時刻としては、昼前といった頃。
その日のうちに出立したブリティシュら、冒険者のパーティは、森の中を歩いていた。その先頭を歩くカオスが、先を見ながらこう口にする。それは、
「さて、この先が――遺跡か」
その言葉は彼らが遺跡の探索を選んだ証拠だ。
だが、正確には優先することにしたのが、遺跡の探索というだけであり、もし探索が終わって余裕が残れば、人里の依頼を受けに行くこともあるだろう。
しかし彼らはあくまでも、魔人を倒すために冒険している。
いつもならともかく、有力そうな遺跡の探索を後回しにすることはしなかった。
日光などはお人好しなので人里の問題を憂いてはいたが、その人里の占拠というものの緊急性が意外と低く、更には遺跡とその人里の距離がそれなりに離れていることもあって、先に遺跡に行くことにしたのだ。
森の探索は慣れているのもあって、それほどの時間はかからない。慎重を期す必要はあるが、熟練の冒険者である彼らにとっては、それほど難しいものではないのだ。
故に彼らは、程なくしてその遺跡の前に辿り着いた。
全員の視界に入口が映ると、彼らは一息をついた。
周囲、魔物の気配がないことを確認しながらもカオスがその遺跡の入り口を先行して検分し、
「……見たところ、普通の遺跡って感じだけどな」
「しかし難易度が高いというのは本当かもしれないね」
と、告げたのはホ・ラガ。彼は周囲に転がる人間の痕跡や、遺跡の中にいるであろう魔物の気配を感じ取ったがゆえにそう口にする。
そして他の皆も似たような感想を抱いたのか、遺跡を眺めながら真面目な顔となる。
幅が広く、高さのある入り口は、まるで大型の魔物が出入りするために作られたかのようで、かなり大きい。
しかしそれだけならダンジョンとしては珍しいものではないため、彼らは気を引き締めながらもそこまで神妙に捉えてはいない。
自分達の強さに対しての自覚は正しく持っている。今更難易度の高いダンジョン如きで躓くことはないし、そうあってはいけない。
何故なら自分達は、魔人を倒すことを目標にしているのだ。この程度で詰まってしまっては、そんな目標は到底叶いっこないだろう。
しかし心配性なカフェなどは、杖を少し強めに握りながら露骨に気を張っている様子で、
「強力なアイテム、ちゃんとあればいいんですけど……」
「うん、そうだね。噂が真実であることを今のうちに祈っておこうか」
そんなカフェを、ブリティシュが軽く微笑を浮かべながらリラックスさせるように声を掛ける。パーティのリーダーとして周囲の事はそれなりに見ていることを証明する行いだ。
だがそれを見てカオスなどは、カフェをからかうように、
「……ま、何もなくても修行くらいにはなんだろ。期待しないで行くか」
「ちょっと! 祈っていこうって時になんてこと言うのよ!」
「でも爺婆の情報だしな……」
「……カオスだっておっさんの癖に」
「ちんちくりんと違って大人だからな」
「むぅ……ああ言えばこう言うんだから……」
カフェが頬を膨らませてカオスを半目で見るも、カオスは全くダメージを負ってないようで遺跡の入り口を調べている。罠解除や索敵はレンジャー職である彼の仕事であり、特にダンジョン探索ともなればその仕事量はかなり多い。
ダンジョンの中を先導して進むのもレンジャー職であり、パーティ内の斥候として動く必要がある。
どれだけ腕っぷしが強い戦士や、高レベルの魔法使いであっても、ダンジョン内の罠などに嵌まればその実力を発揮することが出来ずにダンジョン内で息絶えてしまうことだって多いのだ。レンジャー職の働きぶりによって、ダンジョン探索の成否が分かれるといっても過言ではない。
他の職、ガードやヒーラーなども重要であることは変わりないし、前衛や後衛の戦闘職も魔物相手の戦闘が必要不可欠な以上はいなくてはならない存在だが、ダンジョン内ではレンジャー職の活躍の場は特に多い。
魔物が多い今の時代では特にだ。
故にカオスはカフェと空気が弛緩するような会話を行いながらも、気を張っており、
「ん……?」
不意に、何かの気配を感じて振り返った。
しかし一瞬後には何も感じず、
「? どうかしたのですか?」
「いや……今なんかいたような気がしたが……気の所為みたいだ」
カオスの様子を見て、声を掛けてきた日光に問題無しと返す。
何か鳥か何か、動物でもいたのだろうかとカオスはそれを気にしないことにしながらも、皆に向かって声を掛ける。
「よし、大丈夫そうだ。進むぞ」
「うん、ありがとうカオス。――それじゃ、皆、いつも通りに」
「ああ、分かっているよ」
「準備は出来ています」
「ふぅ……うん、大丈夫」
ブリティシュの声掛けを合図にして、彼らが隊列を組む。
前衛のブリティシュに、後方警戒のために日光が最後列。その間にカフェやホ・ラガが入り、先行するのはカオスだ。
冒険者としての布陣を完成させて、五人は遺跡に足を踏み入れた。
――五人が足を踏み入れた遺跡から離れた場所。
森の中にある巨大な木の上、その太い枝に座り込むのは、黒髪のカラーだった。
「あっぶな。もうちょっとで気づかれるところだった。あのシーフ、やっぱり結構な凄腕だね」
遠隔目玉、という遠くを覗き見るための魔法を行使しながら、相手の実力に感心した声を発するのは、最強の魔人の使徒――ハンティ。
彼女はあの五人を監視するという極秘の命令を受けたため、その命令をこなし続けている最中であった。
理由も分からずに監視する任務はハンティにとっては面白みのない微妙な仕事ではあるのだが、彼女が一番こういった任務には向いているということで残念なことに命令されてしまった。
元々は自然の中で、森の中を得意とする種族なだけあって森の中を移動は軽快で音もない。
加えて彼女独自の瞬間移動魔法が相手に存在を悟らせることを許さないのだ。
だが彼女としては、
「……人間にしては、結構面白そうな連中なんだけどねぇ……」
戦えたらそれなりには愉しめそうだとは思う。
それは命令違反であるため、難しいことだが、強者に興味が湧いてしまうのは当然のことなので思うだけならしょうがない。
命令違反で戦闘を禁止にでもされるのは嫌だし、さすがに人間相手に本気でちょっかいを掛けるのも悪い気はする。
というより、もっと生き残って成長してくれた方が嬉しい。
まだまだ強さは伸び盛りだろうし、監視任務とかが解かれたら、戦いに行ってみるのも面白そうだ。
勿論合意の上でやるし、手加減だってする。反則級の強さを持つ焼き肉ドラゴンや女誑しの魔人とは違うのだ。いきなりぶん殴ったり、魔法をぶち込んでもいいのはそういう頭のおかしい人外連中だけ。ちゃんと分別は出来ている。
最近は遺憾なことに、己を脳筋とかゴリラ扱いする奴が多いが、自分は普通だ。
何しろ殺しは嫌いだし、誰彼構わず勝負を挑むほどではない。
あくまでも健全な戦いを楽しみたいだけだ。死にかねないくらいの魔法をぶち込んだり、死にかねないくらいの攻撃を打ち込まれても、死なないならセーフ。スポーツのようなものだ。
そういう意味で先程挙げた連中は、どれだけ全力で、普通の人間や魔物にやったら、跡形もなく消し飛ぶか、ミンチになりそうな魔法を使ったとしても死なないから気兼ねなく楽しめる。
最近だと死なない枠に、はぐれホモ鳥が追加されたし、そこそこやれる相手も増えてきている。成長が楽しみな、主の娘や、二代目妖怪王、後は一応自分や同僚の弟子、助手扱いの子もいる。ハンティとしては楽しい限りだ。
そういうことを考えている時だけは、今の世の中の暗さを忘れられるし、野良の人間や牧場の人間達を憂わずに済む。しかしそれも、
「後、五百年か……」
人間を地獄に叩き落とした魔王の治世もいつか終わる。
1000年。後、500年という年月さえ我慢すれば、否が応でも時代というものは変化していくのだ。
だが、
……今の人間にとっては、あまり意味のないことだね。
口にすることを憚られて心で思う。
何しろ、この五百年経てば、などという言葉は、長命種であるが故に口にできる言葉だからだ。
100年と保たずに死んでしまう人間にとっては、そんな言葉は慰めにもならないだろう。
かといって人間が出来ることなんてたかが知れている。
中にはとんでもなく強い人間が生まれてくることもあるが、それも結局は千年に一人といった頻度で生まれるような特別な存在。英雄でしかない。
そしてそんな英雄であっても、魔人や魔王を倒せずに終わるのだ。ただ少し強い程度の人間が出来ることなんてない。
厳しいがこれが現実。ハンティはそれをよく分かっている。
故に人間の犠牲を減らすためには、己の主がやっているように、魔物側からそれを抑制していくしかない。
人側に立ったところで出来ることなどたかが知れている。その活動を無意味という気も、馬鹿にする気もないが、事実として、大した数の人間を救っていないのも事実だ。
冒険者や魔物討伐隊といった連中の活動も悪くないが、根本的な解決に至ることは絶対にない。
魔物にもある程度の情を持った自分の事情などを無視したとしても、人間側に立つことの非効率さは認めざるを得ないのだ。
だからこそ、彼らのような何か希望を持って立ち向かおうとする人間達を見ると、応援したくもありながらも、哀れに思ってしまう。
冷静な頭は、彼らのやることを無意味だと判断してしまうのである。己の主などは、あれで人の意志に期待している節があるが、そこまで期待は持てない。
実際にそこまで到達したのなら、こちらとしてもテンションは上がるが、基本的には現実主義。冷静な目で見分けてしまうのが己の癖だ。
ただまあ、個人的な趣味としてその強さがどこまで行くかという興味はあるのだが、
「――っ、と。この気配は……」
と、不意にハンティは思考を止めて、身体を遺跡とは反対方向に向ける。
止めざるを得なかった、とも言う。それだけの存在が、この森に入ってきたのだ。
自分達と同種。それでいて、それよりも上位の存在の気配。つまりは、
「……あー、連絡にあった相手か。それも、一番面倒な奴が……」
ハンティはその、ビリビリとした荒っぽい気を感じて、面倒だ、と息を吐く。
これだとそれとなく帰ってもらうのも難しいかもしれない。そう思い、ハンティは笑みを浮かべた。
「……まぁ、もし危なくなったら、
不敵な、口元をニヤリとさせる様な笑みを浮かべて、ハンティはその来訪者を気配を隠した状態で覗き見る。
そこにいた、
遺跡の中は、それなりに風化していた。
古い遺跡である証拠。それを感じながらも、五人は次々と奥に進んでいく。
迷宮のようになった通路を進み、その道中にある罠を先導するカオスが時折解除しながら、そしてその道中に現れる魔物を皆で対処しながら先を行く。
もう十階層は進んだだろうか。一応マッピングは手が空いていたカフェが行ってはいるが、全容は未だ分からない。
ただ、大体の構造は見えてきており、
「これ……地下に埋まったタイプの遺跡? ですかね」
「地下に埋まったタイプ? それって……」
「ああ、なるほど。そういうことか」
ブリティシュがカフェの言葉に反応したかと思うと、先んじてホ・ラガがカフェの描いた地図を見ながら得心したように頷いた。先を行くカオスや背後の日光が疑問符を浮かべ、
「どういうことですか?」
「まあ降りてるっぽいし、地下は地下だろ。それの何がおかしいんだ?」
「いや、そういうことではなくてね。簡単に言うと、地上に在った遺跡が、地下に埋まってるような形になっているということかな」
「はぁ? なんだそりゃ」
ホ・ラガの説明に理解不能といった様子でカオスが疑問する。だがその疑問にも、ホ・ラガは頷き、
「おそらくは、なんらかの理由で地面に埋まってしまったのだろう。巨大な地震か何かで地割れが起き、そこにそのまま沈下してしまったのだと推測出来るね。思い返してみれば、周辺の地形も、少し荒れ気味ではあった」
「つまり……どういうことです?」
日光が、結局はどういうことなのかと、再度ホ・ラガに問いかける。遺跡の謎でも解けたのかと。しかし、ホ・ラガは息を付くと、
「まぁ、だからどうということはないがね」
「えっ、ないの?」
「分かるのは、ここがかなり古い遺跡だということくらいか」
「役に立たん情報じゃな……」
「……カオス。サポートが必要そうだね。良ければ私が君の後ろに布陣しよう。そう、すぐ後ろに――」
「――と、思ったがよくよく考えたら古い遺跡ということはそれだけ儂らが求める未知のアイテムがあるということじゃな! さあ、先に進むぞ!」
「またカオスが墓穴掘ってる……」
「ん? 掘るのは私だが――」
「後ろがゾワゾワするからやめてくれお願いします!」
相も変わらず遠慮ない物言いをするカオスを、ホ・ラガが脅している。カフェの呆れた様子の言葉にすら反応し、カオスがかなり距離を取って先導し始めたが、さすがにカフェのせいではない。日光などは、またしても意味が分からなかったようで、“掘るとは……一体……?”と疑問し始めてるが、知らない方が幸せなことであるのは確かだ。
「……まあ、カオスの言う通り、それだけ古い遺跡であるなら期待も出来る。気を引き締めて進もう」
「そうですね」
ブリティシュの場をまとめるような発言で、一応はその場は収まる。
それからも一行は時折、会話を挟みながらも、警戒して先を進んでいくと、程なくして、
「――ん、どうやらここが最深部のようじゃな」
「え……って、うわ、本当だ。しかも結構広い」
と、先導するカオスが不意に手を上げてそれを示した。
広間の様な場所に出た一同は周囲を見渡しながら、その如何にもといったような部屋を調べる。
だが調べるまでもなく、前方には、
「宝箱がありますね」
「ふむ、如何にもといったものだが……」
「こ、これはもしかして本当に……」
日光やホ・ラガ、カフェが僅かに期待の様子で部屋の中心にある宝箱を見つめる。
ブリティシュも同じ様に宝箱を見つめた。冒険者であれば、宝箱は期待してしまうものではあるが、自分達の目的を考えると、ここまでそれらしい感じの宝箱が見つかるとなると、それは少し真剣な、息を飲むような雰囲気となってしまう。
おちゃらけていたカオスも、その宝箱を見て、真剣な眼差しで罠の有無を調べると、
「……罠はないみたいだ。ほら、ブリティシュ。開けてみろ」
「……分かった。それじゃあ――」
と、ブリティシュも軽く息を入れて覚悟をしながら、宝箱の前に立つ。
皆もそれを神妙に見守る。
そんな中、ブリティシュはゆっくりと宝箱に手を掛け、そのまま開いていくと、
「! これは――」
「一体何が――」
「……え?」
「これは……」
「…………」
ブリティシュが宝箱の中から取り出したのは、確かに宝ではあった。
だがそれは、黄金でできたひまわりのような形の、
「――――像?」
黄金の像。
それを見たパーティの反応は、はっきり言って微妙なものではあった。
というよりも、空かされたかのような気持ちであり、
「強力なアイテム……には見えないですね……お金にはなりそうですけど」
というカフェの言葉が全てではある。だが一応、ホ・ラガなどはそれを見て首を傾げながら、
「魔法の力も感じない……が、不思議な形をしてはいる。一応は持ち帰って調べてみた方が良さそうだ」
「そうだね……使い方が分からないだけ、という可能性もあり得る」
ブリティシュも冷静にその発言に同意する。しかしカオスなどは露骨に溜息を吐き、
「はぁ……ここまでやって来て収穫がその良く分かんない像一つか。割に合わないな」
「何でもないアイテムだと決めつけるのは早計ですが……その気持ちも分かります」
それなりの高難易度のダンジョンに潜り、それらしい宝箱から出てきたのがただの像というのは、少し気落ちしてしまうのも無理からぬことだ。
勝手な想像ではあるが、誰しもが分かりやすいアイテムだと勝手に思っていたのだ。
例えるなら、伝説の武器や強力な魔法具などだろうか。故にもっと分かりやすい形をしているものだと思っており、特にカオスや日光などは明確に魔人を殺し得る力を求めているだけあって、少し残念さを共有している。カオスが首の後ろに手を回しながら、
「あーあ。もっと伝説の剣とか分かりやすいものの方が良かったんだけどなー……」
「……私は、刀の方がいいです」
「いや、それはどっちでもええわい。単純ならそれで――ん?」
「どうしたの、カオス?」
上を見上げて、何かに気づいたようなカオスに、カフェが声を掛ける。するとカオスは訝しむような表情で上を見つめ、
「……いや、なんか天井に絵が描かれてるから気になって……なんだこりゃ」
「えっ? あ、ほんとだ」
カオスの言う通りにカフェを筆頭に皆が天井を見上げる。
するとそこには、カオスの言う通り、絵が描かれており、
「何かの儀式や神事に見えるような……?」
「…………」
「そうだね……ホ・ラガは何か気づいたことはある?」
ブリティシュが日光の呟きに同意しながらも、黙り込んで天井を見つめるホ・ラガに声を掛ける。するとホ・ラガは少し間を置いて、天井を見つめたままで、
「いや……まだちょっと分からない。しかし、手掛かりにはなりそうだ」
「なら、調べて貰っても構わないかな?」
「ああ、勿論だとも」
と、ブリティシュの頼みを受けて、ホ・ラガが魔法でその天井の模様を記録する。写真の様なものを作る研究用のオリジナル魔法らしいが便利なものだと思いながら、
「これで、帰ってからだろうがいつだろうが調べ、確認もしながら思慮に耽ることが出来る。もう大丈夫だよ」
「うん、それなら出ようか。皆は大丈夫かい?」
「あっ、うん。へーきよ」
「問題ありません」
「まあ、こんなところに長居するのもなんだしな」
一応は皆が疲れていないかの確認を取る。皆の体力に問題がないことを確認し終えると、ブリティシュは金の像をホ・ラガに預けつつ、迷宮からの帰路についた。
時刻は昼過ぎ。もう後1、2時間と経てば夕方に差し掛かろうという時間帯に、ブリティシュらは遺跡から抜け出すことに成功した。
「あー、ようやく地上か……」
「いつも苦労を掛けるね、カオス」
「全くだ。これはもう、帰ったらしこたま楽しまないとな、ぐふふ……」
ブリティシュの労いの言葉に、カオスがいやらしい笑みで答える。カフェが半目になり、
「またそういうこと言う……」
「全く……」
カフェだけでなく、日光も呆れ果てる。よくもまあ、迷宮から出て直ぐにそんなことを口に出せるものだと。
しかしその反応にカオスはおちゃらけた様子で、
「だって儂、いっぱい働いたからの~。少しは癒やしがないと――」
と言ったところで、カオスの言葉が止まった。
不意に言葉だけでなく、動きも止めたカオスの反応に、皆が疑問符を頭に浮かべるが、程なくして皆もその原因に気づく。それは、
「――この気配、は……?」
「…………異様な気配だが、これは――」
「な、なんかピリピリしてる気が……」
「っ……!」
「…………」
皆が、自然と居住まいを正し、武器を構え、警戒体勢を取る。
冷えた空気、静寂に包まれた森の中。その中に、草木をかき分けるような音だけが響く。
確実に何かが近づいている。その事実を、皆が悟った瞬間、
「――――っと、やっぱり誰かいたか」
不意に、人の声が響いた。
それを発したのは、
「え、あ、あれ……? にんげ……ん?」
カフェが言うように、森の中から現れたのは、前髪で目元を隠した青年だった。
姿形が人間の、少し柄は悪そうだが、普通の男に見える。
しかしその僅かに感じる異様な気配だけが、違和感として彼らを襲い、
「おい、お前ら」
「っ……なんだ?」
不思議と威圧感を感じるその声かけに、ブリティシュは怯みながらも応じる。
その髪の奥からは、雷光を思わせる鋭い暴力的な視線を感じるため、皆とアイコンタクトを取りながらこちらからもじっと相手を見つめる。
「お前ら――冒険者か?」
「……そうだ」
男の質問は、冒険者かどうかというもの。
それにブリティシュは頷く。武器は構えたままだ。
だが、その戦闘態勢というものを殆ど気にした様子もなく、しげしげと眺める相手は、更に値踏みするような視線となり、
「ほぉ。もしかして……当たりを引いたか?」
「……当たり? 何のことだ」
言葉の意味が分からずにこちらからも問いかける。しかし相手はそれには応えず、無視した様子で、
「いや、分かんねェか。とりあえず、やってみねぇコトには」
「……お前は一体……?」
ああ、とそこで男はようやく言葉を返した。
そして同時に、首元にあるバックルから、徐ろに櫛を取り出す。
そして大股で、無造作、無遠慮に一歩前に足を踏み出すと、その櫛で前髪を掻き上げながら、彼は言った。
「俺ァ――――
「っ!? なに……くっ――!?」
「ブリティシュ!?」
不意にその場に充満するのは、レイと名乗った男から立ち昇る強烈な存在感。
そして、バチバチと鳴り響く音と稲光。
相手から最も近くにいたブリティシュはその余波で僅かに怯み、
「魔人、だと……!?」
「魔人……っ!」
カオスや日光が驚愕しながらも、眉間に皺を寄せ、憎々しげに強く相手を睨めつける。
そして怯えた様子のカフェと、まだ冷静なホ・ラガは、
「こ、これが……魔人……!?」
「……ふむ。さすがに、肉眼で見るのは初めてだが観察している余裕はない……少しマズいか」
脅威を認識して、後方にジリジリと後退っていた。
一同が初めて対峙する魔人。レイと名乗った魔人は、その身体から見ているだけで強烈な威力を持つことが分かる電撃を発生させ、先程までは下ろしていた前髪を完全に掻き上げ、その雷光の様な眼差しをブリティシュらに向けて告げる。
「お前らに恨みはねェが……個人的な狩りの最中でな。運が悪かったな。お前らは――」
と、レイは己の身体から放電し続ける電撃によって周囲の空気を青く染めていき、その暴力的な気を五人に向かって完全に解放すると、
「――――ここで叩き潰す!」
魔人レイが、啖呵を吐いて襲い掛かってきた。
因みに、赤ルートだと、絶望的な状況で人間を救いに来る美しい意志を試そうと襲いかかってくるアイゼルルート。緑だと、逃げ出すような人としてあんまりな相手は魔人一の紳士であるジーク様にお任せルート。青は、あくまでも魔人を倒すことを考える骨のある相手ということで、レイルートでした。まあどれ選んでも合流しますけどねって感じで