大陸中央部。
一面の草原と豊かで肥沃な大地が広がるその地域に一つの村があった。
木々で出来た小さな家が幾つも並び、その周囲には沢山の畑が存在する。現在は収穫期なのだろう、大人達は汗水垂らしながらも畑で野菜や果物を手に取り喜び、その周りでは小さな子供達が手や膝を土色に変えるほど元気よく走って遊び回る。
この村は平和そのものであった。
「あはは! 逃げろー!」
「きゃーっ!」
「急ぎすぎて転ぶなよー」
「今年は随分と豊作だな」
「今夜は何を作ろうかしらね」
それは人々の会話からも見て取れた。表情には暗いものがほとんど無く、皆がのんびりと暮らしているように見えた。
「…………」
そんな長閑な村の風景を見つめる一人の女性がいた。村を一望出来る小高い丘の上で女性は無言でそれらを眺める。
その口元には確かな笑みが浮かんでいる。しかしそれと同時に何処か憂いを帯びた印象の表情でもあった。彼女が何を思っているのかは分からない。だが、何処か近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
しかし、そんな雰囲気を無視してその女性に声を掛けるものもいた。
「あれ、こんなところで何してるの?」
その女性に背後から声を掛けたのも同じ女性だった。しかしその女性はほんの少しお腹が膨らんでおり、全体的なシルエットは細身であることから妊婦であることが見て取れた。
そんな年若い妊婦の明るい声かけに女性は応じた。
「…………ん、特に何も。ただ、平和だなーって」
先程まで近寄り難い雰囲気を出していた女性だったが、喋るとその雰囲気を霧散させて柔らかく対応する。
「……? 平和なのは良いことでしょ?」
「いや、まあ、そうなんだけどね」
「えぇ~? じゃ何でそんな顔してるの?」
二人の会話、特に妊婦の方には遠慮があまり見られず親しい仲なのだろう。明け透けに疑問をぶつける。妊婦から見て、女性の表情は普段どおりに見えていつもと違っているように見えたのだ。
その質問に女性は再び表情を固くして答える。
「……あたしってここにいてもいいのかなーって」
膝に頬杖をついて何気なくそう口にする女性。そしてもう一つの手でふいに耳を撫でる。その箇所や、そこだけでなく――彼女は普通の人間とは違った容姿をしていた。
長い耳と額にある赤い宝石。それだけならここにはいない別の種族ともいえるのだが、それらが特徴の種族ともまた違う――長い黒髪。彼女はいかなる理由からか普通とは違った存在であった。故に世界中を旅しては移住を繰り返している一匹狼のような生活をしているのだ。
それを何となく察しているのか、それとも知らずか、とにかく妊婦はそんな彼女に苦笑するように答える。
「いいんじゃない? 村の人達も受け入れてくれてるし。それとも居心地でも悪いの?」
「受け入れてくれたのは感謝してるし、居心地も悪くないけど……」
「……今日は一段とめんどくさいなぁ」
何だか煮え切らない様子の女性に、妊婦が呆れたように頭を抱える。彼女がこんな風になるのは一度や二度じゃない。どうにも抱え込んでいる何かがとても大きいのか、それとも単純に気分の問題か、はたまた両方なのだろう。彼女はこういう風に時折悩んではしばらく雲隠れをする事が多い。一年くらい前にも同じような悩みを口にして数ヶ月別の場所に行っていたりしたようだ。それ以外にも何か用事があるのか慌てて何処かへ行ってしまったり、何も言わずにいなくなったりと放浪癖のような何かかと妊婦は思っていた。
だがこれは知らない事だが、女性はこの村の滞在期間が今の所二番目に長い。ほとんどの場所はちょっと住んだら直ぐに移住する。例外は一番目の場所とこの村だけ。これらはいなくなっても時たま帰ってくる。
それは偏に自身を受け入れてくれて、それだけ思い入れがある場所だからだろう。妊婦やここの村人との付き合いはもう五年近くになっていた。
故にこういう時の対処法を妊婦は知っている。背後から彼女に近づくとその頭目掛けて、
「……ていっ」
「いたっ!」
少し強めにチョップを脳天にぶち込んだ。
「ちょっと! 何すんのさ!」
「だって面倒なんだもん」
「面倒って……」
軽く不満顔で怒ってみせる女性。しかし妊婦はあくまでも緩く対応した。
「居ていいって言ってるんだからいいの。別に行かなきゃならない理由もないんでしょ?」
「……そりゃあ、今はないけど」
「ん、じゃあ行く意味ないじゃん。居ちゃ駄目になったり、行かなきゃならない理由が出来たら出ていったら?」
「それは、そうかもだけど……」
なおも煮え切らない彼女に、妊婦が強い口調で言葉を続ける。
「だけど、とかなし! 行くなら行く! 行かないなら行かない! はいお終い!」
「…………」
妊婦の有無を言わせない態度に女性がぽかんと口を開けて固まる。まるでこちらの事情なんてお構いなしのその強気な言葉に何だか可笑しくなったのだろう、ややあって、
「……ぷっ」
小さく吹き出した。
そしてそのまま笑みを浮かべる。
「くっ、あははは……! 本当にね! いつもこっちの事情はお構いなしだけどそんなこと言っていいの? 実は酷なこと言ってるかもだけど」
「だって私その理由知らないし。聞いてほしいなら聞くけど、話す気もないんでしょ? だったら正直にこう言うしかないじゃん」
「そりゃそうだ、あはは!」
「まーた、妙に笑いのツボ入っちゃってるし……」
先程とは打って変わって可笑しそうに声を上げて笑う女性の姿に妊婦は呆れたのかやや冷めた視線を送る。だが、そんなところも彼女らしい、と納得すると気を取り直して用事を告げた。
「ま、何でもいいけど今日は家に食べに来てよ。今年最初の収穫だし、腕によりをかけて作るからさ」
「へぇ、それは期待しても良さそうだね」
「当然。料理で旦那を捕まえたようなもんだからね。やっぱ男は胃袋から攻めるに限るわー」
「あはは……それじゃあ後でお邪魔しようかな」
「はい、後でいらっしゃい」
気がつけば二人の間の空気はいつもと同じ様に透き通っていた。
この時まで、この村は平和そのものであり、多くの人が穏やかに暮らしていたのだった。
人類のとある国家の勢力圏に魔軍が侵入したのは約二時間ほど前だった。
草原を覆い尽くすほどの多くの魔物兵がその大地を征く。
数にしておよそ――二十万。
魔軍の単位にして十個軍の大軍勢の襲来に、国は総力を上げてそれを撃退せしめんと多くの兵を動員した。
大陸中原に領土を広げるこの大国は肥沃な土地と強力な軍隊を保有しており、近年では魔軍を完全に撃退した事例すらある。しかしこの規模の侵攻は今までに例を見ない。国を主導する首脳陣もこれには青ざめた。だが逃げるわけにもいかない。今ある兵の殆どを動員する、その数およそ二十万。それらを国境に向かわせ魔軍を追い返すための戦争が始まった。
――だが、彼らは忘れていた。そして改めて実感した。
彼らはわずか一週間で魔軍に敗北したのだ。
開戦当初は少なからず拮抗していた。多少押されていたものの魔軍相手でもこれなら持ち堪えられると兵達は希望を持った。
しかし、それは粉々に打ち砕かれた。他ならぬ魔人の存在によって。
魔人レオンハルト。
彼が戦場に出てくると流れは直ぐに変わった。
単身敵陣に深く切り込むと多くの指揮官を一騎打ちで屠っていった。麾下の兵達が動揺する中、レオンハルトは手心を加えることなくほぼ全ての指揮官を斬り捨て、最後には敵陣の後方にいる将軍をも討ち取った。
そしてこれが勝敗を決定づける要素となった。軍全体に上手く指示が伝わらず、用兵に長けた人物もいなくなり、軍としての秩序を保てなくなった。敗北を悟り、士気が地に落ちた兵達は次々と逃亡した。残った兵達は当然、魔軍に殺された。
最早、国に対抗する力はない。後はどれだけ被害を減らせるか――そういう戦いになったのだ。
戦闘を終えた魔軍の陣地では明るい雰囲気が漂っていた。
「ふはは! 圧倒的じゃないか我々の軍は!!」
「うむ。これ程短期間で決着がつくとはな。大国と聞いてはいたが所詮は人間ということか」
魔物将軍達が次々と陣の中央に集まり、勝利を称え合う。
それもその筈、本来ここでの戦闘は二週間程で終了すると魔物将軍達は計画していた。数の上では同値ではあるが魔物と人間では地力が違う。最初は拮抗してもその差が徐々にはっきりと現れ人間はその数を減らしていくだろう。そう考えていた。
だが魔軍にとっては良い意味で予想を裏切られた。人間の精神が遥かに脆弱であったこと。それが一つ。
そしてそれを引き起こした存在を彼らは褒め称える。
「レオンハルト様! お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!!」
「――ああ」
本陣にゆっくりとその彼――魔人レオンハルトがその姿を現した。前線からちょうど戻ってきたところなのだろう。闘気が若干まだ漏れ出ており、表情は固いまま口少なく返事をする。
魔物隊長以下、魔物兵などはその凄みに気圧されたのかごくりとつばを飲み込む。この方が味方であって良かった、そう思わざるを得ない。もし敵であったのならここに居並ぶ魔軍の幹部は皆、首を落とされているだろう。
側近である魔物将軍はその働きによる結果を言葉にしようと口を開いた。
「レオンハルト様。現在敵兵の多くは統制を失い、散り散りになって逃げ惑っているようです」
「……やはりまだ残る者はいるか」
「はい。レオンハルト様の活躍によって敵将はもう残っていない筈ですが……やはりこれほどの大軍となると気骨があるものは未だ戦い続けていますね。街も近いですし」
「…………そうか」
レオンハルトはそこで一度息を吐くと目を瞑る。そしてしばしの沈黙。
魔物将軍はそれを急かさず待った。レオンハルトは何かの作戦や決断をする時にはこうして考え込むように目を瞑ることが多い。実際に思案を行っているのだと魔物将軍は経験から予測していた。この後には必ず何かの指示が来る。自分はそれを実行出来るように待命するのみ。
やがてレオンハルトの目蓋がゆっくりと開かれると魔物将軍にその命令を下した。
「逃げるなら好きにさせろ。残るなら――殺せ」
「はっ! 伝令!」
その命令を聞いた魔物将軍が近くの魔物兵に前線への指示を伝える。
今戦場にいる敵を殲滅しろ、と。
レオンハルトはその声を黙って――何処か噛みしめるように聞いていた。
――まったく……ままならないな。
レオンハルトは戦闘を終えて陣に戻ってくると、疲れたように息を吐いた。
体力的に疲れているわけではない。精神的に疲労する戦いだった。
魔物将軍が口にしたように、レオンハルトは敵の確認出来るだけ全ての指揮官を殺して回った。
それは偏に犠牲を減らす為であったが……敵が多すぎるのが問題だった。
何せ二十万対二十万の大軍での戦いだ。いつものように座していては敵将が自分のところにやってくる確率は極めて低いし、時間もかかる。その間にも被害は増え続けるのだ。
故に自分から打って出ることにした。
単身敵陣に入り込み、最小限の立ちふさがる敵兵を斬り捨てながら敵将を目指した。そして一騎打ちを仕掛けて首を落とせば息つく暇もなく次の標的を探して戦場を駆け巡る。
もはや討ち取った敵将は途中から数えていない。二百は超えているだろうということしか分からない。
一週間の戦闘でこれだけの将を討ち取ったかいがあったのか半数程度の敵兵は逃げていっただろう。
だが残り半数は一週間でその数を減らし、そして残った少なくない兵も今なお戦場に残り続けている。
そしてそれを聞いて非情な決断を下した。
これ以上の犠牲を減らすことは出来ない。今戦場に残り続けている兵達にはこれだけやっても戦い続ける理由が、矜持があるのだろう。そしてよく訓練されているのが今回の戦闘でわかった。
そんな彼らが逃げることはない。ここで逃げれば多くの人々が魔物に蹂躙されてしまう。その中には愛する家族や友がいるのだろう。それを守ろうとする意思を砕くことは出来ない。
……切り替えるか。
レオンハルトは戦闘で昂ぶっていた気を落ち着かせると、周囲に目を向けた。現在周りにいるのは前線を指揮している者を除いた数名の魔物将軍や魔物隊長。皆、口々に今後の進軍案や拠点にする場所について話している。
そこでレオンハルトは気づいた。そういえば見当たらない奴がいる。
「……そういえばキャロルは何処にいる。姿が見えないが」
「キャロル様……そういえば見当たりませんね」
側近の魔物将軍に聞いてみるが彼も今気づいたようだ。周囲を見渡していないことを確認すると別の魔物将軍にも視線で言外に聞いてみる。
その意を汲み取ったその場にいる魔物将軍らは次々と情報を口にする。
「さっきまではここにいた筈ですが……」
「何か地図を見て唸ってなかったか?」
「自分が見た時はレオンハルト様の名前を呼びながら何やら悶えていました」
不確かな情報ばかりが口々にレオンハルトにもたらされる。レオンハルトは自分の使徒を思い頭を抱えた。
「何やってんだあいつ……」
「お呼びですか――!! レオンハルト様――!!」
「!」
そんな時、前線の方向から高い声が聞こえてきた。キャロルの声だ。
そして少し遅れて本陣に飛び込むように走ってきたのは他でもない金髪ツインテールの使徒。
快活な印象を受ける顔をこちらに向けてくるとビシッとポーズを決めた。
「レオンハルト様の忠実たる下僕、魔物界一の完璧使徒キャロル! レオンハルト様の役に立つ為に情報を仕入れてきましたわ!!」
「………………」
その場の空気が凍る。魔物将軍らが絶句する中、レオンハルトは多少の恥ずかしさを何とか抑えると、溜息混じりにキャロルに声を掛けた。
「……色々聞きたいことはあるが、それは一先ず置いておく。役に立つ情報ってのは何だ?」
「はい! この地に置く魔軍の拠点候補についての情報ですわ!」
「拠点について……だと?」
「はい!」
レオンハルトの問いに再度頷き返したキャロルは中央に広げられたテーブルに近づくとその上の地図を手で示した。
「予定ではこの先にある街を占拠する予定でしたが、それよりも近く立地も完璧な場所を見つけましたの!」
キャロルがそう豪語すると居並ぶ魔物将軍らも興味を抱いて自然と中央に集まる。
最初に声を上げたのは側近の魔物将軍だ。
「……確かに拠点にする予定の街は些か遠いですが……ここより近い街や集落はなかったはずです」
魔物将軍の言葉に周囲も同意する。事前の調べでは長期の拠点に出来そうな場所はこの先の街しかない。
そしてそれはレオンハルトがこの地に大規模で攻め込まざるを得なかった理由でもある。魔軍はこの場所、この地域に拠点を置きたいのだ。
そもそもの発端はこの地を領土とした国にある。
大陸中原のこの場所は大陸の交通の要所であり、軍事的な要所でもある。魔軍でも各戦地に軍を送る際や物資を運ぶ際にはこの地を通っていた。
大陸南方に行くには言わずもがな、北方との間にはバラオ山脈という東部と北部を分ける大きな山脈がありそこを通ることは不可能とは言わないまでも何かと不便だ。
そしてそんな要所である地をこの地域に根付く国家が国力に物を言わせて領土としたのだ。これに魔軍が激怒した。
人間の分際で自分達が使っていたその要所の権利を主張した。
それも横取りのような形で。
見逃してやっていたというのに調子に乗りおって。
取り返すべきだ。
これらの声が多くの魔物将軍達からレオンハルトに寄せられた。そしてこれをとうとう無視出来なくなった。
最初は抑えていた。幸いと言っていいのかこの地を領土とされはしたものの街などは無かったし、勝手に通っても実質的な被害は何もない。まさか勝手に通ったからと言って魔軍に抗議文を送ってくるほど相手も馬鹿ではない。
それを抑えきれなくなったのはやはり先日の戦闘が切っ掛けだろう。
他の国と同じく定期的な侵攻を北側から行っていたのだが、この国家は精強な兵と強力な軍隊を保有しており、魔軍も攻めきれないでいた。
レオンハルトも拮抗して粘っているならば、これ幸いと敢えて放置していたが……それが良くなかったのかもしれない。
有ろう事かこの国の軍隊は北方にある魔軍の陣地に大規模な襲撃を掛けてこれを殲滅してしまった。
相手の強さが予想より上だったか、それと魔人がいなかったのも原因だろうか。とにかくこの出来事は魔軍の逆鱗に触れてしまった。
そして最終的には折れざるを得なかった。だがレオンハルトはそれでも国を滅ぼすことはせず、要所に拠点を置けば後は適度に兵を残して撤退しようと考えている。戦う力は今回で削ぎ落としたし、相手も流石に懲りたであろう。後は他の地域と同様の戦略を実行するだけだ。
レオンハルトはそれを思い、眉をひそめる。他の魔物将軍などには拠点を作ることだけで留めているが、これらの考えは全て使徒であるキャロルには伝えてある。
目的はこの作戦を遂行するに当たって、犠牲を少なくすることだ。街を拠点にする際、少なからず住民は犠牲になるが出来る限り殺戮を控えさせて他の地域のように略奪や陵辱に留めさせれば死者自体は抑えられる。人間を出来るだけ滅ぼさないようにするにはこれしかない。
だが犠牲をより少なくできる場所が見つかったのだろうか。
キャロルは魔物将軍らが注目する中、それを自慢気に話し始めた。
「ふふん、それがありますのよ。ちゃんと街で調べてきましたから間違いないですわ」
「……待て、街だと? お前街に行ってきたのか?」
レオンハルトは聞き捨てならない言葉を聞いた為、それを改めて確認する。
キャロルはこちらに向かって胸を張って答えた。
「はい! わたくしの容姿なら人間に紛れ込めるかと思ってひとっ走り行ってきましたわ!」
「……つまりお前のその情報は現地民から直接聞いてきたってことか」
「その通りですレオンハルト様!」
レオンハルトはその行動力に呆れ返る。とんだ諜報員もいたものだ。バレたらどうするつもりだったのか。そもそも行動が自由過ぎるとか色々言いたいことはあるもののここに限っては呑み込む。先に成果を確認してからでも遅くない。もし悪い結果になれば帰った後でめちゃくちゃに扱いてやろう。
「それで……その場所はどこにある?」
「はい! ここですわ!」
地図のとある一点を指差してキャロルは説明する。
「ここに小さな村があるそうです! ここなら人口も少ないですし、住民の多くは取れた作物を街に卸して生活しているそうですわ!」
「……なるほどな」
その途中の言葉にレオンハルトは反応する。勿論表情や態度にはおくびにも出さない。
確かに立地も街に比べて都合がいい上に、人口が少ないときた。ここであれば街を占拠するよりかは被害も少ないし、抵抗も少ないであろう。街から遠く離れた場所というのも悪くない。距離が近ければ拠点を作った後に小競り合いも増えて犠牲も大きくなる。
考えれば考える程、都合のいい場所だ。魔物将軍らも犠牲云々は考えてはいなくても街よりもさらに交通的要所に近いこの場所を口々に検討しあう。
しかし深く検討させればより楽しめるであろう街を推す意見も出るだろう。レオンハルトは今の流れが続いている内に決断しようと口を開く。
「……キャロル、魔物将軍」
「はい!」
「はっ」
呼びかけに返事を返す忠臣達にレオンハルトは命令を下した。
「予定を変更する。戦闘が終わり次第この村に進軍するぞ」
「かしこまりましたわ!」
「……仰せのままに」
「はっ! 了解致しました!」
恭しく了解する二体を目にした他の魔物将軍もそれに倣って頷きを返す。
レオンハルトは命令を了承して動き始める周囲から視線を切ると、地図の一点、村があるという場所を見つめる。
そして誰にも聞こえない程度の声量で、
「……悪く思うなよ」
顔も知らない住民を思って一度だけ謝罪した。