――魔王城。
新しく魔人となったアイゼルの教育は、レオンハルトの予想した通り、特に問題なく終わった。
伝えるべきことを伝え終わったレオンハルトは、普段どおりの業務に戻ろうと、使徒達とともに仕事を行おうとした――そんな時だ。
「失礼。レオンハルト様、少々お時間よろしいでしょうか?」
「む……アイゼルか。どうした?」
使徒を引き連れて魔王城の廊下を歩いていると、アイゼルがふと声を掛けてきた。
その背に、三体の人影を連れてだ。しかしそちらにはまず触れずに、レオンハルトはアイゼルの用件を問うと、アイゼルは真面目な表情で先を口にした。
「……例の件についてご相談が……それと、私も使徒を作りましたので、ご紹介させて頂ければな、と」
「ああ……なるほど。構わないが、それなら先にその使徒達を紹介するといい」
例の件、と言われて一瞬渋い顔になりそうになったがそれを差し止め、得心したように頷き先を促す。
視線は、アイゼルの背後で緊張しているのか、身を固くしている三体の少女に向ける。
だがこちらが視線を向けると、その少女たちはビクッと明らかに怯えるような反応を返してきた。
それを知ってか知らずか、アイゼルは余裕のある笑みを浮かべて頷く。
「ええ、では……ガーネット、サファイア、トパーズ。レオンハルト様に挨拶をなさい」
「うん――じゃなかった、はい! わかったよアイゼル様!」
「シュアー……分かりました、アイゼル様」
「あっ、あっ、は、はいアイゼル様。ご挨拶します……」
アイゼルの背後にいた使徒達が、主に促されて前に出てくる。
まず一番最初に挨拶を行ったのは、赤いストレートの髪に、赤い宝石を宙に浮かせた普通サイズの胸の少女だ。
「すぅーはぁ――……初めまして、レオンハルト様! ぼくはアイゼル様の使徒、ガーネットって言います! その、よろしくおねがいしますっ!」
「……ふーん……?」
と、快活そうな印象の赤い娘はガーネットと名乗った。
緊張はしている様子だが、主の命に従って、元気よく挨拶を行ってきたので、レオンハルトは、ああ、と頷いてみせる。背後にいるハンティが小さく声を漏らし、品定めをするように目を細めたが、あまり脅かすのは止めた方がいいと思う。人の事は言えないが。
そして続いて、二番目に挨拶を行ったのは、やはり青い宝石を宙に浮かせ、特徴的なイントネーションで喋る、青い長めの髪を後ろで二つ結びにした胸の大きい少女だ。
「アイゼル様のエターナルドール……使徒の一人、サファイアと言います。よろしくお願いします、レオンハルト様」
「へぇ、中々良いものを持ってますねぇ……?」
と、やはり全体的に喋り方が特徴的な青い娘がサファイアと名乗る。
こちらは上手く態度を隠せている。一番理性的な性格なのかもしれないな、と内心で分析しながらレオンハルトが頷く。背後のペールがそのサファイアの胸部を見て、良いものを持っていると寸評を行うが、自分よりは小さいと勝ち誇っている。あの格好だと目に入るのは分かるが、初対面でまじまじとそこを観察するのはどうかと思う。
そして最後に前に出てきて挨拶を行ったのは、黄色い宝石を低めに浮かせ、黄色の髪に長めのツインテールの胸の小さな少女だ。
「あっ、そ、その……あっ、よろしくお願いします、れ、レオンハルト様……アイゼル様の第一使徒、トパーズって言います……」
「! レオンハルト様レオンハルト様、わたくしとお揃いですわ……!」
と、どこか陰気な雰囲気を漂わせている黄色い娘はトパーズと名乗り終えた。
何やらこちらの顔色を窺っている様子であり、卑屈染みた笑みを浮かべているが、さり気なく第一使徒ですというアピールをかましてきてる辺り、腹黒で悪巧みが好きだったりするのかもしれない。
そして案の定、その発言に対し、ガーネットとサファイアが横目で軽く睨み、それを受けたトパーズは、にひひ、と笑みを浮かべる。
どうでもいいが、キャロルがトパーズを見て、お揃いだと目を輝かせているのは意味がよく分からないが、髪型の事だろうか。確かに、同じ金髪ツインテールだが、細部は色々と違う様に見えるが、と、
「……もう三体も使徒を作ったのか」
「ええ、まあ。私も、貴方や他の魔人が羨ましく思ったものですから」
「……そうか。使徒の作りすぎは魔人としての力が僅かに落ちる。注意しろ」
「心得ていますよ」
涼しげにアイゼルは答えたが、そこで一度、再び何かを憂うような表情に戻ると、
「……では、少しご相談を……そうですね、そこの空いてる部屋などは如何でしょう?」
暗に、他の誰かや使徒達にも聞かれたくない話だと告げるようなアイゼルの提案に、レオンハルトは頷く。
「構わない。なら、お前達はここで待っていろ」
「畏まりましたわ!」
と、代表するようにキャロルが元気よく頷くと、レオンハルトの他の使徒達も頷く。
そしてアイゼルの方も使徒達に顔を向け、
「貴方達も、ここで待っていなさい。話し相手もいるようですし、退屈はしないでしょう」
「はい!」
「了解しました」
「あっ、はい、分かりました、アイゼル様……」
三体の使徒がそれぞれ頷くと、レオンハルトとアイゼルは近くの部屋へと入室した。
そして二人だけとなったところで告げるのは、
「随分と慕われているようだな。人間か?」
「まあ……そうですね。少々見どころのありそうな人間を選んでみました」
「……そうか。てっきり、容姿で選んだのかとも思ったが」
「その要素もゼロではありませんが……ええ、まあ、最初はどうなるかと思いましたが、中々に可愛く思っていますよ」
美しさを重視し、美しいものが好きなアイゼルの三体の使徒。
使徒達は人間ということは、大なり小なり、アイゼルに救われたのだろう。あの様子だと命を救われていてもおかしくないし、そもそもアイゼルの容姿だと、女性ならあっさり惚れてもおかしくない。
アイゼルの方も、自分の血を分けた相手をそれなりに好ましく思っている様だし、関係性は良いようだ。
レオンハルトの目から見ても、中々に良い使徒だとは思うが、
「…………」
「……レオンハルト様。貴方程の魔人にあまり強く視線を向けられると、若輩者の私としては少し辛いものがありますので、少しばかりご容赦を……」
「……ああ、悪いな」
思わず強めに視線を向けてしまったので、僅かにそれを弱める。
というのも、ある疑問が湧いてきたからだ。それは、あのガーネット、サファイア、トパーズの服装の事で、
……何で、胸のところが丸出しなんだ……?
三体とも、胸の部分が丸出しの衣装を着ており、上半身の胸の部分から腰の部分までが全部見えてしまっているのだ。
なので心の中で胸の寸評をしたのは、特におかしなことではない。痴女な方が悪いのだ。
……アイゼルの趣味か?
だとしたら爽やかな顔をしてとんでもないド変態だが、さすがにそれを面として聞くことは、レオンハルトには出来なかった。
「――なんで胸丸出しの服を着ていますの?」
と、素朴な疑問を、キャロルは口にした。
魔王城の廊下では、レオンハルトとアイゼルの使徒達がその場に集まっており、何となく窺うような視線を向けていたアイゼルの使徒に、挨拶の後に遠慮なく第一声を仕掛けたのはキャロルの方だった。
続いてペールやハンティも、
「変に全裸とかより痴女感増しますねぇ。アイゼル様のご趣味ですか?」
「……ペールに言われるとか、もうよっぽどだよねぇ……」
「とはいえ、使徒の服装は使徒化の際に自然と定められるものであり、主に最初に与えられた使徒の誇りとも言えます。あまり小馬鹿にするのはよろしくないかと……」
と、リーが真面目にそう発言すると、三体の使徒は抗議の声を上げた。
「そうだよ! ぼくはアイゼル様から貰ったこの服、気に入ってるんだから! 変に言わないでよっ!」
「これはアイゼル様が私達にくれた、オーダーメイドのファッション。このセンスは誰にもコピーできない」
「そ、それに、そっちだって男はともかく、他は全員レオタード着てるじゃん。そっちの方がなんか……」
トパーズがリーを除いた三体の女使徒の格好を見てそう言うと、キャロルが自慢気に胸を反らして、
「ふふん、レオンハルト様の高尚なセンスの賜物ですわ! ところでトパーズ、と言いましたわね。あなた、中々にいい髪型をしていますわね! わたくしとお揃いですわ!」
「は、はぁ……? べ、別に、ただのツインテールが被ってるだけじゃん」
「ハッ……もしかしてわたくしの妹とか、もしくは親戚ですの?」
「……ば、馬鹿じゃないの……?」
トパーズが小声で悪態をつく。まだ身内以外に面と向かって文句を言うことは出来ないようだ。
「というわけで、貴方も、この魔物界一の完璧使徒の後輩として特に可愛がって差し上げますわ! 分からないことがあれば何でも聞くといいですの!」
「うげ……変なのに目をつけられた……」
しかしキャロルの方はトパーズを気に入ってしまったようで、トパーズのげんなりした表情を無視して後ろから抱き抱えている。
それを苦笑いで見ながら、ペールが、
「それにしても……なんのお話をしているんでしょうねぇ?」
「ぶっちゃけ、どうでもいいけど……早く終わんないかねぇ」
ハンティがペールとともに部屋の方を見て興味無さそうに呟く。それをリーが、
「あまり詮索するのはよろしくないかと」
「でも気になりますよね? レオンハルト様とアイゼル様、ちょっと似てるところがありますし」
「あ、それぼくも思った!」
と、今度は快活そうなガーネットが話に入ってきた。二体の魔人を思い浮かべながら、
「見た目は結構似てるよね。まあ、アイゼル様の方がかっこいいけど」
「ふふ、黄金のヘアーに、赤いアイ……ですが、アイゼル様の方が僅かに勝っています」
サファイアまでもが得意気にそう言い張ると、聞き捨てならないとばかりにペールと、トパーズを抱えているキャロルが声を上げた。
「……はい? 何を言ってるんですか? レオンハルト様の方がどう見ても格好いいですよう?」
「レオンハルト様のは魔物界どころか世界一の格好良さですわ!」
二人はレオンハルトの方が格好いいと主張する。するとガーネットやサファイア、トパーズが、
「ふふん、知らないの? アイゼル様は魔人一の美形だって最近噂されてるんだよ?」
「それに、確かにレオンハルト様の容姿もビューティフルですが、レオンハルト様はアイが鋭くて少々怖いです……」
「ほんとそれ……なんか威圧的で怖いから……ふふ、うふふふ、やっぱり、アイゼル様の方が優しくて素敵……」
レオンハルトの方は、目が鋭くて威圧的だし、アイゼルの方が優しいから勝っていると主張するが、
「はぁ? 分かってないですねぇ、あの目がいいんじゃないですか。それにアイゼル様の方は少し頼り無さそうですよう。レオンハルト様の方が男らしくて強くて格好いいですよねぇ」
「レオンハルト様の魅力は天井知らずですわ!」
「死ぬほどどうでもいい話題なんだけど……まあ、強いのはレオンハルトだよねぇ。アイゼルは洗脳は厄介だけどあんまり強く無さそうだし。でもやるなら――」
「ハンティ様……話の転換があまりにも強引過ぎますし、その話題は女性としてあまりにも……」
女子トークにどうでも良さそうな表情を浮かべていたハンティだが、頭の中でアイゼルの強さを想像しながらニヤリと笑みを浮かべたので、リーがさり気なく止めに入る。
女子の中に中年の親父が一人ということで、リーは特に言葉を発することなく空気に徹していたが、こういう暴走は止めに入らざるを得ない。
まあ心の中では、レオンハルトこそが至高であり、他の魔人などその足元にも及ばないと考えているが、その、他の魔人の使徒を慮って、特に口出しすることはない。
心を落ち着かせるために剣王伝でも読んでいようかとリーが思っていると、そのどちらがイケメンかという論争は激しくなり、
「だって、普通に見かけたら怖いでしょっ! その点、アイゼル様はその怖さもないよ!」
「でも何だか怪しい感じがしますよね? 実際、洗脳なんて力持ってますし」
「アイゼル様の方が身長が高くて、ビューティフルです……!」
「高ければいいってものじゃないですよう? 高いだけならもっと他にもいますし……それに、もしレオンハルト様とアイゼル様が戦ったらレオンハルト様が勝ちますし、男は強い方が素敵ですよね? 他の多くの部分でもレオンハルト様の方が勝ってますよう?」
「まあ単純な多数決でも4対3ですし、魔軍で投票を取ってもレオンハルト様の勝ちですわ。こちらの派閥の方が数は多いですし、そもそもレオンハルト様の名声は大陸中で知るところですのよ!」
「ぐ、ぐぬぬ……強さや数でマウント取ってくるなんて卑怯……!」
「……そんなことより、強いモンスターの話とか……」
「ハンティ様……だから流石にそれはどうかと思います……」
どちらかと言うとペールの口の上手さや勝っている部分が大きいという理由でレオンハルト側が優勢な様だが、それでもアイゼルの使徒達は引き下がらない。
「ぐ……こうなったら、勝負――」
「あ、勝負するんだったらあたしが出るよ」
「――するのは止めておいたほうがいいよねっ!」
「お、オフコース!」
「そ、そそそれは勘弁……」
ハンティが勝負と聞いてようやく興味を湧かせたが、それを聞いた瞬間、勝負と言いかけたガーネットがそれを慌てて取り下げ、サファイアやトパーズも慌てたように拒否した。
「ちぇっ……せっかく、暴れられると思ったのにさ」
「止めて下さい。被害が馬鹿になりません……」
実は街や建物なんかの修復を担当しているリーが、冷や汗をかきながらやめてくれと頼み込む。
建物の建築や増築、遠征の際の拠点や陣地の構築はリーが得意とする仕事だが、あまり戦闘で荒らされると困るのだ。
とはいえ、アイゼルの使徒達も力の差は弁えている様で、直ぐに拒否した。流石に使徒最強と名高いハンティに勝負を挑むのは自殺行為に等しいだろうと。
だが、そうしていると、
「――お前ら、少し静かにしろ」
「っ、申し訳ありません、レオンハルト様……」
「ご、ごめんなさい……」
部屋の中から、レオンハルトが出てきて騒ぎ立てる使徒達を注意する。
その注意を受けて、アイゼルの使徒達もバツが悪そうに謝ったが、レオンハルトの方はそのアイゼルの使徒の方を見て、
「それと、誰か一人、部屋に入ってこい」
「え、あ、あの……それは……?」
「アイゼルの命令でもある。お前達使徒の中から一人、あることに協力して貰うから部屋に入ってこいとな」
それを告げられると、アイゼルの使徒達の眼の色が変わった。
そして全員が、
「じゃあぼくが――」
「私が適任で――」
「うふふふ、アイゼル様の第一使徒である私が――」
「…………」
と、同時に声を張り上げ、同時にそれに気づいた。
そこで彼女達はお互いに目を合わせ、牽制するように目を向けたところで、
「――ジャンケンポン!」
「ポン!」
「ポン!」
同時にじゃんけんを行い、代表者を決めた。
その勝者は――
「……決まったようだな。なら、付いてこい」
「ふふん、畏まりました」
「ぐっ、サファイア……!」
「ぐぬぬぬぬ……! なんで私じゃないの……!」
ガーネットとトパーズが悔しそうに歯噛みし、サファイアが得意気に付いてくる。
そうして部屋の中に入っていくレオンハルトとサファイアを見て、ペールが首を傾げて呟いた。
「何をするんでしょうね?」
「さあ……とにかく、早く終わってくれないかな」
ハンティが興味なさげに答え、使徒達は再び適当な雑談に興じた。
「貴方が来ましたか……サファイア」
「はい、アイゼル様。このサファイアが、アイゼル様のオーダーをパーフェクトに遂行してみせます!」
部屋の中でベッドに腰掛けていたアイゼルはサファイアが来たのを見て、何とも言えない様な表情で頷いた。
いつもと同じに見えるが、どこか疲れているような悩んでいるような表情を浮かべており、サファイアを心配させる。
だがそれを取り除くのが使徒である自分の役目だと、サファイアは心得ていた。
だからこそ、どんな命令が来ようとも問題ないとそれを待つ。
だが、先に声を掛けたのはレオンハルトの方だった。言い辛そうにするアイゼルの代わりに、
「お前を呼んだのは――アイゼルの“練習”の為だ」
「プラクティス……? 練習、ですか……?」
ああ、とレオンハルトは頷き、ベッドの脇に立って、厳しい目つきでアイゼルとサファイアを見る。
そしてその用件をとうとう告げた。
「――――
「…………ワッツ?」
サファイアはそれを聞いて固まり――そして疑問符を頭に浮かべた。
だがアイゼルはそれを聞いても何も言わないし、レオンハルトは息を吐きながら続きを口にするだけだ。
「そして俺は……遺憾ながら、その教師役だ」
「…………ホワイ?」
またしても疑問の声を漏らしてしまう。
性行為、セックス。つまりはそういうことだ。
強く慕っているアイゼルとのそれはサファイアとしても好ましいものだが、それを教師役としてその場に居合わせるレオンハルトは一体どういうアレなのか、よく分からない。
だが主であるアイゼルは拒否しようとしない。何故なら、
「サファイア。これは、私にとって必要な事なのです……申し訳ありませんが、練習を受け入れてくれませんか?」
「! そんな、謝罪はよして下さいアイゼル様! 私は、どのようなオーダーでも受け入れます……!」
まさかのアイゼルからの謝罪に、サファイアはそれを必死になって止める。使徒として命令を躊躇し、主に謝らせながらお願いされるなど、恥もいいところだ。
だからそれを受け入れると強く覚悟を示すと、アイゼルは頷き、
「……そうですか。その覚悟、感謝しますよ」
「は、はい……!」
サファイアも頷く。そのタイミングで、レオンハルトも頷き、
「……悪いが――ジル様の命令でな。俺はこれから横についてアドバイスをさせて貰う」
「魔王様の……」
魔王の命令と聞いて、サファイアの身が固くなる。見ればアイゼルは顔を青くしているし、レオンハルトの方は、何故こんなことを……とばかりに頭を抱えている。
それはつまり、
「アイゼルが……その……なんだ、あまりにも下手すぎるとジル様がお冠でな……平均的だとは思うんだが……俺が教育することになった」
「……え、あっ……」
サファイアがその言葉でとうとう意味を察する。
つまりアイゼルは、魔王ジルに戯れで犯され――
言葉を選んでいるレオンハルトや、先程から表情が固い様子のアイゼルを見ると、これもジルの命令であり、望んでいないことであることが分かる。
「また呼ばれるかどうかは微妙なところだが……気が向いた時に呼ぶかもしれないから念のために鍛えておけとな……俺に教わるように命令されたそうだ」
「……そういうことです」
「な、なる、ほど……」
色んな意味で何とも言えない話だ。
アイゼルが恐れている様に見えることは、サファイアにとっても憂うべきことだが、魔王に逆らうことは出来ない。
つまり、出来ることは本当に限られているのだ。
それこそ、命令通りに行うため、自分も協力するくらいのことしか出来ないのだと、
「……というわけで、第一回の講習を始めたいと思うが……準備はいいか?」
「……ええ、お願いします」
「わ、分かりました……」
レオンハルトは勿論、アイゼルも気乗りしていない様子で、その夜の講習は始まった。
当てつけに選ばれたアイゼル君。ジル様の作戦があまりにも微妙というか倒錯としてる……