紅魔城。
その客室の一つのベッドでは、とある魔人らが寝かされていた。
「――ん……」
「――ふぁ……」
人間が天使と見紛うのではないかというような美しい二人が、ゆっくりと目を覚ます。
ここまでずっと寝ていた二人だったが、覚醒したのはほぼ同時であり、瞼を擦りながらベッドから身を起こしていくと、まずはお互いの姿が目に映った。
しかし最初に声を発したのはその二人のどちらでもなく、ベッドの脇に置かれた椅子に座る、一人の男だった。
「――どうやら、気がついたようだな」
「――えっ?」
「――はい?」
その男――魔人レオンハルトが声を掛けると、二人の姉妹はそれぞれ間の抜けた返事をあげる。
目をぱちくりとさせて自分と相手を見ると、先に声を上げたのは、紫がかった短い髪の姉の方だった。
「だ、誰よあんた? 何でここに……というか、ここはどこなのよ!?」
「あ、貴方は一体……? それに、私達は何を……?」
起きるなり、眼の前にいる男と訳の分からない状況に憤慨するように疑問を叫ぶ強気な姉。
そして妹の方は不可解な状況に直面して、素直に戸惑っているようだった。
その二人を見て、鋭い眼を僅かに細めるレオンハルト。それだけで姉の方が、“うっ……”と僅かに怯えを見せた。
しかしレオンハルトはその警戒を読み取り、出来る限り強張らせないように一度息を吐くと、ゆっくりとまずは問いかけた。
「……その前に一つ聞くが……お前達、自分の名前は分かるか?」
「ッ……ば、馬鹿にしないでよ! そんなの、分かるに決まってるでしょ!」
「じゃあ名乗ってくれるか?」
「そんなの……――あれ?」
即座に反応したのは、やはり直情的な様子が既に窺える姉の方。
しかし続く、名乗ってくれ、という頼みに対し、姉は眉を立てながらも答えようとし――答えられなかった。
「ええっと……あたしは……ちょ、ちょっと待ちなさい。ど忘れしてるだけだから……うん、きっとそう……」
「……そっちは答えられるか?」
自分に言い聞かせるようにしながら名前を思い出そうとしている姉を見て眉根を動かすと、顔を今度は妹の方に向けた。
「……私は……私の名は…………その、ごめんなさい。私も忘れてしまったようで……」
「……そうか」
ふぅ、ともう一度息を吐く。妹の方も答えられないと、顔を俯かせたのを見て、レオンハルトは間を置いて答えた。
「……ラ・サイゼル。そして、ラ・ハウゼル。この名前に聞き覚えは?」
「あっ……! それよそれ! あたしの名前!」
「! 思い出しました! 私はハウゼルです……!」
名前を言ってやると、姉の方――ラ・サイゼルの言うが早いか、即座の反応を見せ、妹の方――ラ・ハウゼルも俯いていた顔を上げて名前を思い出せたことに興奮する。
「……思い出せたなら良かった。なら、これまでのことや、それ以外のことで憶えていることはあるか?」
「これまでのこと?」
「それ以外のこと……」
二人は眼の前の男への警戒や不可解な状況に対する困惑の何もかもを一旦忘れ、記憶を辿ろうとする。しかし、
「……えっ、えっ? 何で? 何も分からない……」
「……私は……今までに、一体何を……?」
サイゼルが明らかに動揺を見せ、ハウゼルは静かに自分の事が分からないことに不安を見せる。
それをしばらくじっと観察するように見続け、しかしレオンハルトは促すように口にした。お互いを見て、
「――お互いの事は憶えてるか?」
「お互い……あっ……」
「……姉妹……だと、思います……」
ハウゼルが言葉に出したそれに、レオンハルトはしっかりと頷く。
「……ああ。確かに、お前達は姉妹だ。サイゼルが姉で、ハウゼルが妹――で、合ってるか?」
「……言われてみれば、そうだった憶えがあるような……ハウゼルが妹よね?」
「ええ……そうね。私が妹で、サイゼルが、姉さんだったと……」
二人がお互いの姿を確認して頷き合う。
サイゼルとハウゼルの二人は、自然に相手を自分と近しい相手と感じ取った様で、姉妹という認識はしっかりとあるようだった。
その様子を確認したところで、レオンハルトはまとめに入る。
「なら、それ以外に分かることはないと言うことだな?」
「……そう……よ」
「……はい……」
二人とも不安そうに顔を俯かせる。姉のサイゼルの方は、まだ少し気丈に振る舞っているようだが、妹のハウゼルは見るからにその様子が表情に表れていた。
自分達の名前と姉妹の事以外は憶えていない姉妹に、レオンハルトはその務めを果たすべく、説明を口にする。
「ならこれから俺が、お前達の事や周囲の事、状況についても説明する」
だからちゃんと聞いておけ、と言うように、まずレオンハルトは二人についてのはっきりとした事実を伝えた。
「お前達二人は――魔人になった」
「魔人……私達が?」
「聞き覚えがあるようなないような……その、申し訳ありませんが、それは……?」
魔人、という言葉の響き自体は知っているのか、二人は一応その事実を聞いて首を傾げることはなかった。
だが、はっきりと分かるという訳でもないようで、レオンハルトは、やはりそこから説明がいるか、と内心で頭を抱えてみせる。
子供でこそないだけで、今生まれたばかりの者に物を教えるようだと、
「……魔人というのは、魔王から血を分け与えられた一つの種族の様なものだ。魔物達の上位に位置し、最大24体まで存在する支配者層だな。今は俺やお前達も含めて十数体と言ったところだが……魔王の説明もいるか?」
丁寧に教えてやりつつ、一応他の事についても覚えているかと確認を取る。しかし、
「あ、あれ? なんで? 聞いたらなんだか思い出してきたというか……」
「ええ……魔人は大陸の支配者である魔王の下僕で、魔物達を治めるもの……のようだったかと……」
「……思い出したのなら話が早くて助かるな。なら、人間についてはどうだ?」
一から説明しなくて済みそうだとレオンハルトは頷き、問いかける。するとやはり、二人は思い出していくように、
「確か、地上で生きる……なんか弱い生き物?」
「……魔物とは違う種、ですよね? 私達の姿に少し似た……。それと、姉さん? そんな言い方は……」
「な、何よ。確かそうだったでしょ? 凄い弱い生き物って憶えがあるし」
「それは……そうかもしれませんが……」
ハウゼルがサイゼルの“弱い生き物”というぞんざいな言い方を耳にして、表情に影を落とす。
ハウゼルの方は優しい性格の様で、サイゼルは逆にそこまで気にしていない様だ。
若干憚られることでもあるが、事実はしっかりと伝えてやろうと、レオンハルトは魔人としてサイゼルの言葉に同意する。
「まあ……概ね間違っていない。人間とは魔物とは違う種であり、基本的には、魔人どころか魔物よりも圧倒的に弱い生き物だ」
「ほら、やっぱりあたしの言ってることが正しいじゃない」
「……そう、ですね……」
ハウゼルも薄々分かってはいたのだろう。眉を落としながらもゆっくりと頷くのを見て、レオンハルトは先の説明から続けた。
「とはいえ、少し前まで――数百年前までは人間も、魔物と戦争するくらいには栄えていたがな……。今は俺達、魔軍との戦争に負け、魔物の家畜として飼われている種族だ」
「ふーん、そう」
「…………」
サイゼルは興味無さそうに頷くが、ハウゼルは明らかに憂いを見せている表情となる。
とはいえ現状を聞かせなければしょうがないと、レオンハルトは先を続けた。
だがその前に、
「……あ、あんたも、ま、魔人なの? 魔人……よね?」
「ん……? ああ、俺は魔人だ」
サイゼルが質問をしてきたのでレオンハルトは特に含むところもなく頷く。
しかしサイゼルは更に続けて、
「……な、何か、特別な魔人とかではなく……?」
と、震える声で言われて、ああ、とレオンハルトは頷き、応答を返す。
「特別と言うか、一応は魔人筆頭と魔軍参謀を魔王様から拝命している。そういう地位的な意味では普通の魔人よりも高い立場にあることは事実だ。だが、お前達と同じ、ただの魔人であることには変わりはない」
「……そ、そう……」
「…………」
サイゼルは納得したのか、その言葉に頷く。ハウゼルの方が無言で、何かを考えている様子なので気になったが、レオンハルトは特に指摘することもなく続きを口にした。
「俺は魔王様――ジル様からお前達の教育……簡単な説明を任され、魔王城から俺の城まで連れてきた。ジル様の事は憶えているか?」
「っ……ジル……様……」
「魔王様……確か、私達を、魔人にした……?」
明らかに怯えを見せながら恐る恐る口にしたところで、レオンハルトが安心させるように頷く。
「そうだ。どうやらお前達は魔人になる前の記憶がないようだな。魔人になってすぐに気絶していた様だから命令された俺がここまで運んできた形となる。――ここまでで、何か質問はあるか?」
大体は状況の把握が済んだだろうと、レオンハルトはそこで一旦何か質問はないかと二人に向かって尋ねる。
すると今度はサイゼルではなく、ハウゼルが、
「……私達は、これからどうなるんですか……?」
窺うような視線とともに問われ、レオンハルトは簡潔に答えた。
「……魔人は魔王の配下だ。お前達も薄々と感づいていることだろうが、魔王様に逆らうことは、絶対に出来ない。故に魔人として、色々と動いてもらうことになるな」
「……具体的には何をすれば……?」
続く質問にも頷く。良い質問だと、
「今は、主に人間牧場の管理。そのために魔軍を一個軍ほど率いてもらうことにはなるが……それ以外、魔王の命令以外は基本的に自由だ」
「は、はぁ? 自由?」
「……つまり、何をしてもいいんですか?」
「魔王様の命令や意志に背かない限りはな。――だが、だからと言って横暴に振る舞い過ぎないことだ。魔人は強大な力を持っているが、それは他の魔人も同じ。魔人になったからと力に溺れ、不用意に敵を作っていると、他の魔人に襲われることもあり得るからな」
「……よ、よく分かんないんだけど……」
「原則として、魔王様の意志以外のルールは無く、自己責任だと言うことだ。魔王様から魔人の統率を任される俺や、魔人四天王といった上位の連中の言うことも、聞きたくないというなら聞かなくても構わない。魔人は自由だからな。……だが、その後に相手が力でねじ伏せてくることもあり得る。それらのリスクを考えつつ、自分の強さと相談して、上手いこと立ち回ることが求められる。それが出来なければ――死ぬだけだ」
「っ……」
「…………」
サイゼルとハウゼルがこちらの説明を受けて黙り込んでしまう。
脅されたように感じてしまったのだろうが、魔人の生き方を教えるに当たって、最初はこれくらい言っておいた方がいい。
とはいえ多くの魔人は、口では頷きつつも、平気で好き勝手したり、喧嘩を売ってきたりする奴もいる。直面すればこのように怯える奴らも多く見てきたが、大体は自分の力を自覚したところである程度暴れて痛い目や、格の違いを思い知らされるのがいつもの流れだ。
「……とはいえ、俺のスタンスとしては、他の魔人が殺し殺されることを基本的に許すつもりはない。魔人を率いるのが俺の役目だからな。喧嘩して痛い目を見る、見させるくらいならある程度大目に見るが、殺されそうになれば目の届く限りで止めてやるし、逆も然りだ」
「…………」
「…………」
「……後はまあ、俺が指示することについては出来れば聞いてほしいと言うことくらいか。魔王様の命令に関すること以外なら強制ではないし、相談があれば聞くが……お前達はどうしたい?」
すっかり無言となってしまった姉妹に問いかける。どうすればいいのか計りかねているのだろう。
サイゼルの方はどうしたらいいのか分からずに動揺して目が泳いでいたり、何かを言おうとして、しかし飲み込むというのを繰り返してしまっている。
そしてハウゼルの方は、先程から何かを考え込んでいたが、
「……その、貴方の名前を聞いてもいいですか?」
「! ああ、そういえば名乗っていなかったか……レオンハルトだ」
思わず失念していたと言う風に名乗っておく。するとハウゼルは名前をきちんと聞いて頷き、
「レオンハルトさん……その、相談といいますか、お願いがあるのですが……」
「気にせず言ってみろ」
地位などを慮って遠慮する必要はない、と気を抑えることで言外にも示す。するとハウゼルは、
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて――」
と、ハウゼルは一旦間を置いて、
「……その話からすると、私達は魔王様の命令を受けたり……その……人間牧場? を運営したりして、生活していかなければならないんですよね……?」
「ああ、そうだ」
頷く。ハウゼルも改めて理解したように神妙に頷き、
「……なら暫くの間、色々と教えて貰いたいのですが……それと、出来れば部屋を間借りさせて頂けないかと」
「……ん? 教えてやるのは構わないが……部屋とは、
確認するようにレオンハルトが問いかけると、ハウゼルはしっかりと頷いた。
「はい。その、ご迷惑でなければでいいのですけど……」
「ちょ、ちょっとハウゼル……!」
その丁寧にお願いをしてくるハウゼルに、サイゼルがぎょっとした様に表情を変えて、異を挟んだ。
隣のサイゼルから呼びかけられたハウゼルは、それを聞いて、あっ、と自分のミスに気づいたかの様に訂正する。
「申し訳ありません。その、出来れば姉さんと私、二人ともお願いしたいのですが……構いませんか?」
「え、いやちょっと……」
そうじゃない、と言いたげなサイゼルにハウゼルは首を傾げる。
「? どうしたの、姉さん」
「い、いや……その……め、迷惑が掛かるでしょ! そんなの! だからそんなお願いは……」
「はい。だから、出来ればでいいのですが……どうでしょうか……?」
ハウゼルが申し訳なさそうにレオンハルトに恐る恐るお願いする。レオンハルトはそのお願いに、僅かに考え込んだが、
「…………まあ、俺は構わないが……」
と、告げるとハウゼルは顔を綻ばせた。
「! ありがとうございます! ほら、姉さんもお礼を言わないと……!」
「!? い、いや、その……」
サイゼルがハウゼルに促されながらも、何かを言おうとしてレオンハルトの顔色を窺う素振りを見せる。
そして、
「…………どうするんだ?」
「っ……わ、わかったわ。……あ、あ、ありがとう……」
「…………そうか。……それでいいのか?」
サイゼルに出したつもりの助け舟が、怯えで帰ってきたことにレオンハルトは何とも言えない気分になりつつも、最後の確認を取るようにハウゼルに声を飛ばす。するとハウゼルは微笑を浮かべ、
「はい、お願いします」
「…………」
何の含むところもなく真摯にお願いし、素直に喜んでいた。
それを見て、レオンハルトは息を吐くのを取り止め、
「……分かった。なら、部屋を用意しよう。ここで待っていてくれ。少し時間は掛かるかもだが、食事の時に一旦呼びに来る」
「はい、分かりました」
「……あ、うん……」
椅子から立ち上がると、素直に頷いたハウゼルと、何やら項垂れるサイゼルを尻目に、レオンハルトは一旦、部屋を後にした。
そして部屋を出て一言、
「……どうするか……」
突然の事態に迷うかのように、レオンハルトは暫し、歩きながら思考に没頭した。
新たな魔人の姉妹――ラ・サイゼルとラ・ハウゼル。二人の女魔人は、紅魔城の部屋の中に残されて、しばらくそこで待機することになった。
しかしレオンハルトが部屋を出て数秒経った後に、真っ先にサイゼルが声を上げる。隣のハウゼルに抗議するように、
「あ、あんた……何言い出してるのよ!?」
「? 何って……しばらくお世話になれないかお願いしてみたんだけど……ふふ、レオンハルトさんが親切で良かったですね?」
「ちっ、がーーーう! そうじゃないでしょ! あんな危なそうな奴の世話になるなんて、何考えてるのよ!」
能天気に笑うハウゼルを見て、サイゼルが怒りの声を上げる。
だがハウゼルは姉の憤りの内容を聞いて、更に頭に疑問符を浮かべた。
「危なそう? 確かに強そうな人――魔人だけど、とても良い人だったじゃない。右も左も分からない私達にあんなに丁寧に教えてくれて……そのレオンハルトさんを、危ない人呼ばわりしたら駄目じゃない、姉さん」
そして逆に、好印象といったハウゼルの発言に、サイゼルが更に、何を言っているのか分からない、と言わんばかりに声を跳ね上げさせた。
「いや、確かに色々と教えてくれたかもだけど、あんなの、腹の中じゃ何考えてるか分からないじゃない! あ、あんなヤバそうなオーラ出してたし……! あいつは絶対ヤバい! 見た目は普通の人間っぽいけど、実はとんでもない化け物よ、あれは……! 私達を騙して食べる気かもしれない……!」
「何言ってるのよ、姉さん……。レオンハルトさんはそんな危ない人じゃないと思います。それに、せっかく親切な人に会えたのだから、色々と教えて貰った方がいいでしょう? ご迷惑をお掛けするのは、心苦しいけど……」
「あ、あんた、なんでそんなにあいつの肩を持つのよ!?」
「別に肩を持ってるつもりは……そんなにおかしい? とても良い人だから仲良くした方がいいと――」
「だから良い人じゃないって言ってるのよ、馬鹿ハウゼル!」
完全に平行線のやり取りに、サイゼルが怒声を上げる。
それを聞いてハウゼルはむっとした表情を浮かべ、
「馬鹿って……確かに、まだそこまで人となりが分かるわけではないけど、同じ魔人の仲間を信じて何が悪いの? 姉さんみたいに疑いすぎるのは……正直、どうかと思いますよ」
「ッ……この……! 妹のくせに……!」
「っ……サイゼルこそ、姉ならもっとしっかりしたらどうなんですか!」
とうとうハウゼルも、サイゼルの“妹のくせに”といった発言に怒って声を荒げる。
するとサイゼルは、一瞬ビクッとしたものの、
「何よ! あんたが妹なのは事実でしょ!? なら、姉のあたしの言うことを聞くのが普通でしょうが!」
「そんなの普通じゃない! ちょっと先に生まれたからって偉そうにしないでください!」
「生意気言わないの!」
「姉さんこそ、勝手なこと言わないで!」
お互いが部屋の中で睨み合い、眉を立てる。
気がつけばお互いの瞳はそれぞれに赤と青の闘気が発生し、ゆらゆらと揺れていた。
自然とお互いの身体から圧力が漏れ出る。
それは魔人としての力であり、存在感、オーラといったものだが、それだけではない。
「いい加減にしないと怒るわよ……!」
サイゼルの周囲には、極寒の冷気が発生する。
サイゼルを中心に温度が下がっていき、空気中の水分が氷り、霜を発生させる。
そして気がつけば、その左手には、巨大な銃が握られていた。
先端が尖った巨大な白の魔法銃の名は、魔銃――“
サイゼルが身に秘める氷の魔力を収束し撃ち出し、ありとあらゆるものを凍らせてしまう凶悪な得物だ。
「もう怒ってるじゃない……!」
そして、もう片方のハウゼルの周囲には、高温の熱気が発生する。
ハウゼルを中心に温度が上がっていき、周囲の景色が歪む。急激な温度の上昇の発生源はハウゼルの炎だ。
気がつけば、その右手には、巨大な放射器が握られていた。
炎を象った様な根本の意匠と、黒の長大な放射器の名は、魔砲――“
ハウゼルが身に秘める炎の魔力を放射状に撃ち出し、ありとあらゆるものを燃やし尽くす凶悪な得物。
お互いに自然にそれぞれの得物を取り出しており、既に一触即発な雰囲気ではあった。
当人達にその気はなかったが、気がつけばお互いに言い合い、いつぶつかり合ってもおかしくない状況になってしまっている。
殆ど無意識に、距離を取り、軽く前傾姿勢になるのは、戦闘態勢に入ったと言っていいものだ。
そして、お互いがぶつかり合うのを不可避と化す直前、
「――今すぐ止めろ」
「――っ!」
「――あ……!」
部屋に戻ってきたレオンハルトが、鋭い声を飛ばして二人を牽制し、それを止めさせる。
かの魔人の声に乗せられた圧力は新米魔人である二人の戦意を抑えるのに充分な力があり、サイゼルとハウゼルはそれぞれ我に返ったように闘気を徐々に鎮めていく。
それと同時に冷気と熱気が収まっていき、レオンハルトはその室内の空気に微妙な不快感を感じつつも二人に尋ねた。
「まさかいきなり喧嘩するとは……一体何があった?」
「……別に……」
「……ごめんなさい、レオンハルトさん。少し、言い争いをしてしまって……」
サイゼルが素っ気なく言うのに対し、ハウゼルは素直に謝ってくる。
そのことに対し、サイゼルが僅かに歯噛みしたが、レオンハルトは特にそれを指摘することもなく告げた。
「……そうか。少しは大目に見ると言ったが……出来れば城の中での喧嘩は止めてくれ。俺以外の奴にも迷惑が掛かるからな」
「はい……ごめんなさい」
「……っ……分かったわよ……」
「…………なら付いてこい。食事の準備が出来たからな」
謝るハウゼルと不満そうなサイゼルにそれを告げながら部屋の扉を開ける。
しかし背後から付いてくる二人は、
「ふん……」
「…………」
お互いがお互いにそっぽを向いており、微妙な空気感になってしまっていた。
それを感じて、レオンハルトは、前途多難だな、と内心で言葉を作りながらも、とりあえずは食事で少しでも緩和出来ることを期待した。
――そして、それから少し経った食堂では、
「何これ……うっわ……」
「凄い美味しい……」
サイゼルとハウゼルの二人が、初めて口にする料理の味に感動し、舌鼓を打つ。
レオンハルトはそれを見て、試しにと、
「……気に入ったか?」
「まあ、食事は――」
「はい、とても――」
あっ、と同時に声を上げたことに言葉を止めると、
「……ふん……まぁまぁね……」
「……はい、とても美味しいです」
「……そうか。まあ、好きなだけ食べてくれ」
そして再度、一応は言葉を返してくれたが、再び微妙な空気感を発生させたのを見て、レオンハルトは何とも言えない気分のまま食事を摂った。
二人の姉妹間のやり取りが下手くそであろうことを理解し、これからのことを憂うレオンハルトだが、ラ・サイゼル、ラ・ハウゼルという新たな魔人の誕生を、一応は喜ぶことにした。
次回も、つんつんしてて妹コンプのぽんこつお姉ちゃんと、天然で優しいけど真面目すぎるぽんこつ妹のお話です