というわけで本編どうぞ
魔王ジルの居城である魔王城の室内では、もはやこの四百年あまり、日常となった光景が広がっていた。
「んっ♡ んっ……っ♡ あくっ♡ んくっ♡ くく、気持ちいい、か……?」
「っ……はい……」
薄暗い部屋の中。ベッドの上で、肌を重ねる男女の姿がある。
「あぁっ♡ くっ♡ んっ♡ な、なら……もっと、っ、腰を、振れ……♡」
柔らかいベッドに身体をうつ伏せにし、頭を下にして、その頭よりも尻を高く上げて命令し、喜悦に満ちた快感の喘ぎを漏らすのは、魔王ジル。
「分かりました……!」
そしてその後ろに周り、そのジルの細い腰を両手で掴み、快感に耐えながらも美尻に腰を押し付けて強く揺らしているのは、魔人レオンハルト。
休日に呼び出された魔人筆頭である男は、誰もが羨むような絶世の美女を抱き、その命令を受けて剣を用いるため、腰を振って快感を感じながらも、内心では溜息をつきたい気分となっている。
……色んな意味で、慣れてしまったな……。
この光景、この状況は、レオンハルトにとってほぼ日常に近いものであった。
ジルは気が向いたら直ぐにこうやってレオンハルトを襲うため、レオンハルトとしても“慣れ”が来るのは必然だった。
「あっ♡ くふっ♡ 今、中で大きく……なって……♡ っ、震えたぞ? はぁ、ん……♡」
しかし、快感が相変わらず強いことには変わりない。
変わりないが、我慢の仕方や、勝手が分かってきたと言うべきか。
一体どのようにすればジルが満足し、己に与えられる強すぎる快感を制御し、どのように心や感情の調整を行うかが分かってきている。
ジルの命令や指示には基本的に、やり過ぎるくらいに従っており、その際には素の感情を出来る限り殺し、仕事という意識の元で行う。
女に抱く情欲を一定で差し止めながら、己の性感も殺さずに保ち続ける。
行為には精神的な要素が重要であり、充足感などの満たされるような気分や、一定の興奮、情欲が無いと、性感はあまり感じずに、萎えることになるのが常だが、その点、ジルの美貌はそこに関しては考える必要がなく、便利であった。
「レオン、ハルトっ……♡ もっと、強く、ひゃっ♡ 強く、貪れ……っ♡ 敬語、も……んっ……やめ、ろ……」
新たな命令であり、いつものお決まりの命令を受けて、レオンハルトは仕事としてきちんと主のオーダーに応える。
「……分かった……いくぞ、ジル……!」
「~~~っ、んんんっ♡」
ジルの腰を強引に掴んで引き寄せ、顔を近づけて耳元で囁いてやるように名前を呟くと、ジルの身体がビクンッと震える。
「っ、はぁん……♡ ほ、らぁ……早く、突け……っ♡」
「っ……ああ……分かっている……」
ジルが入れられたまま、左右に尻をふりふりと動かす。
その後ろから見る、ジルの艶めかしい背中から腰のラインが、弓なりに反らされたことで強調され、そのスベスベ肌と、もっちりした丸い臀部の柔らかさが、すりすりとこちらの下腹部に押し付けられている。
自身の剣が埋まっているそこは、握られているかのように強く締め付けており、きゅうきゅうと蠢いている。
ベッドの間で潰れ、横から見える美巨乳が揺れる様や、蕩けて性欲を味わうことを望んでいるジルの表情。
蠱惑的に男を拘束し、萎えることを許さないといった様なジルに美貌は、レオンハルトにとっては都合の良いものだ。
何しろ――心を防御しながらも、魔王の命令に応えるために、身体は反応させることが出来るのだから。
「あぁ、あぁあああああっ♡」
「っ、っ……!」
ジルの命令通りに、レオンハルトは強く剣を突きこんで満足させてやろうと試みる。
並の男なら頭を性欲に支配され、だらしなく涎を垂らし、この雌を自分のものにしてやろうと表情を歪めながらも、しかし呆気なく敗北してしまうほどの淫らな光景、自分の状況に、しかしレオンハルトは眉間に皺を寄せ、息を漏らすだけに留めた。
こちらの剣を敗北させようとしてくる様々な攻撃に、しかし剣は、より一層肥大化して、その攻撃を跳ね飛ばす。
ジルの耐久力はかなり高く、満足させるためにはかなりの手練手管が要求されるが、レオンハルトも1500年以上の経験を持つ男である。
その技術に関しては並の男が束になっても太刀打ち出来ないほど。
まさに王の剣だ。たかだが数百年如きの経験で勝てるものかと、レオンハルトは剣を振るう。
それに、さっさと相手を敗北させ、満足させなければ、レオンハルトは休日がこれだけで消費されて台無しになってしまう。やりたいこともやるべきこともいっぱいあるのだ。
それは自分の趣味や修行であったり、身内との交流であったり。
特に最近はハウゼルが読書に誘ってきたり、サイゼルが攻撃させろと行ってきたりで、レオンハルトとしても少し新鮮な交流を楽しんではいる。
色々と不安な二人だが、今のところはよくやってくれているようで良かった。
しかし、二人の間の空気に関しては、微妙なものが続いていたりするので、長く空けていると不安になってくる。
……大丈夫か……? 喧嘩していなければいいが……。
なので、出来れば早く戻りたいと、レオンハルトは二人の女魔人の事を憂いながら、ジルへの突き込みを激しくした。
紅魔城の廊下の中央で、二人の姉妹は対峙していた。
その妹の方――ラ・ハウゼルは、姉のラ・サイゼルが告げた言葉の意味がよく分からず、唖然と表情を固まらせてしまう。
その言葉の内容を理解しようとして……出来ない。
今しがた、自分の予定を口にしたばかりだったし、そもそも姉のサイゼルはレオンハルトの事を嫌っており、避けているはずだ。
自分にも、何度も近づかないようにと口うるさく言っていたのだ。
「……どういう意味なの? 姉さん」
だからどういう事なのだと、ハウゼルは一度冷静に言葉を返す。
しかしサイゼルはそれを聞いて、堂々と胸を張って頷き、
「そのままの意味よ。今日は、あたしが……レオンハルトと――レオンハルトに、付き合ってあげる日なの」
一度言い直しながらも、サイゼルはハウゼルにはっきりと告げる。
「だから今日は駄目よ」
今日は自分の時間なのだと、そう告げてきたのだ。
そしてハウゼルはその言葉に、少なからず驚きを覚えた。
「……ね、姉さんはレオンハルトさんのこと、嫌いなんじゃないの? それに、付き合ってあげるって……」
「べ、別にそれは……ど、どっちでもいいでしょ。付き合ってあげるっていうのは……まあ、ちょっとした模擬戦みたいなものよ!」
「模擬戦……それって、もしかして前から……」
「……そうよ。だから、今日はあんたは我慢しなさい。今日は……姉のあたしが……レオンハルトに付き合ってやる日なんだから」
「……ッ……そんなの……」
妹だから我慢しろ、とそう言われ、ハウゼルは理不尽なものを感じてしまう。
しかも、実は前々からレオンハルトとこっそりと仲良くしていたと聞いて、何故かハウゼルは姉に対して憤りや不満の様なものを感じてしまうのだ。
「そんなの……関係ないでしょう! レオンハルトさんの予定は、まだ別に決まってはないじゃないですか! それをどうして、姉さんが勝手に決めるんですか!?」
「私の方が姉なんだから、姉を優先するのは当然でしょ!」
「だからそんなの関係ない!」
気がつけば、お互いに段々と声を大きくしてしまっていた。
しかしそれを慮る余裕はなく、相手しか見えていない二人は眉を立て、声を荒げる。
「大体、あれだけ私に近づくなって言ってた姉さんが、何でレオンハルトさんと仲良くしてるんですか!?」
「べ……別にそれはいいでしょ! 仲良くしてるわけじゃないし……ちょっと付き合ってあげてるだけよ!」
「それならレオンハルトさんに誘われないと駄目じゃないですか! 姉さんは今日、誘われでもしたんですか!?」
「っ……誘われてないけど、今日はそう決まってるの! 関係ないんだから口出ししてこないでよ馬鹿ハウゼル!」
「っ……サイゼルの方が馬鹿じゃないですか!」
「い、妹なんだからちゃんと姉さんって呼びなさいよ! 馬鹿妹!」
「口を開けば馬鹿馬鹿馬鹿って……馬鹿って言う方が馬鹿なんですよ!」
「あー! じゃあ今ハウゼルも馬鹿って言ったし、あたしよりも多く言ったから大馬鹿よ! バーカ!」
「こ、子供みたいなこと言わないでください!」
――と、二人は売り言葉に買い言葉。会話の内容はレベルの低いものであったが、徐々にその身体から闘気を立ち昇らせ、低く身構える。
お互いの手には既にそれぞれ得物が握られており、今まさに激突しようとしていた。
「ハウゼル……!」
「サイゼル……!」
互いが互いを、敵意の乗った強い視線で射抜く。
いつもであれば、二人の喧嘩の原因であるレオンハルトが、それとなく先に止めるのだが、そのレオンハルトは魔王城に行っており、この場にはいない。
故に次の瞬間に映る光景は、二人の激突に他ならなかった。
「――ッ!」
「――ッ!」
二人の魔人は、ほぼ同時に動いた。
宙へと羽ばたき、自らが戦う場所に適した場所に自然と移動する。
二つの影は、空いた窓に飛び込んでいくような軌道で、空へと羽ばたいた。
上昇する動きが生じ、同時にお互いは得物の照準を相手へと向ける。
「こうなったら……力づくで決めるから……!」
と、告げるのは、自らの得物、“氷結の女神”を用いて、周囲を凍てつかせるレーザーを放つサイゼル。
「ええ、望むところです……!」
同意し、同じ様に得物を掲げて引き金を引いたのはハウゼル。
“燃える塔”の砲口から、放射状に放たれる超高温の炎は、サイゼルのレーザーに対する盾でありながら、優秀な攻撃範囲を持ち、サイゼルへと迫っていく。
「姉の方が強いに決まってるでしょ……!」
拡散する炎の塊を放つハウゼルの攻撃に対し、不利にも見えるサイゼルのレーザーだが、その極低温のレーザーはハウゼルの炎よりも高速の攻撃であり、一点集中された細い攻撃でもあるためか、放射状に放たれるハウゼルの炎の合間を抜けようと宙を行く。
「……! いつもサボってる姉さんなんかには負けません……!」
故にハウゼルも油断は出来ない。飛び回り、射撃を行ってくるサイゼルから防御重視で炎を壁になるように発射しながらも、攻撃の事を考えてサイゼルの方に身体を向けていく。
逆にサイゼルは攻撃重視であり、それには彼女が攻撃を好むという単純な理由もあるものの、優秀な妹を倒すことに躍起になっているためか、積極的に攻撃を仕掛けていく。
魔人になって日も浅いが、それでもレオンハルトの特訓に付き合い、攻撃を仕掛けてきた経験は無駄ではない。
ハウゼルはまだ、自分の力をどのように使うかについては手探りな部分があり、殆ど本能と勘で動き、
「これなら……どうですか……!」
「っ……このくらいなんてこともない……!」
そしてそれの結果から齎される経験を学習しながら戦っていた。
学習能力が高いハウゼルは、サイゼルの宙を飛び回りながら射撃する動きを見て、徐々にその動きを学び、動きが良くなっていく。
しかしそれが、サイゼルにとっては不満だった。
――妹に負けるのか、と。
もっと圧倒的に勝てると思っていたサイゼルは、自分と互角の戦いを演じるハウゼルへの嫉妬や自分への劣等感などのを感じる。
「こ、のおおおおおおお!」
妹に対するコンプレックスが刺激され、サイゼルが叫びながら引き金を引きまくる。
それを原動力に、サイゼルは攻撃の激しさを増し、ハウゼルも姉の勝手な行動や言い分に怒り、炎の勢いを激しくしていく。
――レオンハルトさんの行動まで勝手に……!
と、内心では不満と憤り、そして自分には近づくなと言っておいて、自分は仲良くしてることに対して、
魔人姉妹の姉妹喧嘩は、紅魔城中庭の上空でその動きと音の激しさを増していた。
昼過ぎ頃。
ジルの私室から出てきたレオンハルトは、大きく溜息を吐いて早速、帰路についた。
……今日は、早めに終われたな。
と、内心で勤めの感想を呟き、同時にそれが終わったことでようやく休日に到れるという軽い解放感を得る。
あれだけやれば、今日はもう呼び出しはないだろう。あるとしても起きてしばらくしてから。明日くらいになるはずだ。
ならば今からは本当の休日。もはや何をやっても問題ない休日だ。
……どうするかな。修行もしておきたいし、白兎とも過ごしたい。他の奴らからの誘いがあるかもしれないし、白兎とも過ごしたい。悩ましいところだ……。
故に、レオンハルトはようやく休日についての予定を悩ませる。
休日であってもやることが多いため、レオンハルトはある意味で休日でも忙しい。
何しろ自分の時間だけではなく、周囲の者から誘われることもあるためだ。
使徒との時間、キャロルと将棋したり、ハンティと戦ったり、ペールとエロしたり、リーと酒を飲んだり。
他にも魔人、ガルティアと食事だったり、ケッセルリンクとお茶会やデートをしたり。最近だとジークからも交流を深めないかとお誘いがあったりする。
それ以外にも城に住む者達との時間。特に、娘の白兎との時間は癒やしでしかないため、身内との用事に連れて行ったりすることも多い。
友人との時間が、とかで断られることも最近は多いが、そういう時はしょうがないものの、悲しくてしょうがない。むせび泣きたくなる。
……あの二人もいるしな。
魔人、ラ・サイゼルとラ・ハウゼル。二人の姉妹だって城にいる。
最初、城でお世話になりたいと言ってきて、しかも新人教育が終わってからも城に住みたいと言われた時は、真顔になったし、何故だ……、と内心で強い疑問を抱きもした。
しかし悩んだ末に、二人なら問題ないだろうと許可を出したのだが、一応は大きな問題は起こらずに何よりといったところだ。
読書に嵌ってくれて明るくなったハウゼルや、暴れられるようになってストレスが発散出来るようになったサイゼルなど、レオンハルトとしては勧めた甲斐があるというもの。
あの本を読まれたり、強引に誘ってくるのは少し困るが、それも苦笑程度で済ませられるものだ。本気で嫌というほどでもない。
どうせなら、二人を誘って以前みたいに出かけるのも悪くはないかもな、とレオンハルトは休日にやれることを思い浮かべる。
二人の仲をどうにか良く出来れば良いとは思うし、二人を誘ってどうにかしてやるのも今後のことを考えれば良い時間になるかもしれない。
その分の気苦労はありそうだが、それくらいなら今更だ。引き受けた時にある程度は覚悟しているものである。
……少し、誘ってみるか。
少し思考してみて、やってみる価値はある良さげな案だと判断したレオンハルトは、帰ったら二人を探して提案してみるかと、帰ってからの行動を決める。
仮ではあるが、そういう休日も悪くはないと、レオンハルトは城から外に出たところで、
「――レオンハルト様!」
「! キャロル。どうかしたのか?」
と、不意の声が正面から飛んできて、レオンハルトは即座に言葉を返した。
今日はキャロルも城に待機していたはずだが、そこから走ってきたのだろうかと胸を撫で下ろしているキャロルを見て、目を細める。
ひょっとして、何か不測の事態でもあったのか、と思うも、表情を見る限り、切羽詰まっているという様子ではなく、単純に報告にやってきたという感じだ。
なのでこちらも落ち着いた気持ちでキャロルの言葉を待っていると、キャロルは“はいっ!”と元気よく頷き、こう口にした。
「サイゼル様とハウゼル様が喧嘩しましたの!」
「…………何?」
マジ? と言いたげな表情を自分で浮かべてしまい、キャロルから“マジですの“と言いたげな表情が返ってくる。
そして続けて、
「それで色々あった結果、サイゼル様がどこかに行ってしまいましたわ! 家出っぽい感じで!」
「……………………そうか」
急に言われた言葉を自分の中で噛み砕き、そして大きくため息をつく。
詳細は分からないが、めちゃくちゃ深刻そうな話ではないが、かといって放置出来るほど軽い話でもなかった。
故にレオンハルトは思う。
……今日は、休日返上だな……。
憂鬱な気持ちを感じて、レオンハルトはとりあえず、キャロルの口から詳細を聞いてみることにした。
次回は姉妹喧嘩の結果と、サイゼル捜索とその結果かな。次回か次次回かで一旦姉妹の話を終えて、500年に進もうかなって