※この作品はR-18です。

魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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選択肢

 ――大陸のとある場所。

 

 荒野の中心。そこに転がっているのは、その多くが黒焦げとなった人の群れだった。

 

「……チッ、つまんねェな」

 

 それを成した魔人レイは、身体から放出した雷撃を抑えると、服のポケットからタハコを取り出しながらその場から離れていく。

 吐き捨てた言葉は地面に転がる人間らに向けたものだが、答える者は誰もいない。魔物討伐隊であった彼らは皆一様に、強大な力で殴られ、あるいは雷撃に撃ち抜かれ、絶命していた。

 

「有名な魔物討伐隊だと息巻いてやがったが……こんなモノかよ」

 

 この分だと、レオンハルトが狙ってるという冒険者も期待出来るかは微妙なところであった。

 レイとしては暴れられて、なおかつ歯ごたえのある奴ならそれでいいし、そうでなくともレオンハルトの獲物を先に狩るのは気分的に悪くないものだ。

 だからこそ、こうやって人間を狩りまくっているわけであり、既にそれなりの数を相手にして、それをぶっ潰した。

 その最中に人里も見つけることが出来たので、そこでも暴れてみたが結局は雑魚ばかり。レイの期待値に届く者はいない。

 

「無駄足になるか……?」

 

 気まぐれでやり始めたことだが、ハズレを掴まされた様な気分だ。割に合わない。

 とはいえここまで来たのだから少しは収穫を得てから帰りたいというのも当然の思いだ。

 ……次は――あっちの方に行ってみるか。

 何となく向かったのは北の方角。この場所よりは緑に溢れている場所であり、森なども多い土地だ。

 そこに行って何か適当に暴れることが出来れば、終わりにしよう。そう心で決めたレイは、ずかずかと無遠慮な歩みで屍の山を後にした。

 

 

 

 

 

 森林地帯。そこにある人里を木の上から遠目に眺めるのは、長身の美青年だ。

 彼はただ一人、そこに立っている様子ではあるが、それは報告を待っているだけに過ぎない。

 程なくして、その場に三つの影が現れると彼は人里から視線を外して彼女達に向き直った。

 

「――戻りましたか、ガーネット、サファイア、トパーズ。どうでしたか?」

 

「はい、アイゼル様! ご報告します!」

 

「アイゼル様のオーダー通り、人里の中を調べて来ましたが……」

 

「……あまり、目ぼしい人物は見つかりませんでした」

 

「ふむ……そうですか……」

 

 赤、青、黄の三体の使徒の報告を受けて、魔人アイゼルは残念に感じたように頷く。

 彼は使徒に命じて、隠れ里を調べさせたのだ。人間の中の実力者のことを。

 特に評判の高い冒険者を中心に、洗脳を使ったりして情報を集めさせてみたのだが、結果は芳しくないという。

 レオンハルトが標的にするような相手であれば、己の求める美しさ。人間の強い意志を見ることが出来るやもしれないと期待していたのだが、今の所、収穫はない。

 そしてアイゼルが考え込んでいると、サファイアが、

 

「いかがなさいますか?」

 

「……少し、混乱を起こしましょうか。それだけの実力者であれば、人里の問題を放置は出来ないでしょう」

 

「なるほど! さっすがはアイゼル様!」

 

 ガーネットの元気の良い声を聞きながらも、アイゼルは使徒達にそう命じる。

 人間の冒険者であれば、彼らの安全地帯であり拠点である数少ない人里での問題を放置することはあり得ないはずだし、他人から頼られる可能性も高いはずだ。

 

「うふふふ……なら、このアイゼル様の第一使徒のトパーズが、とっておきの催眠で――」

 

「ちょっと! 手柄を独り占めしようたってそうはいかないんだから! ここはぼくが――」

 

「いいえ、ここは私がスペシャルな方法でアイゼル様のオーダーをパーフェクトに――」

 

「誰でも構いませんよ。適当にやりなさい」

 

 三体の使徒がそれぞれのやり方を模索するのを微笑ましく思いながら、アイゼルは再び人里に視線を向ける。

 人間をやめてそれなりに年月が経ったが、人間の在り方はアイゼルが知っている頃よりも殆ど変わりはない。

 これは百年や二百年、五百年や千年と経てばまた違う景色になるのだろうかと、幾ばくかの期待を込めて、アイゼルは人里で混乱を起こし、その凄腕の冒険者とやらを炙り出してみることにした。

 

 

 

 

 

 草原地帯。

 そこに建つのは、鉄の柵で仕切られた人間の地獄――人間牧場。

 日頃多くの人間を家畜として収容し、多くの魔物兵が彼らを飼育、並びに虐待しているその場所では、多くの魔物兵が列を作って門の前に並んでいた。

 二万の兵。魔軍の一個軍であるその先頭に立っているのが、この軍の指揮官である魔物将軍だ。

 だが彼はあくまでも、魔物兵を指揮する軍隊の将である。

 故にこの場で最も偉いのは彼ではない。彼の前に立つ紳士服を着た長身の黄色い異形の魔物こそが、この牧場の責任者である。

 

「――首尾はどうなっていますか?」

 

「はっ! 現在、最後の確認を行っているところであります! もう後、1、2分だけお待ち下さい! 魔人――ジーク様!」

 

「では、3分待ちましょう。慌てず着実に準備を行いなさい」

 

「はっ! 心遣い痛み入ります!」

 

 魔物将軍が敬礼付きで対応するのは、ステッキを手に持ちながら用意された椅子に腰掛けているこの牧場の責任者である魔人ジーク。

 彼は、最近魔物達を討伐して周囲を賑わせている凄腕の冒険者を討伐するための討伐隊を派遣することにした。

 牧場運営や有事の際のためにと常から預けられている魔軍の部隊、その一個軍を使い、魔人である己もその軍勢の指揮官として同行する。

 一個軍が少数の冒険者にやられるとは思えないが、それだけの強敵であるのならいたずらに部下を殺してしまう可能性もある。故に保険として己がいれば万全かはともかく、自分が出来る最大限の仕事であるに違いない。

 魔人は自由であり、本来であれば責任というものはほぼ存在しないが、ジークは自分の中の矜持として、部下である魔物兵がやられたのであれば、己の様な魔人が対処するのが望ましいだろうという思考に至ったため、行動を起こした。

 気まぐれに近いものであることは否定出来ないが、尊敬するレオンハルトを始めとして、レイやアイゼルも動いている。ならば仲間に協力するのは不思議なことではない。

 もっとも、誰かしらが対処するのであればそれでも構わない。平和が保たれたと胸を撫で下ろし、部下にねぎらいの言葉を掛ければいいだけだ。

 とはいえ、相手が少数ということもあって、都合よく見つけ出せるかどうかは微妙なところでもある。出来れば早期に解決出来ればいいとは思うが、

 

「失礼します、ジーク様! 討伐隊の準備、完了致しました!」

 

「おや、早いですね」

 

「恐縮であります!」

 

 魔物将軍の気持ちのいい返事を聞いて、ジークは感心する。急かしすぎるのはよくないと時間を余分に与えたが、かなり余裕を持って準備を完了した。

 余裕を持って行動出来ることは素晴らしいことであるし、それに越したことはないのだ。ジークは椅子から立ち上がると、そのまま軍勢に向かって、

 

「では、出撃しますよ」

 

「はっ! ――前進せよ!」

 

「はっ!」

 

 魔物隊長、魔物兵らが声を上げて前進を開始する。

 魔人ジークは配下の魔軍を引き連れて、噂の冒険者の捜索を開始した。

 

 

 

 

 

 紅魔城執務室。

 魔人姉妹らとの睦言を終えて最強の魔人が膨大な量の仕事をこなすその場所に、彼の使徒であるリーは報告に訪れた。

 その内容こそが、

 

「それで、報告とは?」

 

「はっ。どうも、魔人――レイ様。アイゼル様。ジーク様が、噂を聞きつけて動き始めたとのこと」

 

「何? あいつらが?」

 

 リーの報告。それは情報部から入ってきた極秘のものである。

 レオンハルトが個人的に追いかけているとある五人の冒険者パーティ。

 彼らを狙って、三体の魔人が動いたというのだ。

 それを聞いたレオンハルトは眉を顰め、二つの感情を浮かばせる。それだけに複雑な表情となり呟いた。

 

「……面白い――が、危険だな」

 

「如何がなさいますか?」

 

 リーの問いかけに、どうすべきかを考える。

 あの五人が三体の魔人相手にどう立ち回るかは個人的に面白いと感じる。

 だが、それであの五人が万が一にでも死んでしまえば、それはとんでもない事態となってしまう。

 三体の魔人。それぞれ独自に動いているのであれば、何も同時に相手取るようなことはないだろうが、それでも可能性はゼロではない。

 憂慮すべき事態だ。常に監視を張り付かせてはいるが、

 

「……まずはハンティに連絡。魔人と対峙する可能性があることを伝え、場合によってはプランBで対処しろと伝えろ」

 

「畏まりました。直ぐに遣いを出します」

 

 リーが恭しく頷く。こうしておけば、万が一の時もハンティがなんとかしてくれるはずではあるが、

 ……一応、保険は掛けておくか。

 そもそも誰かしらの魔人と遭遇した時点で命令してしまえばいい話かもしれないが、アイゼルやジークはともかく、レイが言うことを聞くかは微妙なところだ。あれは、自分のことをあまり良く思っていない。頻繁に突っかかってくる面倒な相手なのだ。

 故に、レオンハルトはその場から立ち上がろうとし――しかし横の重みに腕を引っ張られた。

 それは、

 

「む……行ってしまうのか……?」

 

 と、残念そうな表情を浮かべるのは、こちらの左腕にぴったりと抱きついている和服姿の美女。

 狐の耳や尻尾を持つ二代目妖怪王――お町だ。

 こちらに抱きついたままの彼女に対して、レオンハルトは僅かに目を細めると、息を吐いて、

 

「……お町。俺はこれから外に出る。だから――」

 

「なら、我も付いてゆく」

 

 ぎゅうっと腕の力を強められてしまう。

 その際に、その胸元にある爆乳がたっぷりと押し付けられてこちらの腕が極上の感触に包まれるのだが、

 

「…………今回は仕事だ。それもかなり大事な、それでいて危険な仕事だ。出来れば大人しく、待っていてほしいんだが……」

 

 その感触を感じながらも努めて冷静にそう言ってみると、

 

「……分かった。だが、お願いがある」

 

「お願いか……内容は?」

 

 何となく、読めるような気がしながらも、一応はお町に向かって問いかける。すると彼女は、こちらを見上げながらも僅かにその白い頬を紅潮させ、

 

「……今日は、我と一緒に寝てほしい」

 

「……それは……」

 

「駄目か……?」

 

「…………」

 

 お町のその言葉に、レオンハルトは再び深く考え込む。

 それは明らかに好意を持った女の言葉であり、寝て欲しいという意味もさもありなんといった感じだ。よくあることなのでさすがに分かる。

 そして無論、好意を持たれ、なおかつ自分が認める相手であれば、それは好意を受け取り、それを示すことは何もおかしなことではない。覚悟も出来る。

 だが、お町相手だと()()()()()()()()()()()()()()()

 ……少し、先のことを考えなくてはな……。

 ある意味でどうしようもない避けられないことではあるが、考える必要だけはある。

 そもそもこうやって拾い、道をつけた時点で、彼女の行く末にも責任を持たなければならないのだ。

 それに、今更放り出すことは出来ない。それはあまりにも彼女が不憫だ。更に不幸にしてしまう可能性がある。

 今の、ここの彼女にとって、己が考えるような心配は微塵も関係ないのだから。

 そんなことを言い出せば怒ってしまうだろう。

 となれば受け入れるのみだが――それはそれとして、彼女の先を考える必要がある。

 これはレオンハルトの目的のためにも必須。今までにも似たようなことは幾つもやってきたが、今回もそれと同じだ。

 もっとも、今更遅い可能性すらあるが、それに関しては考えても意味がない。

 自分には自分の出来ることしか出来ない。最善を尽くしていくことだけが、己の選ぶ道だ。

 ならば、後は自分次第だと、レオンハルトは思考を終えると、

 

「……いや、構わない」

 

「! ほ、本当か?」

 

「ああ、一緒に寝ても構わないぞ」

 

 と、お町の頭を軽く撫でてそう告げてやると、お町は目尻を下げて、

 

「ん……んぅ……心地よい……しかし……そうか、遂に――」

 

 まるで本当に狐か何かのように頭を手に擦りつけてきた。

 ……随分と懐かれてしまったな……。

 あまり特別なことをした覚えはないのだが、懐いてしまったのならしょうがない。

 とりあえずそれだけの覚悟を決めると、レオンハルトはあくまでも保険として、己も現場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 とある人間の隠れ里。

 寝泊まり用の宿場の一室にて、五人の冒険者はそれぞれ持ち帰ってきた情報を共有し、話し合っていた。

 

「よし、なら一度話をまとめようか」

 

 そう言ったのは、真面目な様子で椅子に腰掛けて、一人ひとりを見渡しながら言った戦士ブリティシュ。

 このパーティのリーダーであり、自然とそういった場をまとめるような雰囲気となる彼の言葉に、仲間達が引き続き視線を向ける。

 彼が話す内容は、ここ最近で起きている事件や重要そうな情報のまとめだ。

 

「まずは……ここから少し離れた場所にある隠れ里の話。なんでも、人々が徒党を組んで隠れ里を占拠してるみたいで、その対処の依頼が出ている」

 

「そうらしいね。何でも、魔法らしい形跡もあるとかで、非常に興味深い事件だ」

 

 と、補足するように口を開いたのは、魔法使いホ・ラガ。彼が持ってきた情報、事件がこれであり、どうにも怪しい部分が幾つもあることと、人里での問題はそこに住む人々の安全に関係してくるものであるため、力になれるのであればこれを達成するのも良いことだと思う。

 次に、

 

「二つ目に、この近くの森かな? 何でもそこにある遺跡は、古くからある難易度の高い迷宮で、その最深部にはとてつもないパワーのあるアイテムがあるという。これはカフェが持ってきてくれたんだよね?」

 

「あ、うん。おじいちゃんおばあちゃん達の治療をしている最中にね、お礼にって教えてくれたの」

 

 カフェは普段から、隠れ里を訪れる度にそこにいる怪我や病気で苦しむ人を治療してあげたりしている。治癒の神魔法では治せないものも多いが、痛みを和らげることは出来るし、何もしないよりはなにかしてあげたいというカフェの優しいところから出てきた情報だ。

 これは、自分達にとってもかなり旨みのある有力な情報だ。魔人を倒すため、強力なアイテムの存在は役に立つ可能性がある。魔人を倒す方法を模索する自分達にとっては無視出来ないだろう。

 だがその次は、

 

「それと最後に……この近くで、魔人が暴れているという話だね」

 

「一応は、強い魔物とぼかされてはいましたが……」

 

「ま、十中八九魔人だろうな」

 

 日光とカオスが続けてそう補足する。

 彼らが持ってきた情報こそが、魔人が暴れているという差し迫った脅威のことだ。

 ここらで人間を狩っているという魔人。もしこれが本当であれば、何らかのアクションを取らなければならない。逃げるのであれば直ぐにこの辺りから離れた方が良いだろうし、一度、魔人という相手がどの程度のものなのかを見てみるのもありかもしれない。

 何しろ実際に魔人を見たことあるメンバーはパーティ内には二人だけ。日光とカオス以外は、魔人を見たことがないのだし、その二人にとっても強さは未知数な部分が多い。

 今の戦力でどれだけ相手出来るのかを見るのも悪くない。当然、敵わなかった時のために、逃げる手段は確保しなければならないが、

 

「……何にせよ、今からどうするかだね」

 

 ブリティシュはパーティメンバーを見渡す。

 皆、それぞれどうしたいか、考え込むかのような表情だが、それは当然のことである。

 今を生きる冒険者にとって、世界というものは厳しい。たった一つの間違いで死ぬことだって珍しい話じゃないのだ。慎重に慎重を期すのは普通のことである。

 だが、ある程度のリスクを取らなければ、何も得られないことも多い。故に冒険者は、自分の身の程を弁えながら、そのバランスを考えて冒険に出なければならないのだ。

 故に彼らは、考えた上で話し合い、結論を出す。

 魔人を倒すために集まったパーティの選択は――




赤ルート『人里の問題を解決しよう』

青ルート『遺跡を調べましょう!』

緑ルート『ここから離れるが妥当だろうな』

五人の選択は、次回で明らかになります
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