにも増して厳かな雰囲気を醸し出しているのは、やはり今日が大事な選別の日だからだろう。
「ふむ、皆分かっているとは思うが、今日は選別だ。かなりの時間を要するため、迅速かつ正確に動く必要がある。それを頭に入れておくように。――私からは以上だ」
「はっ、ありがとうございますリー様! では総員、解散! それぞれ持ち場につけ!」
魔物将軍の号令を受けて、魔物隊長や魔物兵達が応答の後に動き始める。
誰もが流れに沿って、迅速に仕事を始めようとする動きだ。
それに満足気な頷きを入れて、リーも管理業務を行うべく、魔物将軍を引き連れて施設内へと足を向けた。
牧場施設内。
沢山の人間達が飼われているその場所は、各牧場によって様々だが、基本的に柵の中や人小屋とも呼ばれる厩舎の中で寝起きするのが基本であった。
熱い地域などでは外で寝かされる場所もあれば、寒い地域では人間が凍え死なないように最低限のものではあるが、室内で暖炉のようなものが設置され、防寒具が支給されることもある。
だがレオンハルト直営牧場では、そのどれもが当て嵌まっているとも言えた。
「うーん……もう朝ぁ……?」
「そうだよ、そろそろ起きなきゃ」
「今日は選別だから早めに起きて準備しておいたほうがいいぞ」
と、大部屋に幾つも並べられた三段ベッドから次々と目を覚ましていくのは、その全てが子供であった。
男も女も、大体が5歳から15歳までの子供であり、誰もが一様に灰色の同じ衣服を身に纏い、それぞれが違う番号のマーカーが首元に記されている。
その数、一部屋に付き30人であり、起きて部屋の外に出た子供達は広めの廊下を他の部屋からもちらほらと出てきた子供達とともに支度を行う。
建物の外に置かれた井戸から水を汲み、喉を潤す者や、顔を洗う者。
外に出て友人と遊ぶ者や、運動場ともいえる仕切られた柵の外周を走る者。
部屋の中で本を借りて勉強をする者など、その行いは様々だった。
これら、そしてこれからの光景は、レオンハルト直営牧場で産まれた全ての子供の日常であり、普段と変わらぬ光景であった。
今日は選別の日でもあるため、普段よりも勉強や運動を行う者も多かったが、特に子供達の表情に暗いものはない。誰もが今の生活や自分の運命に、全く不安や危惧を抱いていないような元気な様子だった。
だがそれも、朝七時の鐘が鳴るのと同時に、誰もがそれらを一斉に止める。
そして全員が室内に戻り、食堂へと向かっていく。そんな彼らは歩きながら、口々に会話を行い、
「今日のご飯、なんだろうねー?」
「選別の日だからきっとめちゃくちゃ美味いものが出るぜ!」
そう、彼らが言うように、朝七時は朝食の時間なのだ。
時間どおりに行かないと、先生や魔物に怒られる。だから彼らはきちんと決まりを守る。
食堂は幾つかに分けられているが、纏まった場所にあり、子供達がそれぞれの厩舎に割り当てられた食堂に向かい、列に並んでいく。
その先にいるのは、朝食を配ってくれる飼育係の人だ。
「きちんと列に並べー、並ばないと飯はやらないからなー」
「……はい、どうぞ。今日は選別だから、豪華美味しいものいっぱい作ったよー」
「わーい! ありがとうございまーす!」
列の横に立ち、子供達を見張っているのは、幾体かの魔物であった。魔物隊長が一体に、魔物兵が数体。それらが子供達を見張っており、子供達の朝食が、料理を作っている人間の大人――飼育係の手によって手渡されるのをきちんと確認している。
取り終わった子供達から席に着き、食事を取り始める。
今日のメニューは飼育係が豪華で美味しいものだと言っていたが、それは嘘ではないようで、肉や野菜の入った煮物を中心に、玉子にパン、果物や牛乳など、普段は殆ど出ないような豪華な食べ物ばかりであり、彼らは目を輝かせながら勢いよくそれらを口にする。
そして人間の子供達の食事は、大体1時間程で全員が食べ終える。
時刻は8時。その時間までに、子供達は食堂から教室へと移動し、それぞれが割り当てられた席に着く。
するとその教室には先生がやって来るのだ。
「せんせー! おはようございます!」
「はい、おはよう。今日も元気が良くていいですね」
と、子供達の朝の挨拶を穏やかな笑みで返したのは物腰が柔らかそうな一人の若い女性であった。
人間の女性であり、容姿が、その服装なども含めて整った彼女の首元には、番号ではなく“A”と記されている。
他の教室でも男であったり、もうちょっと歳を重ねていたり、もう少し若かったりと色んな先生がいるが、その誰もが同じ印を刻まれていた。
その人間達こそが、子供達の言う先生であり、授業で様々なことを教えてくれる頭の良い大人だ。
そして、子供達の親代わりでもある。
親がいないわけではないが、親はまた別のところにおり、会うことは出来ない。
少なくとも“選別”を終えて、運が良くなければ会うことは叶わないため、生涯実の親の顔を知らない人間も多いのだ。だから子供達にとって親とは、先生や、自分達を飼ってくれている者達の事だ。
だから子供達は明るい顔を見せる。それが、心底幸せなことであるように。
それを見て、先生はニコリと笑顔を浮かべて、子供達全員に聞こえるように声を発した。
「はい、静かに。いいですか? 今日は選別ですからね。先生や魔物の言うことをよーく聞いて、頑張って試験に臨んでくださいね?」
「はーい!」
「はい、よろしい。……では魔物将軍様、お願い致します」
「うむ」
と、声を上げて部屋に入ってきたのは、黄色くて丸い、大きな身体を持つ魔物――魔物将軍。
魔軍の指揮官であり、人間達にとっては雲の上に近い存在である地位にいる者の姿に、子供達も様々な反応を見せて静かになる。
魔物兵や魔物隊長くらいであれば、日頃からよく見る相手であり、敬いはしてもそこまで緊張する相手ではないが、魔物将軍ともなれば滅多に、それこそ選別の日くらいにしか姿を見ることは出来ないため、子供達はその姿に驚きと畏怖を覚える。
中には憧れに近い眼差しを見せる者すらおり、この環境の特異さが際立っていた。
「……ではこれより、選別を開始する。初めての者もいるため、軽く説明するが、選別は、“知能“、“身体能力”、そして“一芸”の三つで審査することになる。順番に執り行っていくため、係員の言うことをよく聞いて執り行うように。なお、選別試験中のルールを破った者には、厳しい罰があるため、注意することだ」
「は、はい!」
「うむ。では、まずは知能試験を執り行うため、これより説明を始める。質問は全ての話を終えた後に行うように。では――」
と、魔物将軍は毎度のことであるため、すらすらと順序良く言うべきことを淡々と口にしていく。
半年の一度の選別では、今しがた告げた三つの試験の結果で、子供達の選別を行うのだ。――大人にも一部の者達には選別資格があるが、それは今は割愛する。
最初の試験は、知能を測る試験であり、子供達に様々な問題が書かれた紙とペンを支給し、時間内にそれらを解かせるという普通の筆記試験だ。
子供達は魔物将軍の合図で紙を表にし、自分の収容番号を最初に記入すると、問題を解き始める。出題される内容は様々であり、一般教養であったり、文字の読み取り、書き取りであったり、歴史であったり様々だ。例えば――
『問1.人間は、魔物に飼われて生活する生き物であるが、その人間は何のために生きている? 次の中から、当て嵌まる答えを一つ選び、答えなさい』
A.魔物を楽しませ、または奉仕するため
B.人類の繁栄のため
C.自由回答 下記の空欄に答えを記入しなさい
という問題。これはかなりのサービス問題であり、見た瞬間に誰もが迷いなく答えられる問題だ。
まだ5歳で、初めてこの試験を受ける子供ですら答えられるこの問題。正解は勿論――Aの、“魔物を楽しませ、または奉仕するため”だ。
選別の度に毎度出題される問題の一つであり、これだけはどんなに頭が悪くても答えられるというサービス中のサービス問題であり、誰もが迷いなくAを記入していく。
そして次に第2問は、
『問2.この牧場を運営している偉大なる魔人の名前を答えよ』
これもサービス問題だった。この牧場にいる人間なら誰もが知っている。
答えは当然――“レオンハルト様”だ。
魔人筆頭。魔軍参謀。世界最強の剣士。魔物界の英雄。様々な称号を持つ偉大なる魔人にして、自分達を飼ってくれている慈悲深い御方だ。
かの御方のことについては、授業でも散々習うため、知らない者はいないどころか、更に詳しい情報を知る者もいる。
この他にも、最初の方の問題は誰もが最初に習うような基本の問題ばかりであり、基礎知識が試されていた。
しかし知能を測る試験であるため、やはりと言うべきか、このような問題ばかり出るわけではない。
ある意味、最初の方の問題は、言ったようにサービス。そして小さい子供でもまだ答えられるような問題しかないが、後の方になるにつれて、段々と難しい問題が増えていく。
それらは明らかに授業では習わない範囲の問題すらあった。
だがそれらを、一部の子供達はすらすらと、あるいは苦戦し、悩んだ様子を見せながらも問いていく。
何故彼らは授業でも習わないことを知っているのか。それは、この環境にあった。
この牧場にいる子供達は、教室に隣接する図書室から、好きな本を借りて読むことが出来る。
それらは、絵本や童話などの他愛もない本から、何かの専門書や学術書なども置かれており、それを好きに見ることが出来るのだ。
そしてこの知能試験に出る問題は、日々の授業と、その図書館にある本の中で理解出来るものだけが出題される。
故に、頭の良い子供達はそれらを日頃から読んで勉強し、選別の日に備えているのだ。
後半の最後の方になると、もう殆ど専門家でもないと理解出来ないような問題ばかりであり、満点を取ることは不可能に近い。
だが不思議なもので、何年かに一人は満点を取る者も現われる。
実のところ、子供達の先生を務めている人間達は、この知能試験で満点を取った天才ばかりだが、子供達はそれを知らないし、先生たちも、魔物達もそれを教えることはない。
子供達には、選別試験を頑張れば、より良い地位と生活を与えられ、魔物のために働けるということだけを教えられており、物心が付く前から魔物のために痛めつけられてでも彼らを愉しませ、奉仕するのが人間だと教えられている子供達は、ただただそのために選別試験を頑張るのだ。
子供達が必死にペンを動かし、それが1時間近く続いたところで、終了の鐘が鳴ると、魔物将軍は声を上げた。
「――そこまで! ペンを机に置き、紙には触れないように。試験官が直ぐに回収する」
と、告げると、子供達がその指示に従い、そして教室で見張っていた魔物兵らがその試験の紙を一枚一枚丁寧に集めていく。
それらを全て集め終えて、何も問題がなければ、試験は次に移っていく。
「では次に、身体能力試験を執り行う! 運動場へと移動し、係員の指示に従って試験を行え!」
「はい!」
魔物将軍がそう言って教室を退出していくと、それを少し待って、子供達も教室を出て外の運動場に向かった。彼らは道すがら、先程の知能試験の事を話題にこっそりと盛り上がるが、それもほんの少しの間であり、運動場に出れば直ぐに次の試験を行うことになる。
柵で仕切られた草原の上。そこが子供達の使えるスペースであり、そこでは既に大勢の魔物兵を引き連れた魔物隊長や魔物将軍がそれぞれ所定の位置で待ち受けていた。
野良の人間であれば恐ろしいだろうが、子供達は何の躊躇もなく、順番に並んでいく。
まずは、幾つかの機材が並ぶ場所に、子供達は一度服を脱いで並んでいくと、
「身長と体重を測り終えたクラスから順次、試験に移れ!」
魔物隊長のその言葉が運動場に響く。
その言葉の通り、子供達は身長と体重を順番に測り、それを魔物が紙に記録していく。
そしてそれらが終わると、今度は身体能力を測るための試験に子供達は挑んでいく。
握力、50メートル走、腹筋、腕立て、持久走。それらの基本的な能力を魔物兵の監督の元に行っていく。
「うーん、私体力無いなぁ……」
「よっしゃ、握力記録更新!」
「はぁ……退屈」
これらもやはり、子供によって得意不得意が分かれ、日頃からよく運動している者の方が高い記録を出す傾向にある。自由時間に運動場で走っていた者達などは特に体力があるようであった。
しかし中には、普段から特に何も目立ったことはしていないのに、普通よりも高い運動能力を見せる者もおり、明らかに度を越した子供に対しては、魔物隊長が手元の紙に、その収容番号を記録しておく。
それらが一度終わると、子供達は昼食を配られ、それを口にする。
レオンハルト直営牧場では、一部の者達を除いて一日3食が保障されており、特に子供達は試験の結果が良かろうか悪かろうが平等に支給される。
今日のメニューはどうやらサンドウィッチだったようで、子供達はそれらを早々に食べ終えると、今度はまた室内に戻って次の試験に移っていく。
身体能力試験を監督していた魔物将軍が子供達に向かって、
「では次に、“一芸”試験を行う。希望する者、呼ばれた者から順番に指定する場所に来るように!」
そう告げる。選別の本番とも言える試験だ。
だが、一部の子供にとっては試験はこれで終わりだ。
希望することもなく、魔物兵に呼ばれることもなかった子供達はそのまま部屋での待機を命じられる。
それに加えて、知能試験と身体能力試験である程度の結果を出した者達も、その試験に向かわない者がちらほらといる。もっとも、好成績を残した子供も、更に己の能力を見せようと希望する者が多かったし、二つの試験で目をつけられた子供は別に呼ばれるのでそれがない好成績者は殆どいなかったが。
そうして約半分程の子供達が順次、次の試験場に向かっていく。
場所はそれぞれ別々であった。
食堂に向かう者、運動場に残る者、教室に向かう者が主で、中には個室に呼び出される子供もいるが、それはほんの極一部であり、数人程度のもの。
それぞれが一芸を見せるために適した場所に向かっているのだ。
そしてそこには、今までの試験とは違い、子供達にとってはかなりの大物が監督を行っていた。
まずは食堂。そこにやってきた子供達は、明るく軽くおちゃらけたような様子の声を聞いて身を硬くする。
「はーい。では、今から料理人試験を始めますよーう! ここにある食材は何でも使って構わないので、出来上がった者からペールちゃんと魔物将軍の元に持ってきてくださいねー?」
「は、はい……!」
そこにいたのは魔人レオンハルトの使徒であるペールだ。
彼女はニコニコと子供達に笑顔を向けながら、10体程の魔物将軍を引き連れてテーブルの前で声を放っている。そこで行われるのは口にした通り、料理人試験だ。
そこで合格した者は、料理人として選別され、魔物の為に働くことが出来る。
魔物の街であるレオンハルトシティや、この牧場の飼育係として働く者を選別するのだが、その需要は魔軍の中でも特に大きいため、重要視されている。
そのため、合格者もそれなりに多い。料理に関しては多くの子供達が一度は受ける試験であり、そこで見込みありと判断されていれば、次の選別でも試験を受ける事ができる。
そうでなくても、図書室には当然、料理について書かれた本も沢山あるので、それらをよく読み込んで頭に入れていれば、悪くない品を作り上げることが出来る。
専門的に学ぶには合格した後でもいい。多くの試験に言えることだが、これらは人間の子供達の個人の資質、“才能“を見極めるための試験なのだ。
レオンハルト軍にとっては、食に関することだけあって魔物将軍達もかなり険しい真剣な表情をしている。彼らも結構な食通であり、試験の為に味に敏感な者達が集められたのだ。
後は料理が出来るペール。それらの人たちに子供達は順番に料理を持って、判定してもらう。
「んっ、これは美味しい……こっちは、微妙。だけど見込みあり。それで……うえー……こっちは見込みなし、と……」
一つずつ味見をしてその判断を行っていくペールと魔物将軍達。
ここで明らかに美味しいものを作った者は、年齢が若すぎる者を除いて即合格が言い渡される。
それ以外の子供達は料理を作り終えた者達から部屋に戻って試験結果を他の子供達と一緒に待つことになるのだ。
そして他の場所でも、やはりそれぞれの場所で試験を行っていた。
「――では、ここでは追加の一芸試験を始めますのよ!」
「これより、追加の身体能力試験を執り行う。任意の得物を取り、指定の相手と模擬戦を行え。では――」
教室では、試験官であるキャロルが知能試験で好成績を残した者達を中心に別の技能についての試験を行う。座学が中心だが、中にはその能力を実際に見るために実践を行わせたりもする。
そして運動場では同じく試験官であり使徒のリーが模造の得物を支給し、主に戦闘能力を見極めるための試験を行う。
どちらも、この人間牧場の管理人となるため、もしくは、“コロシアム”の闘士になるために必要かつ重要な試験だ。
選別試験の中でもこれらが一番時間が掛かり、試験は夕方、もしくは夜まで続く。
その間にも子供達は順次夕食を取り、試験の結果を楽しみにしながら夜9時には眠りにつく。
――そして翌日。
夜通しで判別されたその試験の結果は、先生を通じて子供達全員に通達される。
「あー、今回も駄目だったぁ。でも料理は見込みありで保留かー」
「体力試験合格した!」
「うーん、“C”かぁ……でも魔物の為に働けるのには変わりないし、どっちでもいいか」
子供達はその試験結果を言葉にしてそれぞれ近くの者達と話の種とする。
特に明るい顔をしているのは、今回で“卒業”を迎える15歳の者達だ。
彼らの選別試験に、判断保留というものは存在しない。
16歳になる前の選別試験で、良い者も悪い者も平等に、選別されることになる。
卒業を迎える子供達は口々に己がどこに選別されたかを口にする。
「俺、“B級”だったけど、そっちは?」
「僕は“C級”だった」
「料理人試験で合格して“A”かぁ。頑張らないとなぁ」
「やったー! “A級”取れたぁ! イヴちゃんは?」
「ふふ、おめでとうございます。私は“特A級”でした」
「ええー!? じゃあ主席なの!? さすがイヴちゃん!」
C級、B級、A級、そして特A級と順に数が少なくなっていく。
これは卒業していく子供達にとっての進路。勤め先を決めるものであり、15歳の子供達全員にそれが言い渡された。
中には15歳よりも幼い子供が、結果を言い渡されたりもするが、それらは残らずA級の、才能を認められた者達であり、それ以下は判断保留としてまだ選別されることはない。
中でも特A級は原則として年に1人しか選別されず、相応しい者がいない場合は誰も選出者がいない年もある程の超エリートであった。
そんな子供達は、一通り試験結果の話に花を咲かせたところで、先生から声が飛ぶ。
「はいはい。では、名残惜しいでしょうが選別された人達はこれで卒業です。係員の指示に従ってそれぞれ指示された場所に向かってくださいね」
「はい、先生! 今までありがとうございました!」
「うぅ、寂しいよぉ……」
「よしよし、貴方も選別されたら会えるようになるんだから泣いちゃ駄目よ」
「…………」
それはこの人間牧場という施設に相応しくない光景であった。
子供達がこれまで一緒に過ごしてきた年長のお兄ちゃん、お姉ちゃんに別れの言葉を告げ、涙を見せるものすらいる。
そんな巣立ちの時に、作ったような笑みを顔に貼り付けているのは、一人だけしかいなかった。
先生ですら、それを幸福なことであるように心から喜んでいる。
もしかしたら先生の中にも、何かを想っている者がいるかもしれないが、それは巧妙に隠されているのか、誰にも見抜くことが出来ない。
しかしそれを唯一見抜き、昨日まで教室にいた子供が一人、いなくなっていることに気づいた特A級の子供は、淡々とその現実を判断する。
――確か、個室に呼び出された子供の一人だ。
知能試験も身体能力試験も好成績を収めていた、ある意味少女のライバルとも言える少年は、いつの間にか教室から消えていた。
友人に聞いてみれば何でも、一足早く選別され、昨日の内に卒業したという。
それを聞いて何でも無いように見せかけつつ、少女は思う。――
何かを思ってしまったか、真実に気づいてしまったか。もしくは愚かにも脱走でも試み、それが露見したのか。どれにせよ、マズいことであることには変わりなく、一足早くに卒業するのには充分な理由だ。
馬鹿ですね、と少女は記憶の中にある少年をそう評する。
気づいてしまったことで動揺するのは正常な人間として理解出来るが、それでボロを出してしまえば意味がないし、明らかにルール違反とも言える行動を取るのは愚か過ぎる。
教室の後ろ――自分達を監視するために設置されている“魔法ビジョン”は、ここだけでなく到るところに設置されている。
気づきにくい様に巧妙に隠されているが、魔法ビジョンというものを知ってさえいれば気づくことは容易だ。
もっとも、魔法についての知識は図書室の本でも基礎程度しか習うことが出来ず、先生に聞いても教えてくれないため子供達がそれを知ることはほぼ不可能ではあるが。
きっと少年はそれに気づくことが出来なかったのか、見極めを誤ったのだろう。
いや、例え気づいていたとしても、やはりその判断は愚かと言うしかない。
知識があればあるほど、外に出ても無意味であり、より厳しい生活を強いられるということに気づけるはずなのだ。
ここ以外の人間牧場であれば少女も気づくことが出来ず、気づいたとしてもその絶望しかない将来に脱走を選んでいたかもしれないが、幸運なことに、ここには“救い“がある。
少女にとっての幸いは、この牧場に産まれたこと、優秀な才能を持って産まれたこと、そしてそれらに気づくことが出来たことだ。
その全てが揃ったからこそ、少女は適切な道を選ぶために努力をすることが出来たのだ。
何も分からない者達はC級やB級でも“魔物の為に働ける”と満足しているが、冗談ではない。
家畜扱いも奴隷扱いも少女には御免被りたいものだ。
だからこそのA級。今よりも良い生活が保障されるその地位を目指した。
その中でも数年に一度、不作であれば10年に一度しか出ないという特A級を取ることが出来れば、己の人権は保障されたようなものだ。
特A級の進路は牧場の管理官となることであるのは知っているし、それよりも更に優秀な者は魔物将軍よりも上の地位に就くことだって可能なのは、当然把握済みだ。
コロシアムでのし上がる選択肢も無くはないが、強さを競うともなれば自分でも未知数であるため、確実ではない。下手をすれば一生、魔物達の見世物として終わることも考えられるのだ。
それもB級やC級よりはマシだろうが、少女にとってはあまり変わらない扱いだった。
「――では、イヴさん」
「! はい」
選別される時になり、己の名前が先生の口から呼ばれる。
「貴方は先生に付いてきて下さい」
「――分かりました」
やはり、と聡明な少女は内心で思考する。
A級の人間達と別れてただ一人、子供達を管理している牧場の外から管理棟に移動する。
A級も救いであることには間違いないが、特A級ともなれば更に上を目指すことだって出来るのだ。
そうなれば人間としては破格の待遇を受けることが出来るし、世界一安全かつ快適な生活を送ることも出来る。
少女は先生の背に付いていきながらも、背後で魔物兵に連れられながら手を振るC級、B級、A級の人間達を感じて、それを哀れんだ。
この選別が、天国と地獄を分ける運命の分かれ道であることに誰もが気づいていないことに。
だがそれも、ある意味幸福なのかもしれない、と少女は背後の人間達と別れ、魔物の世界へと飛び込んでいった。
次回も牧場回。天国と地獄です。これ書いてから思ったのは、なんか頭の良い子供達が脱走して人間の世界を目指す某漫画みたいな展開になりそうな設定というか牧場だなって。まああれよりも救いないんですけど(白目)