踏み込みと共に高速で突っ走ってきた魔人レイ。
それを見て、五人は即座に動いた。
魔人相手の戦闘は初めてで、そもそも対峙すること自体が初の事。予想外ではあるが、それを言い訳には出来ない。
襲いかかってくる相手への対抗として、誰もが布陣を整える。ホ・ラガやカフェは後方に。カオスが魔人の後ろに回るように横へ走り出し、日光とブリティシュは前衛で相手を待ち構える。
その中で一番前に、ガードとして盾を構え、敵の攻撃を受けようとしたブリティシュは、なんとか相手の攻撃の軌道を読み取った。だが、
……速い!?
相手は素手。しかし魔人だ。
殆ど一歩か二歩にしか見えない踏み込みで魔人レイはブリティシュに近づき、拳を振りかぶると、
「オラァッ!!」
「っ、があぁああああっ!?」
ブリティシュは拳が盾にヒットした瞬間に、そこから流れる衝撃と雷撃に、激しく身震いしながら吹き飛んだ。
「ブリティシュ!?」
「今のは……!」
カフェや日光などが驚愕する。ブリティシュは盾での防御を辛うじて成功させたが、その盾の上から吹き飛ばされ、10メートル程後ろに下がってしまった。
体勢こそ崩さなかったものの、ブリティシュは接触により明らかにダメージを受けており、
「はぁっ!」
日光が、吹き飛んだブリティシュが復帰するまで前衛を保たせるために刀を振り下ろす。
しかし対するレイはそれを軽く腕を差し出すことでガードとした。それだけで、彼女の剣は不思議な力で防がれた。
「なっ、っっっ!?」
その直後に、日光はブリティシュと同じ様に身体に来た衝撃に対して身を翻す。カオスがそれを見て、
「日光!?」
攻撃が防がれたことと、その結果に強い疑問を抱く。
だがその結果に対する答えはすぐに出てきた。
魔人が全身から放電し続けている。まずはそれが原因だろうと。
触れただけでも、雷撃がこちらの身体に伝わってダメージを与えてくる。
それは相手の攻撃と防御、両方に使える厄介な代物だ。
そもそも近接攻撃をする際には武器を当てる必要がある以上、その雷撃からは逃れようがない。
故に魔人の背後に回っていたカオスは、その短刀を当てることを躊躇った。するとその間にホ・ラガが遠距離から、
「白色破壊光線!」
「!」
最上級魔法の白い光線が、魔人レイに向かって、そのまま直撃する。
確かに、遠距離攻撃であれば雷撃は食らわないはずだ。
だがその攻撃はやはり、
「そんなもんが効くかよ!!」
「きゃあっ!?」
「カフェ!」
レイは構わずに雷撃を放った。
当然の様に無傷。ブリティシュや日光へのヒーリングを行っていたカフェの方に雷撃を飛ばす。
その攻撃は、戦闘開始時に張っていたバリアによってなんとか防ぐことは出来たが、そのバリアも一発で砕け散ってしまう。
「くそっ……攻撃が効かねぇ……! 化け物が……!」
カオスが悪態をつきながらも、幾つか持っていた短刀を投擲して攻撃するも、その全てが何かに弾かれる。
その様子を見て、ホ・ラガは口を開いた。彼も余裕がないのか、移動しつつ冷や汗を僅かに流しながら、
「やはり……皆聞け! あれが前に一度告げた“無敵結界”だ!」
「っ、やっぱそれか……!」
無敵結界。その語句は、人間にとっては絶望を与えるものだ。
「あらゆる攻撃はあの無敵結界に弾かれる! 故に逃走が賢明だ! あれでは――」
「へぇ、知ってる奴もいんじゃねェか……!」
「っ!」
「ホ・ラガ!」
「させない……!」
一瞬でホ・ラガに向かって踏み込み、拳をアッパー気味に振りかぶったレイに対し、復帰したブリティシュが再び盾を構える。
しかしその結果は火を見るより明らかで、
「ぐ、がっ、はっ……!」
レイの拳を受け止めた瞬間、高圧の電流が流れ、更に尋常ではない膂力による打撃で宙に吹き飛ぶ。遺跡の入り口の壁に激突し、肺の中の空気を強く吐き出したブリティシュだが、そのまま地面に向かって足をつけると、今度は怯まずに再び前へ向かっていき、
「まだ、だ……!」
「……ハッ! 雑魚は雑魚だが、人間にしては体力あるじゃねぇか……!」
口元を僅かに笑みで歪ませ、レイが放電を激しくする。
やっぱ当たりか、と口の動きで言葉を作り、
「それでこそ、潰しがいがあるぜ……!」
言って、レイが前に跳躍した。
それはガードであるブリティシュに向かったものだが、その攻撃をブリティシュは全力で身を翻すことで躱す。
だがその結果、レイの雷を纏った拳は地面へと突き刺さり、振動した
「きゃっ!? ゆ、揺れて……!」
「っ、どんなパワーだくそったれ!?」
皆がその衝撃にふらつき、そこから跳ぶようにして攻撃の余波を避ける。
レイが殴った地面は拳によって強く砕かれ、陥没し、周囲にバチバチと雷雲を撒き散らした。
遺跡の壁や周囲の木々が放電する雷によって幾つも破壊される。
雷の威力はその雷雲に比例するようにますます上昇し、雷撃を纏った拳は激しさを増していく。
荒っぽい戦いだが、喧嘩慣れしているかのような技術があり、その攻撃は確かな致命を纏ったものだ。
「おっ、らああああ!!」
「っ……くっ、これ、では……!」
「マズいな……!」
「どうするかね、ブリティシュ!?」
レイの攻撃に対して、まともな対応が殆ど取れずに、一同は苦悶の声を漏らす。
そもそも激しい放電によってまともに近づいて攻撃をすることすら出来ない。遠距離からの攻撃も無敵結界によって弾かれるし、相手の驚異的な身体能力によって徐々に追い詰められていくのみだ。
否が応にも、五人は魔人の強さを思い知るしかない。
これが魔人。大陸を支配する絶対者達の力。
その異常ともいえる力に、人は屈するしかない。
五人の目の輝きは消えていないものの、現実を目の当たりにしたことで僅かに表情を歪めてしまう。
そんな中で、ホ・ラガにどうするかの問いを送られたブリティシュは、雷撃のダメージによって息を乱しながら、
「っ……撤退、だ……!」
リーダーのその言葉に、他の4人は異論を挟まなかった。
彼らが魔人を倒すために旅をしているとはいえ、今はまだ魔人には敵わない。
これは魔人を倒す方法を求める旅でもあるのだ。
そのための手掛かりを得て、これからもそれを模索するためにも、今は逃げて生き延びなければならない。
だが、
「逃がすと思うか!?」
「くっ……!」
この眼の前の魔人レイから逃げ延びるのは、それだけでも至難の技だ。
何かしらの隙や足止めを行わなければ、逃げることは叶わない。
雷のような激しさと勢いを持つ魔人は、力のままに暴れまわっており、その攻撃からなんとか逃れ、致命を避けるだけでも精一杯だ。
ガードのブリティシュなどは先程から雷撃を何度も受けて息を乱している。
カフェも何とかヒーリングを掛け続けて皆が動けるようにサポートしているが、それでも回復が追いつかないほどだ。
攻撃出来るのもホ・ラガくらいであり、カオスや日光は近接攻撃を封じられてしまったもので、魔人を引きつけることしか出来ない。
冒険者の中では最強と称され、人間や通常の魔物相手では無双することが可能な五人は、一体の魔人相手にまるで歯が立っていなかった。
拳の軽い一振りで巨大な木をへし折り、岩や壁を砕き、地面すらも割り砕く。彼ら五人もまともに攻撃を喰らってしまえば絶命は不可避に近い。
更には無敵結界によって攻撃は防がれる。どうしようもない事態だ。
抜け道が見えない戦闘の中で、最初に脱落したのは――カフェだった。
「回復役から潰すか……!」
「っ、あ……!」
「カフェ!? クソが……!」
カフェを狙った魔人レイに、カオスがとうとうそれを守ろうとレイに向かって低い姿勢から短刀を放つ。
だが結果は分かりきっていて、
「邪魔だ!」
「かはっ……!」
「カオス!」
裏拳によって吹き飛ばされ、カオスは近くの木に激突する。
ブリティシュが名を呼びながらも、カフェを助けようとするが――間に合わない。
「まずは一匹だ……!」
「っ――!」
レイの拳がカフェに向かって振り落とされる。
ブリティシュや日光が割って入る前に。ホ・ラガが魔法を放つ前に。全てが間に合わず、起こる結果は分かりきっていた。
杖を握ったカフェが何とかそれを防ごうとするが、近接戦闘を得意としない彼女には、その軌道を見ることは難しかった。
故に。魔人の拳はカフェに向かい、
「……!?」
「…………えっ?」
しかしその拳は、カフェに振り落とされることはなかった。
至近距離で聞こえた鋼の音に、カフェは戸惑い、閉じかけていた瞳を見開いて眼の前を見る。
するとそこには――長い黒髪があった。
「――っと。危ない危ない。もうちょっとでやられるところだったね」
「テメェは……!」
驚愕したのはレイも同様。攻撃を弾かれて距離を取ると、相手の顔を見て表情を憎々しげに歪ませる。
五人もその姿を見て、思わず目を見開いた。その姿は、ホ・ラガなどに言わせれば、
「黒髪の……カラー……」
知る者だけが知る伝説の存在。人間が見ることは滅多にない彼女は、魔人レイの攻撃を防いだ剣を軽く肩に乗せると、
「ま、通りすがりの親切だ。というわけであんた達、さっさと逃げな。こいつはあたしが相手にしとくからさ」
軽い調子で魔人を前に、その美しい女性はこともなげにそう言ったのだ。
「テメェ……何しに来やがった!」
「おおっと」
魔人レイが彼女の姿を見て、怒声とともに雷撃を放つ。
しかしその雷撃を、彼女はやはり、呆気なく躱してしまい、
「何しにかって? そりゃあまあ、言うことを聞かないといけない相手のちょっとしたお使いを受けてね。悪いけど、手を出させるわけにはいかないよ」
「っ……ただの使徒が、俺に命令でもする気か!? レオンハルトの腰巾着風情が!」
「……レオンハルト……? まさか……」
「ふむ……?」
レイが苛ついた様子で彼女に向かって声を荒げる。その言葉の内容を聞いて、日光やホ・ラガが眉を顰めたが、それを無視して、レイの怒声は続く。
「そいつらは俺の獲物だ! 死にたくなけりゃそこをどけ!」
「……はぁ……あんたさ、何勘違いしてんの?」
「なんだと!?」
黒髪のカラーは息を入れて、呆れるようにレイを見る。肩を竦めながら、
「……あたしは主の命令で、手出すなって言ってんだよ。それを無視するってことの意味……ちゃんと分かってる?」
彼女がそう言うと、レイは更に表情を怒りに染める。
だが、まだ手は出さない。ギリギリのところで爆発はしていない。
しかし、彼女の方は更に言葉を続け、
「しかも“そこをどけ”って……まあ、確かに、立場的にはあたしの方が下かもしれないけどさ……」
でも、と。彼女はレイを鼻で笑うと、
「あたしが命令を聞くのは一人だけだよ。ましてや、あんたみたいなガキの言うことを、なんであたしが聞かなきゃならないのさ。もうちょっと大人になってから出直してきなよ――レイ坊や」
「ッ……テメェは……殺すッ!」
瞬間、彼女の挑発にレイの怒りが沸騰し、レイは先程よりも激しい放電をしながら突っ込んでくる。
それを彼女は口元に笑みを浮かべながら躱してみせ、
「ほら、あんたらも! ぼさっとしてないでさっさと逃げな! 流れ弾でおっ死んでも知らないよ!」
「っ、あ、ああ……! 分かった! 皆、逃げるぞ!」
ブリティシュが黒髪カラーの彼女の言葉に戸惑いながらも頷く。彼女が何者かは気になるが、今は彼女の言う通り、逃げるのが最優先だ。
木の幹に倒れたカオスを、ブリティシュが背負い、皆で逃げようとすると、
「逃がすかッ!」
「ッ……!」
レイが雷撃を五人に向かって放つ。だがそれを、
「っと! だから危ないって!」
「!?」
一瞬で彼女が目の前に現れたかと思うと、その雷撃を剣で弾いてしまう。
その移動が全く目に映らず、ブリティシュらは驚愕する。気配も移動の予備動作も何もかもが見えなかったし、雷撃を弾く技術も見事なものだった。
しかもそれだけでなく、
「おらぁああああああっ!!」
「ほら、遅いよっ!」
「こっのっ……! 躱してばかりでイキがりやがって……!」
あの魔人を相手に、その速さと技術で翻弄していた。
傷こそ与えることは出来ていないが、その実力は傍目から見ても互角である。身体能力の上では魔人の方が上に見えるが、あの理解不能な速さと、雷撃を問題としない丈夫さに目を見開く。
それでなお、彼女の口元には、まるで戦いを楽しんでいるかのような笑みが浮かんでおり、まだ余裕がある様子でもあった。
それを視界に映しながらも、ブリティシュらはその場から脱していき、
「……感謝する! 貴方は――」
「いいから行きな! 名乗るほどのもんじゃないよ!」
「……感謝します……!」
再度、感謝を告げてブリティシュは仲間と共に魔人の戦闘域から離脱していく。
だが、日光やホ・ラガなどは険しい表情を浮かべており、
「……どうしたんだ、二人共?」
「……少し、気になることが」
「気になること?」
ブリティシュが走りながらも問いかける。カフェなどはこちらが背負うカオスに、走りながらヒーリングを掛けており、話は耳にしていても言葉を発する余裕はない。
その間にも、ホ・ラガが真剣な表情で頷き、
「あの彼女……いえ、あの魔人ですか。彼女のことを、レオンハルトの腰巾着と言っていました」
「それに、使徒、とも……」
「レオンハルト……いや、使徒、ということは……!」
ブリティシュも遅れてそれに気づく。ホ・ラガは補足するように答えを言った。
「レオンハルトとは、最強の魔人の名だね。幾つもの文献にも名前が載っているほどの有名人だ」
「ええ……私も、そう聞いています。JAPANでは、その魔人の名は有名ですから……」
「……つまり彼女は、その魔人の使徒、ということか……」
そうだろうな、とホ・ラガが頷く。しかし訝しむ様な表情で、
「彼女が何故我々を助けたのか、そこが気になるところだね。もしかしたら、罠かもしれない」
「罠、か……」
ブリティシュはホ・ラガのもっともな意見を聞いて、考え込む。
それが本当であれば確かに今の状況は危険かもしれない。
しかし、
「……何か騙しているようには……罠を張っているようには見えなかったけど……」
「……そう、ですね。私も、そう見えてしまいました」
ブリティシュの迷うような意見に、日光も戸惑いながらも同意する。ホ・ラガが頷き、
「……君がそう言うのならそうかも知れないな、ブリティシュ。とにかく今は、ここから離れて安全な場所に行くのが賢明だね」
「……ああ、そうしよう。カオスも心配だ」
魔人の攻撃をもろに受けて、気絶したカオスの治療もちゃんとした方がいい。カフェも走りながらだと集中出来ないだろう。
しかし内心では、先程の光景を思い出し、
……あれが、魔人や使徒の戦闘……。
今の自分達では、人間では届かない強さを目の当たりにし、助けられるのみであった自分達に無力さを感じて拳を握り締めるのであった。
森の中で行われる魔人レイと使徒ハンティの戦闘は、追いかけるレイとそれを的確に躱し続けるハンティといった構図になっていた。
だが、逃げ続けるだけであればレイは逃げていった冒険者を追いかけるのみだ。
それが出来ないのは、ハンティがやはり、要所要所で邪魔ともいえる攻撃をしてくるからで、
「うざってェ! 消し炭になれ!」
「なら、捕まえてみるんだね!」
レイの雷撃を纏った貫手が放たれ、一瞬前までハンティがいた空間を貫き、そこにあった大木に突き刺さり、黒焦げの炭にまで変えてしまう。
即座に居場所を確かめようと背後を向くと、上部から攻撃が来た。
「黒色破壊光線!」
「っ、おっ、らぁあああああああああああ!!」
飛来するのは黒の極太の奔流。ハンティが放った巨大な魔力の結晶とも言える最上級魔法だ。
だがそれを、レイは裂帛の気合いとともに振り上げたアッパーで僅かに弾くことでそれを逸らした。
魔人であるレイには無敵結界があるので使徒であるハンティの魔法によるダメージはない。しかし強すぎる衝撃を完全に無視することも出来ない。魔人とはいえ、強い衝撃を受ければ気絶することだってあり得る。
もっとも、レイはその程度で気を失うような情けない真似をすることはないが、それでも衝撃によって身体が揺らぎ、邪魔にはなる。
無視して冒険者を追いかけることも考えたが、そうしようとすると一瞬で先回ってからの魔法の連続で前に進めない。故に挑発されたことも含めてぶっ飛ばしてやろうと考えるレイであったが、中々捕まえることが出来ずに苛立っていた。
「逃げ回ってばかりか! 蝿が!」
「その蝿一匹落とせないってのに粋がってんじゃないよ!」
「テメェ……!」
口の減らない相手に対して、雷を連続して放つも、ハンティにはそれが当たらない。ハンティの方も魔人相手ということで有効的なダメージは与えることは出来ていないが、それでもその口元にはニヤリとした笑みが浮かんでおり、
「あんたは弱くはないし、身体能力はあたしより上だけど、技術の方はまだまだ杜撰だ。そんなものが当たるとは思わないことだね。――こちとら、
「……! クソが……!」
レイがその言葉を聞いて憎々しげに表情を歪めて、拳を撃つも、やはりそれは当たらない。
だが、ハンティの方も攻撃手段がないはずで、戦況はレイの方が有利な筈であった。木の枝を足場に跳躍を続けるハンティが宙に高く飛び、
「だからまあ、あんた相手にも試してやるよ! 森の中でやるのは気が引けるけど……!」
「チッ、一体何を……!」
空中に飛ばれれば、レイとしては雷撃を放つくらいしかやることがない。跳躍して殴りつけることも不可能ではないが、相手の方が有利である場所に行くのは愚策だろう。
故にハンティの魔法に対して身構えていると、ハンティは両手を使って魔法陣を描き始めた。
しかもそれは、魔法にそれほど詳しくないレイから見ても不可解なもので、
「! 魔法が二つ……?」
そう。魔法が二つだ。
ハンティは二つの魔法を、同時にそれぞれ扱おうとしていた。
通常は不可能である魔法の同時詠唱。それを行っているハンティは、自らが長年の研究と模擬戦による実験で編み出した魔法をレイに向かって放つ。
普通の人間相手にやれば悲惨なことになってしまうが故、魔人相手に放つのがちょうどいいのだと、
「さあ、いくよ……! 複合魔法――“グラウンド・ゼロ”!!」
「ッ……!」
そして、次の瞬間。レイを中心に、凄まじい爆発が起きた。
それは、炎魔法と氷魔法。両方の魔法を組み合わせたハンティの必殺技ともいえる魔法だ。
レオンハルトやライゼンといった化け物には対処され、あるいは耐えられた魔法ではあるが、これを放った場所は巨大なクレーターが出来て、山中に巨大な水場が出来てしまったほどの大魔法。
木々の間を強風が潜り抜け、遺跡前を更地にしかねないその衝撃と爆発。
その爆発を受けたレイは、空中にいた。
……馬鹿げた威力しやがって……!
それはレイにとっての賛辞に近いものだが、苛立ちも混じっている。
その爆発によってのダメージはない。無傷だ。
あらゆる攻撃を防ぐ無敵結界は有効であり、これほどの爆発を受けても傷を負うことはありえない。
そして、とてつもない衝撃も受けたが、これに対してもレイはさして問題ではないと判断した。気絶するようなことはない。
問題があるとすれば、爆発の衝撃で宙を飛ばされ、先程いた場所からかなり遠くに吹き飛ばされてしまったことで、
「……クソっ!」
レイは空中で悪態をつく。つまりは逃げられたのだ。
先程までいた場所から軽く数キロは吹き飛ばされた。今から追いかけても追いつくことは難しいだろう。
となれば、レイが考えていた、レオンハルトに先んじて獲物を狩ることは失敗したも同然であり、
「……チッ」
レイは空中で体勢を立て直し、地上へと着地すると、足に力を入れて勢いを止め、その場で立ち上がる。
そして放電を抑え、掻き上げていた髪を元に戻すと、服のポケットからタハコを一本取り出し、口に咥えて軽い電気によって火を点けると、
「ハンティ、だったか……あの女にも、いつか借りを返してやらねェとな……!」
今までは特に憶える気もなかったレオンハルトの使徒に対し、いつか潰してやると心の中に留め置くことにした。
令和になってもよろしくねん